−東トーバ神殿内−


 トーバに協力を約束した者は、東トーバを囲むバリアを通過して神殿内に案内される。
 そこには、最上級の神官服に身を包んだ東トーバ神官長ラハがいた。
「わたくしからも皆様にお願いいたします。
どうか、東トーバにお力添えを……」
 《亜由香》との戦いに疲弊し、もはや打って出るほどの余力のない東トーバ。
 神官長ラハの要請に即答したのは、年齢は18歳ほどに見える青年だった。
「ん〜、亜由香って何か良い感じしないよなー……だから、こっちに加勢するぜ」
 この声に、暗く沈みがちだった神官長ラハの黒い瞳に光が灯る。
 自分に期待 しているのだろう神官長の顔に、植物に人生をかけるディックがしばし考え込む。
 ディックの住む世界は、モンスターの脅威はあるものの比較的平和な世界であったのだ。
「何か作戦立てたほうがいいのか? ……んん〜、 何あるだろう。悩むよー……」
 山奥ではあるが、にぎわう植物園を祖母と経営して来たディック。
 ディックは、亜由香に味方していたら植物が焼き払われるような気がしていたのだ。
 事実、この東トーバ神殿への道中は焦土の広がる風景を見てきたディックであった。

 この時、ディックは『バウム』に来る前からポケットに入れていたものを思い出す。
「あっ、そうだ俺今いいもん持ってたんだ」
 ごそごそとポケットを探ったディックは、三つの小瓶を取り出した。
「えーっと、確かこのビンーっとあったあった!  へっへっへー、このビンらなんだと思う?」
 見慣れない瓶に首を傾げる神官長ラハに、小瓶をかざすディックは言う。
「俺が育てた植物から取り出したエキスなんだぜ」
 そのエキスの効果をディックは伝えた。

「眠りエキス」は強力な睡魔に襲われる。
「戦意喪失エキス」は相手の戦意を失わせて無力に。
「麻痺エキス」は体を麻痺させて動けなくする。

「まっ、これらは匂いを嗅いだり体にかかると効果が出るんだけどな。
強力すぎるから薄めて使わないと駄目だからな!
あいつらが襲ってきたら使ってくれよ」
 いざ戦うとなれば、3つのエキスを魔に全体に広がるように霧状にして使うつもりのディック。
 このエキスの多くは敵味方の特定が困難な為、他神官との協力戦線には不適だが単独行動としては最高の戦術であった。
「他にも色々あるから頼ってくれよっ!」
 自分の胸を叩いてみせるディック。
 だが、そのディックは、ポケットにある他のエキスの色が変色している事に気がついた。
「他は使えないのか……ま、こんな俺でもとりあえず棒術つかえっから戦うことも出来るぜ。
……それはそうと俺が使う棒ってのは『長い鉄の棒』なんだけど、こっちの世界にはあるかな?」
 植物園で鍛え上げた腕を見せるディックに、神官長ラハは言う。
「ご希望の長さのものは、武器庫にあるかもしれません。探させましょう」
 そして、武器庫で希望の棒を見つけたディック。
そのディックに期待の視線を向けて、神官長ラハは言った。
「それではディック様。
ディック様には、是非君主マハのお側にいていただきたいのですが」

神殿の奥にいるという君主マハ。
ムーアに立ち向かい、東トーバをまとめる最後の砦。
その近侍となる事を、ディックは頼まれていた。


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