悪夢の軍事都市ゼネン 上級魔族の配下である軍事都市ゼネン領主。その軍事都市ゼネン自体は、現在異世界人青年の鷲塚拓哉によって予備動力部分を破壊され、稼動不能に陥っている。ただし、主電源の補修完了も間近という状況下にあって、ゼネンの闇の部分に踏み込んでしまう異世界人たちがいた。ゼネンを独自に探査する彼らが入り込んだ場所とは、死臭の立ち込める部屋であったという。 赤い髪をうなじあたりで束ねた異世界の青年ジニアス・ギルツ。 「こんな怪しい場所は調べるしかないだろう」 かわいらしい外見をした青年は、 「死臭漂う部屋……死体……か。おそらくは領主の死体を操る能力に関係するものなのだろうな」 単純な推論を並べながら、この部屋で何が行なわれているか調べるとともに重要そうなものは 破壊するつもりでいた。そんな折、死臭漂う部屋へと差し込むかすかな光源がなくなる。 「これは……俺と同時に突入した者の仕業とみて正解か……」 先の騒ぎで警戒が強まっている可能性も高いので相手に見つからないようにすることを最優先 に自分の気配を極力おさえる。そんなジニアスの背が突然何かにおされた。 「!? 敵か?」 とっさに壁に手をつき、軽業で身を引きつつ剣を構えるジニアス。部屋の壁に染み込んだ粘液がジニアスの手を伝って床にしたたった。顔をしかめるジニアスに、おっとりとした声がかかる。 「……すみません〜。展開しておいた『精神防御壁』にぶつかったようですね〜。私は敵ではありません〜」 それはゼネン探索中に死臭漂う部屋に到着してしまった女神官姿のアクアであった。ジニアスにわずかに遅れたアクアは、暗闇の中で一念発起し、この死臭の元が何であるのか調査・確認してみようとしていたのだ。そうは言ってもアクアの方は、ジニアスを敵味方の区別をしていたわけではなかった。安心させておいて、防備を万全にした後、真の敵ならば反撃の手を打つのはアクア的には定番の術といってよかった。そんなアクアに、ひそめてはいるが陽気な声が返ってくる。 「なるほど。あんたも異世界人か」 ジニアスがすでに仕入れている情報から察しても、ここにいるのは異世界人の仲間に間違いはないだろうと確信していたのだ。 「どうやら目的は同じようだな。ここは協力しないか?」 「はい〜、私の主義は“和を以て尊しと為す”ですので大歓迎です〜」 と腐臭の中で握手するジニアスとアクア。けれどジニアスの手が自分のせいとはいえ、すでに腐肉にまみれていたため、アクアはかすかにためらってしまっていたという。 そんな二人は、この腐乱する部屋の中にムーア兵の軍服や靴を見つけて納得する。 「やはりというか……ゼネンの死体兵のなれのはてでしょうね〜」 「この部屋だけで何百体使ってるんだ……こんなものコレクションして一体……」 そして二人がさらに奥へと踏み込もうとした時、彼らの背後から声がした。 「ようこそ。ムーア最大の基地ゼネン城へ。ご案内ならば、兵にさせるところなのですが……随分、妙な場所へとおいでになるようですね」 暗闇の中、三つの瞳がジニアスとアクアとを見たという。 この時、『精神防御壁』を展開していたアクアから急速に力が抜けおちてゆく。そして、その様子を気配で察したジニアスは、サンダーソードから雷の力を引き出して相手にたたき込むのを断念する。 「……よろしい。お二方ともまだ何か特別な技をお持ちのようですね。ともあれ、自分の身が大切ならば大人しくすることです」 高笑いするゼネン領主は、アクアとジニアスとを幽閉するように部下へ指示する。 「今度は電源程度で逃げられぬ部屋へご案内を」 ゼネン領主が言った時、主電源の補修完了とともに辺りの光源が戻ってきていた。 |
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