『呪われた壺』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全2回)

★★★
 カニの甲羅の様な鎧に身を包んだ戦士や、ボディラインにピッチりと張りついた紫の全身タイツの女魔法使い達といった大勢が午後のホールをたむろする。
 冒険者ギルドの依頼掲示板のある一階ホールに、黒を基調とした身なりのよい男が現れた。
 そのエスニカンな正装は、様様に雑多なムードを醸し出している冒険者達の中でも目立っていた。普通の場ならば、彼の様な服装をした者が社会の上位者として華となるのだろうが、ここは違う。立派な身なりをした彼はまるで子供のおもちゃ箱の中に迷い込んだ、一枚の名画の様だ。
 絹のターバンに全ての髪を収めている。
 細い髭が鼻の下を飾っていた。
 彼はモハメッドと名乗った。執事だという事だ。
「エバドフ様からの願いを依頼しに参りました」
 モハメッドは、自分の主人だという、この町で有名な大商人の名を出した。
 エバドフとは植物油の商いによって、一代で財を成した男だ。
 エスニカンなムードで、この町に彼の屋敷は建っている。
 モハメッドの言う事によると、エバドフは最近、ある流れの商人から見事な壺を買い上げたという。
 人の顔の様な表情が表面に浮きだし、それが左眼だけを開けている風に見える。不気味で怪奇なデザインだが、真に芸術的な感性に訴えかける物だ。
 それが問題だった。
 実はこの壺を手にしたのはエバドフが最初ではない。
 過去に四回ほど、この高額な壺を買い上げた商人達がいた。
 しかし、その者達は皆、屋敷から火事を出してしまった。見事なまでの全焼をしてしまったのだ。
 それだけではない。屋敷にいた人間はその主も含め、行方不明となってしまった。現場からすれば、焼け死んだとみるのが普通だろう。しかし、死体すら残っていないのだ。
 その度、壺は行方不明となった。他の家財と一緒に焼失したのだと最初は思われた。
 だが、世間の大商人は、消えたはずの壺を何処からかまた買い上げるのだ。
 そして、またその者の屋敷は全焼し、それは行方不明となる。
 それを四回ほど繰り返し、無名のとあるデザイナーが作ったというその壺はいつしか『呪われた壺』と呼ばれる様になった。
 呪われていると解っていてもそのデザインの見事さは、買う者を躊躇させないほどだという。
 その壺をエバドフが買い上げた。
 今度は彼は五番目になるのか。
 それを防ぐ為にモハメッドは主人の命を受け、この冒険者ギルドに現れたのだ。
「噂によると、呪われた壺を買い上げた者は、その日から三日目以内に火事を出すらしいのです」
 依頼の受付嬢に、印刷ギルドで制作しただろう持参したエッチングによる白黒の写実画を見せながら、モハメッドは冒険依頼書に事項を書き込んでいく。大きさの対比として、絵には壺の傍らに立つ簡素な人型のシルエットも描かれている。それからすると、壺は人間一人がしゃがめば、すっぽりと中に隠れられそうな大きさだ。口も広い。勿論、買った時に人など入ってないかは確かめてあるという。
「既に一日過ぎましたが何も起こっていません。この依頼を受ける冒険者には残る二日をこの壺を納めてある宝物庫の至近で見張っていただきます」モハメッドは記入済みの書類を受付嬢に渡す。「実はエバドフ様にはそんないわくのある品など手放してほしいのですが、主人はすっかり壺に魅了された様で……こんな見事な芸術品は手放したくない。火事は単なる偶然だ、と。……それでも壺を見張ってほしいという私の申し出には耳を貸していただけました。この依頼を受ける冒険者には今夜と明日の二日、壺を見張っていただきます。もし、何もなければそれでよし。火の魔物でも現れるなら退治してくれ、という事で」
 モハメッドは帰り、彼からの依頼書は受付ホールの大掲示板に貼り出された。
「エバドフ邸の『呪いの壺』を二日見張る事。報酬、一人頭、十万イズム」
 その依頼の事は、この冒険者ギルドを数多ざわめかせる冒険者達の噂話となった。
 何とも得体のしれない依頼だ。
 その壺が火事を起こすなら、見張る者達も死の災いに巻き込まれるのではないか。
 陽が傾いた冒険者ギルドでこの依頼を巡る思惑が、風に吹かれた静かな海の様に波打っていた。
★★★

【アクション案内】

z1.エバドフの館で『呪いの壺』を見張る。
z2.壺について調べ、情報を集める(調べる内容を具体的に)
z3.その他。

【マスターより】


壺といえばハクション大魔王を思い出すこの頃、皆様はいかがおすごしでしょうか。
今回はPC達には壺を見張っていただきます。
はたして何かが起こるのか、それとも何も起こらないのか、それは解りません。
まあ、ずーっと壺を見張っているだけというのも何何ですから、自分からイベントを起こしてもいいかもしれませんね。
では、はてさて何が起こるかはお楽しみ。
皆様によき冒険があります様に。