ムーア宮殿にて
東トーバを堂々と出立した拓哉は、すぐに《亜由香》の軍勢に捕らえられる事となる。この時、拓哉は神官長ラハの親書を手に《亜由香》との直接交渉を主張した。すでに拓哉自身を見知る軍勢は、拓哉をムーア宮殿へと身柄を移したのだった。
拓哉が《亜由香》に直接の交渉を求めると、現われたのはロングヘアの少女であった。その少女に向かって拓哉は、至近距離で意志の通じる実を使う。
『……亜由香の味方か……?』
相手もその力を認めて応えて来る。
『……僕はフレア・マナ……アクアとは双子の姉妹だよ。でも、今は“テーラ”と名乗っている』
拓哉に応えたフレアは、先にムーア宮殿を分けあって離れざるを得なかった少女である。そのフレアは頃合いを見て、三つ子姉妹の一人としてムーア宮殿に戻ったのである。
『今は、亜由香が故意に泳がせてくれてるのか……フレアと同じ位置にいさせてもらっているよ……だから、僕のことは内緒にね』
フレアとのコンタクトに成功した拓哉が頷く。そんなフレアが、君主マハと出会ったかどうかという質問には、フレアはまだと応えた。
『君主マハは、夢魔の瑠伽(るか)の居室にいるらしいよ』
『夢魔……洗脳しているのか?』
『そうだね。僕もマハに会えなくてわからないけれど……君主マハの洗脳が完了すれば《亜由香》の思惑通りの世界が始まりそうだ……ね』
それがどれほど危険なものか、彼らは漠然と感じ始めていた。そして、互いに情報交換を終えた後、“テーラ”となったフレアは言う。
「で、その親書とやら、渡す気になったか?」
この言葉に、拓哉は無言で神官長ラハの親書を“テーラ”に託す。
「これは確かに亜由香に渡すぞ」
かくして、捕虜同然であった拓哉に亜由香は、直接会う事となる。
拓哉が提案し、神官長ラハが了承した作戦は、休戦の締結。
けれど亜由香は、休戦に何のメリットもないと一蹴してしまう。
しかし、そんな亜由香は、中立を主張する拓哉に言った。
「あなたも賢いのね。あなた自身が英雄となる地に住む気はないかしら? あなたも、味方になりなさい」
やがて夢魔の瑠伽(るか)の居室から現われる異形の体。
それがかつて君主と呼ばれた者である事は、すでに誰の目に信じられないものであった。
その化け物に手をかざす亜由香。開かれる空間。
そこから何者が現われるというのか……歪んだ新世紀が始まる。