『姫! 姫!』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)

 オトギイズム王国のある地方。
 見た目がまろやかににじむ水彩画の様な、まこと東洋的昔話的田舎的な山奥の景色だった。
 ある日、山中の一軒家のお爺さんは山へしば刈りへ、お婆さんは川へ洗濯へと夫婦でそれぞれの日 仕事をやりに今日も出かけていったのだった。
 お日様の下、お婆さんが川で洗濯をしていると、川上からそれは一抱えもある大きな桃が どんぶらっこっこすっこっこ、どんぶらっこっこすっこっこと流れてきたので、お婆さんはたんと驚き、 それを拾い上げると自分の家へと持って帰ったのだった。
 夫婦揃った所で包丁を使って、大きな桃を割ってみる。
 すると、中には四歳ほどの桃色のドレスを着た金髪の女の子が入っていたのだ。
 だぶだぶのドレスを引きずった女の子は驚くお爺さんとお婆さんの前で見る見る内に大きくなり、 すぐにぴったりのドレスが似合う、大人の女性へ成長したのだった。
「助けてくれてありがとうございます。私は桃姫です」
 桃姫は老いた夫婦に優しい声でそう自己紹介をした。
「私は獄門島の真理王(まりお)の国から来ました。獄門島は北半分が雷鬼の国、 南半分が真理王の国になっている大きな島です。今まではそれぞれ半分ずつ平和に 統治されていたのですが、突然、雷鬼の国で代替わりしたばかりのむらさき姫が私達の住む 真理王の国を侵略してきました。魔界の怪物達を率いる雷鬼軍の前に平和を愛する真理王の国民達は 手も足も出ず、皆、雷鬼軍のリーダー『食羽(くっぱ)』の魔力でレンガのブロック等に姿を変えられて しまいました。食羽は巨大な亀と竜の姿をした火を噴く化け物です。食羽が私の城に攻め込んできた時、 私はいざという時の脱出装置だった魔法の桃の木の果実に乗り込んで、大きな桃の実として空へ 逃げました。空を飛ぶ桃の実はこの山の川上へと着地してそしてあなた方に拾われたのです」
 桃姫は老夫婦にそう訴えると、桃の実の中から銀色の『鉢巻』『陣羽織』『刀』を取り出した。
「お願いです! この魔法の道具をさしあげますから、私達の真理王の国を救って下さい!  城に居座る食羽を倒して下さい!」
 桃姫は三種の魔法の道具を説明した。
 『猿の鉢巻』。頭に巻くと軽業師の様に身軽で敏捷になる。意匠が見事な銀糸の織物。
 『雉(きじ)の陣羽織』。身につけると鳥の速さで空を飛べる。意匠が見事な銀糸の銀細工
 『犬の刀』。高周波を出し、斬りつけると鉄でも真っ二つに出来る。意匠が見事な銀刃。
「そんな事を言われても……わしらはただの年寄りじゃし……」
 桃姫の話をじっと聞いていたお爺さんは眼の前の困っている姫様にそう返すしかなかった。獄門島と いう島の 名前は知っていた。でも、それは老夫婦には一生、縁がないと思っていた場所だった。
「では、私達の国を救ってくれる勇者に出会う為の旅に同行してもらえないでしょうか?」
「……それくらいならまあ……。じゃあ、ふもとの町へ行って冒険者ギルドへでも相談するかの」
 困った時の冒険者ギルド。老夫婦はそういう言葉も知っていた。オトギイズム王国の標語の様な 言葉だ。
 明くる日、お爺さんは桃姫を連れてふもとの町へと旅立った。
 お婆さんが作ってくれた握り飯とおやつのきび団子を持って。

★★★
「獄門島は周囲を断崖絶壁に囲まれて、上陸するには南の入り江からしか出来ません。その入り江は 真理王の国にあります。だからまず、むらさき姫は真理王の国を手中に収める必要があったのです」
 山奥からふもとの町まで老人の足では二日はかかる。
 二人はおやつの時間に地蔵の横に座って、きび団子を食べながら、お爺さんが桃姫の話を聞いていた。
「真理王の国の地面はとてもふわふわしていて、普通よりも相当高くジャンプ出来ます。ジャンプして レンガのブロックを叩けば、ブロックは壊れて、魔力がとけて国の住民である茸人の元の姿に戻ります。 ブロックは時にクッパの魔力が結晶した金貨を吐き出す事もあります。勇者はその金貨を戦利品に出来る でしょう」
 桃姫は真理王の国を侵略している兵である怪物集団の自分が知る限りの説明もした。
 栗坊(くりぼう)。とことこ歩いてくる小さな怪物キノコ。
 鋸鋸(のこのこ)。小さな亀の怪物。倒した後、甲羅を投げると地面を滑って敵を倒せる。
 金槌兄弟(はんまーぶろす)。ハンマーを投げつけてくる亀の怪物。手ごわい。
「歯勲花(ぱっくんふらわー)は地面の土管から出てくる人食い花の怪物です。これは踏んで倒そうと すると噛みつかれます。ジャンプの着地点にいるかもしれませんから気をつける必要があります」 桃姫はそう語った。
 レンガやブロックの山の並ぶ平原をすぎると、ついで食羽のいる城内の探索になるだろうとも。
 そして二人は冒険者ギルドに冒険者派遣を依頼するなら報酬が必要だという話になった。
「考えてみたら、冒険者ギルドに頼むには報酬がいる。報酬以外に前払いの契約金が必要じゃが わしらは満足な金も持ってないぞ。……まさか、きび団子でOKしてくれるとは思えんし……」
「それならば」と桃姫の凛とした声。「この『鉢巻』『陣羽織』『刀』の三つの魔法道具を報酬に しましょう。それぞれが高価な物です。きっと、見合う報酬になるでしょう」
 桃姫の答はお爺さんを安心させた。
 だが、その時だ。
 二人の頭上に飛来したものはのどかな陽射しをピンポイントに翳らせた。
 雲の切れ間から速やかに空を降下してきたものは全身真っ赤で背に革の翼を持つ、人型の魔物だった。
「むらさき姫様の言った通り、桃の実が飛び去った方角を遠く偵察してきて正解だったぜ」 魔物はくちばしの様に突き出た口から人間の言葉を吐いた。「俺の名は赤有魔(レッドアリーマー)!  突然でぶしつけだが桃姫はさらっていく!」
 赤有魔は素早い動きで、驚きの悲鳴を挙げる桃姫に襲いかかり、脇に抱えると空高く舞い上がった。
「桃姫! お前がむらさき姫様に真理王の国を譲渡したという契約を交わす為に獄門島へ戻ってもらうぞ!」
「お爺さんっ! 何とぞ獄門島へ魔界の鬼退治の為の冒険者をっ! 勇者をっ!」
 魔物と姫は空高く舞い上がり、そして小さな影となって獄門島への方角へ飛び去って行った。
 それは冒険者ギルドのある町が途中にある方角でもあった。
 一人残されたお爺さんはあまりの事にしばし呆然としていたが、やがて風呂敷に包んで足元に 置いてあった三種の魔法道具を持って、姫がさらわれた方角へと出来る限りの早足で歩き始めた。

★★★
「という事があったんじゃ!」
 冒険者ギルドに辿りついたお爺さんは一階の受付ホールで自分が体験した出来事の全て、桃姫から 教わった全てを受付嬢トレーシ・ホワイトへ語った。
 冷静な受付嬢は老人の言葉を整理して、一枚の書類に羽ペンで書き込んでいる。
 ギルドの奥へ行っていた職員の男が、老人から預けられた風呂敷包みの中身の鑑定結果をトレーシ の元へ運んでくる。
「品物一つにつき『百万イズム』。マジックアイテムに間違いありません。占めて三百万イズム」 トレーシは鑑定結果緒を読み上げた。「これらを前払い金、及び報酬として依頼を登録して よろしいのですね?」
「……よろしくお願いしますのじゃ」
「依頼は受理、登録されました。なお、報酬は基本的には参加冒険者が三人以下の時には現品で、 そうでなければ換金して頭割りされます。ただし冒険者が話し合ったりして現品のまま、特定の人間に 譲ったりする場合はその決定が優先されます。何がほしいかは事前に話し合っておいて下さい。 またこの『鉢巻』『陣羽織』『刀』を任務中に使いたい場合、ギルドから無償で貸し出されます。 これも誰がどれを使うか話し合っておいて下さい」
 大勢の冒険者でごった返す受付ホールで老人と受付嬢は皆の視線を浴びていた。
 老人が受付嬢に語った話を聞き逃した者はない。
 やがて依頼書は他の冒険依頼と並ぶ大掲示板に貼り出される事になる。
「獄門島へ行く船は我がギルドで用意します。これはサービスです」
 受付嬢の言葉に老人は東洋式に頭を下げて礼をした。
 受付ホールの冒険者達の会話のボリュームがいきなり大きくなる。それらは無関係を装う様でいて、 さりげなく身内でこの依頼に参加するかどうかを話し合っているのだった。
 老人が休憩所であるギルド二階の酒場へ向かった時、階段付近で一人の冒険者とすれ違った。 耳がかぶるほど頭に大きくターバンを巻き、地味な色のマントで全身を覆ったその男はとりあえずの 仲間はいない様であったが、
懐から取り出した水晶玉と会話をしていた。
「はい……やはり冒険者とやらが獄門島へ向かう様です。はい……解りました、私も 冒険に参加します」
 水晶玉は濃い灰色に煙った内部に『SOUND ONLY』の文字が明滅している。その声はターバンの男 にしか聞こえない音量だったが、男自身の声は普通に大きく、傍にいた冒険者達に明瞭に聞こえた。
「はい、仰せの通りに。……姫様、失礼いたします」
 男はそう言って、水晶玉をマントの内にしまった。
 冒険者ギルドの玄関から外の通りへ出て行く。
「まったく耳が痛いぜ」
 出る間際の男の独り言は大きく、傍にいた者には聴くともなしにはっきりとその言葉が届いた。

【アクション案内】

z1.老人の依頼を受け、獄門島で桃姫を助ける。
z2.老人の依頼を受け、獄門島を調べる。
z3.老人の依頼を受け、ターバンの男をさぐる。
z4.その他

【マスターより】

 次回は真理王の国攻略までを扱う予定です。
 次回の元ネタはアレです。アレですね。
 途中のレンガを壊して見つける金貨の数は、各PCごとに1D100した(百面ダイスを転がした) 数値にアクション内容や設定を加味して決定します。金貨を回収する事だけにこだわれば大きな収入を 得やすいですが、その分、冒険の他の行動はおろそかになるので注意して下さい。金貨一枚は一万イズム です。