「心霊科学の忘れ物」第2回(現れたジョンソンズ先生(?)編)

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

●ディスクC:ジョンソンズ先生(?)救出編・前半

C-1「4つの部隊に分かれた仲間たち」

C-2「決裂したエリスと魔炎」

C-3「アンナVS風の霊体土偶」

C-4「魔法陣解除 第1回戦」

C-5「萬智禽&シルフィーVS火&土の霊体土偶」

C-6「ジュディVS水の霊体土偶」

C-7「その他NPCの現状」

●ディスクD:ジョンソンズ先生(?)救出編・後半

D-1「リュリュミアVS魔炎の決着

D-2「魔法陣解除 第2回戦」

D-3「クローネの掃除」

D-4「ダンジョンの正体」

D-5「その他NPCの現状その2」




●ディスクC:ジョンソンズ先生(?)救出編・前半


C-1「4つの部隊に分かれた仲間たち」



 迷っている時間はない。
 おのおのが、自らが信じる道へ向かって行動に移す。

 走り出したのは、「ジョンソンズ先生を助ける」グループが早かった。

 既に土の魔法少女姿になっているアンナ・ラクシミリア(PC0046)。

(人命第一ですわ! 早く助けませんと! 本物か偽者かなんて、助けてから判断すれば良いことですわ!)

 引き続き萌えアラビアン・ナイト姿の姫柳 未来(PC0023)。

(もし瀕死のジョンソンズ先生が本物だとしたら、急いで助けてあげないと……)

 ツナギのずんぐり技師・呉 金虫(PC0101)。

(興味深い魔法陣だな……。おっと、今はジョンソンズ先生とやらの救出が先か!)

 アラビアン・キッド・キューピーのビリー・クェンデス(PC0096)。

(あかんわ、これ!! はよ助けんと!! 救世主見習い、出番や!!)

 四人が魔法陣とジョンソンズ先生(?)へ向かって走り出したと同時に、背後から猛烈な火炎が噴き上がった。

 先行する四人が思わず振り返ると、そこには怪力精霊である魔炎の精(NPC)が己の背後で火炎を壁状にして封鎖していた。
 めらめらと燃え盛る炎の中で、今、燃え尽きる音を立てて「何か」が灰となった。

「よお? おまえらさ、何しちゃってくれてんの? 俺らさ、先生を早く助けねえといけねえんだわ? 今、拳銃撃った奴と花粉ばらまいた奴さ、何考えてんだよ!?」

 鬼のような形相の魔炎の精が怒鳴った先には、二人いた。
 魔導ロボ・エリス(NPC)と緑の人外美女リュリュミア(PC0015)がポーカーフェイスで後方から攻撃をしていたのである。

「どきなさいよ、そこ! あなたこそ、何、火炎の壁で狙撃の邪魔をしてくれているんですか? 全員が罠にかかったら終わりなのがわからないんですか?」

 エリスも迷惑そうに反論する。

「そうよぉ、そうよぉ! 魔炎のわからずやぁ! どう見ても罠よねぇ? そんな知らない人なんてぇ、放っておけばぁ〜!? でぇ、それがぁ、できないみたいなんでぇ、花粉攻撃したのよぉ。みんなでぇ、花粉でぇ、寝てしまえばぁ、放置でぇ、解決よぉ! 」

 リュリュミアもエリスと一緒に口を曲げて反論する。

 ふう、と魔炎が深いため息をついた。

「おい、俺と同意見だった奴ら、いいか? 先生の救助は一刻を争う。今、ここにいる全員で激突している暇なんてとてもねえ。エリスとリュリュミアの相手は俺が引き受ける。あとの奴は、行ってくれ! 早く先生を助けに行け!」

 先行する四人は最初、困惑の表情で曇ったが、魔炎の言い分は正しく思えた。
 魔炎には悪いと思いつつ、四人は無言で頷くと、魔法陣へ向かって再度、走り出した。

***

 ジョンソンズ先生を「助けるグループ」と「助けないグループ」が小競り合いをしているところを振り切って、別動隊が全力で走り抜けて行く。

 マギ・ジス産の魔石(研磨版)を盾に、先頭を走るのは、ジャイアント・アメリカン・レディのジュディ・バーガー(PC0032)である。
 本日は、特殊水着の上にスカスカのスケルトンアーマー改(バスの無限キャンディ強化)を着こんでいる。
 頭上では猿の鉢巻きを締め、胸元では、異世界の勲章がピカピカと光っている。
 ちょっとしたハロウィン衣装だ。

(トモカク……。今のジュディにデキルこと……。それは、パワーファイト、ネ! ドッチがライト(正しい)な気もするネ……! ダガシカシ、モンスターは倒すベシ!!)

 ジュディの機動力に後れを取るものかと、浮遊する巨大目玉の萬智禽・サンチェック(
PC0097)は風のオーブで速度を上げつつ、一気に最奥へと疾走する。
 そして、その目玉の乗り物の上に、調査部隊隊長のシルフィー・ラビットフード(NPC)がしっかりと捕まりながら、大声を上げる。

「はいよー! シルバー!!」

(ははは……。旧世代のギャグか……。ジェネレーション・ギャップを感じるのだ……。魔法陣にも興味があるが、霊体土偶とやらを止めんと危険な様であるな。この4体の四大属性がそろった土偶が連携していると厄介である。早めに周辺の魔物を屠ろう!)

 途中で霊体土偶やマックロ・クローネに遭遇しつつも、ともかくジュディたちは、攻撃を回避し、ひたすらこの階の最奥を目指して突き進んだ。

***

「あめ、あめ、ふれ、ふれ、ウネさんがぁ〜♪」

 水精霊のウネ(NPC)が、柄杓(ひしゃく)一杯に溢れる水を振りまきながら、B1フロアをとことこと歩いていた。
 本来ならば、「天候操作」で雨を降らしたいのだが、なかなか状況が許さない。
 ここは室内の閉じられた空間だからだ。
 いつだったか、ウマドラの小さな洞窟を洪水にしてしまったこともあったとか。
 さすがに、みんなの戦闘の邪魔はできない。

 そこで代替処置として、自らがスプリンクラーになって、「気温30℃、湿度60%」のこの灼熱地獄を少しでも緩和しようしている次第である。

 ところでこのウネ、所有者は人魚姫のマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)だ。
 しかし、今、B1フロアにマニフィカの姿が見えない!
 まさか敵前逃亡ではあるまい。
 彼女はいったい、どこへ!?

***

 ぶぶぶぶん、ぶごごごごご、ばりばりばり!!

 魔導掃除機のクローネ・クリーナー(NPC)が起動する。
 全部で11台だ。
 11台のクリーナーは、B1フロアを飛行しながら、ばらばらに散って行った。
 悪いクローネたちを、ばりばりと食べて掃除するためである。

 ぶうううううん、ぴかぴかぴかー!!

 82匹いる魔導ホタル(NPC)たちもフロアの各地へ散らばり、お尻の強化ライトで暗い遺跡を隈なく照らしている。
 現在の照明標準では、暗いところが全くない。
 友軍は安心して行動できる。

 PCたちが購入したゼリー状の魔導ホタルのエサも方々にばらまかれている。
 全部で10個のエサなので、10か所だ。
 魔導ホタルたちが負傷したら、ここへ帰って来て回復し、また戦場へ戻ることだろう。

 100匹いるマックロ・クローネたちもひそひそと行動を開始した。
 魔導ホタルを食べに行く者、クリーナーに吸われる者、様々だ。

***

★味方モブNPCの現在状況★

★★クローネ・クリーナー:初期0台

ビリー:3台購入。

ジュディ:3台購入。

マニフィカ:3台購入。

萬智禽:1台購入。

シルフィー:1台購入。

合計:11台

★★魔導ホタル:初期50匹

ビリー:10匹購入。

ジュディ:10匹購入。

マニフィカ:10匹購入。

萬智禽:2匹購入。

合計:82匹

★★魔導ホタルのエサ:初期0個

ビリー:4個購入。

ジュディ:2個購入。

マニフィカ:2個購入。

萬智禽:1個購入。

未来:1個購入。

合計:10個


C-2「決裂したエリスと魔炎」


 魔炎は今、内心、とても焦っている。
 なぜならば……。

(エリスと俺はさすがにシルフィーのツートップの部下だけあって、実力的には互角だ。奴は魔銃、俺は魔剣と、タイプが違うが。それに加えて、よりによって、リュリュミアか……。正面から2人の相手をして勝てる確率は低い……。ならば!!)

「うおおおおおおおおおお、ぐおおおおおおおおおお、ぎゃああああああああ!!」

 突然、魔炎が腹を押さえて、ジタバタとうめきだした。

 ぽかん、とした顔でリュリュミアは質問する。

「あらぁ? どうしたのぉ?」

 魔炎は、ニヤリと笑った。

「う、ぐはあ……。すまん、腹が痛てえ! 腹痛が起きた! タンマ、タンマ!!」

 エリスも、ニヤリと笑った。

「うふふ。おバカな魔炎。それで油断させたつもりですか? さようなら!!」

 バキュン、と乾いた魔銃の「精密射撃」が魔炎の眉間を襲う。
 魔炎は、眉間を撃たれて、ゲームオーバー……。

 と、思いきや。

「オラアアアアアアア!!」

 カキィィィン!!

 スキル「カウンター」が発動し、魔剣をバットのように振りかぶって、銃弾を反射させた!

「きゃあああああああ!!」

 今度は、反射した銃弾が、エリスの眉間にクリーンヒット。
「精密射撃」の100%反射だったので、攻撃は密に直撃だ。

 だが、エリスもこの程度では倒れない。
 彼女のような魔導ロボには、物理攻撃の耐性があるからだ。
 エリスは、眉間から、つつつ、と血を流しながらも、よろよろと態勢を整える。

「させっかよおおお!!」

 魔炎は、魔剣から、猛烈な炎を2連続で放射した。
 ちょうど、クロス状にになって、「ファイアウォール」がエリスとリュリュミアを襲う!

「おっとぉ!?」

 リュリュミアは、「ブルーローズ」の蔦を召喚し、付近を飛んでいるクローネ・クリーナーに引っ掛けて、外部へジャンプして移動。

 もっとも、ふらついているエリスに回避の余地はない。
 左右から迫って来る炎の壁は天井へ向かって、猛烈に噴射し、燃え盛る。

「きゃあああああああ!!」

 エリスは、十字の炎の猛攻に襲われ、頭と背中を激しく天井に打ちつけられた。
 天井の高さ、10メートル。
 そして、10メートルの高さから、無惨にも落下し、転がり、動かなくなった。

「はあ、はあ……。まずは、一人、やったぞ……」

 今回のエリスとの勝敗の判定は、魔炎の勝利だ。
 魔炎は、エリスが言ったように、「油断を誘う」ために演技をしたわけではなかった。
 ああいうバカなことをすると、エリスはいつものように魔炎をバカにして、撃って来る。
 しかも、今回みたいな場合、確実に仕留める「精密射撃」で。

「精密射撃」で撃ってしまったが運の尽きだ。
 魔炎は今回、「カウンター」スキルを持っている。
 100%近くの精度で撃たれた魔弾が、100%の威力で反射する。
 まず一発は、クリーンヒットだ。

 そしてここからが賭けだ。
 残り2発しか残っていない「ファイアウォール」を使い切ってしまう。
 メインターゲットは、もちろんエリス。
 エリスを力押しで潰せば、即座にHPを切らして、動けなくすることができる。
 もしかしたら、リュリュミアも巻き込んで一緒に倒せるかもしれない。
 案の定、リュリュミアには逃げられてしまったが。

 魔炎は、あの一瞬でここまで考えていた。
 頭は決して良い方ではないが、戦い慣れしている歴戦の戦士だからだ。
 エリスは、あともう一歩だけ、甘かったのだ。

「よお、リュリュミア? 降参しねえ?」

 魔炎は、余裕の笑みで降伏を呼びかけた。

「うふふぅ……。あははぁ……。面白くなってきたじゃないのぉ!! ここでぇ、みんなをぉ、眠らせてぇ、帰るつもりだったけれどぉ……。なんかぁ、燃えるわねぇ……。やってやるわぁ!!」

 リュリュミアは、嬉しかった。
 彼女は、ここのところ強くなり過ぎていたので、そろそろ戦う相手がいなくなってきたところだ。
 ジョンソンズを助けるか助けないかで意見が割れていたのは、もはや過去のこと。
 人外魔境のお姉さんは、今、純粋に戦いに燃えている。

「そうか? やるのかよ、このわからずや!! いいさ、すぐに終わらせてやる!!」

 魔炎は、上段で魔剣を振りかぶって、落下して来た。
 リュリュミアは、「ブルーローズ」の鞭を両手でピンと張り、魔剣を受け止める。

 両者共、互いに譲ることができない戦いが始まってしまった……。


C-3「アンナVS風の霊体土偶」


 エリスとリュリュミアのことは魔炎に任せて、四人は魔法陣の付近までたどり着いた。
 ジョンソンズ先生は、助けに来た四人に向かって、苦しそうに何かを訴えている。

 魔法陣の前には、2体の霊体土偶が門番の如く待ち構えていた。
 風の霊体土偶と土の霊体土偶だ。

 だが、土の霊体土偶の方は、別動隊との戦いのため、お留守だ。
 残る風の霊体土偶が立ち塞がった。
 3メートルの巨体が、古めかしい拳法の構えをしながら、じりじりと迫って来る!

 魔法陣は、当然、解除するつもりで皆、ここに来た。
 未来、ビリー、呉らには何か秘策があるのだろう。

 アンナは、「そんなこと」すら考えていなかった。
 ただただ、苦しんでいるジョンソンズ先生(?)を助けなきゃ、という思いだけで突っ走ってしまった。

 ならば、ここでゲートキーパーの相手をするうってつけの人材は、必然的に……。

「わたくしがこの土偶を引き受けましょう! 皆は、魔法陣の解除をお願いしますわ!」

 魔法少女は、土色のポンチョを翻して、一歩前に出た。

「おう、すまんな。俺、戦闘はあんま、得意じゃねえんで!」

 呉が数歩、後退した。

「(アンナさんなら強えから大丈夫やろ)ほな、お任せしますわ!」

 ビリーも数歩、下がった。

「わたしも一緒に戦いたいけれど……。今は先生が最優先! アンナ、お願いね!!」

 未来もビリーと呉が並んでいるラインまで戻る。

 ともかく、残りの三人は魔法陣の解除に取り掛かることにした。
 アンナは、拳闘の構えをして、土偶に挑む!

***

 風の霊体土偶は、怪しい動きをしていた。
 いつだったか、アンナが体育の授業で習った「酔拳」に似ていた。
 おそらく、属性が「風」であることから、吹き抜けるような動きでもするのだろう。

 だが、相手は「風」属性だ。
「土」属性であるアンナの方が属性的に分がある。

「風、風、風、風、風!!」

 カゼ、カゼ?
 アンナは不可思議な呪文のような言葉に一瞬、戸惑った。
 しかし、今は、そんなときではない!

 風の如く、そしてふらふらと、突っ込んで来る霊体土偶に対して、魔法少女はモップで受け止めた。

 ぱん、ぱぱぱかん、ぱんぱん!!

 巨体からは想像もできない連続打撃がアンナを襲う!
 アンナも格闘技にはそれなりに覚えはあるが、モップ攻撃が全て弾き返されてしまった! モップが宙に舞う!
 その直後、土偶の下部からキックが蹴り上げられた!

「きゃああああ!!」

 土色の魔法少女は蹴り飛ばされたが、くるくると宙返りをして着地した。

「反撃……させて頂きますわ!!」

 猛速度で魔法少女が突っ込んで行く。
 両方の手元からは、「ゴーレムパンチ」を召喚し、土偶へ正拳突きをお見舞いする!

「風、風、風!!」

 土偶は、「ゴーレムパンチ」すら、無数の拳の連続打撃で粉砕してしまった!

「ウソ!? この土偶、かなりの拳法上級者ですわね!! ならば……」

 突然、桜と雪が吹雪いてきた……。
 そう、アンナの「乱れ雪桜花」の吹雪だけヴァージョンが土偶を襲う!

「こっちですわよ、べろべろばあ!」

 あらぬ方向から、アンナが顔を出した!
 アンナが変顔で挑発する!

「風、風、風!!」

 クリティカルヒットの重いアッパーが、避けきれないアンナを襲う!

「きゃああああああ!!」

 そのままアンナは天井に叩きつけられて、天井に埋められてしまった。

「すきあり!!」

 土偶の背後から、別の「アンナ」が突撃してくる!

「『グランドクロス』の一撃ですわ!!」

 全身を硬直させたアンナが頭突きの一撃で土偶の背中を突き抜ける……!!

「はっ!!」

 風の土偶は、そのことすらも予測済みだったように、アンナを蹴り飛ばした。

「うふふ。こっちにもアンナはいますわよ!!」

 魔法少女は、「アンナ」を蹴り飛ばしたばかりの霊体土偶の首根っこをめがけて、「ゴーレムパンチ」をお見舞いする!

「グガガ!?」

 ぱきぃぃぃん!!
 土偶の首が、強固な魔法打撃の一撃でへし折れた!

「とどめですわ!」
「ですわ!」

『ダブルゥゥゥ、ゴーレェェェム、パアアアアアアアアアアアンチ!!』

 二人のアンナは、挟み撃ちで必殺の一撃を撃ち込む。
 片方は腹部へ、もう片方は背部へ!!

 ぱりぃぃぃぃん……!!
 どかどか、どかああああああああああああああん!!

 風の霊体土偶は、大爆発を起こして粉砕されてしまったのだ!
 この二人のアンナの内、一人は、召喚した「ゴーレム」である。
 実は、最初に天井へぶちのめされたアンナの方が「本物」だったのである。


C-4「魔法陣解除 第1回戦」


 アンナが土偶の相手をしてくれているうちに、三人は先生を救助しなくてはならない。
 さて、ジョンソンズ先生(?)の正体は……!?

 今度は、ビリーが前に出た。

「まあ、本物か偽物か……。どっちの言い分もようわかるんやけどな。あんまし迷うとる暇はあらへんで?」

 未来が続いて頷く。

「そうだね? わたしも思わず走って来ちゃったけれど、この先生が偽物だったら、助ける必要はないよね? ビリーには、何か考えがあるの?」

 ビリーは、にかっと笑った。

「あるで! 『コピーイング』っつう技能あるやん? これは、『敵の技能』をコピーするスキルやねん! ほな、そこにいる先生が『本物=仲間』であれば、コピーは『失敗』するねん。でも、『偽物=敵』であれば、コピーは『成功』するねん。やってみても、ええんちゃうか?」

 未来と呉に反論する理由はない。
 ひとまず、ビリーにそれをやらせてみることにした。

「ふわあおおおおおお! コピーやねん、コピーしまっせー!!」

 ビリーは、師匠であるコピーマン先生(NPC)の構えを真似て、さっそくジョンソンズ先生(?)をコピーしてみることにした。

 すると……。

「ぬおおおおおお! ぐおおおおおおおおお! うぎゃああああああ!!」
 うめくビリー。

「え、うそ!?」
 焦る未来。

「マジかよ!?」
 動揺する呉。

 なんと、ビリーは、ジョンソンズ先生(?)を魔法陣ごとコピーしてしまったのだ!
 今、ビリーの周辺には、コピー版の小さな魔法陣が取り囲んでいる。
 魔法陣は、ビリーのHPとMPを吸うが如く、怪しく青白く発光している。

「どうしよう? 助けなきゃ!!」

 未来は、ビリーを引っ張り出そうとするが……。

「待てよ、未来さん! そこで手を出したら、あんたまでやられちまう! どういうわけかはわからんが、ここはビリーさんに任せてみよう!」

 呉が即座に止めに入った。

 すると……。
 しゅううううううううううん……。

 魔法陣の効力が切れて、ぼろぼろになったビリーが燃え尽きて倒れた。
 もはや一言も言葉を発しない。
 彼は、ゲームオーバーになったのである。

「わわわ、どうしよう? どうしよう?」

 パニックになる未来に対して、呉は冷静に提言した。

「やられてしまったビリーさんには悪いが、状況をちょっと整理してみよう? ビリーさんは、『本物=仲間』であれば、『コピーイング』は『失敗』し、『偽物=敵』であれば、『コピーイング』は『成功』する、と言った。ビリーさんがやられたところを見ると、『成功』のように見える。だが、ビリーさんの魔法陣は消えてなくなってしまったのに、ジョンソンズ先生(?)の魔法陣は未だに作動している。つまり、『コピーイング』は『不完全』ということだ。では、このジョンソンズ先生(?)は『偽物=敵』なのか? いや、それこそおかしいな? だってよ、ビリーさんはコピーに『失敗』したわけだから、今、こうしてHP&MP切れになっただけで済んで、魔法陣は消えたわけだろう?」

 頭がごちゃごちゃになりそうだ。
 未来は、ううん、とうなって頭を抱えた。

 わりい、わりい、と詫びて、呉は補足した。

「要するにさ、ここにいるジョンソンズ先生(?)は、敵でも味方でもなく、純粋に『中立』した立場ってことなんだよな? だから、『コピーイング』は不完全に終わった、とも取れるだろう? 少なくとも、コピーそのものは完全に『成功』していない『失敗』なわけだから……。(完全に『成功』していたら彼も周囲にいる俺らもこの程度で済まないはず!)答えは……!!」

 未来は、やっと事態を飲み込めた。

「今は『中立的立場』だけれど、『本物』ってことね!」

 呉は、ニヤリと笑った。

「ああ、きっとそうに違いない!」

 だが、今は、議論しているどころではない!!

「わわわ、どうしよう? 先生もだけれど、ビリーも助けなきゃ!!」

 再び慌てる未来に、呉が改めて提案する。

「ビリーさんの状態は、単純にゲームオーバー。ジョンソンズ先生の状態は、そろそろ死亡が近い。早いところ魔法陣を解除して、二人を助けちまおう!」

 未来もこれには頷いた。

「そうだよね……。冷静に考えてみれば……。ビリー、痛いだろうけれど、今だけごめん! 辛抱してて! ジョンソンズ先生も、今、助けるから!」

 いよいよ苦しそうでげっそりしている先生の前で、次は、未来が何かをやるらしい。
 呉は、一歩下がって見守ることにした。

 未来は、静かに目を閉じて、気を集中させた。

(うむ……。今なら、見える!!)

「ブリンク・ファルコン」を発動させるつもりだ。

 ところで、この猛烈な魔法陣相手に、「ブリンク・ファルコン」の連続攻撃は意味があるのだろうか?
 連撃の威力が足りなければ、次は未来が魔法陣にやられる番だ。

 そう、威力さえ足りていれば良いのだ。
 威力さえ……。

 未来は、今までの戦いで「ブリンク・ファルコン」を使った場面を全て思い出していた。
 この技能のキーワードは「速度」だ。
「速度」こそ「力」であることが、「ブリンク・ファルコン」のレーゾンデートル(存在理由)とも言える。

 速度を蓄えるべくして、力を集める。
 力を速度に変え、速度を力に変える!

 これぞ、「ブリンク・ファルコン」の奥義のひとつ。
「ファルコン・チャージ」である。

 未来の足元から、猛速度の嵐が吹き抜けた。

 びゅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
 ぎゅるるるぅぎゅうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!

 アラビアン・ナイト衣装や頭髪が風にゆられて、少女の全身から風のオーラが流れる。
 今、風の気である速度の気が貯まった。
 チャージ、完了!!

「いざ、参る!! ブリィィィィンク・ファルコオオオオオオオオオオン、チャアアアアアアアアアアアアアアアアジ!!!!」

 8回連続の「ブリンク・ファルコン」が「チャージ」の力により、3倍増しになる。
 つまり、単純計算で24回の連続攻撃分の威力が魔法陣に激突する!
 未来は、サイコセーバーをうねらせながら、縦横無尽に飛び回り、8×3倍の連続斬撃攻撃を魔法陣に向かって叩き切った!!

 どっかあああああああああああああああああああああああああああああん!!
 どかどか、どかかああん、どかああああああああああああああああああん!!

「やったか!?」

 必殺技が派手に爆発をする中、呉は事態を見守った。
 やがて、煙がもくもくと晴れると……。

 魔法陣は、無傷だ。
 未来は、ぼろぼろに燃え尽きて倒れていた。
 もはや彼女は、ぴくりとも動かない負傷レベルだ。

「う、うそだろう!? 今の必殺攻撃、かなりの火力だったぜ? それすらも反射無効にする魔法陣って、いったい、どれほどだよ!?」

 呉の顔面から汗がたらたらと噴き出た。
 いよいよ、自分の番が来たからだ。
 しかも、後がない!!

 ビリーも未来も、決して悪い作戦ではなかったはずだ。
 ビリーのお陰で、ジョンソンズ先生が本物だとわかった。
 未来のお陰で、この魔法陣には並以上の攻撃すら効かないことがわかった。

 もっとも、呉といえども、何も考えないでここまで走って来たわけではない。
 彼は、冷静さを取り戻し、腕元のスマートウォッチを取り出して、魔法陣の解析に当たった。

「二人ともすまねえ……。最初から俺がやっていれば良かったんだ……。ま、上手く行くかどうか保証はねえが、もはやこのまま引き下がれねえな……」


C-5「萬智禽&シルフィーVS火&土の霊体土偶」


 風の速度に乗って、萬智禽とシルフィーがたどり着いた先は、B1の最奥であった。
 つまり、今回の戦略マップで言うところ、画面左端(北西の端)まで来て回り込んだのである。
 道中、火の霊体土偶と土の霊体土偶に目を付けられてしまい、画面左端(北西)まで追い込まれてしまったところでもある。
 ちなみにクローネの方は、掃除機相手に奮闘が忙しいらしく、萬智禽&シルフィーの追跡を途中でやめたようだ。

「火、火、火!!」
 火の霊体土偶が、ジャブの姿勢で、両拳をシュシュっと連打している。

「土、土、土!!」
 土の霊体土偶も、拳法を何度も構え直し、臨戦大勢だ。

「シルフィー殿! 考えがある! 時間を稼いでくれないだろうか?」
 巨大な目玉が、ぎらりと光った。

「あたしも魔導士タイプなので、詠唱に時間がかかりそう! 最初にあたしの詠唱時間を稼いでくれる?」
 シルフィーも萬智禽から飛び降りつつもそう答えた。

「了解である! おい、土偶ども! 私が相手を致そう!」
 巨大目玉は、風のオーブの出力を上げて、ぶんぶんと飛び回る。

「火―!」
「土―!」

 霊体土偶も、まるで素早く飛び回る昆虫を追っかけるが如く、拳や蹴りを高速度で連打して来た!

 萬智禽が猛烈な連打を何とか交わしつつ、1ターンが経過した。

「……出でよ、『ゴールデン・ゴーレム』!!」

 シルフィーの召喚魔法陣から「ゴールデン・ゴーレム」がどかんと出て来た。
 ゴーレムはマッチョなポーズを決めて、直後、火の霊体土偶に体当たりをした。

 火の霊体土偶も素早く飛び回る目玉を叩き落とすのに集中していたので、突然の一撃で態勢を崩した。

 どかああああああん!!
 がんがらがっしゃん!!

「選手交代である! 行くぞ、我がランタン!!」

 萬智禽は、ゴーレムと入れ替わり、『魔法封じのランタン』を取り出し、怪しい光の直線攻撃を、ぴかぴかと照射!

「うぐぐ!!」

 火の霊体土偶は、こけたまま、そのまま、魔力のコントロールを奪われた。
 土偶に込められている霊体の魔術に影響を及ぼしたようだ。
 火の霊体土偶は、心霊魔術が一時的に使えなくなった。

「続いて行くぞ、『人形使いのジュエル』でどうだ!!」

「土、土、土!!」

 妨害が入った。
 土の霊体土偶が突進してくる!

 どがっ!!

「ゴールデン・ゴーレム」が援護防御に入ってくれて助かった。
 萬智禽は気にせず続ける。

 お次は、煌びやかに鈍く光る宝石を取り出し、きらりん、と光線を発射!

「ぬぐぐうおお!!」

 火の霊体土偶は苦しそうだ。
 魔力に制御が加えられた上、マインドのコントロールまで奪われた。
 今、火の霊体土偶は、ゾットスルー族の魔術師の傀儡となったようだ。

「ふはは! コントロールを押さえたぞ! 行け、我が傀儡! 土の霊体土偶を倒せ!!」

「ひ、ひ、ひー!! ひひひ!!」

 火の霊体土偶が不気味に笑い出し、がしゃ、がしゃん、と歩き出す。
 そして、土の霊体土偶を襲う。
 はずだった……。

「あ、あれ? なんで、こっち来るのだ! おい、言うことを聞け! 敵は、あっちだ! 土の霊体土偶を屠れ!!」

「ひひひのひー!!」

 火の霊体土偶は、「ゴールデン・ゴーレム」を猛烈な数打撃で破壊すると、萬智禽を捕まえて、土の霊体土偶に放り投げた!

「うぎゃあああああ!!」

「トス!!」

 ぐるぐると放り投げられた巨大目玉を土の霊体土偶が叩き落とした。
 巨大目玉は3メートル近くの上空から真下に叩きつけられた。

(ぐはっ!! コントロールが完全に効いていないのだな? 何をミスした? いや、あるいは土偶の作成者の力量が私より上なのか!?)

 その後、火の霊体土偶は、土の霊体土偶に向き直り、強烈な拳の猛攻を繰り出す。
 土の霊体土偶も負けまいと、より強烈な拳の応酬で対応する。

 すると……。
 互いが互いを「物理反射」してしまったのだ!
 しかもどちらも「反射」しているので、無限の殴り合いが展開された!

「火、火、火!!」
「土、つ、ち、つ……!!」

 土の霊体土偶の方が押されている。
 なぜなら、属性対応表は、火>土だからだ。

「火!!」

 もらった、とばかり、最後の一撃が土の霊体土偶の腹部に打ち込まれると、土の霊体土偶は爆発して崩壊した!

 どっかああああああああああああああん!!
 どか、どか、どかあああああああああん!!

「ははは! やったぞ! これぞハクスラ、デストローイ!! シルフィー殿、援護を頼む!」
「うん、了解!」

 萬智禽は、立ち上がり、再度、コントロールを試みるが……。

「火!!」

『魔封じのランタン』の効果が切れたようだ。
 火の霊体土偶は、「憑依霊」の呪いを唱え、萬智禽を捉える。

「ぬお! しまった! コントロールは未だにダメか!? しかも魔力まで、奪われて……」

 弱体化する萬智禽。
 一方の火の霊体土偶は、『再生霊術』の効果でじわじわと修復されて行く。

(ぐっ……!! 再生を間に合わせてはまずい! シルフィー殿の一撃を早く入れないと勝機はない!!)

 焦った萬智禽は、自分に注意を向けるため、マギジック・レボルバーを念力で構えた。

 パパパン!!

 水の弾丸を発生させ、火の霊体土偶に打ち込むが……。

「火!!」

 水の弾丸すら蹴り飛ばしてしまった。
 この土偶、拳法の実力が並ではない!

「火、火、火、火、火!!」

 火の霊体土偶は、かくばった動きでステップしながら、萬智禽に迫って来た。
「近代心霊科学流拳法」火の鉄拳連打が炸裂する!

「うぐおおお!!」

 科学的な動きに基づく精密な連打と火炎亡霊の魔拳が萬智禽に炸裂した。
 10連打コンボが大ヒットし、巨大目玉は宙に舞いながら、地に果てた。

「間に合うのじゃー!! 水の強化魔弾をくうらのじゃ!!」

 シルフィーは、やっとのこと、高位の精霊であるマクスウェルを召喚できた。
 老賢者マクスウェルがシルフィーに乗り移り、水の最強魔弾を放つ!

 びゅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
 どっかあああああああああああああああああああああああああああああん!!

 火の霊体土偶は、水の強化魔弾をクリーンヒットで浴びて崩壊した。
 もともと土の霊体土偶との対戦で弱体化していたところ、霊術での回復が間に合わなかったようだ。
 萬智禽が時間を稼いでくれて、注意も引き付けてくれたので、シルフィーは問題なく詠唱を完成し、撃破できた。

「わー! 萬智禽が大変! 『フェニックス』で復活させなきゃ!」

 シルフィーは、動作停止の1ターン後、慌てて「フェニックス」を呼び出すのであった。


C-6「ジュディVS水の霊体土偶」


 萬智禽らが火や土の土偶と戦い始めた頃、ジュディは画面左端(南西)に回り込み、水の霊体土偶と対戦を開始していた。

「へーイ! カモーン!ウォーター土偶!!」

 ジュディは、左手で、「来い来い!!」と挑発した。
 すると、土偶は、あえて挑発に乗ったかのように動き出す。

「水、水、水!!」

 カマキリのような動きで迫って来た!!
 水の鎌となった両手がジュディを襲う!!

「ヒュー!! デンジャラス!!(危ないわね!!)」

 ジュディは、「猿の鉢巻き」の効果もあり、後方に飛んで避けた。

「今の、螳螂拳(とうろうけん)ネ!? ヘイ、カウンターアタック(反撃)、開始デース!!」

 ジュディは、アメフトの突撃ポーズを取り、「マギ・ジス産の魔石」の盾を正面に構えて、突進する!!

「イーハー!!」

「氷!!」

 水の霊体土偶は、両足を凍らせた。
 鋭い回し蹴りを撃ち込み、盾を蹴り飛ばした!

「ヒャッハー!! ソレ、ダミー、デース!! コレデモ、くらうデース!!」

 ジュディは盾の中に隠し持っていた「ゴッドベア・ナックル」の両手で、アッパーカットのジャンプを決める!

 どかん! ……。
 と、いくかと思いきや……。
 カキィィィン!!

「ギャアアアアア!! オー・ノー!?(な、なんてこと!?)」

 ジュディの両手からはクリティカルヒットが繰り出されたはずだった。
 水の霊体土偶は、「物理反射」をするので、今の全力攻撃がジュディに跳ね返った。

「水、水、水!!」

 両手を派手にケガしてうずくまるジュディを、水の霊体土偶は蹴り飛ばした。

「ノー!!(だめー!!)」

 ジュディは、蹴り上げられ、その衝撃で壁に叩きつけられた。

(ハア、ハア……。物理反射の相手に全力攻撃はマズカッタ、デース!! ダガシカシ……!!)

 ジュディは、負傷してしまった両手に「ハイランダーズ・バリア」の魔術ナックルを張った。これならば、多少のケガでも十分に拳として機能する。

「ヘイ、ウォーター土偶!! ユーとミーは、ファイター、ネ! 殴り合いで決着つけるデース!!」

「水!? 水、水、水!!」

 ジュディの挑発に土偶は再度、乗ったようだ。
 水の霊体土偶といえども、もとは格闘家らしく、拳闘の構えを張り切り出した。

「みいいいいいいいいいいいいいいいいいいい、ずうううううううううう!!」

 水の霊体土偶は、計算され尽くされた螳螂拳の動き、「近代心霊科学流拳法」氷の鎌を繰り出す!
 カマキリが獲物を捕らえるステップと共に、氷の鎌と化した両手でジュディを襲う!

「ヘイ、ソウコナクッチャ、アリマセーン!! ゴオオオオオオオオオオオオストオオオオオオオオオオオオオ、ブレイカアアアアアアアアアアア!!」

 土偶の両手から氷の鎌が振り落とされ、ジュディの両手を打ち砕きに行く……!!
 ジュディは、魔術のナックルで強化された両手に霊体破壊の魔術を込めて、応戦……!!
 氷の鎌と拳を交えたその瞬間……。

 ピカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
 しゅううううううううううううううううううううううううううううううううん!!

 水の霊体土偶の氷の鎌がジュディの両拳(すなわち「ゴースト・ブレイカー」)に接触したと同時に、発光と蒸発が起こった!!

 水の霊体土偶は、霊体ごと崩壊し、天へ消滅してしまった!!

「アーメン!!」

 ジュディは、倒した対戦相手の冥福を祈った。


C-7「その他NPCの現状」


「ギャース、ギャース!!」

 マックロ・クローネは、魔導ホタルを襲って食べた。
 ホタルたちも食べられないように、ぶんぶんと逃げ回る。
 負傷したホタルたち何匹かは、エサを食べて回復した。

「ぶぶぶん、ばおおおおおん!!」

 クローネ・クリーナーは、マックロ・クローネを襲って吸った。
 クローネたちも吸われないように、ぱたぱたと逃げ回る。

「がしがしがし!! ばりばりばり!!」

 マックロ・クローネもたまに反撃する。
 クローネ・クリーナーも何台か壊された。

「六月六日、雨、ざあざあ〜♪」

 水精霊ウネは、環境改善のためB1方々に水を振りまく。
 彼女は引き続き、スプリンクラーの役割をしていた。
 お陰様で、B1の暑さがやや緩和された。

 あれ? マニフィカは!?
 前半戦でどこかへ消えていたマニフィカの反撃が後半戦に始まる……はず!!

 さて、モブNPCたちの残りの数を見て行こう!

***

★モブNPCの現在状況★

★★マックロ・クローネ:残り62匹

初期:100匹

★★クローネ・クリーナー:残り6台

初期:11台

★★魔導ホタル:残り65匹

初期:82匹
備考:B1を照らす明かりの基準に問題なし。

★★魔導ホタルのエサ:残り5個

初期:10個


●ディスクD:ジョンソンズ先生(?)救出編・後半


D-1「リュリュミアVS魔炎の決着」


 魔法陣解除は上手く行ってないらしい。
 魔炎は、横目で、ビリーと未来が倒れているのが目に入った。
 呉は、腕に巻いた機械で何かをしているようだ。

 リュリュミアの相手をしている場合ではないかもしれない。
 早くこの女を片付けなくては、と魔炎は額から汗が流れた。

「ふう、ふう……。おい、リュリュミア、そっちもそろそろ苦しいんじゃね? お互いに次の一撃で決めるってのはどうだ!?」

 魔炎の提案に、リュリュミアは、にこりと返した。

「はあ、はあぁ……。そうよねぇ……。暑いわぁ、ここぉ……。あなたこそぉ、次の一撃でぇ、のびてねぇ〜!!」

 どちらかというと、リュリュミアの方が苦しそうだ。
 魔炎は沙漠生まれの精霊なだけあり沙漠地形のペナルティを無効化できる。
 一方のリュリュミアは、沙漠地形ペナルティを無効化する術はなく、防暑対策もしていない。

 気力・体力面からみれば、リュリュミアは、押されている。
 力量的な問題であれば、魔炎の方がやや押されていた。

 両者とも、一歩も譲らない、譲れない、攻防戦。
 このままじり貧で相打ちになる前に、次で決着をつけようという意見が出たのは自然な流れだ。

(おし、挑発に乗ったぞ! 次は、あの作戦で行くか……)

「うおおおおおおおおおお、ぐおおおおおおおおおお、ぬおおおおおお!」

 魔炎は、突然、腹を押さえて片膝をついた。

「ん〜!? どうしたのぉ〜!?」

 またまた魔炎の怪しい動きでリュリュミアの頭上にはてなマークが浮かんだ。

「す、すまん……。だ、だいが……。大なんだ、大!! トイレ休憩たのんまーす!!」

 魔炎の精、まさかの下ネタ攻撃!!

「うふふぅ〜!! 魔炎っておバカァさ〜ん!! さようならぁ〜!!」

 リュリュミアは、「ブルーローズ」をしゅるしゅると絡めて、魔炎の精に猛攻した!
 技能値70%の威力で、地面から猛烈な無数の蔦が這え巡り、魔炎を襲う!

「そう来ると思ったぜ!! ダークゥフレアアアアアアア、スゥマアアアアアアアアアアシュウウウウウウ!!」

 魔炎は暗く燃え盛る魔剣を両手にリュリュミアの蔦が生えてくる地面に向かって、強烈なスマッシュ攻撃の一撃を打ち込んだ!
「ダークフレア・スマッシュ」の属性は、火と闇。
 つまり、土属性である植物の攻撃であれば……植物ごと燃やしてしまえる!
 魔炎は、リュリュミアの武器を潰しにかかった!

 ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
 めらめらめらめらごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!

 B1の出入り口付近のフロアはあたり一面、火事になった。
 リュリュミアの放った無数の「ブルーローズ」が着火し、燃え盛っている。

「ふはは! リュリュミア、俺の勝ちだな!? これだけあたり一面燃えていたら、もう植物の武器はだせないべ? さあ、出てこい、焼き殺してやる!!」

 魔炎の精は、魔剣をぶんぶんと振り回して、燃え盛る蔦や根を切り払った。
 この人工樹海のどこかに、リュリュミアはいるはずだ。
 見つけ次第、叩き切る!

 すると、突然……。
 ぎゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!
 ぎゅるぎゅるぎゅるううううううううううううううううううううううううううう!!

 地面が歪んだ。
 地面が崩れた。
 地面が吸われた。

「ぬお!? な、なんだよ、それ!?」

 魔炎は、よろめいた。
 そして、足場を踏み外した途端、地面に吸われて行く!!

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 魔炎が吸われて行く中、リュリュミアが天井から逆さ吊りで降りて来た。

「伏兵がいたのよぉ! アリ地獄モグラちゃん改造版よぉ〜!!」

 そう、このスキルは、リュリュミアのスキルではない。
 手下(アイテム)のアリ地獄モグラ改が、異次元にアリ地獄を造ったのだ!
 今、魔炎は、異次元に吸われている。
(下の階層に落ちるわけではなく、飽くまで異次元にハマっている)

「ばぁ〜いぃ☆」

 リュリュミアは、「光のバラの種」を彼の頭上からばらまいた。
 すると、種がぱちぱちと発光し、育ち、光の茨にになって闇属性を持つ魔炎を巻きだす!

「うおおおおおおおおおおおおおおお、ぐああああああああああああ!!」

 光属性の「ブルーローズ」が魔炎をぐるぐると聖なる光で呪縛する!
 そこに容赦ないお姉さんが追い打ちをかける!

「ヘンタイ、死すべしぃ〜!!」

 称号「変態討伐隊」が発動!!
 魔炎は、変態の一種なので、追加の状態異常ダメージが付いた!
 毒をまとった光のバラは、魔炎の身体を蝕んで溶かして行く!!

「うぎゃああああああああああああ!!」

 魔炎は、そのまま精霊の光となって溶け、消えてなくなってしまった……。

「ふふふぅ〜! 今日の魔炎、なかなか良い線、行っていたわぁ〜!! でも、まだまだねぇ〜!! 大人の女は怖いのよぉ〜!!」

 リュリュミアは勝利を確信したが、未だに燃え盛る植物火炎地獄の中、けほけほとむせた。
 燃焼物から出る二酸化炭素もそろそろきつい頃だ。
 くらくらとしながら、階段の方まで逃げたが、バタリ、と倒れてしまった。

 ざっぱああああああああああああああああああああああああああん!!
 じゃああああああああああああああああああああああああああ!!

 地上階段側の出入り口付近で消火する者がいた。
 さっきの水精霊か!?
 そう、彼女もいる。
 だが、これだけの大量の水の流れを一度に操れる人物こそ……。

「もう、何をやっていらっしゃるのあなた方!! 皆で協力しないとこれ以上先に進めませんわよ!! さあ、リュリュミアさんもエリスさんも起きてくださいな!」

 パレオに包まれている魔法人魚のマニフィカがそこにいた。
 人魚姫は、袋詰めに何かのボールを抱えている。

 マニフィカは遠目で、「戦闘中」の呉の様子が目に入ると、血相を変えて走り出した。


D-2「魔法陣解除 第2回戦」


 周辺で猛烈な戦闘が繰り広げられている中、物理学系技師の呉も「戦闘」に入った。
 左手にハメているスマートウォッチで魔法陣を解析しつつ、水分タブレットをばりばりと食べている……。

(ふっ……。何をそんなに焦って助けているのかって? エリス嬢ちゃんにリュリュミアさんよお……。ただ、俺にとって言えば……例えば、もし魔法陣に囚われていたのがエリス嬢ちゃんだったとしたら……本物の彼女だっていう可能性が1%でもあったとしたら……助けに行かねーわけにはいかないだろう? 罠だと解っていてもよ?)

「よし……。解析は完了だ……。案の状、この魔法陣はエネルギー保存則の応用法則が適用されている……。エネルギー保存則の物理学的公式では、利用可能な全てのエネルギーは一定の動きで伸縮して運動している……。『霊』とか『霊力』ってやつは、このエネルギー保存則の超越的存在であり、例外でもある……。通常、近代の物理学的公式では、『霊』の力は計算式に含めない。『霊』は科学の力や法則を捻じ曲げてしまうため、公式からはあえて除外されている……。要するに、心霊科学の公式で描かれているこの魔法陣の公式を……通常の『霊』を計算に入れていないエネルギー保存則の公式に書き換えてしまえば、機能停止するはず……!! さて、こちらも切り札を使おう!!」

 呉は分析が終わると、ポケットから、あるチョークを取り出した。
 このチョークは、「方程式チョーク」という特殊な科学的チョークだ。
 呉が元いた世界の重慶の大学で開発された科学兵器である。
『気』の力でどこにでも方程式を書き込めるチョークなのだ。

 呉は、方程式チョークで、試しに、魔法陣に「線」を付け足してみた。
 上手く行けば、この段階で魔法陣は壊れるかもしれない……。

 しゅうううううううううん!!

 爆発こそしなかった。
 反撃をして来たわけでもない。

 ただ、公式にノイズを入れる「線」程度では、魔法陣から瞬時にかき消されてしまった。

「だよな? そうなるな? ん、じゃ、魔法陣の数式にいたずらするか!!」

 呉は、チョークを駆使して、エネルギー保存則を書き換えた!

「ええと……。仕事Wは、W=Fxcosθ。仕事率Pは、P=Fv=W/t。運動エネルギーKは、
K=(1/2)mv2。エネルギー原理は、(1/2)mv2+W=(1/2)mv’2。重力の位置エネルギーUは、U=mgh。弾性力の位置エネルギーU’は、U’=(1/2)kx2。……証明終了!!」

(参考:高校物理の公式集より)

(注意:K=(1/2)mv2の最後の「2」は「2乗」。(1/2)mv2+W=(1/2)mv’2の「mv2」と「mv’2」の「2」は「2乗」。U’=(1/2)kx2の最後の「2」は「2乗」。「2乗」は「環境依存」の打ち込みのため、表示されない場合もあるため、あえて「2」(デフォルト)のままにしました)

 呉は、方程式を書き換え終えた。
 これで魔法陣は停止するはず……!!

 しゅうううううううううん!!

「やったか!? ん!? な、なんと!?」

 呉が書き換えた方程式部分を、魔法陣は瞬時に書き換えして戻してしまった!

「くぅ〜!! せっかく人が書き換えたのを戻しやがって!! いいさ、何度もやってやる!!」

 呉は、何度も何度も公式を書き換え直した。
 魔法陣の方も、呉が書き換える度に元の公式に書き換え直してくる。
 魔法陣の更新速度は凄まじく、呉の腕では全く歯が立たないのだ!

 彼は、ジョンソンズ先生の様子をちらりと見たが、先生は既にぐったりしていた。
 もう死んでいるのかもしれない。
 ビリーと未来も倒されたままそのままだ。
 長い間放置すると、三人とも本当に死んでしまう!

「くっ……。なんでだよ? なんで上手く行かねえんだよ!? 俺たちは……ここで終わるのか!?」

 呉は、チョークを置き、腕と膝をつき、うな垂れた。
 呉も科学者の端くれだ。この科学的魔法陣を作成した人物の力量ぐらい理解できる。
 おそらく、心霊科学の分野でもトップクラス中の上位の科学者が作成した魔法陣だ。
 いったい、一介の技術師に過ぎない呉にどうやって解除ができるのだろう!?

***

 ところで今回、マニフィカは、いったい、何をやっていたのだろう?
 ことは、第2回前半にさかのぼる。

 調査部隊の一同がB1へ降りて来たとき、ジョンソンズ先生が魔法陣にハマって現れた。
 助けてくれと言う。
 この人物が本物かどうか、あるいは罠か、口論になった。
 指示を求められた隊長は隊長で、周辺の魔物の相手をするという。
 意見は三つに割れた。
 そこでジュディと呉がフォローに入り、部隊がそれぞれ分かれて、行動に入る。

 マニフィカは、実は、口論になった時点で……。
 いや、魔法陣が目に入った時点で、地上へ向かって走り出す用意をしていた。

 彼女は、直感的に理解していたのだ。
 あの魔法陣をどうにかしないと、一歩も先へ進めないことを。
 そして、あの魔法陣はかなり強固な造りであることも。

 以前に、錬金術師のマープル先生が開講した「魔法陣演習講義」でマニフィカは学習していた。
 心霊科学の魔法陣はかなり厄介なものであることを。

 心霊科学は、科学であり魔術でもある手ごわい術だ。
 通常の科学法則であるエネルギー保存則を遥か斜め上に行く魔術であるために。

 しかもこんな遺跡に埋まっていて、未だに機能している魔法陣と来たならば……。
 造り手の術者は相当な腕前だ。
 おそらく、マープル先生であっても、完全な解除が難しいレベルであることだろう。

 ならば、正面から魔法陣と勝負をしても勝ち目はないかもしれない。
 それならば、精巧な造りの魔法陣の一部を破損させて、機能停止に追い込んでは?

 これもマープル先生の授業でやったことだ。
 魔法陣は精巧であればあるほど、部分が損傷したとき、動かなくなるものだ。
 つまり、精巧な魔法陣ほど、中身を少しでもいじられると、もろくて壊れやすいのである!

 それならば、やることは既に決まった。
 マニフィカは、ウネだけB1に残し、階段を駆け上がり、エントランス・ゲートの入り口に陣取った。
 結界が張られて、魔導ラクダたちが寝ている傍で、錬金術の錬成を行うのであった。

「ええと……。『錬金術の再生神話』を紐解きますと……。えい! 『錬金構築』ですわ!! 出でよ、錬金グッズ!! ……さて、実験器具をご本から魔術経由で取り出しまして……。ふむ、ガスコンロ、フラスコ、液体ジェル(青黒い)が出てきましたわね……。フラスコにこのジェルを入れて、コンロで火を通して……。煮ること数分……。さて、ジェルが塗料の塊になるので……。これに、わたくしの水魔術で水気を足して……粘土状の塗料を丸めれば……。『魔法陣無効ボール』の出来上がりですわ!!」

 ちょっと時間がかかってしまったが、「最後の武器」が完成した!

 そして、人魚姫、出撃前にあることが思い浮かんだ。
 先ほどウネを置いてきたとおり、地下はとても暑くて蒸している。
 そこでマニフィカは、出撃前に魔法人魚に変身した。

 数秒で支度を済ませたマニフィカは、ピンポン玉程度の大きさの多数のボールを袋に詰め、階段を駆け下りた。

 驚いたことに、B1の出入り口付近が火事になっていた。
 リュリュミアが倒れていたことから、おそらくここで仲間割れの戦闘があったのだろう。
 エリスも近くで倒れている。魔炎の姿はない。
 ともかく火事だ、水術で消さなくては、とマニフィカは消火に当たった。

 さて、火事が終わった。
 リュリュミアとエリスも起きたので、ひとまず放置することにした。
 今度こそ、魔法陣へ向かおうとするが……。

 魔法陣付近で、ビリーと未来がぼろぼろになって倒れている。
 ジョンソンズ先生は、もはやぐったりしていた。
 その傍で、呉が何やら、腕と膝をついて、辛そうにうつむいている。
 その一方で、土偶を倒したらしいアンナが、魔法陣にクローネを近づけまいと奮闘している。

 前半戦はかなり大変だったようだ。
 抜けていた分を埋め合わせるべく、マニフィカは颯爽と登場した!

「呉さん!! あきらめてはいけませんわ!! 一緒に魔法陣を破壊しましょう! アンナさん、そのまま敵を寄せ付けないようにがんばって頂けます!?」

 援軍の登場に、呉とアンナの表情がぱあっと、明るくなった。

「ふう、ふう(そろそろ疲れましたわ)……。マニフィカ! 遅いですわよ! どこへ行っていらしたの! 了解ですわ! さあ、クローネども、全滅させてやりますわ!!」

 アンナは水分タブレットを口に放り込む。そして、モップをぶんぶんと振りかざし、「乱れ雪桜花」を繰り出して、周辺にいるクローネを何匹も同時に退治した。

「はあ、はあ(暑い)……。おいおい、マニフィカさん! そんな明るく簡単に言わないでくれよ! 要するに、この魔法陣を欠けさせて機能停止に追い込むんだろう? それができたら、既にそうしていたさ!!」

 呉が顔を赤くして怒鳴ると、マニフィカは青黒い「魔法陣無効ボール」を呉に見せた。

「同時行動ですわ!! 呉さんとわたくしで同時に仕掛ければ、魔法陣は速度が追いつかなくなりますわ! 呉さんのご協力とこの『魔法陣無効ボール』があれば動きを停止できますわ!」

「おう、簡単に言うがよ、その速度が猛速度なのを知っているか!? 俺は、重慶の計算チャンピオンだったこともあったんだぜ? その俺が何度もやっても猛速度で魔法陣が書き換え戻されるんだぜ?」

「呉さん! 今は時間がありません! 論よりも証拠ですわ!! 早いうちに魔法陣を破壊しないとジョンソンズ先生もお亡くなりになりますわよ!」

「わかった! もう反論はしない! いいさ、やってやるよ!! 技師の意地を見せてやる!!」

 ともかく、同時行動の合意が取れ、今、エリート魔術大学生のマニフィカとスーパー科学技師の呉が夢の共演を果たすことになった!

「うおおおおおおおおおおおおお!! 仕事Wは、W=Fxcosθ。仕事率Pは、P=Fv=W/t。運動エネルギーKは、K=(1/2)mv2。エネルギー原理は、(1/2)mv2+W=(1/2)mv’2。重力の位置エネルギーUは、U=mgh。弾性力の位置エネルギーU’は、U’=(1/2)kx2。……証明終了!!(×100回程度繰り返す!!)」

「それそれそれええええええええええ!! 無効化ですわよおおおおおおおおおお!! くたばってくださいましいいいいい、魔法陣さあああああああああああああん!!(×10回連続でボールを投げ続ける!!)」

 呉は今、重慶の計算チャンピオンとして覚醒している。
 凄まじい手つきで、エネルギー保存則の計算式をチョークで連撃する。
 とてつもない量の『気』をまとったチョークは敵の方程式を壊滅という解答へ導く!
 だが、魔法陣の方がまだまだ力量が上だ!
 100回近く繰り返される計算式が恐ろしい速度で上書きされて行く!

 ぱりぃぃぃぃん!!

 呉の方程式チョークが真っ二つに折れた。
 もはや計算速度の圧に耐えられなくなったからだ!

「痛てっ!! ちきしょう、ここまでか!!」

 呉は、チョークを握っていた右手を痛め、撤退する。

 一方、マニフィカの方も次々とボールを投げ込むのだが、魔法陣に吸われて行く!
 科学の呉に対して、マニフィカの方は錬金術、魔術からのアプローチだ。
 魔法陣が怪しくカラフルに発光し、内在されている公式が無効化される!
 だが魔法陣は、その無効化された公式さえも、さらに猛速度で修復し、元通りに再生させてしまう。

 やがて、マニフィカは、10発のボールを全て投げ終えた。
 最後の1発が魔法陣によって書き直されるとき……。
 ちょうど、呉の方がチョークを折ってしまったときと重なった。

 魔法陣の修復は……。
 止まった……。
 ちょうど、端っこに5mm程度の欠損を残して、機能が停止した……。

「ん!? こ、これは……。やったのか!?」

 呉は、右手を左手でマッサージしながら、信じられない光景を凝視した。

「え? ええ!? やりましたわ! もうこの魔法陣、発光していませんわ! ほら、端っこに破片が見えますでしょう? 壊れたのね、この魔法陣!」

 マニフィカも嬉々として声を上げた。

「あら? やりましたのね、あなたたち!! ちょうどこちらも周辺のクローネを倒し終えたところですわ! 撤退しましょう!」

 アンナも疲れているが、微笑ましい表情で魔法陣解除の偉業を確認した。


D-3「クローネの掃除」


 呉は気功整体を元いた世界で少し学んだことがあるので、ジョンソンズ先生の生存を難なく確認できた。要は、脈を計ったわけだが、弱い脈であるが、先生はまだ生きていた。

「よし! 撤退だ! 俺が先生を担いで行く! 未来さんとビリーさんも誰か担いでやってくれ!」

 呉は、同じく180cmの身長であるジョンソンズ先生をおぶって、B1の階段(地上へ続く階段側)を目指して歩き出した。

「では、未来は、わたくしがおぶって行きましょう!」

 アンナは、同じく少女である未来を背中におぶり、呉と一緒に歩き出した。

 そこにシルフィーと萬智禽がやって来た。
 どうやら、この二人も土偶を倒し終えたようだ。

「お? 魔法陣解除は成功したのね? あたしは、ビリーを背負うよ……。部下でもあるし、体系的にも似ているし……」

 シルフィーは、ビリーを背負い、呉とアンナの後に続いた。

「では、私は護衛でもするか!」

 萬智禽は、水分タブレットをばりばりと食べながら、負傷した三人を背負っている三人の道中の護衛に回ることとなった。

 敵は、土偶だけではない。
 クローネが、負傷したジョンソンズ先生を襲う!!

「そこ!!」

 周辺を警戒していたマニフィカが、「アイシクル・バレット」をがんがんと撃ち込んだ。
 陰に隠れていたクローネ数匹を撃退した!

 クローネは、かなり数を減らしている。
 おそらく、もう20匹はいないことだろう。
 だが、しぶとくも、ジョンソンズ先生の死亡を狙っているのだ!

「ヘイ、マニフィカ! フリーハンド(手が空いている)、ネ? ヘルプしてくだサーイ!! クローネ全滅させマース!!」

 ジュディは、称号「ガンファイター・ジュディ」を機能させつつ、イースタン・レボルバーから光の弾丸を撃ち、闇属性のクローネらを撃退していた。

「面白そうですわね!! クローネ討伐、お手伝いしますわ!」

 ジャイアントレディのジュディとマニフィカ。
 一方はアメリカン、他方はマーメイド。
 二人は、背中合わせになり、彼女たちを囲んで来るクローネと最後の決戦をする。
 暑さでやや苦しいが、水分タブレットを食べながらも踏ん張りどころだ。

「ギャース! ギャース!!」

 クローネたちが、10匹前後でかかってきた!

「ファイアー!! ガンホー!!」

 ジュディの光の弾丸が炸裂し、ばちばちと火を噴いてクローネを蜂の巣に変える!

「ファイアですわー!! 長寿と繁栄を!」

 マニフィカの両手から氷の弾丸が生成され、冷ややかな一撃が次々とクローネたちを貫通し地へ還す!

 ジュディとマニフィカのコンビの活躍により、クローネ10数匹は一気に滅された。

***

「さあ、皆の者! あと少しだ! あと少しで地上階がある階段だぞ!!」

 萬智禽は、先頭を浮遊しながら、仲間たちを誘導する。
 続くは、ジョンソンズ先生を背負う呉。
 その呉に続いて、未来を背負うアンナ。
 さらには、ビリーを背負っているシルフィー。

 前方数メートルで、リュリュミアとエリスが待っていた。
 あちらもかなり負傷しているようで、座っているのがやっとのようだ。

 そこへ、クローネの残存部隊登場!
 残り5匹がジョンソンズ先生に襲い掛かる!

「このー!! あと少しでゴールだというのがわからんのか、この外道!!」

 萬智禽は、「イーグルのくちばし」を取り出して、自分の顔(目玉)にハメた。
 魔術仕掛けなので、簡単にくっついた。

「ぬおおおお! 燃えるのだよ!! そなたらなど、焼き尽くしてくれるのだ!!」

 萬智禽は、巨大な目玉の火炎玉と化した。
 今、まさにあのファイアイーグルの如く、「ファイア・ストライク」を放つ!!
 風のオーブで、急回転しつつ、次々とクローネにタックルで攻める!!

「ギャース!!」

 クローネの残存部隊は、火炎目玉によって全て焼死した。
 これにて、敵部隊、全滅が確認された!


D-4「ダンジョンの正体」


 B1フロアを攻略し終えた一同は、フロアの階段(エントランスゲート側)付近を清掃した上、ここで野営することにした。
 もちろん、ジョンソンズ先生の一命も取りとめないといけない。
 負傷した者たちの手当ても必要だ。

 仲間たちは、清掃班と治療班に分かれて行動に移った。

***

 とても気まずい。
 と言うのも……。

 ジョンソンズ先生が本物だったからだ。
 この件に関して、エリスとリュリュミアが気まずかった。

 しかも、仲間内で大げんかしてしまった。
 この件に関しては、魔炎、エリス、リュリュミアの三者が三すくみになっていた。

 そこへ、ジュディがやってくる。

「ヘイ、どうしたユーたち!? みーんな、浮かないフェイス、デース!! 遺跡はまだまだコンテニューしマース!! この程度のことで仲間割れしていたら、先がアリマセーン!! レッツ、仲直り!!」

 ジュディが、魔炎、エリス、リュリュミアの手を引っ張って、四人分の手を一か所に集めた。そして、ジュディが率先してみんなの手をぎゅっと握った。

 その手に、シルフィーの手も合わさった。

「あたしから先に謝るよ。皆さん、ごめんなさい。あたしが隊長としてもっとしっかりしていたら、今回みたいにはならなかった。でも、今回、あたしもぎりぎりの判断だった。結果はこうなったけれど、それぞれの判断を尊重した上で、謝るのはどう?」

 気まずかった三人に異論はない。

「わーった。悪かった、悪かった、ごめん! エリスもリュリュミアもごめん! 俺もちと、熱くなっちまった! お互いに悪いってことで、おあいこでどうだ?」

 魔炎も頭を下げた。

「いいえ、魔炎。あなたは謝ることはないです。私が一番いけないんですよ。結局、ジョンソンズ先生は本物だったわけで。一歩間違えて殺してしまっては大変なところでした! 私の方こそ、ごめんなさい!」

 エリスも弁解することなく謝った。

「そうねぇ〜。結果としてぇ、みんなの探索の邪魔になったことはぁ、謝るわぁ。あとぉ、魔炎、痛めつけてごめぇーん! でもぉ、機会があったらぁ、また勝負しようねぇ!」

 リュリュミアもここは大人になるべきだと悟り調和した。

 少し遠くでその様子を見ていた未来たちは、にこやかに笑い出した。
 仲間たちは歩み寄り、さらなる探索への連帯意識を高めるのであった。

***

 話は少しさかのぼる。
 シルフィーの「フェニックス」で仲間たちは次々と復活していった。
 ビリーも、未来も、魔炎も、問題なく生き返った。
 もちろんジョンソンズ先生にも「フェニックス」をかけたが、なかなか効き目が出ない。
 おそらく、魔法陣に捕まっていたせいではなかろうか。

 ここで一番、役に立つのは、ビリーかもしれない。
 ビリーは、救急護符(エマージェンシー・アミュレット)をジョンソンズに貼ったが、味方NPCであるせいか、効き目が弱かったのだ。
 そこで、自らも鍼や指圧の治療で延命処置を施した。
 ビリーの助手には、気功の覚えもある呉がつくことになった。

 一方、ここの遺跡は未だに蒸し暑い。
 治療の際に、ジュディからエアコン・ステッカー(空調貼紙)を借りて、これもジョンソンズに貼って、環境の最適化を図った。
 フロアの環境改善には、引き続き、マニフィカとウネも水術で取り組んだ。

 やがて治療のかいがあり……。
 ジョンソンズは、一時間も経たずになんとか持ち直すところまで回復した。

 そこで今度は、未来が先生のところへやって来た。

「ジョンソンズ先生、よかったら、これどうぞ!」

 未来から、「魔法少女の天然水」、「屋台のたこ焼きと焼きそば」、「水分タブレット」が先生へ配られた。

「お、おう! なんか、みんなすまん! 迎えに来てくれたシルフィーらも、治療してくれた奴らも、飯くれた子も、ありがとう! 俺様なんかのためにほんと、すまん!!」

 ジョンソンズ先生は、みんなに謝った後、食料と水にがっついた。
 よほどお腹が減って、のども乾いていたのだろう。

 先生が一息ついたあと、未来は今後のためにも先生に質問をすることにした。

「ところでさ、先生。ここは、どういう遺跡なの? 実はね、先生を助ける以外にも、わたしたち、封印しに来たってのもあるんだけれど……」

 ジョンソンズ先生は冒険家のハートに火が点いたらしく、ニヤリと笑った。

「よくぞ聞いてくれた! ここはよお、とびっきり危険な遺跡だ! なにせ、あの、ゲン・ガイスト将軍(かつての科学勢力の大将の一人)が科学と魔術の戦争時代に造った要塞だからな! 聞いて驚くな! ガイスト将軍はまだご存命だ! 将軍は遺跡の最奥で侵入者たちを待ち構えているのさ! もっとも、最深部までたどり着けるのなら、な……。俺様は、エントランス・ゲートの時点で敵勢に捕まり、尋問された後、数日幽閉(食事は俺様の非常食)されたんだ。その後は、ご存知のとおり、ガイスト将軍に利用されておまえさんらに迷惑かけちまったわけだが……」

 はあ、とアンナが深いため息をついた。

「危ないことを知っていたのなら、こんなところ来ないでくださいな!」

 がはは、と笑い出すジョンソンズ先生。
 これはいつものことなのよ、とシルフィーが補足する。

 萬智禽もなだめるように質問に加わる。

「で、先生。お帰りになるのだろう? もう探索は終わったわけだからな? あとの封印は私どもに任せるのだ! そなたの学生らもお待ちかねだぞ!」

 ジョンソンズ先生が再び、豪快に笑い出す。
 まるで、ジュディがWAHAHAと笑い出すときのあのノリだ!

「いや、断る! 探索は始まったばかりじゃねえか! よっしゃあ、俺様も最深部まで行って、一緒に封印してやるぜ! あ、ちなみに俺様、心霊科学の大天才(いわくつき)なんで、よろしく! きっと超戦力になるぜ!」

 彼をよく知っているシルフィーは、もはや止めに入らなかった。
 こうして一同は、ジョンソンズ先生も仲間に加え、最深部を目指すことになったのである。

***

『くはは……!!』

 エントランス・ゲートの方から、怪しい笑い声がかすかに聞こえた。
 調査部隊の一同は、気にせずに、B2へ行軍した。


D-5「その他NPCの現状その2」


 これにて、B1ステージは無事にクリア!
 次回から、ジョンソンズ先生も味方NPCに加わるぞ!

 B1ステージでのバトル結果からモブNPCたちの残存数を確認しよう!

★モブNPCの現在状況★

★★マックロ・クローネ:全滅

初期:100匹

★★クローネ・クリーナー:残り3台

初期:11台
備考:B3(第4回)で再利用可能。

★★魔導ホタル:残り47匹

初期:82匹
備考1:B2を照らす明かりの基準に問題なし。
備考2:B2(第3回)とB3(第4回)でも再利用可能。

★★魔導ホタルのエサ:残り0個

初期:10個

<第3回へ続く>