「臨床錬金術ゼミ@マープルのアトリエ」
―箱の中の楽園―
第2回(調合実習編)

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ


●リュリュミアの実習

●箱庭「リュリュミアの一日」

●アンナの実習

●箱庭「魔法少女の一日」

●未来の実習

●箱庭「魔法少女と変態怪人」

●呉の実習

●箱庭「スーパーロボット『テクノオーガー』」

●萬智禽の実習

●箱庭「一つきりの薔薇」

●ビリーの実習

●箱庭「CM分隊(カプセルモンスター・スクワッド)の大冒険」

●マニフィカの実習

●箱庭「海の巡礼者」

●ジュディの実習

●箱庭「戦場のハーモニー」



●リュリュミアの実習

 本日、二日目の調合実習が開始されて各自が練成に取り掛かる。
 リュリュミア(PC0015)は火力で沸騰する錬金竈に薬剤を順番に入れていく。
「練成は入れるものも準備されてるし、目分量で大丈夫ですねぇ」
 実際に彼女の言う通りであり、調合机では試験管やフラスコが既に整っている。
 マープル先生(NPC)が早朝から調合しておいてくれたので心配はない。
 某バスケ漫画ではないが、薬剤(左手)は添えるだけ、の世界とも言えよう。

「はやく粘土をこねこねしたいですぅ」
 錬金竈が各薬剤の液体と共に煮え上がると、いよいよ錬金粘土の投入だ。
 リュリュミアは昨日採取した粘土をそおっと、しかし、どぼん、と竈に投入!
 元々粘土が黄金でもある為、竈の中では綺麗な黄金現象が発生したのであった。

「粘土は生暖かくてぬめぬめしていて触っていると気持ちいいですねぇ」
 やがて煮え切った粘土を魔法手袋で取り上げて、すぐに魔法装置で冷却する。
 せめて「生温かい」程度まで冷却されると後はお楽しみのこねこねタイムである。
 さて、リュリュミアが粘土をこねて創造した人形とは……?

「人型のをひとつと、あとはなすとかきゅうり、とまと、だいこん、にんじん、すいかにめろんにみかん、といっぱいつくっちゃいますぅ」
 どうやらリュリュミアの箱庭は文字通り「庭」であり、果実や野菜の庭園である。
 丁寧に、ゆっくりと、心を込めて、果実や野菜をこねて形作る。
 丸まると肥えた茄子、齧ると勢いのあるキュウリ、太陽のように鮮やかなトマト、力強く真っ白な大根、歯応えが嬉しい人参、大きく身の詰まったスイカ、甘さが輝かしいメロン、最高糖度のみかん……。
 等身大とまではいかないが、次々と各果実や野菜そっくりの人形が拵えられた。
 庭園の中心には小さなリュリュミア自身の人形がいて大収穫している様子だ。

「でも、粘土の野菜は食べられないから、一段落ついたらお料理ですねぇ」
 そう、唯一の難点というか、残念な点がそこである。
 これらは粘土細工なので食べる事が出来ないのだ。
 ゼミ発表後、リュリュミアはサラダ、ポトフ、果物の盛り合わせを調理する。
 二日目のゼミ終了は、リュリュミアによる晩餐会で締め括られるのであった。

●箱庭「リュリュミアの一日」

 ぽかぽか……。今朝はとってもいい天気。
 燦々と降り注ぐ太陽の光がリュリュミアを眩く照らし優しく起こす。
「ふわぁ〜。よく寝たわぁ〜。さ〜てぇ、今日はなにしようかなぁ?」

 てくてく……。お散歩、お散歩、楽しいな。
 リュリュミアが裏庭の庭園を目指してゆっくり歩く。
「う〜ん。いいお散歩日和よねぇ。何かいいことあるかなぁ」

 いっぱいできてる、いっぱいできてる、お気に入りの可愛い庭園に。
 新鮮なお野菜に果実がいっぱいで、まるで今日は大収穫祭。
 庭園のお野菜と果実をちょっとずつ、じっくりと、籠にぽいぽい入れていく。

 まぁ〜るまるぅ茄子。がぶっといきたぁいキュウリ。さにぃふれっしゅトマト。
 おつよぉ〜い大根。かりかりぃ人参。どでかぁいスイカ。
 とろとろぉメロン。あまあまぁみかん……。

「うわぁい、こ〜んなにぃ、いっぱいの野菜と果物でぇ、しあわせよねぇ〜」

 ことことこと……。キッチンでリュリュミアがお料理中。
 新鮮なお野菜に果実がいっぱいで、まるで今日は大宴会。
 食卓に並んでいる賑やかな野菜料理とフルーツ盛りの前でリュリュミアが合掌する。
「みんなまとめていただきまぁす」

●アンナの実習

「薬剤の投入に難しい事はありませんよ。調合机にある試験管やフラスコ等の液体瓶を一本ずつ取り出して、液体を竈にゆっくりと入れていきましょう。順番はどれからでもかまいません。最後に錬金粘土を一塊投入して煮え切ればそれでお終いです」
 マープル先生の講義を聴きながらアンナ・ラクシミリア(PC0046)が丹念にメモを取る。
 先生の解説を受けて、今回の調合手順に気を配りながらアンナは実習に取り組んだ。
「ふぅ……。調合は投入の量もタイミングも緊張しますわね。ひとまず、これで合っているはずですわ……」

 やがて錬金竈が煮え切り、錬金粘土を取り出す段階に入る。
 アンナは魔法手袋を着けて、そおっと粘土を取り出した後に魔法装置で冷ます。
「軽く冷ましてからと言いますが……。もういいのかしら……熱っ!」
 マープル先生曰はく「生温かいぐらいが丁度良い」との事だったが。
 粘土の見た目が冷めていたので、アンナは早合点して素手で触ると意外と熱かった。
 だが、両手で耳たぶを触れば済んだぐらいであり幸いにも火傷はしなかった。

「粘土人形ですけど、作るからにはかわいく作りたいですわね」
 いよいよお待ちかねのこねこねタイムになりアンナは嬉しそうに粘土をこねる。
 時間を掛けて、ちまちまとパーツを作り込むが、一体、何が出来上がるのだろうか?
 どうやら、アンナの手元からは可愛らしい魔法少女人形が出来上がった。
 そう、彼女が創りたい箱庭は魔法少女の活劇なのである。

 そして、箱庭が完成したら最後はゼミ発表の時間となる。
 一番手のリュリュミアのプレゼンが終わるとアンナの番となった。

「それでは、わたくしの創造した箱庭をご紹介致しますわ。タイトルは『魔法少女の一日』というお話でして、魔法少女レヴィが怪人と戦う活劇ですの……」
 ゼミ発表では緊張しまくりのアンナであったが、何とか最後まで無事にやり遂げられた。
 彼女は本番には強い所があり、発表に集中した後はすらすらと解説が出来たのであった。

●箱庭「魔法少女の一日」

 今日は待ちに待ったオフの日だから、街で和やかにショッピング。
 レヴィちゃんは、あれかこれか、どれが似合うか、とキュートな衣服を試着中。
「うう〜ん? いろいろあって迷うわね? どれがいいかな〜?」
 だって、学校は制服しか着られないのだから、休日ぐらい思い切りお洒落したい。

 どががが、どかあああん!!
 ショッピングモールの何処かで大爆発が起こって怪人が暗躍していた。
「あ、あれは怪人爆弾男!?」
 今こそ出動だ、レヴィちゃん。魔法少女レヴィに変身だ!

「変身! 魔法少女レビィ!」
 カラフルな色彩とキラキラの閃光に包まれて魔法少女が変身する。
 怪人に引導を渡すべくして、その萌え姿が白昼堂々と見参する。

「必殺、魔法少女びぃぃぃむ!!」
 どがががが、どかあああん、どがん、どがああああん!!
 魔法少女が放射する光線の破壊力によって怪人爆弾男が一撃で死に絶えた。
 そして、ショッピングモールの一部すらも吹っ飛んだ。

「てへ♪ 魔法で解決♪ 魔法少女レヴィでした〜♪」
 どっかん、どっかん、どががん、魔法少女♪
 いつでも、どこでも、爆撃、電撃、過激、魔法少女♪
 華麗・に・退場♪ 魔・法・少・女♪

●未来の実習

 姫柳 未来(PC0023)とトムロウ・モエギガオカ(NPC)のカップルは燃え盛る錬金竈を仲良く眺めていた。
 そして、錬金粘土が竈でことことと煮詰まると、やっと、取り上げる段階となる。
 魔法装置で冷却した後には、いよいよ、こねこねタイムとなった。

「トムロウ! わたしは魔法少女人形を作るから、そっちは変態怪人人形を作ってくれる?」
「おうよ、未来ちゃん! 人形作りなら任せてくれ!」
 さて早速、人形作りを開始する未来であったが、これがなかなか難しい。
 一方のトムロウはなぜか手慣れているらしく、てきぱきと変態怪人が出来上がっていく。
 しかも、なぜか、HENTAIなのにCOOL!(かっこいいー!)
 どこか、トムロウの面影も持つHENTAIな仮面男であった。

「ト、トムロウ……!? すごいよ、それ!? どうやるの!?」
「おう!? いやいや、慣れってもんよ? 俺、フィギュアはよく作るからさ。んじゃ、俺がコーチしようか?」
 という訳で、トムロウ監督の下、未来は魔法少女人形を丁寧に作り込む。
 各パーツの的確な造形から始まり、人形は顔が命の精神論まで教わる。
 未来が指導を受けながら取り組んだ所、やがて可愛らしい魔法少女人形が出来上がった。
 この子はどこか未来と似ていて、無論、超ミニスカートの魔法少女である。

「よっしゃあ、二人の人形を入れた箱庭が完成だぜ!」
 ついに箱庭の練成まで完了して、カップルが大勝利のハイタッチをした。
「タイトルは『魔法少女と変態怪人』と名付けて、あとでゼミ発表しよう。さ〜て、トムロウと一緒に箱庭をじっくりと鑑賞してみようかな?」
 未来が箱庭に祈ると人形達がとことこと愛らしく動き出した。
「正義の魔法少女」と「悪の変態怪人」の冒険活劇が始まる……。
 まるで二人は映画デートをしているかのような楽しい鑑賞時間を過ごすのであった。

●箱庭「魔法少女と変態怪人」

「きゃあ〜、泥棒! 私のパンツ返して〜!!」
「ふはは、さらばだ! おまえらのパンツはこの俺が頂いた!!」
 下着泥棒で街を騒がせる男が暗躍していた。
 半裸でパンツを頭に被っている彼の名は変態怪人。
 変態の道に生きて変態の道に死んでいく怪しき危険人物。

「魔法少女参上! 変態怪人、パンツをみんなに返してあげて!!」
 ひらりと超ミニスカートが翻ると、皆の希望である魔法少女が光と共に現れた。
 魔法少女が変態怪人をパンチやキックで抑え込むがなかなか効かない。
 むしろ変態怪人は殴られて蹴られるのが快感で喜んでいた。
 そして彼は思った。あの麗しき超ミニスカートからパンツが見えないかな、と。

「ふはは、くらえ、魔法少女め! 必殺、スカートめくりアターック!!」
 変態怪人が猛速度で回転すると、魔法少女に向かって大旋風を巻き起こす。
 あとちょっとであの短き布が捲り上がり、パンツが奪い取られるかと思ったその刹那。

「必殺、反HENTAIミサイル発射!!」
 魔法少女が召喚したミサイルはHENTAIを追跡して爆撃するホーミングミサイルだ。
 反HENTAIミサイルが標的に被爆すると変態怪人は死ぬ程爆発してぶっ飛んだ。

「お・ぼ・え・て・ろ〜!! 次回は、おまえのパンツ、取ってやるからな〜!!」
「おとといきやがれ変態怪人! 世界のパンツの平和は私が守る!」
 魔法少女と変態怪人の宿命の対決は続くのであった。
 この世にパンツと変態がある限り。

●呉の実習

 呉 金虫(PC0101)が煮え切った錬金粘土を竈からそっと取り出す。
 魔法装置で冷却して生温くした後は、いよいよお待ちかねのこねこねタイムである。
 呉は粘土を手に取ると、思わず不気味に笑い出すのであった。
「わっはっはっは! 呉金虫博士、出動だ! ロボットが俺を待っている!!」

「ガオーッ!」
 突然、呉が粘土を粘土板に叩きつけて吠え出した。
 そして凄まじい勢いで粘土をこね上げる。
 こねて、こねて、ひたすらこねて、粘土を馴染ませる。

「ズドドドドド!」
 やがて粘土はロボットらしき形にこね上がった。
 おそらく呉自前の効果音はロボットの機体が完成して行く様を表現しているのだろう。
 今、彼の脳内でロボットのパーツが合体しつつ激しい金属音と火薬音を立てているのだ。

「フィーン! フィーン!」
 いよいよロボットそのものが完成すると、どうした事か、呉はロボットで遊び出す。
 箱庭に入れて練成すれば良いものを、あえてロボットの胴を握ってぶんぶん振り回す。
 今、彼の心の中ではロボットが自由に大空を羽ばたいているシーンなのだろう。

「スーパーロボット『テクノオーガー』参上! 覚悟しろ、街を荒す怪獣め!」
 こうして呉のロボットは怪獣と共に箱庭に収められて完成した。
 その後、ゼミ発表では少年の浪漫が爆発したロボット活劇をプレゼンするのであった。
 本日のゼミ実習を通して、呉は自分の幼児性を思う存分、箱庭で発揮出来たようだ。

●箱庭「スーパーロボット『テクノオーガー』」

 時は二十一世紀、未来都市ハコネシティは怪獣の脅威に晒されていた。
 港沖から出現した首長恐竜の怪獣が咆哮して火炎を噴きながら街を襲う。
 ある種の黙示録が実現されて以来、人々は天に祈り、逃げ惑うばかりだ。

「全友軍に告ぐ。各部隊、攻撃開始! 標的はメカ・ブラキオサウルス!」
 地球防衛軍から戦闘機や戦車が出撃して総攻撃で勝負に出る。
 しかし、攻撃が全く通用していない所か怪獣の尾の一撃で返り討ちに遭う。
 無惨にも軍隊は連鎖爆発を起こして敗退した。

「たすけてー! テクノオーガー!!」
 学校の体育館に避難していた少年少女達の悲痛な叫びが天に届く。
 雲の上から、眩い威光を放ちつつ、皆のスーパーロボット・テクノオーガーが参上!
 かのロボットこそが、呉科学研究所が総力を結集して発明した秘密兵器である。

「そこまでだ、メカ・ブラキオサウルス!」
 怪獣と対峙する黒い巨大ロボ。
 まるで一体成型のクレイモデルの様な姿のロボットだ。
 そもそもロボットの関節は滑らかに繋がっていて「節」はない。
 裸の巨人、いや、テクノオーガーが怪獣に立ち向かい取っ組み合いとなる。
 メカ・ブラキオサウルスの首をヘッドロックするテクノオーガー。
 対してテクノオーガーを振り切ろうと首を百八十度大回転するメカ・ブラキオサウルス。

「ゴオルデエエエン・テクノオーガアアア・パアアアアンチ!!」
 ヘッドロックから怪獣を投げ飛ばしたテクノオーガーは必殺の攻撃態勢に入る。
 両手の拳に黄金の力を輝かせて、まるでマシンガンの様なジャブ攻撃で怪獣を滅す。
 強烈な重たい拳が炸裂するとメカ・ブラキオサウルスは大爆発を起こした。

「完全勝利、正義は勝つ!!」
 仁王立ちするテクノオーガーの背中を鮮やかな夕焼けの光が照らしていた。
 この世界に彼がいる限り、如何なる怪獣が現れようとも平和は保たれる。
 それ行け、テクノオーガー! 皆の明日を守る為に!

●萬智禽の実習

 煮え切った錬金粘土が竈からぷかぷかと浮き上がる。
 空中で軽く水切りをした後は調合机にある魔法装置で生温くなるまで冷却される。
 そして冷却後、錬金粘土は粘土板でこねられずに再び空中へ浮上する。
 萬智禽・サンチェック(PC0097)が念力で粘土を操っている為だ。

「さてと、マープル先生から借りた図鑑でも参照しながらこつこつ作業するのだ」
 萬智禽は空中に浮かぶ粘土を念力でこねこねしながら薔薇の花を作る。
 薔薇の花の粘土細工では、主に花びらを螺旋状に回して作る事がコツだ。
 植物図鑑の薔薇にそっくりと似せて、情熱の赤い薔薇を形作るが……。
 どういう訳か、空中で薔薇の花がひとりでに美しくも咲いてしまった。

「ふうむ。彼が主役の『一つ眼の薔薇』なのだ。薔薇の花の中心部に目玉を入れるのだ」
 空中でこねこねと目玉をこねると、先ほど完成させた赤い薔薇に注入する。
 ぎょろりとした目玉がある薔薇は、どこか萬智禽本人の面影があった。
「おっ!? 眼と眼が合ったのだな!? うむ、こんにちは、なのだ」
 その後、薔薇園を造る為に、モブの薔薇や少女の人形も要領良く作製した。

「本日、私が発表する箱庭は『一つきりの薔薇』というタイトルなのだ。この薔薇園では目玉のある薔薇が一輪だけあるのだが……」
 ゼミ発表で箱庭の中身を紹介する萬智禽であったが……。
 どうもホラー展開満載の箱庭物語が始まると絶叫する者達が後を絶たなかった。
 最後にマープル先生から講評を頂く。
「シュールですね……。おそらく、萬智禽さんの無意識を眼球から解放した情景なのでしょう……」
●箱庭「一つきりの薔薇」

 初夏の早朝の薔薇園には多彩な大輪の薔薇が咲き乱れている。
 数多の薔薇に紛れ込んで、ぽつねんと異形の薔薇が存在する。
 異形の薔薇は情熱の赤ではあるが、花芯には一つ眼が宿っていた。

 やがて薔薇園の開園時刻となるとあどけない少女達が遠足で現れる。
 多種多様に咲き誇る美麗な薔薇は一輪も残さず摘み取られた。
 しかし、誰も一つ眼の薔薇にだけは見向きすらもしなかった。

 初夏の夕方の薔薇園は閉園時刻が過ぎて寂しい常闇に染まる。
 数多の薔薇が刈り取られて、ぽつねんと異形の薔薇が残存する。
 異形の薔薇は復讐の赤ではあるが、花芯には一つ眼が睨んでいた。

 やがて薔薇園の開園時刻となると勤勉な職員が異常に気付き慌てる。
 一つ眼の薔薇だけが一輪も違わず薔薇園に繁殖して咲き誇っていた。
 そして、薔薇園は一つ眼の薔薇だけで埋め尽くされた。

●ビリーの実習

 リュリュミアによる南国風料理を堪能し、まるで修学旅行みたいな雰囲気で初日を楽しんだビリー・クェンデス(PC0096)。
 彼は心身共にリフレッシュした後、ゼミ合宿二日目に臨む。

 本日の調合実習にはシルフィー隊長(NPC)とペアで参加する事にした。
 なお、家族も同然なカプセルモンスター達は、騒がしくするといけないので留守番だ。

 さて、錬金竈を扱う際になるとビリーもシルフィーも表情が真剣そのものとなる。
 彼らの標語は安全第一! とにかく錬金竃を使う際は真剣に。
「ビリー、薬剤と粘土の投入はこんなものでいいね? 竈が煮え立つのは、いかにも錬金術っぽくて面白いけれど、ここ一番が真剣勝負だね!?」
「せやな。火をつこうとるさかい、おふざけは無しや。真面目にやらへんとアカンで」

 二人が協同して竈で煮詰めると、黄金現象を起こした錬金粘土が程よく煮え上がった。
 ビリーが魔法手袋でそっと粘土を取り上げて、シルフィーが魔法装置で冷却する。

「ほな、粘土をこねてカプモン、作りまっせ〜!」
「うん、全部で9体いるから、あたしの方はうち4体程度を作るよ!」
 お待ちかねのこねこねタイムである。
 ビリーもシルフィーも粘土板に粘土を打ち込んで嬉々として作業する。
「冒険活劇、作りまっせ〜。隊長、ノーザンドワーフ族を一緒に作って欲しいねん?」
「わかった、作ろう。えっと、たしか、こんな感じのドワーフだったよね……」
 やがて、カプモン全員の精巧なミニチュアとモブなドワーフ達が出来上がった。
 CM分隊メンバー、即ち……。
 金鶏のランマル、サンドスネークのボーマル、お化けハイランダケのリキマル、異次元獣のジューベー、ウォルターラットのトーキチ、アリ地獄モグラ改のゴローザ、冬の精のキチョウ、マッハ・ハイノシシのゴンロク、ブルーカモメ改のマタザ……の9体完成!
 カプモン達が箱庭の中に突撃すると、ノーザンドワーフ族は力みながら踊っていた。
「どの人形もどことなく面影がそっくりだね?」
「せやな。まさに愛情の為せる技かいな?」

 箱庭では「CM分隊(カプセルモンスター・スクワッド)の大冒険」が盛大に再現された。
 ゼミ発表も二人で協力しながら和気あいあいとプレゼンするのであった。

●箱庭「CM分隊(カプセルモンスター・スクワッド)の大冒険」

 CM分隊の先頭には金鶏のランマルがビリーの格好(鳥服版)で行進していた。
「皆の者、これより我々は調査で『旧魔石村』へ行軍するコケ! ビリー隊長が不在の今、指揮官は私となるが、皆の者、よろしく頼むコケ!」
 ランマルの右舷にはサンドスネークのボーマルがいる。
「シャー!! 代理隊長、ラジャー!! 副官はこの俺だシャー!!」
 左舷にはお化けハイランダケのリキマルがいる。
「べろべろろん。僕も副官やるよん。よろしくねぇ〜」

 合計9名のCM分隊は隊列を乱す事なく「旧魔石村」へ到着。
 隊員たちは、消滅した村の真相を探る為、遺跡の廃鉱山へ向かった。

 がらがらがら……!! どがががが、どっしゃああああん……!!
 突然、地響きがあったかと思えば、巨大な岩が次から次とごろごろと降って来る!!
 大地震の振動で地面も壊れ、落盤事故にも見舞われた。
「ミュー!! 地震だミュー!! 皆、大丈夫かミュー!?」
 ブルーカモメ改のマタザが大慌てで空中を飛び回りながら仲間の安否を確かめる。
「萌えー!? 助けるねぇ!!」
 冬の精のキチョウが岩に嵌った副官達を助けるべく岩石を凍らせてかち割った。
「まあ、慌てるな。俺に座れ」
 異次元獣のジューベーはポリゴンブロックなので椅子になる為、自らを隊長に差し出す。
 ランマル隊長は緊急時に全体を見渡す指揮を執る為に椅子の上に立つ。
 そして、コケコッコー、と叫んで仲間達に召集を呼び掛けた。

 ところが、皆で集合して無事ではあったが、閉じ込められてしまった……。
「ぷごー!! こんな岩程度、突撃してやれー!!」
 マッハ・ハイノシシのゴンロクがマッハで突撃して岩石を破壊する。
 しかし、巨大な岩の量が圧倒的に多い為にびくりともしない。
「もぐもぐ……。だったら、アリ地獄を掘ろう……」
 アリ地獄モグラ改のゴローザがアリ地獄を掘るが地下は果てしない。
 一体、この広大な洞窟の地下は何処まで繋がっているのだろうか。
「だったら……抜け道を探すチー」
 ウォルターラットのトーキチがちょこまかと隙間から抜け道を探す。
 だが、何処を探しても全員で通って生還出来そうな道はなかった。

「はいほー♪ はいほー♪ 俺ら、ノーザンドワーフ族♪」
 どういう訳か、閉塞された洞窟の何処かからドワーフ達が次々と沸いて来た。
 ランマル隊長が彼らに問い掛ける。
「ドワーフさん達、何処から来たコケ? 我々を助けてくれないコケか?」
 ドワーフ達が、わはは、と愛嬌のある大笑いをして答える。
「それは、秘密の抜け道から来たのさ。そうか、閉じ込められて困っているのか」
「だったら、俺達と宴会しようぜ! 宴会してくれたら助けてやるぜ!」
 ドワーフ達に連れられて、CM分隊は秘密の抜け道からとある集落へと出る。
 その後、飲めや、食えや、歌えや、踊れや、の賑やかな宴を楽しんだ。
 最後は地上への抜け道を通ってCM分隊は無事に生還出来たのであった。

●マニフィカの実習

「箱庭の製作過程において、人形は重要な役目を負います。臨床錬金術の分野では、人形はあなた自身の姿を模倣したシャドウ(影の姿)とも言われていますね……」
 マープル先生が人形の重要性について講義をしている。
 マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は聞き逃す事なくメモしていた。
 彼女はいつでも留学生の心構えとして学問には真剣である。

「さて、講義内容は興味深いですが……。どんな人形にするべきでしょうか?」
 マニフィカの隣にいるリリアン・ピンクドルフィン(NPC)が問い掛ける。
 昨日のゼミに続き、本日も二人は協同作業で調合実習に取り組む。
「ですわよね、迷いますわ……。例えば、ですが……」
 マニフィカはリリアンと相談すると「二人の共通モチーフ」が良いという発想に至った。
 即ち、『イルカ』のモチーフである。
 マニフィカにはペットのフィルがいて、リリアンは名字にドルフィンが入っている。

 そうと決まれば優秀な女子大生の二人は行動が早い。
 錬金粘土がこねこねタイムの段階まで仕上がると、迷う事なく「イルカ」をこねる。
「リリアンさん、イルカはこのような形でしょうか? フィルっぽいでしょうか?」
「ええ、そのイルカ、フィル君っぽいのです。ところで、色はピンクにしたいのです!」
 その後、ウミガメの神官、クジラの領主、サメの無法者といった人形も二人で作った。
 二人は、お互いの思いを込め合いながら、錬金粘土の創造作業を完成させた。

 やがて箱庭が無事に完成してゼミ発表の時間となる。
 マニフィカ達の番になると二人は分担してプレゼンに取り掛かる。
「私達の箱庭のタイトルは『海の巡礼者』なのです。イルカのフィル君が巡礼の旅に出るお話で……」
 リリアンが物語を情緒豊かに紹介しながら箱庭の人形劇が進行する。
 物語が終わるとマニフィカの方から鋭利な解説が加えられた。
「わたくし達の物語は、何処とも知れない大海原を舞台にしましたわ。人生は永い旅路という寓話を、わたくしのペットのフィルに仮託した人形劇風の物語ですわね……」
 二人の壮大なプレゼンが終わると、皆から盛大な拍手で迎えられた。
 マープル先生が最後に講評する。
「臨床錬金術の箱庭は人生の旅そのものですね……。ぜひ、お二人は学問の求道を続けられてください……」

●箱庭「海の巡礼者」

 フィリポス六世(フィル)は海洋王国のイルカの王子である。
 ある日、彼は天から啓発を受ける。
「フィリポス六世よ……。我は海洋王国のイルカ神である。王族としての見聞を広める為、聖地巡礼の旅に出なされ。これは天命じゃ……」
「はい、イルカの神様。それでは早速、聖地を巡る事にします。王族として恥のないイルカになる事をお約束しましょう」

 国境を出た後、とある領地でサメの無法者が暴れていた。
「ぐはは! 俺はサメだ! つええんだぞ、えらいんだぞ! 食い物もっとよこせ!!」
 そこにフィルが仲裁に入りサメに物を申す。
「こら、サメよ。暴行は止め給え。サメであっても君が強い訳でも偉い訳でもない。そしてその食物はこの領地の魚達の物だよ?」
「なんだと、このイルカの坊主! やっつけてやる!」
 フィルとサメの大乱闘が始まり魚達は大騒ぎで逃げ回る。
 時にフィルは、王国では騎士の称号を持つイルカ体術の達人だ。
 ほとんど一瞬でサメは制圧された。
「ま、参った……。食い物は返す……」
「もう二度とやるなよ? はい、領の魚達。食物は取り返しましたよ」
 そこに領主のクジラがのそのそと現れる。
「旅の方、この度は領地を救って下さりありがとうございます。私は領主のクジラと申します。ささやかながらお礼をさせて貰えないでしょうか」
「いえいえ。僕は当然の事をしたまでです。お礼なんて……」
 無法者を追い出したフィルは領地の魚達の英雄になっていた。
 断る事も出来ず、領主の館へと招待される。

 フィルはクジラ達と館内で会食をして、とある人物と出会う。
「儂は神官のウミガメと申す。よろしくな。時にフィル殿。神の道へ至るおつもりはありませんか?」
 このウミガメは大海原を司る一宗派の神官との事。
 聖地を共に巡礼してみてはいかがかと誘いを受けた。
「はい、喜んで。実は聖地を巡って見聞を広めようと考えていました」
 フィルとウミガメの二人での聖地巡礼が始まった。
 大海原の方々を巡り、色々な者達やトラブルと出会う。
 魚介類が死に絶えている黒海を再生させて……。
 クラーケンの脅威に苦しんでいる魚達を助けて……。
 食物が枯渇した海に豊穣をもたらして……。
 フィルは聖者として海の仲間達を救える限り救った。

 やがて臨終の時が来てフィルは病で床に就く。
 旅先の流行病に冒されてついに命の炎が燃え尽きるその日が来た。
 彼の隣ではウミガメの神官が天に祈りを捧げていた。
「大海原の主よ、僕に天命を……与えてくださり……ありが、と、う……」
 フィルのイルカとしての命はここまでで終わったが、彼は聖なる霊魂となる。
 霊魂となったフィルは聖地を見守りながら、次の転生まで永い時を過ごすのであった。

●ジュディの実習

 二日目のゼミでは、ジュディ・バーガー(PC0032)は独りで黙々と実習に取り組む。
 本日の箱庭練成ではジュディなりに思う事があり独りになりたい気分だったからだ。

「へ〜イ、ゴールデン・クレイ(錬金粘土)の釜揚げ、レッツ・ゴー、デース!」
 錬金竈で煮え切った錬金粘土をジュディが魔法手袋をして盛大に取り上げる。
 まるでニューヨーカーの釜揚げチップスでも引き揚げる雰囲気であった。

 ついに、お待ちかねのこねこねタイムとなる。
 ジュディは満面の笑顔で錬金粘土をこねながら哀しげな民謡を上機嫌の鼻歌で口ずさむ。
『ジョニーが凱旋するとき』を歌い出す彼女の心境とは一体、如何なるものだろうか?

――When Johnny comes marching home again♪ Hurrah! Hurrah! We'll give him a hearty welcome then♪ Hurrah! Hurrah! ......

(訳:ジョニーが行進しながら家に再び帰って来る時には♪ 万歳! 万歳! 私達は心から彼を歓迎するだろう♪ 万歳! 万歳! ……)

 そして、彼女の手元に現れた粘土人形は……兵士像であった。
 粘土の兵隊達を集めたジュディの箱庭の意図とは……!?

 やがてゼミ発表の時間となりジュディはいつもの底抜けの明るさでプレゼンをする。
 しかし、その表情と声調はシリアスそのものだ。

「ジュディの箱庭のタイトルは『戦場のハーモニー』デース。平凡な若者ジョン・スミスが、戦争に徴兵サレル、ストーリー、デース!」
 ジュディの解説と共に箱庭ではメランコリックな戦争風景が再現される。
 その風景は無惨な殺戮ではなく、何て事ない一般人が戦争で兵士となる話だ。
 過酷な戦場で新年を迎えて仲間達と共に民謡を歌うが、最後は……。

 哀しさで泣き出す者達も出る中、マープル先生との質疑応答となった。
「つまり……ジュディ先生は、箱庭を通して戦争の悲惨さを主張する意図なのですね?」
 ジュディが、マープル先生に感謝と敬意を述べた上で、あえて反論する。
「イエス、それもありマース。デスガ、ジュディは、極限状況ニオケル人間性の尊さヤ現実の厳しさヲ訴えたかったデース。あくまデモ、フィクションデスガ、ジュディの出身世界デハ身近に存在するストーリー、デスネ。悲劇的なエンディングを迎えマスガ、実のトコロは人間賛歌デース!」
 ジュディは、一人のアメリカ人として箱庭を通して伝えたかった物を伝え切ったようだ。
 その真意に誰も異論反論はなく盛大な拍手で発表が締め括られたのであった。

●箱庭「戦場のハーモニー」

「オーマイガー! 徴兵デスト!?」
 どこにでもいる平凡な若手農夫ジョン・スミスの日常に亀裂が走った。
 今、彼の手元には米軍からの徴兵のお知らせを告げる紙切れがある。
 とても信じられない話だが、彼は海を越えた遠くの西欧の戦場へ送られるらしい。
「ウウッ……。ファ、ファミリーには、何と話しまショウカ……」
 翌日、ジョンの家では一族揃っての送別会が行われた。
 翌々日、ジョンは兵士としての身支度を整えると己を奮い立たせて出陣した。

「オウノー!? 戦争イツマデやってるデース!? ミーはもう疲れ果てたデース!!」
「ヘイ、ジョン!? ホームにゴー・バック(帰る)したいのはミー達も一緒デスヨ!!」
 このような感想を抱くのはもはやジョンと彼の戦友だけではないはずだ。
 戦争の最前線にいる兵士のほぼ全員が抱いている感情ではないだろうか。
 最初の頃は、クリスマス前には家に帰して貰えるというのが軍との約束だった。
 だが、今日は既にクリスマスを過ぎて数日後である。
 一体、戦争はいつになったら終わるのだろうか……。

 やがて新年が開ける頃になると戦争は激化して最前線で戦死者が急増した。
 しかも最前線にいるジョン達は冬場の厳しい時期での塹壕戦を強いられた。
 真夜中になると銃撃戦も一時休戦して各陣営が塹壕の中で年を明ける。

――Should auld acquaintance be forgot, and never brought to mind♪ Should auld acquaintance be forgot, and days of auld lang syne♪ ......

(訳:旧き友は忘れ去られていくものなのだろうか♪ 旧き友と過ごした日々も心から消えて無くなるものなのだろうか♪ ……)

 曲名:オールド・ラング・サイン Auld Lang Syne
 備考:元はスコットランド民謡。日本では「久しき昔」とも訳す。

「オウ!? このソングは、オールド・ラング・サイン、デース!?」
「ワッツ!?(なんだって!?) ニューイヤー(新年)のソング、デスカ!? オウノー、ハッピーニューイヤー!?(くぅ……。もう新年になっちまったのか!?)」
 塹壕内にいるジョンと戦友達は敵の陣地から新年を祝う曲が陽気に聴こえてきた。
 しかし相手が敵と雖も流石にその隙に攻撃を仕掛けに行く訳でもなく……。
 ジョン達も陽気になって新年を祝う曲を大合唱するのであった。

――Should auld acquaintance be forgot, and never brought to mind♪ Should auld acquaintance be forgot, and days of auld lang syne♪ ......

(訳:旧き友は忘れ去られていくものなのだろうか♪ 旧き友と過ごした日々も心から消えて無くなるものなのだろうか♪ ……)

 最終的に米国側が戦争の勝利を収めた後、最前線にいた兵士達は家に帰れた。
 しかしながら、その帰還の在り方というのがまた戦争時代らしい。
 ジョンが遺品となって帰宅すると、残っていた家族全員が号泣してしまった。

 了