東トーバ神殿

「トリスティアが大変だよ!」
 突然神殿に現われたのは、アルフランツ・カプラート。“猫っ毛の無造作ヘア”をしたアルフランツは、セピア色の神殿を見まわして、協力してくれそうな相手を探す。Tシャツにジーンズ姿の猫耳アルフランツを最初に見つけたのは、胸当てをした戦士らしき乙女であった。
「異世界からようこそ。東トーバの神殿へ。僕は、フレア・マナっていうんだ。よろしくね」
 腰まで届く金髪をポニーテイルにしたフレアが右手を差し出す。
「あ、オレ、アルフランツ……って、挨拶より先に伝えたい事があるんだよ」
 フレアの手を握り返しながら、アルフランツは自分が『緑の窓』という場所から見たトリスティアの窮状を伝えたのだった。


 東トーバ神殿の混乱

 アルフランツがフレアと出会った東トーバ神殿。
 その神殿は不穏な空気に包まれていた。
 《亜由香》という少女の策により、異形の者に変化させられた東トーバの君主マハ。腐臭さえ放つ異形の君主を元に戻さんとする者たちの努力にもかかわらず、君主マハの呪縛は解くことはできなかった。君主マハの抱く呪縛とは、《亜由香》をこの世界に呼び寄せてしまった事にあった。この《亜由香》こそ、ムーア世界に魔をはびこらせた者であったのだ。そして、君主マハの罪を知った神官たちに、新たな分裂の波が広がろうとしていたのである。
 この事態に心を痛めていたのは、アクア・マナ。腰まで届く金髪を5つに束ねた、フレアとは双子の乙女である。
『原因は、君主マハの罪の意識をみんなが知ってしまったからで、それは同時に私の責任でもあります〜……』
 責任を感じつつ、それでもアクアは出来る事を行動しようとしたいた。
「東トーバが内部分裂してしまわないように各派閥の間を廻り、それぞれの意見を取り纏め、今諍い合う事の愚かさを切々と説いて回る事くらいでしょうね〜」
 アクアの想いと同じであったのは、ディック・プラトックであった。
「ああ。完全に東トーバの内部が対立する前に何とかして阻止したいよな」
 このムーアに連れて来られた後は東トーバに留まり、その内情を見てきたディック。肩近くで跳ねた金の髪を持つディックは、静かに語り始めていた。

ディックの話

東トーバの神官たちの構成
 
 東トーバの人口は1万人。そのうち一割が神官だ。
 神官の男女比は、8:2で、男の方が多いな。
 神官の内半数の500名が外回り組で、食料育成の為に東トーバを回っていたり、そのごく一部は隠密行動をしている神官もいるらしい。後の半数は神殿にいて三交代制でバリアを張っているんだ。大体、一人の神官が張れるバリアの範囲は小さな町一つ分。これも、超自然の力が安定した神殿だから、出せるものらしい。だから誰かが倒れたり、精神力にゆらぎがあったりしたら、バリアの大きさ自体を縮小するか、外回りの神官を呼び寄せるかして対応してるんだ。今は特にゆらぎが激しいから、応急処置で敵の少ない方向のバリアを縮小しているって話だ。


神官長ラハと対立している神官達

 俺の見てきた範囲だと、大体全体の三割程度が対立している派閥だな。
 神官長ラハと長の座を競った“ルニエ”っていうのが派閥の中心人物だ。ルニエは、神官長補佐役として補給食料の育成で外回りに出ている事が多いらしい。
 神殿に戻るのが嫌だって噂もあるが、実際のところは俺も会っていないからよくわからないんだ。気になるのは、神殿にいるルニエ派の神官たちが頻繁に外出しだしたらしい。


神官は今、何について不安に思っているのか。

 アクアの言うように、“異世界人に対して決して良くない感情を抱いている人達も居る”し、“マハの罪に憤っている人もいる”よな。
 大体、俺達に悪感情を持つ神官は、東トーバにいる外回り組に多いらしい。君主の罪に憤っている奴は……残念だけど神官全員がそうだよな。神官長ラハだって……その一人なんだからな。

 ディックの話を聞き終えて、アクアはまず東トーバの外回りに出ているという“ルニエ”という人物を探す。そして、ディックは、今も気力を失っている神官長ラハの元に進んでいた。

続ける