ロスティの攻防戦

 《亜由香》に降伏した東トーバであるが、今は異世界の少女トリスティアによって開放されていた。『ムーアの砦』の異名を持つトリスティアは、多くの仲間を集めながら“リクナビ”の創始者リク・ディフィンジャーを、敵対するロスティから救出する。一方、東トーバを反乱軍の拠点とみなすロスティのムーア軍は、東トーバをそのままにするつもりはない状況であった。

 自由の地となった東トーバにあっても、本来元気少女であったリクは今もまだ動揺していた。何故なら、ロスティ脱出に際して自分をかばってくれたムーア兵を死なせてしまったからである。
『今のあたしに皆を引っ張っていく力はない…こんな気持ちじゃ皆に迷惑かかっちゃうよ。こんな時だからこそ、率先して皆をまとめ上げて引っ張っていくそんなリーダーが必要だと思うの。あたしが推薦したいのはトリスティア……彼女だったらやってくれるって信じてる。あたしはとりあえず自分を落ち着けさせるよ……もう一度考える。自分に何が出来るかを』
 そうして考えぬいたリクは、自分を助けてくれたアオイ・シャモンやジュディ・バーガーに感謝を伝えた後で、トリスティアに向き合う。
「トリスティア。助けてくれてありがとう。あたし、君にどうしても頼みたいことがあるんだ。お願い、トリスティア、リクナビリーダーになってくれない?」
 未だショックから立ち直れ無いリク。自分がこのままだとリクナビにも助けてもらった仲間にも悪影響を与え、迷惑をかけると思ったのだ。この後もリクナビを引っ張ってくれそうなトリスティアならば、十分その役割を果たしてくれると考える。
「今の状態の自分が引っ張っていけば足でまといになるからね」
 苦笑いするリクの言葉。その言葉に、年下のトリスティアが驚く。
「え、ボクが!? ボク……でいいの……かな?」
 まだ13歳の外見を持つ小柄なトリスティアが、リクを見上げて困惑する。そんな二人のやりとりを一番感動していたのは、ダイナマイトバディのジュディであった。
「Oh〜!! 何という美しい光景なのデショウ〜!! イッツ、ビューティフォー!!」
 青の瞳を輝かせたジュディが言う。
「リクも〜“英雄”と呼ばれるに相応しい人物デスネ〜。ナノニ〜その任をトリスティアに譲るなんて〜、ナントいう度量の大きさなのデショウ〜!!! モチロン〜、トリスティアもリーダー、引き受けるべきデスネ〜!」
 感動にうちふるえるジュディがトリスティアの肩に手をおく。
「トリスティア〜、アナタは『ムーアの砦』デス〜、砦は広くナレば〜イズレは世界に広がるのデスネ〜。ン〜! コレハ大いに宣伝するべきデスネ〜!!」
 腐ってもアメリカンなジュディは、元スタープレイヤーの経験から自己アピールに関して一日の長があったのだ。おバカなくらい派手好きなジュディは“リクナビ”を使って大いに喧伝する役を買ってでていたのだった。
 リクとジュディとにリクナピリーターを推挙されたトリスティアは、困惑しながらもリクナビリーダー就任を決意する。
「リーダーになった以上、みんなをムーア軍から守らなきゃいけないね」
 できる限り人を傷つけたくないトリスティアとしては、できればムーア軍の兵士とも戦いたくないところであった。矛盾は感じるものの、東トーバの人々をロスティからの攻撃から守るため、ロスティの人々をムーア軍から開放するため、トリスティアの次の目標は、『就任後の初仕事として、まずロスティ駐留軍の駐屯地を制圧する』となる。これによって駐留軍をロスティから追い出すことができればと考えたのであった。
 それを可能にする作戦準備は怠らないトリスティアは、ムーア軍に入り込んでいるフレア・マナとの連絡方法を確立する。そして、仲間の機動力を駆使して電撃戦を開始しただった。

 作戦に先立ち、ジュディはアオイから『精神防御壁』という技の伝授を受けていた。
「何しとんねん、意識の方向が違うやろ!」
 スパルタな伝授方法を受けながら、
「Oh〜No〜! 精神? コンセントレーション?? 意外に難しいものナノデスネ〜。デモ〜、覚えておくと、べりべり便利デスネ〜、ジュディ、ガンバリマス〜!」
 特訓のかいあって、何とかジュディもムーア世界の技を身に付けていた。

 作戦決行当日も、ロスティは快晴であった。この日、ロスティでは「閲兵式」が執り行われようとしていた。この閲兵式を提案したのは、中央からのロスティ増援部隊に紛れていた司令官フレアである。もともと反乱軍鎮圧の任を中央から得る立場となっていたフレア。そのフレアから、「士気高揚と反乱軍への威嚇」を目的とする「閲兵式」を行ってはどうかという提案を受けたロスティ司令官は、それを快諾したのである。フレアの指揮するロスティ増援部隊の主力は、そのまま影となった副官に任せて留めおき、救援軍2個中隊の戦力を伴いロスティに再入城するフレア。その来訪を祝してロスティ中に歓迎のラッパの音が響きわたったのだった。
 ロスティ駐留軍2000名の兵と、自分の2個中隊が整然と並ぶ中、高台の上にフレアが立つ。
「反乱軍など恐るるに足らず! 最後に勝ち、ムーアの未来を切り拓くのは我々だ!!」
 拳を振り上げ、景気の良い文句を並べ立てた訓辞を述べるフレア。しかしながらその内心は、兵士達の信頼を裏切っている行為に罪悪感を感じ、自嘲せずにはいられなかったのだった。
 まさにこの「閲兵式」が佳境となる時刻、突然響き渡る爆音。続いて青空から最初のエネルギー弾がふりそそぐ。密集隊形であった兵たちは、突然のこの砲撃に恐慌を起したのだった。
 
 打ち合わせたタイミング通りに降りそそぐエネルギー弾。それは、あらかじめバスターライフルとガンランチャーを連結させてチャージしたアオイの『対装甲散弾砲』であった。ジュディの操る愛車の後部に陣取ったアオイが、会場の中央を一気に駆け抜ける。
「シャモン家の人間を敵に回す恐ろしさを教えたる! みんなまとめて食らってくたばりや!!」
 爆音を上げるジュディの大型バイクと、砲弾内部に無数のエネルギー弾を蓄積してそれを撃ち出すことにより前方広範囲に攻撃が可能になるアオイの『対装甲散弾砲』。さらにその間を目にもとまらぬ高速で駆け抜ける物体。物体からは、熱線がとびかう。それらの攻撃に混乱する中を、トリスティアが声を上げる。
「武器を捨てて、投降して! ボクは“ムーアの砦”、トリスティア!! 投降するのが嫌ならば、ロスティから逃げるといいよ!!」
 すでにロスティのムーア兵の多くが聞き知るトリスティアの声。この声に戦意を無くす者、逃げ出す者、そして喜ぶ者……悲喜こもごものムーア兵が落ち着いた時、ロスティはたった4人の異世界人の手によって制圧されていた。

 ロスティ制圧に成功したトリスティア一行。彼らの戦いはまだこれからなのかもしれない。

続ける