−ムーア宮殿城下町−
手を叩き、威勢の良い声が響く市が広がる。
「らっしゃいらっしゃい!」
この声を聞く限り、戦火の絶える事のない地にいるとは思えない“有能なる者”。
その存在に目ざとく気づく者たちがいた。
「あ、お客さん、余所の世界の人かい?」
身なりからして言い逃れできない自分に、市の店主が声をひそめる。
「…………悪い事はいわない。早く逃げた方がいい。
亜由香は、ムーアを魔物の巣窟にする気だからな……」
「ムーアが魔物の巣になってしまうと、そこに住んでいる人達はどうなってしまうんでしょう?
奴隷?それとも死……」
ほとんど同時に店主に聞いたのは、フレア・マナとアクア・マナの双子であった。
不吉な自体を予想する言葉に、店主はさらに声を低くする。
「……いろいろ調べてはいるが、それ以上はね。
……ただ、魔物を呼び寄せるのに、東トーバが邪魔な事は確かだな」
この言葉に、妹であるフレアは言う。
「そんな事させない為に、敢えて亜由香の陣営に入り込むのも手だよね。
上手くいけば、亜由香の真意を知る事も出来るかも知れないよ」
妹の意見に姉のアクアも賛成であった。
「なら私はトーバの人々を護る為に、トーバの君主マハに協力してバリアを張る為の精神力を提供します〜」
こうした双子姉妹の会話に聞き耳を立てていたのは、表向きには客相手の店主を装った男であった。
男は、“有能なる者”であるフレアとアクアをじっと見つめながら言った。
「……今、トーバでは味方してくれる者を探している……」
表の顔は市の店主。裏の顔がバレれば、命はない男は言った。
「もし、東トーバに味方してくれるのなら……案内したい場所があるんだが……」
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