『出没! 私立らりほう学園!!』

第3回

ゲームマスター:田中ざくれろ

★★★
 紺碧に黄金の点灯。
 重圧。ここは紺碧の波間に差し込む光も届かない暗い海の底。
 だが『竜宮城』とその周辺はきらびやかに明るい。それは竜宮城自体の雅な発光であり、海底に這う発光性の貝やウミウシ類、漂う魚やクラゲのネオン灯の様な様様な色のイルミネーションによるものだ。
 『時の結界』を張る竜宮城の遥か頭上に、海面を越えて全長三千mの超弩級硬式飛行船『スカイホエール』は空中に浮遊滞在している。
 それは頭上にいつか落ちてくるのではないか。
 杞憂を抱く深海の民もいるかもしれないが、少なくとも今、海底の竜宮城を『しゃぼん玉海中仕様』で訪れているリュリュミア(PC0015)はそんな事を微塵にも考えずマイペースでい続けている。
「アンモナイト?」
「ええ。らりほー学園はそれが足りなくてぇ、とっても困ってる様なのぉ。アルケルナの力で作ってもらえると嬉しいんですけどぉ」
「……アンモナイトねぇ」海のデザイナーである、海蜘蛛の魔女『アルケルナ・ボーグスン』が焜炉の上で大鍋をかき混ぜる作業を止めて考え込む。「アンモナイトなら獲ってくればいいのだろうけど……どれだけの数が要るの。というか大量のアンモナイトが必要だなんて一体どんな状況なの」
「アンモナイトは大量の電気がないと作れないと言ってたのぉ。で、そこまで電気を食うと学園が困ると言ってぇ、原料もないし、学園は困ってるみたいなのぉ。それがないと完全に修理出来ないから、ここから離れて飛んでいけないってぇ、大徳寺艦長が言うしぃ。……そうそう、これがアンモナイトぉ」
 宙空の『スカイホエール』からヘリコプターで海上まで移動し、そこからしゃぼん玉に乗り換えて、深海の竜宮城を訪れたリュリュミアは、時の結界を研究しているアルケルナを訪れ、スカイホエールの修理に必要な資材を調達出来ないかと話を持ち掛けていた。
 最初はいつも通り「その願いに対する代償がいるわね」などと言っていたアルケルナも「アンモナイトが必要」という意味不明なシチュエーションにすっかりペースを狂わされていた。
 そして、リュリュミアがポーチから取り出した物がますます彼女のペースを乱す。
 それは生物のアンモナイトに非ず。鉄の缶詰を縦に長く引き伸ばした様な銀色の筒にカラフルでポップな文字が躍る、空っぽの缶だったのだから。
「……こんな物がアンモナイトなの。どれ、貸してみて。……缶詰にしては随分と軽くて薄いわね。薄いからだとしても軽すぎるわね。これは鉄じゃない。真鍮よりも軽そうね。こんな金属細工は見た事がないわ」
「それはアンモナイトじゃなくてアルミニウムじゃないッパか」
 傍で見守っていた河童の『ヒョース』が口を挟んだ。アルケルナの召使である彼は主人の手からそのアルミ缶を受け取る。
「やっぱりアルミニウムだッパね」ヒョースが断言した。さぞ軽そうにアルミ缶を宙に放ると、同じくアルケルナの傍で控えていたタコ男の『ギガポルポ』が六本ある手の一つで受け止める。
「原料のボーキサイトという岩石から水酸化ナトリウムを加えてアルミナを作り、更にそこから氷晶石と共に溶蝕して電気分解を行って製造する金属だッパね。軽くて展性に富む。熱力学的に酸化されやすい金属だッパが、空気中では表面に出来た酸化皮膜により内部が保護される為、高い耐食性を持つッパ。単体は常温常圧では良好な熱伝導性、電気伝導性を持つッパ。資材としては非常に優れた金属ッパ」またまた何処から仕入れたのか解らない知識を披露するヒョース。
「そう、そのアンモニウム」リュリュミアはまだ少し勘違いしている。
「原料のボーキサイトはともかく、アルミニウムを製錬するのには大量の電気が必要だッパ。残念だが『オトギイズム王国』でそれだけの発電を行えるシステムはないと思われるッパ」
「そう。だからアルケルナに大量調達を頼もうと思ってぇ」
「どれくらい必要なの」とアルケルナが意地悪そうにリュリュミアに尋ねる。「初めて見る物で作った事はないが、やれば出来るかもしれないわ。何にせよ、願いを叶えるならば代償を頂くわよ。あなたが代償を払うの? それともその飛行船とやらの学園に住む学生達の……」
「ちょっと待つッパ」ヒョースが再び口を挟んだ。「学園生徒の総数は五万人って言ってたッパね。この表面の文字やイラストはこれが商品である証しッパね。もしかしたらこれは大量生産品で、学園とやらではこれが気軽に売り買い出来る流通市場があるッパ?」
「フツーにじどーはんばいきで売られてて、皆、これに入ったジュースやビールを飲んでるみたいよぉ。最近はこれの缶コーヒーもあるって言ってたわぁ」
「大量に出回ってるッパね?」
「そうみたいねぇ」
「なら、アルミ材を手に入れたいのならば、その大量のアルミ缶を溶かして再利用した方が手っ取りばやいッパ。
必要な電力はボーキサイトから作った場合の三%くらいですむはずだッパ。アルミはリサイクルの優等生だッパ」
「ええぇ、それだけでいいのぉ」リュリュミアは驚いた。「電気はある程度、飛行船のたいよーでんちとか発電出来ると言ってたからぁ……。でも普通に使ってる物を突然取り上げたら、皆は不便になったって怒らないかしらぁ」
「便利を取るか、ここから移動出来る自由を取るか、二者択一だッパ」言い切った後、横眼でアルケルナが睨んでいるのに気づいたヒョースが委縮する。彼の口上とリュリュミアへの親切は、主人の仕事を取ってしまった事になる。
「オク生徒会長に全てのアンモニウムの缶を回収して、溶かして資材に回せないかかけあってみるわぁ。ありがとう、ヒョースさん。これで何とかなりそうだわぁ」
 それからすぐリュリュミアは、海上に待つヘリコプターへ戻る為にしゃぼん玉に乗って帰途に着いた。

★★★
「というわけでアンモニウムは何とかなりそうなの」
 『羅李朋学園』へ戻ったリュリュミアは『亜里音オク生徒会長』とマザーAI『学天即』にヒョースに解説された事を話した。
 生徒会長であるボーカロイドのオクの本体であるメインサーバーが、コンサート会場である多目的ホールの中央ステージに搬入されている。その周囲にはコンサート設備の準備やオクのボディガードである生徒達でごった返していた。
 実銃所持が許可されている、学生警察、アイドル研、アニ漫研、コンピュータ研が大人数でステージの中央で『グスキキ』が今にも襲撃せんとする事態に備えて、ステージを背に警備している。尤もこの大人数もコンサートが始まれば、超大人数の観客の中のほんの少人数となってしまうのだが。
 極度の涼しさに震えながらリュリュミアは、巨大クーラーが連結して冷やされているサーバーの傍にある、PC画面に映っているオクを前にして、ヒョースに解説された事をかいつまんで、というか記憶に残っている事を断片的に話した。
 幸い、それはオクと学天即には理解された様だ。
「今、学生総選挙にかけてみるわ」
 オクがそう言い、学天即に「資材にする為、学園内の全アルミ缶回収と一般生徒のその使用不許可案」の是非を即刻、学園総選挙にかけるように命令した。
 例のチャイムのメロディーが周囲の学生達から一斉に鳴り響き、皆がスマホの画面を見やる。それは警備の者もステージ設置の大道具の者もその他の色色な雑務の者も一斉だった。
 学生総選挙が開始された。
 三十分の猶予時間の後、学生達の投票によって案件の是認が決定されるのだ。
「前から思っているのですが」マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)はスマホを見ながら情報や議論の検索を始めたり、直接集まって議論を始めるスタッフを眺める。「三十分という時間は重大案件を扱うには短すぎるのではないでしょうか」
「人はそれぞれ重要と思える事象には議論や情報収集、自分のスタンス表明は常日頃から気にかけておくべきなのよ♪」
「直接民主主義を成功させるには人民が賢くあるべきなのです」
 オクと学天即がマニフィカの疑問にそれぞれ即答した。即答すぎてつっけんどんな印象さえある。
 つまり三十分の選挙期間以外でも、皆は考えておくべき事は常に考えておけ、という事らしい。
 アルミ缶禁止による飲料品の値上げは予想出来る範疇だが……。ベーシックインカム停止の懸念がある現状では厳しいかもしれない。
「ところでわたくしの提案は認可していただけのでしょうか」
「捕らえた『アル・ハサン』を処刑せずに、拘束してスカイホエールから強制退去させる案ね。……うーん」
 ヴァーチャルCGのオク生徒会長が、先立って提出されていたアンナ・ラクシミリア(PC0046)の提案に対して困り眉を見せた。
「強制退去させるというのは現在では、オトギイズム王国に解き放つ、という事なのよね」
「勿論、被告人の残虐な所業は解っています。アル・ハサンの神や宗教を盾に自分の思うまま、人の命を何とも思わない行動は許せません。だからと言って殺してしまえ、では相手と同じレベルになってしまいます。あくまで拘束して、スカイホエールからの強制退去を目指すのです」
「……うーん☆」
「オトギイズム王国で生活すれば、少しは考えも変わると思うのですが」十六歳の少女の真摯な思いを前に、生徒会長は困り続ける。
「もし考えが変わらなかったら? 彼が人を殺し続けたり、思想を広めてオトギイズム王国でも大テロリストになるとしたら?」
「……それは……」
「人の命を救うという善行は、その人とそれに関わる人達の人生の責任を取り続けるって事でもあるのよ」
 そう言われたアンナは胸元で両手をぎゅっと握りしめた。
「それでもオトギイズム王国の人人の優しさに触れるならば、きっとどうにかなります」
「……一応、オトギイズムのパッカード国王にはその提案を親書として送っとくけど、期待はしないでね☆ じゃあ、選挙終了後に」
「あの、提案は他にもあるのですが!」
 アンナはその言葉を残して消えようとするオクの画像を呼び止めた。
「アル・ハサンをおびき出す為にハード本体を囮にする事をやめて下さい! 本体を破壊される危険性は勿論、グスキキを挑発する事で間違いなく戦闘となり、大勢の生徒達を巻き込むのが眼に見えているので!」
 アンナは考えられるグスキキの襲撃手段として、次の三つの予測を挙げた。
 1:火器による正面からの攻撃。
「観客席を背に四方から攻撃されたら反撃もままならずハチの巣にされてしまいます」
 2:地下下水網を利用したステージ直下からの爆破。
「地下下水網はグスキキのテリトリーですわ。しかも相手は自爆も辞さないでしょう」
 3:屋上プールの底を抜いての水攻め。
「コンピュータに水は禁物のはず。観客にも多数の被害が出ます」
 オク生徒会長と学天即を説得すべく、アンナは強い口調で念を押す。
「この辺りを重点的に対策すればいいかと思います。例えば観客側にも私服の警備メンバーを配置するとか、
下水網にはプールの水を流してみるとか、スーパーコンピュータの冷却に液体窒素を使っていたら、いざという時には水を凍らせるのに使うとか」
「地下下水網に屋上プールの水……流し込む事は可能かな」
「可能ですが、一度に落水させるのは導水配管に負荷がかかりすぎます。ゆっくり抜いていくしかありません。それに地下下水網に居ついている学生達を増水の巻き添えにするかもしれません。お勧めいたしかねます」
 同じPCでオクと学天即の声がアンナ案を検討しているのを見て、マニフィカも自案を提出する。
「この会場となる多目的ホールの屋上にある巨大なプールに着目にするのは鋭いと思われますわ。精密な電子機器は水に濡れると弱いはず。何らかの手段で天井を貫き、その膨大な水量でメインサーバーを襲撃させる戦略は十分考えられます」ノブレス・オブリージュ。そして、義を見てせざるは勇無きなり。愛用の『故事ことわざ辞典』を紐解くまでもなく、大コンサートにおける亜里音オク女史の護衛チームに志願したマニフィカの凛とした表情。「三人寄れば文殊の知恵ですわ。関係者を集めて護衛プランを見直し、見過ごしていた死角や問題点を徹底的に洗い出しましょう」
 マニフィカはコンサートの護衛を集めて会議する事を申し出た。とりあえず、この場で言える対応策として、プールの水が爆破され一度に落水した緊急時には自分が『水術』で一時的に水の流失を食い止め、穴の直径が一m以下なら『水氷魔術』で氷結する事を発言する。「この時間稼ぎしている間にメインサーバー本体の移動は可能でしょうか。ハード面が無理なら、例えばデータを丸ごと他のサーバーに避難させる事は」
「非常に合理的ね。でも私は退かないわ。リーダーってのはいざという時は身体を張らなければいけない時もあるのよ♪ 生徒会長として、トップアイドルとして、カリスマを魅せつける為に。ああ、この人ならやってくれる、ついていけるって皆に思わせる為のコンサートでもあるの。自我のあるAIとして命をかけて」
「その感覚は非常に不合理的です」非常に熱い感情のこもったオクに対して、学天即の冷淡な機械音声。「万が一に対してのリスクが大きすぎます」
「あなたは黙ってて、学天即」
「しかし、あなたは私の……」
「黙ってて」
 学天即は黙った。
「サーバーっていうのはオクさんのおうちみたいな物なんでしょぉ」リュリュミアはぽやぽや〜とPC画面のオクを覗き込む。「グスキキが邪魔しに来たら、わたしも『ブルーローズ』でバリケードを作ってオクさんのおうちを守りますぅ」
「直接的に危険への対処の為にリュリュミアのバリケードだけではなく、わたくしも『サンバリー』を貸し出しますわ」マニフィカが取り出した機械的な小さな金属球。それは太陽エネルギーによって全体的なバリヤーが物理的、魔法的な攻撃を跳ね返すアイテムだ。「これなら何でも跳ね返しますわ」
「何年も前から亜里音オクのサーバーは、平均的に一日に約四十一回のクラックアタックを受けています」学天即がまた口を挟む。「ただし、コンピュータ研によるファイヤーウォールに跳ね返され、何の影響を受けていません。この上で物理的に強固な防御手段が手に入るのは非常に有効的で好ましいです」
「ね☆ 心配する事はないって♪」。
 マニフィカはオク生徒会長の自己犠牲を恐れないところが、如何にも人工知性らしい冷徹な思考に感じられた。
 しかし、なんとなく違和感も覚えてしまう。
 あまりにも解りやすい状況。
 まるで全てが計算尽くであるかの様な印象。
 もしや誰かに誘導されているのか。仮にそうなら何の為に。
 一方、アンナの懸念は別の方向性を持っていた。
 亜里音オクと学天即のどちらか一方、もしくは両方ともが完全なAIではなく人が演じているのではないかと疑っているのだ。直接民主主義を謳いながら、誰か、個人の意思が介在しているのではないだろうかと。
 その時、周囲の人間が持っているスマホや、コンサートホールのスピーカーからおなじみのメロディが聴こえてきた。
 学園総選挙投票受付の締め切り時間が来たのだ。
「アルミ缶回収は賛成:五十%、反対:四十八%、無投票:二%。可決ね」オクがまるで空暗記している様に投票結果を読み上げた。「学天即、学園内のアルミ缶全回収の為のタスクを組んで、実行に移して。それからアルミの代替容器の調達と流通を」
「了解しました。飲料缶以外の不要なアルミニウムの家庭ゴミの無料回収も実行します。よろしいですか」
「OK♪」
「了解しました」
 僅差でアルミ缶全回収が可決された。
 こうして羅李朋学園からアルミ缶が一切姿を消し、少し値段が上がったペットボトルのみの飲料が出回る様になった。とにもかくにもスカイホエールの損傷が完全修理され、航行の自由が復活する目途がようやくたったのだった。
 そんな中、ボーカロイドアイドル、亜里音オクの大コンサートの準備が進められていく。
 コンサート。
 グスキキとの決戦。
 アル・ハサンは必ず攻めてくるだろう。
 しかし何処からかは推測に任せるしかない。

★★★
 何処へ行っても人がわんさかついてくる。
 飛行船内にまさしく摩天楼の如くそびえたつ文化部棟は、様様なポップの飾られた無数の窓の羅列でもあった。巨大な壁。そのカーブは遠眼で見れば有機的でもある。
 その門前の広場。
 茶色の肌の子供として目立つ福の神見習いは時折、瞬間移動してみせる事もあり、珍しもの好きの羅李朋学園学生達の集目の的としてぞろぞろと人を引き連れていた。
 先日、偶像崇拝禁止教団の指導者アル・ハサンを逮捕すべく下水網の探索隊に加わったビリー・クェンデス(PC0096)は、壮絶な銃撃戦の果てに自爆した狂信者達に涙していた。
 神様見習いである彼にとって、そうした異常な信仰は余りにもショッキングだった。
 そもそも宗教とは、掲げる理想に人人を導くモノでは?
 理想を実現する為の尊い犠牲?
「アホかい! 死んでもうたら花実は咲かんやろ。こんなん信仰ちゃうで」
 ビリーは皆に聞こえない所でそう叫んでいた。名も知らぬ彼らの死を嘆き悲しみ、その行為に憤慨する事が、せめてもの供養だと思った。
 正直なところ、ビリーは無力な自分が歯痒かった。
 それでも痩せ我慢して笑顔を保つ。
 笑う門には福来る。
「ええい! もう救済の大盤振る舞いや! 商売繁盛、笹持ってこーい!」
 取り出した『打ち出の小槌F&D専用』を振るいまくったビリーは、ブドウ糖の塊、大きなラムネ菓子を周囲の学生達に土砂降りの如く降らせまくった。何故ラムネ菓子か? 特に意味はない。ただひたすら甘い物を食べれば皆が笑顔になると思ったのだ。
 野次馬の学生達が降ってきた菓子の雨を奪い合う様に拾いまくりしているのを尻目に、ビリーは瞬間移動で文化部棟の玄関へ跳び、大きなガラスドアのスライドと同時に中へ侵入した。
 すると、広いエントランスにはよく知る先客がいた。
 羅李朋学園制服の超能力JK。
 実は姫柳未来(PC0023)は学生達にはノーマークである。
 学園の制服を着ているし、外見的には結構よくいる美少女ギャルJKで、飛行船への搭乗は皆と違って隠密侵入だし、他の冒険者仲間が目立って苦労しているのを知って外では超能力を使うのを控えているからだ。
「未来さん」
「ビリー」
「何でここに来たんや」
「ビリーこそ。わたしは『表・性愛研』を訪ねようと思って」
「ボクは学園の本当の姿を知るべく隅から隅まで巡ってみるつもりなんや。百聞は一見に如かず。で『イスラム教研究会』とか『邪教部』とかがあるこの文化部棟を……表・性愛研?」
「ホントは本家は『表』とかは付けないみたいなんだけど。まあ『裏』があるから『表』かなって」
 そうして興味を持ったビリーも加わった二人はこの巨大な文化部棟を性愛研、正式名称『性と愛の科学研』の部室を見つける為にうろつきまくった。途中、何回か人に尋ねたのだが、ほとんどの彼、彼女らは顔を赤らめて無言で離れていってしまう。
「なんや、なんや。なんか恥ずかしい事でもあるんか」
「……まあ、想像はつくけどね」
 二人は白衣やメイド服や騎士甲冑や侍装束のコスプレの人ごみをかき分けて、階段やエレベータを上り下りして、ようやく性愛研の部室を見つけ出した。
 それは予想以上に『ピンク』だった。
 「近日配信!」と書かれたAVの大型ポスターが貼りだされたドアを開け、思ったより広い部室に入り込む。
 中にいる男女はそろって煽情的な格好をしていたが、詳細を書くのはここではスペースがなさすぎる。
 色色な衣装。
 色色な道具。
 撮影機器や回転ベッド等を眺めながらあまりにも場違いな場所に踏み込んだ羞恥を抱えつつ、どうにか二人は性愛研の部長という女性に会う事が出来た。ちなみにここは男女W部長制らしい。
「あなたはここに入ってくるには不似合いな年齢の様ですけど……」
「ボクの年の事なら気にせんといてや。まあ、人よりは場数踏んでるさかい」
 黒檀の如き黒き肌とエメラルドの眼をした、黒髪の大人びた女性部長に対し、真正面から堂堂と答えるビリー。
 ホールに座る三人。部長はビリー達が異世界からこの学園に来たゲストだという事を再確認したらしい。
 女性部長はその特異な人種の割にはまともな服装に見えた。改造などしていない普通の羅李朋学園制服だ。
「ここは過激ねー」
 周りを見回して部の感想を述べる未来に、部長がアルカイックスマイルを返した。
「ここは性に対する知識や技術の殿堂です。勿論、互いを高め合う性の技術や避妊や性病など保健の知識、他人には明かせないアブノーマルな性癖もここでは正当な対象とされます」
「アブノーマル?」
 純粋な興味で訊いたビリーへ、またもや部長のアルカイックスマイルが返される。
「例えば私は今、正式な学園制服を着ていますが……下着は何も着けていません」
 部長の思いがけぬ告白を聞いた未来の顔はボッと赤面する。ビリーも赤くなったが茶色の肌色で解りにくい。
「それどころか外から見えない部分では今も身体中を荒縄で拘束しています。私はそうしながら平静を装うHENTAIであり求道者なのです」
 トンデモない言葉を聞きながら固まるビリーと未来。
 黒い肌のエメラルドの瞳が徐徐に潤んできた。自分がしている告白で自分自身が高まってきた様だ。
 呼吸が荒くなってきた部長に対し、二人はどう対処していいのか解らずフリーズしたままになる。
 と、部長が突然叫んだ。
「……この学園には危難が訪れるだろうッ! フロギストンの秘密と共にッ!」
 おとがいを反らせながらの叫びに、二人は思わず抱き合いながら息を飲む。
「……失礼。私は『北欧神話同好会』にも所属するセイズコナ……エクスタシー、逝く時の忘我の極みにて、死の世界から神神の言葉を拾ってくる巫女でもありますから」
 部長が今、自分が言った言葉すら憶えてなかった雰囲気で、けろりと憑き物が落ちた様にあっけらかんと二人に向き直った。ただ、その肌は汗ばみ、呼吸が早い。
 もしかしたら深く関わっちゃいけない人なんかなー、と思いつつもビリーは北欧神話に造詣が深い巫女だったという彼女にグスキキについての感想を求めてみた。「噂のグスキキについて、どう思うねん。信者が自決したり、随分と危ういんちゃうん。北欧神話の巫女としてはそこんとこ、どう思うん」
「宗教史全体を俯瞰して見るに……殉教や自己犠牲を促す宗教が果たして異常なのかしら」
 ビリーにとって思いがけない即答が返ってきた。
「いえ、失礼。少数派なのかしら、と改めますわ」
 女性部長がそう訂正したがビリーにとっては意味が変わらない。
 そもそも宗教とは、掲げる理想に人人を導くモノでは? 理想を実現する為の尊い犠牲なんてありえないはず、というビリーの主張は彼女には受け入れられなかったのだ。
 内心、愕然としているビリーの横に座った未来が身を乗り出した。
「……実は裏・性愛研について、ここで訊きに来たんですけど」
「裏・性愛研ですか……」部長は横を向いて困った顔をした。「そう名乗る者達がいるとは聞いていますが……
私達は基本的に法、つまり校則に反する事はしません。例えば未成年の売春等は許可していません。しかし裏側でそれをする者がいます。それは『任侠ヤクザ研究部』と組んだ犯罪行為である事も多いのです。残念ながらそれが発覚した部員は学園警察に引き渡さざるを得ないでしょう。彼、彼女達は地下下水網を活動拠点にしていると聞きましたが……それが何か?」
「いえ、特には。そーゆうのがあるって聞いたから何なのかなー、と思って」
 未来は、ここで『五月雨いのり』の名を出すべきではないと判断した。
 さりげなく周囲に眼を配ったが、この部室に彼女の顔はない。
「グスキキとその裏・性愛研がつながってる可能性とかないん?」ビリーはついでに訊いてみた。
「いえ、そういう話は聞いた事が……グスキキの資金援助には『文学研』『テレラジ報道研』『キリスト教研究会』『イスラム研究会』の一部過激派が密かに支援しているという噂が……あくまで噂ですよ」
「任侠ヤクザ研は?」
「ありえるありえないの話で言えば……ありえるかも、ですね」
 部長の言葉に、ふむふむ、とビリーは唸ったがあくまでも噂だ。手に握っている『竜の鱗』の振動は止まないが、それはあくまでも彼女はそう信じているという事で、事実かどうかという判断材料ではない。
「じゃあ、聞きたい事は聞いたし、わたし達、ここでおいとまするね。色色とお話しありがとうございました」
 未来はビリーの手を引く様にし、二人とも椅子から立ち上がった。
「あ、もし私達の活動に興味を持ったのでしたら是非、入部を。仮入部でも構いませんが。初心者向け指導もありますし」
「いえ、ご心配なく」
「せめてパンフレットだけでも」
「ご迷惑おかけしました。では!」
 ビシッと敬礼を決めて、未来はビリーと立ち去った。
 途中、妖しいくきわどい下着を着せられたマネキンが並ぶ部室内の一ブースを横切る。
「えろう、びっくりしたわ。こんな世界もあるんやなあ」
「ここに永くいると染まっちゃいそうで怖いわ。いやあ、わたしってまだまともなのね」
 性愛研の部室を出た二人はそんな事を言いながら、更に文系部棟をさまよった。
 それからも変な部室を訪れる度、自分達はまだまともなんだと再確認するのだた。

★★★
 バーは薄暗がりのムーディーなジャズ。
 いつもより気合の入ったメイクで胸元を強調したチャイナドレスを着飾ったクライン・アルメイス(PC0103)はレオンへのお礼も兼ねて、彼をデートに誘っていた。
 いつも機械油まみれの整備員としてのツナギ姿でしかあった事がないが、今夜は彼なりにフォーマルな服装に挑戦したらしい。スーツのジャケットはないが、灰青色のハイカラーシャツにグレイのスラックスを合わせている。
 カウンターで互いにマティーニを嗜むが、だが彼の本質はガテンなブルーカラーなのだ。
 雰囲気のいい世間話を、と始めた会話はついつい自分の本業であるスカイホエールの整備の話の方へと弾んでいってしまう。レオンは修理に必要なアルミニウムが手に入りそうな事がよっぽど嬉しいらしい。
(悪い人ではないんだけどね……)
 そんな彼女の思いを知ってか知らずか、彼の話はどう頑張っても理系な噂話が精一杯だった。
 アルコールでも口が滑る質なのだろう。
 話の内容はやがて亜里音オク生徒会長のコンサートの話に移る。
 やれ、自分は絶対コンサートには行くつもりだとか。
 オクは最近、心理学部や認知科学研究会のサイトや議事録に頻繁にアクセスしているとか。
(生徒会長は心理学的なリラクゼーションでも歌に取り込むつもりなのかしら)
 勝手にアルコールを追加していくレオンを、そんな事を考えながら眺めるクライン。
 今夜の彼とのつきあいはこのバー止まりだ。
 自分のほろ酔いを自覚しながらそろそろ帰る事とする。
 酔っている彼に電気自動車を運転させるわけにはいかない。しかし幸い、羅李朋学園は学天即によって完全自動運転で目的地まで送ってくれるのだ。
 まずレオンが居住する男子寮で彼が玄関に入るのを見届けてから、車を迎賓設備のある生徒会舎へ向かわせる。
 見上げれば、スカイホエール内部の人工の空は星座を再現して、真に美しい初冬の夜空であった。
 だが、この学園の空気には冬の寒さはない。

★★★
 噴きあがる水飛沫に、無数の踊る亜里音オクの虚像が投影される。
 たとえ複製可能のヴァーチャルアイドルだとしてもオクの実体は中央の一人だ。銀と白と金に装飾されたメインサーバーの上空の、天井から吊るされた巨大なガラス柱に映ったオクがシング&ダンスする。
♪天の川銀河の ペルセウス腕の 行く手くらます 恋人達の♪
 照明を落としたコンサート会場に眩しいレーザー光線が乱舞し、サイノリウムを振る、四万人もの観客達がメロディーに乗って身体を揺らす。
 現在進行形の大コンサートは一時間たって盛況が衰える事はない。
 幾つも並んだ巨大スピーカーはビッグバンドの生音の迫力で屋内コンサート会場の全体を揺らす。
 直接護衛の権限で、最前列でリュリュミアはサイノリウムを両手で振り、メロディーに合わせて揺れている。ここは太陽光線ではない光に満ち溢れている。眩しいが人工の光。しかし光合成淑女はそんな事お構いなしにオクの歌を満喫していた。完全に心から楽しんでいる。
 オクの音楽と歌声はある時は激しく、ある時はゆったりと直接心の中に語りかけてくる如しだ。
 心地よさが耳から、肌からリュリュミアの身中に染み込んでくる。
♪赤い糸 赤いレーザービーム 青空(せいくう)を斬って ナビ衛星にわたしの想いを と ど け て ♪
 速いビートも、刻みながらゆっくりと流れるバラードも、聴く者の心が癒されていく。
 踊るオクがクリアグリーンのツインテールをなびかせ、周りに金粉の如き汗を飛び散らせる。その汗はオーブとなって、オクが発生させる架空気流に乗り、宙を上昇していく。勿論それはガラス柱に投影されたCGなのだが、元気でありながら神秘的な一人のアイドルの演出としては最上級の仕上がりだった。
 音が人に吸い込まれ、壁に当たって反響する。
 ここの観客は楽しみながらも、やがてテロリズムの標的となる事を覚悟しているはずだ。
♪ヌードの心で白いホライゾン いたずら心でメビウスの輪をどんどんねじって 一気にほどいて♪
 なのに、それを感じさせないほどのコンサートを楽しむ熱気が、四万人の観客を満たしている。
 クラインも観客の一人だ。
 彼女はもしもの時の為に椅子に深く腰掛け、平静に努めていたが、肘を握る指はメロディーに合わせてトントンとリズムを叩いている。心が動かされていない、という態度もオクの歌声の中ではかろうじての装いでしかない。
(……随分と気持ちよい歌声ですわね。これも心理学や認知科学を学びつくしたという成果でしょうか)
 オクの歌は全て彼女のシンガーソングライティングだ。
 自我を持つAIというものの存在にクラインの『人間力』はある種の恐ろしささえ感じていた。
 いや畏怖の念だろうか。
 本当の女神を前にしての。
 ヴァーチャルの花火が次次と打ちあがり、宙で満開の飛沫に浮かんだ立体映像の大輪となる。
 と、その花火の炸裂音を合図にした様にコンサート会場の観客席のあちこちで次次と持ち上がった物がある。
 突撃小銃の銃口。
(来た!)
 クラインは立ち上がった。
 リュリュミアも気づいた様だ。両掌のサイノリウムをブルーローズの種に持ち変える。
 行動を起こした数十人のグスキキに反応して、ガード達も素早く行動を起こした。コンピュータ部、アニ漫研、アイドル研、そして学園警察の者達も小銃を持って、観客席の襲撃者達に銃口を向ける。
 このままではコンサート会場は修羅場になる。
 デジタルチックな可愛らしい歌声を背景に緊迫が高まる。
 しかしいつまで経っても銃撃は始まらなかった。
 観客席の熱気の中で、襲撃者も、護衛もまるで撃ち方を忘れた様にただ銃を持ち上げただけで静止し続ける。
 すぐ横にテロリストがいる状態で、観客達はただただコンサートに熱中し続けた。
 亜里音オクの歌声は止まない。それは聴く者の脳に確実に届いていた。

★★★
 金属球に翼を生やしたデザインのスタンド『バビロン・ズー』が背後の宙に浮かんでいる。
 ここでは亜里音オクの歌声は聴こえない。
「どうしたんだ!? 発砲しろ! 今がそのタイミングだ!」
 ノマド装束のアル・ハサンが、三階吹き抜けになった巨大プールの直下の階に仕掛けたプラスチック爆弾を前に『テレパシー・ネットワーク』でつながっている同志達に指令を送り続けていた。
 独り言にしか聞こえないその叫びは確かにグスキキの同志達の心に届いているはずだ。
 しかし誰も発砲していない、というのが確実に解る。
 一体、何があったのか?ととまどうテロリストの背に長く伸びた影が届く。
「そこまでよ」
 逆光の中、駆けつけたアンナがローラーブレードの滑走音と共に、手のモップを伸長させる。
 遅れて三叉槍を手にマニフィカも十数人の学園警察と共に見参する。ここに目星をつけていた者達は「飛んで火にいる」状態のアルを素早く包囲した。
 やはりグスキキのリーダーはプールの底を爆破して、コンサート会場を大量の洪水で下の多目的ホールを押し流そうとしていたのだ。亜里音オクのメインサーバーこそ破壊目標。その為には全観客と共に陽動として会場を混乱させようとしていた同志さえも巻き込む覚悟だったのだ。何という非情か。
「畜生! こうなれば、死なば諸共……我が神よ!」
 アル・ハサンが自分が立ち去った後で遠隔操作するつもりだったらしい、銃のグリップの様な機械を強く握った。それは爆破装置のトリガー。今は自分さえも爆破と洪水に巻き込む、最後の手段だった。
「させません!」
 マニフィカは叫んだ。彼女の傍らにいる学園警察官は大型のスピーカーの様なマシンをアルに向けていた。
 グリップを完全に握ってもグスキキの無線爆破装置は作動しなかった。
 グスキキ・リーダーに向けられたマシン。それは電子機械の妨害電磁波を放射するジャミング装置だった。
「ちいっ!」
「撃て!」
「あ、待って!」
 アンナの制止は学園警察の発砲に間に合わなかった。
 若い警察官達は自動拳銃を容赦なく連射した。
「バビロン・ズー!」
 だが、その銃弾はことごとくアルの前に立ちふさがったスタンドのメタリックな翼に弾き返された。
 発砲者の中には自分の撃った銃弾を胸に受け止めた者もいる。防弾ベストを着ているがそれでも衝撃は相当な様だ。スタンドの見えない人間には何が自分の弾丸を跳ね返したのか解らない。
「その翼の生えた鉄の球の如きものがあなたのスタンドとやらですね!」
「!? やはり異世界人にはスタンドが見えるのか!?」
 マニフィカの指摘に、アルが動揺する。スタンドというものは自分にしか見えない。それが彼にとって絶好のアドバンテージになっていた部分がある。そこを突き崩されたのだ。
 アル・ハサンを殺さずに捕らえるべきだ。
 その思いはアンナもマニフィカも共通していた。
 アンナの彼を殺さずに強制退去させるべきという願いは前に皆に話した通りだし、マニフィカにはグスキキという組織は、学園の閉鎖社会をガス抜きすべく仕組まれた解りやすい悪役なのでは?という疑念があった。アルの存在意義を是非とも調べなくては。もしかしたら彼は学園にひっそり操られている傀儡なのでは。
 アンナはモップを手に、マニフィカはトライデントを構え、アル・ハサンのスタンド、バビロン・ズーに挑みかかった。

★★★
 ビリーと未来。
 そして愉快な仲間達。
 羅李朋学園の地下下水網は危険と奇矯のダンジョンだ。
 亜里音オクの大コンサートが行われている今なら、グスキキはほぼ全員がコンサート会場である多目的ホールに行っているだろう。その隙をついて、少数精鋭でグスキキのアジトを強襲するのがこのパーティの主目的だった。
 最初は未来一人で行くつもりだったが、この学園の隅隅まで探検したいというビリーが乗っかってきて、更に二人だけでは心もとないからコンサート会場外の護衛をしていた少数が加わってきた。
 少数精鋭。
 それは余り者の別名ともいう。
 ビリーは足首まで水に浸る薄暗い下水道を、ライトで照らす先導役を引き受けながら考える。
 光あるところ影あり。
 そして光が強ければ影もまた濃い。
 輝ける青春というエキスを凝縮したような羅李朋学園であるが、どうやら闇も相当に深いらしい。自決したグスキキ構成員がそれを暗示している。
 グスキキの存在理由を問われた学天即とオク嬢は『宗教』と即答した。
 宗教とは特定の価値観を信じる事。つまり異なる価値観がグスキキの存在理由という回答。
 ふとビリーは違和感を覚える。
 相手を理解する事を最初から放棄し、共存や妥協を認めず切り捨てるだけでは?
 ある意味では人工知性らしい合理性かもしれない。
 なぜか脳裏に『ディストピア』や「幸福は義務です」という謎の言葉が浮かぶ。
「ボクは最上級市民のUV様なんやで……って、んな訳あるかーい!」
「お! パラノ〇アのネタっすね!」
 ビリーの思わずの心情の吐露に、相槌を打つアニ漫研部員はTRPG部員も兼ねているらしい。
「羅李朋学園では幸福は義務なんか?」
「幸福は権利っすよ、市民」
 ビリーのツッコミをなんなく受け流すその部員。レーザーポインター付きの小銃を構えて、市街迷彩服を着てついてきている。
 このパーティの参加人数は十人。
 未来も制服の上に市街迷彩柄の防水コートを羽織っている。
 予定を確実にこなしているならオクのコンサートはもう中盤のはずだ。
 前回、グスキキ殲滅をめざして大人数で押し入った時のマッピングで、入り口Aからグスキキとの大銃撃戦になった場所まで地図は出来ていてそこまでは比較的楽に進めた。
 それでも細部は居住者によって、もう改築が進んでいたのだから侮れない。
 銃撃戦場所から先は未知地帯に等しかった。
 時折、未来のトランプ占いによる託宣に行く先を託すがそれでも迷う時は迷う。
「わー! 電気どぶウナギだー!」
「この宝箱、ヤドカリが入ってやがる!」
「トゲ天井だ!」
「上から来るぞ! 気をつけろぉ!」
「右、左、右、左と曲がって、なんで元の場所に戻る」
「待て! そのコタツはトラップだ」
「邪神の封印が!」
 次次と現れるハプニングにパーティはいちいち時間を取られ、行き止まりに行きつく度にメモパッドに使っているモバイルPCの画面の白地図に×マークが書き込まれる。もう何個書いたか、数えるのも面倒だ。
 ようやく見覚えのある掘立小屋に着いた時には、オクのコンサートは終盤になっているはずだった。
「何だ。帰ってきたのか」
 それが未来を出迎えた『鷺洲数雄』の第一声だ。
 数雄と一緒に出迎えた女性がいる。それは五月雨いのりだった。裏・性愛研の。
「せっかくのご挨拶ね」未来はその数雄の態度に不満げな表情を返した。「せっかく、こちらにはこういうお土産があるのに」
 未来は背負っていたバッグから煙草をワンカートン取り出した。禁煙文化が進んでいる羅李朋学園では手に入れるのに苦労したものだ。
「おお! 煙草!」数雄はあっさりと歓迎ムードになった。と、思ったらその顔がすぐ疑念の色に染まる。「いや、そんな美味い話があるわけない。きっと、この煙草には人を凶暴にさせる赤い結晶が……!」
「はいはい。そーゆー態度はもういいから。いのりにはこれを持ってきたんだ」未来は蓋の付いた350mlカップを取り出した。それの蓋に太いストローを刺す。「じゃーん! タピオカ鉄観音ミルクティー!」
「じーまー! ナイススイーツじゃん!」色黒ギャルいのりはストローを寒色系リップを塗った唇でくわえ、黒いタピオカを吸い上げた。「超やばいー!」
「まあまあ、鷺洲さんとやらもそんなに難しい顔せんといてや。うちからもあんさんにご馳走出したげるさかい。こう言うのも何やが、あんさん、煙草の吸い過ぎで微妙な味解りにくいやろ。たっぷり濃い味出したげるで」
 打ち出の小槌F&D専用を振ったビリーが出したのは、湯気の立つ伊勢エビの味噌汁と名古屋名物味噌カツだった。他にも旨味の濃さそうな料理がわんさか出てくる。
「さあ、これで宴会や」
 足の踏み場もない書類が散らかった部屋で十二人の宴会が始まる。
(あれ? 宴会しに来たんだっけ? グスキキのアジトらしき危険地帯危を訊きに来たんじゃなかったっけ?)
 そんな未来の疑問も押し流すほど美酒美味の宴会は豪快に進む。
「そう言えば、前に行ってた問題どうなったの。何か進展あった?」
 一応、酒ではなくアイスラテを飲みながら未来は数雄に尋ねる。
「アレか。うーん」
「何やアレって」
 ビリーがタイの尾頭付きから『タイのタイ』を見つけてしゃぶりながら二人の話に乗っかってくる。パーティの他の連中は未成年ではないらしく酒に酔いまくっている。
「あ、話していいのかな」未来は口が滑ったかな、という表情をする。「いいよね、ビリーになら話して。この子、こう見えてもハッピーメーカーだから。……あのね、数雄が計算してみたら、この飛行船はどう計算しても飛ばないんだって。浮くのには決定的に風船の浮力が足りないんだって」
「そんな事言っても現に飛んどるやないか」
「それが問題なんだ」酒で顔を赤くした数雄が唸る。「その秘密を知った故に私は学園から狙われる身となっているんだ」
 うーん、とビリーは唸った。「科学で割り切れない事もこの世には沢山あるんや。この学園にも魔法の類はあるやろ。オトギイズム王国もそうや。実際、ボクはこの打ち出の小槌から料理出したったやん。世界には魔法や神秘が実在する。そうした不確定要素の可能性もあるんやないか。自分の眼を信用したってや」
「そういうお前が詐欺師でない可能性があるのか」数雄の眼が汚れたメガネレンズの奥でぎらついた。「いいか。霊感商法の一番肝心なところは『自分の眼で見たものしか信じない』と言っている人間に『奇跡』を見せる事にあるんだ。自分で見たものしか信じない人間はいいカモだ。一度、そういうものを眼にした人間は自分の全プライドと全知力と全財力にかけてその『奇跡』を擁護し続ける。そして、そういう人間に『奇跡』を見せる事こそ詐欺師の得意技なんだ」
「うざー」いのりが最後のタピオカを吸い上げながら、数雄に向かって言葉をこぼす。「草」
「そ−ゆー、疑り深すぎるのは数雄の悪いトコだよ!」未来は両手を腰に腰につけて『激おこスティックファイナリティぷんぷんドリーム』状態で立ち上がった。「魔法が実在する世界なら、それを肯定して考えるのがむしろ論理的じゃない!?」
「むう」今度は鷺図数雄が唸る番だった。「そういう考えならば……思い当たる可能性がないわけでもない。しかし、馬鹿げている……それは実在しないはずなんだ……」
「実在しない?」
「何や、それ」
 思わず訊く未来とビリー。
 コンピュータ研の脱走者はそれを口にするのをためらっていた様だったが、口元に火をつけた煙草をくわえ、紫煙と共に一息つくとその言葉を口にした。
「……フロギストン……」
 その瞬間、掘立小屋のドアが厚底の迷彩ブーツによって蹴破られた。
 外から一斉に学園警察の制服姿の男女達が雪崩れ込んでくる。皆、自動拳銃を構えていた。
「鷺図数雄ッ! お前を逮捕するッ! 他の者も動くなッ!」
 リーダーらしき男が叫び、数雄が大男に力任せに組み伏せられた。何で逮捕するかの罪状は読み上げられない。
 床に散らばった紙束を踏みにじるブーツの群は、威嚇する銃で小屋の中のパーティを全員を金縛り状態にした。勿論、いのりもだ。
 数雄の眼はビリーと未来のパーティが持ち込んだモバイルPCに気がついた。「しまった……このPCのバックドアで追跡してきたな……」
 モバイルPCの無線情報で学園警察がこっそり後をつけてきた、と逃走者の数雄は判断したらしい。
「未来さん!」
「いのり! 後で必ず助けるからね!」
 多勢に無勢。ビリーは『神足通』で、未来は超能力の『テレポート』で掘立小屋から外へと瞬間移動した。するとそこではいのりの護衛役の任侠ヤクザ研の男が捕らえられていた。
 小屋の外にも制服姿の男女が銃を構えていたが、その標的にならない内に瞬間移動を繰り返しながら、外へと通ってきた道を逆走する。
 外へ。外へ。
 とにかく、この状況を離れるのだ。
 やがて、地下下水網の入り口Aから外へ出た。
 星空を映す人工の空の下、寒くない夜気に触れた二人は逃げ切れた事に安堵の息を吐いた。
「えらいこっちゃ。学園警察に後をつけられとったなんて」
「いのり……絶対、助けるからね……」
 ビリーと未来は風に吹かれて、夜景に林立する学園の建造物群を見やる。
 亜里音オクの大コンサートをやっている多目的ホールはすぐ近くにあった。

★★★
 マニフィカの『水術』と、アンナの『小型フォースブラスター』はアル・ハサンを圧倒した。
 戦いが始まった当初、自分のスタンド、バビロン・ズーを前面に出して白兵戦に出たアルの戦術に二人は苦戦させられた。
 自分達はこのスタンドを目視する事が出来る。しかし、それだけでは相手の直接攻撃をかわせるだけで決定的なアドバンテージを得られなかった。
 プールの地下階であるこの戦場には様様な配管が走っていた。
 自分の身長ほどの太さのパイプに隠れながら、グスキキ・リーダーは大翼の金属球の如きスタンドのみを二人に対峙させて戦局の有利をとり続けた。
 アンナのモップも、マニフィカのトライデントもこのスタンドにダメージを与えられない。
 金属の翼によって繰り出されえる連撃を交わすのが精一杯だ。
「ウララララララララララララ!!」
 こう見えて、バビロン・ズーは近接攻撃型スタンドだ。
 アンナもマニフィカも紙一重でよけたが、背後にあった金属パイプが翼の連打を受けて大きくひしゃげる、
「アンナさん、ブラスターを!」
「マニフィカさんも魔法で!」
 互いが眼配せしながら武器を切り替える様に叫んで、促す。
 バビロン・ズーが刃物の様な翼を前に立てて突っ込んでくる。
 アンナは小型フォースブラスターを手にし、光条をスタンドに二発、撃ち込んだ。
 金属球の身体に光線跡が二つのひびとして刻まれる。そのダメージは本体のアルにも効き、くぐもった悲鳴が奥のパイプ陰から聴こえた。
 マニフィカが差し向けた掌から膨大な水流が迸った。それはバビロン・ズーを釣鐘の様に激しく叩き、後方へと押し流す。
 アル・ハサンの身体がパイプの陰から水流に流される様にこぼれ出てきた。
 精神エネルギーや魔法はスタンドに通じる事が解った。こうなると本体への直接ダメージを共有するに等しいスタンドを前に出している事が逆にアルの急所となる。
 ブラスターのビームと水流による打撃のコンボがバビロン・ズーを叩き続ける。
 テロリストは自身に連動するその連続ダメージに血を吐いた。床に倒れて自分から動かなくなる。バビロン・ズーのビジョンは彼の気絶によって消滅した。
 これ以上やると相手を殺してしまう、とマニフィカとアンナが判断して攻撃をやめた時、学園警察の者達が二人を追い越して、アルに手錠をかけた。手錠は結束バンドの様。アルの手首は背側でそのベルトによってガッチリ拘束された。
「アル・ハサン確保!」
 現場リーダーらしき警官が叫び、アンナとマニフィカは戦闘が終了したと判断した。
 こうして羅李朋学園を騒がせていたカルト宗教テロリスト、偶像崇拝禁止教団グスキキのリーダーは学園の治安の前に屈したのだった。

★★★
 アンチ・グラビティ・リーン。ガラス柱に映ったオクの身体が歌いながら前方へ斜めに傾ぎ、そしてゆっくりと元に戻る。その姿勢の美しさ。かつて勇名をはせた黒人エンターテイナーが楽曲『見事な犯罪者』と共に披露するパフォーマンス、そのオマージュだ。
 コンサート会場の大熱狂の中、互いに銃口を向け合ったままでフリーズしていたテロリストとガード達は、テロリスト達が銃身を下げた事で時間が流れ始めた。
 銃は撃たず、オクのガード達はテロリストに駆け寄って、床に押し倒し、その手首を『手錠』でがっちり固定した。テロリスト達は張り詰めていたテンションが一気に切れた様子だ。どうやらアル・ハサンからのテレパシー・リンクが切れた事で彼の敗北を悟ったらしい。それ以上、抵抗はしなかった。自爆する決意すらない。
 捕まえたガード側もテロリストに暴行をくらわせたりする事はなかった。
 皆、暴力衝動が何処かへ行ってしまった様だ。
 それは現場で眺めていたリュリュミアもクラインも実感していた。
♪百億光年 百億万年 全てをつらぬく LOVE&PEACE はやく届いて 私のテレパシー♪
 現場からテロリスト達が全員、退場させられる。連れていかれる先に待つのは三千人もの囚人を収容できる羅李朋学園の刑務所だ。
 その間も何事もない様にオクの歌声が響き、熱狂の大コンサートが続く。
 脳をも揺らす。その形容がふさわしい、感動の舞台だった。
 ラストのアンコールの声が会場内を反響するまで、グスキキをおびき出す為のコンサートはまるで何もハプニングがなかった様に進行し、中央ステージにさらされたオクの本体のメインサーバーは無事に守られた。
 このコンサートは観客動員数の記録更新に成功した。
 そして観客が全員退場した後の会場には小さなごみの一つも落ちていなかったという。
 メイク・ミラクル。ノー・トラブル。
 まさにその言葉が相当する一夜だった。

★★★
「グスキキは名前と顔が判明している者は全て逮捕され、アジトも押さえられ、完全壊滅したと言っていい状況だそうですわね。アル・ハサンは独房に拘束されたうえ、攻撃魔法が使える学園生徒で厳重監視体制とか」
 二日後。クラインは艦長・大徳寺轟一の私室を訪れた。
 勿論、事務的な用件があるのだ。スケジュールを事前に確認しておき、面会する為のアポイントを取ってある。
 立派だが天井の低い部屋。私室でも立派な艦長としての制服を身に着けた轟一は、きりっとした態度を崩さず、彼女を迎え入れた。
「ところでスカイホエールがこのオトギイズム王国に訪れた事故の件ですが」クラインは勧められた椅子に座る。「艦長ご自身は事故についてどう思われますか、原因が不明のままでは事故が再発してもおかしくないと思いますが」
「ううむ」大徳寺艦長は両腕を組んで深く唸った。「この羅李朋学園の創立には魔術研が深く関わっている事は前にも言ったが、気室については加藤部長が主導権を握っているに等しい状況だからな」
 難しい顔をする、そんな艦長の様子をクラインはじっくり観察する。
 艦長と会話する中で、彼の人間性を確認しているのだ。
 責任感が強い人柄と思っているが、事故の原因を放置している事をどう考えているのか。
 どうも彼は任務と義務の間の板挟みにあると、彼女には感じられた。まるで『2001年宇宙の旅』のHAL9000。
 飛行船の安全を守りつつも飛行船の秘密に触れてはいけない。
「私にも学園の中に友人が何人も出来ましたし、出来れば事故の調査については協力していきたいですわ。でも外部である私達が調査するのではなく、艦長の権限で気室を調査されてはいかがでしょうか」外部とは異邦人である王国からの使節のクライン達の事。「事故の再発可能性を把握する事で、航海の安全を確保する必要がありますわ」
 クラインは誠実さを自分の言葉に込めた。彼女の望みでは、今すぐに艦長自身に気室を調査してもらうのがベストだ。だが現在は、今後の協力体制の構築をメインの目的としている。
 何よりも信頼され合える関係を築くのだ。
 クラインはさりげなくこの部屋を見回した。学天即に盗聴され続けている可能性は考慮しておかなくてはいけない。
 気室に秘密があり、ギリアム、オク、学天即が隠し事をしているのは間違いないのだ。ヘリウム以外のものとして、何か魔術的なものの生贄ないし生徒からエネルギーを吸い上げているのではないか。クラインはその可能性さえ考えた。
「艦長権限で気室内に何が入っているのか調べる事は出来る」大徳寺艦長はそう言って、机の上に並べられている書類ファイルの一冊を取り出した。「気室内成分はここに申告されている。ああ、えーと、これだ」
 艦長がめくったページを立ち上がったクラインを覗き込む。成分表だ。簡素なデータ集の中に円グラフがあった。見ると、妙だ。ヘリウムが百%でもおかしくないのに三分の一が空白になっている。その成分を示す名はただ『Ph』としてのみ記されている。その成分内容を説明する文章は、ない。
「Ph? こんな元素記号ありましたっけ」
「うむ。俺もこの成分表について調べたのは初めてだが」艦長の指は次のページにある数値を指で辿る。上を向いた眼線が暗算している事を示していた。「……気嚢内の総質量は全部がヘリウムで構成されている時の予想値よりずっと低い? そんな馬鹿な……これはPhの質量がマイナスである事を意味する! 質量がマイナスの物質などありえない!?」
 質量マイナスが生む浮力? それがこの巨船を浮揚させている原因なのか、とクラインは静かに驚いた。
 しかし、そんな物があり得るのか。
 だが、現実にスカイホエールは浮いている。
「……すまない。ちょっと一人で考えたい事がある。俺をしばらく一人にしてくれないか……」
 クラインは大徳寺の私室から、彼の声を背に追い出される事となった。
 廊下に出たクラインは船員達とすれ違ないながら、上部艦橋のある構造体からエレベータに向かって歩き出した。
 もしかしたら、さっきの会話内容は学天即に聞かれているかもしれない。
 そうならば学園を全管理するAI・学天即は次にどんな一手を打ってくるのか。
 もしかしたらパンドラの壺の栓を開けてしまったのかもしれない。そう考えるクラインの前でエレベータの扉は閉じ、学園内へ通じる下降が始まった。
 エレベータシャフトはPhの詰まっている巨大な気嚢内を貫通していた。

★★★
「「「「「「洗 脳 !?」」」」」」
「聴こえが悪いなぁ。せめてマインドコントロールって言ってよ♪」
 この羅李朋学園のゲストである冒険者全員は生徒会長室に集められ、壁の大型ディスプレイに映った亜里音オク生徒会長から衝撃の宣告を受けていた。
「これからのオクの歌には、人間の精神を安定させる特殊なサブリミナルな波長が歌詞や曲の効果とあいまって、聴く人全員が安らかになる効果が付与されたのよ♪ サブリミナル効果が実用段階で行使されてるのよ、これって凄くない? これからは非可聴域段階でも学園内で常にBGMで鳴らし続けるわ。精神安定だけじゃないわ。これには人に犯罪行為を起させない暗示効果もあるのよ。これからは学園内で犯罪行為は起こらないわ☆」
「誰も道にごみを捨てないし、行列に割り込まない。喧嘩も窃盗も起こらない。自然とマナーが守られる様になるでしょう」興奮気味のオクの声に、学天即の機械音声が続いた。「来週にも資金不足で羅李朋学園のベーシックインカムは停止します。当然、生徒の混乱や暴動が予測されましたが、亜里音生徒会長のマインドコントロールによって、その心配はなくなるでしょう」
 ビリー、マニフィカ、アンナ、クライン、リュリュミア、未来は戸惑っていた。
 平和である事は素晴らしい事だが、その手段がマインドコントロールとは穏やかではない。
 果たして倫理的に許される行為なのだろうか。
「あなた達にこれを打ち明けたのは、あなた達が信頼するに足る『インフルエンサー』だと思っているからよ♪」
 インフルエンサー。その存在が社会に多大な影響を与える人達の通称。
「あなた達ならこのオクのアクションの素晴らしさを解ってもらえるわよね♪ オクは解ったの。羅大人が目指す素晴らしき社会主義とは短期政治では民主的に、長期計画は絶対君主的に振る舞う事だって☆ 学生達の安全を守るのはこうやって管理する事が一番なのよ。『ここはディストピアですか?』『いいえ、市民。ここはユートピアです』。そして、あなた達にはインフルエンサーとして学生達にベーシックインカムの代わりとなる、新しい資金調達手段を提案してほしいのよ。あなた達には学園の注目が集まっている、行為や言動は学園の流行となり、未来の基盤となる。その提案には学園生徒は傾聴するでしょうね♪ お願い、学園を助けて☆ 羅李朋学園の『資金面』を救って☆ そしてゆくゆくは全世界、全人類にこの平和の計画を広めましょ☆ 人は戦争のない世界を手に入れられるのよ♪」
 茶色のキューピーは思った。(言ってみれば、これも新たな『宗教』とちゃうん?)
 人魚の王女は思った。(生活費が保証されなくなった民はどうなってしまのでしょう)
 ローラーブレードの少女は思った。(アル・ハサンの処遇はまだ決まっていないというのに)
 チャイナ服の女社長は思った。(Phの秘密すら解明していないのに)
 光合成淑女は思った。(アンモニウムの問題が解決して来週には飛行船は動けそうという時にぃ)
 超能力JKは思った。(いのりを早く助け出さないと)
 最後に亜里音オク生徒会長と学天即の音声が声をそろえた。
「「皆で一緒に全世界に奉仕し、平和にしましょう」」

★★★