−ムーア宮殿−
活発な印象を放つ少女フレア・マナ。
茶の皮製胸当てをした軽装のフレアは、今も《亜由香》の側にいた。
そのフレアは、東トーバ攻略に困る亜由香に兵糧責め包囲戦を提案する。
「僕は、バリアを張っている神官達の精神が消耗するのを待ってから、本格的な侵攻を開始したらいいと思うな」
正直のところ、亜由香に全面的に味方する気はないフレア。
しかし本心を隠したフレアの言葉に、亜由香は微笑む。
「うふふ。それはどうしてかしら?」
「食料の確保に神官の力を使ってるって噂を街で聞いたからね。
なら、自滅してくれるのを待った方がよくない?
君主もそう長くないって……世間話だけどね」
「そんな噂があるの? ……でも……ありえない話ではないわね」
フレアの洞察力を高く評価している亜由香が腕を組む。
迷う亜由香に、フレアはたたみかけた。
「どのみち、東トーバにバリアが張ってある以上、此方としても有効打を与える事が出来ないよね」
「……残念だけど……その通りよ」
波打つ黒髪をかきあげて、亜由香が頷く。
「そうね。あなたに、東トーバ攻略の作戦指揮をお願いするわ。
期待していてよ」
こうして東トーバ包囲作戦の司令官となったフレア。
フレアは、1万の『人』の兵を、そして夢魔以外の魔が与えられていた。
表向き《亜由香》陣営の幹部となったフレア。
フレアは、当初からの目的《亜由香》陣営作戦進行を微妙に狂わせるという計画を成功させる。
そうして、双子アクアの為に港までの進路を確保したのだ。
これは、西ゴーテから援軍の可能性を考慮していない亜由香の思惑をも計算したフレアの作戦であった。
この作戦を継続させるつもりのフレア。
亜由香はまだフレアを疑ってはいなかった。