アマラカンのふもとへ 水色の瞳をした乙女リリエル・オーガナと、暗金色の瞳の少女リューナ。その二人が先導する東トーバ脱出組本隊。680名の民と、神官長を含めて87名の神官とで動く一行。厳しい寒さはリューナの教えた火術で暖を取り、神官が育てる食料での自給自足での進軍が続いていた。その道中、リュリュミア一行からうまく脱出した18名の神官が加わる。 やがて到着する北方の街キソロ。石と氷に埋もれた街に到着するなり、疲労で倒れる神官と民たち。大所帯の到着に騒然となるキソロの街中で、 「兵士の略奪から逃げてきたのよ。その為に新天地を探している村の民人なの。どこか休めるところがあったらお願いしたいわ。どこかいいところないかしら?」 と平然とした顔で説明するリューナ。そんなリューナに、街の人々たちは口々に納得して言う。 「そりゃあ大変だったね! 休むとこなら、この人数だ。公民館を使うといい。まあタダじゃないがな」 この言葉で街人の心の豊かさを判別したリューナが、手持ちのお金を見せる。 「銀貨でよければあるけど?」 リューナの示す銀貨を見て、親切な人々は「公民館を3日は貸しきれる」と教えてくれていた。 強行軍で歩いて来た一行は、リューナの援助によって暖かい暖炉の用意されたキソロの公民館で休息を取ることとなる。暖かい暖炉と一人一人に貸し出された毛布。久方ぶりのぬくもりに、東トーバを脱出してきた本隊は、心からの休息を得たのだった。 火術を使い続け、疲れのたまるリューナは、自分の体を休ませる前に、物資の補給とアマラカンへの道のりでの警戒や襲撃への対策を話し合う。この中で襲撃対策を請合ったのは、リリエルである。 「どちらにせよキソロでうろついて見ようと思ってたのよ。これだけの大人数、不審がる人はいて当然で しょうし、アユカ側の勢力の誰かがこっちの事感づいて当たり前かもね。何しろ勢力圏内なんだし。だからあたしのフェアリーフォースに引っ掛かる妙な感覚あったら警戒すればいいわ」 一方、補給については変装している神官長ラハが言う。 「物資補給には回復した神官の力で、また物々交換の品を用意させていただきますよ……他にわたくしたちは何もお役にたてませんが……」 情けない表情をするラハの背をたたいて、にっこりとリューナが笑う。 「それで十分なんじゃない? 問題は3日で回復できるかってことだけど?」 「……多分。また倒れる者が出るとは思いますが」 いざという時に、動けない者がでるかもしれない一行。けれど倒れた神官の体は、体力のある若者たちの力で移動できる様子をリューナはこれまでの旅路で見てきていた。「十分よ」と答えたリューナはこの後、自分を慕う22名の神官に囲まれて泥のように眠る。これから先の旅路もリューナの力は、大きな助け手となるのだ。この休息は必要なものであった。 凍る街を情報を集めるべく歩くリリエル。リリエルはまず、街の商店を探す。 『リクナビここまで通じているかどうかわかんないけど、もしリクナビあるならそれを利用したいわね』 リリエルの思惑を聞かされた商店の店主は、やや声をひそめて言った。 「安心しな。この街の領主様は、ネルストとハクラんとこと同じで、いい領主様さね」 すでに夢から醒めた人々にとって、“リクナビ”のもたらす情報は必要不可欠なものとなっていたのだ。情報を共有するムーア世界において、弱き人々は自然に街を越えて協力する術を身に付け始めていた。 「領主様は、亜由香様が魔物じゃない世界から連れてきたとかいうしなぁ。……そうそう、アマラカンとかいう土地への道だったかい? 伝説でしか聞かないけどねぇ」 「へぇ? 伝説があるの? どんな伝説か教えてもらえるかしら?」 瞳を輝かせるリリエルに、店主が自慢気に語る。 「この先にある獣道をずーっと登った先に氷河があるんだが。その氷河のどこかにある氷の女神像にな、行きたいって願をかけたら行かれるってぇ話さ……伝説だけどねぇ……」 「ありがと! 参考になったわ」 その商店を出たところで、リリエルは自分を刺す視線に気がつく。 『誰かに見られているよーな……?』 リリエルは、いっそのことそいつをおびき出してそいつとコンタクトとって見たいと考える。 『けど、こっちから手を出さなくても多分その時になったら向こうから来るでしようし……当面は放置かな』 大胆なリリエル。そんなリリエルの背後から一人の男が接触する。顔のほとんどを包帯で隠した男は、リリエルに詰め寄る 「……アマラカンの名は、他所で言うのはやめた方が身のためだ」 「あら? 攻撃する気はないようね……ちょっと残念?」 攻撃受けたら当然フェアリーフォースとフォースブラスターで反撃はするつもりだったリリエルは、出鼻をくじかれた気分になる。 「そう言うからには関係者かしら?」 「……違う。が、その名を口にすれば、この街は狙われてしまう……」 誰に狙われるというのか。どこか支配階級を思わせる落ち着いた男の口ぶりに、リリエルは相手の存在を考え始めていた。 アマラカンの名は禁句なのだというリリエルに語りかける謎の男。 東トーバを脱出した一行にとって、アマラカンへの道程は最終局面を迎えていた。 |
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