神殿外の決戦

「こんなに早くですか〜!?」
 アクアが空中で体勢を立て直すよりより早く、敏捷性に優れた修羅族が迫ってしまう。
「キーヒッヒッヒヒ! 神官の集団かァ? こいつはぁイイ獲物だァ。極上の声で鳴いてくれよォ!」
 まずは手近な神官へ向けて、拳を振り下ろす修羅族の長、邪鬼。邪鬼の拳を受けた神官は、“精神防御壁”を展開する前に血肉の塊と化していた。
「オおっと、しまったァ! これじゃア、エサの役目にもならねぇナ!」
 悪びれずに、神官の肉片を口に運ぶ邪鬼。次のエサを狙って、手下の修羅族たちも舌をなめる。この時、とっさに己の杖に魔力を込めたのは、アクアであった。
「……効果は短時間ですが〜!」
 アクアが己の世界で魔力を媒介・増幅する杖、氷皇杖。その氷皇杖からほとばしる力が、大気中の水分氷結させて『アイスウォール(氷の壁)』を生成してゆく。
「この隙に皆さんの精神防御壁を展開してください〜」
 自身も不完全ながら精神防御壁を重ねて作るアクア。
『もっとも〜この程度の壁など1枚張っただけではさしたる効果もないと思いますが〜』
 アクアの予想に違わず、あっけなく破壊されてしまう氷の壁。この後の作戦も、瞬時に構築したアクアは言う。
「ここは次の壁を展開させつつ後退と言う事を繰り返しましょう〜」
 神殿に帰還すると共に、修羅族をも足止めする遅滞戦術をとろうとするアクア。しかしその思惑は、他7名の修羅族によって阻まれてしまったのだ。
「キヒヒ……惜しかったナ!」
 前後を囲まれては、身動きの取れなくなる一行。そこへ、修羅族の背後から奇襲をかける者たちがいた。

「お待たせ!」
 明るい声と共に、一帯が煙に包まれる。
「何があっタ!?」
 慌てる修羅族たちの体の側を、フルパワーにした熱線がかすめてゆく。そのうちの一体が、断末魔の声を上げた。
「一体は、いけた! みんなに迷惑をかけた分、ここで挽回しなくちゃ」
 確実な手応えを感じつつ熱線銃を連続照射するのは、先に修羅族に捕らわれていた少女トリスティアであった。そのトリスティアの放つ光の下、修羅族の背後へ回りこむ者がいた。
「! そこね! ……今東トーバをやらせる訳にはいかないんだ……ゴメン(呟)」
 不意を付き背後からバッサリ一刀両断したのは、フレア・マナ。フレアの握る『炎帝剣』が白煙の中で、明るく燃え上がる。その炎に焼かれた修羅族の一体が燃え上がっていた。
 この状況下で、怒声を上げたのは邪鬼であった。
「動く炎を狙ェ! 熱線の先くれェ、見切りやがレ! 修羅族様の名がすたるってもんョ!」
 そして、残った修羅族を二手に分ける邪鬼。魔の中でも敏捷性においては、勝る者なき修羅族。その背に醜悪な形状をした翼が生える。
「キヒャヒャヒャ! 熱線てなァ、こっちかィ!」
 熱線へ向けて急行する二体の修羅族たち。しかし、その修羅族の目や鼻に、砂や土の混ざった煙がまとわりついてくる。
「チィッ!! 何だコレハ!?」
 わずかに足止めされた修羅族。彼らが目的の場所に着いた時、そこには誰もいなかった。代わりに彼らを迎えたのは、フレアの『爆炎珠』であった。爆発する炎の中で、それでも体勢を立て直す修羅族たち。それを見極めたフレアとトリスティアとは、次の奇襲策を練り始めていた。
『あの邪鬼って修羅族……長ってのもダテじゃないみたいだよね』
『ともかくアクアたちは、神殿へ逃げられたようでよかったよ』
 煙の中で笑顔を見せるトリスティアとフレア。そんな二人は、自分たちの飛行能力のアップにも力を貸してくれた一人の青年、アルフランツ・カプラートのいる場所へと後退していた。

 白煙の吹き溜まる空間。その空間を見やって、一安心する者たちがいた。
「……二人とも無事だったみたいだね」
「そうだね。協力ありがとう」
 固く握手を交わしたのは、ラティールとアルフランツであった。
 トリスティア、フレアと東トーバへ同行しつつも、地上に降りる道を選んだ猫耳の青年アルフランツ。アルフランツは、戦うよりもまず援護に回る事に決めていたのだ。そのアルフランツは、ムーア兵の暴挙を力で止めていたラティールを見つけたのだ。そして出会った二人は、同じ目的を知ると迷わず協力体制を取ったのである。すなわち、アルフランツが風術魔法でトリスティアたちの援護する時、無防備になるのをラティールがムーア兵から守っていたのである。
「じゃ、行く? 民を襲うムーア兵は、まだまだいるから」
「うん。今度はオレがラティールを援護するよ。そのうち、トリスティアとフレアも合流するだろうし、撹乱なら得意だからね」
「助かるよ!」
 ハーフヴァルキリーであるラティール、風を操って飛行スピードを上げるアルフランツ。天才的な剣技を持つラティールが、拡散するムーア兵を駆逐するべく全力を傾ける。それをアルフランツが全力で援護していた。

続ける