ゲームマスター:田中ざくれろ
★★★ 前回のあらすじ。 お爺さんに頼まれて、桃姫救出の為に獄門島を訪れた冒険者達は、島の南半分である真理王の国を攻略したが、桃姫の代わりにバニーガール姿のおじさん(うさ耳付き)を手に入れた。 ★★★ (Where adult entertaniment magazine? Apolpgize to Hugh Hefner!) 英文は各自で訳して下さい。 彼を見た瞬間、SAN(正気度)チェックに失敗した様な気持ちになり、ネイティブな英語でジュディ・バーガー(PC0032)はそう叫びそうになった。だが、ここはぐっとこらえる。 いくらアダルト・エンターテインメント・マガジン(要は成年誌)を連想させるといっても、銀ラメのバニー姿のおじさんを載せる様な雑誌では「それ、どんなマニアックな特殊フェチ向け?」と言われても仕方がない。 いや、問題はそこではない。 自分達、冒険者に紛れ込んで何処かと通信をやり取りしていたこのうさ耳男『ラビィ』。その正体だ。 現在、皆は獄門島の北半分『雷鬼の国』を攻略する前に、ビリー・クェンデス(PC0096)から食料補給を受けながら荒地で休息していた。 腹が減っては戦が出来ぬ。 「昔の人はエエコトを言った。そない思うやろ?」 ビリーは『打ち出の小槌F&D専用』でこれでもかというほどの大量の食べ物、飲み物を仲間に提供し、更に『指圧神術』と『鍼灸セット』で精神的疲労や体力、魔力も回復すべく努める。 真理王の国で金貨を稼いだビリーは、お大尽な気分で大サービス。 今すぐに雷鬼の国攻略へと向かえるまでにリカバリした冒険者達は、眼の前に広がる風景を眺めやる。 ほぼ荒野だ。あちこちに森や廃墟が見える。 「それにしてもほんま、けったいな人やなあ……」 現在、簀巻きで縛られた状態のラビィを見ながら、ビリーはしみじみと呟く。これは悪口ではない。関西芸人的な褒め言葉であり、彼の正体判明からのインパクトが非常に美味しすぎるのだ。関西風味の座敷童子のビリーにとって、心中で密かにライバル視せざるをえない。 それはともかく気になるのは、ラビィが何をしに自分達と行動を共にしていたかという事だ。 「姫様という人と連絡をとってましたが、それは『むらさき姫』の事ですか?」 『レッドクロス』を装着しながら、アンナ・ラクシミリア(PC0046)がラビィに問う。 彼の口は固く、喋らない。 持っていた水晶玉を調べてもある。だが、作動のさせ方が解らない。作動方法も頑なに口を閉ざし、喋らなかった。 「ソレじゃあ、スピーク・フロム・ユア・オウン、自分から喋りたくなる様にしてあげるワ」 ジュディは簀巻きのラビィを片肩に担ぎあげた。2mほどの高見となる。 ラビィの慌てた表情を気にせず、彼女はその場で三度ほど、垂直飛び。 この地の地面も真理王の国ほどでないにしても、よく弾むのだった。かなり高くジャンプ出来る さて、そろそろ出掛ける時間ですか、と、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)、リュリュミア(PC0015)、姫柳未来(PC0023)は自分達の食事の後片づけを始める。 「じゃ、ボクが先行偵察してきますわ」 ビリーは言うと同時に姿を消す。『神足通』だ。 皆は後片づけと並行して、出発の準備をしながら、ビリーの帰りを待った。 その間、ミノムシの様なラビィはずっとジュディの肩の上だ。 「目的の明確化こそ成功へと続く道……でございますか」 マニフィカは自分の読んでいたページの一節を読み上げ、しおりを挟んで本を閉じた。そして、ビリーから手渡されていた『М』の字がシンボライズされた赤いキャップをかぶる。 「うさぎの人って、むちむちぷりぷりして、かっこいいですよねぇ」 『雉の陣羽織』を着ながら、リュリュミアはラビィを見上げ、呟いた。 「ボロボロになった制服の代わりと武器を手に入れなくちゃね。茸人からの情報によれば、宝箱の中に鎧が入ってる事もあるらしいけど」 今や露出度満点になった未来は、健康的な生足ですっくと立ち上がり、『犬の刀』を腰に巻いた帯に差す。依頼をしに来た老夫婦の為にも桃姫を救い出す。心優しい彼女はその意志でいる。 後片づけと準備を進めていると、しばらくして、ビリーの姿がその場の宙空に現れた。 「報告、報告。こっからは墓場と森を突っ切るのが近道みたいでっせ。森には空を飛ぶ神出鬼没の幽霊みたいのがうようよいて危なっかしいので、そっから先は見てこれへんかったですわ」 ビリーの報告を聴き、冒険者達は出発の意思を再確認した。 「俺をどうするつもりだ」 うさ耳を揺らすラビィが久しぶりに口をきいた。 「サア、どうするつもりダカ?」 ジュディは口笛を吹きつつ、腰から下げた三丁あるマギジック・ライフルの内、一丁を空いている手に構えた。 皆そろって、弾む地面に最初の一歩を歩み出す。 ゲーム・スタート。 ★★★ 陰鬱な西洋風の墓場には、蔓に巻かれた十字架が幾つも並んでいる。 墓の前の地面が盛り上がると、土を割って、半分腐った青白い手がのびてくる。 草の生えた土を掘り返し、死人が全身を現す。何かをつかむ様に手を前へ。唸り声と共にゆっくり歩き出す。 活屍(ゾンビー)だ。 動きはのろのろとしているが、怪力なのは地面から出てくる様子で解った。 それが何十体も集まってくる。 と突然、そのモノクロームの一体に、幾つものカラフルな花が咲いた。 花の根が腐った身体深くに巡らされ、あっという間に活屍の形が崩れた。 リュリュミアだ。 彼女の投げた花の種がアンデッドの怪物に貼りつくと、それは死体を肥やしとしてあっという間に生長し、張った根が腐った身体を崩してしまう。 冒険者達は活屍を片っ端から倒しまくった。 腐った血と肉片が飛び散る。 「べ、別に怖くなんかないんですからね!」 眼前に迫るスプラッタな怪物にモップの一撃を食らわせながら、アンナが叫ぶ。ローラースケートを使って、飛距離の長いジャンプをする彼女は八艘跳びさながらに怪物を破壊していた。 「また、松明!? バランス悪すぎ!」 未来は活屍を倒しまくりながら墓場のあちこちで見つかる宝箱を開けまくっているが、ろくなアイテムが見つからない。たまに頑丈そうな全身鎧が見つかる事もあったが、怪物の手がちょっと触れただけでパキーンとバラバラになってしまう。見掛け倒しだ。 それでも必死に宝箱を開けていると、中にタキシードとマント姿の小男が入っている物があった。 茸人の情報でそれは『魔術師』だと見当がついた。 (呪いをかけられる!) 未来が瞬時に跳びのくと、魔術師の両掌から放たれた禍禍しい光が彼女のいた場所を通り過ぎる。 その光は後方にいて、出来る限り戦闘を回避していたマニフィカに命中した。 だが、その呪いがはね返された。極力、怪物を避けるつもりのマニフィカは『サンバリー』による魔法反射バリアで全身を覆っていたのだ。 はね返された呪いが戻ってきて、結局、未来に命中してしまった。 「ケロッ」!」 白煙が上がる。未来は呪いによって小さなカエルになり、逃げる以外出来なくなってしまった。 その未来カエルを踏み潰そうとした活屍の足が吹き飛ぶ。 救ったのはジュディのマギジック・ライフルだ。命中率のいまいちさと充填時間の長さを手数で補い、三丁のライフルを三段撃ちの様に使う。 ジュディは、『猿の鉢巻』の助力によるアクロバティックなジャンプを多用した正面突破で、次次に活屍を粉砕していく。 「やめろーっ! やめてくれー!」 あまりにもアクロバットすぎるジャンプと不気味な活屍が迫りくるダブルの恐怖にラビィが叫ぶが、ジュディは肩に担いだミノムシのそんな叫びをスルー。 「やめろやめろやめろぉーっ!」 ラビィの悲鳴など何処吹く風。冒険者達は墓場を突破する。 未来はやがてカエルから元の女子高生の姿に戻った。『ブリンク・ファルコン』で加速してからの犬の刀の一刀両断で、死体怪物を倒して突破し、皆の後を追う。 ★★★ 墓場を抜けると鬱蒼と茂った森が待っていた。 苦悶を浮かべる表情に見える、不気味に樹皮がよじれた樹木が冒険者達を暗い奥へと誘う。ねじれた枝葉は宙を?きむしろうかと広げられた手指の如く。 薄暗い中を敢えて踏み込む冒険者を待っていたのは、木木の間から突然現れ、宙を滑る様に飛ぶ、茶色のローブをかぶった幽霊の群だった。 木的豚(ウッディピッグ)。 それが時折、ネギを投げてくる。ネギ? いや実際は違うかもしれないがネギみたいな凶器だ。 神出鬼没に現れ、先読みしづらい軌道で飛びながらネギを投げてくるそれらは非常に手強い敵だった。 これは一つ一つを相手にするより、さっさと森を駆け抜けてしまおう、と皆が考えていると。 「わー! おばけー! やだー! 母さーん!」 ジュディに担がれたラビィが如何にもトラウマスイッチが入った様に泣きわめき始めた。どうも『幽霊』というのは彼の恐怖のツボにドはまりする対象だった様だ。 「サテ、そろそろいい感じダワネ」 ラビィに十分に恐怖を味わってもらったジュディは、ここで『飴と鞭』の神髄を味わってもらおうと彼を肩から下ろす。 その時だった。 「ラビィさんはぁ、わたしが責任をもって預かりますぅ」 突然、雉の陣羽織の力で空を飛んできたリュリュミアが、ジュディからラビィを奪った。 ええっ!?と皆が驚く暇もなく、リュリュミアは彼を抱えて、黒い葉と枝の隙間から昇っていく。 いつも行動に読めない所がある彼女は、今回のこの行動も読めなかった。 飛鳥の如く鬱蒼と茂る黒緑の天蓋を抜けたリュリュミアは、プチパニックになった仲間が見送る視線を受けながら森の上方へと脱出する。 すぐにその姿は遠くなった。 「ともかく、えらいこっちゃ! ここをちゃっちゃと抜けて、追わんと!」 ビリーの声に応えて、皆は森から脱出してリュリュミアを追いかけるべく急ぎ始めた。 更に空を飛ぼうとする者は木的豚に妨害される。 幽霊が頭上高くある内にマギジック・ライフルで撃ち、低く飛ぶものはモップで叩き落としながら、出来る限り、戦闘よりも前進を優先して、森を走り抜ける。 木的豚の縄張りは狭い様だ。森からは出てこなかった。 しばらくして森から抜けた時には、リュリュミアの姿らしきものは風景の何処にもなかった。 ★★★ 不吉なカラスが飛ぶ。 そこは永らく放棄された石造りの町だった。 廃墟となった町は所所で大きな建物が崩れて通りをふさぎ、横腹にぽっかり口を開けた建物には重なる瓦礫が階段の様に積み上がる。 それらがここを巨大な迷宮にしていた。 ビリーはあらためて先行偵察をして、大雑把な踏破経路と廃墟のあちこちに大男が潜んでいる事も確認してきた。 「私は空から指示をお出ししますわね」 マニフィカが『魔竜翼』で空へと上昇した。これで廃墟を鳥瞰出来る。 皆は廃墟の町に乗り込んだ。 ★★★ 簀巻きのミノムシのままで、ラビィがリュリュミアに運ばれ、遠い空を飛んでいた。 風の勢いでラビィのうさ耳が流れる様に反る。 雉の陣羽織の力で飛ぶ二人の眼下で、荒野の風景が後方へ運ばれていく。 「助けてくれる……のか」 「ちょっと、お話が訊きたいだけですぅ。お月様では、真理王の国よりももっと高くジャンプ出来るって本当なのかしらぁ?」 「お前……俺が『月』から来たって、解ってるのか……」 「わたしもお月様に行ってみたいですぅ。逃がしてあげたら連れていってくれませんかねぇ」 「逃す? ……俺を何処へ連れていくつもりだ」 「むらさき姫の所へ連れていってあげるわぁ。そうしたらお姫様と一緒に獄門島で何をするつもりなのかぁ、教えてくれませんかぁ」 「…………ちょっと待った。むらさき姫の城へ行くなら、赤有魔(レッド・アリーマー)が待ち受けている場所を通る事になる。俺は襲われない様に合言葉を知っている。それを教えてやる」 「あぁ、それはありがたいわぁ。じゃあ、むらさき姫の所までひとっとびでいけますねぇ。……ところで、こっちの方角でいいのかしらぁ」 やや軌道修正して二人は飛んだ。 ジュディが行おうとしていた『飴と鞭』の飴の部分をリュリュミアが施してしまうとは、誰にも予想出来なかった展開だった。 ★★★ 「わー! こっちへ向かってムッチャ走ってくるやん!」 「ユー・ゲット・ビーティン! 沈め! 沈め! 沈みナサーイ!」 ビリーの慌てる声に続いて、ジュディのライフル連射の射撃が石造りの空間で耳をつんざく。 通路一杯の巨大な質量が走りこんでくる接近音。 未来もナイフを投げ続ける。 アンナは『乱れ雪桜花(せつおうか)』を使いたがったが、貴重な魔術をここで消耗するわけにはいかない。代わりに『サクラ印の手裏剣』を投げ続けた。 ビリーも手裏剣を投げつけまくる。 迷路となっている廃墟の中。 禿頭の大男がうろついているのを知っている皆は、階上のそれらが遠ざかっていくのを足音から察知する。そして十分に距離が離れたところで急いで階段を昇って、相手が遠方にいる内に遠距離攻撃を叩き込むのだ。 しかし、この筋肉質な大男がとにかく凄まじくタフで、普通ならとっくに倒れる攻撃の数倍を浴び続けて、尚、こちらを叩き伏せようと迫ってくる。 ぎりぎりまで近づいたところでようやく怪物が床に倒れ込む。階が震える。 こんな綱渡りの様な接敵、ルーチンワークを十何回と繰り返している。 冒険者達は緊張でへとへとだった。 「ともかく、先を急ぎましょう」 アンナの声で皆は速足で歩きだす。 迷路の十字路を幾度となく曲がり、階段を昇降する。 そして、また階上の足音に耳をすますのだ。 そんな時、未来は一つの宝箱を見つけた。一人離れて、それに近寄る。 「今度は魔術師じゃないよね」 彼女ががばっと宝箱の蓋を開けると、中に入っていたのはピンクのビキニ水着だった。 いや、水着ではない。かろうじての装甲でそれがビキニ型のセパレート鎧だと解った。 しかし、なんという表面積の少なさだ。今、着ているボロボロの制服の方がマシな位だ。 「……すっごいハイレグ……お尻なんか八割、丸出しじゃない」 今着ている制服の上からビキニ鎧を当ててみる。かなり『凄まじい』デザインだ。遊び人用の装身具ではないのか? ただ、これは「いかにもエロティックな歴戦の女戦士が着る、悩殺型だけれども、見た目に反して防御力が高い鎧」というデザインだと、未来のセンスに感じられた。 「デザインが森羅万象を支配するのがオトギイズムの特性だし……着ちゃおうかな」 とりあえず、未来はそのビキニ鎧を持っていく事にした。 仲間達と合流する為、急ぐ。 曲がり角の向こうで「わー! また来たー! 早く沈め! 沈めー!」と騒ぐ声がしていた。 ★★★ 廃墟を無事突破して、都市の風景を後にする。 荒野。 ここで小休止。ビリーの提供する飲み物と食べ物、針灸で気力、体力を充填する。食べ物はお茶漬けかパンケーキで軽くすませる。 しかし食事には向かない場所だった。 荒涼たる荒野の土は赤く、強い風に吹かれて、大粒の砂が舞い上がる。それが飲食物に混ざるのだ。 絡まった乾いた蔦がボールの様になって、風で転がっていく。 あちこちにある大きな岩に見えるのが蟻塚だ。蟻塚の住人が脅威ある怪物ではなく、普通の虫なのに胸を撫でおろす。 それらが前方の、見渡す限りの光景だ。 荒野の地平線に小さく見える物は城だろうか。 休みを終えて荒野をしばらく歩く。 怪物の姿はなく、むらさき姫の所へ着くまでこのままかと油断していた時、行く手から何かが転がってきた。 人間の頭蓋骨だ。 眼を凝らす。 歩み寄る。 やがて広く大きな石台が現れた。 その上を埋め尽くす様に白い頭蓋骨が山と積まれている。 そこに座る、あるいは革張りの翼を広げて宙に浮かんだ、全身真っ赤な悪魔の姿。 光が漏れる細い眼。耳まで裂けた口に邪悪な微笑がある。 赤有魔だ。 素早く身軽な軌道が読めない飛行で、獄門島一番の強敵だと聞いている。耐久力もあるという。 それが七体もいる。 冒険者は武器を構え、覚悟を決めた。 「あれらはそれぞれ自分の間合いに敵が入ってきたら動き出すそうですので、そーっと近づいて一体ずつ相手にするのが得策ですわ」 「一度に何体も相手にする様になったら難儀やで」 「総力戦でございますわね」 アンナはモップを構えて前に出る。 彼女と入れ違いにビリーは後方へ下がる。 マニフィカは魔竜翼で空へと羽ばたく。ボス銭までは戦闘を避けるつもりでいたが、そうも言ってられない様だ。 皆はじりじりとすり足で近づき、間合いを計る。 今なら遠距離での先制攻撃を仕掛けられる。そう思われた時。 赤有魔が動いた。 二体同時だ。 ジュディの射撃。 一体に命中した。だが致命的なヒットではない。 もう一体が刃を斬り降ろすかの様な滑らかな軌跡で襲いかかってきた。 テレポートを使う隙もなく体当たりが未来を直撃し、彼女が着ていた制服の名残が吹き飛んだ。下着姿。女子高生が下着だけというのは倫理的によろしくないかもしれないが、獄門島的にそんな事を言っている場合ではない。 返す刀を未来はかわし、その際に白く長い脚を素早くのばす。それはキックとして赤有魔に命中した。 ビリーは赤い悪魔の挙動を眼を凝らして観察する。 空飛ぶマニフィカのトライデントはブリンク・ファルコンによる加速で、一体に手傷を負わせる。 皆、互いに位置を入れ替え続け、戦場を縦横無尽に走り回っての交戦。 そうしている内に、全ての赤有魔が動き出した。 現場は嵐の様にせわしい。 攻防が交錯する。 冒険者は皆、回避に手一杯になり、攻め手に欠ける。 その時、未来は素肌に大粒の砂が吹き当たる疼痛にたまらず、先ほど入手したビキニアーマーを取り出した。装着したいと思った瞬間、彼女の意思に鎧が応えた。一瞬、全身が眩しく輝き、艶気たっぷりのアーマーを裸身に装着した姿に変わる。下着姿より露出が増えているが、気にしている暇はない。何より、こんな肌面積が多い姿なのに、砂粒が当たる痛さがなくなった。 「たぁっ!」 ビキニを食い込ませ、連続テレポート。怪物の動きに追いついた。 犬の刀で突きを食らわせ、赤い悪魔に大きな傷を負わす。 その一体をジュディが三段撃ち。それは赤い怪物の翼を撃ち抜く。 地上に落ちた赤有魔が、素早い動きで地面を走る。 だが羽を失ったのは致命的だ。レッドクロスで桃色の髪をなびかせるアンナは、素早くモップをその地上の赤有魔の頭部に振り下ろした。動きが止まった。二度、三度と振り下ろす。完全に動かなくなる。 ようやく一体をやっつけた。 だが残り六体が飛び回る。振り子ギロチンの軌道だ。 「『影縫いの術』行きまっせ!」 攻撃に参加せず精神集中で成功率を高めたビリーの吹き矢が、赤有魔一体の影を射抜く。 するとその怪物の動きが空中で止まり、羽ばたきも滑空も出来ずに地上へ落ちてきた。 そこをローラースケートで駆けつけたアンナが、モップ連打でとどめを刺す。 残り五体。 ジュディは地上に降りた敵が再浮上する瞬間を狙って、小ジャンプしながらライフル二連射。一発が命中する。 マニフィカの『センジュカンノン』発動。 彼女とオーバーラップして黄金色の無数の手を持つ千手観音の像が現れた。次の瞬間、五体の赤有魔が頭上から属性『無』の黄金の一撃をくらい、一体ががあっという間に地上へ叩き落された。ジュディの射撃でとどめを刺される。 残り四体。 瞬間、三つの流星。ブリンク・ファルコンによる、未来の犬の刀三段突き。 更に皆で力を合わせて一体が倒される。 数が減って楽になってきた。だが、しかし油断は出来ない。 残り三体。 冒険者達は魔力が切れてきた。 「マニフィカさん、『マギジスメイト』や!」 「おお、これさえあれば百人力でございますわ!」 瞬間移動してきたビリーから投げられたクッキーのバーの様な物を、マニフィカは空中で受けけ止めた。一口齧るとチョコの味が口の中に広がり、魔力の回復を自覚する。 「センジュカンノン!」 マニフィカの祈り。空中から振り下ろされた黄金の拳撃によって、一体の赤有魔を叩き潰す。 残り二体。 一体がジュディに体当たりを仕掛けてきた。 ジュディはかわせず、鉤爪の直撃を食らう。 アメフト用の防具を身につけていた彼女の装備は全て弾け飛び、ダイナマイトなボディが露わになる。スポーティな下着は身につけているが、豊満な白い胸がこぼれそうだ。ヒップのサイズもダイナマイトだった。 「OH! マイガッ!」 「ぬひひひひひ」 赤有魔が珍しく声を出して笑った。ジュディの下着姿と、更にきわどい未来のビキニアーマー姿と見比べて、鼻の下をのばす 「なんで悪魔のあんさんが人間の裸を見て、興奮すんねん!」 その怪物の後頭部に、瞬間移動のビリーがツッコミを入れる。ハリセンがないのでスコップでだ。 赤い悪魔は修行中の神様見習いによって一撃で絶命した。 残り一体。 最後の赤有魔は逃げ出した。 空中高く飛び行き、やがて地上からは見えなくなる。 風が乾いた赤い荒野の風景に、冒険者だけがが残された。 「赤有魔と戦って、最後の一体は逃げ出したなんて、さぞ武勇伝になりますでしょうね」 言いながらアンナは地面に散らばる頭蓋骨をモップで掃き集める。 皆は戦いに疲れた身体をしばし休める為に地面に座り込んだ。 ジュディは荷物からジーンズを取り出して履き、上半身は下着の上に黒い革ジャンを羽織る。アメフト・アーマーは回収すれば、後で直せるだろう。 荒野の向こうの小さな城を見やる。 後はむらさき姫だ。 彼女から桃姫を取り戻す。 その為にここまで来たのだ。 その時、皆は気づいた。城の方向に光の反射をする物がある。 ここから見るとまだ遠い。城の傍にある様だ。 皆はこの獄門島に着くまでの、マニフィカの偵察報告を思い出した。 黄色と黒の縞模様。 それは一体、何だろう。 疑問を抱く皆の足元に赤有魔の死体が一体、転がっている。MADE IN MOON。悪魔の足の裏にはそんな文字が刻まれていた。 ★★★ 王城に入り、幾重もの怪物と罠のコンボを突破した。 巨石を積み上げて作られた建物の落とし穴を跳び、ひたすら階段を昇って、ようやくやってきたのが最上階であろう謁見の間である。 そこには王冠の様な角を生やした青白い悪魔が待っていた。 がっしりした巨体に赤いガウンを身につけ、はだけた胴の前面にもう一つの顔がある、 『魔王』だ。 問答無用の戦闘が始まった。 巨体の足音が響く。床が震える。 魔王が腹の口から巨大な火炎を吐いた。大量の火炎が床に触れて溢れかえる。 物凄い熱量が、触れたアンナのレッドクロスを弾き飛ばす。服まで一挙に吹き飛び、アンナは下着姿になった。「『エル・オーブ』が使えないとは……誤算でございましたわ」アンナは下着姿のまま、続く火炎放射をかわした。 巨体の悪魔の動きはそれど速くはない。火炎放射の量とタフさが厄介だった。 ジュディはマギジック・ライフルを撃った。 頭部に命中。だが、魔王の巨体は揺らぎもしない。 「ナル・エフェクト!? 効果がない!?」 ジュディが戸惑う横で、火炎の隙を突いて、未来が犬の刀で斬りかかる。袈裟斬りだ。 だが、魔王に傷はない。タフなだけではない。全くダメージが与えられないのだ。 「何で武器が効かないの!?」 「もしかして、特定の武器が必要なのではないでしょうか」 未来の問いに、下着姿のアンナが答える様に呟く。 「狼男なら銀の弾丸。魔王なら……十字架ですわ」 アンナはブラジャーの隙間にはさみこんでいた『サクラ印の手裏剣』を投擲した。四方手裏剣であるそれは確かに十字の形だ。 それが魔王の腹にある大顔に命中すると、それは大きく苦悶の叫びを挙げた。 「どうやら、効くみたいやな。それ!」 ビリーも自前のサクラ印の手裏剣を投げつける。それは魔王腹部の眼に当たり、大きく悲鳴を挙げさせた。右眼が潰れ、緑色の血が噴き出る。 魔王は苦し紛れにビリーに掴みかかるが、神様見習いは神足通で間合いの外に瞬間移動する。 ビリーは瞬間移動を駆使し、魔王の間合いの外からチクチクと十字手裏剣を当て続けた。魔王はビリーを捕まえようと右往左往する。 それは仲間への時間稼ぎになった。 「一気に行かせてもらいますわ」 精神集中していたアンナの必殺技が発動する。 突然、玄室の空間一杯に、横殴りの滝の様に大量の雪と桜の花びらが舞い踊り、魔王の姿を白く隠した。 『乱れ雪桜花』。 アンナの姿が三人に分裂し、様様な死角から十文字の手裏剣を一気に投げつける。 その全てが魔王に命中し、絶叫がほとばしった。傷口から緑の血がまるで堰を切ったかの様に流れ出す。 さらにもう一撃『乱れ雪桜花』。 今度は先ほどとは逆向きに雪と桜が吹き乱れ、また三人のアンナが三方の死角から十文字の手裏剣を命中させる。スプラッタなほどに魔王は血を大量に流し、今まで前以上の絶叫を挙げた その絶叫を断末魔として、魔王の巨体は石の床に崩れ落ちた。 裸足だった魔王の足の裏が露わになる。MADE IN MOON。 謁見の間の奥にあった大扉が、魔王の死と共に音もなく開いた。 ★★★ 「残念だったっちゃね。桃姫はもうこの城にはいないっちゃ」 謁見の間から続く通路を抜けた所にあった部屋では、広い畳敷きの真ん中に掘り炬燵が置かれていていた。 そこには炬燵に当たる三人の人物の姿があった。 一人は立体映像で見た、虎縞の十二単(じゅうにひとえ)のむらさき姫。 もう一人はうさ耳で銀ラメのバニースーツを着た男、ラビィ。 そして、おなじみの天然植物系淑女リュリュミアだった。 「何を食べてるんや?」 「だだちゃ豆だっちゃ」 「だだっちゃだめだっちゃ?」 「だだちゃ豆だっちゃ」 ビリーとむらさき姫が噛みあわない会話を交わす。 「だだちゃ豆の餡をつけた餅ですよぉ」 炬燵に入って、餅を食べながらリュリュミアは助け舟を出す。 三人は炬燵の天板に置かれた大皿から餅を取って、食べていた。 何故、リュリュミアとラビィがここにいるのか。皆は解らなかったが、悟った気になった。彼女に関しては深く考えてはいけないのだ。 「桃姫はここにいないというのはどういう事ですか」 「月の『かぐや姫』の所に連れていかれたっちゃ」 アンナの問いかけにむらさき姫が答える。 「月? 月って、あの空の?」アンナが訊く。 「そうだっちゃ」 「ラビィさんはかぐや姫の命令で月から来られた人なのよぉ」 リュリュミアはのんびりした口調で口を挟み、湯呑みの茶を飲む。 「それ以上、俺の事は教えては駄目だぞ」 「えぇ〜。いいじゃないですかぁ」 「さてと」むらさき姫が立ち上がった。「これから先はうちと戦って、勝ったら教えてやるっちゃ!」 虎縞の十二単の裾が孔雀の尾翼の様に広がる。クリアグリーンの長髪がなびき、黄色い角が光った。 むう、と冒険者達が身構えた。 未来は犬の刀を抜く。 その時、片手で皆を制して、一人が前に出た。 「ここは姫と姫の一騎打ちと参りましょう」 人魚姫マニフィカだった。彼女はトライデントを頭上で振り回すと、その穂先をむらさき姫に向けて構えた。 「さあ、らむさき姫」 「うちはむらさき姫だちゃ!」 炬燵の上にむらさき姫が乗った。姫にしては行儀が悪いが、その事に口を出す物はいない。 「行くっちゃ」!」 「受けて立ちます!」 マニフィカは初手で得意の『水術』を使った。 むらさき姫の頭上からバケツ一杯ほどの海水が落ちてきた。あっという間に全身ずぶ濡れになる。 次の瞬間、むらさき姫の両手から迸った眩い電光が十二単の表面を伝って、周囲の床面に逃げた。漏電だ。海水が流れたままに炬燵と、そしてラビィが感電。一瞬、白骨が見えた。 「……何故、うちの攻撃が電撃だって解ったっちゃ!?」 「そりゃ……まあ、ね」 「国の名前が『雷鬼の国』やしなあ」 悔しそうなむらさき姫に、マニフィカとビリーは軽いツッコミ。 「このぉー!」むらさき姫は跳躍しながら脱皮した。濡れて重くなった十二単が脱ぎ去られ、空中で、素肌に虎縞ビキニという姿になる。「これなら漏電しないっちゃ!」 ぴるるるる、と空を飛ぶむらさき姫に対し、マニフィカはトライデントを向ける。 「これならどうだっちゃ!」 むらさき姫の手から青白い稲妻が放たれた。 爆音に等しき、落雷。直撃した電光がトライデントの先端からマニフィカの身体まで光速で突き抜けた。彼女の身体が眩しい青白光に呑まれる。 「!」 勝利を確信した鬼姫の表情が、意外な驚きになる。 Mのシンボルがついた赤いキャップが焦げた畳の上に落ちる。同じく、マニフィカが持っていた『ミガワリボサツ』像もだ。 そこに人魚姫の姿はなく、トライデントを構えた彼女はむらさき姫の後方に回っていた。ミガワリボサツがマニフィカの肉体、霊体を攻撃を受けた瞬間に完全回復させたのだ。 むらさき姫の背中は無防備。 ブリンク・ファルコン。 トライデントの連続の突きが、虎縞姫のビキニを全て切り裂いた。 身につける物がないむらさき姫の身体が、無様に畳の上に落ちる。肌には傷一つない。しかし。 「くっ! 殺せっちゃ!」 豊満な胸と下腹部を手で隠しながら、うずくまったむらさき姫が叫ぶ。恥辱の色に肌が染まっている。 「それには及びませんわ」誰の眼にも勝敗は決したと見える状況で、マニフィカはトライデントを天井に向けて立てた。「あなたには訊きたい事がございますし」 「むっちゃ、眼の毒やん」ビリーが十二単の内側の濡れてない衣を、むらさき姫の裸身にかける。 「桃姫は月に連れていかれたのでございますか? かぐや姫とは何者でしょうか?」 「桃姫はお前達が城を攻略してる間に、空飛ぶ牛車で月に連れてかれたっちゃ」マニフィカの質問にむらさき姫が苦苦しげに答える。「かぐや姫は月の支配者だっちゃよ。女王だけど、姫って名乗ってるっちゃ」 「かぐや姫って、昔は日本にいたけど月に帰ったあのかぐや姫?」 「そうだっちゃ。尤もこの世界ではオトギイズム王国の東洋にいた事になってるけど」 未来の問いに答える、むらさき姫。 「パーハップス、もしかして、そのかぐや姫がむらさき姫をそそのかして、真理王の国をインベイド、襲わせたんじゃないノ?」 「そうだっちゃ」ジュディの問いにむらさき姫が即答。「向こうからアプローチしてきたっちゃよ。人工生物の食羽(くっぱ)とかを貸してくれて、これで真理王の国を配下に納めて獄門島を統一して、平和にすればいいって言ってきたっちゃ」 むらさき姫は言いながら、ラビィの方に眼線を送った。 「俺はこの獄門島にちょっかいを出す奴はいないかどうか、その動向を見張れとかぐや姫様に命令されて、このオトギイズム王国に派遣されてきたんだ」仕方なさそうに、少し焦げた所のあるラビィがうさ耳を振る。「冒険者という厄介で物好きな傭兵集団が桃姫に絡んでこないかどうかを」 「ラビィさんは月世界人なんですよぉ」 だだちゃ豆餡の餅を食べつつ、まだ炬燵に入っているリュリュミアが説明を補った。 どうもむらさき姫の真理王の国征服はかぐや姫にそそのかされての事、という感じが強くなってきた。 「かぐや姫って、どういう方なんですか?」 「それには『もし冒険者達がここに来たらこれを見せろ』と言われて渡された水晶玉があるっちゃ」 アンナの質問を受けたかぐや姫が、裸身に衣を羽織ったままで立ち上がり、部屋の奥にあった頑丈そうな時代物の箪笥から水晶玉を取り出してきた。 冒険者達の前で水晶玉は輝き、内部に映った人影を立体映像として空中に投影した。 「やっぴー!」それが空中に投影されたかぐや姫の第一声だった。「あなたがこれを観ているって事は、むらさき姫は倒されたわね。でも、桃姫はもうあたしの手の内にあるわ。あたしはバニー服美少女クィーン『バニームーン』! 月に代わっておしおきなのよ!」黄金のバニーガール姿の金髪少女が軽やかにそう叫ぶ。金髪は頭の両脇でお団子にまとめられていて、長いツインテールが垂れている。そして頭上にうさ耳だ。 冒険者達が呆気(あっけ)にとられてしまう軽さだ。 「桃姫は真理王の国に言う事を聞かせる為の人質よ。返してほしかったら、この月まで来なさい。来る手段はないだろうけど。それに来たところで、あたしたちバニー戦士達五人が迎え討つけどね」かぐや姫の背後から四人の美少女が現れ、彼女に並ぶ。それぞれ、赤、青、緑、オレンジのバニースーツを着ている。勿論、うさ耳だ。 「炎の巫女さん『バニーマーズ』、水の知性派『バニーマーキュリー』、雷の体力自慢『バニージュピター』、光線のコケティッシュ『バニービーナス』よ。それにあたしには『クビチョンパ・バニー』という可愛いペットもいるしね。解ったらせいぜい悔しがりなさい。じゃあ、あたしがやがてオトギイズム王国に覇道の一歩を踏み下ろした時に、また会いましょう。バイビー!」 今時バイビーって……という冒険者達の無言のツッコミすら寄せつけない立体映像はそこで消えた。 「このバニームーンとかいうのが、かぐや姫でございますよね?」マニフィカは疑問形をむらさき姫へ投げかける。「多少、頭が痛くなてきているのですが……何ですか、クビチョンパ・バニーというのは?」 「それは恐ろしく強いウサギだ」質問に答えたのは意外にもラビィだった。「見た目は普通のウサギだが高速で宙を飛び、一撃で敵の首をかっ切るという」 「何でかぐや姫の部下であるあんさんが説明するんや」 「もう幾らか喋ってるしな。後、それと俺は彼女が優しくしてくれた礼をしたい」ラビィはリュリュミアを見た。「クビチョンパ・バニーを倒すには『聖なる手榴弾(ホーリー・グレネード)』が必要だという。それはかぐや姫の私室に保管されているという噂だ」 「クビチョンパ・バニー対策もいいけど、わたし達、月に行きたくても手段がないじゃない!」未来が状況に反論する。 桃姫を助けるにしてもどうするの。宇宙船を持ってる人を探しに行くの?」 「それなら、うちがUFОを貸してもいいっちゃよ」 「何ですと?」×6。 突然のむらさき姫の提案に冒険者達の叫びがハモった。 ★★★ 冒険者達とむらさき姫、ついでにラビィをコックピットに詰め込んだ虎縞UFOが月まで小ワープした。 岩鬼の国で見つけた、城のそばで虎縞に輝いていた物の正体は、このUFOだった。むらさき姫の先祖がこのオトギイズム王国にやってきた時に使っていた物だという。年代物だが、まだ無事に動く。 砂地が銀色に輝く、月。 地上はクレーターだらけの岩丸出しの星だったが、月面は幾つかの巨大なクレーターにガラス状のドームがかぶさって、近代的な都市を形成していた。この中で月世界人やその家畜である動植物が生きているのだ。そのドームは、竜宮城を知っている者には『時の結界』によく似ていると見えた。外見が似ているだけで、関連はないと思うが。 ラビィがリュリュミアに説明してくれたところによれば、月にいる生物は月世界人を含め、外見、能力に違いがあれど、全てウサギが進化した種だという事だ。オーストラリアの有袋類みたいなものらしい。「月世界人はウサギ・サピエンスだ」とラビィ。 「このタクシー代はお前達が桃姫のお爺さんからもらった、猿の鉢巻き、犬の刀、雉の陣羽織の三宝で払ってもらうっちゃ」虎縞ビキニのむらさき姫が操縦するUFOが、月の一番大きなドーム都市に突撃する。「うちは前からそのお宝に眼をつけていたっちゃ。これはいいチャンスだっちゃ」 「もし、わたくし達がその三宝を渡さなかったらどういたしますの」 「それはお前らの良心に任せるっちゃ」マニフィカの問いに、むらさき姫はにやりと笑った。「さて、かぐや姫の城の中庭に突撃するっちゃよ」 「ドームに穴が開いたら、空気が全部、出てっちゃうんじゃないの!?」未来が不安げに小さく叫ぶ。 「このドームは丈夫だけど粘質の泡みたいなところもあるっちゃ。穴が開いてもすぐにふさがるっちゃよ」鬼姫の顔は自信満満だ。「可能性として獄門島にいた怪物が皆、待ち受けているかもしれないけど、桃姫を助けたいというのは皆の総意だっちゃね? さあ、突貫すっるちゃー!」 ええー、もうちょっと、心の準備をさせてほしい!と冒険者達は心の中で叫ぶ。だが、それはUFOのブレーキにはならない。 虎縞UFOがドームを突き抜け、かぐや姫の城の中庭に飛び込んだ。 ★★★ |