『全自動の精霊』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【これまでの経過】
オトギィズム世界紹介◆  ◇「赤い流星」◇   ◆『海底大戦争』◆   ◇『狼男達の午後』  ◆『姫! 姫!』

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全1回)

★★★
 主に剣と魔法の世界『オトギイズム王国』にも時折、異世界からの旅人が紛れ込む事がある。
 それは東洋系カタナとオンミョウジュツの世界の住人だったり、バブル型ヘルメットと銀ラメの宇宙服を着たスペースオペラ世界の住人だったりする。更にはヒトがヒト型をしていない世界とか。
 そのセールスマンもオトギイズム王国にとっては異世界からの旅人だった。
 ところで足柄山の金太郎の話を知っている人は、金太郎を育てたのは足柄山に住む妖怪『ヤマンバ』だたという説話があるのをを知っているだろうか。
 ここオトギイズム王国の『アシガラ』に住んでいる婆はまさにそれであり、今日も金太郎を熊と相撲を取らせたり、山にある太い切り株を根こそぎ引き抜かせたりと自由な教育でその少女を育てているのだった。
 少女?
 そう、オトギイズム王国のアシガラの山で、ヤマンバに育てられている金太郎は年の頃、十四歳ほどの少女だった。気は優しくて力持ちの彼女は今日もヤマンバにのびのびと育てられ、熊やウサギやサルなど数多の動物達と一緒に平和に育っていた。
「こんにちはー! 本日は貴女様の生活のお役に立つお品を持ってまいりましたー!」
 ある日、ヤマンバの家に『せえるすまん』と名乗る背広姿の男が現れた。
 せえるすまんというのは異世界の行商人らしい。
「押し売りなら間に合ってるじゃ」
「まあ、そうこう言わずに商品を見るだけ見て下さい」
 でかい包丁をつきつけるヤマンバにひるむ様子もなく、笑顔のセールスマンは家の前まで運んできたドラム式洗濯機をご披露した。
「これこそ全自動洗濯機『IZUMI』! どんな着物もこれに放り込めば、洗濯、乾燥まで全自動の手間いらずで洗ってくれます! 基本的に洗剤いらず! なんと一日、太陽電池で充電すれば、一回分使用が可能というリーズナブルな省エネ機能がついてます! 充電は曇りの日でも大丈夫!」
「ほお」ヤマンバは興味を持った。「それは便利そうじゃな」
「そうでしょう? 今なら価格は大安売りキャンペーンでたったこれだけ!」
「ほお。それは安いな」
 ヤマンバはこの便利そうな商品を気に入り、購入を決めた。貯め込んでいていた金で料金を支払う。
「ありがとうございます! あ、それからこの洗濯機では絶対、衣類以外は入れないで下さいね」
「入れるとどうなるのじゃ」
「……壊れます。それでは失礼いたします」
 セールスマンは山を下りて、帰っていった。
「さて、便利な物を手に入れたぞ」
 山姥がホクホク顔をして、近くの川から汲んできた水桶でIZUMIに注水していると、まさかりを担いだ、おかっぱ頭の女の子が木の茂る山の峰からやってきた。
「ただいまー!」
 金太郎だ。素っ裸には『金』の白文字を染め抜いた、真っ赤な腹掛けだけをしている。少女らしいキュートなヒップラインは全部、剥きだしだ。今日も山の動物達と遊んでいたらしい。
「あー! 何それ」
「金太郎や、これは『ぜんじどうせんたくき』という便利な宝物じゃ」
「善児童選択鬼?」金太郎は身体は健やかで病気知らずだが、頭の方ははっきり言って悪かった。
 猫が問答無用で狭い箱の中に入っていく様に、金太郎はオニババが止める暇もなく洗濯機のドラム式洗濯槽に上半身を突っ込んだ。すると「あー、あー、吸い込まれるー!」ドラムから裸の下半身をむき出しにし、長い脚をぶんぶん振り回す。「落ちちゃうよー!」
 ヤマンバは金太郎の上半身を抜こうと思ったが、彼女の全身はあっという間に洗濯槽の中に吸い込まれてしまった。
「きんたろー!」
 ヤマンバは暗い洗濯槽の中を覗き込む。何故か金太郎の姿はない。大声で叫んで呼んだ。
 するとだ。
 IZUMIの洗濯槽の中からまるで芝居の舞台がせり上がる様に、西洋風のベールをを全身に巻きつけた光り輝く美女が現れた。さながらIZUMIの精霊だ。どれだけの力の持ち主なのか、何気なく左右の手に一人ずつ金太郎をぶら下げていた。
 右の手には全身が黄金色に輝く、豪華な金太郎。
 左の手には全身が白銀色に輝く、美麗な金太郎
「貴女が落としたのは金の金太郎ですか? それとも銀の金太郎ですか?」
 あまりに唐突な展開にヤマンバは腰を抜かしそうになった。が、こんな事で本当に腰を抜かすほどヤワではない。
 突然、思いつく。もしかしたら、これはよくある教訓話の様な人格判断テストではないか? ここで欲望のままに黄金か白銀の金太郎を選んでしまうと、嘘つきだと判断されて、罰としてどちらの金太郎も手に入らないに違いない。ここは「どちらでもない。わしのなくしたのは普通の金太郎です」と答えるべきだ。されば正直者へのご褒美として、黄金も白銀も与えられ、本当の金太郎も帰ってくるに違いない。
 ヤマンバは俄然、やる気が湧いてきた。
「さて、貴女の落としたのは金の金太郎ですか? 銀の金太郎ですか? 制限時間十五秒。じゅーよん、じゅーさん、じゅーに……」
「わしの落としたのは、普通の金た……」
「『普通の金』ですか。貴女は嘘つきですね。貴女には何も差し上げられません」
 IZUMIの精霊は金銀二つの金太郎を持ったまま、洗濯槽の中へと沈んでいった。
 洗濯機に駆け寄ったヤマンバは洗濯槽の中を覗き込んだ。水が張られている以外は何もない。
「わしの金太郎を返せぇーっ!」でかい包丁を洗濯機に突き立てようとする。
「防御機構発動」精霊の声がした。「ウォーター・トルネード!」
 洗濯槽から巻き起こされた竜巻の様な水流の渦がヤマンバを弾き飛ばした。
 その強力な威力にヤマンバは地面をごろごろ転がり、太い木の根元に身体をしたたかに打ちつけた。
 水の竜巻は速やかに洗濯槽に戻る。
「つ、……強い」ヤマンバは全身の痛みに耐えながら起き上がる。「これはわしの力じゃ勝てん……冒険者じゃ。
山を下りて冒険者ギルドにこの洗濯機を退治して、金太郎を救出してもらう様に依頼を出すのじゃ……」
 ヤマンバはその足でアシガラの山を下りていった。
 アシガラの冒険者ギルドは山姥の依頼を受領した。報酬は一人一万イズムだ。金太郎救出の為には洗濯機を壊す事も許可された。
★★★

【アクション案内】

z1.IZUMIの精霊から金太郎を取り戻す
z2.金太郎をどうにかしようとする
z3.その他

【マスターより】

 一回のみの短編シナリオです。
 あまり深い事を考えず、場当たり的にどうにかしましょう。
 では次回もよき冒険があります様に。