ムーア宮殿 静まり返るムーア宮殿広間。 その場所で、エルウィック・スターナは亜由香から東トーバ神官長ラハと同行して東トーバ脱出組を追撃するように告げられていた。そして亜由香は、“異世界人を信用するのはやめた”と言い、エルウィックに宮殿を出るように言う。そんな亜由香にエルウィックは、自分の中にあった迷いを捨てる。 「あたしは自分の興味のあることしかする気はないよ。で、今一番興味があるのは亜由香であってそれ以外のものはどーでもいいよ」 「あら? トリスティアとかいう子には興味はなくなったのかしら?」 からかうように笑う亜由香に、強い光を持ち始めた緑の瞳でエルウィックは言った。 「あたしは言ったはずだよ。“トリスティアは味方にしておけば、絶対使える者だと思う”って。亜由香のためなんだけどな」 「ふふ、そう? なら、あなたはわたしの味方になるのかしら?」 亜由香の言葉に、亜由香とすでに友達になっていると自認しているエルウィックは堂々と宣言する。 「あたしの本職は泥棒だよ。だからさ……そのうちきっちり盗み出してあげる。殻に閉じこもったままのほんとの亜由香を…………ね」 軽くウィンクしてみせるエルウィック。そんなエルウィックに応えようとする亜由香の輪郭が、一瞬ぼやける。 「亜由香……?」 驚いたエルウィックが亜由香の腕をつかもうとする。そのエルウィックの手は、わずかに空をつかんだ後に亜由香の腕が握られる。 『こんなに近くにいて……このあたしが位置を見まちがうわけはないけど』 不信な顔になるエルウィックに、 「面白いことを言うのね……好きなだけこの宮殿にいるといいわ」 未だ本心を見せない亜由香は、かすかな動揺を見せて言ったのだった。 |
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