ムーア宮殿
黄金色の髪をポニーテールにした少女フレア・マナ。
軽装のフレアは、今も《亜由香》の側にいた。
東トーバとの戦線も落ち着いている頃。
フレアは亜由香に確認すべき事を聞いていた。
「ねぇ。僕は、この戦いで、亜由香の意志確認をしないと、やるべき事、やってはいけない事の判断基準が必要だと思うのだけど」
「うふふ。例えば?」
妖艶な姿をした亜由香が、フレアの髪をもてあそぶ。
「そうだね、亜由香がムーア世界にやって来た経緯、この世界を統べよう思った理由、この戦が終わった後でこの世界をどうしたいのかを聞いておきたいな」
「ふふ。司令官としては当然の疑問かしら?」
そう言った亜由香がフレアの指に手をからめる。
「……見えるかしら……?」
そうして亜由香がフレアに見せる映像は、君主マハと会話する異世界の亜由香。亜由香の姿がムーアに現れるのと同時に、君主マハの側にいた一人の少女が消えた。
「入れ替わり……に?」
「うふふ。どうかしら」
フレアの疑問に、妖しく微笑む亜由香は言う。
「ふふ、どちらにせよ、わたしは呼び出されてここにいるのよ。わたしを呼び出した君主は言ったわ。“あまねく人の心に平安を”。わたしは、その希望通りにここにいるのよ。ならそれを与えられる、わたしこそがこの世界を統べるのは当然と思わないかしら?」
「……ふうん。なら、亜由香が統べるその世界はどんな世界になるのかな? 魔物の巣窟とかって聞いたけど?」
「どんな世界? それこそ、思うままになる世界よ。わたしは、世界すべてを魔物の巣窟にするつもりだけれど、あなたがもし東トーバに勝って、望む地があるのならあなたのものにしていいわ」
もともと戦いに明け暮れていたこの世界を、望む姿にする事が亜由香の狙いなのだという。
『方法論は間違っていないと思うんだけど……』
納得できない気持ちも抱えてフレアが微笑む。
「なら亜由香の為に、もっと有能な者が必要だから、東トーバ側に一騎打ちを挑んで出てきた奴を懐柔しようよ」
この時、フレアの姿を見咎める者がいた。
「失礼ですが、先までフレア様は東トーバ付近におられたのでは?」
ムーア宮殿の士官が、報告書を片手に不信な顔をする。その報告書に目を通した亜由香の瞳が険しくなる。
「……どういう事か説明していただけるかしら?」
そこには、フレアが西ゴーテ方向の海岸に向かって目撃されているとの報告があったのだ。
「それは変だね。僕はここにいるのに」
その存在を知らぬふりをするフレア。
「……もしかしたら……あなたの?」
そのフレアの顔を見つめて亜由香は決断する。
「いいわ。フレアからいただいている作戦は、他の者にやらせるわ。あなたは、この不信な者を探し出してきなさい。そして、あなたの潔白をわたしに証明してみせるのよ」
“潔白の証明”。それがどういうものなのか。
フレアは、このムーア宮殿を去る事となる。その際にフレアが与えられたのは、火炎鳥の上に物を載せる事ができる専用の輿(こし)であった。
「火炎鳥の熱をさえぎる魔力を持つ輿よ。それに乗って行くといいわ。早く戻っていらっしゃい」
亜由香の声に送り出されて宮殿を出るフレアであった。
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