軍事都市ゼネンからの脱出 アクアたちがゼネン領主と出会う前。先に、ゼネン領主と会見しいてたのは、《亜由香》側について協力してきたリュリュミアだった。“人”ではない生命体のリュリュミアは、敵の奇襲に際し、 「なんだかよくわからないけどとりあえず特別室に戻りますぅ」とゼネン領主から離れた経緯を持っていた。 リュリュミアが部屋に戻ると、そこには一人の神官しかおらず、同行してきたもう一人の女神官の姿はなかった。代わりに寝台の上に、人の寝姿らしきふくらみを見つける。 「あれ、もう一人の神官さんは寝てるんですかぁ?」 リュリュミアの問いかけに、東トーバ神官長補佐役のルニエが決まり悪げに応じる。 「そ、そのようだな。わ、私も眠っておったゆえ、きっ気づかなかったが」 嘘のつき慣れないルニエの言葉。けれど今のリュリュミアには、それ以上に気にかかることがあった。 「なら、まだ休んでてもらっていいですけど、話を聞いてもらえますかぁ」 自分の嘘に緊張しつつ頷くルニエに、リュリュミアが心細げに語りだす。 「ゼネンの司令官の話だと亜由香はムーア宮殿から居なくなっちゃったそうですぅ。だから神官さんを連れて行く理由が無くなっちゃいましたぁ。でも神官さんはこのままゼネンに残りたくはないですよねぇ。 リュリュミアもこれ以上ここに留まるのは嫌ですぅ。もしマハに会いたいならムーア宮殿に案内しますしぃ、他の神官さんたちの処に戻りたいなら送って行きますけど、どうしたいですかぁ」 そんなリュリュミアはマハの他に亜由香の側にいた異世界人の乙女の事も心配していた。ルニエは、マハの名を聞くなり身を乗り出す。 「君主マハはムーア宮殿におわすのか。ならば、私は否といおうがご一緒させていただくぞ」 ルニエの反応に、リュリュミアも喜ぶ。 「よかったですぅ。どっちにしてもまずゼネンから出ないといけないですねぇ。円筒形の乗り物で格納庫まで移動しましょうぅ」 そんなリュリュミアは寝台へと向かう。 「神官さん、そろそろ起きて下さいぃ、って空っぽですぅ!」 ルニエがその説明をするより早く、リュリュミアが置き手紙して部屋を出る。置手紙には、ルニエを誘った言葉の他に“このままゼネンに居たら死体にされちゃいますぅ、逃げたほうがいいですよぉ。一緒に来るなら、ムーア宮殿を目指してくださいですぅ”と書かれていた。 そしてリュリュミアは、ルニエを伴い特別室を出る。部屋を出たところで待ち構える死体の兵には、 「埋め込んだ種を発芽させますぅ。神官さん手伝ってくださいですぅ」 「うむ。了解した。それと私はルニエと申す。これよりはルニエと呼ばれよ」 「わかりましたぁ。ルニエさんですねぇ」 こうしてルニエに『植物育成』の力を使ってもらい、埋め込んだ花の種が根を伸ばす。そして死体たちの、足を床に縫い付けて、頭から立派な花を咲かせたという。そんなリュリュミアたちがムーア宮殿に到着するまでの足の確保に動こうとした時、城内の光源が消えた。 「まっくらですぅ〜、円筒形の乗り物も動かないですぅ」 「徒歩で行くしかなかろうな……しかしどちらの方向に進めばよいものか」 リュリュミアとルニエが思案していたその時、声をかける人物がいた。 「そこにいるのは、ルニエと……異世界人か? いや、反応が“人”ではないか」 現れたのは、この光源を落とした張本人、鷲塚拓哉(わしずか たくや)であった。拓哉は手にしたフォトンセイバーの光で相手を確認する。 「人でなくても異世界の者には間違いなさそうだな」 黒髪にガーネット色の上着を着た拓哉は、リュリュミアの存在を魔物ではないと判断する。そしてゼネンから脱出したいというリュリュミアとルニエの言を聞いて快諾する。 「脱出経路ならば俺について来るといい」 間もなく主電源が正常稼動となる為、一刻の猶予もなかったのだ。主電源が入れば、脱出経路も封鎖されてしまうのは拓哉の持つ『新式対物質検索機』で計測済であった。またかねてよりのアクアの所作によって城内のいくつかは電源が復活しても稼動しない部分があるのは確かである。しかし、城自体の機能が停止には至らなかったのであった。 「何度も動力源を破壊しては撤退を繰り返していたら埒が明かないのだが、さすがに主電源のあった場所には魔的な空間ができているようで、物質検索がきかない……ゼネンの城塞そのものが修復不能に陥るくらいのウィークポイントがわかればよいのだが」 そんな拓哉が調査しつつ補助電源破壊・脱出する範囲でわかったのは、アクアと他異世界人の反応が城内の検索不能空間に向かったこと。そして、そちらへゼネン領主がに向かったことのみであった。 「……すぐに助けたいところだが……」 今はリュリュミアとルニエの脱出を優先した拓哉。その拓哉たちがゼネン城塞を脱出したのと同時に主電源は入ったという。 そんな彼らが軍事都市の警戒線を脱出した先で待っていたのは、陰陽師と巫女姿の乙女たちであったという。陰陽師姿の乙女はミズキ・シャモン。巫女姿の乙女はクレハ・シャモンであった。襟元からはみ出てしまいそうな豊かな胸をしたクレハは、拓哉の姿を見るとミズキの陰に隠れてしまう。 「恐くないから大丈夫でございます」 「……始めまして……クレハ・シャモンと申しますわ」 ミズキにうながされてクレハが自己紹介する。 「私もこの世界が気になりまして、こちらに参りましたの……」 そして二人はこれまで注意深くゼネンを捜索していたという。式神を使うミズキの技は、ムーア世界では超兄貴な前鬼と後鬼以外は形を為すことができなかったが、『霊感』で妖気を探るクレハの術には成果があったのだという。 「妖気の強い場所には悲しみが満ちていますわ……魂は開放を求め……強烈なエネルギーをためておりますわ。……その場所には腐敗の気配も感じますの。これも何かの意味をもつのでしょう……これが深淵魔界への門であるのかもしれませんわ」 そこまで聞いてしまったルニエは、リュリュミアに振り向く。 「ならば、一刻も早く君主マハのお側に行かねば! リュリュミア殿、案内を願いたい」 「そうですねぇ、なら急ぎましょうかぁ。あ、そうそう、拓哉さんとおっしゃいましたかぁ? お礼がまだですよねぇ。困ってるとこを助けていただきありがとうございましたぁ。でも何だか始めて会った気はしないんですよねぇ?」 リュリュミアは気付いていないが、確実に敵対関係であった時もあるリュリュミアと拓哉。リュリュミアは、ゼネン城塞での多くの事情を拓哉に告げると、ルニエにせかされて旅立っていったという。 彼らを見送ったミズキは、拓哉に言う。 「マハやゼネン領主の力のほどはわからないのでございますが、わたしもクレハの言うように、妖気漂う場所は、魔界への門である可能性が高いと思うのでございますわ」 ミズキの袖に未だ隠れるクレハも言う。 「できればミズキの陰陽五行術の五行封印の上から、さらに退魔術による封印を施し、二重封印とできればよいのですが……」 「そうだな……これも俺の推論でしかないが、電源の修復機能にも一部魔的に要素があるのかもしれん……封印は必要だろうな」 拓哉の言葉を受けて、ミズキは言う。 「それに一緒に入った方も心配でございますわ。ご無事でございましょうか……?」 「アクアの近くに反応した異世界人か……? もう一度進入する必要がありそうだな」 黒光りする城塞を遠巻きに眺めて、思案する異世界人たち。そんな彼らの背後から近付きつつある集団があったという。 |
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