『紅の扉』   −第二章− 第十回

ゲームマスター:秋芳美希

 ムーア世界を統べる少女、亜由香。
 その亜由香の統治に抗し続けてきた東トーバも降伏し、世界は魔の力に満ち始めていた。

 降伏した東トーバには、少年体の夢魔が巣くう。その少年夢魔が現れてから、東トーバを含む周辺地域の人々から生気が消え、異世界人ですら強烈な眠気に襲われるのだ。その少年夢魔は、自分に歯向かった異世界人たちの抹殺を狙っているという。

 東トーバ郊外にある神官の元仮眠所。そこに、東トーバ奪還を狙う異世界人たちが集っていた。
「夢魔を倒さなければ、東トーバの人たちを救えない。それに、再び夢魔と出会ってしまった以上、もう戦いは避けられないよ」
 細身で小柄な少女トリスティアの言葉に頷いたのは、仲間となった乙女たちだった。その一人は、背中に二枚の羽を持つハーフヴァルキリー、ラティール・アクセレート。
「あたしは逃げ隠れするのは性に合わないしね。夢魔とやらと、さしで勝負させてもらうよ……っと、その前に夢魔の精神攻撃への対策だけは教えてもらえるかな?」
 そんなラティールと夢魔対策については同意見であったのはフレア・マナである。“風聖甲”の胸当てを身につけて常に戦闘体制であるフレアもまたトリスティアを見る。
「トリスティアが会得している『精神防御壁』とかいう技のことだね。それは僕も身に付けたいな。僕にも教えてもらえるかな?」
「もちろん。『精神防御壁』は、夢魔との戦闘準備として必要だよね」
 かつて東トーバ神官たちが操っていた東トーバ全体をおおうバリア。その応用技でも『精神防御壁』は、ムーアの超自然界から得ている力でもあった。その力の方向は、バリアを操る精神力に依存するものである。心がゆらげば、防御壁そのものが展開できなくなるのだ。この後、強い精神を持つラティールとフレアとは、この技をトリスティアより伝授されるなり、これまで精神に加えられていた圧迫感を払拭する。
「ありがとう、トリスティア! これならばすぐにでも戦える!」
 身軽になったラティールが、元仮眠所を逸早く飛び出してゆく。“物事を深く考えるよりもまず行動する”ラティール。東トーバ内を自由に動くラティールの動きを、夢魔が察知するのに時間はかからなかった。



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