東トーバの決戦

 その指揮を取る事となったのは、夢魔である瑠伽(るか)であった。
「あたしは、こういうの向いてないと思うんだけど、ま、いいわ。亜由香から策ももらったし……やってやるわよ」
 炎の翼で空を飛ぶ瑠伽が、一万の『人』の兵と魔とに命令する。
「バリアを人で包囲して! その外周を吸血蝙蝠、埋めなさい。上空は、雷蛍ね!」
 こうして圧倒的な戦力で威圧する中、瑠伽は言った。
「誰か、このあたしと一騎打ちする勇気のある者はいないかしら? それとも、このままずうっと縮こまって滅びを待つだけかしら?」
 この声に反応したのは、拓也だった。
「いずれにしろ、このままにはできないだろう」
 自身の剣を携える拓也を見た、ディックも言う。
「バリアを一部だけ弱め、そこから拓也さんを出そう。もしそこから魔物が進軍して来られても、一定数の魔物だけ入ってきたらまたバリアを硬く閉じようぜ。少しでも魔物を減らせるチャンスだ」
 すでに魔物の目的の一つでもある君主を囮にした罠も、大量に仕掛けているディックは言った。この案に、神官長ラハが頷く。
「……いつまでもこのままではいられません。拓也様も……お気をつけて」
 やがて、バリアの一部が弱められ、拓也の姿がバリアの外に現れる。
「来てやったぞ! 勝負だ」
 しかし、その姿を見た瑠伽は笑った。
「あーら、ご苦労様。でも、バリアのほころびも今ので十分。じゃ、君主マハは、いただいてくわね♪」
「何!?」
 驚く拓也の背後でバリアがゆらめく。そこから現れたのは、黒き衣に変装した君主マハ本人であった。
「姿を変えても、精神の姿は変えられなくてよ。『精神防御壁』も使えなくなるようなおじいちゃんなら、見つけるのは簡単だわ♪」
 一瞬にして精神を瑠伽に支配されてしまった君主マハ。その体を吸血蝙蝠たちが運んでゆく。
「うふふ。これで亜由香も魔を呼び放題になるのかしら。その時、改めて一騎打ちは腕の立つ者にやらせるわ。そうね、修羅族の猛者がいいいかしら。あなたが負けたら、あたしたちの仲間になりなさいな」
 強烈な暗示を放とうとする瑠伽。その力に抗うには、かなりの精神力が必要であった。瑠伽の去った後、拓也はつぶやく。
「……外にいるという神官たちが魔の影響を受けなかったのは……この『精神防御壁』の力か……受ける者は操られる……それが焦土の中で安定している世界の理由か……」
 それがムーアにとって幸いであるのか、不幸であるのか。
 拓也は、そのまま気を失っていたという。

 連れ去られた君主マハ。
 そしてこの後、《亜由香》によって様々な魔が呼び寄せられるというムーア。
 世界が魔の巣窟ともなれば、東トーバに残る者に未来はなかった。


続ける