最北端の商業街キソロ

 石と氷に埋もれた街キソロ。このキソロに到達した子供連れの異世界人がいた。異世界人の青年の名は、アルフランツ・カプラート。彼らが到達したキソロでは、今まさに、“若く美しい”人間徴発を行うムーア兵が街中を動き回っていた。
「お兄ちゃん。もっと顔かくさないとだめだよ」「腰曲げてみて。おじいちゃんに見えるかも」
「そうだね。やってみようか?」
 アルフランツは心配する子供たちを安心させるために、ローブは深めに被り直し、腰をかがめてみせていた。猫耳を持つアルフランツとしてはキソロに近づくにつれ、できるかぎり目立たずに行動してきたつもりである。キソロでも警備兵を警戒しつつ登山に必要な準備を整えきた。しかし、そんな一行が出立するその後方をつける人影があったのだった。
 アルフランツ一行が吹きすさぶ風雪の中、彼らがどれほど険しい山道を進んだのだろう。突然前方に、激しい雪煙が上がる。
 グワシャー!!
 そして現れたのは、頭頂高3m程の二体のメタルゴーレムだった。泣き叫ぶ子らの前で、一体の胸部装甲が展開され、そして現れたのは銀の髪をショートウェーブにした小柄な乙女であった。
「きゃ、だ、誰かそこに……? こ……ここって……ど……どこ」
 何が起きたのかわからずにおどおどとする乙女に向かって、アルフランツが声をかける。
「ここはムーア世界だよ。オレはアルフランツ。素敵な目を持つ、キミも異世界人だね!」
「は、はい。リ、リーフェ・シャルマールよ……で、でも、ちょっとそちらがよく見えないので……眼鏡、眼鏡……」
 リーフェが眼鏡を見つけてかけ直すと、突然表情が変わる。
「……失礼しましたわ」
 アルフランツに対してなのかどうか。いきなり胸部装甲を元に戻したリーフェが、メタルゴーレムG.O.L.E.M.327『ガルガンチュア』を起動させる。
「武器を視認……対象……排除ね」
 リーフェが『ガルガンチュア』の腕を振り上げ、アルフランツ一行の後方にいた者たちに向かう。その姿に、アルフランツ一行をつけてきたムーア兵らが、叫び声を上げて逃げ出したのだった。この様子を見たアルフランツが礼を言う。
「やっぱりオレたち連れられてたみたいだね。ありがとう!」
 アルフランツの声に安心した子供たちが、リーフェの操る『ガルガンチュア』に駆け寄っていた。
 

山岳地帯にて

 東トーバを脱出した一行は、未だキソロからさらに北へ向かった山岳地帯にて自給自足のキャンプを行っている。健康的にもやや厳しい状況に追い込まれ始めた一行に、向かって進む一団があった。その斥候としてやって来たのはキソロ領主だと名乗る者。キャンプの人々はそれを信用してよいものかどうか悩んでいた。
 このキャンプの中に、異世界より訪れた黒髪の小柄な少女坂本春音(さかもと はるね)がいた。春音は、このキャンプ内の維持に尽力し、体力的に限界の近い春音。その春音は、まだルテリとの面識がないため、キャンプ内の神官に確認する。
「……ルテリさんて、確か顔のほとんどを包帯で巻いた方、っていう話ですよね……」
 吹きすさぶ風雪の中に現れたルテリなる人物は、確かに包帯男のようである。
「背格好も同じのようですが……ただ顔を包帯で隠せる以上、誰でも成りすますことはできますし」
 春音に応える神官の回答も歯切れが悪いものだった。これを聞きつけたルテリが苦笑する。
「参ったな……防寒と隠密行動用の包帯が、こうも悪印象だったとはな」
「それで包帯って……隠密なら、かえって怪しまれる気もしますけど」
 ルテリの言動に、春音が本人の領主かもしれないという印象を持ち始める。
「何故突然キソロの領主がここに現れたでしょうか。お話をうかがえますか? 『補給後の助力はできない』と言っていたと聞いてますけど……」
 気力をふりしぼって、今更追ってきた真意は何なのかを問いただす春音。もし難民達がこれ以上厳しい状況に追い込まれるような理由ならば、抵抗する意志を見せるつもりでいた。そんな春音に、領主は言う。
「折り入っての相談だ……そちらのキャンプにいる若くて美しい者、数名をこちらにいただけないだろうか……代わりといっては何だが、そちらにいる体力のない者はキソロにかくまおう」
 キソロでは今も人間徴発が行われている。キソロ領主ルテリは、領民を差し出すよりはキャンプにいる難民を身代わりにしたいと言ったのだ。
 このキャンプには、リーフェに伴われたアルフランツ一行が合流しようとしている。彼らはどんな道を選ぶのだろうか。


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