「マギ・ジスタン式・ザ・福袋」

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

A巻「ときめきミクリアル」(未来編)

B巻「プロゲーマーたちの宴」(萬智禽編)

C巻「未来世紀ロボティクス」(アンナ&リュリュミア編)

D巻「科学的に飲もう!」(呉編)

E巻「カルラ研究を求めて」(マニフィカ編)

F巻「異世界人たちの休日@木竜温泉」(ジュディ&ビリー編)



A巻「ときめきミクリアル」(未来編)

 本当に久しぶりのイベントだよね。
 聖アスラ学院風紀委員会とイースタ大学異文化交流委員会の第2回交流会なんて。
 イースタの冬は寒くて震えるけれど、わたし、姫柳 未来(PC0023)は、今、別の意味でも震えている。

「さて、みんな、大学正門前に集合したわね? 今回はペアに分かれてイースタの街を巡る企画だから、さっそく各自、ペアになってくれる?」

 スノウ委員長(NPC)が指揮を取り、各自、言われた通りにペアへ分かれる。
 ちなみにペアは……最初から決められてなかったよね?

「サクラ(NPC)! 一緒にヒーローアニメのグッズでも見て回りませんか?」
「ええ、いいですね、アンナ(PC0046)さん! 旧交を温めましょう!」

 この二人、いつも仲良しだよね。

「トムロウ君(NPC)! ぜひ萌えグッズを漁りに行こう!」
「ヘイ、ユー! ノー、ノー、ジュディ(PC0032)とフードファイト、デース!」
「うわわわ! そんなー、萌えグッズがあああ!」
「WAHAHA!!」

 ふふ、コーテスがずるずると引きずられて連れて行かれるよ。

「(ちらちら)やれやれ、コーテス殿もトムロウ殿も先約ありか。……ならば、残り者同士、スノウ殿、アイスでも食べに行くか?」
「ええ。かまわないわ、萬智禽(PC0097)さん。ぜひ一緒に抹茶アイスでも食べに行きましょうか」

 スノウを連れて行った萬智禽は、巨大な目玉でぱちくりとウィンクした。
 コーテスを引きずって行ったジュディもグーサインをしてくれた。
 悪いね、みんなに気を遣わせてしまって……。

「ええと? 未来ちゃん、どうする? もう俺しか残ってないけれど?」
「そ、そうだね……。奇遇だよね、トムロウ? じゃあさ、アニメショップでも見たいんだけれど、案内してくれるかな?」
「お安い御用だぜ!」

***

 イースタのアニメショップ「アニメール」はとても賑やか。
 キャラたちのポップの宣伝が萌え萌えしてる。
 魔法少女のコスプレをした店員が接客してくれて、店内映像のアニメも流れていた。

「でさ、未来ちゃんはどんなの探しているのかな?」
「そうだね……。まずは、レアなゲームかな? イースタのここのお店だけで売っているゲームとかある?」

 二人でゲームコーナーへ行ってみた。

「ゲームって言ってもさ、色々あるよな? オンラインゲーム、コンシューマーゲーム、アーケードゲーム、ボードゲーム、カードゲーム……」
「うん。色々あるよね? ジャンルは問わないよ。マギ・ジスの方では買えないようなうんとレアな奴あるかな?」

 ふうむ、とトムロウはうなってしまった。

「ならば……。これだ!! 『カプモン』のカードゲーム、プレミアムデッキだ!」
「わあ!? すごい!! あれ、だよね……。ビリー(PC0096)とかが持っているあのカプセルモンスターたちみたいなのがゲーム化やアニメ化したあの人気の奴!?」

「そうそう、その『カプモン』だぜ! ここの店だけのレアデッキがあるんだ!」
「うん、それにしよう! でも、なぜ、カードゲームという選択だったのかな?」

「う、うん……。これなら、後で二人でもじっくり遊べるかな、って思って?」
「もう、トムロウったら!」

 ビリビリ!!
「うぎゃあ!!」
「あ、ごめん、トムロウが悪くないのに思わず電流を流しちゃったよ!!」

***

 カードゲームをショッピングバッグに入れて、今度はアニメコーナーに行ってみた。

「アニメのDVDも何か欲しいよね……。お勧めのある?」
「そうだな……。『カプモン』繋がりで『カプモン』のDVDを買ったらどうかな?」

「悪くはないんだけれど……。『カプモン』って大人気シリーズだから、DVD買ったらすごい量になるよね? っていうか、わたし、『カプモン』は最初のシーズンから最新まで全部TVで観ているんだよね……」
「そんな未来ちゃんにお勧めなのが、これだ!! アニメール特別版だけ発売のDVDがあるぜ!」

 トムロウから手渡されたDVDは、『カプモン大暴れ! アニメールで全員集合!』というタイトルみたいだけれど……。
 ふうん……。なるほど、TVでも劇場でも観られない特別版なんて本当にあるんだ?

「うん、これがいいと思う! じゃあ、レジ行こう!」
「おう!」

***

「……『カプモン・プレミアムデッキ』2セット、『カプモン特別版DVD』1本、合計3点のお買い上げで…………」

 わたしが財布を出そうとあたふたしていたそのとき……。
 トムロウがクレジットカードを出して、払おうとしてくれた。

「あ、トムロウ! 悪いよ、それ!」
「なあ〜に! いいってことよ! 俺、学生だが働いてるから! 俺からの友好の印だと思って受け取ってくれ!」

「え? 友好? 友達ってこと?」
「おう! コーテスにもおごったことあるしよ!」

 へ、へえ……。
 トムロウにとってのわたしって、コーテスみたいに友達枠なんだね……!?

 ともかく。
 トムロウにおごってもらってしまった。

「あのさ、この後も予定ない? もしよかったら、アイスでも食べに行かない? 今度はわたしがおごるから!」
「おう、いいね、アイス! 予定なんて、今日はいつでもがら空きだぜ!」

 トムロウお勧めのアイス屋さんがこの近くにあるらしい。
 トムロウは何も言わずにわたしの荷物を持ってくれて、二人でアイス屋へ向かった。

***

 二人でアイス屋に入ろうと路地を歩いていたそのとき……。
 サクラとアンナにばったり出くわした。

 荷物持ちをしているトムロウとわたしが仲良く歩いていたのを見て……。
 サクラは、手に抱えていた荷物をうっかり落としてしまった。
 アンナの方は、怒ってトムロウに詰め寄って来た。

「と、トムロウ……。あなたねえ、スケベな人間だとは思っていましたが、まさかここまでだったとは!! サクラというものがありながら、あなた、未来とデートですか!! わたくしの友人である未来までたぶらかすとは、覚悟はいいですわね?」

「ま、待ってくれよ、アンナちゃん!! ほ、ほら、今日は大学の委員会同士の交流会じゃないか? たまたま、俺と未来ちゃんが最後のペアで余ったから一緒に行動していたのさ!」

 わたしも急いで間に入る。

「そ、そうだよ、アンナ! トムロウは何も悪くないよ! アニメショップを案内してもらっただけだし!!」

 サクラが割り込む。

「ふうん……。そして、今度はそこのアイス屋にでも入って二人で仲良く一つのアイスでも食べる気でしたか? 失礼ですが、傍から見て、いちゃいちゃしていますよ!!」

 トムロウは真顔で反論する。

「ちょっと待ってくれよ、みんな!! なんかそういう言い方されると、まるで俺がサクラちゃんとも付き合っていて、未来ちゃんとも付き合っているみたいじゃねえかよ!」

「あら、違うのかしら?」

 アンナは絶対にそう思っているみたいなので未だに怒りが収まらないようだ。

「違うさ!」

 トムロウがそう言い返すと、今度はサクラがわなわなと震えていた。

「そうですね……。私も、そしてきっと未来さんも、トムロウさんのことを……。でも、まだどちらも付き合ってはいないわけです。では、未来さん……。私と勝負しませんか?」

 ふう、そうなるよね……。
 もともとトムロウとサクラって友人としての付き合いが長かったわけだから。
 サクラからすると邪魔者はわたしだ。

「いいけれど……。決闘だよね? 隠れてやる? 学校に見つかると、どちらの学校でもまずいはずだよね?」
「ええ。決闘です。ですが、ライゼン先生(NPC)の許可を取って交流試合という形にしましょう。それなら学則で罰されることはありません」

 トムロウは勝手に話を進めるなと怒るけれど、ごめん、これは譲れないんだよ。

***

 ライゼン先生は意外にもあっさりと許可をくれた。

 決闘場はライゼン先生の道場をお借りしている。
 本日の交流会のメンバーは全員集められた。
 もちろん、戦うのはわたしとサクラだけだけれど。

「ふむ。それでは、両大学の第2回交流会の交流試合を始めるとしよう。審判は私が務めよう。勝負のルールは単純。どちらかが戦闘不能になるか降参を言うまで!」

 魔法少女姿のわたしはトムロウから以前にもらった電気銃を構えた。
 トムロウのお守りはきっと、ご利益がある、はず……。

 サクラは忍び装束をまといクナイを両手に構えている。
 なんか、この子、すごい勢いでわたしをにらんでいるんだけれど……。

「では、始め!!」

 戦闘開始の合図と共に、わたしは動き回る。
 風のブースターで速度を上げて行く。

「行っくよお、サクラー!!」
「ふふ、未来さん……。速度なら負けません!!」

 当然、サクラには追いつかれる。
 何度も剣戟(銃撃?)を交わしながら、わたしはぐるぐると逃げ回る。

「ならば、秘伝の忍術……『視界封じの術』でどうです!!」

 サクラが怪しい忍術を放つと、わたしの視界は奪われ、真っ暗になった。
 もはや何も見ることができない……。

「勝負がつきましたね? いくらあなたが素早い魔法少女でも、視界を奪われたらもう動き回れないはずだわ!」

 サクラが全力速度で突っ込んで来た。
 わたしには……見えないけれど、物体の感覚が把握できる。
 なぜなら、わたしは、エレクトリック・スターター。
 電磁波を周辺に流せば、映像そのものは見えないけれど、物体間の感覚を掌握できるからね。

 向かって来る方向はお見通し。
 トムロウのかつての愛銃を構え、必殺の電磁砲攻撃を全力で迎え撃つ!!

 ぎゅぃぃぃん、ぎゅるぎゅるぎゅうぃぃぃぃん、どかあああああああああん!!

「きゃあああああああああああ!!」

 ごめん、サクラ。
 零距離で全力砲撃のクリティカルだ。
 痛くないわけ、ないよね……。

「勝負、そこまで!! 未来さんの勝ち!!」

***

 ぼろぼろになったサクラを介抱しに来たのはアンナとスノウだった。
 アンナはわんわんと泣いている。
 わたし、サクラだけでなく、アンナも傷つけちゃったんだね。

 一方、わたしのところにはトムロウが走って来た。

「未来ちゃん……。サクラちゃん相手に、無事で良かった……。でも俺、二人が傷つけ合うところなんて見たくはなかったよ! お願いだからもうこういうことは止めてくれないか?」

 そこに傍観していた人たちも加わる。

「よお、色男! 君のせいで未来さんとサクラさんは決闘までしてしまったんだよね? ラノベの主人公みたいに鈍感男をやっている場合じゃないよね?」

 珍しくもコーテスが怒っていた。

「ヘイ、トムロウ! ジュディもそう思いマース! 未来を取るか、サクラを取るか、はっきりするデース!! このままでは、生で殺し合いデース!!」

 ジュディからも追撃だ。

 そこでアンナとスノウに支えられながら、サクラが会話に入る。

「私は、決闘に敗れました……。未来さん、トムロウさんとお幸せに……。それと、ごめんなさい……。私、不器用だから、自分の気持ちに、こうでもしないと……決着が着かなったんです……」

 目玉の軍師も年上らしくまとめに入る。

「決闘で一応の決着はついたが、人の気持ちとはそんな簡単なものではないのだよ。サクラ殿が退くというなら退いてもいいさ。未来殿が進むというなら進めばいいさ。トムロウ殿、そなたは、はっきりしろ。各自、宿題ということで、この場は解散でどうだろう?」

 誰も異論も反論もない。
 わたしたちのトムロウを巡る決闘はここで終わった。

***

 翌日、わたしはトムロウからイースタ大学の裏山に呼ばれた。
 裏山には大木が立っている。
 樹齢何百年規模の大樹だ。

「どうしたの、トムロウ? 昨日の決闘のことで、もうわたしが嫌いになったの?」

 いいや、とトムロウは首を横に振る。

「昨夜、俺は真剣に考え抜いた。未来ちゃんを取るか、サクラちゃんを取るか。それで俺は決断を下した。未来ちゃん、君の好意には応えたい。一方、サクラちゃんはやはり同じ委員会で距離の近い友達までなんだ。だから、ひとまず、恋人としてお付き合いしてみてはどうだろう?」

 わたしは、迷うことなく……。

「トムロウ、これからもよろしくね! これからは恋人として!!」
「未来ちゃん、俺なんかと付き合ってくれてありがとう!」

 こうして、わたしたちは、熱いハグを交わし、大樹の下で結ばれたのであった。
 めでたし、めでたし、だが……。

「ところでさ、なんでこの場所でコクるの?」
「大樹の下でコクるとカップルが末永く結ばれるというからさ!」

「あ、ギャルゲーのネタだね?」
「そうそう。実は俺、ギャルゲー以外、女性とのお付き合い経験ないんで……」
 だよね。トムロウは彼女いない歴が実年齢だ。

「で、未来ちゃんはなんで俺を?」
「何度もパンツ見たでしょう? 責任取りなさいよ!」

「がびーん! 土下座、土下座!!」
「ふふーん、なんてね! 本当は、男らしくて優しいところが好きだよ!」

(A巻 終わり)

B巻「プロゲーマーたちの宴」(萬智禽編)

 私、萬智禽・サンチェック(PC0097)は、どれほどこの時を待ちに待ったことだろう。
 かの名作SLG『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』が大幅にアップデートされたのである!
 ゲーマーにとって、これはもはや遊ばない方が不可能なのだ。

 イースタのゲーセン「電光石火」にて大幅アップデートを記念したゲーム大会が開催されている。しかも開催日は一日だけでなく、一週間も!

 前回、聖アスラ学院とイースタ大学の第2回異文化交流会に参加したときにでも参加すれば良かったのだが……。生憎、そのとき、ゲームの相方であるトムロウ殿(NPC)を未来殿(PC0023)に譲ってしまったのだ。後日、改めてイースタに来訪することにしたのである。

***

 私が転送装置から降り、ゲーセン「電光石火」へ向かうと、トムロウ殿は既にいた。

「おう、萬智禽! 今日は優勝する勢いでやるが、やれそうか?」

 私も気合を込めて応答する。

「うむ、トムロウ殿! もはや優勝の二文字以外はこの目に入らないのだ! ……で、どうだ? その後、未来殿とは上手く行っているのか?」

 トムロウ殿は忌憚なく答える。

「へへ、ばっちりだぜ! 今度、未来ちゃんと『カプモン』のカードゲームをオンラインでプレイするんだ。その後、オンラインで遺跡巡りだぜ!!」

「ふはは。オンラインデートか? そなたらにも春が来たのだな。さて、受付で手続きでもしてウォームアップでもするぞ!」

***

 今回、色々な点がアップデートされている。
 気になることは多々あるが、私が今回の肝だと思っているのは……。
 何と言っても、PCにガイストちゃんが追加されたことなのだ!

 マギ・ジスタン世界界隈で知らない人はいないと思うが、念のため解説。
 ガイスト将軍とは、かつて科学と魔術が戦争していた頃の時代の科学側の将軍の一人だ。当時、最強の将軍の一人と言われていたが、戦争の早い段階で亡くなっていたので人々からも忘れ去られていた。
 ところがどっこい、歴史が伝えた事実はまっすぐではなかった。

 会ったのだよ。あのガイスト将軍に。
 先日、私たちはゴーストシェル遺跡へ心霊科学者を救助するために向かったのだ。将軍は心霊となり遺跡内で今でも戦争を続けていたという。私たちはやむを得ず、遺跡=要塞で将軍と対決するはめになったのだ。

「で、萬智禽? 今回、どのPCを使うか決めているか?」
「もちろん、ガイストちゃん(ガイスト将軍の萌えキャラ)なのだ!!」

***

 ガイストちゃんで登録した私たちは、軽くウォームアップをした。
 ゴーストシェル遺跡も今回のアップデートで加わっている。
 さっそく遺跡で部下たち(スケルトンロード・キング、霊体土偶、ドッペルゲンガー・ボムなど)相手に模擬戦を始めた。

 そろそろ体とか目玉とか諸々が温まってきたところで、いよいよ開戦なのだ。
 本日、私たちが参加しているブロックには、他、2チームの参戦があった。
 つまり、バトルロイヤルで2チームを下せば私たちの優勝(ブロックごと)である。

「ええと? 他のチームは……。ゲーム屋おやじのタクマ殿(NPC)!? トムロウ殿、あいつか?」
「な? よりによって、あのタクマか!? ゲーム店の小売商だが、プロゲーマーのおやじじゃねえかよ!! 強いぞ、気を付けろ!」

「ん? 使用PCは……マープルちゃん?」
「な!? しかもマープルちゃんだと!?」

 数秒後に気が付いたことだが、そのマープルちゃんというのは、聖アスラ学院の錬金術教授のマープル先生の若い頃だそうだ。先生は若い頃、戦争時代は魔術勢力の武将をしていたらしい。……って、先生いくつだ!?

「で、もう1チームは?……え? コーテス殿(NPC)にトーマス・マックナイト(NPC)殿?……ああ、あの風紀の萌え男コーテスに『3番目の魔術師事件』でお世話になったトーマス殿だな?」
「そうか。コーテスの奴、連絡がないと思ったら、敵チームとして参戦してやがったか。しかもトーマスまで連れて……」

「それで、使用PCは……は!? ウマドラちゃんって!?」
「ウマドラちゃん……。ウマウマドラゴンのことか? あれ? ウマドラって、戦争時代の武将ではないよな? は!! 思い出したぞ!! アップデートで追加されたネタキャラじゃねえかよ!!」

『それでは、これよりSLG『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』の大幅アップデートを祝福した記念のゲーム大会を始めます!! 各自、位置について、レディ・セット・ゴオオオオオオ!!』

 開戦の合図が会場に響き渡った。
 いよいよ死闘が始まるのだ!

***

 とっとぅ、とるるる、とっとぅ、とるるる、るるる、じゃかじゃ、じゃんじゃんじゃん♪

 戦闘シーンのBGMが沙漠一帯の画面内で響き渡る。
 対戦の舞台はゴーストシェル遺跡になった。
 私たちのチームが要塞を守り抜けば私たちの勝ち。
 あるいは要塞が撃破されれば、撃破したタクマチームかコーテスチームの勝ちになる。

『ゲームは4セットあるのだ。つまり地上、B1、B2、B3のステージがあり、B3崩壊前に敵を撃破すれば良いのだが……。どうしたものか、トムロウ殿?』
『最初のステージは様子見でいいと思う』
『そうだな。どちらのチームが潰しやすそうか観察しよう』

 ステージ配置はこうである。
 私たちのチームは、ゲートを守るスケルトンロード・キングがここでのPCだ。
(ボスのガイストちゃんはまだ出さない)

 対して、タクマ殿のマープルちゃんとコーテス殿のウマドラが遺跡へ侵入しにやってくる。道中、第三勢力のザコNPCなんかもうろついている。

 ぴこん!
 敵チームから通信が来たのだ!

『やあ、トムロウ君に萬智禽さん! ガイストちゃんとはまた渋い選択だね? 僕らは、あのウマドラさ!! んじゃ、優勝はもらうんで!!』
『はろはろ!! 皆さんの大好きな錬金術師、トーマス・マックナイトです!! 悪いけれど、僕たち、今日は負ける気がしないんですよね!!』

『むむ!! コーテス殿にトーマス殿か!? 返り討ちにしてくれるのだ!!』

 最初に動いたのはウマドラちゃんだった。
 きゃおおお、と火を噴いて周辺の魔物を一撃で撃破。
 その後も猛進が続き、あっという間にゲート前まで迫って来た。

『あ、あれ? トムロウ殿!! 話が違うぞ! あのウマドラ、ネタキャラだぞ!?』
『ま、操っているのはコーテスだ。それなりの腕前がある奴がプレイすればネタキャラも化けるさ。それとさ、ネタキャラだからと言って即弱いわけじゃねえよ? 使いこなせれば、その辺のメインキャラよりもよっぽど強いぜ?』

 まずいな……。
 ザコNPCたちは役立たない。
 周辺のスケルトンロードたちもじわじわとやられている。

 ウマドラとキングが激戦をしていたところ……。

 ひゅううううううううううん、ちゅどおおおおおおおん!!
 どがどがどがあああああああああああああああん!!

『うお!? なんだ!?』

 画面が激しい爆撃音とフラッシュに見舞われたかと思ったら……。
 キングが倒され、地上ステージが突破されていたのではないか!!

 画面には、防御態勢のウマドラと、空から颯爽と舞い降りたマープルちゃんがいた。

 タクマ殿から通信が入った。

『いやあ、悪いね? 1セット目、楽勝だったわ? 2セット目から本気出してくれる? おたくら、本気出してないでしょ?』

『おのれ、タクマ殿め!! さすがに1セット目は様子見がバレたか。しかも、どこにいたのだ? 画面内に映らず、いきなりの奇襲かよ!?』
『どうやら、タクマの方もマープルちゃんを使いこなしているみてえだな? マープルちゃん、いや、マープル先生で思い出したが……。たしか、戦争当時も奇襲とか爆撃が得意な『地獄のマープル』って言われていたよな?』

***

『2セット目は……。遺跡内へ侵入されたわけだが、B1は魔法陣があったのだな? トムロウ殿、マープルちゃんとウマドラちゃんを魔法陣へ追い込めないか? 霊体土偶は4体いるので、2体ずつ操って、誘導したらどうだろう?』
『おう! んじゃ、俺が火と水で。おまえが土と風を頼む!』

 かくして2セット目が始まったわけだが……。
 このセットでは、マープルちゃんから動いた。

『爆・烈・滅!! 萌え萌えぼおおおおおおおおおおむ!!』

 ちゅどどどどどん、どががががん、どっかああああああああああああああん!!

『な!? バカな!?』

 あろうことか、マープルちゃんはこの狭い中で最強練度の爆撃魔術を唱えたのだ!!
 当然、地面も天井もめちゃくちゃになった。
 マープルちゃんが狙っていたのは、魔法陣でも土偶でもウマドラでもなく、地面だ。
 地面と天井がめちゃくちゃになれば、魔法陣は発動のしようがないからだ!
 しかも今の爆撃でトムロウ殿の水土偶と私の土土偶も倒された。

『あぶねー!? ウマドラちゃんがやられるところだったよ……。でも助かった! 土偶でも撃破するか!』

 奴らは連携を取っていたわけではないが、コーテスチームが動いた。
 ウマドラのマシンガンジャブ格闘攻撃で私の風の霊体土偶が消し飛んだ!

『すまん、トムロウ殿!! 私はゲームオーバーだ!!』
『任せろ!! 俺がやってやる!!』

 その後、トムロウ殿は敵将よりもスペックの劣る火の土偶でウマドラちゃんとマープルちゃん相手によく戦った。
 がんばったが、スペックの差であえなく倒され、2セット目も負けてしまった。

***

 3セット目、開始直後……。
 タクマ殿から会場全体へ通信が入った。
 マープルちゃんは右手を高く掲げ、3本の指を出していた。

『ハットトリック! 3セット目で決めてやるよ!!』

 会場が沸いた。
 それもそうだ。
 この流れだと、タクマ殿の3連勝で優勝が決まる勢いだからな。
 さらにウマドラちゃんも同じ宣言をして、会場がさらに沸く。

『ならば、私共も宣言しよう! 3セット目で勝つ!! 優勝なのだ!!』

 会場がさらにさらに沸いた。
 もはや引き返せまい。

 ゲーム開始直後……。
 ウマドラちゃんがマープルちゃんに仕掛けた。
 マープルちゃんが猛反撃をする。
 そこにウマドラちゃんとマープルちゃんのドッペルゲンガーが湧いた。

 しかし勝負は一瞬でついた。
 本気を出したタクマ殿が全員を叩きのめしてしまったのだ!!

『ウソ!! 即死!?』

 コーテスチームが撤退!?

『いんふぇるのおおおお、すらあああああああしゅううううう!!』

 入れ替わりにガイストちゃん登場!!
 無敵の科学将軍の登場により、ガイスト軍のゾンビたちが湧いた!
 99回必殺斬撃「インフェルノ・スラッシュ」を「転移術」からマープルちゃんに叩きこんだのだ!!

 マープルちゃんは仕込み杖を抜刀した。
 ガイストちゃんの二刀流と剣戟を交わし、激戦しているのだ!
 そこでミラージュ・ボムが現れ、大爆発!!

『使うぞ!! 『将軍の激励』!!』

 私は最強のカードを引いた。
 まるであのときの再来だ。
 将軍の部下が全員復活!
 しかし、タクマ殿はなんてことはなかった。
 爆撃、斬撃、狙撃を嵐のように使いこなし、部下らを即座に撃破!!

『まずいぞ、萬智禽!! もう手はないのか!?』

 きゃおおおおおおおおお!!
 ウマドラちゃん、まさかの復活!
 コーテス殿が完全復活の隠しスキルを使い、戦線に復帰!

『うまどらああああ、びいいいいいいいいいいいいいいいむ・改!!』

 最強版のウマドラビームが撃たれ、マープルちゃんに直撃!

『もらったあ!! いんふぇるのおおおお……!!』

 弱体化したマープルちゃんを一気に滅する!
 示し合わせたわけではないが、ウマドラちゃんも最強のブロー連打で追撃か!?

 どかあああああああああん!!
 マープルちゃんが死亡なのだ。

『コーテス殿……。さすがだな? ここで会ったが百年目か……』
『ふはは! この時を待っていた、目玉の軍師よ……』

 と、ここで最強バトルが繰り広げられるのか、と思ったら……。

『あ、ごめん! と、といれ……もれるうううう!!』

 コーテス殿があろうことか戦線離脱した。
 しかもトーマス殿が連れ×××のため離脱。
 トイレ休憩の時間は既になく、敵陣のトイレ撤退のため、私たちが優勝した。

『うおおお!! 素晴らしい戦いでしたあああ!! 勝者、ガイストちゃんチーム!! 優勝、おめでとうー!!』

 というわけで、最後はあっけなく優勝。
 私たちは会場全体やタクマ殿らからも祝福され、主催者から記念品も頂いた。
 ま、コーテス殿らとの勝負は次回にお預けだな。
 皆の者、熱いゲームファイトをありがとう!!

(B巻 終わり)

C巻「未来世紀ロボティクス」(アンナ&リュリュミア編)

●アンナサイド

 突然ですが、わたくし、アンナ・ラクシミリア(PC0046)は機械獣相手に雪原で戦闘中ですわ!

「うがおおおおおお!!」

 おっと、威嚇の波動砲攻撃なんてくらいません!
 わたくしが乗っている「ロボティクス」という巨大ロボのスペックでは難なく回避。

「行きますわよおおおおお!! ロボティクス・クラッシャアアア・パアアアンチ!!」

 どがどがどがあああああああああああああああん!!

 狼型機械獣ごときに後れを取るわたくしではありませんが、最近、増えましたね。
 わたくしが哨戒している雪山の基地周辺になぜか敵勢が群がっていますわ。
 おそらく、基地の位置がバレたのかもしれませんわね。

***

『で、あるからして……。ロケットランチャー・パンチの回転攻撃計算式は、三角関数の公式を応用することで……』

 わたくしは今、ノーザンランド大学で大学生をしております。
 聖アスラ学院には残らず、進学先はノーザンランド大学にしたのでした。
 専攻は「ロボット戦闘学」ですので、今は「ロボット攻撃論」の授業を受けているところですわ。

 授業が終わったので、わたくしは帰宅しますの。
 今日は、午前だけの授業ですから、ゆっくりしますわ。
 あら? 組織の事務員(=クラスメイト)がわたくしに話がありますの? 手招きされていますわ?

「アンナさん? 悪いけれど、ロボティクス・ナイツの基地に来てくれる? 博士が、話があるみたいだけれど……」
「……。了解しましたわ。お仕事なら仕方がありませんわね」

 わたくしは二足の草鞋を履いております。
 まず、ノーザンランド大学の学生として。
 そして、ロボティクス・ナイツという正義の戦闘組織のパイロットとして。

***

 基地に着くと、呉博士(PC0101)がわたくしのロボティクスのメンテナンスをしておりました。

「あら? 呉博士のお話って?」

 ガガガガガ、と何かを削って火花を散らしていた呉は、わたくしの方に向き直りました。

「ん? アンナさん? いや、俺の方から話はないけれど? 強いて言えば、このロボティクスの装甲を強化しておいたから! 先日の狼型機械獣との戦闘で、ちいと装甲がやられていたからな……」

 呉が強化してくれた装甲を見学して、お礼を述べた後、わたくしは指令室へ行きました。
 そこには案の定、タチバナ博士(NPC)が待機しておりました。
 ちなみに彼がこの組織のボスですわ。

「よく来たね、アンナさん。大事な話があるんだ。まずは、マニフィカ博士(PC0034)からの報告を見てもらいたい……」

 マニフィカ博士、いや、あのマニフィカは魔術博物学の分野で博士になり、現在はノーザンランド大学で教えていられます。ですが本業は、ここの組織で敵勢の分析などをする主任博士の一人ですわ。

「まず、この写真なんだがね……」

 タチバナ博士がサイバーフォンをぴぴっと動かすと、部屋が暗くなり、白い壁に写真が映されました。

「カマイタチ型機械獣という新型が発見された……。マニフィカ博士によると、これはかつてイースタという国家があった当時の東洋の妖怪を機械獣で再現したものだそうだ。カマイタチという妖怪がベースとなっているので、風属性の斬撃攻撃などを得意として、なかなかにやっかいなのだ」

「そうですの……。新型ですか。マニフィカ博士の分析には感謝しますが、もしかして次の任務と関係あるのですか?」

 タチバナ博士は話を続けます。

「うむ。トランシルバニラ地区でこの妖怪の機械獣が出るんだ……。北の魔女ドロシアの元城下町を拠点としているらしい。周辺に残っている村が被害に遭っている。できれば、すぐにでも出撃して、カマイタチ型機械獣を退治してもらいたい」

 そういうことですの?

「ええ、かまいませんわ。今からでも出撃でいいですわよ」

 そして、もう一点、と博士は付け加えます。

「君には苦しい話になるかもしれないが、確証がないのだが……」

 何やら言い淀(よど)んでいますが、わたくしは促しました。

「君のかつての友人でリュリュミア(PC0015)さんという人物がいたよね? 大戦で生き別れになった彼女のことだが……。実はね、トランシルバニラ地区で目撃情報が少々、寄せられているのだ……。だが、皮肉なことにも、機械獣側に加勢して暴れていたとも言われている。真偽のほどはわからないが、トランシルバニラ地区へ出撃する際には十分に気を付けたまえ!」

「ラジャですわ! ロボティクス・ナイツ1号、アンナ、出撃致しますわ!!」

***

 わたくしは、ロボティクスに乗り込み、出動すると、雪山上空を高速度で飛行しました。
 かつてマギ・ジスタン世界が栄えていた頃、真下の雪山だったところには町がいくつもありました。
 いいえ、ここの地区だけではありません。
 北の魔女ドロシアへ特急便を届けたこともありましたが、あの城下町すら滅んでいます。

 マギ・ジスタン世界全土で戦争がありました。
 科学対魔術という対立図式はもはや過去のことで、現在は宇宙人に占拠されています。
 機械獣という宇宙人がまず、マギ・ジスを崩壊させました。
 その後、侵略が続き、残るノーザンランドのみがマギ・ジスタン世界の今の領土です。

 わたくしは、偶然にもノーザンランド大学へ進学していましたので、助かりました。
 呉やマニフィカもこちらに来ていたので無事でした。
 それ以外の当時、親しかった人たちは今、どうなっているのか知りません。
 例えば、スノウ委員長(NPC)やシルフィー隊長(NPC)などは戦死されたとも聞きますが確かではありません。

 そして、リュリュミア……。
 彼女は今、どこで、何をしているのでしょう?
 トランシルバニラ地区で暴れていた、という情報が悪い情報でないと良いのですが……。

 ロボティクスの飛行能力であれば、数分もかからずトランシルバニラ地区へ着けます。
 地区では滅びた城下町をあのカマイタチ型機械獣がイタチ型機械獣を連れて暴れていました。……リュリュミアは、いません。

『そこの機械獣たち!! よくも周辺の町で暴れましたわね! 覚悟しなさない!!』

 わたくしは、開戦の合図として呼びかけます。
 もっとも、機械獣には、わたくしたちの言葉は通じません。
 おそらく高度な言語能力を持っていない宇宙人なのでしょう。
 ですが、戦闘能力がずば抜けていますので、色々な異世界が壊滅させられたと聞きます。

『うきゃきゃきゃ!!』

 手下のイタチ型機械獣が3体、同時に飛びかかってきます。
 なんの!!

『これでもくらって、散りなさい!!』

「ロボティクス・クラスター・ビーム」を撃ち込みますわ!!
 拡散したビーム光線がイタチ型機械獣を襲い、木端微塵にします。

 どががが、どっがああああああああああああん!!

『あなたの部下は口ほどにもないですわね? いざ、行きますわ!!』

 速攻で切り捨てた方が良いでしょう。
「ロボティクス・サーベル」を抜刀して、わたくしは切り込みます!

 かきぃぃぃん!!

 鈍い金属音が響き、カマイタチ型機械獣は真剣を白刃取りしました。
 そして反撃の連続ブロー攻撃が……!!

『きゃあああああ!!』

 不覚にもくらってしまいましたわ!!
 ですが、強化された装甲のおかげでほぼ何ともありません。
 ちなみにこのロボティクスは操縦桿が身体能力と直結しています。
 つまり、わたくしは機内でも格闘の動きで動いています。
 当然、ダメージを受けるとわたくしの身体が直にダメージを受けます。

『カーマ、カマカマカマ!!』

 怪しい詠唱と共に、風の疾風斬撃が飛び散ります!

『迎え撃ちますわよおおおおおおおおお!!』

 わたくしも負けまいと、「ロボティクス・バス―カー」で砲撃!

 びりびりびり、ばりばりばり、どががががががが……!!

 疾風斬撃とバズーカー砲の拮抗した押し合いが始まりました。
 敵勢もなかなかの科学力を持っていますが、わたくしたちも伊達ではありませんわ!!

 どがががああああん、どがどが、どっかあああああああああああああん!!

『きゃあああああ!!』

 わたくしは爆発に吹き飛ばされ、周辺の森に叩きつけられました。
 漏れた疾風斬撃も何発かくらってしまったらしく、腕回りから肩回りが痛いです。

 もくもくと白い煙が立ち上がり……。
 そこにはカマイタチ型機械獣の残骸だけが残っていました。
 勝ったのですわね!

 その後、呉博士から通信が入り、残骸を後で仲間が回収しに来るとのこと。
 リサイクルしたパーツはロボティクスの強化にも使えます。
 わたくしは、周辺の街に敵のボスを倒したことを報告することになりました。

 ぴこん! ぴこん!

 レーダーが反応していますわ?
 あら、謎のロボがこちらへ接近中?

 すぐにタチバナ博士からの通信に切り替わりました。

『アンナさん! そちらにかなりの力を持った謎の機械獣が向かっている!! こちらから増援を送るからそれまで持ちこたえてくれ! あるいは、もし、無理ならすぐに逃げてくれ!! 反応が今までの奴らとは違い過ぎるんだ!!』
『ラジャですわ!!』

 そうですの?
 ボスを倒した後のボス連戦はちょっときついですが……。
 これは、敵将の首を刈るチャンスでもありますわね?

 そして、わたくしが目にしたものは……。
 世にも信じられないことが起こりました。

『きゃおおおおおぉ〜!! うがああああああぁ〜!! うふふぅ〜!!』

 巨大な植物の機械獣です。
 全身が緑色で、頭上にラフレシアのような花を咲かせています。
 また、全身からは触手のような蔦まで無数に生えています。

『あ、あなたは……!?』

 こんな姿になっていたとしても、あの雰囲気というか仕草でわかります。
 彼女は、わたくしのかつての友人、リュリュミアの成れの果ての姿ではありませんか!!

『あんにゃぁ〜!? うふふぅ〜!!』

 問答無用で攻撃して来ました。
 無数の蔦触手がわたくしを襲います!!

『な、止めてください!! こら、リュリュミア!!』

 サーベルで蔦をぱしぱしと切り捨てますが、彼女は容赦がありません。
 しかもわたくしは、相手が『敵』とは思えないので、油断していたのかもしれません。
 気が付いたら、足元を青いバラの花と蔦で囲まれていました!

『し、しまったですわ!!』

 ぐるぐる巻きのバラがわたくしのロボティクスを苛(さいな)めます。
 蔦がきりきりと引き締まり、わたくしの身体を千切ろうとします……。

『うひゃひゃぁ〜!! たべてぇ、やるうぅ!!』

 今のリュリュミアは正気を失っています。
 何を言っても、やっても無駄でしょう。
 ですが、わたくしは、抵抗しないわけにもいきません!

 それにしても、もはや身体の自由が利きません。
 かくなる上は、自爆しか……。

 ひゅううううううううううん、どっかあああああああん!!
 どがががががあああああああああああん!!

 天の助けでしょうか?
 いや、仲間の助けです。
 わたくしが自爆する前に、仲間の戦闘機がリュリュミアを爆撃してくれました。

『アンナさん、無事か!?』

 仲間たちから通信が入り、「無事ですわ」とわたくしは即座に応答しました。

『うふふぅ〜!? このぉ、しょうぶはあぁ、おあずけけけけぇ!!』

 どがああがああああああああああん!!
 リュリュミアは土を爆発させ、土中に潜り逃げてしまいました。

 ともかく、早いところ基地へ帰って現状を報告しなくてはなりません。
 周辺の町への対応は増援の仲間たちにお願いしました。

●リュリュミアサイド

 わたしはぁ……。
 気が付いたときぃ、なぜかぁ、アンナと戦っていたのよねぇ。

 なんでぇ、アンナとぉ、わたしがぁ、戦うのぉ?
 変なロボに乗ってぇ、いるけれどぉ?
 あれぇ、アンナよねぇ?

 うがあああああああああああああああ!!
 ぐるぐるぐるぐる!?

 ううん、頭、痛いけれどぉ!?
 あいつを、やっちまえばぁ、いいのぉ!?

 うわあああん!?
 つおいよぉ!?

 変な飛行機まで出て来たよぉ?
 うわあああい、どががあああん!!

 ぴぴぴ。
 指令が入りましたぁ〜!

 なになに、帰還せよぉってことぉ?
 言葉がよくわからないよぉ?

 ええぃ、逃げろぉ、逃げろぉ!!

***

 話はぁ、だいぶ前に遡るんだけれどぉ。
 それなりに平和だったぁ、マギ・ジスタン世界でぇ、戦争が起きたのよねぇ。

 科学対魔術なんてぇ、古い戦争もあった世界だったけれどぉ。
 今回の戦争はぁ、宇宙からの侵略戦争だったのよねぇ。

 変なぁ、宇宙人がぁ、現れてぇ、鉄の獣を世界中にばらまいてぇ、あっという間に敗戦!
 まずぅ、マギ・ジスがぁ、陥落したのがぁ、痛かったわよねぇ?
 機械獣たちはぁ、文明のレベルはぁ、あまり高くないように見えたけれどぉ、戦争慣れしているわねぇ?

 もちろん、当時ぃ、わたしが手伝っていたぁ、現代魔術研究所も滅びたわぁ。
 あれは忘れもしない日だったわぁ。
 いきなり敵襲が来てぇ、研究所が大爆発起こしたのよねぇ。

 研究所は魔術のバリアとかぁ、それなりに強化していたわよねぇ。
 でもねぇ、そのバリアすらねぇ、恐ろしい科学兵器前にはぁ、あっけなかったわぁ。

 どがどがどがあああああああああああああん!!
 みたいなぁ、爆撃音を聞いたかと思ったらぁ、あっという間に火の海だったわぁ。

 おっきな機械獣たちがぞろぞろと攻めて来てぇ、即制圧だったわねぇ。
 シルフィー隊長が死んでぇ、魔炎(NPC)もエリス(NPC)も死んでぇ、パフィン(NPC)もマープル先生(NPC)も死んでぇ、みんな死んでぇ、いよいよ、わたしだけになったのよぉ。

 こいつを連れて行け、みたいな命令が敵に下ったのよねぇ?
 戦いに疲れてぇ、動けなくなったわたしはぁ、捕縛されてぇ、基地に連れて行かれたわぁ。

 きっとひどいことされるはずなのでぇ、何度もぉ、逃げようとしたわぁ。
 でもぉ、相手はぁ、機械獣なのでぇ、考え方がおかしかったのよねぇ!

 わたしはぁ、実験室に連れていかれてぇ、頭にぃ、変な装置を付けられたのぉ?
 でねぇ、びびびびび、と変な光線で洗脳された……らしいわねぇ?

 その後も、変な植物や機械と合成するマシーンに入れられたわぁ。
 びびびびびび、とかぁ、変な音がしてぇ、気が付いたらぁ、今の機械獣の姿になっていたわぁ?

 わたしはぁ、もうぅ、リュリュミアじゃないのよねぇ……。
 植物型機械獣に生まれ変わったのよぉ……。
 うへぇい!! 暴れてやるぅ、暴れてやるぅ、うひゃひゃあぁぁぁ!!

***

 それからぁ、だいぶぅ、時間がぁ、経ったようねぇ?
 機械獣になったわたしはぁ、たびたびぃ、暴れる指令を受けていたわぁ?

 マギ・ジスタン世界最後の拠点であるノーザンランドを落したらぁ、機械獣たちのぉ、勝利なようねぇ……。

 でもぉ、ノーザンランドにはぁ、ロボティクス・ナイツという組織があったのよぉ。
 その名の通りぃ、今のご時勢、本気でぇ、ロボットで戦って世界平和とかぁ、信じているぅ、ちょっとアレな団体よねぇ?

 その組織が邪魔ってことよねぇ?
 でねぇ、わたしぃ、驚いたのぉ……。
 ロボティクス・ナイツという組織で主力のパイロットがぁ、あのぉ、アンナ〜!?

 うふふぅ〜。
 困ったわねぇ?
 お姉さん、もう見せる顔がないわよぉ!?
 今ではぁ、わたしはぁ、立派な悪の結社の一員よぉ?
 もうぉ、アンナとはぁ、昔みたいに仲良くすることがぁ、できないのよねぇ?

 でぇ、わたしはぁ、そのアンナと会ってしまったぁ、あの日の戦闘以後ぉ……。
 なぜかぁ、待機命令が出たわぁ?
 言葉はわからないけれぉ、とにかくぅ、出撃するなぁ、と!

 代わりに、狼とかぁ、狐とかぁ、変な機械獣がぁ、何度かロボティクス・ナイツの基地を襲ったけれどぉ、返り討ちみたいねぇ?

 カマイタチ型機械獣を失ったのはぁ、かなりのぉ、痛手だったようねぇ?
 イースタもぉ、陥落したのでぇ、妖怪をかっさらって来たらしいのよねぇ?
 って、ことはぁ、今後も妖怪ネタがじゃんじゃかあるのかなぁ?
 うふふぅ〜。お姉さん、もう悪い子になっちゃったからぁ、わからな〜い!!

***

 その後もぉ、来る日もぉ、来る日もぉ、妖怪型機械獣が投入されたらしいわねぇ。
 でも何度も投入してもぉ、基地そのものを襲ってもぉ、連敗。
 アンナというエースパイロットを倒さないとぉ、勝利はないというぅ、結論になったようねぇ?

 対アンナ戦ということでぇ、わたしはぁ、またぁ、改造されてしまったわぁ〜。
 びりびりびり、がががががが、どががあああん、という音が聞こえたと思ったらぁ、気が付いたらぁ、わたしはぁ、最強のぉ、妖怪植物型機械獣にぃ、なってぇ、いたわぁ?

 うふふぅ〜!!
 いよいよ、最終決戦ねぇ!?
 アンナ、決着を着けるわよぉ!?

●決戦

 ここのところ、機械獣との戦闘が激化していました。
 リュリュミアらしき敵を撤退させた後から、かしらね?

 敵勢はわたくしとリュリュミアが旧知の仲であることに感づいたのでしょう。
 なぜかリュリュミアを引っ込めて、その代わりに妖怪型機械獣などを大量に投入して来ました。

 マニフィカ博士曰はく、その妖怪たちはイースタから連れて来られた者たちだそうです。
 イースタといえば、かつてはイースタ大学がありトムロウ(NPC)やサクラ(NPC)といった友人たちもいたものですが、あの国が滅びてからはその後を知りません。

 それでわたくしたちは、妖怪型相手に何度も激戦をくぐり抜けました。
 ぬりかべ型、ぬらりひょん型、いったんもめん型、猫娘型、目玉のおやじ型とか、色々いたのですが、(なんかのマンガみたいですが)一通り倒しました。

 それにしても、やはり、ロボティクス・ナイツの基地の位置は割れていたのでしょうね。
 敵勢も切羽詰まっているのでしょうか、もはや、基地陥落を集中狙いです。
 返り討ちにできたから良いものの、もし、わたくしが一度でも負けていたら……と、考えると、さすがにひやっとしますわね。

 ところで、呉博士がわたくしに話があるようです。

「アンナさん! 俺たち、メカニックチームが完成させたロボティクスMK-2(まーく・つぅ)を受け取ってもらえるかな? 今回のヴァージョンアップでかなり強くなったので、これなら……例え、あのリュリュミアさんと再戦することになっても戦えるはずだ!!」

 改造されたロボティクスMK-2は、黒塗りの機体でした。(前作は白塗り)
 重火器が多彩に装備されていて、戦闘機に変形もできます。
 この火力ならば、あのリュリュミアでさえも倒すことができることでしょう。
(あまりこういうことは言いたくはありませんが……)

 びー、びー、びー!!
 警報音が基地に響き渡りました。
 マニフィカ博士が血相を変えて走って来ました。

「アンナさん、出撃ですわよ!! リュリュミアさんが……攻めて来ましたわ!!」

***

『ロボティクスMK-2、アンナ、出撃しますわ!!』

 わたくしは、さっそくMK-2に乗り込み、ジェット噴射で基地から出撃しました。
 飛行移動して迎えるまでもなく、リュリュミア? はすぐそこまでやって来ていました。
 しかも今回は、多数のザコを連れています。

『アンナさん、わたくしたちも出ますわ! ザコはお任せを!!』

 マニフィカと数名は戦闘機に乗り込みザコを相手にします。
(呉は現場修理の担当のようです)

 わたくしの相手は、もちろん、ボスの……。

『あら? リュリュミア、あなた!? 整形でもしたのかしら? お姿が変ね?』
『きゃおおおおおおおおおおおお!!』

 リュリュミアは、妖怪植物型機械獣になっていました。
 ラフレシアよりも怪しい花が全身に咲き乱れ、ハエトリソウのような蔦を無数に持っています。
 おそらくリュリュミアの方もさらに強くなる改造を施されたのでしょう。
 きゃおおお、とか吠えていますし、もはや完全に正気を失っていますわね。

 ですが、負けるわけにはいきません!!

『最後の決戦、行きますわよおおおおお!!』
『うひゃひゃあぁぁぁ!!』

 まずはサーベルでの白兵戦です。
 MK-2になって大剣になりました。
 巨大なビームの剣を振り落とします!

『うぎゃあああ!!』

 しかし、あっさりと、リュリュミアが斬れてしまいました。
 MK-2のスペックのお陰でしょうか?
 いや、リュリュミアがこんなに弱いはずはないですわ!

 サーベルで真っ二つになったリュリュミアは即座に再生しました。
 妖怪植物型ですから、生命力がもはやこの世のものではないのでしょう。

 しゅるしゅるしゅる!!
 気が付くと、妖怪植物がわたくしのロボティクスの足に絡んでいます。
 今、やられたのは、そのおとりだったのでしょう。
 彼女は、正気は失っていても、戦意は高揚しています。

 じわじわと、妖怪植物がロボティクスを蝕みます。
 かつての彼女のスキルの「腐食循環」の応用でしょうか。
 ばりばりと、ロボティクスの装甲が腐って行きます。

 ですが、こうなることは計算済み。
 ぎりぎりまで相手を引き寄せて……。

『MK-2、戦闘機ちぇええええええええええんじ!!』

 下半身を切り捨て、上半身がジェット噴射して、戦闘機に変形します!!
 そして、大量の火力を爆撃しますわよ!!

 どがががががあああああああああああん!!
 どかかあああああああああああああああああああああん!!

 最強レベルの火力で爆撃の限りを尽くし、燃やし切りました……。
 基本的に相手が植物であれば、火力には弱いはずです。

 もくもくと煙が立ち上がり……。
 そこには、半壊したリュリュミアがいました。

『ぎゃあああああああああす!!』

 激怒しています!
 リュリュミアは青バラの鞭の触手を生やし、打撃の連打攻撃をしてきます。

 どかかあああああああああああああああああああああん!!

『きゃあああああああああ!!』

 MK-2の機体が半壊しました。
 もはや、なすべき術は……。

『……自爆しますわ!!』

 突っ込んで行くしかないですわ!!
 まず、蔦が絡んでいたロボティクスの下半身が爆発しました。
 これでリュリュミアには蔦から爆撃が伝わります。

 さらに上半身だった戦闘機で……。
 このまま彼女の中心部に突っ込んで行けば……!!

 通信から色々な人の声が入ります。
 タチバナ博士が、呉博士が、マニフィカ博士が、他の仲間たちが、皆、自爆は止めろと、叫んでいます。

 ふふ、ここで死ぬわけではありませんわ!
 ご安心を!!

 どがどがどがががああああああああああああん!!
 どかああああああああああああああああああああああああああああん!!

 機体は完全に破壊され、機械獣も装甲が剥がれ落ちました。
 今、ここには、生身のわたくしとリュリュミアが対峙しているだけです。

「リュリュミア……。あなたとこういう関係になるのは不本意ですわ! ですが……。世界平和のため!! あなたを倒します!!」
「うふふぅ〜!! 世界平和なんてうそよぉ!! そんなおバカな子はぁ、わたしがお仕置きしてやるから覚悟よぉ〜!!」

 こうして、わたくしたちは、お互いの全てをぶつけて…………。

 どががががががああああああああああああああああああああああああああああん!!

●覚醒

「ねえ? アンナ? 起きてよ……!! 起きてってば!!」

 わたくしを揺らすのは、学友の姫柳 未来(PC0023)でした。

「あ、あれ!? 妖怪植物型機械獣のリュリュミアは!? ロボティクスは? 未来、あなた死んだはずでは!?」

 未来は、あきれた顔でため息をつきました。

「あのねぇ……。夢の話? 自習時間が終わったらから次の教室に移動するよ?」

 どうやら……。
 夢を見ていたようですわね?

 わたくしは、今、聖アスラ学院で高校生をしています。
 現在は、本日授業担当の先生が休みなため、自習時間だったようです。

 ここだけの話ですが、わたくしは今、『未来世紀ロボティクス』というラノベにハマっていますわ。今、10巻まで行きました。もはや、この本を読むのがわたくしの日課になっていて、自習時間までも読んでしまっています。ええ、国語のお勉強という名目ですわよ!

 さて、次の教室に移動しますか……。

***

「リュリュミアさん!? ねえ、起きてえ? 隊長が呼んどるで!」

 あれぇ? ん? ビリー(PC0096)?
 ここはぁ……。
 現代魔術研究所?

「は!? アンナはぁ!? ロボティクスに乗ったアンナと戦っている最中だったわよねぇ? ビリーはぁ、死んだはずでわぁ!?」

 ふう、とビリーはため息をつくわねぇ?

「あのなあ……。仕事の休憩時間中にラノベ読むのはかまわんが、あんさん、寝ぼけてんな? ボクはこの通り、死んでおらんで? アンナさんは、ここにはおらんよ?」

 どうやらぁ……。
 夢だったのねぇ?

 それにしても、リアルな夢だったわぁ……。
 わたしがぁ、改造されてぇ、機械獣になってぇ、悪さしたりぃ……。
 アンナとぉ、激戦をぉ、繰り広げたりぃ……。

 これも何もかもぉ、『未来世紀ロボティクス』とかいうぅ、ラノベにぃ、ハマったせいねぇ?
 今、もう10巻目かしらぁ?
 いやねぇ、いい年してぇ、ラノベに夢中なのよねぇ、最近のわたしぃ!!

「あららぁ? 休憩の時間もとっくに終わっているわぁ? 魔法グッズ検品作業をぉ、続けるわよぉ〜!! ごめんねぇ〜、ビリーにシルフィー!!」

(C巻 終わり)

D巻「科学的に飲もう!」(呉編)

 とある日の夕暮れ、俺、呉 金虫(PC0101)は、ワスプで飲む予定だ。
 周辺のテーブルは賑やかだ。
 ジュディさん(PC0032)やマニフィカさん(PC0034)たちが風紀と飲み会をしている。
 ビリーさん(PC0096)や萬智禽さん(PC0097)たちが現代魔術研究所の打ち上げらしきことをしている。
 アンナさん(PC0046)や未来さん(PC0023)たちは高校の女子会でもしているのだろうか。

「それにしても、来ませんね……」
「うん。約束の時間を5分過ぎたところだね……」

 俺は、今、ヴァイス老人(NPC)を待っているところだ。
 以前に心霊科学の遺跡で彼と会ったとき、ワスプで飲もうという話題が出た。
 その約束を果たしたいと思い、本日、酒の席を設けた次第だ。

 ちなみに今、俺の横にいるのは魔導ロボのエリスさん(NPC)だ。
 ついて来なくてもいいって言ったが、相手がヴァイスさんなので油断がならないとのこと。

 そう話していたうちに、ウェイトレスのリュリュミアさん(PC0015)がヴァイスさんを連れて出入り口からやって来た。

「おう! 呉! 悪いな! 革命集会がちと長引いたんで、五分ほど遅れちまったぜ!」
「ヴァイスさん! いいよ、それぐらい! 来てくれてありがとう!」

 ともかく、約束はすっぼかされずに済んだので良かった。
 向かい側にヴァイスさんが着席するや否や……。

「おい! なんだそのロボ女は! なぜ連れて来た!?」
「ははは、そんなに激怒しなくても?」
「それはもちろん、怪しい科学的革命残党分子対策ですね。呉さんはVIPですから、暗殺されたら困りますし?」

 おいおい、俺はいつから暗殺対象のVIPに昇格したんだ?
 まあまあ、と俺は笑って宥めた。

「そう言うヴァイスこそ……。後ろには革命老人たちが待機しているじゃないですか?」

 エリスさんがそう指摘する通り、後ろのテーブル席の方には革命老人たちが待機していた。まさか、そのまま飲み会を楽しんでいる、という雰囲気ではなさそうだ。

「おうよ! 念のためだ! 呉は危険な野郎だ。もし、分子のボスである俺に何かがあったらいけねえ。そこで部下の分子どもも待機させているのだ」

 要するに、俺たちはお互いに信頼がまだない。
 俺からすると俺がやられるといけないのでエリスさんがいる。
 ヴァイスさんからするとヴァイスさんがやられるといけないので分子たちがいる。

 そう、今回の飲み会の狙いは、こういったお互いのわだかまりを解消することだ。
 アイスブレイクって奴だ。

「リュリュミアさん! マギ・ジスビールを2つもらおうか? ヴァイスさんもそれでいいね? エリスさんは未成年っぽいからエネルギー燃料でいいね? あ、今の支払いは全部、俺ね!」
「はぁ〜い! かしこまりぃ!」

 ウェイトレスが去ると、エリスさんは、「後で、現代魔術研究所で払います」と申し出てくれたけれど。まあ、結果として彼女を連れて来てしまったのは俺の行為なので、「気にすんな、俺が払う」と言い返した。

「おいおい!? わりいがよ、俺は今日、全額おごってもらうつもりはねえぜ? 最初の一杯はてめえに感謝するさ。だがよ、次の一杯は俺のおごりだぜ? 最終的には半々の割り勘な?」
「ありがとう、ヴァイスさん。まさか俺も全額おごろうとは思ってなかったぜ。話が早くて助かる」

 数分もせずに、リュリュミアさんは俺たちのドリンクを運んで来た。
 俺たちはそれぞれ受け取り、乾杯をする。

『俺たちの出会いに乾杯!』

 俺とヴァイスさんは男同士で杯を交わした。
 エリスさんは静かに燃料を飲み干した。

***

 次の2杯目は、赤ワインだ。
 ちょうど今、良いマギ・ジス・ボルドーがワスプで飲めるらしく、それにした。
 おつまみも適当にチーズとかハムとかスナックを頼んだ。

「おう? てめえ、いける口か?」
「うん、まあね? ヴァイスさんも酒は強いの?」
「あたぼうよ! 分子で一番TUEEEな!」
「そう? 俺もTUEEE方かな?」

 エリスさんは意外にも俺たちの会話に全く加わらない。
 たぶん、ボディガードの仕事に徹するつもりなのだろう。

「でよ、呉。このまえの遺跡でよ、てめえと交換したあのクリーナーだがな。分解してみたんだが、なかなかに複雑な構造を持つな? で、さらに分解したんだがよ、そうしたら壊れちまったよ。で、元通りに直せねえんだ、あれ。あのクリーナーおもしれえからよ、わりいが、もう1台くれねえか?」

「え? せっかくあげたのに壊しちゃったの? うん、もう1台ぐらいあげてもいいけれど……。ところでさ、交換したあのパワースーツもかなりの代物だね? あのスーツ、遺跡で実際に使用したんだけれど、どうやったらあんなパワーが出るんだ? マギ・ジスタン世界ではああいう科学兵器はよくあるの?」

「おう、あのスーツだがよ……」

 俺たちは赤ワインをぺろりと飲み干し、科学談義にふけた。
 へえ、ヴァイスさんってかなりの科学マニアなんだね?
 異世界人のみんなから聞くには、彼はギャグキャラみたいだけれど、意外とできるな。
 俺はヴァイスさんの意外な一面を発見したのであった。

***

 酒の量はがんがん増えて行く。
 3杯目は、白ワインを頼んだ。ワスプで良いマギ・ジス・シャルドネが手に入ったとかで。
 4杯目は、ノーザンランドの秘蔵ウィスキーを頼んだ。年代物らしい。
 5杯目は、サウザンランドのパインカクテルを頼んだ。今、あちらでブームだとか。
 6杯目は、フレイマーズのカプサイシントニックを頼んだ。これは有名な伝統的な酒だ。
 7杯目は、ハイランダーズの高原黒ビールを頼んだ。ワスプでは海外産の粋のいい生ビールが飲める。
 8杯目は、イースタの芋焼酎である科学美人を飲んだ。これもあちらの名物だ。
 俺たちは、酒で世界一周してしまったようだ。

 ……で、9杯目。
 俺たちは、エネルギーカクテルとかいう、特殊なカクテルを頼んだ。
 どうやらロボが飲むエネルギー燃料をカクテルに応用した酒のようだ。

「ぐはは! か、かがくに……かんぺーい、うはは、いいぞ、呉!!」
「うひゃひゃ!! か、か、か、かがくに……かんぱぱぱあい、うほほ、いいね、ヴァイスさん!」

 俺たちは出来上がっていた。
 これだけ強い酒を一気に9杯もがんがん行ったからだ。
 しかも恐ろしいことに、上記で列挙した酒はグラスではない。
 ボトルだ。ロックかストレートで、だ。

 さすがのエリスさんも呆れていた。
 止めに入る。

「もう!! 呉さんもヴァイスもそれぐらいにしなさいよ!! 既にへべれけでしょう!? さあ、帰りますよ、呉さん!!」

 俺たちは焦った。
 なぜなら……。

「お、おおい!? え、えるすさん!? 今、すげえいいとこだぜ? 楽しくなってきたとこんじゃねか? じゃますんじゃねえ! お、おりは……けえれねえぞ!!」

 俺はもはや呂律が回らず、泥酔(でいすい)していた。

「ば、ばっきゃろう、このロボおんなー!! おりたちはなあ、かがくて、てきに、飲んどる最中だー!! 今、か、かがくについてよ、だいーじな、話しているんだぜえ、げへへ!!」

 ヴァイスさんももうべろんべろんだ。何を言っているかわからない。

 エリスさんは、はあ、とため息をつく。
「そうですか……。もう好きなだけ飲めばいいじゃないですか……」

 分子の部下たちが立ち上がりエリスさんに謝る。
「その、すんませんでした! うちのボスがご迷惑をおかけして……」

 12杯目(ボトルで)が過ぎたあたりだろうか。
 俺たちは、ばったりと倒れた。
 そして、そのまますうすうと寝に入るところだ……。

 そろそろこのあたりで現場を仕切るナイトさん(NPC)が出て来た。

「何があったかは知りませんが……。お客さんら、酔い潰れて寝ちまったみたいですぜ? で、保護者は、このモグラおじさんがそちらのロボお嬢さんで、白衣のじいさんがそちらの部下らしき人たちですかい? 実はね、ワスプでは酔い潰れたお客さん用にね、宿舎も用意しているんですぜ。有料になりますが、泊まって行きますかい?」

 たしか、俺が意識を手放す前に、ナイトさんがそんなこと言っていたような気がする。
 エリスさんと分子部下たちは、それぞれ支払ってくれたようで……。
 俺とヴァイスさんは、マッチョな用心棒たちに連れられて、宿舎へ運ばれた。

***

 翌朝……。
 ちゅんちゅん、とスズメが鳴いている……。

 俺は、目が覚めて、驚いた。

「な、なんだ、ここは!? お、俺は……。誘拐されたのか!?」

 俺が朝一番でそう叫ぶと、ヴァイスさんも飛び起きた。

「な、なんだ、てめえは!? おいおい、呉、俺をこんなところにぶち込むとは、てめえもいい度胸しているじゃねえかよ!?」

 朝から取っ組み合いになった。
 だが、俺たちは今、取っ組み合いをしている場合ではないことにも気が付いた。

「はあ、はあ……。ヴァイスさん、落ち着け! 今は、俺たちで争っている場合ではない! 俺たちは誘拐されたみたいなんだ? 早いところ、ここから脱出するぞ!」

「お、おう……? そうか、俺ら、誘拐されたのか!? しかし、いつ、どうやって? 俺ら、昨日は、ワスプで飲んでいたはずだろう?」

 俺たちは状況を推理してみることにした。

「待って、ヴァイスさん! 俺らは科学者だ! 論理的に推理を積み重ねれば、結論にはたどり着けるはずだ!」
「おう、そうだったな! こういうとき、科学は便利だ! では、推理してみようぜ!」

 ううん、と俺らはうなる。

「最後に意識があったのは……。ワスプで酒を飲んでいたときだ。何杯か飲んだ後、俺は意識を失った……。は! そうか! 酒に睡眠薬が入っていたんだ!」
「なるほどな……。酒に睡眠薬を入れた奴が犯人か……。って、ことは、犯人は!?」

「ああ、違いないね、ヴァイスさん! あの『ナイト』って奴だ! 『ナイト』が昨夜の調理現場を仕切っていた! もし、酒に睡眠薬を入れるなら、あの男だ!」
「あとは……。動機か……。俺らの酒に睡眠薬を盛って、誘拐して、奴は何がしたいんだ!?」

 俺たちは顔を突き合わせて結論に言った。

「魔術勢力の陰謀だ!! 俺たち科学勢力のツートップを誘拐することで、魔術勢力は科学狩りを始めるつもりなんだ!」
「そう、それだ!! それに違いない! でかした、呉、名推理だ!!」

 俺たちが科学的推理の果てに結論に至ったところで、ドアがノックされた。
 いよいよ、犯人とのご対面だ……。
 俺たちは、静かに奴を招き入れた。

「おはようさん! 科学のおっさんたち! ワスプのバーテンダー・ナイトっす。昨夜はうちで飲み会してくれてあんがとー!! ワスプの方で朝食サービスも付けられるんですが、食べていきやすか?」

 は!?
 朝食サービスだと!?

「な、あんた!! 俺たちを誘拐しておいて、言いたいことは、それか!?」

 俺は、カッとなって詰め寄った。

「は!? 誘拐!? やだなあ、お客さんら、昨夜は飲み過ぎて酔い潰れたんで、うちの宿舎に泊まって行くという話だったでしょう? あれれ? 保護者の人たちから話を聞いてねえんですかい? ま、とにかく、朝飯食うなら、ワスプに来てくださいな。んじゃ!!」

 バタン、とナイトはドアを閉めて行ってしまった。

 俺たちは、顔を突き合わせてバカ笑いした。
 がはは、もうこれは、爆笑するしかないぜ!!

「ところで、呉よ。俺からの感謝の印で渡したい物があるんだ」
「え? なに? くれるの?」

 ヴァイスさんは鞄から一冊の本を取り出し、俺に手渡してくれた。
 本には、『続・革命老人闘争列伝』と表紙に書かれていた。
 カバーのデザインも科学が爆発している絵柄だ。

「へえ……。俺がマギ・ジスの現代科学研究所に配属されたときにプレゼントされたあの『革命老人闘争列伝』の続きか!! ありがとう、これ、読みたかったんだ!」

 俺からは返せる物がないので握手で感謝を示した。
 まあ、昨夜の酒のつけは後で少し多めに払っておくとしよう。

「そして、喜べ、呉よ。ちいとメタな話になるが、今回のイベントで俺たちの『同盟関係』が解放された。この同盟が発動すると、俺はもちろん、部下の分子らとも連携プレイができるんだ! ピンチのときは、科学者同士で科学力を合わせて戦おうぜ!!」

 俺は感動のあまり、ヴァイスさんの腕を引きちぎる勢いで振り回して感謝を示した。

「うおお!! ヴァイスさん、ありがとう!! 『同盟関係』もありがたく結ばせてもらうぜ!」

 その後、俺たちはワスプへ向かい、共に朝食を取る。
 朝食のドリンクで出たオレンジジュースのグラスを掲げて再び叫ぶ。

『科学勢力に乾杯!! 科学の未来と科学者の行く末に幸あれ!!』

(D巻 終わり)

E巻「カルラ研究を求めて」(マニフィカ編)

●研究手記 その1

 マギ・ジスタン世界という修行の場において、わたくし、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、果たして魔術を極めることができたのでしょうか。

 既に周知のことですが、マギ・ジスタン世界は魔術が高度に発展した世界です。わたくしも、この世界に来てからというものの、日々の研さんから様々な魔術に触れました。
 中でもリーダー・ファルコン師範(NPC)から授けられた「ブリンク・ファルコン」やライゼン・ムドウ教授(NPC)から授けられた「センジュカンノン」といった独自の魔術スキルは大変重宝しておりますわ。マギ・ジスタン世界での冒険や戦闘にはもちろん、異世界でも使用の効果は折り紙付きです。

 ただ、わたくし、ここのところスランプなのでしょうか、自分の限界を感じています。「ブリンク・ファルコン」なり「センジュカンノン」なりのスキル上達がいまいち延びないという話ではございません。何と言いますか、わたくしとしては、さらなる高みへと至る魔術を研究したいですし、極めたいのですわ。

 これは師匠方への批判では決してございません。もしかするとわたくしの高望みと申し上げますか、わがままなのかもしれません。

 しかし、わたくしは、知りたいのです。
 この世界の果てにある魔術の極みを。

●研究手記 その2

 わたくしは、まず、ファルコン先生に久しぶりにお会いしました。
 どうすれば、「ブリンク・ファルコン」を超えたスキルを極められるのか、と。
 先生はいきなり爆笑しました。
「だってよ、そいつを極められちまったら、俺様、もう立場ないじゃんかよ!!」
 とのことでした。

 ですが、今後の研究のためにもぜひとも必要なことですので、せめてヒントをくださいませんか、と頼み込みました。

「一言で『ブリンク・ファルコン』を超えると言っても、色々あると思うぜ。例えば、『ブリンク・ファルコン』を100%以上の精度で体得するのか、奥義を授けてもらうのか、亜種スキルを自分で発明するのか……」

 おっしゃる通り、正解は一つではないことでしょう。
 わたくしは、よく考えた後、こう答えました。

「『ブリンク・ファルコン』はその名の通り、攻撃の手数で勝負する魔術と武術を合わせたスキルですわ。一方で、『センジュカンノン』というスキルもありますが、あちらは、MAP兵器による敵全体への攻撃ですが、魔術と武術を合わせたスキルですわ。できれば、『ブリンク・ファルコン』と『センジュカンノン』の両方の性質を超えるようなスキルを編み出すなり、授けて頂くなりしたいのですが……」

 ファルコン先生は納得したようです。
 ならば、「センジュカンノン」のライゼンにも相談してみろ、と。
「俺様の記憶が確かなら、たしか、イースタにそういう修行の場があったな」とのこと。

●研究手記 その3

 わたくしは、すぐにライゼン先生と連絡を取りました。
 マギ・ジスからイースタへ直行するには距離がありますから、MAKYPE(マカイプ)といったパソコンを通した通信手段で研究の相談に乗って頂くことになりました。

 問題のスキルの件について早速、お話を聞かせて頂きました。

「ふうむ。『ブリンク・ファルコン』と『センジュカンノン』のスキルを合わせて超えた技か……。残念だが、現在のマギ・ジスタン世界にはそんなスキルは存在しない」

 わたくしは、ファルコン先生が曖昧な記憶から話に出していた修行の場についても質問しました。

「そうだな……。修行の場といえば……。仏の座山脈といった霊験あらたかな場がイースタにはあるのう……。もし、マニフィカさんがセンジュカンノンを極めたいなり、超えたいなり、新スキルを発明したいなり、本気であるならば……。仏様自らへ質問してはどうだろう? 仏の座山脈には無数の仏を祭っている洞窟がある」

 だがな、とライゼン先生は静かに厳しくおっしゃいました。

「相手は、仏様だ……。人知を超えた相手だ……。無礼はないように、というか、死なないようにな……。可能であれば、パーティを組んで仲間を連れた方が良いだろう……。そうだ、うちからはサクラさん(NPC)を案内役に向かわせよう……」

 ライゼン先生とサクラさんの協力を取りつけました。

●研究手記 その4

 仏の座山脈……。
 初めて聞いた名前の山脈ですが、調べてみると、イースタ界隈では有名な場だそうです。
 仏の道を悟りたいと本気で願う者が、命を懸けて修行する場ですとか。

 たしかに、ライゼン先生のおっしゃる通り、その山の洞窟へ行けば、何かつかめるかもしれませんわね。
 ですが、相手は、仏様です。
 パーティを組んで挑むこと、というのはある意味で当り前ですわ。

 わたくしは、学内で協力者を呼びかけました。
 すると、スノウ委員長(NPC)とリリアン・ピンクドルフィン(NPC)さんが名乗り出てくださいました。
 特にリリアンさんとは、「3番目の魔術師事件」以来、仲良くお付き合いさせて頂いておりますので、思わず嬉しくなりました。
 スノウ委員長とは、わたくしが風紀を手伝っている間柄、「死なれると困るから無茶しないで」とのことでした。

 ワスプも利用しました。
 冒険者を募る掲示板をお借りしたのですが、さすがに集りが悪かったですわ。
 何しろ、「仏の座山脈で仏様に会いに行く」というのは、マギ・ジスの冒険者たちすらも震え上がらせる冒険だとのこと。
 そこで見かねたナイト(NPC)さんが、ティムさん(NPC)を派遣してくださいました。

●研究手記 その5

「久しぶりの再会ですね、マニフィカさん?」

 転送装置でイースタの大学地区までわたくしたちが飛ぶと、サクラさんが待っていてくださいました。

「お久しぶりですわね、サクラさん。先日は、第2回の大学間の交流会を欠席して申し訳ありません。わたくし、その日は、バードマン先生(NPC)から学会のお手伝いの件がございましたので……」

 わたくしは、友人同士をお互いに自己紹介させました。
 本日、仏の座山脈へ挑むのは、わたくし、サクラさん、スノウ委員長、リリアンさん、ティムさんの5人です。

***

 洞窟は不気味とも言えるぐらいに無数の仏像で埋め尽くされていました。
 しかも無名の仏像や知られていない仏様の仏像まであります。
 表情も様々で、笑っていたり、泣いていたり、怒っていたり。

 無限にも続くと思われた仏様で囲まれた道をずっと歩きました。
 なぜか灯はあります……火の玉が方々で飛んでいます。
 いや、あれは、霊魂なのでしょうか……。

『汝ハ、誰ジャ? 何シニキタ……』

 薄暗い洞窟のどこか遠くから、怪しい声が聞こえて来ました。

「わたくしの名は、マニフィカ・ストラサローネと言いますわ! 『ブリンク・ファルコン』と『センジュカンノン』を合わせて超えたスキルを求めて、この地へと修行へ参りましたわ! 願わくば、この不肖マニフィカに仏様の奥義を授けて頂けないでしょうか?」

 ホッホッホ……。
 仏様の笑い声が洞窟に響きました。

『我ハ、カルラ……。コノ地ヲ守ル仏ジャ……。ブリブリ?……ノ方ハ知ラン……。ソウカ、センジュカンノン殿ノ知リ合イカ……。カテタラ、考エテヤロウ……』

 カルラ……。
 いえ、正式な名称は、迦楼羅仏……。

 わたくしは、マギ・ジスを発つ前に予習して参りました。
 仏の座山脈の洞窟にいる仏様は数百種類を超えるようです。

 中でも、カルラは鴉天狗のような外見を持つ老獪な仏です。
 鋭い知性と高度な戦闘力を持ちます。
 得意技は、炎、毒、龍脈です。

 相手の技がわかっているのであれば、後は迎え撃つまでですわね!

「全員、迎撃準備!! カルラの弱点は水と解毒ですわ! MP回復にもお気を付けて!」

 わたくしは、水属性の力を強めるため、魔法人魚に変身しました。
 変身中の時間を稼いでくれたのはサクラさんとティムさんです。

「とう!! 行きますよ……『乱れ雪桜花』でどうですか!?」
「『高速シーフ・ムーブ』でぶっ飛ぶよおお!!」

 サクラさんとティムさんの両方のかく乱速度攻撃を受けて、カルラは一歩後退しました。

『ホウ? 汝ラモ少シハ、デキルナ……。ダガ!!』

 カルラは猛烈な炎と共に燃え盛りました。
 猛速度で高熱度の火炎をまとい、突撃して来ます!

「避けて、二人とも!! ブラックホオオオル・クラスタアアア!!」
 スノウさん必殺の闇の黒魔術で迎え撃ちます。

「行けえええ、私の愛しい魔物よおおお!!」
 リリアンさんのサンダースライムが爆発しながら飛んで行きます!!

『喝!!』

 ズゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオオオ!!
 どががががあん!!

 なんということでしょう、カルラの火炎突撃の一撃で、スノウさんとリリアンさんが魔術攻撃ごと弾き飛ばされました。
 それどころか、スノウさんが一撃で戦闘不能になるなんて!!

「うわー! なにそれ、やばい!? 僕でも死んでたかも!?」
 ティムさんは真っ青です。

「反撃行きますわよおお!!」
 わたくしは、水属性の槍術で向かって行きます!
 しかも、『ホムンクルス』も召喚し、『ダブル・ブリンク・ファルコン』が炸裂ですわよ!!

 どがががが、どがああああああああん!!!

「フン、汝ハ水ヲ過信シテオル。仏ノ域ノ炎ハ止メラレン!!」

 わたくしは、水属性で破ったつもりでした。
 しかし、水属性より弱い火属性で打ち破られました。
 しかも『ホムンクルス』は戦闘不能で消えてしまいました。

「マニフィカさん!! よくわかんないけど、みんなで一斉にやれば!!」
 リリアンさんの言う通りです。
 今度こそ、わたくしたちは、仕留めるべく……。

 カルラはまた突撃攻撃です!
 しかも全身が暗黒になり、猛毒突撃です!!

 どどど、どっどがががあああん!!

 ティムさんが倒されました。
 サクラさんは何かの術で消えました。
 リリアンさんはゴーレムのバリアで凌いだようです。

 ですが形成が逆転することはなく。
 カルラは『龍脈』でMP回復した後、火炎と猛毒の再突撃でサクラさんとリリアンさんを速攻で倒してしまいました。

『汝ヨ、奥義ハアキラメロ!!』

 カルラの渾身の突撃が来ます!
 わたくしは、『センジュカンノン』を呼び出すときのように、無心に念仏を唱えました。
 南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…………。

 カルラは猛攻撃で何度も飛びかかって来ます!
 わたくしは、魔炎に焼かれ、猛毒に冒されました。
 既に、命の危機に瀕していますが……。
 死ぬ間際も、わたくしは、うなされながらもある可能性に賭けて念仏を唱え続けます。

「仏の道は……。悟りへと至る道……。我は、水で消えるはずの火炎が消えず、猛毒を持った力を秘め、龍脈という世界の力を己の糧とする……。この身が焼き焦がされようと、毒死しようとも、世界が終わろうとも、わたくしは、……あるがままを受け入れる……。今、悟りを開かん……マニフィカ・ストラサローネ、わたくしは、仏へと至る……」

 カルラは消えました。
 そう、カルラなんて初めからいないのです。
 いたのは、いや、あったのは、わたくしの心の迷いでした。
 心の迷いが、カルラという仏の幻覚を生み出したのでしょう。

 ですが、仏様はいます。
 わたくしの心の中に。わたくしの悟りの中に。

『ヨクゾキヅイタ……。我、カルラ、汝ノココロニイタリ。イツデモヨブガヨイ……』

 仏様はおっしゃっていましたね。
『カテタラ、考エテヤロウ……』
 人知を超えた相手に「勝てる」わけがありません。
 きっと、自分自身に「克て」と言っていたのでしょう。

●研究手記 その6

 わたくしはマギ・ジスに帰国すると学院図書館の講堂で研究発表会を開きました。
 題名は、「カルラ研究を求めて」です。

「本日は、わたくしの研究発表会にお集りくださり、誠にありがとうございますわ。わたくしはここ最近で、カルラという仏様を研究しておりました。そもそもの発端が『ブリンク・ファルコン』と『センジュカンノン』を超える合わせたスキルを、でしたが……。
 わたくしは、仏の座山脈で修行した末、カルラと戦い、かの仏様の召喚術を授けられました。結果として、わたくしは仲間たちとカルラに挑んで戦闘に『勝つ』ことはできませんでした。ですが、わたくしは、己の未熟さ、弱さ、迷いに悩みなどを受け入れた末、悟ったのです。
 要するに、カルラは、わたくし自身だったと。わたくしは炎のように熱い探求心を持ち、毒のある学問や性格もあることを認め、世界(龍脈)から活かされていると悟りました……。そう、仏様を召喚する術とは、己が誰かを悟ることなのです……。わたくしは『克つ』ことができたゆえに、今回のカルラ召喚術を体得するに至ったのです…………」

 わたくしが研究発表を終えると、聖アスラ学院内外の友人知人恩師らは、大きな拍手で迎えてくださいました。

(E巻 終わり)

F巻「異世界人たちの休日@木竜温泉」(ジュディ&ビリー編)

●ジュディサイド

「イーハー!! WAHAHA! 気分は最高デース!!」

 ハロー、エブリバディ!(皆さん、こんにちは!)
 ジュディ(PC0032)共は、今、バイクでトラベルしてマース!
 ハイランダーズのマウンテンやフォレストを爆走中デース!

「ヘイ、コーテス!!(NPC) ハリーアップ!!(早く、早く!!)」

 ジュディは賊の先頭で、ラッキー・スネークを巻いて、マイ・ラブリー・バイク(ハーレーダビッドソン・アメリカンスピリッツ社製品)をブンブンと乗り回しマース!
 ソシテ、後続するのは、コーテス、スノウ(NPC)、トーマス(NPC)など、風紀のメンツ共デース!

「ヒー! ジュディさーん! 待ってー!! 僕の運転能力とバイクのスペックだと追いつかないってばー!」
 コーテス、焦りマース!
 中古で緑のスクーターデース!

「ちょっと、ジュディさん! 飛ばし過ぎよ! 法定速度は守っているのでしょうね?」
 スノウはさらに焦りマース!
 ちょいと激おこぷんぷんデース!
 何気に大型二輪デース!

「ひー、待ってー!! ビリは相変わらず僕なんですよー!?」
 トーマスはその言葉通り、ほぼビリデース!
 なんか三輪車みたいなバイクデース!
 モブ共も後れを取って、彼と同時に走るようデス。

「ヘーイ! ヤロウドモ!! ぶっち切るデース!!」
 ジュディ、マウンテンロードであっても、難なく爆走オールオッケイ!
 WAHAHA! ジクザクもボコボコもノー・プロブレム!
 GO、GO、GO!!

***

 実はジュディたち、温泉を目指してマース。
 なお、最初からバイクオンリーのトラベルではなかったデスネ。
 アスラスクールエリアの転送装置からハイランダーズの木竜温泉エリアに飛んだデース。
 その辺から、チョット遠回りして、山道などバイクでGOデシタ。

 木竜温泉は、ハイランダーズの中でも名所デース。
 以前、クマ骨温泉にシルフィー(NPC)たちとワークで行ったデスガ、それに勝るとも劣らないナイス温泉デース。

 今回、風紀の春休みプランを利用して、みんなでバケーション、なのデスネ。
 みんなで答弁した結果、温泉がGOODという結論デシタ。

 そこでコーテス挙手デス。
「だったら、ハイランダーズの木竜温泉がいいんじゃないかな? 木竜って、みんな知ってる? ハイランダーズ国家に生息する竜の一種なんだけれどね、木でできているんだ。温泉のもとにするととてもぽかぽかしていて健康増進などにも強い効果があるよ。僕も昔、ハイランダーズにいた頃は家族で行ったことがあるけれど、かなりの観光名所だね!」

 シカーシ。
 普通の温泉トラベルからもうひとひねりデース。
「WAHAHA! 温泉そのものはGOOD。バット(だが)、バイクで突っ走るデース!! みんなで力を合わせて山岳地帯をバイクでぶっ飛びマース! その後、青春の汗をかき、温泉でひとっぷろ浴びれば、風紀一同、より一層の熱い仲になれマース!」

 スノウ委員長、モチロン、賛同デース。
「そうね? ジュディさんの意見も良いわね! たしかに、ただたんにみんなで温泉に行くだけではなく、その前にバイク走行をがんばって、みんなで温泉というのも、青春よね?」

 その後、満場一致デース。
 かくして、ジュディ共の春休みの一部は、風紀で温泉トラベルになったデース!
 ちなみに顧問のドクター・ウォルター(NPC)は学内に残ったデース。
 もしもの時のためデース。
 その分、ジュディが引率教員に抜擢(ばってき)デシタ。

***

 かくかくしかじか、ジュディ共はバイク、踏ん張ったデース!
 ヤガテ、木竜温泉の宿である「うっどどらごん亭」に着いた頃ニハ……。

「はあ、はあ、はあ……。もうダメ! 死にそう……」
 コーテス、ばたんQデース!

「ふう、ふう、かなり、良い運動になったわね!」
 スノウも風格を保ってイマスガ、なかなか苦しそうデース!

「ふふ、ここは天国かい!?」
 トーマス、あまりにもハードワークで気が動転しているようデース!

「え? ジュディさんは大丈夫なの!?」
 コーテスやモブたちも血相を変えて大騒ぎデース。

「イエ―ス!! この程度のスポーツでへたばっているようでは、バーガー家の名折れデース! ジュディがファーム(農場)にいた頃は、早朝から起き上がって、一日中、怪力のハードワークで踏ん張ったもんデスネ? モシ、ユーたちの体力が足らんようであれば、ジュディは教員として鍛え直してあげることもできマース!」

 ははは、と皆さん、力なく笑っていたデース。
 イエイエ、ジュディは半分以上、ジョークではないデスヨ?

 サテ、ここでサプライズ。
 ジュディ共は、とんでもない人選と巡り合ったデース!

「オウ、ノー!! ユーたちは!?」
「な、なんと、あんさんらは!?」

 キューピー小僧のビリー・クェンデス(PC0096)がいたではアーリマセンカー!?
 ムムム!?
 ドウヤラ、彼らもバケーションのようデスナ?

●ビリーサイド

 とある日の午後やったな、あれは?
 シルフィー隊長(NPC)が招集をかけたんや。
 コアメンバーは、皆、研究所の調査部隊会議室に呼ばれたで。

「実はね……。普段、研究所でがんばってくれている調査部隊のみんなに研究所上層部からご褒美が出たんだよね。具体的に言うと、慰安旅行の旅費が研究所持ちで出されたんだけれど……。どうしよう? あたし、普段、慰安旅行とか行かないから、どうすればいいかちょっとわからないんだけれど? 何か良い案ある人、いる?」

 隊長が皆にそう聞くと、ボクは条件反射みたいにぱっと手を挙げたんや。

「ボクがやったるで!! 宴会や旅行のプラン関係はばっちこいや! まだ白紙やけれど、ボクに任せてくれないやろか?」

 異論反論はなかった。
 というか、皆もようわからんので、ボクが担当になってほっとしたちゃうかな?

「うん。じゃあ、計画の具体的な内容はビリーに任せようか? それと……。参加者はもしかして全員? 来られない人はいないの?」

 萬智禽さん(PC0097)が挙手いや、挙目玉したねん。

「悪いが、私は欠席で。その日、ちょうどトムロウ殿ら(NPC)からゲーム研究の打ち合わせでイースタまで呼ばれていてな……。『カプモン』のカードゲームにハマっているとのことだが、これがなかなか面白いらしい……」

 呉さん(PC0101)ものっそりと挙手したな。

「ああ、俺も欠席で。当日、現代科学研究所の方から用事を言いつけられているんだ。物理学の科学実験があってさ、俺も出席しないと今後の研究に響くとかで……」

 リュリュミアさん(PC0015)はバラで挙手したで。

「わたしはぁ、当日、ワスプの方でぇ、呼ばれているのよねぇ? 巨大食人ラフレシア退治の依頼があってぇ、そっちにぇ、加勢の打診があってねぇ?」

 なお、魔炎の精さん(NPC)と魔導ロボ・エリスさん(NPC)は参加するようや。
 てえと、人数は、隊長、魔炎さん、エリスさん、ボクの四人かい?

「まあ、みんなそれぞれ予定があるみたいだから仕方ないけれど……。四人はちょっと寂しいわね? 追加で誰か呼ぼうか?」

 隊長が投げかけた質問にはボクが答えたで。

「実はな、連れて行きたい奴らがおるねん……。カプセルモンスター軍団を連れて行っても良いやろか? あとペットのランマルも?」

 隊長は嫌な顔せずに、頷いてくれた。

「うん、いいよ。ボーマルやリキマルとかでしょ? 人数はそれで埋め合わせようか?」

 かくして、決行人数と決行メンバーは決まった。
 あとは、中身のプランやな……。

***

 その後、色々、調べたで。
 慰安旅行というと、温泉がベストやな?
 しかし、温泉といっても色々あったが……。

 前回、調査部隊の仕事でドロシアさん(NPC)の城下町へ行ったことあったよな?
 そんとき、クマ骨温泉とかいう温泉がある旅館で泊まったで。
 また皆でクマ骨温泉でも良かったんやけれど……。
 せっかくなんで、新しい場所の開拓でもしようと思ったねん。

 で、ネットっていうの? ああいうの検索して、口コミとかタレコミとかぎょうさん調べた結果、木竜温泉が良さそうだったねん。

 木竜温泉って、何やろ? と、最初はボクも思った。
 聞きなれない名前やし。
 まず、「木竜」ってのは、ハイランダーズに生息するドラゴンの名前や。
 その名の通り、木でできた竜らしいんやけれど。
 温泉の元になったりするらしく、あちらではそういった温泉場もあるとか。
 ヒノキ風呂とかってあるやないか?
 系統としてはあれに似ているらしいな。
 ただ、ヒノキ風呂は、竜は使わんが。
 効能もばっちりみたいや。
 健康増進が主な効果で、他にも肩こりや腰痛にも効き、神経にも良いらしい。

 しかも、木竜って、食えるみたいやで?
 温泉そのもんも楽しみやけれど、その後、皆で宴会やりたいねん。
 すると、食事も気になるな?
 どんな味やろ?
 以前にウマウマドラゴンを倒したり食べたりした依頼あったけれど、あんな感じかな?

 で、調査結果をシルフィー隊長に伝えたで。
 温泉のパンフも渡したで。

「というわけなんで……。ハイランダーズの木竜温泉が良いと思うねん! 宿は、『うっどどらごん亭』っつう、その道の老舗の宿があるんやけれど、ここがかなり良さそうでな……。で、予算やけれど大丈夫そうかい? 会費は取るかいな?」

「…………。うん、ばっちりだね、ビリー! さすがはあたしの子分!! よくやったわ! 予算は……うん、これぐらいなら問題なし!」

 なぜか、隊長に頭をなでなでして頂いてしもうた……。

***

 さて当日、木竜温泉の旅行が始まったんや。
 学院地区から転送装置で木竜温泉の地区まで移動したねん。
 その後は、山の頂上にある「うっどどらごん亭」にはロープウェイで行くで。
 まあ、転送装置もええが、ロープウェイ使った方が風情はあるな。

「シャー、シャー!!」
 サンドスネークのボーマルが山岳の景色に興奮しとるで。

「べろん、べろん!」
 お化けハイランダケのリキマルもおおはしゃぎや。

「チー、チー!!」「ぷごお!」
 ウォルターラットのトーキチ、マッハ・ハイノシシのゴンロク、ハメ外して、ガラス割るなよ。

「もぐー!!」
 こら、アリ地獄モグラ改のゴローザ、掘るな!

「萌えー!」
 冬の精のキチョウは、大人しくシートに座って茶、飲んどるで。

「みゃー!」「こけー!」
 ブルーカモメ改のマタザとペットの金鶏ランマルがキチョウの茶をつついとる!

「ふう、ボクも一服するかいな」
 異次元獣でポリゴンブロックのジューベーはボクの椅子や。

「おうおう? なんかすげえ遠足みたいだな? 俺も混ぜてくれ!」
 魔炎さんもボクの魔物に紛れて、なんやかんや楽しそうやな。

「はあ……。魔炎、まさかあなたの知能がカプモンたちと同程度だったとは……」
 エリスさん、相変わらず、魔炎さんへのツッコミ、きついな。

「まあ、大所帯だけれど、ロープウェイが個室で良かったよね……」
 隊長、引率者のお仕事、ほんまおおきに……。

 で、やっと宿に着いたと思ったら、ボクらは……。
 なんや、バイクごろかいな、この人たち?
 その辺にバイクや人やらが転がっておるが……。

「オウ、ノー!! ユーたちは!?」
「な、なんと、あんさんらは!?」

 ジュディさんたちやないか!!

●温泉

 ビリーと再会してしまったデース。
 ソノコト自体はおめでたいことデスガ、ワイ?(なぜ?)

 リーズン(理由)を教えてもらったデス。
 ドウヤラ、現代魔術研究所も慰安旅行とやらデース。
 ジュディたちも風紀の春休みの旅だと教えたデース。

「そうかい? えらい偶然やな? ジュディさんらも旅行の最中やったということで……。そんだったら、合同で温泉旅を満喫せんかいな?」

「オウ、ナイスアイディア、ビリー!! 風紀と研究所で合同トラベルデース! みんなでざぷんと温泉、入りマース!」

 オウ・イエス、バッグをホテルルームに置イテ、温泉にレッツゴオ★

***

「うっどどらごん亭」には、ジャングルジム温泉という混浴があるそうな。
 水着とか着てみんなで入る奴やん?
 これだったら、性別のないボクやカプモンら魔物らも入れるで。
 当然、ボクらの選択肢はこれや。

「ひゃっほー! ビリースクワッド、突撃やでー!」
 先陣はもちろん、ボクが切るで!

 ざぷうううん、と巨大な木竜型ジャングルジムに突入や。
 おお、なんかこれ、流れる奴やな?
 ボクは浮き輪巻いとるが、ぐるぐるぐるって、流されとるねん?
 ちなみにランマルはボクの頭上や!

「続けー、続け―!!」

 ボクが叫ぶと、リキマルがざぷんと来たで!
 傘で浮いとるな? 
 しかもボーマルが浮き輪や?

 ぬおお!
 トーキチ、流されて、どっか行ってしもうた!
 な、なんと、渦ができてるやん?
 こないなアトラクションもあるんか?
 いや、違う!
 あれは、ゴローザがアリ地獄を造っておるんや!

「きゃー!!」
 キチョウが吸い込まれて行くで!
「ぷごご!!」
 ゴンロク、あんさんまで!!

「このどあほ! 温泉で渦造んな!」
 ボクは、ジューベーブロックをぶん投げてゴローザを阻止したで。

「みゅー!」
 空中からは、溺れたみんなをマタザが救助や。

「ふはは! 俺も、俺も!!」
 何を思ったか、今度は魔炎さんがジャングルのロープをスライドさせて、上空から落ちてきたやん! ざぷうううん!!

「ぬう、うがが、魔炎さん! 奇襲とは卑怯や!」
「ま、たまには弾けようぜ! ビリー、こいつ借りてくぜ!」

 魔炎さんはゴローザをかっさらって行った。
 そして、アリ地獄、ど真ん中で再開や!

「うわああ! 助けてー、ジュディさーん!」
「なんなのよ、これ!!」
 コーテスさんとスノウさんが引っかかったで!

「ヘイ、レスキュー、参りマース!」
 ジュディさんがざぷんと飛び込み、二人を助けるんやが……。
 ジュディさん、苦戦中!
 しかもラッキーさんやトーマスさんが追加で溺れているやないか!

「狙撃開始!!」
 エリスさんが撃ったで!?
 って、ここ風呂や!
 銃器は禁止やで!

 どかあああああああああん!
 ゴローザと魔炎さんがぶっ飛んだ。

 その一連の様子を見ていたシルフィー隊長は、ジャングルジムの泡風呂に入っていたで。
「ふう……。みんなでやるとこうなるよね? 若いっていいわ……」

 ボクも泡風呂に浸かるかいな。
「ふう……。木の香りがするいい湯やな……。ま、隊長の言う通り、ジャングルジムで暴れるのもええが、やっぱり慰安旅行はゆっくりしたいねん」

 そこに、ざぷん、と別の客らも入って来た。
「いやー、ボス? 革命集会もいいですが、たまには温泉旅行も良いものですな!」
「ああ、まったくだ。たまにはこういう息抜きも我ら分子には必要だろう。今後、マギ・ジスタン世界は科学的革命が世界を圧巻する日が来るだろう。その日を目指して、今は骨休みをだな……」

 あ、あんさんらは!?
「ヴァイス(NPC)の革命じいさん達やないか!?」
「て、てめえは、ビリー!! シルフィーも!? ん? 仲間らもいるな!?」

 なんか、ごっつい展開になったな。
 革命じいさんらも慰安旅行かい!?

「じいちゃんら、前回は遺跡で色々あったが、今回は仲良くしようや? 実はボクら、慰安旅行やねん? 何なら一緒にやるかい?」
「ははは、わりいな、俺らちと忙しくてよ! んじゃ、あばよ!」
「え? ボス? なんで? うわー、待ってー!」

 ええと?
 これは、照れている……。
 と、いうことでええか?

***

 一時期はどうなることやらと思ったデース。
 ビリーファミリーのお陰で、風紀共が全滅デシタ。
 デスガ、ジュディのバイタリティーを発揮して、全員救助デース。
 サテ、せっかくのトラベルなワケですし、一休みデース!

 ココの温泉、ジャングルジムもグッドですが、ビーチリゾートみたいデース。
 ジュディはベンチに腰かけて、トロピカルドリンク頂きマース!
 オウ? コーテス? カム、カム!!
 ん? ユー、フェイスがレッド、ヨ?

(う、うわあ! ジュディさんのダイナマイト・バディ、水着越しでもすげえ!! その辺の萌え本の100倍は、セクシー!!)

 ぽかり、とスノウがコーテスをぶっ叩いたデース!

「こら、コーテス! 失礼よ! いくら温泉地でもジュディさんをじろじろ見るなんて!」
「ははは……。すみません、つい……」

 WAHAHA!
 と、ジュディは思わず爆笑したデース。

「マア、スノウ! コーテスも年頃のボーイデース! 気の迷いもあることデショウ! ソレヨリ……。そろそろサウナ、GOしません?」

「いいですね、サウナ!」
「そうだ、みんなで我慢大会やりませんか!?」

 コーテスの申し出で、みんなでサウナで我慢大会デース!
 ビリーたちも加わりマース!

 ウッドの香り、グッドデース!
 木竜の胎内みたいな造りのサウナでみんなで、ガマン、ガマン!!

「はぁ〜!! ジュディ、汗、たらたらデース!」

「くう……!! 僕、コーテス、リタイアで!」「僕、トーマスも!」
(だめだ! 女性陣の汗がたらたらしているところが刺激が強すぎる!)
(だ、だよね、コーテス? さすがにもう、別の意味で我慢が……)

「ヘイ、コーテス、トーマス!! ユーたち早すぎるヨ!」
 ジュディ、ちょいと激怒デス。

「まあ、ジュディさん? 根性なし共は放っておいて、勝負です!」
「ふふ。男子には別の意味できついんじゃないかな?」
 スノウは呆れ、シルフィーは悟っているようデス。

「ん? リタイアはまだまだやで! さっきの名誉挽回や、カプモン共!」
「チー!」
「みゅー!」
「ぷごおー!」
 以下、鳴き声ほぼ同文デース。
 ビリーは性別ないデスシ、お子様デスカラ、コーテスたちみたいにエッチではないデース!

 結局、ジュディとビリーのタイマンになったデース!
 結果としては、ビリーがばたんQでジュディ、勝利デース!
 UFUFU! 体力勝負なら負けるワケにいかなかったデスネ。

●宴会

 いやー、前半戦から色々あったが、いい湯だったで。
 ジャングルジムでの戦いは狙撃されて結局うやむやになったけれど。
 サウナは惜しかったなあ。あとちょっとでジュディさんに勝てたのに……。

 風呂後は、旅館の人に案内されて、宴会場に着いたで。
 そこでボクが目にしたものは、世にも奇妙なメニューやった……。

「なんやこれ? 食えるんかい?」
 ま、木材やな、これ。
 角状の材木スティック?
 ベニヤ板をはがしたような木の破片?
 木……が入っとるスープやな?

「うわー! すごいご馳走だね!?」
 中でも、コーテスさん一人だけが目を輝かせて涎垂らしておった。
 おそらく、彼には、この料理が何かわかるんやろが……。

「くんくん……。オウ!? きっと食えマース!」
 次に反応したのはジュディさんやった。
 食にはうるさい人なんで、彼女がそう言うなら、きっと大丈夫やな?

「ええと? 皆さん、ご存知はないかな? その木材スティックが木竜の骨肉だね。木みたいだけれど、ビーフジャーキーみたいな食べ応えだよ。で、木の破片みたいなのは、おせんべいみたいな噛み応えで味だね。木のスープは……ビーフシチューみたいな味のスープだよ」

 こちらご出身のコーテスさんが皆に解説してくれはったけれど。
 ほんま、食えるんやろな?
 パンフには、竜の肉とかが食えるみたいな話やったけれど、そういや、実物見たのはこれで初めてや。あかん、あかん、ウマドラみたいなの想像してたで。

「ヘイ、ユーたち、食べナイノ!? ジュディが一番ノリデース!」
 ジュディさん、行ったで!!
 がつがつとすげえ食べっぷりやないか!
 木材は骨付き肉みたいに食らい、木の破片はパリポリと食し、木のスープはがぶがぶと一気飲みやないか!
 隣にいるコーテスさんまで加わって、もうこれは、フードファイターや!

「よおし! ボクらも突撃や!!」
 ぬおお!?
 なんやねん、これ……。
 めちゃ美味いねん!

 ボクとカプモンらでがつがつと止まらない勢いで食らうねん!
 竜骨ジャーキー、味が染みとってまろやかや!
 竜の破片、パリポリとがんがん行けるやないか!
 竜のスープも濃厚で肉厚や!

 どうやら普通に食えることがわかり、皆、続いたで。
 隊長も魔炎さんもエリスさんもその他も皆、血相変えて食うたで。
 だってな、これ、ほんま、美味いもん!

***

 ぷはー!
 木竜はなかなかの味デース!
 骨付き肉? センベイ? スープ?
 あっという間にペロリデース!
 ビリーチームも風紀チームも食べ放題プランデース!
 ですので、ジュディ、遠慮なく食らい尽くしマシター!!

「オウ! あまりにもショックなディナーでしたので……。酒を忘れてたデース! これがないと宴会になりゃしまセーン!」

 ジュディは、木竜酒をあおったデース。
 オウ? デリシャス!!
 イースタの焼酎みたいな味デース!
 しかもウッドの香りがぷんぷんGOOD!

 風紀共も酒を飲める年齢の奴らはがんがんいったデース。
 シルフィーとも乾杯デース!
 風紀と研究所の今後の良縁にも乾杯デース!

 デザートは木竜プリンデース!
 オウ、ノー!!
 このドラゴン、プリンにしてもなんてデリシャスナノ!?

 サアテ、お楽しみのところ、ビリーがステージに上がったデース。
 カプモン共も一緒デース。

「これより、宴会の芸をやるで! 木竜音頭で踊るで!!」

 BGMスタート!!

 ずん、ちゃ、ちゃちゃ、ちゃか、ちゃか♪
 ずん、ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃん、ちゃん♪
 木竜が〜、木竜が〜、木の竜が〜、出た〜♪
 あ〜、きゃお、きゃお♪

***

「よっしゃあ、皆、踊れ、踊れ!! 今宵は踊りでシメるで!!」

 今回の宴会でのボクからの芸は、踊りや。
 踊りのスキルなんて持ってないので、これはほとんどアドリブやけれど。
 木竜音頭はその名の通り、この竜を崇める祭りで踊られる盆踊りや。
 来る前に、ビデオ見ながら、体も動かして、なんとなくだが、覚えてきたで。

「まあ、簡単やから、皆もやってみいや!」
「シャー!」
「こけー!」
「みゅー!」
「べろろん!」
「萌えー!」

 ……ってな具合で、ボクらが呼びかけたら、カプモンの皆が続いたで!

「よし、ならば僕が!!」
 コーテスさんがそらそら、と怪しく踊るで。
 お? 上手いな? 経験者やな?

「続きます!」
 トーマスさんも慣れない手つきで加わるで。

「いいじゃない、やろうかしら?」
 スノウ委員長も今日は委員長だったことを忘れて陽気に踊るで。

「よーし! あたしら研究所も続くよー!」
「よっしゃあ!」
「はい!」
 シルフィー隊長に率いられて、魔炎さんもエリスさんも、皆で楽しそうに踊り出すで。
 その後、風紀モブらやラッキーさんも続々と参加し、盆踊りの一大演舞劇場になったで。

 あらら?

「それ、木竜、革命!!」
 隣の部屋にいた革命じいちゃんらも加わったで?
 飲んで真っ赤になって楽しそうやな?

 ん?
 誰か、足らんな?
 あ、ジュディさんや!

***

 UHAHA!!
 なかなか面白くなってきたデース!
 ビリー共が盆踊りしてるデスネ!

「イーハー、がんほ、がんほ!!」
 ジュディ、絶賛、酔っ払い中デース!
 酒を煽り、手を叩いて、ビリー共のダンスを応援デース!

 サアテト。
 隠し芸もするデース!
 実はジュディ、この日のために用意したデース!

「ヘーイ、レッツ・ダーンス!! ジュディ・バーガー、参りマース!」
 ジュディの参戦は鮮やかデース!
 巨大な玉の上をコロコロと、酒を煽って、火炎を拭いて、登場デース!

「オーマイガッドやで!! ジュディさんが玉乗りして火を噴きながらも木竜音頭やないか!!」

 HAHAHA!!
 皆の衆、目ん玉ひんむいてマース!
 ン!?
 なーんか、焦げくさいデース!

「うおおおお!! ジュディさあああん! たんま、たんま! 火、消してえええ!!」
 コーテスが燃えてイマース!
 オウ! 飛び火したデース!

「ははは! あんちゃんやるな! 火炎なら任せろ!」
 魔炎が参戦デース! コーテスをさらに炎上させマース!

「この大バカ!! 火を炎上させるんじゃなくて、消すんでしょ!」
 シルフィーが魔炎を蹴とばして、ウンディーネ召喚デース!
 皆、火消しにパニックデース!

 デ、騒動が終わり……。

「そ、ソーリー……。ちょいと、やり過ぎたデスネ……。反省しマース!」
 ジュディはきちんと謝ったデース。

「ははは……。僕は、本当に燃えちゃったけれど……。ま、結果オーライかな? ジュディさん、僕ら風紀のために楽しい旅行の計画、ありがとうございました!」

 オウ、コーテス?
 ユーは、オーライネ?
 ヘイ、なーんか、嬉しい一言ネ!

「オーケー!! 風紀共々、ジュディにどーんとお任せデース! 今後もどかんと、ガンホーでレッツゴオデース!!」

***

 いやあ、一時はどうなるかと思ったで。
 盆踊り中に隠し芸があったり、本当に炎上する奴とかおって火消ししたりで……。
 大事に至らなくて良かったわ、ほんま……。

 キチョウやマタザらを使って火消し終えると、隊長がボクのところへやって来た。

「ビリー……。予想外のこともけっこうあったけれど……。楽しい旅行計画をありがとう! これからも現代魔術研究所も調査部隊もあたし自身もよろしくね!」

 お、おう!?
 これ、褒められているんちゃうか!?

「隊長……。こちらこそ、おおきに。ほな、これからもよろしくな!」
 ボクが照れてそう言うと、カプモン共もわいわいと寄って来た。
「あんさんらもいつもおおきにな!」

 せやな、色々あったけれど、大家族が持てたみたいで楽しい旅行やった。
 今日泊まって、明日の朝帰る小さな旅行やけれど。
 今回のことを契機に研究所や風紀の仲間たちとも結束がより固くなった気がするな!

(F巻 終わり)

(本編 終わり)