「心霊科学の忘れ物」第1回(エントランス・ゲート編)

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

●ディスクA:エントランスでの戦闘 前半戦

A-1「スケルトンロード・キングを目指せ!」

A-2「結界装置を設置せよ!」

A-3「第三勢力の排除開始!」

A-4「魔導ラクダたちを守れ!」

●ディスクB:エントランスでの戦闘 後半戦

B-1「スケルトンロード戦の決着」

B-2「結界装置設置の行方」

B-3「沙漠の大掃除」

B-4「魔導ラクダたちの生存確認」




●ディスクA:エントランスでの戦闘 前半戦


A-1「スケルトンロード・キングを目指せ!」


 ゴーストシェル遺跡近辺のフレイマーズ沙漠には、乾いた一陣の風が吹いた。
 シルフィー・ラビットフード隊長(NPC)率いる現代魔術研究所所員とその仲間たちは、魔導ラクダ(NPC)に揺られながら、今、魔物の群れと対峙している。

 本日、遺跡のエントランスをくぐるには、ここにいる魔物全てを倒さないといけない。
 しかもラクダを駐車するため、結界装置の設置もして、安全地帯の確保も必須だ。

 見渡す限り、魔物、魔物、色んな魔物……。
 彼女たちは、この戦場を潜り抜けられるのであろうか!?

・図解 ゴーストシェル遺跡 エントランス・ゲートと1階のマップ



*記号対応表は省略。(「リアクション」を読んでいるうちにわかります。復習したい人は、「募集案内」第1回を見てみましょう)

 戦闘開始直後、先陣を切ったのは、巨体アメリカン・レディのジュディ・バーガー(PC0032)だった。

「イーハー!! ガンホー!! ファイア、ファイア!!」

 本日、アラビアン・ナイトの迷彩柄沙漠用戦闘服(エアコン・ステッカー(空調貼紙)付き)を着ているジュディは、両手の二丁拳銃を前方に向けて、射撃する。弾丸の属性は、火炎。火炎弾が前方にある複数の巨大岩石を砕き、魔物たちを威嚇した。

「イエーイ!! ジュディに続け〜!! ファイア、ファイア!!」

 ジュディの真上をびゅん、と飛んで行ったのは、エスパー女子高生の姫柳 未来(PC0023)である。同じく、アラビアン・ナイト姿で、背中には魔白翼が羽ばたいている。

 また、未来も両手にマギジック・レボルバーとイースタン・レボルバーの二丁拳銃を手にしていて、向かって来る敵勢や岩石を飛びながら射撃する。

 彼女らが進撃する路上、ウィンドスコーピオン、ゴースト・バシリスク、サボテンマンといったザコ敵たちの数匹が遮ったが、かっ飛ばした。
 向かうところ、敵なしの状態である。

「ハレルヤ!! わたくしも遠慮なく続きますわ! ジュディ、お先を失礼!!」

 爽快なローラースケートさばきで、砂上を蹴りあがり、岩石をぴょんぴょんと跳ねるのは、フランス令嬢のアンナ・ラクシミリア(PC0046)である。沙漠用戦闘服に身を包んでいるが、足元はローラーで猛回転中である。
「スケーティング技能120%」に加えて、称号「沙漠のローラースケーター」が機能し、150%程度のスケーティング技能を発揮し、快調だ。

「みんなー、がんばれー!! あたしは殿(しんがり)を務めるので、よろしくね〜!!」

 シルフィーは、魔導ラクダに乗ったまま、この部隊の最後尾から進撃している。
 機動力が低い彼女は、皆と足並みを合わせられないと思ったので、ラクダを使用。

 やがて4人が200メートルほど進むと、前方100メートル地点には、ゴーストシェル遺跡の門番たちがエントランスで待ち構えていた。

「ムゴゴゴ……。侵入者カ……。ロード共、抜カルナヨ……」

 ゲートキーパーであるステージ・ボスのスケルトンロード・キング(NPC)は、大剣をかざし、部下のスケルトンロードたちに「統率」の指示を出した。

 ロードたちは、三体一組の3グループを結成し、陣形を組みながら、進撃するジュディたちにじわじわと迫って来る。

 なお、頭上には、ファイアイーグルといった別のザコ敵もいるが、これは別の班の仲間たちが対処中である。

「一番乗りですわー!! さーて、ドクロども、覚悟はよろしくて!!」

 アンナは、勢いよく岩石から飛び立ち、太陽がぎらついている空から、愛用モップを構えて落ちて来た。

「グゴゴゴ!?」

 先頭を切って歩行していたロードたち3体の頭上にアンナが落下!!
 アンナの連続跳躍攻撃で、パキパキパキ、ガラガラガラ、と3体の骨が砕け散った。

「たいしたことないですわねー!! お次は、あなた方ですの!?」

 ナイト・アンナがモップをくるくると回すと、次の部隊のロードたちが大剣を掲げてかかって来た。

「ウオオオオ!!」

「あらよっと、ごめんねー!!」

 バキュン、バキュン!!

 アンナの頭上右方から、翼を広げているガンナー・未来が襲撃して来た!
 二丁拳銃の射撃がロードたちにヒット!!
 パキパキパキ、ガラガラガラ、とこれまた3体の骨が砕け散った。

「あー!! 横取りですわー!!」

 アンナは、怒ったふりをして、拳を振り上げた。
 未来は、舌をぺろりと出して、再びどこかへ飛んで行ってしまった。

「ファイアー!! ヘイ、アンナ、ダック!!(伏せて!!)」

 今度は、後方の岩場から、ジュディがマギジック・ライフル#1(カスタム)の光弾丸で狙撃した!!

 シャキイイイイイイイイン!!
 どかあああああん、がんがら、がっちゃあああああん!!

 光の弾丸は、ロードの1体を貫通し、そのまま後ろにいた2体も貫通して撃破!

「ちょっとお!! あたしの出番がないじゃない!!」

 仲間たちの素晴らしい進撃を後方から見ていたシルフィー隊長は、頼もしく思ったと同時に、ちょっと悲しかった。

「ヌハハ!! ロード共ヨ……!! 蘇ルノダ!!」

 依然として門前から動かないキングは、ロードたちを再「統率」した。
 すると、ロードたちは……。

 パキパキパキ、がんがら、がっしゃん、パキパキ!!

 砕けた骨が再構成し、合体し、9体ものロードが一瞬で復活してしまった!

「まあ、見るからにアンデッド系ですので、蘇生する程度はありうることですわね! いいですわ、何度でも倒して差し上げますわよ!」

 アンナは、モップを翻して、突きの構えになった。
 ロードたちは、再び、3グループの陣形に分かれて、アンナを襲い出す!!

 一方、未来とジュディは、後退した。
 仲間たちは、思うことがあり、何かを用意しているようだ。
 アンナは、時間を稼ぐことにした。

「それ、それー!!」
 アンナがモップの回転攻撃を食わらせる。

「ワハハ!!」
 ロードたちは、モップを大剣で受け止めて、チャンバラを開始する。

「いっけええええええ!! マギジック、ゴムゴムだああああん!!」

 上空左方から飛んで来た未来は、マギジック・レボルバーを構えて、粘着ゴム弾丸を3連射で撃ち込んで来たのだ!

 どかああああああああああああああん!!
 べちゃべちゃべちゃああああああああ!!

 後方にいるロードの1部隊がゴム漬けになった。

「ウガガ!?」

 ロードの1部隊は、ゴムまみれになって、身動きが取れない!!

「イーハー!! がんがん行くデース!!」

 ジュディが続いた。
 直径5メートルにも渡る巨大な網「ドワーフ製の大投網」がロードたちの頭上にふわり、と飛んだ。そして、直後、落下!!

「グゴゴー!?」

 ロードの2部隊がこの大網にからめとられた。
 ゴム弾をくらった部隊と同じく、これではこの2部隊ももはや動けない!!

「今ですわ! チャーンス!!」

 タイミングを見計らっていたアンナが号令をかけると、仲間たちが一斉にかかった!!

 アンナが「乱れ雪桜花」で、未来が「ブリンク・ファルコン」で、ジュディが称号「ガンファイター・ジュディ」発動中の2丁拳銃連撃で、シルフィーが「シャインクロス」で、同時に集中攻撃!!

 どかどかどか、どかああああああああああああああん!!
 ロードたち、全員死す!! (既に死んでいるアンデッドだが……)

 敵勢の3部隊を同時撃破して、未来たちは、にやりと笑った。
 一方、キングの方も、にやりと笑っていた。
 ん、なぜ!?


A-2「結界装置を設置せよ!」


 ジュディたちが北方前方へ走り出したと同時に、結界装置チームも動き出していた。

「さあ、急げ!! 呉殿、私に乗るのだ!」

 巨大目玉を座席として味方に差し出すのは、ゾットスルー族の萬智禽・サンチェック(PC0097)である。

「おう! わりいな!」

 座席の目玉に、ひょいと、飛び乗ったのは、ずんぐりした中国系技術師の呉 金虫(PC0101)である。

 空を飛べる萬智禽に乗って、呉が遺跡の屋上に結界装置を設置する予定なのだ。
 呉は、右手で萬智禽のマント(沙漠用&風オーブ)の付け根に捕まりつつも、左手で3kgの重さを持つ小型の結界装置を抱えている。

「出発進行なのだー!」
「んじゃ、頼むぜ!」

 頼もしくも進軍かと、思いきや……。

 ぷか、ぷか、ぷか……。

「ええと、萬智禽さんよお……。もうちょい急げねえか? なんかさ、その辺に魔物どもが集まって来ているんだが……!?」

「す、すまんのだ! 上空まで上がればオーブの出力でかっ飛べるが、何分、浮上するまでが時間がいるのだよ!!」

 そういえば、いつだったか、ノーザンランドの魔女へお届け物をした際に、雪原のステージでも同じようなことがあったそうな。
 ネコちゃんのぬいぐるみさんを乗せて浮上した巨大目玉は、そのときも、ゆっくりと、ぷかぷかと、浮上していたという……。

 びぃゆぅん!!

 石化光線が飛んで来た!
 ゴースト・バシリスクの仕業だ!

「おいおい、石化なんてごめんだぜ!」
「ひー!! お助けー!!」

 浮上している二人が焦っているところ……。

 カキィィィン!!

 魔炎の精(NPC)が魔剣をバットのように構えて、石化光線という魔球をホームランで撃ち返した。

「バシリスクの方は、俺に任せろ!」

「あ、ちょい待て! 魔炎殿! 時間がない! そのスキルもらうのだ!!」
「あん? なんだ!?」

 萬智禽は、「コピーイング」を使い、ぴぴぴ、と魔炎の「火属性と闇属性無効」をコピーしたが……。

(あの遠くを飛んでいる赤い鳥は、火属性だろう? 今のうちにこちらも火属性をもらっておこう……あれ? このスキルって、『敵』のスキルはコピーできるが、『味方』は!? まあ、いいや!)

 魔炎は、萬智禽たちに手を振った後、雪崩れ込んで来るバシリスクの大群へ大剣を振り回しながら向かって行った。

「サボサボサボサボ、ふら、だ、ん、す、ふら〜!!」

 お次はサボテンマンたちが踊りながら向かって来た。
 軍勢は、右手の針を構えて、ロケットパンチ……ではなく、「ニードルショット」を連射!!

「おい、目玉!! 早く上がれ!!」
「む、むりなのだー!!」

「そぉれぇ!! 間に合えぇー!!」

 ぐさ、ぐさ、ぐさ!!

 地中から、青いバラのバリケードがにょきにょきと生えて来た!
 一瞬で、青いバラが咲き誇り、ちょっとした庭園が増築された。
 青いバリケードは、巨大目玉たちとサボテンマンたちを遮断する!!
 針の砲撃は、茨の中へ消えた。

 スキル「ブルーローズ」を我が物として多才に操るのは、自らもまた植物系由来であるお姉さん、リュリュミア(PC0015)である。
 魔導ラクダに乗りながら、浮上する二人にピースしている。

「そこ! 甘い!!」

 ズダダダダダダダダダダン!!

 サボテンマンたちの背後から強烈な「ナゴヤ撃ち」がお見舞いされた。
 サボテンの軍勢は一瞬で蜂の巣になった。
 銃撃したのは、魔導ラクダに騎乗する魔導ロボ・エリス(NPC)である。

 サボテンマンの方も仲間がやられてもめげていないようだ。
 即座に増援を呼び出し、1体、2体、3体、と増えて行く。
 リュリュミアとエリスがその対処に当たった。

 シュィィィン!!
 ズキュゥゥゥン!!

 サボテンマンたちの背後から、今度はウィンドスコーピオンの軍勢が飛び出した。
 前方にいる数匹は、「ブースト・ストライク」を放ち、高速で風の如く突っ込んで来る!

「おいおい、今度はサソリかー!! もうサブマシンガンで応戦するか!?」
「すとーっぷ!! 目玉の頭上で暴れられるとたまらんのだー!!」

 カキィィィン!!

 沙漠用戦闘服着用の人魚姫が頭角を生やし「魔竜翼」を羽ばたかせながら、「魔竜の槍」でサソリたちの連続斬撃を一撃で弾き返した。

「わたくしもお供しましょう! きっと道中も邪魔が入るはずですから!! もう何匹かサソリを片付けてから、すぐに追いつきますわ!」

 颯爽と現れて、次々とウィンドスコーピオンを蹴散らしているのは、人魚姫女子大生のマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)である。

「す、すまねえな、みんな!! さあ、そろそろじゃねえか、俺らの出撃も!?」

 呉が目玉の相棒に確認を取ると、萬智禽は、にかりと牙を出して笑った。

「わーはは! お陰様で上空20メートルの位置まで上がれたぞ! 『風のオーブ』で、びゅごごご、っと風の如く突き抜けるのだ!」

 ともかく、浮上には成功した。
 萬智禽はオーブの出力を5倍速に出して、びゅぃん、と遺跡上空へ急いだ。
 下では、ジュディたちがいかにもな陽動の形で暴れている。
 さすがにスケルトンロードたちも上空には注意が行かないらしい。

 だが、彼らは、制空権を掌握したわけではなかった。

「ギャース!! ギャース!!」

 ファイアイーグルの群れが5羽同時に飛びながらかかって来る!!

「おい、目玉!! 撃っていいか!?」
「いや、待て!! 考えがあるのだ!!」

 萬智禽は、「魔法封じのランタン」を念力で、前方にひょい、と浮かせた。

「ファイアなのだ!!」

 ぴかぴかぴかあああああ!!
 ランタンが怪しく眩い光をイーグルたちに向かって照らす。

「ウギャアアア!!」

 ランタンの光を直撃したイーグルたちの3羽ほどが、顔をぐしゃぐしゃとしかめていたが……。

「ギャース!!」

 火炎の魔術を発動させ、発火しながら飛んでくる……!!

 しゅうううううううううん!

 火が消えてしまった。
 どうやら、「魔法封じのランタン」によって、奴らの攻撃魔術が封じられたのだ。

 一方、後方にいる無事な2羽は、魔封じを受けていない。
「ファイアボール」を発動させ、火炎放射!!

「それ、私に任せろ!! ふん!!」

 萬智禽は、先ほど魔炎からもらった「火属性無効」がある……つもりで、体を張り、火炎弾の二連射直撃を受けた!

 シュウイン!?

 変な効果音と共に、火炎玉が一瞬で消え去った。
 攻撃判定は無効である。

「お!? もしや、とは思ったが……ひとまず成功かな!?」

 呉は、魔術に関しては詳しくない。
 でも、先ほど、萬智禽が魔炎から何かのスキルをコピーしたらしいことは、わかった。

「そうか……。無効化って奴か……。『気』の一種か!?」

「ん? 『気』がどうした? って、それよりも!!」

 雑談をしている暇はない。
 攻撃を次々と無効化されたファイアイーグルたちは逆上し、増援を呼んだ。
 もともと遺跡上空に待機していた5羽も駆けつけて来た。
 現在、対戦中のイーグルは前方に10羽。後方にはさらに5羽も控えている。

「なあ、萬智禽さん……。もう俺が撃っていいな?」

 呉は、サブマシンガンを取り出すが……。

「いや、その役目は私がやろう!!」

 バキュン!!

 萬智禽は、念力で取り出したマギジック・レボルバーから、水の弾丸を発射!
 水属性のバレットは、先頭のファイアイーグルに命中し……。

シャアアアアアアアアア!!

「ギャース!!」

 まるで燃え盛る炎が、バケツ一杯から水をかけられたかのように、ファイアイーグルは消滅して行った。

 次々と向かって来るファイアイーグルたちは、先頭がやられたことなど気にかけてはいない。
 全員が炎の弾丸になり、集団攻撃で突っ込んで来る!!

「ぬおお!? 次は、防げるだろうか!?」

 未だに「コピーイング」の効力が有効だと信じて、萬智禽は胸(目玉)を張る。

「ちきしょうめ!! どうすれば!?」

 呉は、仮に自分がここから振り落とされるとしても、結界装置だけはなんとしても守りたいと思い、装置を強く抱きしめた。

 びゅぅぅぅん!!

 高速度の光が、ファイアイーグルたちに突っ込んで行った!

 どかああああああああああああああん!!

 前方ファイアイーグルの大群は、一瞬で壊滅した。
 大爆発をする煙の中から、竜人のマニフィカが羽ばたきながら出てきた。

「申し訳ありません! すっかり出遅れましたわね! サソリの残りは、リュリュミアさんとエリスさんにお任せしてしまいましたが……」

 ちょっと補足しておきたい。
 マニフィカは、竜人モードでステータスアップをしているが、その分、毎ターン、魔力は失っている。
 だが、「魔竜の槍」を装備しているので、敵を屠った分だけ魔力が還元されている。
 なので、強いまま(各能力10%増しのまま)、戦い続けられるのである。
 ちなみに今の一撃も、「ブリンク・ファルコン70%(空中奇襲攻撃)」が冴えたところであった。

 後方ファイアイーグルは、まだ5羽残っている。
 仲間がやられている最中、さらに増援を呼んでいた。
 現在、ファイアイーグルは、合計で10羽まで増えた。

「お二人とも、先を急いでください! ファイアイーグルの残りは、わたくしが引き受けますので!!」

 呉は、ちょっと気が引けた。
 女性にこの大変な場を任せて、男である自分だけ進むのが何か気まずい。
 だが、レディの頼みは断る方が悪いか、とも思い直した。

「おう、任せとけ、お嬢さん!! さあ、行くぞ、目玉!! はええところ結界を措置して、ミッションの難易度を下げるんだ!!」

「うむ。申し訳ないが、マニフィカ殿、この場は任せた!!」

 もちろん、この場を黙って見過ごすファイアイーグルではない。
 ファイアイーグルは、部隊が2つに分かれた。
 うち7羽は、マニフィカと対戦。
 うち3羽は、なぜか高度を上げて上空へ逃げた。

 びゅおおおん!!
 風のオーブで出力を上げ、萬智禽たちは、瞬時に遺跡の屋上付近までたどり着いた。
 真下には、正方形の屋上スペースが見えた。

「よし! ここで降ろしてくれ……」

「そうだな……。いや、待て!! 危ない!!」

 ずきゅぅぅぅん!!

 高度50メートルの頭上から、ファイアイーグルの1羽が猛速度で急降下して来る!!

「なんの!! 火炎属性のタックルなど無効化してやる!!」

 萬智禽は、自信満々に胸(目玉)を張ったが……。

 どかあああああん!!

 火炎急降下の直撃が、萬智禽を襲った。
 当然、その反動で巨大目玉は下方へ弾き飛ばされる。

「コピーイング」は、95%の精度で決まったものの、「味方」をコピーしたことが予定外の使い方であり、この辺で効力が切れてしまったようだ。

 乗っていた呉は、装置を抱きかかえながらも、吹っ飛ばされた。

「ぬおおおおおおおおおおお!!」

 どかん、ぐる、ぐる、ぐる!!

 呉は、襲撃されるや否や、屋上を目指して飛んで、転がり込んだ。
「S(サイエンティフィック)フィールド」が機能して、落下ダメージを半減する。
 ダメージは最小限に抑えたものの、ごろごろと転がってしまった。

「んおお……!? あ、あれ!? 装置は!? 無事か!?」

 装置は、胸に抱きかかえていた。
 無事……ではなく、中身がやや半壊していた。
 おそらく、襲撃と落下のショックで少し壊れたのだろう。

「ギャース!!」

「え!? ちょいと、あんたら……!?」

 ファイアイーグル2羽が、呉の隣にいた。
 1羽が彼の左に、もう1羽が彼の右に。
 呉は、ひょいと、ジャンプして、一歩後退して、距離を取る。

「ま、まあ、話し合おう、な? 俺さ、今から、仕事あるんで……よかったら、帰ってくれね!?」

「ギャース!!」(無理!!)

 話し合うまでもなく、ファイアイーグル2羽が飛びかかって来たところ……。

 ズキュゥゥゥゥゥゥゥン!!
 どかどか、どかあああああん!!

 どこからか、狙撃弾丸が飛んで来た。
 しかも1発で2羽を仕留めた。
 これほどまでの銃の腕前というのは……。

 萬智禽が復活して援護射撃をしてくれたのだろうか?
 マニフィカがここまで追いつき射撃してくれたのか?
 いや、そうではなくて……。

 300メートルほど先のスタート地点で、エリスがラクダに乗りながら、手を振っていた。
 そうだ。
 エリスがスナイパーライフルで狙撃して守ってくれたのだ。
 彼女の腕前なら、この程度の狙撃は、わけなくできる。

「しかし、なぜ……!? あ、もしかして!!」

***

 話は、少し前にさかのぼる。
 一同が、魔導ラクダに揺られながら、関所からゴーストシェル遺跡へ移動していたときのこと。

 呉は、エリスの隣でラクダ移動していた。
 ロボであり女性である彼女がちょっと気になり、ちらちらと見ていた。
 やがて、しびれを切らしたエリスは……。

「なんですか? 何か用ですか?」

 聞いていたとおり、ちょっときつい性格のようだ。
 だがそこは呉、笑顔で紳士に返す。

「いやあ、なんていうか、さ……。あんたは、エリスさんっていうのかい? なかなか見事な美少女ロボットだが、もうちょっと背が高い方が俺好みだな。なあに、あと5年もすれば身長30メートルくらいには成長するさ」

 いきなり何を言うんだこいつは、とでも言いたげな顔でエリスは聞いていた。

「あ、あの……。30メートルは、さすがに……」

 呉も、あはは、と右手で後ろ頭をかきながら笑う。
 いつもならこの辺でどつくエリスも、今日はなぜか、えへへ、と笑っていた。

***

 呉は、事を瞬時に把握した。

「たしか、こういうのって、萌えゲーなんかで言うと……。好感度アップって、奴か!! そうか、だから助けてくれたのか!! おしゃあ!! 美少女の応援、燃えたぜ!! いっちょ、やってやるか!!」

 呉は、スケベ心に火が点いたのか、たちまち凄まじい勢いで気力が増した。
 急いで「万能ツールボックス」をアイテム袋から取り出し、装置の修理にかかった。

***

 マニフィカは、ファイアイーグルとの戦いにやや苦戦していた。
 強いから、ではない。
 数がいるから、である。

 実力的には、ファイアイーグルたちは圧倒的に格下の相手だ。
 しかも属性もマニフィカが水で奴らが火であるから、属性の面でも分はある。

 しかし……。

 竜人化が魔力切れで解けないように、魔竜の槍で何度も奴らを屠るが、一向に数が減らない。
 敵勢は知能が低いものの、戦い慣れをしているので、本能的に戦術を発揮してくる。
 前方5羽がマニフィカと対戦。後方2羽が増援を呼ぶ。
 マニフィカが前方5羽を倒すと、増援で来た新しい5羽がまたマニフィカと対戦になる。
 後方2羽は、ひたすら増援を呼び続けるのだ。
 さすがのマニフィカも、まるでネズミ算とでも戦っているかのような気になって来た。

「どうやら……。こちらもそろそろ切り札を使って……一気に全滅させてしまうしかありませんわね……」

 マニフィカは、ペットの「フィル」(いるか)を召喚して、ファイアイーグルたちに向かってぶん投げた。
「世界限定」だが、「異次元海面」の技能を持つフィルは、うきゅきゅーと、空を飛びながらイーグルたちに突撃して行く。

 これは、時間稼ぎだ。
 本当の切り札は……。

「それ、おいでなさい、ホムンクルス、異次元獣!!」

 マニフィカは、ホムンクルス人形と異次元獣のポリゴンブロックを上空に投げた。

 すると、軽い爆発が起こり、そこには……。

「ホムンクルス・マニフィカ、ただいま参上ですわ!」
「異次元獣・マニフィカ、続いて参上ですわ!」

 竜人姿で飛行しているマニフィカが3人になった。

 マニフィカたちは、魔槍を突きの構えで構え、ファイアイーグルたちに向かって突撃!!


A-3「第三勢力の排除開始!」


 どうやら、巨大目玉の飛行機は、呉技術師を乗せて、空路に落ち着いたようだ。
 その様子を確認すると、リュリュミアは、青いバリケードを解除した。

「ではぁ、お散歩しますよぉ、ラクダさぁん!!」
「ギャー!!」

 リュリュミアは、「ブルーローズ」の鞭でラクダの尻をぺしぺしと叩き、走り出した。

 ラクダは高速度で走りながらも、リュリュミアは、鞭さばきを緩めない。
 道中で向かって来る、サボテンマンたちには……。

「そーれぃ!!」

 砂上から召喚した青いバラの鞭は蔦状になり、サボテンマンたちに巻き付いて行く。

「じゅんかぁん!!」

 ぎゅるん、ぎゅるん、ぐるぐるぐるん!!

 リュリュミアが、はっ! と自らと繋がる青い蔦全てに魔力を込める。
 すると、蔦に絡まった5体のサボンテンマンたちが、一瞬で土に還った。
「腐食循環」が決まった瞬間である。

「シャアアアアアアアアア!!」

 今の戦闘をやや後方で観察していたウィンドスコーピオンたちは、飛びかかって来た。
「ブースト・ストライク」や「ハリケーン」でリュリュミアにかかって来るが……。

 ひゅううううううううん……。
 どかどか、どかあああああああああああああん!!

 どこからか魔導ロケットランチャーが飛んで来た。
 今の爆撃で、一気に5匹ものウィンドスコーピオンが死亡した。

 リュリュミアは、遠方100メートルの距離にいるエリスに手を振った。

「ありがとぉ〜!!」

 だが、休む暇も雑談する暇もない。
 結界装置が完成するのはまだまだ先の話だ。
 サボテンマンの残党は増援を呼び、今では15体。
 ウィンドスコーピオンの方も増援が来て、今では20匹。

「もおおぉ!! 今度はこれよぉ〜!!」

 リュリュミアは、「ブルーローズ」を前方にある岩石に巻き付けた。
 シュルシュルシュル、と蔦の威力で岩石の上方部をバキと折る。
 鞭の先っぽに岩石を巻き付けて、ちょっとしたハンマーの完成である。

「いっくわよぉ!! サソリにはぁ、これが有効なはずぅ!!」

 ハンマーをびゅんびゅんと振り回しながら、魔導ラクダに乗ったリュリュミアが全力で戦場を駆け抜ける!

 ばちちこおおおおおおおおおおん!!
 ばき、ばき、ばきぃいいいいいいいん!!

 ウィンドスコーピオンの頭上に速度の付いたハンマーが振り落とされる。
 ハサミで防御しようと試みるが、奴らはハサミごと砕けて消滅して行く!

「じゃんけんよねぇ〜!! ハサミはぁ、石にはぁ、勝てないのぉ〜!!」

 上機嫌のリュリュミアは、ウィンドスコーピオンの残党たちをハンマーで叩きのめしながら、颯爽と疾走する。

 今度は役割を交換して、サボテンマンの方は、エリスが相手をしている。
 同じく、魔導ラクダに乗りながらの戦術だが、何分、数が多くて苦戦しているようだ。
 魔炎の精は、相変わらず、ゴースト・バシリスクの相手をしている。
「ゴースト・クラッシャー」などのスキルで、奴らが増える度に、随時、叩きのめしている。


A-4「魔導ラクダたちを守れ!」


 ジュディたちが北方前方に向かって飛び出し、萬智禽たちが浮上を試み、他の仲間たちは浮上している巨大目玉と技術師を助けている。
 浪花のキューピー、いや、浪花のアラビアン・ナイト姿のビリー・クェンデス(PC0096)の役割は、また違うところにあった。

「ひい、ふう、みい……。全部で8頭や!!」

 魔導ラクダは、最初、全部で11頭いた。
 うち3頭は、リュリュミア、エリス、シルフィーが1頭ずつ持って行った。
 なので、11−3=8なので、今、8頭の魔導ラクダがビリーのところにいる。

 ビリーは、魔導ラクダたちを守る役目を買った。
 良い役を買ったものの、さて、どうしたものか……。

「ほな、どうしましょ? 統率系のスキルは持っておらんし……ん? なんや!?」

 ビリーが乗っている魔導ラクダは、ビリーのアイテム袋から、「魔導ラクダのエサ」を勝手に取り出して、むしゃむしゃと、ほお張りだした。

「こ、こらー!! あんさん、なにしとるねん!? いや、待てよ……。これを使って!!」

 ビリーは、ぴこんと閃いた。
 彼は関所で、「魔導ラクダのエサ」を20個(注:個=セット)購入していた。
 本来は、回復の場面で使うつもりだったが……。
 エサで彼らを釣ることにした!

 8頭いるので、エサが8個減った。
 その引き換えに、美味しいエサをくれたビリーにラクダたちは、なついたのだ!

「んじゃ、隊列を組むで! ボクの言う通り、並んでな!!」

 陣形は、こうだ。
 先頭に2頭のラクダが並ぶ。
 うち右舷の先頭は、ビリーが騎乗。
 左舷の先頭は、無人。
 2頭の後方右舷に3頭が続く。
 一方の後方左舷に別の3頭が続く。
 こうして、2列になって、8頭の魔導ラクダたちが整列した。

「さて、どないしよう? 安全地帯なんて、どこにもないんやけれど……」

 ビリーは、戦場を見回してみた。
 前方では、ジュディたちが、ゲートにいる骸骨を目指して進軍している。
 まさか陽動を買ってくれたジュディと一緒に行動することはできない。

 東側(マップ右方)を見渡してみた。
 魔炎の精が、ゴースト・バシリスク相手に戦っている。
 敵の数は、このルートの方が少ない。ただ、石化させられたら厄介だ。

 西側(マップ左方)を今度は見渡す。
 リュリュミアとエリスがサボテンやサソリと戦っている。
 敵の数は多い。流れ弾が飛んで来る可能性も高い。

 空中の前方では、萬智禽たちが、赤い鳥と戦っている。
 まさかラクダは、空は飛ばないので、とりあえず無視。

 迷っていたところ、流れサソリが高速度で突っ込んで来た!

「ぬおお!! ラクダは、やらさないねん!!」

 ビリーは、とっさの判断で、アイテム袋にあった物をぶん投げた。

 どかん!!
 軽い爆発と共に、サンドスネークのボーマルが出て来て、サソリの首にかみついた!
 ガブリ!!
 突然、かみつかれたサソリは驚いてどこかに逃げてしまった!

「そうや! カプセルモンスターで戦おう! よし、こうなったら、まず西側へ移動や。そして、東側へ移動。また西側。結界設置が終わるまで、逃げ回るで!!」

 ビリーは、意を決し、ラクダの大群と共に高速移動で西側へ向かった。

***

 マップ西側では、リュリュミアがラクダに乗って、サボテンたちと戦っていた。
 ときおり、エリスが遠くから狙撃して援護している。

「突っ切るでー!!」
「ギャー、ギャー、ギャー!!」

 ラクダの大群が、どどど、と一斉に移動する!
 リュリュミアたちとの戦闘から逃れた外れサボテンマンたちが前方を塞ぐ!
 2体のサボテンマンたちが、同時に「ニードルショット」を発射!!

「行け、ボーマル!!」

「シャー!!」

 沙漠では、サンドスネークに地の利がある。
 どこかに潜伏していたボーマルは、突然、出現して、サボテンマンたちに巻き付いた。
 しゅぽん、とおかしな音を立てて、「ニードルショット」が誤爆した!
 サボテンマンたちは、面食らって、逃げだした。

 ぴこん!
 ビリーは、あることが閃いた。

「そうなんや……!? 針って、あんな風にも使えんね?」

 ビリーは、鍼灸セットを取り出した。
 そして、鍼を右手に投擲(とうてき)のように構え、「神足通」でテレポートさせた!

 ちくり!!
 流れて来たウィンドスコーピオンの1匹の首関節に命中!
 サソリは、無言で即死した。

「うむ。『ニードルショット』、もらったで!!」

 新技能をどさくさで習得したが、今はそれどころではない。
 リュリュミアやエリスが対戦してくれているものの、たまに魔物が流れてくる。

 あまり一か所に長い間いない方が良いと判断したビリーは、今度は東側へ逃げた。

***

 東側では、ゴースト・バシリスクたちが暴れている。
 さすがの魔炎でも一人で数十匹の相手は、きつそうだ。

 案の定、ゴースト・バシリスクがビリーたちのところへ流れて来た。

「ゴローザ!! 行け!!」

 ずごおおおおおおおおおおおお!!

 凄まじい勢いで半径10メートルのアリ地獄が出来上がった。
 ゴースト・バシリスクの2匹が、アリ地獄へ吸い込まれて行った。
 アリ地獄モグラ改のゴローザ、大活躍である。

 とは言うものの、さすがに沙漠の暴れ者のバシリスクなだけあって……。

 今度は、3匹一斉に、「拡散型石化光線」が発射!!

 バキュゥゥゥン、ズキュゥゥゥゥゥゥゥン、バキュゥゥゥン!!

 拡散が止まらない!
 石化がラクダたちを襲う!!

「しもうた!! 奴ら、こんなスキルもあるんかい!!」

 そのとき……。

「シャアアアアアアアアア!!」

 巨大化したボーマルが、ビリーやラクダたちの前に現れて、身を挺してかばってくれた。

 と言うことは……ボーマルの石化を意味した。
 ボーマルだけでは、かばいきれず、後方の2頭のラクダも石化してしまった。

「わわわ! ボーマル、すまん! 今、助けるで! ラクダたちも!!」

 ビリーは、今、「マンドラゴラの浄化水」を7瓶持っている。
 うち1瓶は、もともと自分の物。
 うち3瓶ずつは、マニフィカとジュディに寄付してもらった物。
 そのうち3瓶を、今、消費する。

「神足通」でその場を離れたビリーは、即座に、ラクダ2頭とボーマルの石化を解除した。

 ゴースト・バシリスクは、続々と流れてくる。
 1匹、2匹、3匹、4匹……!!
 魔炎の精は何をしているのか!?

 ラクダのサドル位置に戻ったビリーは、再び舵を取った。
 次の脅威に備えるためだ。

 ぞろぞろと集まる敵勢の次の攻撃にはもう間に合わない。
 苦し紛れで、ビリーは、マタザ(ブルーカモメ改)のカプセルをぶん投げた!

「すまん、マタザ、頼む!!」

「ミュー!!」

 どか、どか、どかどか、どかあああああああああああああん!!

 マタザは投げられると同時に、自爆した!
 カモメの盛大な自爆犠牲があり、ビリーたちは難を逃れ、逃げることができた。
 次に襲って来るゴースト・バシリスクの増援には、ゴローザのアリ地獄と、ボーマルの体を張っての体当たりで食い止めた。

「む!? あかんな!! 魔炎は!?」

 何かがおかしい。
 魔炎がいれば、こうはならなかったはずだ。

 ビリーの前方50メートルの地点で、魔炎は力尽きていた。
 おそらく魔力切れでふらふらしていたところ、石化光線をうかつにもくらったのだろう。

「急げ!! 助けるんや!!」

 ビリーたちは、急いで前進した。
 道中でバシリスクたちが追ってくるが、今は魔炎の救援が優先だ。
 ビリーは、お化けハイランダケやウォルターラットなどをバシリスクたちに投げつけた。

(すまん、みんな!! この場は、頼む……!!)

 さあ、石化した魔炎が間近に見えて来た。
 ビリーは、「神足通」で、「マンドラゴラの浄化水」の瓶を魔炎に投げつける。

 がしゃあああああん!!
 じゃあああああああ!!

 水瓶が石とぶつかって壊れ、その水分が石像に浸透し……。
 魔炎、復活!!

 だが、なんか苦しそうだ。
 ビリーは、魔炎の両肩回りに、ちくり、と元気が出る鍼を瞬間移動で刺してあげた。

「うおっしゃあああ! 魔炎、今度こそ復活だぜ! ビリー、ありがとよ! ここは任せろ!!」

 元気に生き返った魔炎は、魔剣をぶんぶん振り回しながら、ゴースト・バシリスクたちに向かって行った。

 魔炎の強烈な魔剣の一撃が見事に炸裂し、ゴースト・バシリスクたちは徐々に数を減らして行った。

「さて、お次は……。また西に逃げるんや!!」

 ビリーは、ラクダたちにカツを入れて、再び逃走を続ける。
 いったい、いつになったら、結界装置は完成するのか?
 そもそも、スケルトンロード・キングは倒されたのか?

 今は、仲間たちを信じて、ひたすら逃げるしかないのが苦しいビリーであった。


●ディスクB:エントランスでの戦闘 後半戦


B-1「スケルトンロード戦の決着」


 パキパキパキ、カタカタタ、ガラガラガラ……!!
 不気味な骨の音と共にスケルトンロードたちが全快で復活をする。
 しかも、彼らは、ハマっていたはずの粘着ゴムや網から外れて再生してしまった。

「ヘイ、未来! めげないデース!! もう一発、ゴム漬けデース!! 次は、攻撃せず、そのままネ!」

「そうだね! 最初から足止めだけにすれば良かったかな?」

 ジュディと未来は、息を合わせて、もう一度、粘着ゴム弾を撃つ!
 アンナは、息をのんで見守っていた。
 スケルトンロードたちは、なぜか静止している。
 スケルトンロード・キングは、ケタケタと笑っていた。

「ファイア、トムロウ・レボルバー!!」
 ジュディの銃口から、ゴム弾が猛速度で放たれる!

「ファイア〜!! ゴムゴム〜!!」
 未来の銃口から、3連射のゴム弾が怒涛の勢いで攻める!

 どっかあああああああああん!!
 べちゃべちゃべちゃああああああああ!!

 スケルトンロードたちのうち、前方にいた6体がゴム漬けになった。
 そして、ゴムだらけになったロードたちが……。

「グゲゲ!!」

 ぎぎぎ、ぶん、ぶん、ぶん、ぶん!!
 スケルトンソードをぎこちなく全力で振り回して、「回転殺法」のスキルを放つ!!

 バキ、ドカ、パッキーン、パキパキパキ、カタカタカタ!!

 一瞬にして、スケルトンロード6体が骨の山になった。

「は!? 何をされているの!?」

 アンナは呆然としていた。

「え? 同士討ち?」

 まさかの同士討ちに未来も戸惑う。

 ジュディは、渋い顔でにらんでいた。

 次の瞬間……。

 パキパキパキ、カタカタタ、ガラガラガラ……!!

 ゴムだまりにハマっていた6体が、元の姿に再生!
 しかも再生の際、ゴムから骨がすり抜けて、骸骨の体が再構成された。
 つまり、これは……。

「オウ、ノー!! (なんてことかしら!!)要スルニ、スケルトンロードには、ゴム弾や網といった足止めが効かないのデース!! 奴ラ、足止めシテモ、動きを封じテモ、再生スレバ、ナンデモカンデモ、元通りデース!!」

 ジュディは、オーマイガッドな表情とジェスチャーで、思わず叫んでしまった。

 敵勢の奇行に戸惑っているアンナと未来を眺めながら、キングはケタケタ笑い出した。

「ヌハハ! 我ガ不死身ノ軍勢ハ、無敵ナリ!! 我ガ力デ何度デモ再生スルナリ!!」

 そのとき、ジュディは、あることが閃いた。

(ん? ナンカ、コイツ、怪しいデース!! 我ガ力デ何度デモ再生スルナリ……というコトは、コイツが消滅したら、スケルトン共も全滅しマスカ!?)

 ジュディは、2丁拳銃を構え直して、一歩、前に出た。

「ヘイ、アンナと未来、ザコを任せマース!! シルフィー、各員をサポート、デース! ジュディは、キングとタイマンするデース!! マイ・アイデア、ありマース!!」

 ジュディの申し出に、アンナ、未来、シルフィーは、即座に頷いた。

「了解しましたわ! ロードたちは、わたくしたちで足止めします!」
「うん、ジュディに考えがあるならそれで!! アンナ、一緒に戦おう!」
「Okよ! ラクダで動き回りながら、みんなをサポートするね!」

 奇声を上げながら流れ込んで来る3部隊に、少女たちが立ち向かう。
 アンナは、モップを回転させながら、1対9の白兵戦という不利な場で猛攻する。
 未来は、隊列から外れ、上空に逃げ、上空から2丁拳銃を連射してアンナを援護。

「ヘイ、キング!! ユー、本当に今からデッドしマース!!」

 ジュディは、2丁拳銃で光の弾丸を撃ち込んだ。
 ガンファイターの称号も光り、威嚇射撃と連続射撃でキングを襲う!

「ガハハ!! 愚カナリ!! 力ノ差ヲ教エテヤル!!」

 キングの眼光が鋭く光った。

『回・転・殺・法・改!!』

 怪しい呪文を唱えながら、全力でスケルトンソード改をぶんぶんと全力回転させながら、ジュディに突撃だ!

 光の弾丸は、「回転殺法・改」の激しい遠心力による速度で弾き返してしまう!

 キングは、留まることなく、よどむことなく、急回転しながら歯向かって来る!

 反応能力でジュディも引けを取ることはない。
「猿の鉢巻」で斬撃を回避しつつ、「ハイランダーズ・バリア」で防御して風圧を防ぐ。

「ホ、ソレ、ヘイ、ヨレ、トア!! フー、デンジャラス!!(危ない!!) 何タル、剣さばきデース!?」

 ここまでは良かった。
 仮にキングが人間であれば、ジュディの反応速度とカウンターにより勝負がついていたことだろう。
 ジュディが、カウンターとして、銃口を差し向けたそのとき……。

「モラッタナリ!!」

 キングは、アンデッドだ。
 人体の構造を無視した動きだってお手の物!
 来るはずがない急角度から、斬撃の嵐がジュディを襲う!!

 ビュウウウン!!
 バチッ!!

「アウ、チ、 ノー!!(きゃ、痛い!!)」

 ジュディは、とっさにかわしたはずであったが、小手の部分を狙われ、2丁拳銃を手放してしまった。
 拳銃らは、くるくると回転して、空の方向へ飛んで行ってしまった。

「ヤリマスネ、コイツ……!!」

 ジュディは、打撲傷とすり傷を負った両手をかばいながら、一歩引いた。
 手が痛いというよりは、デタラメな攻撃を受けて2丁拳銃を手放したショックの方が大きかった。

 もっとも、この程度でビビるジュディではない。
 まだ、「ハイランダーズ・バリア」がある。
 いつだったか、コーテス(NPC)から教わったことだが、拳にバリアをまとわせることもできる。
 バリアは、ちょっとしたパンチングのナックルになるのだ。

 ジュディは、拳闘の構えをして、キングに詰め寄った。
 キングの方は、大剣を上段に構え直した。
 次の一撃で、どちらも決めるつもりである。

***

 アンナは、モップで何度も蘇る敵たちを屠りながら考えていた。
 どうしたら、もう少しエネルギーを節約できないものかと。
 アンデッドは既に死んでいるのでスタミナは無限とも言えるだろう。
 つまり、スタミナが尽きた時点でアンナと未来の負けは確定する。

(そうですわ……。「乱れ雪桜花」を使って……!!)

 アンナが必殺魔術を構えると、桜吹雪と雪の吹雪が巻き起こった。
 当然、ロードたちは視界が遮られる。
 アンナは、モップを回転させながら、さらに桜と雪をかき混ぜる。

「こっちですわよ!」
「コノー!!」

 急角度で現れたアンナを斬ろうとしたロードは……。

 パキパキパキ、がんがらがっしゃん!!

 仲間を斬ってしまった!

「それ、こっちですわ!」
「コノコノー!!」

 背後に現れたアンナを斬ろうとしたロードは……。

 パキパキパキ、がんがらがっしゃん!!
 再び別の仲間を斬ってしまう。

「乱れ雪桜花」には回数制限があるし、魔力も体力も使う。
 ならば、エネルギーの省略として、桜と雪を吹かすだけにしてみたのだ!

 一方、上空は晴れている。
 上空からは……。

「いっけええええええええ、ふぁるこおおおおおおおおん!!」

 未来は、サイコセーバーをうならせながら、「ブリンク・ファルコン」で突っ込んで来る!

 どかあああああああああん、パキパキパキ、バキバキバキ、がんがらがっしゃん、どかどどかどかああああああん!!

 ロードたちは、同士討ちで倒れ、未来の襲撃で倒れ、この度も全滅した。
 しかし、次の瞬間には、また元通りだ……。

「はあ、はあ……。未来! そっちは……大丈夫ですか?」
「ふう、ふう……。うん、なんとか、ね……」

 アンナと未来もそろそろ体力が尽きてくる頃だ。
 敵が何度も再生することもあるが、ここは沙漠ステージだ。
 いくら沙漠用戦闘服を着用しているとしても、暑さと蒸れで体力が奪われる。
 少女たちは、水分タブレットを取り出して、パクリと口に入れた。
 後方からは、シルフィーが「サラマンダー」で応援してくれたので、これでもう少しは持ちこたえられるであろう。

「アンナ、今の、もう一回、できる?」
「ええ、もう数回程度なら」

「次は、レールガンで一気に9体片付けてみようか? それまで誘導お願い!」
「了解ですわ!」

 未来は、空へ飛び上がった。
 アンナは、再び、桜と雪を吹かす。
 上空からは、「激・電磁砲」が下方でまごつくロードたちを屠る。
 そして、また蘇る……。

 じりじりと焦る少女たち。
 アンナと未来に敗戦の色が見え始めていた。

***

(オソラク……。キングをフィジカル(物理的)に倒シテモ、復活するデース。コイツの『蘇生能力』ソノモノを無効にシナイト、勝機ないデース……。ソウデスネ、『無効化』ト、言えバ……。ん? アノ辺、変な魔力ガ……感じられマース!!)

「トリャアアアアアアアアア!!」

 キングが、大剣を上空から振りかぶって、叩き落とす!
 そのとき、シルフィーの「ウサミミキャット」が現れ、キングの命中率を下げた。
 ジュディは、斬られる寸前で右側へ回避。
 その直後、キングの心臓部の怪しい魔力の動力源に向かって……。

『スキルゥ・ブレエエエエエエエエエエエエエイク!!』

 ジュディが、掌底打ちの構えで、あばら骨を突き破り、怪しい根源へ「スキル・ブレイカー」を打ち込んだ!!

 ジャキイイイイイイイン!!
 シュウウウウウウウウウウウウウウン!!

 スケルトンロード・キングが一瞬で消滅した。
 先ほどのロードたちみたいに、パキパキと蘇生することはなかった。

「ワオ!? 効果絶大デース!? 今の、『蘇生能力』を『無効化』シタ? イイエ、オソラク、『アンデッドの存在ソノモノ』が『無効化』シタデス? オウ! 『スキル・ブレイカー』の新たなパワー? 『ゴースト・ブレイカー』ネ!!」

 ともかく、ジュディの勝利だ。
 彼女は、ううーん、と両手を挙げてストレッチした。

***

「ぜえ、ぜえ、はあ、はあ……アンナ、大丈夫?」
「ふう、ふう、ひい、は……え、ええ……なんとか……ですが、もう……」

「あ、アンナ……あきらめ、ないで……!!」
「ははは……も、もちろん、です、とも……!!」

 未来は、ウォーハンマーを杖にして、アンナは、モップを杖にして、なんとか立っていた。
 ロードたちとの激しい連続攻防戦の上に沙漠での劇的な蒸し暑さ。
 もはや体力の限界が来た。

 シルフィーは、後方から、「ゴールデン・ゴーレム」を召喚した。
 金塊のゴーレムが、アンナと未来の防壁となる。

 ロードたちは、ケタケタと笑っていた。
 いよいよ、美少女たちを屠るときが来たと言わんばかりに、9体で斬りかかって来た!
 まずは、ゴーレムから切り崩される……。

 ところが……!!

 シュシュシュ、シュウウウウウウウウウウウウウウン!!

 ロード9体が一瞬で消滅して全滅したのだ!

「あ、あれ!?」
 あんぐりと口を開く未来。

「こ、これは……!! ジュディですわ! ジュディがキングに勝ったのですわ!」
 アンナは、瞬時に事を把握した。
 今、考えられる可能性は、それしかない!

 ともかく、自分たちの勝利を確信した二人は、へなへなとその場に座り込んでしまった。
 二人のもとには、再び、シルフィーの「サラマンダー」がやってきて、体力を補充してくれた。


B-2「結界装置設置の行方」


 マニフィカ三人衆は、上空で攻撃の陣形を構えていた。
 本体のマニフィカは、あることが閃いた。

「『ダブル・ブリンク・ファルコン』をやりたいのですが……。3人ですわね? ダブルが2人、ならば、トリプルは3人……。と、いうことは、まさか!?」

 ファイアイーグルたちは、全10羽になり、容赦なく向かって来た。
 もはや敵勢も切り札を使う覚悟だ。
 陣形は全ての鳥が攻撃になり、火炎魔術で燃え上がり、突っ込んで来る!!

『トリプール!!』
 本体マニフィカが叫ぶ。

『ブリーンク』
 ホムンクルス・マニフィカが叫ぶ。

『ファルコオオオオオオオオオオオオン!!』
 異次元獣・マニフィカが叫ぶ。

 3人同時で、「ブリンク・ファルコン90%」7回連続+ファルコンバッジのもう1回連続で……8連続攻撃×3人分で……24回連続攻撃+3回分おまけとクリティカル・ヒット!! さらに称号「沙漠で咲く流派ネプチュニアの達人」で攻撃力と成功率に補正効果!!

 マニフィカたちは舞った。
 竜の翼をはためかせながら、縦横無尽に炎の鳥を駆逐していく。
 あるマニフィカは、魔槍の三段突きの無数連打で、3羽の鳥を闇へ葬った。
 別のマニフィカは、魔槍をぐるぐると回転させながら、遠心力による竜巻の連撃で4羽の鳥を落下即死させた。
 さらに別のマニフィカは、魔槍を連続串刺しにして、3羽の鳥を帰らぬものへと変えた。

 今、空中で、雌雄が決された。
 竜人の人魚たちが「ブリンク・ファルコン」の全連撃を高速度で完遂させ、全ての赤い鳥たちは、マニフィカを燃やすことなく、燃え尽きたのである。

「あら? 全滅してしまいましたわね? 結界装置の必要がなかったとは!?」

 事を終えてからふと我に返ったマニフィカは、おほほ、と笑っていた。
 3ターンの効果も切れ、ホムンクルス人形と異次元獣は元に戻り退場した。

 沙漠用戦闘服を着ているものの、蒸し暑さを感じた人魚姫は、水分タブレットの存在を思い出した。合流する前に、水分の補給をしておくことも忘れない。

***

 カチャ、カチャ、カチャ……!!
 とん、とん、とん……!!

 呉は、屋上で汗をたらしながらも、結界装置を修理していた。
 落下の際に装置にショックを与えてしまったが、思ったよりも壊れていなかった。
 電池の接触とケースの接続がやや不調だったので、中身が少し飛び出ていただけである。
「機械工学」技能210%の実力を持つ彼には、朝飯前の軽い準備運動程度であった。

「へへへ、直った! ま、こんなもんだな?」

 これを今、この屋上に設置すれば、彼の仕事は完了だ。
 だが呉は、結果装置をいじっていて、よからぬことも思いついてしまった。

(むふふ♪ こいつのここをちょっといじれば……!!)

 好奇心を押さえられなくなった呉は、再び、ツールボックスから工具を取り出し、カチャカチャといじり出した。

***

「ぬおおおおおおおおおおお!!」

 萬智禽は、苦戦していた。
 先ほど、急降下で突っ込んで来たファイアイーグルの1匹と未だに戦闘している。

 イーグルのかぎ爪にマントをひっかけられて、空中で引きずられているところだ。

 呉とは、はぐれてしまった。
 呉が無事に屋上へたどり着けたのか、結界装置を設置できたのか、そんなことすらわからない。
 ただ、今、わかることは、対戦中のこのイーグルを屠らないと先には進めないということだけだ。

(ぐぐぐ……!! こいつめ!! 銃さえあれば……!! 念力に反応しないということは、さっきの落下のショックで銃を消失したのだな!? ならば……!!)

 萬智禽は、マントをひっかけているかぎ爪を逆にマントで巻き戻した。
 そして、「オーブ」の出力を上げて高速度で回転した。

 ぎゅるん、ぎゅるん、ぎゅるん、ギャース!!

 なんとか、ファイアイーグルを振り切ることに成功した。
 イーグルは、明後日の方向へ飛んで行ってしまった!

 だが、油断は禁物だ。
 早くこいつを仕留めないといけない。
 今は1羽だが、仲間を呼んで2羽、3羽と増えるのは防ぎたい!

「ギャアアアアアアアアアアアス!!」

 遠心力で吹っ飛ばされたファイアイーグルは、屋上に叩きつけられた。
 ちょうどそこで、改造を終えた呉と対面した。

「な、なんだよ、こいつ!? ちくしょう、まだ残っていたか!! ならば、これで、どうだ!!」

 ビイイイイイイイイイイイイイイイ、ずきゅううううううううううん!!

 なんと、結界装置から、レーザー光線が発射された!

 どっかあああああああああん!!
「ギャアアアアアアアアアアアス!!」

 ファイアイーグルは、文字通り、ファイアになって燃え上がり爆発した。

 そこに空中から、萬智禽がぷかぷかと降りて来た。

「呉殿! 無事だったか! ところで、今の爆発は!?」

 ぎょっとした目玉の質問に、機械オタクは、きらりと答えた。

「もちろん、改造版結界装置によるレーザー光線さ!」

 どうやら、呉の改造により、結界装置には、レーザー光線発射機能まで付いたようだ。

 ともかく、後半戦でマニフィカが退治した分と今、呉が爆死させた分で、全てのファイアイーグルが駆逐された。
 それでもまだ戦場にはたくさんの魔物が残っている。

「呉殿! レーザー光線はわかったが……!! それよりも、早く、結界設置を!!」

 目玉がせかす。

「お、おう! いけねえ、そうだった、そうだった!! よっしゃあ、それ、設置だ!!」

 技師も慌てて、結界設置を屋上に置いた。

 すると……。

 ウウウウウウウウウウウウウウ、ワンワンワンワンワン!!!!

 結界装置の赤いサイレンが輝いて回転しながらアラーム音を発する。
 点滅や効果音と同時に、青い上空が赤い魔力のオブラートに包まれた。
 範囲としては、屋上の設置場所を中心として、半径100メートル程度である。
 結界は、無事に張ることができた。

「はあ、はあ、ぜえ、ぜえ……。ひとまず、俺の仕事は……終わりだ……休むぞ!!」

 呉は、防暑対策は、していない。
 いつものツナギの服のままだ。
 発汗と蒸れがあまりにもひどいので、上半身は裸になった。

 萬智禽の方も、沙漠用マントを巻いているものの、そろそろ暑さで体力の限界だ。
(オーブのマントは、先ほどのイーグルとの戦いで消失 → アイテム袋に帰還)

 水分タブレットを取り出して、念力で粉砕した上、目玉に浴びた。
 ドライアイには、とても良い対策であるのだろう。

「おい、目玉! 俺にもくれ!! あちーよ!!」
「ほれ、食べるのだ!」

 念力でタブレットを1錠渡されると、呉は、口に放り込んで、ばりぼり食べた。

「うめー!! やっぱり、沙漠の暑い日には、これだよな! わりい、もう2錠くれないか?」

「ほれ!!」

 萬智禽が念力で2錠を放り投げると、呉は、口でキャッチしてほおばった。

「んじゃ、戦闘が終わるまで下の日陰で休んでら! あとよろしく!」
(うひひ♪ いよいよ遺跡に潜るのか? 「心霊科学」とやらが科学的に楽しみだぜ!)

 呉は、遺跡をずるずると降り出して、日陰へ逃げて行ってしまった。

「ふむ。残存勢力がまだいるか……。私は、もう一仕事するかな?」

 萬智禽は、下にいる班やマニフィカと合流することにした。


B-3「沙漠の大掃除」


 沙漠は、炎天下でじりじりとした蒸し暑さだ。
 魔物は、倒しても倒しても一向に減らない。

「はあ、はあ、はあぁ……。あつすぎぃー!! いったいぃ……あとぉ、何匹ぃ……倒せばぁ……終わるのよぉ……!!」

 元々が植物の作りである体な上に、リュリュミアの身体は、決して沙漠用ではない。
 しかも防暑対策を今回はしてこなかった。
 リュリュミアの体力にそろそろ限界が来ていた。

 サボテンマンたちが、怪しく踊りながらも集まり出す。
 彼らもそろそろ次あたりで決めるつもりだ。
 サボテンマン10体は、特攻して針で体当たりする陣形を取った。

 やがて、全員が一斉に、ラクダから降りているリュリュミアに襲いかかって来る!!

「うふふぅ〜!! そうくると思ったわぁ〜!! かかったわねぇ〜!!」

 リュリュミアは、今、大樹である。
 彼女を中心として、地中に根を張った。
「ブルーローズ」の根が、大樹を中心として、今、半径50メートルの位置まで張り巡らされている。

 そんなことをサボテンマンが、知るはずも、理解しているはずもない。
 飛んで火にいる夏の虫。
 飛んで根にいるサボテンマン。

『腐食循環、マアアアアアプゥ、ウェポオオオオオオオオオン!!』

 リュリュミアの必殺魔術が冴え渡る。
 大樹を中心とした地中に巡らされた全ての根に魔力が宿った。
 彼女がいる半径50メートル以内の全ての圏内に入ったサボテンマンは、12体。
 特攻して向かってくるもの10体、後方で増援を呼ぶ用意をするもの2体。

 ぎゅる、ぎゅる、ぎゅる、ぎゅるり、ぎゅるい、ぎゅるるるるる!!

「腐食循環」のマップ兵器が爆発した!
 地中のブルーローズは外に飛び出し、青く発光し、サボテンマンらは、根に吸い出される。
 一瞬にして、12体ものサボテンマンが地へ帰した。

「ふう、ふう、ふうぅ……。これでぇ、どうぉ? もうぅ、ダメぇ……」

 リュリュミアは、敵の全滅を確認すると、よろよろと座り込んだ。
 ラクダの方も、はあはあ、とつらそうだ。
 そこは優しいお姉さん、マギボトルを取り出して、ラクダに水をあげた。
 その後、自分もごくごくと水分補給をした。

***

 リュリュミアが何かをして、サボテンマンたちを全滅させたらしい。
 遠くで遊撃しているエリスは、ウィンドスコーピオンの相手をしながら瞬時に悟った。

「はあ、はあ……。そろそろ、私も限界ですね……。ですが、サソリがまだたくさんいるので……!!」

 エリスは、一撃必殺の大技を持っていない。
 銃撃でじわじわと数を減らすのがやっとだ。
 だが、サソリの方が仲間を呼ぶ速度が速いので、次から次と増援が来る。

 そのとき……。

 ウウウウウウウウウウウウウウ、ワンワンワンワンワン!!!!

 張り裂けるようなアラーム音と共に、空が赤くなった。
 結界装置が完成したのだ!

「呉さん、さすがです!! これ以上、サソリが増えることありませんね……。申し訳ありませんが、撤退します!!」

 エリスは、ラクダを気張らせて走り出し、遺跡付近を目指して逃げた。

***

 どうやら、結界が完成したようだ。
 アラーム音と共に空が赤くなったから間違いはない。

 魔炎は、戦闘から一歩引き、周辺を確認した。

 リュリュミアがラクダと一緒に座り込んでいる。
 サボンマンは、もう1体もいない。
 きっと、リュリュミアが勝ったのだろう。

 エリスは、ラクダで敗走していた。
 体力的にも厳しい頃だったのだろう。
 遺跡へ逃げる彼女をサソリたちが追いかけている。

「んじゃ、俺も退くかな!」

 魔炎も、そろそろスキルの持ち数が尽きて来た。
 今は、ただ、デフォルトの魔剣で攻撃して、ゴースト・バシリスクのMPを削っているだけだ。
 そろそろ誰かに戦闘を代わってもらいたいと考えていたところでもあった。

 ビリーの方も、ちょうど遺跡へ向かって逃げるところらしい。

「おい、ビリー!! ラクダ1頭くれ! 俺も逃げる!!」

 魔炎が付近を走るビリーに向かって、そう怒鳴った。
 すると、次の瞬間、ラクダの1頭がテレポートして、魔炎の近くに現れた。

「じゃあな、トカゲのお化けども!! そりゃ、餞別(せんべつ)だ!!」

 魔炎は、最後の1発、「ダークフレア・スマッシュ」を地面に叩きつけて、砂嵐を起こした。
 砂嵐のせいで、ゴースト・バシリスクの視界は遮られた。

 次の瞬間には、ラクダに乗った魔炎が、ビリーの隊に続き、疾走していた。
 当然、ゴースト・バシリスクたちも、魔炎を追いかける!

***

 萬智禽が屋上からぷかぷかと降りて来た。

 遺跡のゲート付近でも、ちょうど戦闘が終わったところだ。
 ジュディがシルフィーに両手の手当てをしてもらっていた。
 二人は、水分タブレットをほおばっている。
 その横で、未来とアンナがぐったりと座り込んでいた。

「おや? スケルトンどもに勝利したのだな?」

 萬智禽がジュディに問いかける。

「イエス! 退治したデース! ソチラも、結界措置完了デスネ? オー? ミスター・ウーは!?」

「うむ。結界は、見てのとおりだな。呉殿は、その辺の日陰で休んでいるのだろう? それよりも、残存戦力が気になるな? まだ戦える者で、最後の大掃除にかからないか?」

 そこへ、マニフィカが、空から羽ばたいて降りて来た。
 既に竜人化は解いている。

「あら? 大掃除なさるの? わたくしも今、それを提案しようと考えていたところでしたの!」

 未来が、よっと、立ち上がった。

「いいよ。大掃除やろうか? わたしは、レールガン撃つよ!」

 ふらふらしながら、アンナは、目の前の光景にぎょっとした!

 ビリーがラクダを率いながらこちらへ走って来る。
 その最後尾には魔炎も一緒にラクダに乗って走っている。
 さらにその後ろには、ゴースト・バシリスクの大群が追いかけているところだ。

 一方、アンナから見て、ビリーたちの右後方では、エリスがラクダで疾走して向かって来る。その背後には、ウィンドスコーピオンの大群が彼女を追いかけている。

「うむ。時間がないな、やるぞ! 私が指揮を執る! 『一斉砲撃』なのだ! 各自、構えろ! 砲撃、開始!!」

 萬智禽が軍師モードになり、『一斉砲撃』の号令を唱えた!

 まず、ジュディが、ペットの「ラッキーちゃん」(ニシキ蛇)を砲丸投げのように、ぐるぐると回転させながら、ゴースト・バシリスクの方へぶん投げた。

「ファイア!! ラッキー、ゴオオオオオオオオオオオオ!!」

「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 ぶん投げられたラッキーは、上空から「フレアキャノン」を吐き出して、土属性のゴースト・バシリスクたちをことごとく爆撃し、燃やし尽くす!

「続いて、いっくねえええええええええええええ!!」

 ジュディに代わり、今度は、未来が「とあるイースタンの激・電磁砲」を電気銃から構えた。充電された銃器からは、稲妻の咆哮(ほうこう)と共に稲光した電撃の激流がほとばしる!

 ビリビリ、バチバチバチ、ドギュウウウウウウウウウウウウウン!!!!

「(……詠唱完了!)援護するね!!」

 未来が撃ち終わると、今度は、シルフィーのターンだ。
 妖精隊長は、「シャインクロス」を召喚し、光の甲冑騎士が聖剣を振りかざしながら、直線攻撃の一撃をくらわせる!

 シャキイイイイイイイイン!!

 どっかあああああああああああああん、どかどか、どっかあああああああああああああ!!!!

『一斉砲撃』で攻撃力、命中率、クリティカル率が強化された三人の連続攻撃によって、ゴースト・バシリスクの軍勢が全滅した。

 アンカーは、マニフィカである。
 マニフィカは、みんなが攻撃している最中用意していた。

 彼女は、「リリのクッキー」を食べ、物理力2倍。
「聖アスラバッジ」をかざし魔術系スキル威力2倍。
『魔導動物概論(魔牛編)』を開き、特大物理ダメージを追加。
さらに『一斉砲撃』でプラス補正がかかる。

「……御仏よ……極楽浄土へ導き給え……!! センジュカンノン!!」

 マニフィカが詠唱し、合掌すると、無数の仏の腕が空から召喚される。

『……裁キ、ノ時間ジャ……汝ラヲ……地へ……還ソウ……』

 おぞましい仏の声と共に、強力な拳の数々がウィンドスコーピオンの残党たちを残さず滅多打ちに叩きのめした。

 バキ、バキ、バキ、グシャリ、グシャリ、ガッシャアアアアアアアアアアアン!!!!

 粉々になったサソリたちは、残らず地へ帰すのであった。


B-4「魔導ラクダたちの生存確認」


 ビリーは、そろそろ限界だった。
 いったい、この逃亡劇は、いつになったら終わるのだろうか?

 水分タブレットは、とっくの昔に使い切ってしまった。
 ラクダ8頭分と自分の分は消費してしまった。
 途中でラクダたちがだれてきたこともあり、エサもまた8個消耗してしまった。

「もう、ダメや……。ボクら、終わりや……。 あかん、あかん!! ここでボクが弱気になったら、ホンマ、全滅や!」

 ビリーは、鍼を自らの脳天にぷすり、と刺して奮発した。

 そのとき……。

 ウウウウウウウウウウウウウウ、ワンワンワンワンワン!!!!

 アラーム音と共に空が赤くなった。

「こ、これは!? そうか……結界が完成したんやな? って、ことは、遺跡の方へ行けば安全やないか? ああ、スケルトンとかおったな? でも、ジュディさんらが今頃倒した後かと違うか? ええい、迷ったらあかん、そこへ行くぞ!!」

 ビリーは再び、ラクダたちにカツを入れて、北方の前方へ急いだ。

 道中に、魔炎の精が手を振りながら、怒鳴ってきた。

「おい、ビリー!! ラクダ1頭くれ! 俺も逃げる!!」

(あん? ラクダくれ、と!? そうか、逃げる時期やもんな!!)

 ビリーは、最後尾にいるラクダ1頭を、「神足通」で瞬時にワープさせ、魔炎のもとへ送った。

 魔炎は、魔剣のスキルで砂嵐を起こし、ラクダに飛び乗り、隊の最後尾へ加わった。

「ほな、このまんま逃げきるでえええええええええええ!!」

 ビリーがいよいよ気張り、全員を力強く疾走させる。
 背後には、ゴースト・バシリスクの軍勢が追って来た。

 一方、ビリーの左後方では、エリスがラクダに乗って走っている。
 その背後には、ウィンドスコーピオンの軍勢が彼女を追っていた。

 ビリーは、振り返ってぞっとしたが、迷っている場合ではない。
 前方の遺跡には、仲間たちが待機していた。

「ビリー!! こっちですわよー!!」

 アンナが手を振って誘導してくれた。
 どうやら、まっすぐのコースで進んではいけないらしい。
 少し右寄りにカーブして、遺跡の陰のところに到着すれば良いそうだ。

 アンナの付近では、萬智禽が空中で指揮を執って浮かんでいた。
 ジュディが、蛇を投げて、爆撃する。
 未来が、電磁砲を撃ち込む。
 シルフィーが、光の騎士を放つ。

 ビリーの後方では、ゴースト・バシリスクたちが大爆発を起こしていた。
 おそらく、全滅したことだろう。

 ビリーが、アンナのもとにたどり着いた頃には、全ての魔物が全滅していた。
 決着は既についていたようだ。

「ふう、ふう……。なんとか……終わったみたい……やな!? あ、ラクダは無事かいな!?」

 ビリーは、自らが乗っているラクダを駐車した後、全員が無事かどうか確認に取り掛かった。

「ひい、ふう、みい……、8頭全部いるやん! 無事やで!!」

 そこにエリスとシルフィーもやってきた。
 ラクダを2頭足す。

「よっしゃあ、全部で10頭やな! ん? 待て!! もう1頭いるやんけ!!」

 ビリーが、きょろきょろと見渡すと、遥か前方で、リュリュミアとラクダが倒れていた。

「あかん!! あれはまずいやろ!! 今、助けるで!!」

 ビリーは、「神足通」で即座に飛び出し、倒れているリュリュミアとラクダを介抱した。

「うむ。仲間が全員無事で、ラクダも皆、無事と! 第一ミッション終了やな! 判定は、大成功や!」

 ゲームマスターに代わって、判定に太鼓判を押すビリーであった。

 きらりん☆
 沙漠の片隅で、何かが光った。

<次回へ続く>