鳴動する東トーバ

 悲鳴が響き渡る東トーバ。
 緑豊かな地であった東トーバは、ムーア兵による略奪が公然と行われていた。
「家にある食料はすべて差し出せ! ムーアからの補給物資がなくなっているのだ、当然だろう!」
 ロスティにある貯蔵庫が賊に爆破された今、次の物資が届くまで1万の兵を養う食料調達は急務であったのだ。それはムーア兵を指揮していた修羅族の長がいなくなっても、軍の機能として存在していたのである。

 これよりも前。混乱する東トーバに、長を失った一体の修羅族が援軍を求めにやって来る。そして、東トーバにいた修羅族はすべて、ロスティに向かったのである。この経過は、ロスティでゲリラ的活動を行うフレアの予想通りであった。
「今、敵の関心は、僕たちが暗躍したロスティと、その中心人物でもあるトリスティアに集まってるよね……となると、肝心の東トーバそのものへの関心は低くなっているから、東トーバに潜入するチャンスだよ」
 まずは、ロスティでフレアやトリスティアの活動を支援してくれていて、かつ東トーバに出入りを許されている商人達のルートから搬入する積み荷の中に隠れての潜入するつもりのフレア。しかし、トリスティアは、夜襲的な正面攻撃を行うと言った。
「ボクは、彼らをまとめて倒すことで、ロスティの完全開放と、東トーバに駐留する敵側戦力の低下を狙うよ。東トーバに駐留する戦力の低下は、そのままアクアたちを追撃する戦力の低下になるし、来るべき東トーバの奪還に繋がるよね」
 すでに生存率を高める魔法を己自身に施すトリスティア。そのトリスティアの気性を理解しているフレアが肩を叩く。
「ムーア兵も統率の取れた軍隊であることには変わりないよ。気をつけてね」

 夜。
 トリスティアは、一人、ロスティで調達した馬に乗り東トーバに向かう。途中要所を固めるムーア兵は、熱線銃で一言も発させずに倒すトリスティア。しかし、トリスティアの放つ熱線は、他の警備を行う者の目に、はっきりと映ってしまう。
「奇襲だ! 敵がいるぞ!!」
 危険を知らせる鐘の音が鳴り響き、辺りに松明の火が灯る。その炎に照らし出されて、トリスティアの顔がはっきりと映し出されてしまう。
「! あれは、“トリスティア”だ! 賞金首だぞ!!」
「敵がボクを中心に集まってくれれば、それこそ好都合!」
 敵の襲って来るタイミングを見計らい、熱線銃を水平方向に発射したまま、時計回りに軽く一回転するトリスティア。トリスティアが、軽快な身のこなしを活かして、360度ターンを決めた時、周囲に集まる敵は、一気に熱線で横薙ぎに薙ぎ払われていた。
「まずは成功!」
 一騎当千とはいかなくても、相当数のムーア兵を倒したトリスティア。しかし、それ以上進むことは、トリスティアにはできなかった。自分に向かってくる兵の一団が、東トーバの民であることに気がついたのだ。この一団を指揮するムーア指揮官は言う。
「トリスティア! 大人しくすることだな! この兵は、もともとは東トーバの民だ。食料が差し出せない者は、こうして兵になるのさ。おまえに、この兵たちを倒せるのか?」
「汚いよ!」
 叫ぶトリスティアの隙を、取り囲む兵は見逃さなかった。すかさずトリスティアから熱線銃とナイフとを取り上げた兵は、トリスティアに再び公開処刑の宣告をしたのだった。

 一方、東トーバ内に一人潜入に成功していたフレアは、東トーバに残った神官達や住民達の所在と近況を確認していた。
「神官たちは今のところ神殿にいるけど……このままここにいさせるつもりはないみたいだね……住民の方は、搾取と徴兵の対象なんだね……」
 東トーバが降伏する前から、民や神官たちの安全を危惧していたフレアであったが、この状況はフレアの予測を超えていた。それでもいざという時には彼らを開放する為の準備を整えるつもりのフレア。そのフレアが敵兵の配置状況等を確認していた時、東トーバに攻め込んでくるはずのトリスティアが捕まったとの騒ぎを聞きつける。
『援護として、敵の背後を突こうと思ったのだけど……駐屯地の中心になった神殿までは……無理だったみたいだね』
 フレアは紅い唇をかんでいた。
 トリスティアの公開処刑は、見せしめに効果的だという東トーバで行われるという。

続ける