『紅の扉』   −第二章− 第一回

ゲームマスター:秋芳美希

公開処刑〜東トーバ

 快晴の東トーバ。
 今は、ムーア軍の一駐屯地となった神殿の前に、新造の高台がしつらえられている。その高台が、今日のこの日、一人の少女が衆人の前で処刑される場所であった。
 やがて明るい日差しの下に、神殿から一人の少女が引き出されて来る。短いハニーブロンドの髪。半そでの上着から見える象牙色の肌。その姿は薄汚れ、ムーア兵に両側から腕を捕まれなければ自力で歩くこともできなかった。その少女を見たとたん、処刑場前に集まったムーア群集から落胆の声がささやかれる。この少女こそ、修羅族と呼ばれる魔の長を倒し、“ロスティにトリスティアあり”とうたわれたトリスティアであったのだ。
『……あんなに衰弱してるなんて……』
『やっぱりムーア統治者の亜由香様に歯向かうなんて……無謀すぎたんだ』
 魔を倒し、自分たちを解放してくれる希望の象徴でもあったトリスティア。“リクナビ”と呼ばれる情報網で、ムーア各地から集まって来た民たちは、もはや抵抗する意思をなくしていた。

 処刑場に上がるトリスティアを、壇上で待ち構えていたのは三体の修羅族たちだった。
「キ〜ッヒヒヒ! 邪鬼様はおまえにやられたが、今度はおまえが死ぬ番だナ!」
「せいぜいイイ声で楽しませてくれヨ! 一息でやらないでいてやるからナ!」
「じわじわとナ、自分の体がちぎれるのを見せてやるゼ」
 口々にトリスティアを嘲笑うのは、腕力と速さに長けた修羅族たちである。彼らの腕力でもって、トリスティアの頭と左右の体は無残に引きちぎられるというのだ。けれどトリスティアは、修羅族たちの脅しに屈したりはしなかった。
『……勝手に言ってればいいよ……ボクは、 仲間を信じてる!……きっと、救出に来てくれるから……!』
 例え身体は動かなくても、毅然とした態度を貫くトリスティア。髪を捕まれ、顔を無理に上向かされても、その深い青の瞳は、強い意志の光を捨ててはいなかった。その瞳を見た修羅族たちは、鼻を鳴らして笑い、ムーアの群集は脅えのないトリスティアの瞳に、かすかな希望を見出していた。

 やがてトリスティアの頭と左右の肩が、修羅族たちに捕まれる。その力が少しずつ強くなる中、駐留ムーア兵部隊の司令官が声を張り上げる。
「ここにある少女は、東トーバに味方し、東トーバ降伏後もムーア世界を混乱におとしいれた首謀者トリスティアである! ムーア世界を統べる亜由香様の命にのもと、トリスティアの公開処刑を行う! 猶、この処刑は、今後このような不貞のやからが現れぬ事を期するものである!」
 トリスティアの体がひきちぎられた後は、さらなる口上を述べるつもりであった司令官。トリスティアの体が、修羅族によって頭からつるされ、異様な方向に曲げられた。
「そうはいかせないよ!」
 突然修羅族を中心に立ち上る煙。その中で声を上げたのは、フードを目深に被った一人の乙女であった。

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