『海底大戦争』

ゲームマスター:田中ざくれろ

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)

★★★。
 剣と魔法の世界『オトギイズム王国』。
 半年前に航海で船から荒れ狂う嵐の海に落ちた第二王子バラサカセル・トンデモハット王子の消息は、今日も知れないまま、十八歳の誕生日を迎えた。
 父に似て美形という評判なのだが、その明るくもナルシストな笑顔はもう見られないのだろうか。
 無事ならば今日は豪華な誕生パーティのはずで、この光景は王家の権勢の衰退と行く末の不安を示している様であった。

★★★
 海辺。寄せては返す、青い波と白い波頭。
 潮風。ありふれた海岸。直上の太陽にあぶられる、白い砂浜。黒い岩。
 流木。椰子の実。船の一部だろう大きな木片。死んだ海草。貝殻。泡と共に様々な物が流れ着く浜辺に、今日は付近の漁民達も見慣れぬものが流れ着いていた。
 全身を濡らした、仰向けの白い肌の若い女性。年は十八位か。
 浜辺に水死体が流れ着くのは決して珍しくはない。海辺の民にはそれら水死体を含めた漂着物を神仏の如く信奉する習慣がある位だ。海と死は身近なのだ。
 だが、砂浜のその美女は水死体ではなかった。
「おい! 生きてっぞ!」
 網を引きに来た漁師達は驚きながら叫んだ。
 海の匂いが染みついた肌。前髪にピンクのメッシュを入れた、深海の様なディープブルーの長髪が全裸にまとわりついている。息をする度に動く、珊瑚色の唇。
「それにしてもでっけえ胸だな」
 仰向けになった彼女の胸は柔らかい餅の様で、血色よく薄桜色に染まるそれはまさしく美乳であり巨乳。
「まさか、噂に聞く人魚べか?」
「人魚のわけねえべ。人魚っていうのは乳はすっきりしてるもんだ。水の流れに逆らわぬ様にな。それに何より、この娘っこには脚があるで」
「んだ。人魚っていうのは脚が魚になっているもんだ」
 漁師達は眼を醒まさない娘を囲んで、口口に思うままの言葉を交し合った。
 海草のからむ、まっすぐのばされた白く長い脚。
 ふと、赤い唇が大きな息を吐いた。
 長いまつ毛の下に伏せられていた、美しい青色の眼が開く。
「お、眼を開けたべ」
「おい、大丈夫だべか」
「おめえ、どっから来ただ?」
「ここが何処か解るか? 船から落ちたべか?」
「痛い所はねえべか?」
「寒くねえべ?」
「名前は何ていう?」
 矢継ぎ早に質問を繰り出す親切な漁師達。
 だが全裸の彼女は自分を取り囲む男達に対し、まず驚き、怯えた表情を見せた。口元にマリンテイストのネイルアートを入れた手を寄せ、足をそろえて倒れたままで後ずさりながら大きな悲鳴を挙げる表情を作る。
「…………………………ッ!」
 しかし悲鳴はその口から出てこなかった。それには自分でも驚いた風で戸惑いながら何か言葉を出そうとするが、口は激しく動きながら何の音も出てこない。
「お前、喋れねえべか?」
「立てねえのか? 腰を抜かせているべか?」
「まさか、記憶そーしつとかいう奴じゃねえべな」
 焦りの体を見せる彼女は海へと逃げようとする。しかし、彼女と海の間にも漁師達がいる。脚をぎこちなく動かして立ち上がろうとするが如何にも不器用でそれが出来ず、転ぶまでにも至らず、立てない。
「…………………………ッ!? …………………………ッ!?」
 彼女は必死な様子で漁師達を見回しながら、無言の叫びで祈る様に何かを訴える。
「どうするべ、こいつ? 怪我はしてねえみてえだけど」
「とりあえず、網元の屋敷に連れてくべ」
「上着を羽織らせるべ」
 一番年長の漁師の言葉で、彼女はこの浜辺の村で一番権力がある漁師の屋敷へ連れていかれる事に決まった。
 浜辺に漂着した言葉の喋れない謎の全裸美女の話は、数日の内に漁師達の間からやがて近隣の町まで、奇妙な噂として広く速やかに伝わっていった。

★★★
 雑踏。カモメ。埠頭に繋がれた様様な船。
 彼は海辺の町『ポーツオーク』では珍しい客人だった。
 生乾きの肌に海の香り。武具ギルドが入っている建物の玄関から訪ねてきたその緑色の男は、通された応接間でメイドに出されたコップ一杯のお冷やを、飲まずにいきなり自分の頭にぶちまけた。
「いやぁ〜、やっぱ久しぶりの真水はいいカッパな〜。生き返るッパ〜」
 頭に皿。手足に水掻き。体毛のない滑らかな緑色の肌で甲羅を背負っている。
 河童だ。
 自分の名は『ヒョース』だと河童は自己紹介した。
「一週間後に質のいい三叉槍を一万本そろえてほしいッパ。買い主は海の蜘蛛魔女『アルケルナ』様。海のデザイナーだッパ」
 武具ギルドの人間にそう言いながら売買契約を求める書類を取り出す。
 三叉槍とはトライデントとも呼ばれる穂先が三つに分かれた槍だ。漁師が突き漁で使っている銛(もり)を戦闘武具とした物である。
「これが前金だカッパ」ヒョースは持参したバッグからテーブルに中身を出した。幾枚かの金貨に黄金の粒。高級珊瑚。美しい貝殻。真珠等の小さな宝石。ちょっとしたお宝だ。「一週間後に俺はまたここに来て、武器を積荷として何処へ船を出すかを教えるッパ。船を止めた所でまとめた三叉槍を荷物として沈める。そうすれば残りの金を払うッパ」
 ギルドの人間が宝物を調べる。鑑定の技量があるのだろう。それらをざっと調べるとギルド長にうなずいた。
「取引成立だカッパな」
 ギルドとヒョースは売買の契約書類を作り、ギルド長はその書面にサインをし、ヒョースはアルケルナから預かってきたという判子を押した。鮮やかな朱印だ。
 ギルド長は早速、一万本もの三叉槍を手配するよう、部下に命じた。
 ヒョースはまた真水をメイドに注文し、再び運ばれてきたそれを半分は飲み、残りを頭の皿にまたあける。
「これで竜宮城の奴等も驚くッパ……おっと」河童は不味そうな表情をする。「いや、まあ、別に何でもないッパ」
 ポーツオークの住民の話によれば、武具ギルドから出てきた河童は港まで歩くと波打つ海にとびこんで見えなくなったそうである。
 武具ギルド長は彼を見送った後「何か裏がありそうだな」と副長にこぼした。「冒険者ギルドに連絡をとれ。もし、何か海に関する不穏な噂があれば、知らせる様にと」
「あいつ、竜宮城って言ってましたね」ドワーフ製の眼鏡をかけた副長が契約書類を睨みながら唸る。「まさか、竜宮城? 伝説の……ですか」
「まあ、ないとも言い切れん。まさかがあるのがオトギイズム王国だ。……これだけ前金があれば如何にも鋭く貫けそうなデザインの三叉槍が集められるな。近辺の町中の三叉槍を買い占めろ。鍛冶ギルドにも連絡を取れ」

★★★
 パイプ煙草の煙や鎧擦れの音。
 冒険者というものを『出世払いの何でも屋』と例える者もいる。
 ポーツオークの冒険者ギルドは一階が広い受付で、めぼしそうな冒険や依頼を探す冒険者達と彼らに依頼を引き受けてもらいたい一般人達がたむろする。更に何かしらかの思惑を秘める後ろめたい者も混じり、流れのアイテム売りや題材を探す吟遊詩人もいて、ちょっとした混沌。
 二階以上は事務室の他に居酒屋や宿屋を兼業し、地下に降りればお上品とは言い難い踊り娘がいる不健全な酒場や宿屋がある。この構造はポーツオークに限らず、どの町の冒険者ギルドも大概同じだ。
 一階受付に一人の老人が訪れたのは午後の事だった。
「荒事の冒険を依頼したい!」
 老人はカウンターの受付嬢に叫んだ。その声の大きさはギルド一階の者達全員を振り向かせる。
「冒険の依頼は所定の用紙にご記入して提出して下さい」と言う受付嬢の声を、白髪白髭の老人は「俺は記憶喪失だ! 文字など忘れた!」と遮る。
 地球の中世に似たオトギイズム王国にも学校はあれど庶民の識字率は決して高くない。字が書けない者が冒険の依頼に来る事は珍しくはなく、受付嬢は老人の声を聞き取りながらの用紙に代筆する準備をする。
「竜宮城に攻め入って、ファッキン乙姫を倒す! ってゆーか捕まえる! ってゆーか謝らせる! ってゆーか俺の女にする! 俺を元に戻させる!」漁師風の着物を着た老人は叫んだ。
 流暢な筆記体を書き連ねていた受付嬢の羽ペンを持つ手が、つ、と止まる。「竜宮城ですか? ……あの伝説の?」
「そうだ、ファッキン竜宮城だ! 俺の名前は『謎の老人U・T』! 海の底の竜宮城での乙姫達の鯛や平目の舞踊りという豪華な歓待を受けた! 一日で酒宴にも飽きたのでそろそろ村へ帰りたいと言うと、乙姫はお土産の玉手箱を俺に持たせて地上まで届けてくれた! しかし、どういう事だ!? 地上では半年もの月日が流れ去っていた。しかも俺は一体、何処に帰ればいいのか、さっぱり解らない! 絶望に暮れた俺は乙姫が『決して開けてはいけない』という玉手箱を開けた! すると中から白い煙が出てきて俺をこんな老人に変えてしまった! 俺はまだ若いというのに!」
 老人の言葉を整理して依頼書に要綱を書き込む受付嬢。
 冒険者ギルド受付は既に老人を囲む人垣が出来ている。
「これが依頼の前金だ!」謎の老人U・Tは豪奢で綺麗な和風の手箱をカウンターに置いた。「ファッキン乙姫が俺に渡したファッキン玉手箱だ! ちなみに中身はもう空っぽだから老人になる心配はない! こいつを売りとばせば相当の金になるだろう!」
 確かにその玉手箱という物自体は相当な価値になるだろうと、美術品の知識がない観衆にもすぐ解った。
「ギルドへの依頼登録料を含めた前金がその玉手箱だというのは了解しました」羊皮紙の書類に書き込みながら受付嬢は冷静に答え、そして質問する。「で、冒険者に払う成功報酬は?」
「竜宮城の財宝を山分けだぁっ!」U・Tはシャウトした。「それから海の底の竜宮城まで攻め込む方法を絶賛募集中だぁっ!」
★★★

【アクション案内】

z1.海辺の村に流れ着いた美女に関わる。
z2.海について情報を集める。
z3.ヒョースが注文した三叉槍に関わる。
z4.冒険の依頼を受け、謎の老人U・Tに協力する。
z5.その他

【マスターより】

海……魚、カモメ、ヒトデ、ダイオウイカ、深海魚、クジラ、イルカ、ズゴック……。
いやー、海っていいですね。
広いし、大きいし、月はのぼるし、陽は沈むし、生命の源だし。
大型動物と人間の対比図鑑でユウレイクラゲのページを見て「実際に海でこんなもんに出会ったら、怖すぎてショック死するな」と思ったのもいい思い出です(そうか?)。
と、いうわけで(どういうわけで?)今度のシナリオはマリン・アドベンチャーです。
同名のビデオゲームがありましたが、あれとは特に関係ありません。
泳げる人も、カナヅチの人もいらっしゃい。
夏も近いし、自分のPCの水着姿を想像するチャンスですよ。
果たして、人魚は巨乳か? 貧乳か?
では、多くの人のご参加をお待ちしています。
皆様に次回もよき冒険があります様に。