『紅の扉』   −第二章− 第三回

ゲームマスター:秋芳美希

東トーバ降伏

 修羅族に降伏した、かつて平和の地であった東トーバ。
 異形の東トーバ君主マハと神官長ラハは人質となり、ムーア宮殿へと連行される事となっていた。

 降伏時に、民の存命を願った神官長ラハ。その願いに、東トーバ侵攻の司令塔である魔が笑った。
「キヒヒ。亜由香に願いでてみるんだナ。……それまでに全員死んでなけりゃいいがなァ?」
 肩をいからせて笑うのは、修羅族の長“邪鬼”。その邪鬼の指示によってムーアへの連行部隊が編成される。この行列を構成するのは500名のムーア兵と1名の修羅族とであった。
「亜由香のヤツは、君主マハの到着を首を長くして待ってやがるが、別に急いでやる事もねェ。ゆっくり行きナ」
 その間、東トーバを蹂躙するつもりの修羅族たちであったのだった。

 やがて格子付きの馬車に乗せられる神官長ラハと、未だ異臭を放つ君主マハ。ムーアへ向かう牢の中で、神官長ラハは深い祈りを捧げていた。
「どうか……ご無事で……」
 異世界からの協力者たちのこれからの成功を祈る事しかできない神官長ラハであった。
 その未来に幸あれと。


東トーバ脱出

 東トーバが降伏する前に、国を脱出する者たちがあった。一つは、神殿西方の村人を引き連れて脱出した一団。その一団を率いて進むのは異世界からの協力者たちだった。
「ラハの決断無駄にしちゃいけない、あの場に残った神官たちや民の決意を無駄にしちゃいけない……そしてあの場に残った仲間達の意思を無駄にはできない。俺がしっかりしなきゃ、ついてきてくれた皆を導かなきゃ……」
 脱出する一村民を先導するのは、日に焼けた肌を持つたくましい青年ディック・プラトック。その一団の後方を固めるのは、紫がかった黒髪を持つ少女リューナであった。
「ラハに託された、人々を逃がす役目を果たすために、やるだけのことはやってみせるわ」
 そんな彼らは、警備の固い西側から一団の脱出を成功させ、目的地を目指していた。

 一方、彼らの援護に向かう者たちもいた。彼らが向かう先は、北方山岳地帯にあるという神官の隠れ里アマラカン。途上はすべて敵地。食料も十分ではない苦難の旅路に、共に行く者を神官長補佐役のルニエが募る。
「共に行く者は他におらぬか。この地に留まるより苦しい旅となろうが」
 このルニエの声よりも早くアマラカンへの出立を心に期していたのは、ルニエをこの神殿まで送り届けることに成功した乙女であった。豊かな長い金の髪を五つに束ねた乙女アクア・マナである。神官長ラハに「いつか東トーバを奪回する為に、必ず此処へ戻ってきますから〜」と約束したアクアは、ルニエに向き合う。
「一刻も早く出立するのであれば、早駆けのできる馬などに騎乗して行くべきです〜。一村ほどの多人数での移動です〜、追撃部隊がすでに出てないとは限りませんし〜」
「なるほどの。早駆けの馬か……。伝令用の馬が6頭ほどあるはずよの」
 アクアの言葉に、ルニエが考えを巡らせる。
「すまぬが3頭ほどは馬は伝令の役を勤めさせてはくれぬか。……多くの時はかけられぬが、この伝令に出会い、脱出の路を選ぶ者もいくばくかはあろう」
「脱出の件を、国内に知らせるのですね〜。ルニエさんは後から脱出されるのですか〜?」
 アクアの問いに頷くルニエ。その姿に、アクアは新たな決意を固めていた。


混乱の東トーバ
 
 ルニエからの脱出ルートを知らせる伝令。その伝令の一頭がムーア兵に囲まれるのを、助けた乙女がいた。
「神殿で何かあったの?」
 “無銘の名刀”を振るう乙女は、ラティール・アクセレート。淡い金色の長い髪を小さなリボンで結んだラティールの陽気な声に、伝令役の神官が応える。問われた神官は、ラティールと面識はないものの信頼できる者と判断する。
「間もなく、東トーバは降伏致します。民の一部は、すでに北方山岳地帯アマラカンへ出立されました。共に行く者を神官長補佐役のルニエ様が募っております」
 その知らせは、ラティールと協力してムーア兵に追われる民を避難誘導していた青年、アルフランツ・カプラートの猫耳にも飛び込んでくる。
「アマラカン? そこって、行くのは難しいのかい?」
「はい。大層、遠い地でございます。標高も高く、人の住める地ではないとの噂もございます。その地に、神官の隠れ里があるとの事です」
 しかし伝令の話を伝え聞いた民の多くはすでに傷つき、脱出先が“アマラカン”である事を聞くと脱出を諦めてしまう。
「……遠すぎる。しかもアマラカンは極寒の地だろう……とても無理だ」
 けれどその地を目指そうとする者は、少なくはあるけれど確かにいたのだ。ラティールとアルフランツとは、そんな人々を援護しつつまずはルニエとの合流地点へと向かっていた。


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