「呪われた魔剣と剣聖十一段」第2回(推理編)

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

★第2章 密室殺人事件の真相究明

・2−1 最初の答え合わせ

・2−2 皆の推理

・2−3 行動妨害

・2−4 事後



★第2章 密室殺人事件の真相究明

・2−1 最初の答え合わせ

 さて、誰から推理を始めるか。
 スノウ委員長(NPC)が振ると、呉 金虫(PC0101)がさりげなくぼやいた。
「犯人がいる部屋に一緒にいられるか! 俺は帰らせてもらう! ……なんて言ったら死亡フラグだよな」
 まさか呉は帰るのか!?
 相棒の萬智禽・サンチェック(PC0097)がフォローする。
「実はだな。呉殿と2人で考えた推理があるのだ。それを今から順番に披露していきたいのである。よければ私達を推理の進行役にして頂けないだろうか?」
 スノウはある事を確かめる。
「私はかまわないわよ。でもね、事前に1点だけ質問してもいいかしら? それで、あなた達は、犯人は既にわかっているの?」
 巨大目玉の眼球がぎらりと鋭く光った。
「犯人はこの中にいるのである! 犯人は……」
 彼がそう宣告する時、真相に至った者は一斉に答えを合わせる。
「犯人は『魔剣』そのもの、魔剣に宿っている『邪神クロウ』である!」
 と萬智禽。呉も隣で大きく頷く。
「犯人は、魔剣によって操られたストロング兄。黒幕が邪神クロウ!」
 と姫柳 未来(PC0023)。隣にいるトムロウ・モエギガオカ(NPC)もおうと頷く。
「もちろん、魔剣なのでしょうが……」
 とアンナ・ラクシミリア(PC0046)。
 彼女はそう言いつつも、なぜかレオン・ハボレム(NPC)の隣にいて彼をちらりと見る。
 しかもなぜかアンナは魔法少女姿でもある。
「真犯人は『呪われた魔剣』であり、おそらく共生すべき所有者の選択ミスが真相ですわ」
 とマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)。
「ナ、ナンダッテー!?」
 とジュディ・バーガー(PC0032)。
 彼女は狂言回しのようなふりをするが、実は皆と同じ真相には至っている。

 コーテス副委員長(NPC)もどうやら同じ結論らしい。にこやかに話し始める。
「まあ、犯人については……皆、同じ答え、と。しかし……推理は……ロジックも大事です。どうして、その犯人なのか? トリックはどう解明したか? ……今から、そういった事も含めて、お話しませんか?」
 マニフィカが答え受ける。
「今、わたくし達は何をすべきでしょうか? 愛読書『故事ことわざ辞典』を紐解けば、『為すべき事を為せ』というメッセージがそこにはありましたわ。さらに申し上げますと、『ノブレス・オブリージュ』という言葉がわたくしの脳裏に浮かびましたわ。深遠でまどろむ母なる海神の導きに感謝を捧げましょうか」
 話が進んで行くが、展開に遅れを取ったスノウが急いでマニフィカへ質問する。
「ちょっと待って貰ってもいいかしら? 先程、私が仕掛けた罠にファングマン先生(NPC)とレオンは嵌ったのよね? これについて、あなた達はどう考えているのか聞かせて欲しいわ?
 マニフィカはスノウの目を見て真っ直ぐに答える。
「それは、ストロング兄弟が『黒幕』の魔剣から思考誘導を受けていた可能性について証明できた、という事ですわね? まあ、その辺りも含めて、今から皆様と討論を始めましょうか?」

・2−2 皆の推理

 進行役を買って出た萬智禽が推理を話し始める。
「まずは、そうだな……。最初の方から遡って話すとするか? 邪神クロウは墓地付近で接触したブラック・ストロング(兄)の思考に干渉し、誘導して魔術書を盗ませた。そして犯行現場を調べた私の『過去視の水晶球』をも破壊した。これらから考えて、奴の力がある程度まで復活している故に、ある程度の外界まで力を及ぼす事が出来ると思われる」
 これにマニフィカが補足する。
「そうですわね。事件は剣聖の墓地付近の森で叩きのめされたストロング兄弟(特に兄)が邪神と接触して唆された所から始まったのでしょうね。その当時は墓地に埋まっていた魔術書から外界の森へまで干渉したのでしょう。魔術書に部分的に封印されていたクロウが思考誘導の術でもおそらく使ったのですわね」
 ジュディがさらに補足する。
「オウ、イエス。マニフィカのヒアリングでは、ストロング・ブラザーズはベリー・ウィーク(弱い)デース。ブラザーズには魔剣を盗む実力なんてないデース。ソレナノニ今回の事件をやらかすとは、イーカニモ、アリエマセーン!」
 未来も頷く。
「そうだよね。わたしもストロング兄弟だけで今回の犯行に及んだと考えるのは随分と無理がある事に気が付いたよ。黒幕……しかも邪神クラスがバックにいたとかじゃないと、色々と事件そのものが不自然だよね?」
 アンナや他のメンバーも異論はなく、萬智禽の推理は続く。
「邪神クロウは完全復活する為に力を欲していると思われる。『邪神滅殺冥府斬』とは殺した相手から魔力やら生命力やらを吸収する剣技なのではないか? そして『邪神滅殺冥府斬』を使ったのは邪神クロウの力だろう」
 この推理には参加に来た鑑識の男が答えた。
「なるほど。邪神の復活ですか。しかし、呉さんとも検証しました通り、『邪神滅殺冥府斬』は純粋かつ最強の殺人剣です。殺した対象から何かを吸収する系の魔術を帯びた必殺魔剣ではありませんね。その一点だけ私の方から補足させて頂きます」
 もっとも、ここにいる誰もが盗賊兄の実力単体で『邪神滅殺冥府斬』が繰り出された訳ではない事には同意した。
 他にも魔剣はどんな事を企んでいたのだろうか? 目玉の推理は続く。
「邪神はかなりの策士なのだ。まずストロング兄を誘導して魔術書を盗ませた。弱いストロング兄弟が警備員に見つかり、暴行され、それで恨みという負の感情を爆発させ、力を欲する事までを計算に入れていた。そう、追い詰められたストロング兄が自分=魔剣を使って反撃に出る機会をずっと狙っていたのだ。そして魔剣自らが『邪神滅殺冥府斬』を使い、弟と警備員5人を一瞬で惨殺した。ところで、この人数は六芒星と関連する生贄儀式なのかもしれないのだな?」
 大枠の所、誰も反論はない。それが魔剣の狙いだっただろうし、奴がやった事だろう。
 ただ一点、ジュディには気にかかる事があった。
「ワンポイント、ネ? ハタシテ、六芒星が今回のキーだったのデショウカ? 警備員というジョブもするジュディからさりげないアドヴァイス、デース。警備員の5人とは、たまたまその時の警備隊の編成人数だったでは、ナイデスカ? 人数は警備の状況次第で、変動するケースもありマース」
 ブラスト・ゴールドブレイズ(NPC)も珍しく補足してくれた。
「黒魔術の儀式で六芒星を使う事はある。ただ、六芒星が完成していないと黒魔術の儀式ができないという訳でもねえな。ジュディの言う通り、六芒星の人数になったのは偶然じゃねえか?」
 警備員本場と黒魔術本場の者達がそう言うならそうかもしれない。ひとまず保留だ。
 萬智禽は淡々と話し続ける。
「さて、密室殺人の犯行の時まで話を戻そう。この時、ストロング兄自身も魔力を一気に限界まで絞り取られてミイラ化したのだろう。ただ常人の彼だけの魔力では足りなかった。なので、学院内で強大な魔力を行使していたレオンとブラストの決闘の魔力をも集めて『邪神滅殺冥府斬』に必要な魔力を補ったのだ。彼らが決闘で限界まで魔力を使いながらも(と、自分達は思っていた)決着がつかず、たいしたダメージもなかったのは、邪神クロウに魔力を奪われていたからである」
 マニフィカもある確認事項を皆に問い掛けた。
「少し整理してみましょう。事件の前段階として『魔剣盗難未遂』が発生していたことは見落とせませんわ。話を少々繰り返しますが、盗難は未然に阻止され、魔剣のスキル『邪神滅殺冥府斬』が発動しましたわ。警備員達は惨殺され、魔剣をコントロールできずにストロング弟も犠牲となりました。……スキル使用の代償でストロング兄も死亡……で合っていますわね? それと犯行現場に魔剣が残留していた事にも関係があるのでしょうね?」
 未来も素直に頷く。
「そうだね。ストロング兄がミイラ化した理由は、魔剣によって『邪神滅殺冥府斬』を使わされ、急激に魔力を消費したからだね。ストロング兄以外の犠牲者は、やはり『邪神滅殺冥府斬』によってバラバラにされたんだろうね。マニフィカの質問に答えるなら、『魔剣が残留していた』というよりは、あの状況下で『誰も魔剣を回収できなかった』が正しいよね?」
 ジュディがさりげなく付け加える。
「魔剣はその場に居残り、無機物のアイテムのふりしてたデース!」
 呉は萬智禽の推理を補強すべく未来にある事を質問する。
「未来さん、一ついいかな? あんたはたしか、レオンさんに体育館裏で質問していたんだよな? だったらさ、その時、体育館裏で気になる事や変な事はなかったか?」
 未来は、うーん、と思い出しつつ、「特になかったね」と答える。
 目玉の探偵は眼光がぎらりと光る。
「どうやら私の推理の裏付けになったのだな。そう、エース・アタッカーのレオンとブラストが本気で激突して、自分達が全く無事だったどころか、決闘場所の体育館付近まで全く無事だったのはおかしいのだ。誰かが魔力を奪ったと考えるのが妥当であろう」
「あ、なるほどね!」
 未来が驚きの声をあげるが、それ以上に驚いているのはレオンとブラストだ。
「な、なんと! では、俺達の決闘は……」
「無効だった……。という事か?」
 レオンとブラストは少し辛そうだったが、今、それを争っている場合ではない。
 だが後日、色々と懲りた2人は決闘のやり直しをする事はなかったようだ。

 推理は後半に入る。今度は進行役の話し手を呉に変更して推理が続いた。
「スキルの確認をしようか? 『邪神滅殺冥府斬』を使える者は実は3人いた。3人目は魔剣に宿った『邪神クロウ』だ」
 ブロッサム警部(NPC)からの通信でもあった通り、魔導武術の中でもこれはかなり特殊なスキルで使い手が限られている。剣聖ハボレムでもなく、アスラ学院長(NPC)でもない。となると……。
 ジュディが頷いて答える。
「オウ、イエス。ジュディとコーテスの図書館リサーチでもあったデース! 魔剣は剣聖にそのヘンテコなスキル教えてたデース! 3人目……いるとなると、もはやコレは、魔剣本人以外考えられないデース!」
 呉は魔剣のスキルについてさらにこんな事もないかと問い掛ける。
「邪神クロウは恐らく人間の妬みや恨み、暴力的な負の感情を増幅し、心を誘導する事が出来るのだろう。ストロング兄が魔術書を盗んだのも、警備員達がストロング兄弟をリンチにしたのも、レオンとブラストが憎み合って決闘したのも邪神クロウの感情誘導のせいじゃねえか?」
 歴史に詳しいコーテスが補足する。
「邪神クロウ……。僕らも図書館で調べましたが……。元は剣の神様でしたが……呉さんの仰る通り、嫉妬深くてすぐに恨むどうしょうもない神様でしたね……。実際にさっき見た通り、ファングマン先生やレオン君が思考誘導を受けていた訳で……。心の隙や闇に干渉することもできるのでしょう……。ただ……」
 コーテスの言葉をブラストが繋ぐ。
「おう、前半に異論はねえ。だがよ、俺がレオンに目を付けたのはだいぶ前だ。先日の魔導剣術大会で負けた時だったか? その時は今みてえな魔剣の事件の騒ぎは一切なかったぞ。クロウに干渉されたから、というよりは、俺自身の個人的な問題でこいつに目を付けていた事は確かに言える」
 レオンも頷く。
「そうっすね。実は俺自身、ブラスト先輩は以前から憎んではいませんっす。先輩がうるさく目を付けてくるので決闘したまでっすね。邪神云々以前に俺達自身の問題でしたっし」
 アンナがふう、とため息をつく。
「本当に……どうしようもないダメな神様ですわね? わたくしも剣聖の墓場まで行って参りましたが、なぜあんなのが剣聖と一緒に封印されて祀られていたのでしょうね?」
 未来も頷く。
「まあ、歴史なんてそんなもんじゃない? 時間が経つと伝説とかって話が飛躍するよね?」
 ともかく、呉の推理は続く。
「では、なぜ邪神が今回の犯行に及んだか、という事だが……。ずばり、邪神の復活が今回の犯行の意味ではなかったか? 先程の六芒星は偶然だったとしても、奴は人を一気に6人も殺している」
 未来が補足する。
「そうだね。犯行の最終的な目的は、封印を解いて邪神クロウが完全復活すること……だよね? もしかしたら、6人殺した、というのは意味なんてないんじゃないかな? 殺す人数は何人でも良かったんだと思う。たまたま居合わせたのが6人だったんじゃない」
 アンナが不思議そうに質問する。
「でも未来、何もかも偶然殺したという事もありませんでしょう?」
 未来が答え受ける。
「そうだね。邪神は今回の犯行でひとまず外に出たかったんだよ。魔剣を使う相手も殺す相手もその場で確保できる人ならば誰でも良かったんだね? 今回、たまたま、犠牲になったのが、あの盗賊兄弟に警備員5人だっただけで」
 マニフィカが先程の自らの発言に訂正を加える。
「なるほどですわ……。と言いますと、魔剣は『新しいパートナーを選び間違えた』ではなくて、『外に出る為に暫定的なパートナーを手に入れていた』が正しいのでしょうね」
 ジュディもフムフムと頷く。
「イエ―ス。デスガ、盗賊ブラザーズは役者が不足だった、という訳デースネ?」
 呉が咳き込んで改める。
「実はさ、今回の推理はここからが本題なんだ。もしかしたら、魔剣はこの場にいる者達を『邪神滅殺冥府斬』で惨殺し、新たなる犠牲を得ようとするかもしれない。もっとも、魔剣は握る者がいなければ技を使えないので、再び振るう者を必要とするだろうな?」
 ジュディがピコっと閃いて推理を続ける。
「イエ―ス。イエ―ス。オソラク魔剣は、インテリジェンスソード的なパワーアップ・アイテムの類デース。『邪神滅殺冥府斬』みたいなチート・スキルを使用しますと、膨大な魔力を消費する為、使用者に対するペナルティはビッグデース。魔力枯渇でミイラ化したストロング兄と同じく、剣聖も晩年に衰弱死してイマース。魔剣はデリシャスな魔力を持つ振るい手を常にゲットしたいと思っているはずデース!」
 呉は厳しい口調で推理を続け、ファングマンを睨む。
「次に『魔剣を振るう者』として邪神クロウに誘惑されるのは誰だろうか? 彼は剣聖ハボレムと行動を共にしていたが、その剣の腕は剣聖の次でありながらも実力が敵わず、嫉妬していた。もし、その精神的な隙を突かれたら心身だってのっとられるだろう。そうなったら彼は、魔剣により十一段相当の魔導剣士の力を手に入れ、『邪神滅殺冥府斬』を振るう惨殺劇を始めるかもしれない……」

・2−3 行動妨害

 皆の推理で真犯人は暴かれた。
 しかし、真犯人である魔剣、いや、邪神クロウは推理中に何もしていなかった訳ではない。

――ファングマン……。
――俺を手に取るのだ……。
――お前は選ばれた。
――剣聖にならないか?
――もし俺を手にするのならば、かの剣聖をも上回る最強の力を授けよう……。

「うわあああああああああああ!!」
 呉達の推理が終わる寸前、ファングマンは何かに取り憑かれたかのように騒ぎ出す。
 ファングマンはとうとうルサンチマンが大爆発を起こしたのだ。
 魔剣は当然、隙につけ込んだ訳で……。

――私は……私は……最強を求めていながら……いつも……三下に過ぎなかった。
――どんなに頑張っても、努力しても、必死にやっても、剣聖の座にはつけなかった。
――あいつがいけないんだ。ハボレムさえいなければ。いや、魔剣が私さえ選んでくれたら!
――なに?
――魔剣が私を呼んでいるだと? 私の力を求めているだと?
――がはは。ついに私の時代が来たようだ。
――待っていろ魔剣よ。今、お前を手にしよう。
――そして、私は……。

「私は……いや、私こそが……魔剣を手にする最強の魔導剣術家になるんだああああ!」
 ファングマンが魔剣を手にする正にその時……。

「ファングマンさん! 心を強く持て! 魔剣なんかに心の隙を見せちゃいけねえ!」
 呉がファングマンの行動妨害に向かった!
 魔剣しか目に入っていない隙だらけのファングマンを背後から取り押さえる。
 呉も大男だが、力ならファングマンの方が上で、払い除けようとするが……。
「ファングマン殿! 目を覚ませ! すまん、ちと痛いぞ!」
 萬智禽が念力の力でファングマンをふらつかせ、そのまま倒す。
 呉も勢いでファングマンの上に乗っかって押さえつけた。
「くいしばれよ?」
 呉は不本意だったがファングマンを正気に戻す為、顔面をぶん殴った。

「ぐはっ……。私は何を!?」
 正気に返ったファングマンに呉が説明する。
「危ねえところだったぜ? もう少しであんたが魔剣を手にして殺人剣を振るう所だったんだぞ?」
 萬智禽も慌てて補足する。
「私達の行動は不可抗力なのだ。私も不本意だったが、こうでもして押さえつけないと被害が甚大になっていたのだ」

 ファングマンを誘惑する事には妨害が入り失敗した。
 だが、魔剣は保険の策も講じていたのだ。

――レオン……。
――俺を手に取るのだ……。
――お前は選ばれた。
――剣聖にならないか?
――もし俺を手にするのならば、『邪神滅殺冥府斬』の真実を授けよう……。

「うおおおおおおおおお!」
 レオンはふらついていた。また変な頭痛が来たと同時に脳裏に気味の悪い言葉が流れる。
 魔剣が干渉して来たが……。
 レオンも最強への足掛かりであるあのスキルをちらつかされて、魔剣を手に……。
 今、ファングマンが呉と萬智禽に取り押さえられている騒ぎの最中だ。
 今なら、やれる……!

「俺は……俺は……あのスキルを手に入れて最強の座にのし上がるっすうううううう!!」
 がちこおん!
 ゴーレム・パンチの妨害が横から入る。
 顔面に思い切り側面攻撃を受けたレオンは魔剣を手に取るどころではなくぶっ飛んだ。
 パンチを放ったのは……土の魔法少女アンナだった。
 レオンは「まさか?」という表情でアンナをはっと見る。
 アンナはなぜ初めから魔法少女姿でしかもレオンの近くで待ち構えていたのか?
 彼女は推理を話す。
「今回の事件で最も怪しい人物はレオン・ハボレム、あなたですわ。魔剣のことはもちろん、式典や魔術書のことに精通していてもおかしくありませんでしたわ。あなたは亡くなった祖父、剣聖ハボレムに教わるはずだった『邪神滅殺冥府斬』をどうしても欲しかったのでしょう。もしかすると、魔剣を手にすることで習得できると思って、ずっとチャンスを狙っていたのではないでしょうか?
 ただ、真犯人そのものではありませんわ。少なからず魔剣に関わりがあるのに、わざわざ一介の盗賊に盗ませるようなリスクを負う辺りなどは辻褄が合いませんもの。密室殺人に関しましても、密室の中にいた者は全員死亡していました。犯人の目的が魔剣で、そこに居たなら持って逃げているはずですわよね? 先程の推理にありました通り、飽くまで真犯人が魔剣。飽くまであなたは魔剣とスキルを狙っていた、と考える方が自然ですわ。
 真相究明の最後の場面が最大のチャンスですわね? もし魔剣に意思があり、封印を解かれることを望んだとすれば、力と適性がある上に手足となって働いてくれる者を求めることでしょう。そうなると、当然……レオン、あなたが選ばれますわよね? そしてチャンスが来た今、魔法少女のスキルから側面攻撃を放つことであなたと魔剣の陰謀を阻止したのですわ!」
 アンナは推理シーンの最中、口数が少なかったが何も考えていなかった訳ではない。
 これだけ情報が集まった上に頭の良い仲間も揃っている。
 推理の進行は他の誰かが難なくこなし、真犯人へも皆でたどり着く事だろう。
 だが、問題はその次だ。誰かが魔剣を手にする事は想像に難くはない。
 特にレオン。
 だったら、推理中にもマークしておくべきだった。
 そして見事に、彼はアンナの罠に掛かったのだ。

 魔剣は次の2手が封じられてしまった。
 ならば3手目だ。
 ここの部屋にはファングマンやレオンではなくても実力者は多数いる。
 さて、次のターゲットは……。

「トムロウ。やっておしまいなさい!」
「おう! まかしとき!」
 未来の命令を受け、トムロウはあろうことか、全力で未来のスカートをめくった。
「うおおおおおおおおお! 猛烈だぜえええええええええええええ!!」
 トムロウはHENTAI POWERがMAXになって赤い仮面のトム・スリーに変身!
 頭上に赤いトランクスの仮面を被った変態男が魔剣に向かって突撃する!
「秘儀・タマ抜き!」
 説明しよう。トム・スリーが駆使する「タマ抜き」とは東洋魔術の秘儀だ。
 まるで河童が尻から魂(タマ)を奪うかのように、トム・スリーは魔剣の魂を引っこ抜くのであった。
「うぎゃあああ!」
 魔剣が叫んだ。タマを引っこ抜かれて、へろへろになり力が出せなくなったのだ。
 未来は魔剣を仕留めて上機嫌だ。
「どうやら魔剣には意思があることがこれで確認できたね。ここまでの騒ぎからすれば、今までの推理が正しかったことが魔剣自らによって証明されたってことだね!」
 それは、そうと……。
 未来は今、とても怒っていた。
「トムロウ? 覚悟はいいよね?」
「え? い、いやあ……。これは不可抗力さ? 俺には魔剣を倒す為にHENTAI POWERが必要だったんだ! 未来ちゃんのパンツさえあれば、俺はいつでもHENTAI POWERをMAXにできるんだよ!」
 そんな言い訳でスカートめくりをされた未来の怒りは収まらなかった。
 ビリビリビリ、どかああああああああああん!
 トムロウ、死す。
(安心してください。そのうち復活します)

「さてと……。魔剣も……もう動けないことだし……。ブラスト、封印して……貰っていいかな?」
 コーテスが隣にいたブラストにそう頼むと……。
「ああ、なるほどな? 魔剣を封印する為に俺を呼んだ訳か? たしかに、この手の邪神の魔道具の封印やら儀式やらは黒魔術の十八番だしな。いいぜ、さっきの魔導書の借りを返してやるよ」
 ブラストが手元に封印の札を取り出すと、魔剣に貼り付け詠唱に入る。
 そう間もなくして魔剣は再びきつく封印され、眠りについた。
 ジュディは一連の騒ぎの直後に提案する。
「ヘイ? その魔剣どうしマース? 事件を起こした訳デスカラ、ブロッサム警部にも聞いた方がいいデスネ?」
 それもそうだ。この魔剣は警察が証拠品として押収する事だろう。
 ジュディが、ぴぽぱ、と警部にマギ・フォンで電話すると……。
『おう、ジュディさんか? ……ふむ。そちらは終わったようだな? ははは、どうやら俺の出番はなかったが、平和的解決ってのもいいもんだな?』
 警部は外で特殊部隊すら率いて待ち構えていたのだ。
 邪神が未だに不完全とはいえ、大暴れしたら大変だった事だろう。
 警察は学院を包囲して邪神が外に出ない為に戦闘する覚悟だったのだ。
 と、いう事で……。
「ご安心クダサーイ! ジュディがこの魔剣を警部の元へ持って行きマース!」
 封印後、魔剣はジュディに引き渡されて、無事に警部と警察にも引き渡す事ができた。

 一連のやり取りを見ていたティム(NPC)が今さらながら姿を現す。
 マニフィカはティムと目が合い思わず笑いが零れた。
「えっと? マニフィカさん? どうやら僕の出番はなかったようですね?」
「そのようですわね。でも平和的に事を終えられて良かったですわ?」
 ティムはマニフィカの伏兵としてこっそりこの部屋に侵入していたのだ。
 魔剣が暴れ出した時の対策の為に連れて来ていたが、どうやらこの後の展開は不発に終わった。
 しかし、それはそれで良い事でもあった。

「あ、あれ? もう終わったのですか? 私の出番は?」
 今回、ウォルター先生(NPC)には出番すらなかった。

・2−4 事後

「はぁ、はぁ……。まだ走らされるのか?」
 ブラストは走っていた。
「ひい、ひい……。スパルタ過ぎるっす!」
 レオンも続いて走っていた。
「ははは、まあ、頑張りましょう、よ……」
 なぜかコーテスも走っていた。
「ふう……。老体には身に沁みますね……」
 あれ、ファングマンまで?
「ヘーイ! ユー達、根性足らんデース! ファイト、ファイト!!」
 ジュディも自転車で走って応援している。
「ならん、ならーん! おまえら全員もっと気合入れて走り込め―!」
 アスラ学院長が竹刀を振り回して最後尾から走って来る。
 たまに遅れた人を竹刀で叩いて気合を入れた。
 そう、これは強化合宿だ。
 対象者は今回問題を起こしたブラスト、レオン、ファングマン。
 コーテスとジュディは人が良いので付き合いで一緒に走っているだけだ。
 懲罰代わりの強化合宿の日々はしばらく続く……。

 アンナは再び、剣聖の墓に来ていた。
 守衛と話す為だ。
「……と、いう感じで事件は解決しましたわ。魔術書も現在、事件の関係で警察が預かっていますの。手続き上の話が終わりましたら、魔術書はお返しするとのことですわ」
「そうか? あの事件は解決されたのか? さすがだなお嬢さん達は! それと魔術書も返って来るようでおじさん嬉しいよ。その件も重ねてありがとう。そうだ、よかったら、剣聖に魔導線香でもあげて行くかい?」
「そうですわね……」
 アンナは剣聖の墓に魔導線香を捧げると祈った。
(どうか安らかに……。今回のような過ちが起こらないように天から見守って頂きたいですわね)

 風紀委員会を代表して、スノウ、萬智禽、呉の3人が警察で表彰されていた。
「あなた方は、此度の聖アスラ学院における呪われた魔剣事件を解決した為、これにて表彰する……」
 表彰状はスノウが受け取り、これは後に風紀委員室へ飾られる事になる。
 表彰式が終わり、スノウは改めて2人に礼を述べた。
「今回の事件では本当に助かりました。皆さんの推理や助言がなかったら、もしかしたらファングマン先生かレオンが誤認逮捕されていたかもしれませんでした。協力者の皆さんには感謝してもしきれません」
 スノウがそう改まったので呉がきらりと笑う。
「ふ、どうやら天才技師おじさんの俺に惚れ直したってことかな? スノウさんはちょっと好みから外れるが、なんなら今からワスプで遊んでも……」
 潔癖のスノウがめらめらと怒りだし、萬智禽があたふたと焦る。
「呉殿! 折角いいシーンなのに下世話なジョークは勘弁して欲しいのだ!」

 未来とトムロウにも日常は戻った。
 本来だったら、今頃2人はデートしていた時期だ。
 それが事件のせいでなくなってしまったので、埋め合わせをしようかとも思ったが……。
「行くよ、トムロウ!」
「おう、いつでも撃て!」
 学院の特別訓練室を借りて、未来は激・電磁砲の射撃訓練をしていた。
 もともと師匠はトムロウだったので、トムロウが未来の射撃を改めて指導している。
「うん? そんな感じでいいかな?」
「ありがとう、トムロウ。こういう時はほんと、頼りになるよね!」
 今回みたいな危機的な事件がまたいつ起こるかわからない。
 2人はデートではなく戦闘訓練をする事にしたのであった。
 いや、もしかしたらこの訓練も2人にとってはデートなのかもしれない。

 死んだ盗賊兄弟は今回の事件である意味で時の人となった。
 最弱の盗賊兄弟が最強の座を目指して伝説の魔剣を盗む。
 後日、この話はマギ・ジスでも創作として再登場したようだ。
 ところで、彼らはスパイダー・ネストの掃除屋を偽って剣聖の墓に潜り込んだ事もあったが、実際の所属場所はワスプだ。
 事件直後はワスプに取材や野次馬が殺到したりして、なかなか大変だったようだ。
「マニフィカさん、そっちは大丈夫ですか?」
「ええ。なんとかマスコミを追い払いましたわ。ティムさんもご無事で?」
 今、ワスプでは取材や野次馬の対策をしている。
 ティムとマニフィカで溢れかえる者達を追い返していた所だ。
「少し休憩しませんか? 差し入れのホットドッグです。一緒に食べません?」
「いいですわね。なんだかわたくし達、籠城しているみたいで愉快ですわね?」
 あはは、と2人で顔を合わせて笑ってしまった。

 最強への憧れ。
 これは特に男であれば、誰もが一度は抱く幻想ではないだろうか?
 時にその憧れは大きな過ちを引き起こす事だってある。
 今回の事件みたいに。
 だが、人は強さだけで出来ている訳ではなく、時に強さの過ちを認める必要もある。
 今回、皆で解決した事件は、もしかしたらそんな事件だったのかもしれない。

 了