「3番目の魔術師事件」第2回(推理編)

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

★第三章 推理編:今、学院で何が起きているのか?

・第一節 推理バトル

<まえおき>

<トピック1 スノウは、犯行に関与しているのか?>

<トピック2 トーマスは、TMなのか?>

<トピック3 サンダーは、TMなのか?>

<トピック4 テレサは、TMなのか?>

<トピック5 コットン事件の爆弾は誰が造ったのか?>

<トピック6 コーテスを襲ったのは誰だったのか?>

<トピック7 結局、TMとは何だった(誰だった)のか?>

<トピック8 TMは何人いて、それぞれがどんな役割だったのか?>


・第二節 犯人からの招待状? そして、増援も現れた!



★第三章 推理編:今、学院で何が起きているのか?


・第一節 推理バトル


<まえおき>

*第2回リアクションは、第三章から始まります。第一章と第二章を読みたい方(振り返りたい方)は、第1回リアクションをご覧になってください。今回の本編は、第1回リアクション/第2回募集案内からの続きとなります。

 いよいよ今から、待ちに待った推理バトルが開幕する!
 でもその前に、各自が行った調査結果の報告と知識の共有が必要だ。
 そして、報告会を行う前にも、新しい参加者や資料や機材が必要だったりもする。

 報告会前に、各自がやるべきことをやるために行動する。

 巨大目玉の萬智禽・サンチェック(PC0097)の申し出により、風紀委員の隠密であるテレサ・イーグルアイ(NPC)が報告会と推理バトルへ参加することが決定した。
 また、フランス令嬢アンナ・ラクシミリア(PC0046)の申し出により、魔導科学部の学生であるサンダー・フロッグスタイル(NPC)も同じく、報告会と推理バトルへ参加することになった。
 スノウ委員長(NPC)とコーテス副委員長(NPC)は風紀権限を駆使して、問題となっているその二人を風紀委員室まで呼び寄せることに成功。

 一方、ワスプの探偵少女であるヴィオレッタ・ベルチェ(PC0098)は、みんなの前で自分の推理を説明するにあたり、図解がある文献が必要だと思い立った。同時期に二人のゲストを呼び寄せている最中、彼女は大学の図書館へ向かい、とある本を借りに行ってしまった。

 そして、報告会が始まるとなると、報告で上がった全データを記録する書記も必要である。その書記の役割には、異世界のアメリカからの教員であり風紀のアドヴァイザーでもあるジュディ・バーガー(PC0032)が立候補した。彼女は、相棒であるMoendows7のパソコンを持って来て、立ち上げ、これでノートを取るつもりだ。

 ところで、全員が事前の準備を必要とするわけではない。暇を持て余しているキュピーさんことナニワの座敷童子のビリー・クェンデス(PC0096)は、ここらで(始まる前だが……)いっちょ、コーヒーブレイクでもしたらどうか、と閃いた。秘蔵の「打ち出の小槌F&D専用」をぽんぽんと振って、コーヒー牛乳のパックとクッキーを人数分出して配り歩いた。

 現在、風紀委員室に残っているアンナ、萬智禽、ジュディ、人魚姫留学生マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)、お元気女子高生の姫柳 未来(PC0023)、風紀ヒラのトーマス・マックナイト(NPC)、科学的革命残党分子の指導者ヴァイス・フォイエルバッハ(NPC)は、ビリーからコーヒー牛乳とクッキーを受け取り、一休みすることにした。(ヴァイスは、「魔術勢力と馴れ合うつもりはねえ!」とか言って、教室の片隅でひっそりと飲食していた)

 十数分後。
 全員がそろった。

「では、今から報告会を始まるわね! 各自、本日の調査で知ったこと、わかったこと、確かめたこと、その他、何でも疑問に思ったことでも些細なことでも、報告をお願いするわ。まずは、私、風紀委員長から報告をするわね……」

 スノウが先頭に立ち、報告会が緊迫した雰囲気の中、開始された。
 それぞれの報告では、お互いに思うこと、不審に思うこと、言いたいこと、色々あったようだ。
 でも、各自が推論を述べて戦わせるのは、推理バトルからである。
 報告中は、各自が真摯(しんし)に仲間たちの調査結果へ耳を傾けていた。

 そして全員分の報告が終わった頃、時計の短い針は一回りし、長い針も幾分か進んでいた。
 さて、データはすべてそろった。
 風紀委員会の仲間たちは、TMの正体を解明できるのだろうか?
 今、いったい、学院で何が起こっているのだろう?


<トピック1 スノウは、犯行に関与しているのか?>


「……さて、ここまでが各自の報告だったわね。みんな、素晴らしい調査結果をありがとう。今から、推理のパートに入るわ。と、言っても、推理して議論するべきトピックは多岐に渡るわね。どなたか、まず、何から議論をすれば良いかなどアイデアはあるかしら?」

 壇上に立つスノウが着席している仲間たちへ問いかけると、ヴィオレッタが挙手した。

「今、お互いの調査結果を聞いたところ、ひとつ思ったことがあったんだけれど……。何というか、みんな、お互いに疑心暗鬼になっているところがあると思うんだ。言い換えると、この風紀委員室の中に、TMやTMの仲間がいるかもしれない。あるいは、程度の違いかもしれないけれど、犯行に関与している者もいるのではないか、と。TMの正体を議論するのもいいけれど、そのまえに、この疑惑の霧を晴らしてからの方が推理ははかどらないかな?」

 そこで慌ててコーテスが挙手した。

「ええと……。ヴィオレッタさんが言うには……つまり、怪しい奴がこの中にいるので……まずは、怪しい奴の正体を暴いて……お互いにわだかまりのない中……本論の推理へ移ろうって、ことかな?」

 続いて、無表情のトーマスが挙手した。

「そうだね。僕もヴィオレッタさんに賛成だ。何しろ、僕は現在、最有力容疑者だからね! ぜひ、僕が怪しくない奴だってことを、この場で証明してからの方が、推理ははかどることだろう……」

 半ば、皮肉交じりでトーマスがそう言うと、何人かが彼をにらんでいた。
 一方、連れて来られたヴァイス、サンダー、テレサも表情は明るくない。

 ヴィオレッタは、提案を続ける。

「さて、異論反論はないようだね。じゃあ、ボクから行こうか……。ずばりだけれど、スノウさん! キミに言いたいことがあるんだよ……」

「え? 私に……。そう言えばあなた、先ほどの調査中に突然、いなくなったわよね? 何を企んでいたのかしら? 報告会でも、私のことを調べたという話だったけれど……。いいわ、話があるなら聞きましょうか……」

 風紀委員長と探偵少女はにらみ合いながら、推理バトルが開始された。

「スノウさん、キミはTMやTMの協力者ではないだろう。だが、『親愛なる愚鈍な風紀……』で始まる挑戦状を書いたのは、キミじゃないかな?」

 いきなりの指摘に、スノウは驚きを隠せなかった。

「え? どういうこと? なぜ、その挑戦状を私が書いたことになるの?」

 探偵は推理を続ける。
 ヴィオレッタは、証拠の挑戦状を広げた。

「まず、パソコンで打たれた文面になっているけれど、これは筆跡を隠すため。挑戦状の文面は挑発的だが、言っていること自体は『先生や警察に頼らずに風紀委員だけで解決しよう』というもの。この内容は、風紀委員会に不利益をもたらす内容ではない。さて、真面目で責任ある立場の人間が、手段を選べない状況に直面したとき、どうするだろう? 自作自演の挑戦状でも作って、事態をごまかしたりしないかな?」

 スノウは、冷静に否定する。

「いいえ。私は、そんなことは決してやっていないわ。仮にそれを私がやったとしたら、私は風紀委員長を降ろされるでしょう。何より、傷害罪の犯行に及んでいるTMに加担した罪で校則や刑罰で罰せられることになるわ。規則人間の私がまず、やらないことね……」

 だが、ヴィオレッタは何食わぬ顔で推理を続ける。

「スノウさん……。キミは、この挑戦状を書く前に、TMから脅迫状を受け取っていなかったかな? そして、都合よく風紀を動かして事態を鎮静するために、わざとあの挑戦状を作って、誘導した。当時のコーテス負傷時、『私がこんな挑発に乗らなければ』という発言は、そちらの脅迫状の内容を指していたのでは?」

 スノウが反論する前に、トーマスとマニフィカが手を挙げた。
 まずトーマスから、質問した。

「仮にヴィオレッタさんの説が正しいとしよう。では、コーテス傷害事件があったあの日、犯人のTMはどうやって風紀委員会を誘き出したのかな? 挑戦状の犯行予告は夜の十一時だ。少なくとも、本物のTMの側は、その日の夜の十一時に学院にいなくてはならない。もし、あの挑戦状が偽物となると、TMは、どうやって、夜の十一時に待ち伏せして、コーテスを負傷させる犯行ができたのだろう? つまりね、あの挑戦状が偽物で、TMのあずかり知らぬところで作られたものであるならば、本物のTMはあの日の犯行には及べなかったはずでは?」

 ヴィオレッタは反論する。

「いや、だから本物の脅迫状と偽物の挑戦状があったんだよ。きっと本物(TM作)の脅迫状には犯行予告時刻まで書いてあって、偽物(スノウ作)はそれをそっくり写したんだ……」

 マニフィカがそこで中に入る。

「ええ、では、仮にそうだとしましょう。では、その本物の脅迫状はどこですか? 風紀資料室に保管されていますの? あるいはスノウさんが持っていらして?」

 スノウは、首を横に振る。

「いいえ、私はそんな脅迫状はもらっていないし、持っているはずもないわ。レヴィゼル神にかけて誓ってもいいわ。それと、もし、脅迫状の犯行内容がまんま偽の挑戦状の内容であるのならば、どうして私は複製したのかしら? それも疑問だわ……。あと、ついでに言っておくけれど、『私がこんな挑発に乗らなければ』というのは、TMの能力を計る私の尺度が甘かった、という反省よ。まさかTMが大魔導士クラスの実力を持っていて、コーテスまでも重症判定にできるほどだとは、夢にも思っていなかったのよ……」

 だが、探偵は目を輝かせて反論する。

「ならば、これでどうだろう! この手帳に書かれているのは、スノウさんの心情を書いた直筆の詩だ。『レヴィゼル聖典』の詩編からの引用だ。見よ、この悲しげな詩を! この詩は、スノウさんの心情を、他者の著作の引用から表したものではないだろうか!」

 ふう、とスノウはため息をつく。

「ああ、あのときの『心理テスト』ね……。それもちょっと待ってよ……。私が書いたというその挑戦状の犯行とその詩の引用にどういう相関関係があるのかしら? もしそこに相関関係があるのならば、『レヴィゼル聖典』の詩編を好む人間の全員が容疑者になるわよ?」

 まあまあ、とここでコーテスが割って入った。

「ううん……これ以上、議論しても……肝心の証拠がないので……どっちも水掛け論になるよね? そこで、提案があります! では、その挑戦状を書いた人間を……特定できれば、スノウ委員長もヴィオレッタさんも……反論はないね?」

 スノウは、ええ、と頷く。
 ヴィオレッタも、異論はないよ、と頷く。

 コーテスは、証拠の挑戦状をヴィオレッタから受け取ると、壇上に出た。
 壇上では、プロジェクターを動かし、手紙を拡大した。

「ええと……あった、これ、これ! 皆さん……この手紙の右下の角を……見て、もらえます?」

 コーテスが、紙を拡大すると、そこには……。

「あ、アスラのおっちゃんの顔じゃない!」
「ですわね! 学院の名前も入っていますわ!」

 途端に未来とアンナが叫んだ。

「そう。そのとおり! この挑戦状がパソコンで打たれた物だったので……僕は、紙の性質を調べた、のでした……。この初代アスラのロゴと学院の名前が浮き彫りに入ったプリント用紙……。この用紙が入手できるのは……ここの学院です。そしてこの用紙は、学院に常備されているので……学院から……プリントする際には、いつもこの紙が出ます……。と、いうことは……挑戦状の犯人は……学院関係者の誰か……という線が大変濃厚です……」

「ふむ。紙の性質から推理するのか……。うかつだったね。しかし、コーテスさん。この紙が学院の紙だとわかったところで、どうやって犯人を特定するんだい?」

 ヴィオレッタは、そこが確認したかった。

「それはですね……。さて、スノウ委員長にジュディさん! ご協力を要請しても……いいですか?」

 副委員長からの問いかけに二人が答える。

「いいわ。何をするの?」
「オーライ、コーテス! いつでもオッケー、ヨ!」

「うん。まずジュディさんのMoendowsを……お借りします。今から、学院のネットワークシステムの中枢へ……入りましょう……」

「おや? ハッカーみたいなことをするのであるか? コーテス殿、そんなことして、罪に問われたりしないだろうか?」

 萬智禽がおろおろと質問する。

「大丈夫! 学院のネットワーク中枢部には……校則によれば……非常時の際には、風紀委員長カードと教員カードの二つがあれば……合法で入れます……。そういうわけで、二人とも、カード、プリーズ!」

 スノウとジュディは、とりあえず問題はないので、各自がカードを取り出した。
 そしてコーテスが接続ディバイスを取り出し、ジュディのパソコンと繋げ、カードを二枚、スキャンした。

「ヘイ、コーテス! ネットワークシステムのセンターに入ったネ! で、ここにエンターして、どうするネ?」

「お次は、ここ一か月程度のプリントアウト状況を……見ます。ネットワークシステムの中には……もし、この学院でプリントアウトしたのであれば……必ず記録が残っています……」

「デモ、コーテス! この膨大な量から、ファイル名、どうやってファインド(探し出す)するネ?」

「キーワード検索を使います。ジュディさん、検索のボックスに『親愛なる愚鈍な風紀』って入れてみて……ください。これで全ファイルの全文に検索が……かかります。きっと、二つとして同じ文書は……ないはずです!」

「オーライ! やってみるワ!」

 ジュディが、カタカタ、と検索をすると、一件のファイルが浮かび上がった。

「あった、そう、これ!! ええと、この文書ファイルの作成者は……サイレンス・ドロンズ……防衛魔術学部の一年生……」

 さすがにこれには歓声がわいたようだ。
 まさか、挑戦状の犯人が特定できるなんて……。

「しっかし……なんと言うか……。こんな検索で引っかかるなんて、犯人、ホンマ、アホというか、杜撰(ずさん)なやっちゃな?」

 ビリーは半ば、あきれていた。

「まあ、おそらくプロの犯行ではないのでしょうね。こんなうっかりミスから名前が特定されるぐらいですし……」

 マニフィカも補足しながらあきれていた。

「そうか……。この挑戦状を作った人物の名前まで特定できたとなれば……スノウさんの犯行への関与は取り下げよう……」

 ヴィオレッタがあきらめていた頃、スノウは、ぽつり、と言葉を口にした。

「やはり、そういうことね……。サイレンス・ドロンズが関わっていたということは……」

「どうしたの? スノウさん? 知り合い?」

 ヴィオレッタは、怪しいのですぐに確かめた。

「あとで……説明するわ。それよりも、内部の怪しい人間に対する推理バトルは進めましょう……次は、誰かしら?」

 未来が、すっと、手を挙げた。

「次は……トーマスについて議論しない? ちょうど、本人もお待ちかねなようだし……」

 トーマスも即座に同意した。

「うん、頼むよ! 次のトピックはそれで!!」


<トピック2 トーマスは、TMなのか?>


 トーマス有力容疑者説に関しては、未来の方から推理することになった。
 先ほどの報告会のときでもそうであったが、一同の大半は、信じられない事実を耳にした。
 トーマスの部屋から押収されたという凶器のUFO……。
 そして、マニフィカ襲撃事件の際に、空き教室でトーマスがドニーから指示を受けていたこと。おそらくは、トーマスが魔術で洗脳されていた、ということ。
 未来は、推論を出す前に、繰り返し、この話から入った。

「ちょっと待った! さっきの報告会のときから、君、おかしなこと言うよね? その言い分だと、まるで僕がドニーに洗脳されてTMに加担させられていたみたいじゃないか!」

 トーマスは、このタイミングで感情をむき出しにして反論した。

 そこで、アンナがなだめる。

「トーマスは、自覚がなかったとはいえ、犯人の隠れ蓑にされていたという事実を認識すべきですわ……。そういう記憶がないのですから、仕方ないとも言えますが……」

 これには、マニフィカ、ジュディ、ビリーも一緒に頷いていた。

「じゃあ、聞くけれどさ、トーマス? あなた、空き教室を出たあと、エビフライ、エビフライ、って言っていたよね? エビフライは食べられたの?」

 トーマスは、未来からのこの質問には、はっとした。

「え? あれ? 変だな? ドニーとの空き教室での話が終わったあと……僕は、食堂へ向かったはず……。でも、エビフライは、食べていない!? そしてその代わり、変な手紙を持っていて……マニフィカさんと会って……あの襲撃事件があって……」

 焦っているトーマスに、未来が問いかけた。

「ね? ほら、記憶がおかしいでしょう? ドニーに操られていたからじゃない?」

 一方、マニフィカは証拠の「トーマスからの手紙」を取り出した。

「トーマスさん……。このお手紙、変なところがありますわ! 例えば……手紙で呼び出されて、裏山の分岐点でわたくしたちは、初めて、お会いしましたわね? なのに、なぜ、この手紙では、わたくしのことを『もっとも頼りになりそうで頭脳明晰なマニフィカさん』って、特徴を挙げることができたのかしら? それと、この日の風紀委員会の朝の調査会議にあなたは参加されていませんでしたわ! なのに、なぜ、『本日、リリアンさんの調査が終わってからでかまいませんので、お会いできないでしょうか』という文章を書けたのでしょうか? まるで盗撮か盗聴でもしていたみたいですわね?」

 トーマスは慌てて反論した。

「だから、マニフィカさん!! その手紙は、僕は書いていないんだ!! 信じてくれ!」

 マニフィカは、冷静になって、答え返す。

「誰もあなたが書いたとは申し上げておりませんわ。さて、質問です。この手紙は、誰が書いたのでしょうか? わたくしが頂いたお手紙、直筆ですわ! この筆跡から特定することはできないかしら?」

「え? ちょっと待って! 僕、筆跡鑑定なんてできないよ! まあ、いいや、そっちの手紙も見せて……。あ、この手紙、僕のもマニフィカさんのも同じような筆跡だね……。って、あ、この筆跡!! ドニーだ!! ミミズが這っているような汚い筆跡、ドニーに違いない!!」

 トーマスのこの叫びこそが、まさに彼がドニーから操られていたことを確認する展開になった。

 未来は推理を続ける。

「そう、トーマスはずっとドニーに操られていたんだよ。記憶も意識もないまま。思い出してみよう。最初の傷害事件、コットン事件から始まって、リリアン事件、コーテス事件、マニフィカ襲撃未遂事件、どれもトーマスが関与していたよね? しかも毎回、トーマスは無傷で現場から生還している。そう、それもそのはず。なぜなら、犯人たちからしてみれば、トーマスはTMの犯行を風紀内部から可能にする操り人形なわけだから、無傷で生還してもらわないと困るわけだから……!!」

「オーノー! 未来、ナイス推理……バット(しかし)、ポア(可哀そう)なトーマス!!」

 ジュディは肩を揺らしながら、驚愕(きょうがく)の表情を隠せなかった。

「ちょっと、本当に待ってよ! 未来さんの推理には、一か所、ミスがある!! そのドニーだけれど……どんな奴か知っていて、そう言うわけ? 悪いけれどね、ドニーに僕を操ったりするだけの力なんてないはずだよ!」

 未来は、間違ったなんて思っていない顔で、質問を続ける。

「そう、問題はそこだね。ドニーはどうやってトーマスを操ったか。彼のこと聞いていい? 彼って、もしかしてマープルゼミのトップの学生? できる方?」

 トーマスは、苦笑いしながら首を振った。

「まさか! ドニーは三下学生さ……。いつもゼミでバカなことやったり下品な発言をしたりして、みんなから相手にされていないんだよ! この前のゼミ発表でも、五マギン玉の振り子を使って暗示魔術の研究をやっているとか、今時、マギ・ジスの小学生が夏休みの研究でもやらないようなことやって、みんなに笑われて、マープル先生に説教されたんだ! おまけにこのまえの錬金術検定では堂々のビリ! あれがうちのトップなわけがない!!」

 そこでジュディが首を傾げて質問する。

「バット(でも)トーマス! なぜ、ユーがそんなドニーなんて相手にするネ? ユーとドニーはフレンズなの?」

 ふふふ、とトーマスは辛そうに笑った。

「いや、友達というよりは、ゼミの先輩後輩の関係だね。僕はね、ドニーみたいな奴を放っておけない性分なんだ……。もし、僕が彼を見放したりバカにでもしたりしたら……おそらく、彼はゼミ内や学部内でいじめられることになるだろう……。だからさ……だから、あの程度でも僕は仲良くしてやっていたんだよ!!」

 そこでスノウが割り入る。

「はい、一度、ストップね。その話が本当ならば、ドニーという人物にトーマスを操れるだけの力はないわ。だいたいね、暗示の魔術だけれど、もし、本当にトーマスを遠距離から長時間、犯行を手伝わせるほどの暗示をかけられるのであれば……ドニーは大魔導士レベルよ? 検定ビリでゼミでも振るわない三下学生にそこまでの力はないでしょう?」

 スノウの反論に未来がさらりと返す。

「そう、そのままのドニーであれば、ね……。でも、空き教室でわたしは見た。ドニーがトーマスのスキを突いて、白い拳銃で自分を撃った後、目を赤く光らせ、トーマスに暗示をかけて……そのまま、トーマスをマニフィカ襲撃事件のおびき寄せに使ったところを……」

 ふうむ、と巨大目玉がうなった。

「なるほど。まさに問題はその白い拳銃だろうな。ジェームスとかいう輩も同じ銃を持っていたようであるし。きっと奴らには、何か秘密があるのだろうな……」

 そこで、ヴィオレッタも挙手する。

「そうか……。『ドニー』って人は、たぶん、その銃で、ドーピングでもやったんだね? 普段のドニーさんであればトーマスさんを操りきるだけの魔力はない。でも、実力が増したドニーさんであれば、トーマスさんを操ることは、ひとまず可能であった……。それに気がつかないトーマスさんは、ずっとドニーさんに適時、操られつつ、犯行に関与させられていた、と?」

 未来は、間違いないね、と頷いた。
 それから、と彼女は凶器のUFOを取り上げた。

「ねえ、トーマス? これ、見覚えあるよね? さっきの報告のときも言ったけれど、これがトーマスの部屋の机の上に置かれていたんだけれど……」

 問答無用の物証が挙がった。
 だが、トーマスは、首を横に振る。

「そのUFOは……見覚えがないと言えば、ウソになる。たしか……リリアンさんが襲われた事件のとき、僕は何かの使命感に駆られて、実験室を封鎖した。封鎖したのは僕だけれど、なぜ僕がそこまで必死に封鎖したのかは覚えていない。その際に、その凶器のUFOは、見たよ、犯行現場で。でも、なんでそれが僕の部屋にあって机の上にあったのか、まではわからない……」

 ビリーが、助けに入った。

「たぶんな……これも操られていたときにUFO、持ち出して、部屋に置いたとちゃう? しかし、けったいな事件やな……。記憶や認識を操作した犯人に風紀の仲間が利用されてしもうたことって、非常に深刻な状況やで。誰もが容疑者に成り得るやん。極論すれば、人間関係の信頼性が崩壊しかねないで……」

 マニフィカもううむ、と悩む。

「ですわね。ビリーさんのおっしゃるとおりですわ。それと、バードマン先生の話でも、事件当時、実験室を封鎖したのも、そのUFOを持って行ったのもトーマスさんのようですわね。でもご本人には記憶がない、と。記憶がない以上、これ以上、そのUFOの件について尋ねても仕方がありませんわ……」

 アンナがそっと挙手した。

「そのUFOの件ですが……。わたくし、気になることがありますの。でも、一度、トーマスと離れて頂く必要もございますわ。次の怪しい人物の推理ですが……。サンダーを指定してもよろしいでしょうか? わたくしが思ったこと、推理したことを述べたいのですが……」

 進行役のスノウも、そろそろトピックの切り替わりの時期かと判断した。

「わかったわ。トーマスの処遇に関してはまたあとで議論するとして……次は、サンダーについて議論するわね?」

「ヘイ♪ 俺様かよ♪ イッツ、オーライ♪」

 おどけた調子のサンダーに、ぴりりとした表情のアンナ。
 推理バトルはいかに!?


<トピック3 サンダーは、TMなのか?>


 アンナは壇上に上がって、声を上げた。

「今回の事件は、そもそもどういう性質の事件だったでしょうか? よく思い出してください。狙われたのはコットン、リリアン、コーテス、マニフィカと、能力や才能に恵まれた者たちばかりです。そして、実行犯はドニーやジェームスなど能力がない者たちでした。で、あれば黒幕は誰でしょうか。そう……小道具に使われた白い拳銃、あれで一時的に能力を増大させて犯行に及んでいたとすれば……黒幕は、それを開発できるスキルのある者ですわ!」

 コーテスが腕を組みながらうなった。

「ううん……たしかに、そうだね。あの白い拳銃……何度も出てきたけれど……。あれを開発した人物が黒幕だろうね……。でも、あんなもの、誰が、どうやって、造れるんだろう!?」

 他のメンバーたちも頷いた。
 その人物を割り出すのが難しいのだが……。

 アンナは推理を続ける。

「そして犯行の目的は、才能ある者を求める組織への売り込み、つまりデモンストレーション、プレゼンですわ! と、なれば、条件に合う人物は……就職を間近に控え、魔導科学に精通する者、ずばりサンダーですわ! 善も悪もない、ただのマッドサイエンティストとしての才能を発揮できる場を求めていたのですわ! これは、はっきり言って、一般人から見ればはた迷惑以外のなにものでもない行為ですわ!」

 すると、サンダーが、すってんころりと椅子から落ちた。

「ヘイ、ちょっと待て! 俺様が呼ばれた理由はそれか!? 俺様、やってねえぞ! 絶対にやってねえ! それと就職は決まったぜ! 俺様、マギ・ジス・サーカスの開発部門からスカウトされたぜ! だから悪いことなんてしないぜ!」

 焦るサンダーをよそに、スノウは確かめる。

「アンナさん? 証拠はある? 状況的にサンダーは確かに怪しいけれど、物証がないのに犯人扱いはできないわ!」

「ありますわよ! 今、未来さんが取り出したその凶器のUFO! それがサンダーの造った物であると判明すれば、犯人は間違いなくサンダーですわ!」

 一同は、やや、がやがやと話し出した。
 そして、マニフィカが挙手する。

「おそらくこの事件……実行犯とは別に黒幕がいますわ。白い銃やUFOをこしらえた人物が特定できれば……確かに、真相には近づきますわね。サンダーさんかどうかは、ひとまず置いておいて……」

 ビリーも一緒に続ける。

「せやな。どうも、これらのブツ、魔導科学の産物らしいな? 犯行に使われた白い銃みたいな魔道具や小型UFOタイプの装置は、ホンマに誰の作品やろうか? 実行犯たちを逮捕できたら、その入手ルートから真犯人の正体が割れるかもしれないで!」

 未来は、証拠のUFOを眺めながら、ヴァイスを指さした。

「そうだ! せっかくヴァイスがいるんだし……。UFOを鑑定してもらわない? それから、白い拳銃について何か知っているかも教えて欲しいし!」

 だが、簡単に応じる革命老人ではなく……。

「ああん!? んだ、と? この俺に鑑定をしろと! がはは、魔術勢力なんかと馴れ合うつもりは、さらさらねえぜ!」

 コーテスがピーナッツの袋を取り出し、ヴァイスに差し出した。

「先生……。ほんのお気持ちです……。お納めください……」
「うむ? 気持ちだけとは言わず、ブツも受け取っておこう……。よし、嬢ちゃん、俺にそのUFO貸してみろ! 鑑定してやる!」

 身の代わりの早いヴァイスにあきれながら、未来はビニール手袋とUFOを老人へ渡した。

 かちゃ、かちゃ……。
 ヴァイスは白衣のポケットから工具を取り出し、UFOを解体しては、直した。

「うむ……。こいつは、すごい……」

 未来は、ごくり、とツバを飲んで、質問した。

「そのUFO、そんなにすごくヤバいものなの?」

 ヴァイスは、けろりと言う。

「こいつは……おもちゃだ。ガキが工作で作るプラモデルみてえなもんだな……」

 そこで、ヴィオレッタが怒鳴った。

「ねえ、キミ、真面目にやりなよ! このUFOで何人もの人間が負傷しているんだよ?」

 ああん? と、答えて、ヴァイスが真顔で反論する。

「このUFOの構造はおもちゃだ。だがな……。このICカードを見てくれ……」

 ヴァイスは、UFOの下の部分から、すっと、小さなカードを抜き取った。

「ICカードって? なんでしたっけ?」

 アンナが説明を求めると、ヴァイスがさらりと教える。

「いわゆる積分回路ってやつさ。おまえさんら、携帯電話って持っているよな? 携帯電話って、色んな奴の電話番号やメールアドレスなんかのデータを保存できるよな? その保存の役割をしているのがICカードだ。でだ、このUFOにもICカードがあってだな……。俺は、科学者なんで魔術なんかさっぱりわからんが、もし、このICカードに何か細工がしてあるのならば……このUFOで何人もの人間を負傷させることができる魔術でも仕込まれているのかもしれねえな……」

 その場にいる魔術使いの全員が青ざめた表情になる。
 もし、そのカードにHP/MP吸収の強力な魔術が施されていたら……。
 マニフィカが途端に叫んだ。

「そのとおりですわ! わたくし、実験室の犯行現場で、『錬金術と心霊科学』の魔術書を使って、精神体になって部屋の魔力の調査をしましたの! その際に、ものすごく臭くて腐っている魔力を膨大なほど、感じ取りましたわ! たぶん、そのICカードに仕込まれていた魔力の残滓だったのでしょう……」

 マニフィカの発言が終わると、アンナはサンダーに向き直った。

「さあ、サンダー! 観念なさい! このUFO、あなたが造ったものですわね?」
「オーノー!! そんなわけ、ねーぜ、絶対!! 第一、こんなUFO、初めて見たぞ!」

 またもや水掛け論が始まった。
 そこでコーテスが割って入る。

「アンナさんにサンダー先輩! では、このUFOの造り主が……サンダーさんか否か、を特定できれば問題は……解決しますね?」

 ああ、そういうことね、とヴィオレッタが閃いた。

「ならば……。ボクの『魔跡鑑定ルーペ』を使おう。まず、サンダーさんにこちらの手帳に文字を書いてもらう。好きな本からフレーズを何か書いて欲しい」

 探偵少女からメモ帳を渡されると、道化師は、『ピエロ学大全』から、「道化の心得の句」をさらさらとノートにしたためた。

「それと、ヴァイスさん。そのICカード、貸してくれるかな?」
「おう、ほらよ」

 ヴィオレッタはヴァイスからカードをそっと受け取った。

 魔術仕掛けの虫メガネをかざして、探偵は鑑定するが……。

「うん。結論から言うと、このUFOはサンダーさんが造ったものではないね。まず、属性だけれど、サンダーさんは無属性だが、このICカードの仕掛け人は闇と土属性。それと、魔力は、サンダーさんはBランク、ICカードの仕掛け人は特Aランク。つまり、別人と鑑定が出たわけだね!」

 アンナの推理は分が悪くなったが、一応、続けた。

「では、そのUFOはサンダーが造ったものではない、としましょう。ですが、白い拳銃の方がまだ残っていますわ! サンダーが白い拳銃を造った上に、その拳銃でご自分の魔力を増強させたのであれば、まだ説明はつきますわよ!」

「いや、そいつはねえな!」

 意外にも、ヴァイスが反論した。

「その白い拳銃だが……。さっきから聞いているところによると……とんでもねえもん持ち出したなってのが、俺の感想だ……」

 涙をごくり、と飲み、萬智禽が質問した。

「ヴァイス殿……。その拳銃、いったい何のだ!?」

「確認だが、その拳銃を使った奴、膨大なほど、魔力が上がった上で犯行に及んだらしいな? うむ、そうか……。ならば、答えは明白。その拳銃の正体は、『魔力召喚機』、科学兵器だ!」

 科学兵器……。この言葉が老科学者の口から出た途端、風紀委員室は凍った。
 科学勢力がこの事件に関わっていたということか……!?

「ねえ、ヴァイス? その兵器って、何がどうヤバいの? 科学兵器のことなんて、わたし、さっぱりわからない!」

 未来が説明を求めると、老科学者はピーナッツをぱりぽり食いながら解説した。

「かつて、科学と魔術が戦争をしていた時代があったよな? 戦争の果て、魔術勢力が勝利し、世界平和(まあ偽善だが)を願った聖アスラが創設したのがここの学院ってわけだ。まあ、前置きなんざどうでもいい。で、その戦争中に科学勢力が発明した数ある非人道兵器のひとつがこの『魔力召喚機』。この拳銃でてめえを撃てば、恐ろしいぐらいに魔力を引き出せる。魔力が微弱な科学者でも魔術が使える。それなりに魔力がある奴が使えば、街や要塞を吹き飛ばすことなんてわけなくできたわけだ。しかし、その引き換えとして、使用者の寿命を削ることになる。戦争後、『魔力召喚機』の後遺症で多大なる廃人や死人の犠牲を出してしまった。戦後の今では各国の法律や条約で、使用禁止・製造禁止になっている代物だぜ……。そんな恐ろしい兵器を、そこのサンダーだったか? 魔導科学の学生が工作みたいなノリで造れると思うか? あと、ちなみにそのUFOは魔導科学のブツだが、『魔力召喚機』は『魔導』が入らない列記とした科学兵器。お間違いなく」

 ヴァイスの解説をその場の全員が凍るような気持ちで聞いていたところ、コーテスが何を思い出したか、挙手した。

「話がちょっと大きくなったようですが……事件に戻しましょう。物証であるUFOがサンダーさんのものではなく……白い拳銃も学部生レベルで簡単に造れるものではない……こともわかりました。加えて、もう一点。サンダーさんが黒幕だと、色々と説明がつきませんね……。例えばね、コットン事件。風紀でもないサンダーさんは、どうやって犯行現場へ犯人を手引きしたのでしょうか? サンダーさんが……爆弾と火炎魔術を放ったと考えるのも……やや無理があります。リリアン事件は既に議論が出たので、次にコーテス事件。サンダーさんは、どうやって僕を、倒したのでしょう? また、風紀でもないサンダーさんは、どうやって共犯者を現場へ手引きしたのでしょうか? マニフィカ襲撃事件に関しても、ドニーさんとサンダーさんの接点は? さらに最大の疑問は、もし、今回の犯行が魔術のデモンストレーションであるならば……もっと狙いやすい人をターゲットにした方がよかったのでは、ないでしょうか? なぜ、わざわざ、各学部のトップレベルの学生(ごめん、自分で自分がトップって言っちゃったよ)を狙うリスクを……犯したのでしょうか? などなど……UFOや兵器云々の問題がなくても……色々と矛盾しますね……」

 そこまでで話が途切れると、アンナは引き下がることにした。

「わかりましたわ。失礼しました。では、この説は取り下げますわ……」

「ほっ、よかったぜ! 俺様、セーフ!」

 サンダーも胸を撫で下ろした。


<トピック4 テレサは、TMなのか?>


「さて、他に怪しい人は……?」

 スノウが一同に質問を求めると、巨大目玉があっぷあっぷしていた。

「私の推理を聞いてもらいたいのである! 上手くいけば、これでTMを特定できるかもしれないのだ!」

 萬智禽が自信ありげにそう言うので、スノウは、今度は彼に推理させてみることにした。
 目玉は、壇上で話し出す……。

「まず、今までの事件を整理したところ、TMは転移魔術などの空間系魔術が使えなければならない。……そして、奴の正体は、一般風紀委員(モブ)である。なぜなら……風紀の警備の裏をかくように犯罪を行い、風紀委員しかいない場所でも犯行ができたわけは……彼/彼女が捜査スケジュールを把握し、現場に立ち入っていてもおかしくない風紀委員だからである!
 TMは今までに目立った行動で私たちの視界には入って来なかった。容疑者リストに名前が載ることがない一般風紀委員であれば当然だ。ならば、その一般風紀の中から転移魔術が使える者をピックアップすればいいわけであるのだよ! 風紀委員であり、空間系魔術者である人物が、これまで名が挙がってなくてもTMの最有力容疑者だと思う次第である!」

 巨大目玉の推理に対応するかのように、根暗そうな紫髪のテレサが答えた。

「なるほど。それで私が連れて来られたわけですね?」

 テレサが確認すると、スノウとコーテスはそうだと頷いた。
 コーテスが補足した。

「うん。さっきの報告会前に……その話を……萬智禽さんから聞いて……。該当する人物は、テレサ・イーグルアイ、ひとりだけなんだよね、うちの風紀委員会……。それで、テレサに来てもらったけれど……どうだろう? テレサ、反論はある?」

 テレサは、こくりと頷いて、反論を始めた。

「まず申し上げておきますが、私はTMでもTMの仲間でもありません。一概に転移魔術と言いましても、ピンからキリまであります。少なくとも、私の力量では、今回みたいな事件を起こすのは無理です……」

「どのように無理だろうか? 答えて欲しい」

 巨大目玉の催促に、隠密は無表情で答えた。

「一番無理があるのは……マニフィカさん襲撃事件ですね。報告会の話によれば、その転移魔術師は、1km離れた仲間を自由に転移させて、獣人化したバードマン先生と互角に戦った上に、倒したそうですね? 自分の実力ではまず無理な話です。もし、そんなことをできる人物がいたとすれば、特AランクかSランク程度の魔術の達人に違いがありません。うちの学部は、時空魔術学部と言いますが……私が無理などころか、そんな芸当ができる学生は一人もいませんよ……」

 隠密の動揺しない答え方に対して、萬智禽は推理を続ける。

「ならば……。アリバイの面からはどうだろう? テレサ殿は今回の事件、ずっとどこかで何かの仕事はしていたはずであるのだな? ならば、白い拳銃を使って、一緒に見回りしていた同僚たちを操って、アリバイ作りをしたのであれば……各犯行は可能ではないだろうか?」

 ふう、とテレサはため息をついた。

「では、順番にご説明します。コットン事件ですが、この事件に自分は全く関与していません。そもそも爆弾なんて造れませんし、ファイアボールすら出せません。私の属性は闇。隠密行動の魔術と転移魔術しか使えません。リリアン事件にしても、さっき話題に出ていたUFOなんて造れません。そもそも専門が違います。魔導科学はさっぱりわかりません。コーテス事件に関しても、コーテスを瀕死にするほどの魔術なんて私には使えませんし、第一、凶器であったファイアボールすら撃てません。そもそもアリバイに関しても……」

 スノウが補足する。

「リリアン事件とコーテス事件に関してテレサにはアリバイがあるわ! リリアン事件に関しては、彼女は私の警備チームの一員として当時、行動していたわ。コーテス事件に関しては、私とペアを組んで見回りをしたわ。私と一緒に見回りをしている最中、テレサが怪しい身振りをしたならば、私(たち)はすぐに気がついたはずよ。もちろん、当時、テレサは普通に仕事をしていたわ。どこかで暗示でも使ってみんなを操った、隠れた、逃げたなんてことは一度もなかったわ」

 スノウの解説が終わると、今度はコーテスが挙手した。

「ええと……。ちょっと待った! 一点、確認。白い拳銃のことですが……。萬智禽さん、使用方法の意味を……誤っていないかな?」

「え? 何をなのだ? 白い拳銃というのは、人に暗示をかけたり、洗脳して操ったりする兵器だろう? それがどうした?」

 ヴィオレッタがきょとんとして、そこに入って質問する。

「あれ? さっきのヴァイスさんの話だと、白い拳銃、つまり『魔力召喚機』は……魔力を膨大に押し上げるブースターってことじゃなかった?」

 ビリーも首を傾げた。

「せやな。先ほどの報告会で、目玉のあんさん、ジェームスについて報告してたやろ? ジェームスも例の拳銃つこうたみたいやけれど、別にあいつ、誰かを暗示にかけたり洗脳したりとか、せーへんかったな?」

 未来も確信した上で補足する。

「そうだね。飽くまであの銃は魔力のブースターであって、術者のスキルに変更はないんじゃない? 暗示とかって、ドニーの専門だよね? ドニーがあの銃を使ったから、トーマスを操れたわけであって……。もし、テレサがその銃を持っていたとしても、当時、誰かを操ることなんてできなくない? できることは、せめて転移をブーストするとかじゃない? あ、でも、別にバードマン先生を倒したとは言ってないからね! そもそも先生を倒したファイアボールとか出せないみたいだし、火炎魔術師の共犯者の見当もつかないし……。」

 そこでスノウがまとめを試みた。

「萬智禽さんの推理で一番無理があるのは……テレサが白い拳銃を所有している、という話ね。さっきのヴァイスの話でもあったけれど、一学部生が造ったり入手できたりする代物ではないわね、あの銃? 戦争時代の非人道兵器で今では使用も製造も禁止なわけでしょう? 仮に所有していたところで、アリバイ作りの暗示や洗脳はできないわけだし……。そして何よりも、犯行の動機がないわね。どうしてテレサが、風紀仲間であるトーマスを操って風紀内部をかき乱したり、コーテスを襲って重症にしたりしないといけないのかしら? コットン、リリアン、マニフィカさんに関しても、テレサがどうしても負傷させなければならない理由が見つからないわ……。そうでしょう、テレサ?」

 テレサは、こくりと頷いた。

「全くもって、スノウ委員長の言うとおりです。私は犯人ではありません」

 ぬうう、と萬智禽は巨大目玉をひんむいた。

「ふむ。仕方ない。取り下げるか……。すまなかった……」


<トピック5 コットン事件の爆弾は誰が造ったのか?>


 ここまでの事件推理の展開で、ひとまず怪しい人物の検討は終わった。
 だが、革命老人は、待ちきれない子どものように、机をがんがん叩いて暴れ出した!

「おい、てめえら! さっきから大人しく話を聞いていてやったら、UFOの鑑定やれとか、科学兵器の解説しろとか、そればっかりじゃねえか! 俺はよお、すげえ忙しいんだぞ! 革命集会している最中だったんだよ! なあ、コーテス、もう帰ってもいいか?」

 コーテスは、マギ・ジス・チーズの袋を取り出してヴァイスに差し出した。
「先生……。つまらない物ですが……」

 ビリーも副委員長を見習って、「小槌」からさきイカの袋を取り出して、老人に手渡した。
「先生……。たのんまっせ!!」

「う、うむ。つまらない物ではあるが……コーテスやビリーの気持ちを無碍(むげ)にしてはいかんな! よし、坊主ども、おじさんに何して欲しい? 俺がキレないうちに手短に用件を頼む!」

 相変わらず身代わりの早いだめ老人を見て、未来、アンナ、ヴィオレッタ……(以下、ヴァイス以外の全員)はため息をついていた。
 コーテスが、咳払いして、仕切りなおした。

「えっへん! 実は、ここにヴァイスさんを……連れてきたことには……わけがあります! 今回の事件ですが……実は、全て魔術による犯行に見えますが、一回だけ、TMは科学的手段を用いて……犯行に及んだことがあることは……覚えていますか?」

「イエス! ホワイト・ガン、ネ! あのウェポンがまさにサイエンス、ネ!」

 ジュディがわかった生徒のように、声を上げた。

「いいえ、白い拳銃のことでは……ありません。召喚機は……魔力のブースターですよ? 魔術を全く使わず……純粋な科学的手段のみで……犯行に及んだことが一回だけ……ありました。もう答えを言いましょう。そうです、コットン事件の……最初の爆弾です!」

 その場にいる全員が、ああ、そういえば! と思い出した。

「デモ、コーテス? サイエンスの犯行が一回あることが、どう事件と関係するデース?」

 ジュディの素朴な疑問に副委員長はにやりと答えた。

「いやね、そのコットンさんを被爆した爆弾の破片が……犯行現場に残っていて……さっき風紀資料室から証拠品として……借りてきたんですがね……。これをヴァイスさんに鑑定してもらえば……もしかして爆弾の製造者を……特定できるかと! 実は、この爆弾の犯人、ヴァイスさんと共通点が……二つあるんです! 科学の使い手であること。そしてテロリストであること。この二点が共通しているので……もしかして……ヴァイスさんの知り合いかなーって……」

 ヴァイスが、がはは、とバカ笑いをした。
 そしてコーテスの胸ぐらをつかんだ。

「やい、コーテス! 聞き捨てならねえな。まるでその言い方だとよ、科学的革命残党分子の中に犯人がいるみたいじゃねえかよ? ああん? てめえ、それとも俺が真犯人だとでも言いてえのか、この野郎!」

「ヘイ、ヴァイス! ヴァイオレンスはストップ、ネ!」
「ヴァイスさん……それ以上、コーテスさんに手を出したらこの場でこてんぱんに倒しますわよ!」

 巨体のアメリカン・レディと人魚姫に威圧され、ヴァイスはコーテスの胸元を離した。

「わりいな。ついカッとなって手が出たぜ! で、いいぜ? その爆弾、鑑定すればいいんだな? 貸してみろ、俺も俺の仲間もやってねえことを証明してやる!」

 ヴァイスは、コーテスから爆弾の破片を受け取ると、白衣から鑑定メガネを出して、調べ出した。

「…………うむ。こいつの正体がわかった……。こいつは、『サード・ボム』という爆弾だ……」

 サード・ボム……。
 ヴァイスの口から、また新しい科学用語? が出てくるが……。

「すまない、ヴァイスさん。何分、ボクはこの世界の爆弾事情には明るくないのでね……。その爆弾もかつての戦争の兵器とかでヤバい代物なのだろうか?」

 ヴィオレッタが恐る恐る質問すると、ヴァイスは首を横に振った。

「いや、さっきの白い拳銃とは真逆のパターンだ。これは三流の爆弾だ。そのコットン、だったかっていう嬢ちゃんが被爆したそうだが……。大したことなかったんじゃねえか? まあ、ジョークグッズとまでは言わねえがよ……この爆弾がまともに破裂しても、できることは、ちょっとした火傷とか打ち身を負わせる程度じゃねえか……。犯人側が本気で殺すつもりじゃなかったことは、少なくともわかるが……」

 それを聞いてビリーが反論する。

「おいおいおい、おっちゃん! コットンさん、負傷してたで! 病院で入院しているんや! ボク、見舞い行ったもんな!」

 いや、待って、と魔術に聡いマニフィカが反論する。

「コットンさん、爆弾の他にも、火炎魔術のダメージも追加されたはずでしたわ! 爆弾の威力が足りなくても、魔術の威力の方が高ければ、十分に病院送りになりますわよ!」

「同意だな。マニフィカ殿は正しい」

 同じく魔術に詳しい萬智禽もそう判断を下した。

 一方、アンナと未来は、がっくりしていた。

「そんな……!! どこにでもあるような三流の爆弾じゃあ……」
 アンナが嘆き。
「犯人の特定なんてできないじゃん!」
 未来が嘆いた。

「いや、犯人の特定ならできるぜ! この爆弾の製造者は、ドライセン・サードと見て間違いないだろう。名前の『サード・ボム』もサードが造る三流爆弾ゆえにそう呼ばれている」

 テロリストの名前が挙がり、ヴィオレッタの眼光がきらめいた。

「なるほどね……。そのサードとか言うテロリストが爆弾の造り主であり、凶器のUFOや『魔力召喚機』の造り主でもあった、と?」

 コーテスも念を押して確認する。

「ヴァイスさん……。そのサードという人物は……友人や知人とかかな?」

 革命老人は、イカをかじりながら、答える。

「まず断っておくが、サードは科学的革命残党分子の一員でもなければ、俺の友人でもない。知人。まあ、そうだ。俺がマギ・ジス大学の理論科学部にいた頃の同期だ。三流の科学生であって、名前もサード(3番目)ってことで、よくバカにされていたし、現にバカでむかつく奴だった。卒業後、奴は院志望だったが人間性や能力に問題があり進学を断念。その後は、ディプロマ・ミル(偽の学位商法)で博士の学位を買って、以後、サード博士と名乗るマッドサイエンティスト、テロリストに成り下がり、裏社会で暗躍している人物さ……」

 それとな、と老人は回答を追加する。

「『魔力召喚機』は相当の代物だ。俺でも造れねえ。おそらく、サードがどっかから密輸して来たかかっぱらって来たものを勝手に複製したんだろう。UFOに関しては……違う奴が造り手だと思う。さっきも言ったが、ICカードに強力な魔力を吹き込まないといけねえが、サードは、魔術は使えねえ。ま、奴の手の内にいる魔導科学者の誰かと見て間違いはないだろうが……」

 スノウがこのトピックの最後に、ヴァイスへ確認を取った。

「そのサード博士っていう人物がこの事件の黒幕と見て間違いないかしら? それともサードのバックにさらなる黒幕がいることは考えられるかしら?」

「うむ、サードが黒幕で、TMとかいうガキどもを操っていると見ていいだろう。サードははぐれマッドサイエンティストだ。誰ともつるまねえし、第一、奴のバックを取りたい奴なんかいねえだろう。で、酒瓶もう一本と引き換えに奴の居場所をあぶり出すこともできるぜ? どうする?」

 スノウはニヤリと笑って答えた。

「情報ありがとうヴァイス。とりあえず、この議論の最後まではそのまま参加していてもらえるかしら? 酒瓶一本とは言わず、マギ・ジス・ビール1ダース、追加で付けるわ!」

「ひゃっほい、そうこなくっちゃよお! 今夜は集会後、同志たちと飲み会だぜ!」


<トピック6 コーテスを襲ったのは誰だったのか?>


 黒幕の存在が浮上した議論の直後、ヴィオレッタが真剣な表情で手を挙げた。

「科学関連で、もう一点、追加の議論があるけれど、いいかな? 具体的には、コーテスさんを襲ったトリックについての議論を深めることで、事件の真相にもう一歩、近づけると思うのだけれど……」

 ヴィオレッタの提案に反対する者はいない。
 コーテス本人がこの問いかけに答えた。

「そうですね! 僕を襲ったのは……誰だったのか。その件について、ちょうど……僕の方からも……議論を提案したいと、思っていたんですよね……」

 ヴィオレッタは推理を展開する。

「コーテス事件で、彼を襲ったファイアボールが出てきたよね? でも、当時、コーテスさんは敵の姿を視認できなかったし、気配すらなかった、という。これ、なぜかわかるかな?」

「なんでやろ?」

 ビリーがはてな? な顔をして答えた。

「ボクが考えるには……襲撃者の気配がなかったのは術者がその場にいなかったからじゃないかな? あの火の玉は、別の場所にいるブラストさんの魔術をTMが転移魔術と科学技術の合わせ技で撃ち込んだのでは? それこそ、科学と魔術を組み合わせた魔導科学のトリックがここでも使われていたと思うんだけれど……」

 新しい科学的トリックの存在が提案され、スノウはあごに手を当てて考え込んだ。

「その件については……。まず、専門であるサンダーとヴァイスの意見を聞かせてもらえないかしら? 魔導科学あるいは科学を使って、そういうことってできるのかしら?」

 サンダーが頭を抱えていた。

「ううむ……。わからん! 魔導科学でそんなことできたかな? 仮にできたとしても、学部レベルの知識はとっくに超えたすげえトリックだと思うぜ? 念のため、言っておく。俺様はそれ、できない!」

 ヴァイスも髭をいじりながら、ニタニタしていた。

「は! 魔導科学なんざバカくせえ! 要はコーテスをぶっ殺せばいいんだろう? だったらよ、魔術なんかに頼らねえでよ、科学一本で十分だ! ロケットランチャーの一発でもぶち込めば、コーテスなんざバラバラ死体にできるだろう?」

 そこでマニフィカが手助けのため、手を挙げる。

「ええと……。ファイアボールって、黒魔術ですわね? 黒魔術はこの中であれば、スノウさんがご専門でしょう? スノウさんの方こそ、何か思い当たることはございませんの?」

 スノウが推理を述べる番になった。

「そうね。私も『ファイアボール』がまず引っかかるわね。仮に本当にブラストが協力してファイアボールを放った、としましょう。はたして、その『ファイアボール』の一撃で、コーテスを重症判定にすることはできるかしら? いや、つまりね……仮に、攻撃魔術検定一位のブラストの黒魔術の実力=補助魔術検定一位のコーテスの魔術バリアの実力、だとしましょう。簡単に言えば、二人の魔術の実力が互角だとしましょう。その場合、ブラストは、火炎系魔術の中でも最低位の『ファイアボール』のみで、コーテスを重症にできるかしら? 私はできないと思うわ。最低限、その上位の『フレアキャノン』(参考:『東方異文化交流録』第2回)でも撃ち込まないと、コーテスには傷ひとつ付けられないと思うのよ……」

 ウーム、とジュディがうなった。

「でもコーテスを仕留めたのは、たしかに、『ファイアボール』でしたネ? ナラバ、そのアタックした術者は、ブラスト以上の魔術の使い手ということになりマース! オーノー、そんな人物、この学院の黒魔術師にいますカ?」

 そこで、未来が閃いた。

「あの銃だよ! 『魔力召喚機』を使った場合、ブラストでなくても、『ファイアボール』一発で十分じゃない? まあ、ブラストが使った場合は、勢い余って、コーテスを殺しちゃったかもしれないけれど……」

「同感ですわね」

 アンナも頷く。

 コーテスが話をつなぐ。

「まあ、ブラストがTMに協力するとは……思えないので、今は置いておくとして。それと、彼からファイアボールの採取も……やり方がわかりません。でも、なぜ、毎回、『ファイアボール』だったのか? 気になるところですね……。マニフィカさんによれば……TMがバードマン先生と戦闘したときも……必ず『ファイアボール』だったんでしたっけ?」

「ですわね。バードマ先生も、『なめられたものだ』と仰っていましたわ」

 マニフィカがそう答えると、副委員長はある仮説を立てる。

「僕を襲った人物とバードマン先生を襲った人物のうち一人って……同じ人でしょうね? どちらも同じ特徴が……あります。犯人は、毎回、『ファイアボール』を撃っていた。そして、『気配殺し』の闇魔術の使い手であった。なんか、特定できそう……」

 ヴィオレッタが質問で会話をつなぐ。

「『ファイアボール』っていうのが、ひとつのキーになりそうだ。犯人は、『ファイアボール』に何かメッセージを伝えようとしていたのだろうか? それと『気配殺し』の闇魔術……。それ、どんな奴? コーテスさん、もしできるなら、ちょっとやってみてくれる?」

 コーテスが閃いて答える。

「そうか! 犯人は……ファイアボールしか『撃たない』のではない。ファイアボールしか『撃てない』んだ! それ以上の魔術が……使えなくて! 未来さんもさっき言っていたようにブースターを使ったものの、スキルそのものは上位に変更できない……。だから、毎回、魔力を増殖させたファイアボールしか撃てなかった。一方、『気配殺し』の方も、ブースター使って隠れていたのかな? だから姿も気配も全くない……。と考えれば、合点だね……。あ、『気配殺し』の魔術だっけ? うん、今、やるよ、それ!!」

 コーテスが消えた!
 次の瞬間、コーテスが風紀委員室の窓の外から手を振っていた。
 そして、窓から入って来る。

「どう? 僕が見えた人、いる?」

 すると、ヴィオレッタ、ジュディ、マニフィカが手を挙げ、萬智禽も目玉を挙げた。

「かすかだけれど……コーテスさんが見えたかな……。気配を殺すのは探偵業でも基本なので、それで少しだけ……」

「ジュディは野生の感と肉眼でソレトナク追ったデース! 気配をキャプチャーするのは、バトルの基本デース!」

「わたくしは、魔力の流れを追いましたわ! 目視では追いつけないものの、魔力の流れを追えば、コーテスさんが窓の外に出るのが見えましたの」

「同じく! 私も魔力を追ったのだ!」

 どうやら、気配察知が得意なユニットと魔力が強いユニットには、今ぐらいの『気配殺し』であれば感知できたようだ。

「じゅあ、次の質問。もし、僕が、ブースターを……使ったとします。今の十倍か百倍の実力で『気配殺し』をしたと……しましょう。そうなった場合……僕の姿を捉えきれる自信がある人って、この中にいるでしょうか?」

 もちろん、手を挙げる者はひとりもいない。
 コーテスは続ける。

「つまり、僕のときにしても、バードマン先生のときにしても、犯人が『気配殺し』をブースター付きで使っていたとしたら……姿が見えなくても、気配が全く感じ取れなくても……無理はなかったわけです……。さっきのヴィオレッタさんの推理に戻るけれど、遠距離からファイアボールを撃ち込まなくても、近距離であっても、気配が全く察知できなければ……その場に姿が見えなくても……仕方がなかったわけですね……」

 ジュディもコーテスに続く。

「一点だけ補足デース! ジュディのイラスト、ウォッチ(見て)、デース! このイラストは、先ほど、コーテスにインタビューして、コーテス事件のときの各配置についての図デース! コーテスがココ、トーマスがココ、TMがココ、デース! このイラストによれば、どこかから遠距離でファイアボールを撃つことは難易度高過ぎデース! そもそも裏庭なので森だらけデース! 一直線にシュートされたファイアボールを遠隔から操作、無理っぽいデース!」

 ヴィオレッタがここまでのまとめに入る。

「まず、サンダーさんとヴァイスさんの専門家判断では、ボクが提案したような魔導科学の技術は、わからないし、できるかどうかも不明と。ブラストさんがどうしてTMに協力したのか、あるいはどうやってファイアボールを採取されたのかもわからない以上、証拠がないので何とも言えない。でも確かなのは、ブラストさんの素の魔力のファイアボールではコーテスさんのバリアは破れない。むしろ怪しいのは、バードマン先生を倒した犯人とコーテス襲撃犯が同一人物でありそうな点。その人物は、ファイアボールと気配殺しの使い手(おそらくそれしか術がない)であることからして、この特徴はブラストさんのものではないし、ブラストさんはひとまず置いておくと。……いいだろう。無理にブラストさんを持ち出すこともないだろうし……。でももう一点、言いたいことがあるんだよ……」

 「なんや、それ?」

 ビリーが質問を促した。

「初期のちゃちな事件さ。どうもあの事件、後々の傷害事件につながる何かの事前の実験に見えるんだよ……」

「何をどう実験していたのかな?」

 久しぶりにトーマスが質問をする。

「初期のちゃちな悪戯は……後の事件に用いる際の魔力エネルギーを調整する実験じゃないかな? 『魔力召喚機』なんて、普通に暮らしている分ではお世話にならない代物だし、第一、使い勝手がわからない。本番に入る前に、実験が必要だったんだろうね。白い拳銃を渡された学生たちは、知らず知らずのうちにTMの犯行に加担させられているのでは?」

 ふうむ、と巨大目玉がうなった。

「なるほど、私が調べたあのちゃちな事件は、予行演習だったわけか。ありうるだろうな。しかし、学生たちが知らずのうちにTMに加担させられていたという点は納得ができない。なぜなら、私が調べたときに出てきたあのジェームスとやら……とても悪意があったのだ! 彼が知らずのうちに使われているとは、考え難いのだが?」

 未来も相槌を打つ。

「同感。ドニーにしてもすごい悪意があったよね? トーマスを操って、風紀をめちゃくちゃにしてさ? とても無意識の知らずのうちにドニーが加担させられていたようには……見えないね!」

 そこでスノウがまとめに入る。

「うん。ヴィオレッタさんの今の説は部分的には正しいと思うわ。初期のいたずらの意図は今回の事件の予行演習だと考えるのが一番、しっくり来るわね。でも、たしかに、萬智禽さんや未来さんも言うように、知らずのうちに加担させられていた……というよりは、悪意のある参加に思えるわ」

 コーテスもまとめに入り、考え込む。

「さて、僕を襲った人物の話に戻るけれど……。ファイアボールと気配殺ししか使えないけれど、『魔力召喚機』で実力を底上げしていた人物……。あれ? この特徴、どっかで出てきたよね? ううん、思い出せない、どこだったかな?」

 探偵少女の眼光が光った。

「あの魔跡鑑定だ! ボクが鑑定したTMの紙切れと挑戦状! あれらの魔力を調べたとき……。火と闇の属性で、Fランク……。『火』は『ファイアボール』。『闇』は『気配殺し』。『Fランク』は『魔力召喚機』を使う前だったから……。と考えれば?」

 コーテスもきらりと閃く。

「そう、それ! あ、ここでもまた……つながるかも! その挑戦状を書いた人物って、たしか……」

 スノウも閃く。

「さっきのコーテスとジュディさんのネットワークシステムでの追跡により、サイレンス・ドロンズ、防衛魔術学部の一年生、という結果が出たわね? つまり、彼がコーテスを襲った犯人ね?」

 待てよ、とヴィオレッタが続く。

「サイレンスが犯人の一人なのは間違いないだろう。でも、一点、解せない。彼は転移魔術が使えるのか? いや、使えないはずだ?」

 そこは未来が補う。

「バードマン先生も言っていたけれど……。対戦した相手は二人だったって。ひとりが気配殺しのファイアボール。もうひとりが、そのサイレンスを1km先で操作していた転移魔術の使い手。さっきテレサも言っていたけれど、時空魔術学部にはそこまでできる人物はいない。ならば、その人物も『魔力召喚機』でブーストして、チートしていた人物だね? サイレンスの周辺を調べれば、たどり着けるんじゃない?」

 スノウが頷く。そして、提案する。

「そうね。では、そろそろこの辺で、TMとは何だったのか? 誰だったのか? という事件の中核に関わる議論の推理に入りましょうか?」


<トピック7 結局、TMとは何だった(誰だった)のか?>


 マニフィカが開口一番、提案をする。

「今回の事件、ちゃちな事件の頃から最新の事件まで全て、TMが犯行声明を出していますわ。コーテスさんのときはTMの紙切れの代わりに予告の挑戦状、わたくしのときは、ドニーが作った偽のトーマスさんの手紙でしたが……。いずれにしても、犯人は自らをTMと名乗っていましたわ。この事件の真相の最深部を解明するには、『TM』とはいったいどういう意味なのか、まずその言葉を崩してからではないといけませんわね!」

 ビリーがマニフィカに答える。

「そやな。で、マニフィカさん、策はあるんかい? TMって言っても、色々と解せるやろな?」

 マニフィカは壇上に上がり、白板に板書した。

「わたくし、犯行メッセージの『TM』は、色んな意味を有しているものと推理致しますわ。例えば、容疑者トーマス・マックナイト(Thomas Macknight)さんのイニシャルであったこと。TMが『第三の魔術師』(Third Magician)の略でもあること。また当事者以外を意味する『第三の男』(Third Man)とも考えらますし。犯行に使われた『三つの魔術』(Three Magics)にも相当しますわね。あるいは、他者を操り、その背後に真犯人が隠れている悪質な手口から、真の『悪意』(True Malice)や『罠の操り人形』(Trapped Marionette)かもしれませんわ。いずれにせよ挑発以外にもミスリードで捜査を混乱させる意図まで含まれるはずですわね!」

 コーテスがあごに手を当てた。

「ふうむ。マニフィカさん、色んな説を……ありがとうございます。では、順番に検討して行きましょうか……。まず、トーマスのイニシャルというのは……。これは偶然でしょうか?」

 未来が何かに閃き手を挙げた。

「半分偶然、程度だと思う。まず、TMたち、特に暗示で人を操れるドニーは、風紀の協力者が必要だったわけだよね。たぶん、彼は、風紀の中でそれなりに影響力があって、しかも接触しやすくて、操り易そうな人物を探していたはず。そこでドニーは閃いた。マープルゼミの先輩にトーマスがいる、彼は利用しやすそうだ、ちょうど風紀で信頼あるみたいだし、よし彼にしよう! ……っていう感じじゃない? そうしたら自分たちを示す記号のTMとトーマス・マックナイトのTMが偶然同じだったので、トーマスを笠にして、トーマスを犯人っぽく仕立て上げていたんじゃないかな?」

 アンナも続いて手を挙げた。

「全くもって同意致しますわ。トーマスはスケープゴートとして使い捨てられたのでしょうね。わたくしも途中まで、トーマスがTMだと思っていましたもの。そしてこの件が悪質なのは、騒ぎが大きくなればなるほど犯人が得をするという点ですわね。だって、いざ、大事件になったら、怪しいトーマスを切り捨てて、自分たちは逃げてしまえばいいのですから!」

 くうー、とトーマスは辛そうにうなっていた。

「まあ、半分偶然という説が……妥当ですかね。では次。『第三の魔術師』はどうでしょう?」

 コーテスがまとめた上で、問いを投げかけると、今度は萬智禽が目玉を挙げた。

「『第三の魔術師』及び『第三の男』を指しているという説に私も同意だ。つまり、ドニー殿でもジェームス殿でもない、彼らに白い銃を渡した『三番目の魔術師』が黒幕だろうな。三番目の魔術師は、魔術師でありながら魔術の才能がとぼしい人物のはずだ。
 動機ももちろんある。彼は生来の魔術の才能によって将来がほぼ決まってしまう、学院のシステムを憎んでいるのだろう。だから努力して今の地位にいるスノウ殿や生来の魔術師でないジュディ殿は襲われず、生まれからして魔術に長けたマニフィカ殿は襲撃されたのだ。
 また、犯行がちゃちな事件から傷害事件、襲撃未遂事件へとエスカレートして行ったのも、さっきの推理のとおり、予行演習もあっただろう。だが、他にも、『三番目の魔術師』が段々と主犯へと移り変わり、テロ行為を完成させて行った……とも言えないだろうか?
 そもそも、ドニー殿とジェームス殿に協力し、自らが隠れた『三番目』である事を示唆するトレードマークのTMを色んな現場へ残していたのは、自分が黒幕という自覚があるからだ。白い銃を渡したのは彼だろう。そして彼自身もそれでドーピングして犯行に及んでいたのだよ!」

 ビリーが同意した。

「そうやな! 犯行メッセージや手段が段々とエスカートしとったのは、主犯が移り変わったせいやろな! いずれにして、主犯の黒幕は、最初のちゃちな事件から最後の襲撃未遂事件まで、一貫して、継続性を示すため、TMとアピールし続けていたわけやろな」

 だが、そこでマニフィカが反論する。

「ええ。とても参考になる説ですが、矛盾点もないでしょうか? 先ほどのヴァイスさんの『魔力召喚機』やサード博士の説明を覚えていますか? 萬智禽さんが言うその黒幕は、サード博士が当てはまるでしょう。でもヴァイスさんのさっきの説明によりますと、サード博士は科学者であり、魔術は一切使えないそうですね? で、あるとしたら、サード博士をその『第三の人物』と解釈するのは無理がないでしょうか?」

 その議論にジュディも加わる。

「オウ、ちょっとストップ! 犯人は三人だけだったでしょうカ? ドニー、ジェームス、ドクター・サードは確かに犯人グループ、ネ。デモ、他にも、さっきジュディたちがサーチしましたサイレンスという魔術師もいたネ。あとあと、そのサイレンスと一緒にバードマン先生を撃破した転移魔術師や、UFO造った魔導科学者もいたネ! さて、このケース、ビッグアイの説だと、誰を『第三の人物』と定義シマスカ?」

 萬智禽は詰まる。

「むむむ……。TMを第三者と解する説は違っていたのであろうか!?」

 今度は、入れ替わりでヴィオレッタ説を唱える。

「いや、今の萬智禽さんの説、TMがThird Magicianを指す、という点は合っていると思うよ。ただ、ボクならばこう推理するね。今回の事件、犯行には魔術だけでなく『第二の魔術』とも解釈できる科学技術も用いていたよね? 特にあのUFO。もしかしたら、魔術と科学の融合によってこれまでにない魔術の使い方を編み出したことからそれを『第三の魔術』と位置づけ、その術の使い手が『Third Magician』と名乗っているのでは? さて、この図を見て欲しいのだけれど……」

 そして、ヴィオレッタは図書館から借りてきた先ほどの本を開いた。
 その本は『図解 マギ・ジスタン世界の魔術と科学』という入門書であり、著者は本学の理論魔術学部教授であるジョン・ハムストンである。
 ハムストン先生の本では、魔術という大きな図の中に科学という小さな円が含まれていた。ヴィオレッタは、この大きな円の魔術が『第一の魔術』、小さな円の中の魔術が『第二の魔術』になる、と主張。そして、別のページをめくり、魔術と科学の円の重なりの真ん中にある魔導科学を『第三の魔術』と指摘した。

 彼女はさらなる推理を続ける。

「またThirdにはもう一つ意味があると思う。マギ・ジスタンの古代からある魔術を『一番目』、途中から発生した科学技術を『二番目』の魔術とした場合……。『三番目』の魔導科学を扱う新しい思想集団を『三番目』の魔術と解釈し、TM(3番目の魔術師)と名乗っているのではなかろうか。つまりThirdは、新技術により『この世界の生命体を超えた存在や、それに近づきつつある者』という新人類を指す。考えて見て欲しい、なんで犯人は『魔力召喚機』なんていう戦争時代の非人道兵器まで持ち出したのだろう? 彼らは新しい第三の道へと進化するつもりではなかろうか? その前哨戦(ぜんしょうせん)が、今回の学院でのこの事件だったのではないだろうか?」

 珍しくもヴァイスが挙手した。

「いや、わりいが、その説は無理があるな。おまえさん、出身世界はここじゃねえな? マギ・ジスタン世界のネイティブであれば、今の説が正しくないことにはすぐ気づく。だろう、コーテスにスノウ?」

 コーテスとスノウがうんうん、と頷く。
 そしてコーテスが提案した。

「ヴァイスさん……。よかったら、壇上で、図式で解説してもらえますか?」
「ああん!?」
「先生、これでどうか!」(コーテスがカシューナッツの袋を差し出す)
「先生、教えて欲しいねん!」(ビリーがピスタチオの袋を差し出す)
「うむ。よかろう」(さりげなく受け取るヴァイス)

「しゃーねえな……。まあ、いい。科学と魔術について誤解もあるようなので、マギ・ジス大学で元科学講師をしていたこの俺が解説してやろう……。
 まず、科学と魔術の関係。さっき探偵の嬢ちゃんが説明したハムストンの図解本の説のまんまだが、こうなる」

 ヴァイスは白板に図式を板書した。





「魔術という大きな円の中に科学という小さな円がある。これは、科学は魔術の中に含まれる一部である、ということ。現在はこれが通説。というのも、アスラが戦争に勝って、俺らが負けたから。勝てば官軍負ければ賊軍ってやつ」

 さらに老人は板書を続ける。





「で、今書いたこの円。科学という大きな円の中に魔術という小さな円がある。これは、魔術は科学の中に含まれる一部である、ということ。現在の少数説。科学の牙城マギ・ジス大学や俺たち科学的革命残党分子が取る説。つまりよ、通説と正反対のことを言っているわけだ。力関係は本来、科学の方が上という話。蛇足だが、『魔力召喚機』というブツもこの理論が前提で開発されている。科学兵器から科学の中にある魔力を引き出すという原理だな」

 そこでビリーが手を挙げた。

「つーことは、通説だと、魔術が第一の魔術、科学が第二の魔術ってことなんやな? さっきヴィオレッタさんが言ったように?」

 いいや、とヴァイスは首を横に振り、新しい図を描く。





「この説の中心に線があるな? 科学と魔術の境目に。これはよお、科学と魔術は絶対に交わらない一線が引かれているという説だ。科学と魔術は分かり合えない、融合なんてまして不可能。それゆえに、通説にしても少数説にしても、大きい円の中に小さい円が含まれていて、決して同化しないわけだ。要するに、ヴィオレッタ嬢ちゃんが言うように、第一の魔術とか第二の魔術とか分類はしない。ま、身近な例を挙げればわかりやすいが、俺が魔術師に見えるか? もし科学が第二の魔術ならば、俺は二流の魔術師ということになる。魔術勢力に反対している俺ら、立場がねえわな……もし、俺が魔術師であれば?」

 だが、とヴィオレッタは別の図解を用いて反論する。





「では、魔術と科学の交わるこの円の中に魔導科学があるよね? これはどうなるの? 魔導科学って、三番目に生まれた技術じゃないの?」

 そこでサンダーが、待っていました、と挙手する。

「魔導科学が、魔術と科学の二つから誕生した新しい技術だという説は正しいぜ。だが、魔導科学は魔術にも科学にもどちらにも分類できない独立した分野だ。なぜなら、この技術は、部分的に魔術であるし、部分的に科学であるから。蛇足だが、さっきのUFOあったよな?あのUFO、設計の外部はUFOの構造が科学。でも、ICカードの仕込みに魔術をセットするのでカード内の構造が魔術。だから合わせ技で魔導科学というわけさ。あと、魔導科学の思想集団が名乗りを上げて、進化しようとしているという説は聞いたことないな」

 アンナもちょっと迷って挙手した。

「ヴィオレッタの説が正しいのならば、首謀者のサード博士は魔導科学者ということになりませんこと? でもヴァイスによれば、サードは魔導科学者ではなく、科学者ということでしたよね? それとこれもヴァイスの受け売りですが、『魔力召喚機』も魔力を引き出しこそしても、これは魔導科学の兵器ではなく、生粋の科学兵器ではございませんか?」

 やや間があって、ヴィオレッタが答える。

「どうやら、この世界のことを詳しく知らなったボクの早とちりみたいだったね。そうなんだ、この世界、魔術の分類を第一、第二、第三とはやらないのかあ……。あと、アンナさんの指摘も正しい。そうだった、サード博士は科学者で科学兵器を使う人物だったね……」

 マニフィカが会話をつなぐ。

「では、一度、Thrid Magicianは置いておくとしまして……。三つの魔術(Three Magics)、真の悪意(True Malice)、罠の操り人形(Trapped Marionette)の説は?」

 今度はコーテスから検討に加わった。

「『三つの魔術』……と言うけれど……。どの魔術を指すのかな? 今回の事件、たくさんの種類の魔術が……出てきましたよね? 火炎系魔術、気配殺しの闇の魔術、転移魔術、幻覚魔術、暗示魔術、魔導科学……。実際に事件に登場した魔術は3つを超えているし、特にこの3つの魔術が主犯だったというわけでもなく……」

 ジュディがパソコンから手を放し議論に加わる。

「おそらく違いマース! Three Magicsの意味でないデスネ」

 コーテスは検討に戻る。

「『真の悪意』……。これは違うと思いますね。もし、犯人が『真の悪意』でこの事件を起こしていたら……最初から事件は……殺人事件じゃないですか? 僕も現に生きていますし……。『罠の操り人形』……。これも違うかな? もしこれなら、トーマスを指すだろうけれど……。今回の事件、トーマスが操られていたものの……それが事件の核心部分では……ないでよね?」

 ならば、と未来が続ける。

「やっぱりThird Magicianが一番しっくりこない? でも3番目って、いったい、何を指しているんだろう、本当に!?」

 ふふふ、とスノウが笑った。

「ごめんなさい。実は私、答えを知っているのよ。ここに来る前、一般風紀たちと一緒に一般学生の聞き取り調査をやったこと、さっき言ったわよね。一般学生が教えてくれたわ、TMの意味」

 え!?
 全員が目玉を丸くした。
 なぜ、一般学生が!?

「TMは、今、みんなの説にあったとおり、Third Magicianよ。でもね、Thirdを『第三』の何かと考えるからややこしいのよ。いい? 3という数字、何を連想させる?」

 スノウに質問を振られ、ここで一度、全員が考えてみた。

「3、3、3……。三等賞とか? 競技で三番目の成績を残した人に、三等賞の賞品とか銅メダルとか与えられるよね?」
 と、ヴィオレッタ。

「スリー……。フム。三等車ネ! トレインの席で一番安くて粗雑な席、三等車、言いマース!」
 と、ジュディ。

「3……。そうですわね、推理小説からの連想で言えば……。小説家で腕が良くない先生のことを、三文小説家と言ったりしますわね?」
 と、マニフィカ。

「腕が良くない……。ああ、三流のこと!?」
 と、未来。

「腕が良くないだけでなく、格下の人物を三下なんて呼んだりもしますわね?」
 と、アンナ。

「えっと……。他にも、ダサイ野郎を三枚目なんて言うわな……。要は、3が付く名称って、ランクが低いとか、ろくでもないことの場合が多いみたいやな?」
 と、ビリー。

「なるほど、そういうことか、スノウ殿! Third MagicianのThirdとは、三等賞、三等車、三文、三流、三下、三枚目など、格下を意味する言葉だったのだな? つまり、『3番目の魔術師』とは、三流魔術師とか、三下魔術師とか、そうやって訳すわけか!?」
 と、萬智禽。

「ご名答。全員、正解!」
 スノウが最後に答えた。

「しかしスノウさん……。なんだって、また、TMたちは、自分たちを三流の魔術師とか名乗っていたわけだろう? これでは自虐というか、バカ丸出しじゃないか!」

 ヴィオレッタは、この点が腑に落ちないようだ。

 これには未来が答えた。

「いや、それでいいんじゃん? 今回の事件の犯人らしい名乗り方だと思うけれど……。
 ちょっと振り返ってみよう。今回の事件の被害に遭った学生たちって、みんな成績優秀者という共通点を持っているよね? しかも学部を代表するトップレベルの学生じゃない? コットン、リリアン、コーテス、マニフィカ、誰にしても。
 犯人たちの動機は、成績不振者(劣等生)が成績優秀者(優等生)を憎んだからではないかな?
 それから、毎回、風紀に関することが犯行パターンで、トーマスが操られ、コーテスや一般風紀たちが負傷したことも合わせて考えると……。ジェームスがブラストから虐げられていたみたいに、成績不振者に対する成績優秀者からの不当な扱いを、風紀が止められなかったため……TMたちが風紀を逆恨みして、風紀を陥れようとしていたことも考えられるね。
 つまりね、自らをThird Magician=3番目の魔術師=三流魔術師と名乗るのは……。学院の優等生や風紀に対する批判のメッセージじゃないかな?」

 マニフィカも続く。

「全くもって、同感ですわ。そうですわね、犯行の動機は、劣等感の逆恨み。学部トップレベルの優等生であればターゲットは誰でもよかった。それでわたくしやビリーさんが作った人物相関図が相関図として機能しないほど人間関係がすかすかだったのでしょうね。そして、愉快犯を装った一種のルサンチマンが爆発した結果が、今回の事件につながったのでしょう……」

 だがな、とビリーが補足する。

「何と言おうか今回の事件……きちんと組織化された集団的犯行には見えんな? 黒幕のサード博士が高みの見物でコーディネーターみたいな役割で、手下のTM各自が暴れておっただけやろうけれど……。んで、愉快犯を装っている割には、メッセージが弱い印象やな。悪いことをする前後に、TMの紙切れとか挑戦状をばらまくだけで、優等生や風紀をこらしめたつもりだったんやろうか? そして、次第に犯行はエスカレートしておったが、明確な目的意識があったんやろうか? そもそもな、各学部のトップの優等生を倒すなんて目標……ここの学院、学部が百以上あるで? 百人以上もの優等生をTMの正義のもとに全員倒すとか稚拙なこと考えておったのかいな? 今から思えば、なんとなく行き当たりばったりな犯行だったように思えるねん」

 うん、なるほどね、とヴィオレッタは頷いた。

「しかしスノウさん。キミ、さっき、一般学生からTMのことを聞いたっているけれど? どういう意味?」

 スノウがさらりと返す。

「今回の事件、私たち風紀は一般に漏れないように情報を封鎖し、隠密のうちに事件解決に当たっていたわ。私たちの中で、TMは強敵という認識だった。でも一般学生に聞いたら、なんて言ったと思うかしら? 『TM? ああ、あの三流のバカども?』、『TM? なんだ、あの出来損ないのアホどものこと?』っていう答えが返って来たわ。つまり、TMはこの事件以前から、一部の一般学生の間で有名人ではあったらしいの。ただ、私たちの認識にあった『強敵』という意味ではなく、『三流の劣等魔術学生』=Third Magicianという意味で呼ばれてバカにされていたのよ……」

 ふうむ、とコーテスがつなぐ。

「で、委員長。犯人の名前って、もう絞り込めましたか?」

 スノウがリストを取り出し、みんなの前で説明する。

「一般学生から聞き取りしたTMのメンバーは五人。サイレンス・ドロンズ。ドロシー・ドレイナー。ドニー・メタファーマン。スライス・ウィンドショット。ジェームス・ゴーストソン。この五人が安い酒場なんかでつるんでいたところを目撃した学院生が何人かいたそうよ。また事務室にも寄って今年度の検定結果も調べたわ。サイレンス・ドロンズが防衛魔術検定のビリ。ドロシー・ドレイナーが魔導科学検定のビリ。ドニー・メタファーマンが錬金術検定のビリ。スライス・ウィンドショットが時空魔術検定のビリ。ジェームス・ゴーストソンが黒魔術検定のビリ。五人全員が各所属学部でビリの成績というのは……偶然ではないものを感じるわね」

 コーテスはにこりと笑った。

「うん。それだけTMたちの名前が出れば……十分。で、黒幕が……サード博士ですね。さて、では今から……TMがそれぞれどんな役割をしていたのか……改めて整理してみましょうか?」


<トピック8 TMは何人いて、それぞれがどんな役割だったのか?>


*このトピック8では、今回のトピック1から7までみんなで推理したTMの正体をまとめます。(一部、リアクションの議論に出なかった情報もおまけで入っています)

・TMの人数は全員で五人。黒幕がサード博士。各自の役割は、以下のようになる。

・ドライセン・サード博士

筋金入りのマッドサイエンティスト。男。『魔力召喚機』という戦争時代の非人道兵器をどこかから調達して複製。どこかでTMたちと接触し、TMを懐柔し、「白い拳銃」を渡す。以後、「白い拳銃」で一時的だが膨大な魔力を引き出せるようになったTMたちが各自、暴れる。サード博士本人は学院での事件には手を下さず、高みから見物をしていたらしい。

・サイレンス・ドロンズ

防衛魔術学部一年生。男。火と闇の属性。元の魔力Fランク。サード博士から「白い拳銃」を渡され、学院で暴れる。コットン事件でコットンと一般風紀にファイアボールでとどめを刺した実行犯。音楽校舎には気配殺しで侵入、操られていたトーマスを利用して現場へ入ったようだ。コットン被爆の際、殺すつもりではなかったので、威力が若干弱いサード・ボムをサード博士からもらって仕掛けた。その後に続く、コーテス事件やマニフィカ襲撃未遂事件(バードマン先生を負傷させた)の実行犯でもある。裏庭で、気配を殺し、ファイアボールで襲撃し、コーテスに重症を負わせた。ちなみに、TMの紙切れや挑戦状は彼が書いたもの。上記を総合すると、TMのリーダー格であると思われる。

・ドロシー・ドレイナー

魔導科学部一年生。女。土と闇の属性。ICカードでは、「白い拳銃」使用時の魔力が残り、特Aランクと鑑定で出たが、本当はFランク程度。リリアン事件の実行犯。おもちゃのUFOを造り、HP/MP吸収の仕掛けを「白い拳銃」と共に施し、リリアンや一般風紀たちを負傷させた。

・ドニー・メタファーマン

錬金術学部一年生。男。金属の属性。トーマスのマープルゼミでの後輩。暗示の魔術の使い手。「白い拳銃」を使って、トーマスを操り、風紀をかく乱させ、仲間たちが犯行をやりやすいように手伝った。マニフィカ襲撃未遂事件の計画者でもある。

・スライス・ウィンドショット

時空魔術学部一年生。女。空間の属性。転移魔術が使える。「白い拳銃」を使えば、1km離れた場所からでも、仲間を自在に転移させることができる。初期のちゃちな事件の実行犯の一人。マニフィカ襲撃未遂事件の際にも、サイレンスを転移させてバードマン先生を撃破。

・ジェームス・ゴーストソン

黒魔術学部一年生。男。闇の属性。幻覚の魔術が使える。「白い拳銃」を使えば、ブラストであっても、ぼこぼこにすることができる。初期のちゃちな事件の実行犯の一人。


・第二節 犯人からの招待状? そして、増援も現れた!


「いやー、けったいな事件やったなあ、うはは! ほな、茶ぁでもしばこかー!」

 ビリーは、「小槌」から紅茶のペットボトルとサンドイッチを召喚し、配り歩いた。
 現在、風紀委員会は一時、休憩を取ることにした。
 サード博士の所在調査をヴァイスに依頼したので、結果を待っているところだ。
 なお、ジェームスとドニーも行方をくらませている。
 しかし、どちらにしても黒幕の居場所が割れれば自動的にジェームスとドニー、他のTMたちも出てくることだろう。
 風紀委員会は、TMたちに関しては、一時的に放置することにした。

 一方、操られていたとは言え、トーマスは今回のことがショックで落ち込んでいた。
 ビリーが紅茶やサンドイッチをあげても受け取らなかった。
 そして、壇上に立つ。

「皆さん……。お話があります!」

 トーマスは、全員が注目した同時に、しゃがんで、土下座した。

「このとおりです! 申し訳ありませんでした! 僕が不甲斐ないばかりに、ドニ―に操られ、風紀委員会や協力者の皆様にご迷惑をおかけして……。本当に償いの言葉もございません!」

 風紀委員室はシーンと静まり返った。
 やがて、ジュディがトーマスに歩み寄る。

「トーマス……。今回の件は、とても残念だったデス。デモ、ユーはTMではなかったネ。ただ、運悪く、スキを突かれ、操られていただけだったデース! そんな顔しないでネ! ほら、コーテスもこっちにカミング! ジュディがコーテスのヒアリング調査をしたとき、彼、なんて言ったか知っていマスカ? コーテスは最初から最後まで、『トーマスはTMではない、犯人ではない!』って、ロジカルに推理して、ユーを庇ったのですヨ!」

 コーテスも歩み寄って来た。

「うん、そうだったね……。ジュディさんが……言うとおりだよ! トーマス、顔を上げて! 少なくとも僕は……君を恨んだり、バカにしたり、しない!! 僕たちは、風紀で同期の友達! いつだって友達! そうでしょう!?」

 未来も傍までやって来た。

「そのとおり! 悪いのはトーマスを操っていたドニーと、そのドニーに力を与えたサード博士じゃん? トーマスは悪くない!」

 そして、仲間たちが全員集まって来た。
 みんな、トーマスを許す、と笑顔であった。

「それよりトーマス。ヴァイスから連絡があったら、サード博士たちとの戦闘になるわ。あなた、風紀を辞めたりしないわよね? 一緒に戦ってくれるわよね?」

 スノウ委員長の激に、トーマス、答える!

「もちろんですとも! この不肖トーマス・マックナイト、マープル先生の名に賭けて、風紀委員会の名の下に、TMもサードもぼこぼこにしてやる所存でございます!!」

 こうしてトーマスが復活し、皆と和解し、風紀委員会は新しい一歩へ進むのであった。
 だが、事態の進展は待ってはくれなかった。

「チー! チー! チー!」

 謎のネズミが現れ、手紙を壇上へ置いた。
 そして、消えた。

「え? 何、今の? ネズミ?」

 不審に思ったスノウ委員長が手紙を取り、開封すると……。

***

親愛なる賢明な風紀委員会諸君へ

スノウ委員長率いる風紀委員会と協力者の皆様、お久しぶりです。
以前は、聖アスラ像に関する事件でお世話になった魔導動物学部のハインリヒ・ウォルターです。

本日、風紀委員会の皆様へ、当研究室からご招待がありまして、連絡させて頂いた次第です。

今夜の20時、本学の体育館にて戦闘演習の特別授業を開きたいのですが、風紀の皆様もご参加いただけますでしょうか。もちろん、学院上層部からの開講許可は取っております。

TMの諸君もぜひ、優秀な風紀委員会と共に戦闘演習をしたいと張り切っております。
私も久しぶりに戦闘演習で本気を出しますので、今から楽しみで仕方がありません。

ご出席頂けることをお祈り申し上げます。
今後とも何卒、魔導動物研究室をよろしくお願いいたします。

魔導動物学部教授
ハインリヒ・ウォルター

***

 スノウは、手紙を読み上げて、自分の目と脳を疑った。
 まるで、これでは……。

 ヴィオレッタが苦しそうに言葉を紡ぐ。

「まるで、これでは……推理ミスじゃないか!! たった今、風紀委員室でみんな推理したのは何だったんだ!? ウォルター教授という人物からの手紙がなんで、このタイミングで届くんだい? そもそも魔導動物学部の教授が黒幕かTMだったというならば……調査も推理も振り出しに戻るじゃないか!?」

 焦って叫ぶヴィオレッタの肩にマニフィカがぽん、と手を置いた。

「果たして、この手紙はウォルター教授ご本人からでしょうか? 今回の事件、わたくしが、トーマスさん名義の偽の手紙を受け取ったことは覚えていますわね? おそらくこれは、敵の罠かトリックでしょう……。さて、どうしましょう?」

「もちろん、行きますわ! 当たって砕けろですわ!」
 アンナが正面突破を提案する。

「うん、そうだね! 罠だとわかっても進むのがヒロインの役目!」
 未来もアンナに賛同する。

 急展開の中、全員が結束を高めているところで、今度は謎のギター音が流れてきた。

「あか〜い♪ あか〜い♪ 赤い仮面の♪ トム・スリー♪」

 その「赤い仮面」の人物は、窓際でギター片手に歌いながら、赤いトランクスを被っていた。

「ええと……。変●仮面のご登場……。って、ことでいいだろうか、トムロウ殿(NPC)?」
 萬智禽が念のため、確かめた。

「違うわーい! 親友のコーテスからピンチの連絡を受けて助けに駆けつけた天才・萌え魔導士のトムロウ・モエギガオカが華麗に登場したシーンだぜ、がはは!! おい、どこだ、真犯人! 名探偵トムロウが事件の真相を推理してやるぜ!」

「トムロウ君、ありがとう! 推理パートは今、終わったところだよ。あと……トランクスは取ろうよ?」

 コーテスが申し訳なさそうにそう言うが……。

「なにを? これのどこがトランクスだ! これは仮●ライダー・トム・スリーの仮面……はっ、しまった! 俺の赤いトランクスじゃねえか、これ!?」

 一方、入口からは……。

「ちわーっす。ワスプでーす。戦力の配達に来ましたー!」

「わあー!! キミは、ティム(NPC)じゃないか!?」

 今度は、ワスプ少年のティム・バトンがシーフ姿でご登場。
 ヴィオレッタは、職場の仲間の登場に思わず歓声を上げた。

「はい。僕です、ティムです。念のため、戦闘用のシーフ服に着替えていますが……。ナイトさん(NPC)より伝言です。ヴィオレッタの様子を見て来い、と。ヴィオレッタが苦戦しているようであれば、手助けしてやれ、とのことです」

 こほん、とスノウが咳をした。

「ともかく……。私たちは、20時(推理で時間を使ったから、あともう少しで20時ね……)に体育館でウォルター教授たちと『戦闘演習』をすることになるわ。風紀委員不足で、ちょうど戦力が足りていないところだったから、トムロウさんもティムさんも一緒に来てくれるかしら?」

「も、も、もちもち、もちろ〜ん、ですとも!」
 トムロウが変態チックに答えた。

「ラジャ!」
 ティムの方は軍人みたいに答えた。

 さて、前半戦の調査&推理編を無事にクリアした風紀と仲間たち。
 NPCの援軍も加わったところで、次回はTMたちと「戦闘演習」をすることになった。
 しかし、なぜ、ここでウォルター教授の手紙!?
 真相が知りたければ、次回へ続く!

<第3回へ続く>