アマラカンへの行進

 物資調達組みと分かれて、人里離れた道なき道を進むのは脱出本隊800名を越える一行だった。当座の食料を得た一行は、ゆっくりではあるが着実に北方に進む。
「ま、こんなカンジかな」
 風術で一行の足跡を消しつつ進むのは、猫耳を持つ青年アルフランツ・カプラート。そのアルフランツの猫耳や尻尾を最初は奇異に思っていた東トーバの子供たちとも、今はすっかり打ち解けていた。じゃれる子供たちと時々遊んであげながら、簡単な風の流れの読み方や、小さなつむじ風を起こし方などを教えてみるアルフランツ。そんなアルフランツは、子供たちの様子を観察しつつ進んでいた。
 一方、護衛兼火術指導をしつつ進むのは、 コウモリ状の翼を持つ少女リューナだった。
「火はなぜ燃えるのか。って事からはじめるべきかな?」
 リューナの指導を受けたい有志の神官たちの中心で、リューナは小さな炎を燃やしてみせる。
「火を点けるには火付け石でも十分なんだけど、炎を維持するには燃える物のなかのエネルギーが必要なのよ。……んー、とりあえず燃素と呼びましょうか」
 リューナは自分の力の成り立ちをまとめつつ語る。
「火術は、そういったエネルギーを精神の力とかで操作する技術なの。精神の力を使うのは、神官さんたちが土や水を動かすのと同じようなカンジだと思ってもらっていいと思うわ。燃素に力を加え、発火させる。空気の中の燃素を使えば、燃料が要らないってワケ☆ 炎になったら、力がどのように流れるか…
を意識しながら制御するの。水を操るのと感覚は近いかもね」
 リューナの解説を聞きながら、有志の神官たち22名は火術を会得するべく、気の流れを様々に変化させ始めていた。
 他方、避難民の護衛をしつつ、成人した村人たちのうち見所ある者たちに剣を教えるのは、ラティールだった。
「キミたちは、体力的にもまだまだ余裕があるよね。これからの為にも剣術は覚えておいても損はないと思うよ」
 そう言ってラティールが声をかけた村人は男性120名、女性30名。総勢で150名にもなる若い男女だった。ラティールに声をかけられた者は、皆が皆喜ぶ。その誰もが、ただ守られているしかない自分の立場に苛立ちを覚えていたからである。
「じゃ、剣はないけど、代わりに木片で型から始めようか。もちろん、行進は休まないから大変だけどね」
 そんなラティールの訓練に、弱音をはく村人はいなかった。

 彼らの成果は、日を追って現れ始める。
「へえ! オレの風術、見て覚えたって? そうそう、風っていうのは空気の流れだからね! うん。超自然の世界にもあるみたいだね」
 毎日アルフランツの風術を見ていた子供の一人が、アルフランツを真似て一行の足跡を消してみせたのだ。この後、数人が真似て風を起こすのはすぐだった。
「13歳以下の子供たちで、風を起こせるのは40名中4人、だね。……大体、東トーバ神官の人口比率と同じってことか」
「あたしの方も、成果は上々よ。有志の神官たち、そんなに大きくはないけど、暖は取れるほどの炎は作れるようになったわ」
 アルフランツにウィンクするリューナが笑う。そんな彼らに、体調の整った神官長補佐役のルニエが頷く。
「なるほどの……異世界の力もあなどれぬわけよ。感謝せねばなるまい」
 穏やかな笑顔を浮かべるルニエに、鮮やかな色合いの服装をしたリューナは言う。
「それはそうと、アマラカンに入るには神官の力がいるのよね。隠れ里というぐらいだから、バリアとかで守られているのかしら?」
「ふむ。伝え聞くところによると、そうであろうな。寒さからバリアで守られ、細々と暮らしておるという。隠れ里には、トーバから逃げ出した神官もおるが……もともとは」
 この時、ラティール教える剣術を体得している村人たちの一部から、「東トーバに戻って、東トーバを奪還すべき!」との声が上がったという。

続ける