「東方異文化交流録」(観光編)

第1回

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ


●Aパート「イースタにて、修学旅行開始!」

●Bパート「スノウ&サクラ組の修学旅行」

B−1「寿司屋あけぼのにて昼食編」

B−2「海浜記念公園にて歴史巡り編

B−3「雑貨屋万華鏡にてお土産編」

●Cパート「コーテス&トムロウ組の修学旅行」

C−1「ゲイシャ喫茶蜂蜜檸檬にて昼食編」

C−2「ゲーセン電光石火にてゲーム大会編」

C−3「モエジマデンキにてお土産編」

●Dパート「それぞれの解散後」




●Aパート「イースタにて、修学旅行開始!」

 まちに待ったイースタ修学旅行の日がやって来た!
 本日は、快晴、気温も20℃とほどよい暖かさである。
 時間も午前の10時半であり、清々しい朝の空気で異国の学生街は活気づいている。

 スノウ・ブロッサム(NPC)委員長率いる風紀委員会+αのメンバーたちは、イースタ大学校門前へ行進し、時間通りに集合できそうだ。

 風紀委員会の団体が校門へ着く頃には、既にイースタ大学異文化交流委員会委員長のサクラ・ブロッサム(NPC)が手を振って走って来た。

「スノウ! 久しぶり! イースタへ、そしてイースタ大学へようこそ!」
「あら、サクラ、お久しぶりね。今日はよろしく頼むわ!」

 サクラの歓迎に対し、スノウも彼女の手を握り返し、笑顔で応える。

 ちなみに、サクラは忍び装束をまとっている忍者ガールであり、スノウはまさに魔法少女姿だ。異文化交流らしく、東洋対西洋の格好だ。

「こんにちは……。ええと……君が、トムロウ君?」

 風紀の副委員長であるコーテス・ローゼンベルク(NPC)は、校門の前で手を振っているイケメン風東洋人に話しかけてみた。その東洋人のやや残念な雰囲気から察して、「彼」だ、とアタリを付けたのであった。

「おう、コーテス! 俺が、トムロウ・モエギガオカ(NPC)」だ! 今日はよろしく頼むぜ!」

 さて、委員長・副委員長同士のあいさつも済んで、スノウとコーテスの背後を歩くマギ・ジスの仲間たちも校門へ入って来た。

「ぴ、ぴ、ぴーデス!! ミナノモノ、列を崩さずに、プリーズ! オウ、ユーは、顧問デスネ? アイ・アム・ティーチャー、ジュディよ! ヨロシク、タノンマース!」

 学生たちが列を乱さないように見張りながら歩いて引率しているのは、ジャイアント・アメリカン・レディのジュディ・バーガー(PC0032)である。ジュディは聖アスラ学院では先生も勤めているので、今日は風紀の引率係も買って出たようだ。

「おお、これは、これは、ジュディ先生でいらっしゃいますか? 私が異文化交流員会の顧問である、ライゼン・ムドウです。本日は、うちの学生たちをよろしくお願いします」

 長髪白髪と白髭(ひげ)で小柄な東洋人の先生が、ジュディに握手を求めて来た。
 この男は、紹介の通り、顧問の先生であり、東洋魔術の教授でもある。
 腰にトンファーを巻いているが、格闘技の師範でもあるそうだ。

 ジュディとライゼンが会話をしている後ろから、貫頭衣を着ている大柄の人魚姫が登場。

「はじめまして、ライゼン先生。わたくしは、マニフィカと申しますの。今日はよろしくお願い致しますわ! イースタの学生街には初めて来ましたが、いい街ですわね。建物の外観が西洋のマギ・ジスとは全然違いますし、どこもかしこも電脳化されていて、先端的ですわ! 本日と明日、しっかりと学ばせて頂きますわよ!」

 魔術博物学を専攻する大学生でもあるマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、輝ける学徒の目で、ライゼンへそうあいさつするのであった。

「ほっほっほ、マニフィカさん、向学心があって良いことですぞ。ぜひ学んで行ってくだされ!」

 ライゼンもハツラツとした大学生の心意気を感じ、満面の笑みを浮かべていた。

 マニフィカのあいさつに続き、聖アスラ学院制服(超ミニスカ版)姿で小柄の女子高生も、ひょっこりと登場。

「ライゼン先生、おはようございます! わたしは、風紀と言うよりは広報部の立場から本日の修学旅行に参加しているよ! がんがん取材して良いレポート作るからよろしくね〜!」

 胸元で聖アスラ学院広報部バッジをキラリと光らせ、取材する気満々なのは、姫柳 未来(PC0023)である。さっそく、広報部から借りて来たビデオカメラで、ジュディ、マニフィカ、ライゼンを映し出していた。

「ほっほ、取材の方も来ておるのかい? うむ、よろしく頼むよ」

 ジュディ、マニフィカ、未来たちが会話をしている後方から、さらに仲間たちが校門へ入って来た。

「う〜ん! イースタって思っていたよりは、和みやすい街だな? 異文化交流ねえ……まぁ、たまにはのんびりするのもいいんじゃねぇか?」

 背伸びをしながら、遠方に広がる山脈を楽しそうに眺めているのは、元遺跡警備隊のリシェル・アーキス(PC0093)だ。リシェルは相変わらず黒ずくめの衣装だが、春なので、春服に調整している。

「わーい! 旅行だ、旅行だー! イースタ、イースタ、楽しいなー!!」

 リシェルの頭上ではしゃいでいる無邪気な猫のぬいぐるみ……いや、そこに憑依している精神体は、ラサ・ハイラル(PC0060)である。さすがにまだ幼い子ではあるので、「修学旅行」と聞いてもいまいちピンと来なかったようだが、勉学のために同行しているリシェルにくっついて来たらしい。

 そんなラサにつられて、さらに後方を歩いている者たちは……。

「イエーイ、やねん! 修学旅行、来たやんけー!! ほんま、がっつり楽しむでー!」

 わいわいとはしゃいでいるのは、座敷童子であるビリー・クェンデス(PC0096)だ。実は彼、学校という場所に通ったことがないらしい。なので、学歴が皆無のビリーは、ジュディに誘われて、二つ返事で参加を決めたという。

「ついでにイエーイなのだー!! ピース、ピース!!(口で) ビリー殿、共に修学旅行を満喫なのだ!!」

 ビリーと一緒になってはしゃいでいるのは、萬智禽・サンチェック(PC0097)だ。巨大目玉のモンスタールックスは健在で、牙をむいてニヤリと嬉しそうにしている。

「わーい!! アンナに誘われて遊びに来たけれどぉ、さっそく楽しいねぇ、わーい、わいー!!」

 子どもたちやモンスターと一緒になって同じくはしゃいでいるのは、天然植物由来のお姉さん、リュリュミア(PC0015)だ。実年齢は諸般の都合で内緒だが、お姉さん、始まったばかりの修学旅行をご満喫のようだ。

「ちょっと、皆さん……。はしゃぎ過ぎではありませんこと? 特にリュリュミア! あなた、目上なのですから、小さい子や魔物と一緒には、いかがですこと?」

 そう相方(?)と仲間たちをたしなめるのは、最後尾を歩くフランス令嬢、アンナ・ラクシミリア(PC0046)だ。風紀の会議で補欠の勧誘を引き受けたものの、暇そうだったリュリュミアを誘って来たが、本当に大丈夫だっただろうか、とちょっと心配気味だ。

「うふふ……。でもアンナさん、楽しい修学旅行になりそうな予感がしないでしょうか? わたし、今回が風紀どころか、聖アスラ学院のイベントへの初参加なので、わくわくしますわ!」

 アンナの隣で、同じく最後尾を歩いているのは、陰陽師のミズキ・シャモン(PC0008)だ。ぶ厚いメガネと陰陽服からも目立つ巨乳がチャームポイントの短期留学生である。まだマギ・ジスタンにも学院にも来たばかりであるが、風紀の補欠に応募して、今回の旅行に同行することとなったのである。

「そうですわね……。わたくしは、この後、どんちゃん騒ぎの予感もしますが……。とまあ、どうぞお気を楽にしてご参加して頂くと良いですわね。わたくしたち、いつもこんな感じでやっていますので、ぜひ一緒に楽しみましょう!」

 最後尾を歩く二人の美少女が門をくぐると、一度、正式なあいさつのため、集合がかかるのであった。

***

『聖アスラ学院の皆さん、イースタ大学へようこそ。私は、異文化交流委員会で顧問を務めていますライゼン・ムドウです。こうして遥々、海の彼方からご来訪頂いたマギ・ジスの皆さんと文化を交わすこと、誠に光栄の至りと存じます。マギ・ジスの皆さんも、この修学旅行を通して、ぜひ東洋の文化や技術を学び、大いに切磋琢磨に励んでください。さて、難しい話はこの辺にしておきまして、本日のイースタ観光、そして明日の東洋魔術演習をぜひ楽しんで行ってくださいね。私は観光へは同行しませんが、明日の演習では戦闘に参加します。では、あとは、サクラさんとトムロウ君に任せますのでよろしく!』

 全員が集合し、顧問のあいさつも終わると、サクラ&スノウ組あるいはコーテス&トムロウ組に分かれて、それぞれのメンバーが散って行ったのであった。
 いよいよイースタ観光が始まるのである!


●Bパート「スノウ&サクラ組の修学旅行」


B−1「寿司屋あけぼのにて昼食編」


「では、皆さん、イースタへやって来たそうそう、お腹が空いたことかと思われます。時刻は午前11時半頃です。まずは、和食職人地区の高級寿司屋あけぼので食事をしましょう!」

 サクラの案内に導かれて、一同はサイバー空間の歩きエレベーターに乗り、大学地区から和食職人地区へ移動した。移動といっても、進化して技術のおかげで、あっという間だった。気が付いたら、すぐそこに、ちょっとしたいかつい料亭風の建物、「あけぼの」の前だった。

「いらっしゃいませー!」
「こんにちはー! 予約していた異文化交流委員会ですが……」

 予約は既に取っていたので、店員の案内により、サクラ&スノウ組は、個室の座席へ案内された。個室へ至るまでの道のりには、巨大な水槽に魚や貝がいたり、カニ、ウニ、タコなどが水面からあげられていたり、板前職人たちが豪快に寿司を握っていたりもした。

 さて、座席に座ったのは……。
 時計回りで、アンナ、マニフィカ、ミズキ、リシェル、スノウ、サクラだ。

 ちなみに、ビリーとジュディも来るはずだったが、忘れ物をしたとか、お腹が痛いとか、何かしらの理由で早退してしまった。なお、未来に関しては、最初の校門での取材が終わると、「取材があるから」と言って別行動になってしまった。
 あとのメンバーは全員、コーテス&トムロウ組である……らしい。

「本日のランチは、Aランチ 握り寿司10貫セット(中身はお好きなものをどうぞ)1500マギン。Bランチ チラシ寿司(中身はカニ、ウニ、イクラ、サーモン、大トロ)2000マギン。Cランチ あけぼのスペシャル(力士が食べることを想定された握り寿司&チラシ寿司の超特盛)3000マギン……って、ところですね。なお、ここは高級寿司屋ですが、学割が効いている値段なので、このお値段で特別に提供されています。皆さん、遠慮なくお好きなメニューを頼んでくださいね」

 サクラがそうメニュー案内をすると、メンバーたちは、カタログに掲載されている写真と文章をじっくり見ながら、それぞれのランチを頼むことにした。

「それにしても……。ひとまず、わたくしは、Aランチでいいものの……。何分、寿司のことはわからないので、お好きな寿司を10貫と言われても、ちょっと困りますわね。どなたか、おすすめはありませんこと?」

 アンナが一同に悩ましい問いを問いかけた。

「そうだな……。どうせなら、この時期に一番うまいヤツ食っときたいだろ? そうなると、2、3月の旬のネタは……鮪(マグロ)、カレイ、鰆(サワラ)、メバル、青柳(アオヤギ)あたりだな!」

 意外にも、助け舟を出したのは、リシェルだった。
 どうやらリシェルは魚好きなようで、寿司文化を予習して来たらしい。

「さすがリシェルさん、お詳しいですわね! あとは……イカ、タコ、エビもいいですわね! あのようなナマモノを酢飯で握って食べるなんてまさに極東の神秘! ぜひ体験しておきたいですわね!」

 アンナはリシェルの考えてくれたメニューに3貫、興味があるネタを足した。
 さあ、あと2貫、どうする!?

「ふうむ……。わたしも握り寿司10貫セットがよろしいでしょうね。食文化もわたしが元いた世界と近いでしょうし、ぜひイースタの寿司も食べてみたいですわ。さて、あと2貫……意外と海鮮以外はどうでしょう? 例えば……玉子や梅キュウ(梅とキュウリの軍艦)もよろしいかと存じますが、いかがでしょう?」

 アンナとリシェルも異存はなく、むしろ玉子や梅キュウも食べてみよう、ということになり、Aランチ組は10貫の注文が完成した。

 Aランチ組が会議をしていた頃、マニフィカもスノウやサクラと話し合っていた。

「わたくしは……おもいきってCランチと行きますわ!」

 おお、来たか! という勢いでサクラはニヤリとした。

「Cランチは……力士クラスでもなかなか食べ切れませんよ? それでいいのですね?」

 念を押すサクラに、マニフィカも自信をもって答える。

「はい! わたしくし、出身世界の環境ではよく海産物を食べていましたので、特に生の海産物は大好物ですわ! せっかくの機会ですし、あえて贅沢しますわ! もちろん、食べ切れないと思いますので、テイクアウトする予定ですけれど……」

 目を輝かせているマニフィカを止める術はもちろんサクラにはなく、人魚姫の希望通りの注文となった。

 なお、サクラとスノウはBランチのチラシ寿司になったようだ。

***

 やがて、全員の食事がそろい……。
 いただきます、の合図と共に、レッツ会食!

「ところで、サクラ? この国、食事をするときは、基本的に箸(はし)ってやつを使うんだよな? 持ち方は一応、予習して来たが、これで合っているか?」

 リシェルは、箸を右手で持ち、かちかちとアクションをつけて、確認を取る。

「そうです……上手いです、リシェルさん! 箸は利き手で持って、鉛筆を持つときの指裁きを意識して……二本の箸をハサミで挟むときのように動かして使います……」

 念のため、サクラも実演して見せた。

 アンナは以前に異世界の「日本」で暮らしていたこともあり、箸の使い方はわかっているようだ。ミズキも元いた世界が東洋文化的な世界だったので、箸は使えるようだ。スノウに関しても、小さい頃、サクラと一緒だったため、たまにサクラの一家と和食を食べることもあり箸の使い方はマスターしていた。

 さて、マニフィカは……。

「ええと……。こうですの? なかなか難しいですわね! 鉛筆を握るようにして……ハサミで挟み……ですわね?」

 マニフィカは、最初は苦戦していたが、さすがに器用さもあるせいか、数分もしないうちに、カチカチ、と箸を動かして使えるようになった。

 よかった、やっとこれで、みんなで寿司が食べられる!
 と、一同はほっとした。

「さてさて、俺たちが頼んだ10貫セット……赤身、白身、貝類、その他、色々ときれいな彩(いろどり)じゃねえか? こいつらを全部食っちまうのは、ちょいともったいない気もするが……いざ!!」

 リシェルは、箸を丁寧に持ち、脂の乗ったキレイな白身魚であるカレイの寿司を醤油につけて、口元へ運ぶ。

「う〜む!! やっぱり旬の魚はいいぜ! 味に旨みと深みがあるな!」

 アンナも、箸を上手く持ち、タコの寿司を醤油につけて、こぼれないように左手を添えて、パクリと食べてみる。

「まあ……トレビアンですわね! 生タコの寿司がこんなに美味しいなんて、信じられませんわ!」

 同時期、ミズキも箸を器用に使い、梅キュウの軍艦を上品に味わい、続いて、玉子も美味しそうに頂く。

「ふうむ……。イースタのお寿司もなかなかのものですわね……。梅もキュウリも野菜の素材が上等で、玉子も高級品を使っているとお見受け致しますわ……」

 Aランチ組の3人は一緒に決めた10貫を味わいながらも、優雅に食すひと時を過ごした。それぞれ、リシェルはカレイが気に入り、アンナはタコが気に入り、ミズキは梅キュウが気に入ったようだ。

 さて、「あけぼのスペシャル」を頼んだマニフィカは……。

「まあ、これがイースタのウニですの! 鮮度抜群で臭みがないですわ! へえ、これがカニですの! 身がしっかりしていますのね! あら、これがサーモンですの! 脂の乗り具合がまたとなく良くって! ……あらあら、カレイもタコもイカもお上品なお味! ……ううん……まだまだありますわね……さて、お次は……!!」

 マニフィカは、最初のうちは、チラシも握りも楽しく味わって食べていたが……。
 食のペースが進むにつれて、段々と箸さばきが遅くなって行く……。

「マニフィカさん? 美味しいのはわかりますけれど、あまり無理はしない方がいいわよ?」

 隣でチラシ寿司を食べているスノウが見かねて、ちょっとだけ注意。

「そうですよ! テイクアウトも好きなだけ出来ますし!」

 サクラも焦って言葉で助ける。

「ううん……お魚が泳いでいますわ……タコも踊っていますし……」

 人魚姫、さすがにそろそろ限界だ。
 海の仲間たちが彼女を幻想界から呼んでいた。

 既に食べ終わっているAランチ組も、あけぼのスペシャルに挑んだ勇者を見守っていたが……。

「なあ、マニフィカよ……。そのファイトは買おう。だが、そろそろ切り上げてテイクアウトしようぜ? ほら、緑茶だ、飲め!」

 リシェルは、アドヴァイスをしながら、緑茶を人魚姫に勧める。

「んぐんぐ……ぷはー! そうですわね……わたくしとしたことが、ついついお転婆なことをしてしまいましたわね! 失礼しました、ここまでにしましょう。では、テイクアウトでお願いしますわ、サクラさん……」

「はい、おあいそにしましょう! 店員さんにテイクアウトも頼んでみますね!」

 とまあ、マニフィカは「スペシャル」をまだまだ残してしまったものの、本日の夕食もこれで十分まかなえる程度の寿司ランチをお持ち帰りするのであった。

 おあいそを済ませた一同は、次なる異文化交流の地へ向かうのであった……。


B−2「海浜記念公園にて歴史巡り編」


 寿司屋あけぼのでの美味しいひと時を過ごした一同は、海浜記念公園地区へ電子空間を伝い、移動することになった。
 電子の力でぴゅぴゅっと、一発で到着!
 時刻はまだ午後1時を回るかどうか、というぐらいだ。

 海浜記念公園にたどり着いた仲間たちがまず目に入った光景は……。
 壊れている壁の残骸が、空高くに固定されて浮いている姿であった。
 しかも空中にある元壁の一群は、元魔術結界である。青空の中に青白く輝く残骸は、まさに宝石細工のような不思議さと美しさがあった。

 サクラは、壁に見惚れている一同をちらりと見て、そろそろ解説を入れる頃だろうと思い、よく通る声で説明を始める。

「あちらに見えますのが……。言うまでもなく、海浜記念公園が誇る魔術結界の壁の残骸です。少し歴史的なことを踏まえると、あの壁は、当時、クレサント大陸(西洋の五大国家がある大陸)とイースタ大陸(イースタ国家のみがある大陸)の交流を分断する役割をしていました。もっとも、世界が後期近代に入ってから、壁はあんな具合に壊れてなくなり、それ以来、クレサント大陸とイースタ大陸に交流が生まれたのです……」

 聖アスラ学院の面子たちは、それぞれ、驚きの声や歓声をあげて、サクラの説明に聴き入り、壁を遠目で鑑賞していた。

 だが、さすがに好奇心が旺盛な聖アスラ学院生諸君は、手を挙げて質問に入る。

 マニフィカ、リシェル、アンナの順で手が挙がる。

「はい、マニフィカさん。質問ですか? どうぞ」

 サクラに促され、まずは人魚姫が議論に入る。

「まず、本日は、わたくしたちを海浜記念公園まで連れて来てくださり、ありがとうございました、サクラさん。イースタの文化には以前より関心がありましたので、予習によりデータとして魔術の結界壁について知っていました。しかし、その歴史的遺物を直に見て感想を述べますと、やはり強い感動を覚え、過去への想いを馳せる気持ちが沸きますわね。失礼、前置きが長くなりましたが、わたくしの質問は……こちらの魔術結界は本当に完璧だったのでしょうか? どうもわたくしには、後期近代まで待たないと大陸間の交流ができなかったという説が信じがたいと言いましょうか……。レヴィゼル教会の資料を以前に読んだとき、古代からクレサント大陸はあったのに、古代、中世、近世、前期近代、後期近代の時代まで、あの壁はイースタを隠していたのでしょうか?」

 なかなか難しい質問ね、とサクラはにこりとする。

「質問に対する回答ですが……。魔術結界の壁は完璧でしたね。実は後期近代以前も、クレサント大陸の人間たちは、船で何度も魔術結界がある海域を超えようとしていた、という記録があります。いわゆる大航海時代ですね。しかし、何度挑戦しても、壁を超えることも、破壊することもできませんでした。もちろん、飛行機や飛行魔物を使って空からアプローチしても壁はどうしても破壊できませんでした。壁の効力は絶対で、いかなる攻撃も受け付けず、両大陸間のあらゆる交流を遮断できたのです。それこそ、壁は何かの理由があってイースタ大陸を守っていたようですが……諸説はあるものの、壁が何を守っていたのか、は未だに研究がはっきりとしていません。ちなみに、後期近代になってから壁が壊れたのは……神のおぼしめし、という説が今のところ有力ですね」

 なるほどね、と難しい顔をして、マニフィカは頷いていた。

 次に、リシェルの番になった。

「俺の質問も……だいたい同じようなことだが……。その壁って、誰が何のために造ったんだ?」

 サクラは、またもや難しい質問が来たが、笑みを絶やさず答え返す。

「壁を造ったのは、実は人間でも魔物でもありません。つまり、クレサント大陸とイースタ大陸は人為的に遮断されたものではなく、気が付いたとき既にそうなっていたもの、でした。しかし、壁があったからには、その壁を造った『誰か』はいたはずです。現在の研究では、レヴィゼル神本人が壁を造ったという見解でまとまっています。そちらは留学生の方も多いようなので、レヴィゼル神をご存知ない方もいると思うので補足ですが、レヴィゼル神とは、マギ・ジスタン世界を創造した神の名前です。ですが、レヴィゼル神が創造したのは、最初はクレサント大陸のみであって、イースタ大陸は後期近代以降に改めて創造された、という説がクレサント大陸の大学内では通説となっているようです」

 ほお、そうかよ、とリシェルはしかめ面で答えた。
 そこで、ミズキも質問に加わる。

「ええと……わたしは、ここの世界はまだ慣れていないので……今の会話の流れから疑問に思ったことを質問させて頂きましょう。ひとつ、謎に思ったことですが……あなたたちイースタ人には東洋の歴史と伝統がある国家に住んでいらっしゃいますね? ですが、後期近代以降に造られた国家であったら、歴史と伝統は割と最近造られたものでしょうか?」

 いい質問ですね、とサクラは回答を返す。

「実は、イースタ国家は後期近代以前よりも存在していました。イースタにも古代から歴史があり、古代には原始人などもいて、化石や遺跡から発掘されたことからも証明されています。しかし、イースタは古来より国家そのものが電脳国家であり、電子空間を浮遊して移動しているという説が国内では通説です。つまり、イースタ国家は古代より存在していたものの、電子空間を通して異次元を彷徨っていたわけですが……後期近代になってマギ・ジスタン世界の極東に突如出現した国家だった……というのが私たちイースタ人の共通の見解ですね。まあ、マギ・ジスタンで、古代から後期近代までなぜ神は両大陸を遮断したのか……までは今の研究ではまだわかっていませんけれど」

 なるほどですわね、とミズキはぶ厚いメガネをかけ直していた。

 最後に、アンナの質問だ。

「わたくしの質問は……歴史的な質問ではないのですが……上空に残っている魔術結界の残骸についてです。あの残骸は、とても興味深いので、思わずお掃除がしたくなりますわ。しかし、残骸と言っても、わたくしたちが簡単には壊したり撤去できたりできるものではないですわね? わたくしは、残骸の強度について疑問を持ちましたの」

 おもしろい質問ですね、とサクラは返す。

「残骸にも当然、魔力は残っています。先ほどもお話したとおり、神の神通力をもってしてやっと破壊できたほどの魔力を誇る壁でしたので……もう何十年も前に破壊された壁とは言え、今でも高度の魔力を持って空中に浮遊しています。当然、上空には別の魔術結界による柵が張り巡らされているわけで、残骸には手を触れることはできません。以前に、興味本位で手を触れてしまった人たちは、手が大やけどしたり、冷凍されたり、感電してしまったり、と散々な目にあいました。ですので、皆さんは、決して、お手は触れないようにお願いします」

 へえ、不思議ですわね、とアンナはコメントしながら頷いていた。

 念のため、スノウにも質問があるか、とサクラが聞いたところ……。

「あると言えばあるけれど、私はサクラとはいつでもメールや電話でやり取りができるから遠慮しておくわ。あとのスケジュールも押さないか心配しているのよ、聖アスラ学院側の代表としてね。まあ、実のところ、既に出た質問と内容が被るから、あえて質問はする必要がないわね……」

 と、いうことで、壁の解説パートはここで一度、終了。
 以降、公園内での自由行動となった。

***

 マニフィカは、色々な角度から魔術結界を見てみたいと思い至った。
 例えば、海上から見上げたとき、とある方向が死角になってはいないか、と確認がしたいからだ。
 先ほどのサクラの説明では、壁は完璧だった、とのことだが、はたしてこの世に「完璧」なことなんてそうそうあるだろうか?

 アカデミックに興味をそそられたマニフィカは、海の中にレッツ・ダイブ・イン☆

 ぶくぶくぶく……。
 人魚モードになったマニフィカは、公園の海岸沿いから海中へ潜る。
 彼女の遊泳能力であれば、船は出すまでもなく、沖までぐんぐんと泳いで行けた。

 公園敷地内の海の最北端とも言える場所で、人魚姫は、海面から顔を出した。

「ぷはー、イースタの空気は美味しいですわね! 海も美しくて癒されますわ! さてさて、この手のセオリーでは、だいたいこういう結界というものは、このような隅っこに死角が存在するものですわね!」

 マニフィカは、心地良い波に揺られながら、春の淡い日差しが照らす上空へ目を向ける。
 きょろきょろと、いくつかの点を確認したところ……。

(あっ、ありましたわ! あの辺の壁の一群、最北端に隙間がわずかにありますわ……。しかし、これは壁の残骸。当時は、なかった隙間かもしれませんわね。でも、きっと、物理的な隙間があったとしても、壁に内在されている魔力がシールドを張り巡らせ、隙間に見える部分にも魔力はこもっていたのでしょうね……)

 マニフィカは考察&実証を終えると満足し、スノウたちのもとへ泳いで帰るのであった。

***

 マニフィカが海に潜ると同時に、リシェルは空へ飛んでいた。
 飛行アイテム「魔白翼」を両手から広げ、残骸付近の上空まで飛んで行く……。

 壁跡付近にたどり着くと、先ほどの説明にもあった通り、柵が張り巡らされていた。
 サクラからは、手を触れるな、と聞いていたとおり、柵には、「壁跡に手を触れないでください」との注意書きがあった。

 それと同時に、空中に記念碑の一群が、ぷかぷかと浮いていた。

「ううむ……。魔術結界の壁跡も近くで見ると、なかなか貫禄があるな……。未だに青白く発光しているのも、魔力の名残じゃねえかな? よし、記念碑でもたどるか……」

 記念碑には、先ほどの解説をなぞるかのように歴史的説明が映像入りで展開されていた。
 映像は、何かの魔術の力により、空中に映し出されている。

「なになに……。これがレヴィゼル神の外見か……。やはりこの手の神はジジクサイぜ! で、このじいさんが世界の大陸を二つに割っているシーンが……さっきの話の大陸の交流分断か……なるほど、映像でも、神が壁を創造した場面を再現しているんだな?」

 その他にも、時系列準に、大航海時代にクレサント大陸の人々が壁に遮断された海を渡ろうとして失敗した映像や、当時のイースタ大陸はこの世界に位置していなかったという説の映像、そして壁の破壊を試みるが挫折した魔術師たちの無念そうな映像など、記念碑からはあらゆる歴史的背景が読み取れるのだった。

(よし、おもしろかった! こんなもんでいいだろう! スノウたちのところへ戻るか!)

 空中の歴史探索を満足したリシェルは、仲間たちのところへ飛び帰るのであった。

***

 海中と空中で仲間たちが探検していた頃……。
 地上の公園の休憩スペースでは、ミズキ、アンナ、スノウ、サクラが一緒に休んでいた。

「皆さん、もしよろしかったら、お茶でもどうぞ。ちょうどそこの屋台に甘味緑茶のボトルが売っていましたので……お茶を飲みながらお話でも致しませんか?」

 ミズキは、売店から甘味緑茶を購入し、おまけに紙コップも4個付けてもらった。
 やはり彼女も東洋人ということもあり、異世界でも東洋の美味しいものは知っている。

「あら? お茶まで頂いてよろしいのでしょうか? そうですわね、わたくしもそろそろのどが渇いた頃でしたので……お言葉に甘えさせて頂きたいですわ」

 アンナは、紙コップを受け取り、ミズキからお茶を注いでもらった。
 その後、アンナもミズキのコップへ注ぎ返し、スノウとサクラの分もミズキが注いであげた。

「ミズキさん、お茶ごちそうさま。では、ここで一度、乾杯したいわね!」

 スノウが、お礼を言い、乾杯を呼び掛けると……。

「いいけれど、スノウ? 何に乾杯? 異文化交流に?」

 サクラが、そう答え返すと、スノウは、ミズキを促した。

「はい! では、わたしたちの異文化交流の成功を祈って、乾杯致しましょう!!」
 ここはひとまず、ミズキがまとめ役を引き受けた。

「かんぱーい!!」(スノウ&サクラ)
「乾杯ですわ!」(ミズキ&アンナ)

 ごくごくごく……。
 冷たくも仄かな砂糖で甘い緑茶は、みんなののどをしっかりと潤してくれたのであった。

「さて、異文化交流とは言ったものの……。では、みんなで自分の故郷や家族のことをお話してはいかがでしょうか?」

 ミズキの提案に、他の三人は笑顔で同意してくれた。

「最初は、ミズキさんからどう?」

 スノウは最初の番を、言い出したミズキに振ってみた。
 決して、一番に発表するのが嫌なのではなく、委員長としての配慮からだ。

「かまいませんわよ……。そうですわね……わたしがいたところは、幻想界と陰陽界の中間的なところに位置する世界でしたわ。出自は、シャモン一族の出で、九女という立場ですわね。家系にはサムライマスターや陰陽師などの職業が多くて……現にわたしも陰陽師ですし……。ちなみにわたしの出身世界は東洋世界ですから、イースタにも親近感がありますわ。イースタは電脳国家ですので、わたしがいた世界に比べれば、いくぶん、近未来的ですけれど。今回のイベントに参加してみて……改めて異世界の『東洋』を知り、ある意味で温故知新でしたわ!」

 ぱちぱち、と聞いていた三人は拍手してくれた。
 次は、アンナの番になった。

「わたくしは……異世界『フランス』の出ですわ! フランスではそれなりに名の通ったラクシミリア家の令嬢ですわ。五歳のときに両親に連れられて『日本』というこれまた東洋の世界に移住しましたが……父が楽天家で事業の才能がなく、母は優しいけれど金銭感覚がなかったので、家系は火の車でしたの、お恥ずかしながら! それでわたくし、アルバイトをしていましたのよ。それにしても、あの頃は、『レッドクロス』で悪党どもと戦ったものでした……(遠い目)」

 アンナのスピーチが終わると、みんなで再び拍手をした。
 お次は、スノウだ。

「私の祖父母はノーザンランドの人間よ。父、母、いずれもノーザンランドの出で、マギ・ジスのマギ・ジス大学で出会って結婚して、マギ・ジスに国籍を改め、移住した感じね。だから私は、国籍がマギ・ジスなの。家系は、とても規律にうるさく生真面目だったわね。私も幼少の頃から、一に規律、二に規律、三四がなくて、五に規律、と家訓を教えられたわ。そのせいもあって、わたしは幼少より、常にクラスの委員長で成績も上位だったわ。ある意味で、聖アスラ学院の風紀委員長になったのは必然の結果だったわね」

 やはり、そうだったのか!
 と、スノウの出自の秘密が明かされ、納得していたアンナやミズキであった。

 最後に、サクラが続く。

「で、私の父親というのが、そのスノウのお父さんの弟ですよ。私の父は、当時、マギ・ジスに留学していた頃、イースタから留学に来ていた東洋人女性、つまり私の母と出会い、結婚に至ったわけですね。父の家系は西洋の魔術師家系ですけれど、母の家系は東洋の魔術師家系で、ちなみに母はニンジャマスター。私も幼少から忍術の訓練を受けて来ました。私の場合は、生まれからして混血だったし、幼少時からマギ・ジスもイースタも経験していたから、異文化交流委員会の委員長になったのは、それも必然と言えば、必然だったかもしれないですね」

 サクラの背景も明かされ、アンナとミズキは、なるほどなるほど、と頷いていた。
 さて、話のネタも緑茶ボトルもそろそろ尽きて来た頃なので……。
 四人は、マニフィカやリシェルと合流し、公園内を散歩した後、次の目的地へと移った。


B−3「雑貨屋万華鏡にてお土産編」


 午後も4時を回る頃……。
 一同は、再び、電子空間へ移り、東洋土産地区へ移動した。
 ぴゅーーーっと、一発で移動したものの、雑貨屋「万華鏡」まではやや距離があったので、歩行エレベーターに乗って細かな移動もした。

 雑貨屋「万華鏡」はこの辺り一帯で大きな雑貨屋だ。
 東洋のあらゆるお土産が売られていて、外観もちょっとした東洋のお屋敷であった。
 広々とした木造の三階建てである。

 アンナは東洋土産には何が良い物か、と考えを巡らせたところ……。
 和風の巫女衣装を購入するのが良いと思い至った。
 一度、巫女さん衣装も着てみたいし、本場で一着買っておきたかったからだ。

 店員に案内され、「陰陽のエル・オーブ」コーナーへと移動。
 オーブのコーナーでは、女性向けの巫女衣装、男性向けの陰陽師衣装が展示されていた。
 展示のボックス内には、黒と白で点滅するたまゆらもぴかぴかと入っていた。

「まあ、素敵ですわ! 白黒が左右で反転したデザインはクールですわね! まさに、クール・ジャパン……ではなく、クール・イースタ!」

 アンナがたまゆらを抱えて試着しようとしていたところ、顔なじみの男と鉢合わせた。

「おっ、アンナじゃねえか? アンナもオーブを買って帰るのか?」

 リシェルである。彼もまた、東洋魔術に関心を持ち、オーブ売り場に訪れていたのだ。手元には、男性用オーブのたまゆらを抱えている。ちょうど試着をしに行くところだったのであろう。

「はい。巫女衣装が欲しくて……。リシェルさんは男性用ですので、陰陽師ですわね? 陰陽師に憧れがあるのですか?」

 ははは、とリシェルは、右手を頭に当てて笑い出した。

「ま、記念に東洋土産らしいやつをひとつ購入しておこうと思ってな! だが、俺の場合は、憧れというよりは、『機能』で選ぶかな? まあ、『運命の大選択』のスキルとか、なかなか使いどころに悩む感じだが、回復手段に優れているだろう、このアイテム? 回復手段は多いに越したこたぁないからな!」

 リシェルさんらしい発言ですわね、とアンナが笑い、リシェルもそうかよ、と一緒に笑った。

 ひとまず、二人は、それぞれ、別室に行き、試着することにした。
 やがて、試着室から出て来た二人は……。

「アンナ・ラクシミリア、本日は魔法少女ならず、巫女少女で登場ですわ! 悪霊退散ですわよ!!」

 アンナは、白黒が反転したデザインの巫女衣装に包まれて、華麗に登場!
 東洋独特の和服の萌えが見事に決まっている晴れ姿だ。

「続いて、リシェル・アーキス、本日は盾の魔術師ではなく、陰陽師で参上! アベノセイメイ版リシェルってか!?」

 リシェルは、全体的に蒼色が凛々しい陰陽服に包まれ、颯爽と登場!
 東洋魔術の衣装に包まれて、また一段と魔術師としての素養に開花したような姿だ。

「リシェルさん、お似合いですわ! いっそのこと、陰陽師に転職されてはいかが!?」

「わはは、そりゃないぜ、アンナ! 俺の心はいつもシールド魔術師なんだぜ! アンナの方も巫女姿、似合っているぜ! だが、オタクが多いイースタでその姿は気を付けろ! 萌えだっけ? 萌えは、時と場所次第では、危険につながるって言うしな!」

 互いに衣装を見せ合った二人は、再びいつもの服に着替え直し、レジで購入するのであった。さてさて、25,000マギンの買い物は、高くつくだろうか、それとも値段以上の価値を発揮してくれるのだろうか?

***

 アンナやリシェルが三階のオーブの売り場で品物を見定めていた頃……。
 一階のお香売り場で、ミズキは、様々な匂いを香らせている線香を選んでいた。

「へえ……。色々なお香があるのですわね! さすがはお香の本場、イースタというところかしら? あら? くんくん……。これ、抹茶の渋い匂いがしますわ!! しかも味覚も着いていて、口の中が抹茶に染まる感じですわね!?」

 ミズキがサンプルの抹茶お香の匂いをかいでいると、店員がやって来た。

「おや? お嬢さん? お香をお探しですか? ちょうど今、お客さんがかいでいる抹茶お香なんて超おすすめですよ! 匂いも味も渋い抹茶な上に、なんと、魔力の回復元にもなる優れ物! しかも、煙は次元を超えるので、異世界にだって持って行けるというお得さ! なんと、お値段は、たったの2,000マギン!」

 セールストークを連発する店員の説明を聞きながらも、ミズキはこのお香に心を惹かれるものがあったので、お線香を手に取ってレジに向かった。

(良いお線香が手に入りましたわ! マギ・ジスに帰宅したら、さっそくお香を炊いてみましょう! そうそう、何本か残しておいて実家の兄弟たちにも分けてあげたいですわね!)

 はたしてミズキは、良い買い物が出来たのだろうか?
 お香は匂いも味も良いけれど、もちろん魔力にも良い。
 たぶん、いざというときの魔力補給に役立ってくれることだろう。

***

 マニフィカは、お土産屋で迷っていた。
 迷子になったという意味ではなく、あまりにも色々なものに興味があり過ぎて、どれを買うべきか迷っていたのだ。

 だが二階の仏具売り場で、やっとこれだ! というアイテムに巡り合えたらしい!?

「ふうふう……。魔術博物学を専攻しているせいでしょうか、あらゆる東洋品がもう宝の山に見えて仕方がありませんわ! それにしても、もっとも興味深いのは、この『仏』という概念ですわね! わたくしの出身世界にはありませんし、マギ・ジスにしてみても、信仰対象は『レヴィゼル神』すなわち『神』ですから、仏信仰は基本的にないようです。そして、イースタは『神』よりも『仏』を信仰する傾向が強いとのこと。いったい、『仏』とは何でしょう?」

 マニフィカは、そんな心持で仏具売り場を漁った末に、菩薩のミニチュアに魅入られ、思わず手に取ってみた。

「あら、このお地蔵様なんて、独特な風情が感じられますわね!」

 人魚姫が気に入ったそのお品とは……。
『ミガワリボサツ』というアイテムであった。
『仏』という概念が存在する世界内であれば、戦闘不能からカムバックさせてくれる便利アイテムである。

 そんな菩薩に見惚れているマニフィカに、店員が声をかけてきた。

「おや、お姉さん、観光の方かな? 東洋人ではないね? 東洋の物、珍しいかい? 今、お客さんが手に取っているのは『ミガワリボサツ』だよ。仏様のお導きで、一度、戦闘不能になった霊魂を修復して、肉体を再生させるという強力な東洋魔術が施された逸品さ。お買い得なんで、ぜひ!!」

 店員は親切に説明してくれているが、好奇心の塊のマニフィカは、議論をふっかけてしまう!

「店員さん……。お聞きしたいことがありますわ。そもそも『仏』とはいかなるものでしょう? 文献上の仏教学の教えでは、人はどこから来てどこへ行くのかを悟るため、人々は仏の道に入るのだと読んだことがあります……。わたくしは、いったい、この『ミガワリボサツ』を入手したとして、どこへ向かうのでしょうか? 御仏のお導きという概念は、そもそも実在するのですか?」

 出た、人魚姫の難解なクエスチョン攻撃!
 これに対して、店員は……。

「ええと……。誠に申し訳ありませんが、現在、担当者が外しているため、お客様のご質問にはお答え致しかねます。担当者をお呼びして参りますので、しばらくお待ち頂けないでしょうか?」

 と、悩ましいところ、横から、イースタ人のおばあさんがひょっこりと出て来た。

「お嬢さん、あんたの言う通りだよ! その菩薩様はありがたいお守りなんじゃ! お嬢さんが地獄に落ちないように仏の国へ導いてくれる引導なのじゃ! なんまいだぶ、なんまいだぶ!」

 それでわかったのか、わからなかったのか……。

「お婆様、ご説明ありがとうございますわ! では、仏の国へ行けるよう、ぜひお守りを買わせて頂きますわ!」

 こうして、人魚姫は、激論の末? 菩薩様のありがたいお守りを手に入れたのであった。
 きっと、マニフィカが戦闘不能になったとき、霊魂が地獄へ落ちないように見守ってくれることだろう……。

***

 雑貨屋でそれぞれのお土産を購入した一同は、ひとまず学生寮へ帰ることになった。
 この後、コーテス&トムロウ組とも合流し、女子寮でささやかな食事会をする予定だそうだ。


●Cパート「コーテス&トムロウ組の修学旅行」


C−1「ゲイシャ喫茶蜂蜜檸檬にて昼食編」


 スノウ&サクラ組と校門で別れたコーテス&トムロウ組は……。
 コーテスとトムロウの二人は電気街へ観光に行くのだが、人目を忍ぶ「作戦」もあるため、「少し遅れて出発するから、先に行ってくれ」とスノウ&サクラ組を見送った。

「さて、我が心の友よ! 俺たちは男の花道を遂行するというミッションがある!」
「そうだね、トムロウ君! 男の花道……すなわち、萌え道だね!」

 などと、二人が怪しく話し合っていたら……。

 ぴょん、ぴゅんと、猫がジャンプして来て、コーテスの頭上に乗って来た!

「うぎゃ! なんだよ……!?」

 その猫とは、ラサであった!

「コーテスとトムロウ、今日は一日、よろしくね♪」

 男たちの観光の趣旨をきっと理解していない精神体の幼女は、わけもわからずコーテスたちについて行くことにした。一応、リシェルとは、二手に分かれて行動し、後で情報を共有しよう、ということになっている。

 スノウ&サクラ組の後方を歩いていたリシェルは、何かを思い出したかのように、急いでコーテスたちのもとへ走って戻って来た。

「…ってことで、コーテス、コイツのことは任せたぜ!」

 リシェルはあいさつに戻ったのである。
 ちょっとヤバい展開になって来たコーテスは……。

「は、はい……!! 大丈夫……僕たちがラサちゃんの面倒を見ますよ、ははは……」

 やや青白い表情で笑っていたコーテスだったが……。
 一応、彼とは技能訓練のときの知り合いでもあり、副委員長なので、任せて大丈夫と判断したリシェルは、先発組のもとへ走って帰って行った。

 仕方なく、三人で行こう、としたら……。

「あのう……。ちょっと待って欲しいのである! 私も同行させてもらえないだろう?」

 目玉モンスター萬智禽が一行の行く手を遮った。

「おう、目玉! わりいが、このイベントは男の花道へと通じる道なんで、男限定だぜ! おまえは男なのか? 魔物の外見はよくわからんのですまん」

 トムロウは、念のため、確かめた。

「いや、性別はないのである。だが……アニメと萌えは好きである!」

 ほう、アニメに萌えねえ、とトムロウは頷く。

「よし、テストする! 好きなアニメを語ってくれ! 熱く語れたら同行を許可する!」

 待っていましたのだー、と目玉がキラリと輝く萬智禽。

「実は『奇襲だ! ストラテゴス!』(通称:きすとら)というイースタのアニメにハマッているのである。宇宙艦隊を率いるトラ耳美少女ストラテゴス(将軍)が主人公のSFオペラで、敵軍のJC将軍も含めて登場人物のほとんどがケモノ美少女という萌えアニメなのである。でも宇宙艦隊の戦闘シーンは本格的で大迫力なのである。電気街で『きすとら』キャラのコスプレが見たいというのもあり、同行を志願するのである!!」

 目玉男(厳密には男ではないが)、熱い、熱く語り出す!!
 この熱さにトムロウのオタク魂には火が点いた。

「よし、合格! おまえも来い!」
「よろしく頼むのである!!」

 こうして、萬智禽は同行が許可されたのであった。

 さて、四人で出かけるか……。
 と、電気街へ向かう道中……。

 キラリ、怪しい影が背後から四つ!

 ひとつ、黒いスーツにサングラスの巨大なアメリカン女性。
 ふたつ、同じくエージェント衣装で小柄な座敷童子に同じ姿の鶏、ヘビ、きのこのお供たち。
 みっつ、幅広帽子を深くかぶっている全体的に緑色のお姉さん。
 よっつ、広報部バッジとカメラが輝き、超ミニスカが風で揺れる女子高生。

 この後、熱いバトルが始まろうと言うのだろうか!?

***

 時刻は午前11時半……。
 一同は、ゲイシャ喫茶「蜂蜜檸檬」(はちみつれもん)に到着。

「いらっしゃいませ〜、お殿さま〜!! お姫さま〜!!」

 男の牙城とも言える熱いお城から、世にも美しいゲイシャ・ガールたちが、お出迎えに登場!

「おう、トムロウだ! 今日は予約してあるんだが……」
「トムロウ様、おかえりなさいませ〜! いつもありがとうございま〜す☆」

 ゲイシャ・ガールの熱い歓迎を横で見ていたコーテスは、ますますトムロウを尊敬するのであった。

 そして、四人は、予約席へと通される。

「さあ、メニューを確認するぜ? 本日、俺たちは学割が効いた値段で、以下のランチが頼めるぞ! Aランチ ゲイシャさんめぎめぎおにぎり 1000マギン。ゲイシャ・ガールがその場でにぎってくれるポテトチップス味のおにぎり。Bランチ ゲイシャさんオムライス 2000マギン。ゲイシャ・ガールがオムレツ部分に絵や文字を書いてくれる特製オムライス。Cランチ ゲイシャさんスペシャル 3000マギン。ゲイシャ喫茶特製の超大盛り味噌ラーメン。通常のラーメン5倍分の大きさ。全て食べ切るとサイン色紙で自分の名前を店に残せる。……って、とこかな?」

 メニューのカタログを眺めながら、コーテスは迷っていた。

「ううん……どれも良さそうだけれど……全部は食えないね……。トムロウ君はどうするの?」

「わはは! 男なら、がつりとCランチだぜ! 超大盛り味噌ラーメンを平らげて、ゲイシャ・ガールたちに尊敬されるのさ!」

 コーテスは目を輝かせて燃えた。

「よし、僕は、それ!!」

「うん、ボクも!!」

 コーテスに続き、ラサもどうやらCランチがいいようだ。

「萬智禽はどうするよ?」

 トムロウは、一応、リーダーなので、他の参加者にも確認を促す。

「Aランチがいいのだな。『ゲイシャさんめぎめぎおにぎり』で! できれば、のり塩ポテチ味でお願いしたいのである」

「おう、それで頼もうか!」

 さて、四人分のランチが決まった。
 トムロウがゲイシャを呼び、ウェイトレスが注文を聞きに来たとき……。

「いいなー、みんなカワイイね! ボクもあんな格好してみたいな!!」

 ラサがゲイシャに立候補した!

「おう、いいぜ、ラサちゃん! ぜひ萌えてくれ! ヘイ、ゲイシャ・ガール、萌え猫ひとつプリーズ!!」

 謎の掛け声を叫ぶトムロウに、ゲイシャさんが反応!

「かしこまりましたお殿さま〜! そちらのお姫さまが萌え猫ですね〜!!」

 なんとラサ、この後、ゲイシャ猫衣装で萌えて登場だ!

***

 男たちは熱く燃えていた……。
 五人前はざっとあるという、超大盛り味噌ラーメンをがつがつと平らげる!!

(はあはあ……そろそろきつい……!! だが、フードファイター・コーテスの名に賭けて……ゲイシャ・ガールの尊敬を得るため、完食!!)

(ふうふう……心の友よ、さすがにできるぜ! 俺も……そろそろきついな……。だが、しかし……俺は……生きる!!)

 なんとバカコンビの二人は、死ぬほどの無駄な根性を見せて、Cランチ、完食!!

 そして、二人が完食すると、ゲイシャさんたちは、尊敬の眼差しで微笑み、黄色い声で叫びながら、祝ってくれた。

「お殿さまたち、おめでとうございま〜す!! ぜひ記念にサインくださいね〜!!」

 ゲイシャ・ガールたちが、ぞろぞろと集まってくる。
 もはや店総出で、お祝いだ!

「う、げぷ……。おう、ゲイシャのねーちゃん……ちぇきも頼む!」
「はーい、ちぇきですねー!! 完食したお殿さまたちには、ちぇきも特別につけますよー!」

 ちぇき……とは!?
 ゲイシャさんたちと一緒に写真に写れる名誉な撮影のことである。

「いえーい、いえーい、ちぇき、ちぇき、いやっほー!!」

 コーテス、ついにネジが外れた勢いで怪しく叫び出す!
 トムロウも続いて、叫びながら、両手でピースして、がはは、と大笑い!!

「はい、ちぇき、ちぇきだよ、お殿さまたち〜!!」

 そこにひとりの女子高生、乱入!

 カシャリ!
 と、シャッターを切ったうちのひとりは……。

 なんと、未来だった!

 ぶはー、と軽く吐くコーテスだった。

「げっ……。未来さん!! なぜ、ここに!?」

 まるで浮気した男をとっちめる女房かのように、未来は詰め寄る。

「なにやっているのかな〜、副委員長!? どちらにしても、いまの萌えを堪能していたところは、異文化交流の記念写真として広報部に提出するね〜!!」

 オーマイガッツ、のポーズでへこむコーテス!

(こんな感じ → orz )

 一緒に、オーマイガッツ、と続くトムロウ!

 そんなふうに二人が激写されていた一方で……。

「わーい! オムライスの絵ってこうやって描くんだー!」
「そうよ、そう! 上手ね、ラサちゃん!」

 ラサはゲイシャたちのお手伝いをして、一緒にオムライスにケチャップで猫の絵を描いていた。

 あ、いけない、と思いだしたかのように、ラサがとことこと、落ち込んでいる二人のもとへやって来た。

「そう言えば……Cランチ、来ていたけれど……。ボク、食べられないんだった! 二人にあげるよー♪」

 ラサは冷めたCランチを丸ごと、二人にプレゼント!!

 ゲイシャさんたちは、お殿さまたち、がんばれー! と黄色い声援で大合唱!!

「コーテスよ……。時に男の花道とは修羅の道だ……。男なら、覚悟を決めろ、いいな!?」
「ああ、トムロウ君……。ここで逃げたら……男がすたる!!」

 そういうことになり、二人は超大盛り味噌ラーメン二杯目を仲良く分けて食べたとさ☆

 ちゃらりらりん♪ コーテスとトムロウの男レベルが上がった!!
(しかし、後で吐いたのは内緒!)

***

 一方、バカ二人の真似なんか、もちろんやらない萬智禽は……。

「ゲイシャさんめっぎめぎおにぎり、のり塩ポテチ味ですよ〜、お殿さま〜!!」

 めぎめぎおにぎり、到着!!

「うほーい!! やったのだー! めぎめぎ頼むのだー!!」

 目玉のお殿さまもご満悦!

「めっぎ、めぎめぎ、めっぎ、めぎめぎ、めぎゅーん☆」

 ゲイシャさんが砕いたポテチをプレーンのおにぎりに練り込みながら、にぎにぎ、めぎめぎ!
 ゲイシャ・ガールの手の塩加減も加算され、おにぎりはますます萌えな食べ物に変化!

 やがて、握り終えたおにぎりは……。
 萬智禽の念力により、ぴぴぴ、と浮上して……。

 ぐしゃり!!

 いつもの如く、目玉の魔物は、一撃でおにぎりを食べ尽くした!

「きゃー、お殿さまったら、ワイルドー!!」

 なぜかゲイシャ・ガールたちの人気を博し、萬智禽はニタニタと笑っていたそうな……。

***

 さて、コーテスたちの珍事件が起こる少し前のことだが……。

「いらっしゃいませ〜! お殿さまにお姫さま〜! 二名さまですね〜?」

 ゲイシャ喫茶に、黒服サングラスの謎のエージェント参上!
 巨体のアメリカンレディことレディJ、小さな座敷童子ことミスターBとその子分たち。

 現在、作戦コード「踊るコーテス捜査線」の仕事中なので、ゲイシャさんたちとのあいさつも軽く交わし、そそくさとカウンター席に移動。

 ターゲット:コーテス&トムロウ、ロックオン!

 どうやら、標的はメニューを頼むところだ。
 こちらも遅れを取るわけにはいかず、さっそく頼むことにするエージェントたちだった。

 ところで、解説を求めるのはもはや愚問であろう。
 そう、レディJはジュディであり、ミスターBはビリーであり、子分たちはランマル、リキマル、ボーマルである。

 何を隠そう、今回のイベントにおける風紀の会議にオブザーバーとして参加したジュディは、かねてから相棒(?)コーテスの奇特な行動に疑問を抱いていた。しかもジュディは教員でもあるので、学生を指導する立場としてもこれは見逃せない!

(ムム、怪しいデース、コーテス、怪し過ぎマース!!)

 ということなので、ビリーに相談したのだ。
 すると、ビリーも……。

(ムムム、怪しいねん! むっちゃ怪しいやんけ!!)

 そういうことで、合意した二人は、シークレット・エージェントに成りすまして、本日、コーテスを追跡することに決めたのであった。

 なお、追跡は割と楽であった。
 既に萌えでボケているコーテスとトムロウは腑抜けとも言えよう。
 しかし、ときどき、ラサや萬智禽に感づかれそうになったので、ビリーは「神足通」で、ジュディはアクロバティックなジャンプで、なんとか身を隠して追跡を遂げたのであった。

「お姫さまとお殿さま〜! ご注文はお決まりですか〜?」

 メニューもそろそろ注文を決める頃だ。
 ジュディは、Cランチを、ビリーは、Bランチを頼んだ。

「とりあえず、四つプリーズ♪」

「二つで充分ですよ! わかってくださいよ〜」

 注文際に、ジュディはゲイシャさん相手に、なつかしい映画のワンシーンを再現してみたのであった。

 さて、追跡、続行……。

 Cランチをがつがつ食べているコーテスたちをちらちらと見ながら……。
 ついに、ビリーとジュディの注文も到着だ。

「お殿さま〜! オムライスにはどんな絵をお描き致しましょうか〜?」

 腕を組んで悩むビリーだったが、すぐに決まる!

「『秘技!幸せのおすそ分け』で頼むねん!」

「かしこまりました〜!!」

 ゲイシャさん、きゃっきゃうふうふ、めぎめぎきゅーん、としながら、女子力高めに描写! オムライスには、ビリーが幸せそうにしている顔が描かれた!

「おお! 感動したねん! さすがは本場のゲイシャ喫茶やないか!?」

 ビリーは、さっそくオムライスをお供たちと分け合いながら、ばくばくと食べだす。描かれていた幸せそうな絵は一瞬で食べ去られた!

 そして、ジュディは……。

「超大盛り味噌ラーメン、頂くデース!! コーテスたちには負けマセーン!!」

 ジュディ、五杯分とも言われる、超サイズのラーメンをがっつがつと食べ始める!
 注文が来たのはコーテスたちの方が早かったが、ジュディは負けまいと、追跡対象たちをちらちらと見ながらも、猛烈な勢いで麺を、具を、スープを駆け込んで行く!

「ふれー、ふれー、ジュ・ディ・ー! ファイトやでー!!」
「コケコケー!!」
「シャー、シャー!!」
「べろべろろーん!!」
「きゃー! お姫さまー、がんばってー!!」

 ビリー、ランマル、ボーマル、リキマルも大合唱でジュディを応援。
 ゲイシャさんたちも続き、ちょっとした応援団が即席で編成!

「ワッハッハ! まずは、一杯フィニッシュね! さあ、二杯目行きマース!!」

 胃袋底なしジャイアント・レディは、二杯目も物ともせず一瞬で喰らい尽くす。
 さすがにこの有志を目の当たりにしては、ゲイシャさんたちも大喜びだ!

「きゃー!! お姫さま、素敵ですー!! ぜひサインしてくださいねー!」

 ゲイシャさんたちに温かい拍手で迎えられ、ジュディはサイン色紙に自分の名前をサインして、またもやフードファイトの歴史を一歩、更新したのであった。

 しかしさすがにお約束で、この騒動はコーテスたちにはばれなかったとさ。
(なぜなら、コーテスたちは、ラサに押し付けられたCランチでエグり、大惨事の最中だったからだ……)

***

 最後に、忘れてはいけないのは、この人……。

(公園とかより、街の方が色々あって面白そうだよねぇ! って、ことで、なんだか、こそこそしてるコーテスの後についていってみたけれどぉ……。うわぁ、高い建物がいっぱい、壁に絵が描いてあるよぉ? ここでご飯を食べるのかなぁ?)

 天然植物系お姉さんこと、リュリュミアは追跡の末、追跡班の中では最後にゲイシャ喫茶へとたどり着いた。気配を消すのは彼女なら簡単だ。追跡されている対象たちが、振り返ったとき、植物と同化すれば変装完了だからだ。しかし、さすがにビリー、ジュディ、未来からは遅れを取ってしまった……。

 ともかく、ゲイシャ喫茶に入り……。

「いらっしゃいませ〜! お姫さまはおひとり様ですか?」

「うん、ひとりぃ。うふふぅ〜、ゲイシャさんって面白い髪形してるねぇ? ちょっと触ってみてもいいかなぁ?」

「はい、どうぞ!」

 ゲイシャさんのゲイシャヘアーをなでなでするリュリュミア!
 早くも東洋文化を満喫しているところだろうか……。

 ともかく、席に通された。
 コーテスたちの席では、既に未来が合流している。
 ジュディたちの席では、ジュディが大食いしているようだ。

「ご注文はいかが致しましょうか〜?」

 ゲイシャさんがメニューのカタログをくれたが……。

「あ、ご飯に絵を描いてるぅ! リュリュミアもお花の絵を描きたいですぅ!」

 周りの人たちが、オムライスを食べているのが気になったらしい。
 そういうわけで、注文はBランチになった。

 やがて、オムライスが来ると……。

「お姫さま〜! どんな絵をお描き致しましょうか〜?」

「リュリュミアもお花の絵を描きたいですぅ!」

「かまいませんよ〜! お姫さまご自身で描かれるのですね〜?」

 ゲイシャさんから簡単に描き方を教わり、リュリュミアのオムライスは、花柄となった。

「こういう遊びは楽しいですぅ! でわ、いただきま〜すぅ!」

 リュリュミアは、ゲイシャ喫茶で花柄のオムライスを満喫できたようだ……。


C−2「ゲーセン電光石火にてゲーム大会編」


 コーテスたちは、ゲイシャ喫茶で一悶着あった後、どうにかして、次なる交流場であるゲーセン「電光石火」へたどり着いた。(距離的には、同じ電気街の中なので、そう遠くはなかった。時刻も午後1時を回ったところだ)
 なお、未来に萌えのインタビューまで受けて、バカコンビは、たじたじだったという……。

「わー!! この中って、本当に広いね、トムロウ君! まるで宇宙空間みたい!!」

 ゲーセン内部は、宇宙空間を行き来する流星たちがイメージされている。
 映画の中のサイバーパンクのような世界観が再現されていた。

「えー、こちら、ゲーセン『電光石火』。では、ただいまより、ゲーム大会を始めたい!ゲームは文化、ゲームは歴史! さあ、ゲームオタクどもよ、共に熱く『うにうに7』で戦おう!」

 トムロウは案内役らしく(?)熱い口調で解説を始め、ともかく、ゲーム大会が始まった!

 内容は、『うにうに7』の勝ち抜きトーナメント戦となった。
 参加者は、トムロウ、コーテス、ラサ、萬智禽。
 未来はこの様子を取材するらしい。

「ねえ、トムロウ! 参加者が四人だけというのもさびしくない?」

 コーテスの頭上にいるラサは、率直な疑問を問いかける。

「参加者を一般から募ってはいかがだろう? もう何人か、飛び入りで入ってくれる人がいた方が盛り上がると思われるが?」

 萬智禽も一応、確認のため聞いてみる。

「おう! そんなこともあろうかと、今、俺は、『うにうに7』のネットワーク機能をいじっていたんだ! この機能でゲーセン内部全体に呼び掛けたんで、今、『うにうに7』の画面前にいる奴ら全員を招待した! しかし、全員が参加するとは限らんが……。まあ、もう二、三人くればいいんじゃね?」

 そうこう話しているうちに……。

 ぴこん!
 ぴこん!
 ぴこん!

「おっ!? さっそく三人キター(>。<)!!」

 トムロウがぴぴぴ、と機械を操作し、三人分のプレイヤーを確保した後、しめ切った。

「ええと、なになに……。その三人は……レディJ、ミスターB……ふうむ、あまりここら辺じゃあ名前を聞かない奴らだな? あとは……リュリュミア? ん? どこかで見たことのある名前だが……」

 トムロウが名簿を呼びあげていると……。
 すぐ近くの『うにうに7』台の前で、リュリュミアが笑顔で手を振っていた。

「ああ……リュリュミアさんまで……!! さっきの未来さんといい、僕たち、……追跡されていたんだね……」

 笑顔で手を振り返したが、コーテスは「作戦」がほぼ失敗していることを改めて理解し、がっくりと首を垂れていた。

「それで、トムロウ殿。トーナメント戦はくじで決めるのだろうか?」

 萬智禽にそう質問され、トムロウはニヤリと笑う。

「まあ、くじと言えばくじだな! この機械が自動的にランダムで決めてくれぜ! それ、ぴぴっとな!!」

 ぴぴっ!

 トーナメント戦の対戦は以下のようになった……。

***

第1回戦目

・コーテスVSラサ

・トムロウVSミスターB

・リュリュミアVSレディJ

・シード 萬智禽

***

 では、さっそくコングが鳴った!
 カーン、コロロローン!!

 コーテスの画面とラサの画面にうにを入れる箱が登場。
 箱の中に、七色のうにうにたちが、うにうにと沸いて来た。

コーテス「ラサちゃん、悪いね! 僕、このゲーム、得意なんだよ!」

 コーテスは、さっそく赤色のうにうにたちを次々と消し、ラサに攻撃!
 ラサの箱に赤色のうにが降って来た!

ラサ「え? なにこれ!? どうやんの? ん……やった! 消えたよー!」

 ラサは、適当にいじっていたら、青うにうにたちを消し、コーテスに攻撃!
 実はラサ、ゲーム自体が初めてのようだ……。

コーテス「わはは! 残念だけれど……ゲームの世界は非情なんだ!!」

 コーテスは次々と連鎖で消し、ラサの箱に緑、オレンジ、紫のうにうにたちを、どかどかと降らせた!

未来「おーっと! コーテス選手、非常に大人げない! 子ども相手に本気出して、潰しにかかろうとしているよ! 悪いオタクお兄さんの見本だね!」

ラサ「うわーん! コーテスのバカー!!」

 ラサの箱は次々とうにうにで埋まり、もはや手が出ない。
 誰もが、コーテスの勝ちを確信したそのとき……。

 どんがらがっしゃん、ぴこぴこ、ぴろりろりーん☆

 ラサの箱で恐ろしい巨大連鎖が奇跡的に連発!
 ほぼ満タンだったうにうにたちが、でたらめな組み合わせの連鎖で一気に消滅!
 反面、コーテスの箱は一瞬で詰まってゲームオーバー!!
 萌えなお姉ちゃんの水着姿が出て来て、ラサ、ユーウィン!!

ラサ「わーい!! なんか知らないけれど、勝ったよー!!」

トムロウ「うむ。これぞビギナーズラックだな!」

コーテス「本日、二度目の……オーマイガッツ!! orz」

***

 次の試合のコングが鳴った!
 カーン、コロロローン!!

 トムロウの画面、そして今、この場の近くにはいないミスターBの画面に、箱が登場し、うにうにたちが沸いて来た!

トムロウ「おい、ミスターB、よろしくな! わりいが、手加減する気はないんで!」

ミスターB「よろしく頼むねん! ボクも本気出してがんばりまっせ!」

 さあ、次の試合がスタートした直後……。

 トムロウが凄まじい勢いで高速単発連鎖攻撃を炸裂!!
 ミスターBの箱、次々とうにうにが埋まり、さっそくピンチ!

トムロウ「もらったー!!」

ミスターB「あきらめたら、そこで試合終了やー!!」

 どっかーん! もくもくもく!!

 お助けアイテム、超絶爆弾カードが炸裂!!
 ミスターBの箱から一気にうにうにたちが死滅!

 その反動で、トムロウの箱に大量のうにうにが落下!!

トムロウ「うおっ!? なんだ、こいつ!! いきなりラッキーアイテムの最強カードを使ってくるとは!?」

未来「おっと、トムロウ選手! 試合開始そうそう大ピンチ!! 萌えリーダー、一回戦目で敗退かー!?」

 この後、トムロウは必死でうにうにを次々と消して行くが、ミスターBのラッキーアイテム攻撃に耐えられず、一気に撃沈!

トムロウ「うおおおおおおおおおおお!! 本日、二度目のオーマイガッツ!! orz」

未来「試合終了! コーテス選手に続きトムロウ選手、まさかの萌えコンビ敗北!」

ミスターB「良き試合だったで、おおきに! 楽しかったで!」
(なんて、実はこれ、幸福を招く妖精の強運でやっているだけやけれど! ま、運も実力のうちや!)

***

 第一回戦目、最後のコングが鳴った!
 カーン、コロロローン!!

 リュリュミアの画面には箱が出て来て、うにうにも沸いて来る!
 一方、どこかにいる対戦相手レディJの箱にもうにうに登場!

リュリュミア「よろしくねぇ〜! 実は、わたしは全然遊んだことないけどぉ。同じ色のうにうにを集めたらいいんだぁ? とにかく、うにうにでいっぱいにならないように、端からどんどん消していくですぅ!」

レディJ「ヨロシクネ! ソウネ、ウニウニのプレイ方法、ソウスルネ! バット、今は、ゲーム大会! アマチュア相手でもガチでイクからネ〜!!」

 試合が開始されると同時に、リュリュミアは、不器用にひとつひとつ、同じ色のうにたちを消していくが……。

 対するレディJは、いきなり、必殺技の早撃ち連鎖(高速の単発連鎖)を華麗に駆使!
 レディJの攻撃が見事に決まり、リュリュミアの箱には次々と、赤、オレンジ、緑、紫のうにたちが降って来る!

リュリュミア「うわ〜ん! なにこれ、すご〜いぃ!!」

未来「リュリュミア、ファイト! 自分が消すうにをよく見て!」

 しかし、ゲーマーとしての腕の差であろうか、リュリュミアがいくらちょっとずつ消して行っても、その速度を遥かに上回る速さのうにうに落下攻撃に耐えられず……。

 悲しくも、リュリュミアの箱がうにでいっぱいでゲームセット!
 水着のお姉さんが、レディJ、ユーウィン!

リュリュミア「はぁ……負けてしまったわぁ……。でもありがとぉ〜、楽しかったわよぉ!」

未来「どんまい! 良い試合だったよ!」

レディJ「サンクスネ! エンジョイしたネ!」

(この後、勝利したレディJは、台の前にてマギジック・レボルバーでガンスピンし、ギャラリーを沸せていたらしいが……コーテスたちの目には留まらなかったそうだ……)

***

第2回戦目

・ラサVSミスターB

・レディJVS萬智禽

備考:萬智禽は、第1回戦目はシードだったので不戦勝。

***

 第二回戦目、最初のコングが鳴った!
 カーン、コロロローン!!

ラサ「ミスターB、よろしく! 素人だけれど、ボク、がんばる!」

ミスターB「ほな、よろしくな! ボクも素人やで、お互いにがんばりましょ!」

 ラサ、ミスターB、両者の箱にうにが沸き、ゲーム開始!

ラサ「ええと、連鎖は……」

ミスターB「アイテムもらいまっせー!!」

未来「ラサ、落ち着いて!」

リュリュミア「わーい! 応援に来たよぉ〜! がんばれぇ〜!」

コーテス&トムロウ「orz」

 ラサが連鎖の組み方に戸惑っていたところ……。
 素人だと名乗ったはずのミスターBのところに、バナナカードが!

 ラサの箱にバナナが落ちてくる!
 せっかく連鎖するところ、バナナでスリップして、そんなバナナの連鎖不発!

ミスターB「もらったねん!!」

 そこでミスターB、今度はゴールドうにうにが現れ、次々と連鎖!
 一気にラサの箱がうにたちで埋まって行く!!

ラサ「奇跡よ……!!」

 しかし、二度目は起こらなかった。
 ラサ、ビギナーズラックが尽きて、あっさり敗退!

ラサ「うわーん! やっぱりこれ、素人には難しいゲームだー!」

未来「ラサ、どんまい! 今度、やり方教えてあげるよ!」

ミスターB「良き試合、おおきに!」
(うっしっし、またもや強運で勝利してしまったねん!!)

***

 第二回戦目、最後のコングが鳴る。
 カーン、コロロローン!!

 一回戦目で華麗な連鎖攻撃を見せて圧倒したレディJ、そしてシードで勝ち進み、実力が未だに不明の萬智禽が対戦だ。

 両者の箱にうにうに発生!
 さあ、この戦い、次はどうなる!?

レディJ「ヨロシクネ! ガンガン、行くデース!!」

萬智禽「ふふふ……。実は私、何気にパズルゲームは強いのだ。覚悟されたし!」

未来&ラサ「がんばれー!!」

リュリュミア「楽しみねぇ〜!!」

コーテス「ん? レディJの話し方って……まさか、ね……」

トムロウ「そろそろ立ち直るか……orz」

 さあ、まずはレディJ、余裕の先制攻撃!
 次々と高速連鎖で、赤、青、緑、と萬智禽の箱を攻撃!
 目玉魔物、危うしか!?

萬智禽「むむ……なかなかやるであるな……ははは……」
(ここは我慢の子なのだ! ここで、敵を引きつけて……)

レディJ「ヘイ、ユー!! 本気、出すデース!! 楽勝に勝ってしまいマース!!」

未来「おっと、萬智禽選手、いきなりの敗退か!? しかし、なんか仕草が怪しい!? もしや、これは策略では!?」

ミスターB「レディJ、なんか嫌な予感するねん! 気を付けるやんけ!!」

ラサ「ん? BとJは知り合い?」

 萬智禽の方も、途中で小さい連鎖を何回かやっていたが……。
 さすがにレディJの方が連鎖速度は早く……。
 誰もが、勝利の行方が見えた!
 と、思ったそのとき……。

萬智禽「秘儀、777攻撃である!! さらば、レディJ!!」

レディJ「ワッツ!?(なんと!?)」

 最後の最後で、萬智禽の箱のうにたち、巨大連鎖を炸裂!
『うにうに7』の7色のうにで虹色の7連鎖攻撃……。
 まさに公式も認める奥義の一種、777攻撃が完成した瞬間だった!!

 レディJ、もはや成す術もなく、一気に敗退!
 水着のお姉ちゃんが、萬智禽、ユーウィン!!

レディJ「グレイトネ、ビッグアイ!! ナイスゲーム、サンクス!(良い試合をありがとう!)」

萬智禽「うむ。こちらこそありがとう。なかなか良き試合だったのだ!」
(あれ? こちらの姿は見えているのだろうか? ビッグアイは巨大目玉のこと?)

未来「素晴らしい試合だったねー! ビデオにもばっちり収めたよー!」

リュリュミア「うん。やっぱり観ている方がおもしろいわねぇ〜」

***

決勝戦

・ミスターBVS萬智禽

***

 いよいよ雌雄を決する時が来た。
 方や、アイテムの発動率と使い方が天才的なミスターB。
 一方で、777攻撃といった奥義まで使えるプロ級ゲーマー萬智禽。

 コーテス&トムロウ組のグループのみならず、ゲーセン中のプレイヤーたちの注目を集める世紀の対戦が始まる!

 最終決戦のコングが鳴った!
 カーン、コロロローン!!

 ミスターBと萬智禽、両者の箱にうにが発生!
 両者とも、試合開始早々、なかなかの接戦だ!

ミスターB「よっしゃあ! 透明カードやねん! これで邪魔してやるやんけ!」

 透明のうにたちが降って来て、萬智禽、連鎖が組み難い!?

萬智禽「なんの! うにの位置は記憶済みなのだ! たしか、ここが赤! ここが黄! それ、お返しなのだ!」

 萬智禽は、透明のうにですらも高速で単発連鎖をした後、バナナカードを返す。
 ミスターB、バナナの皮でうにがスリップして、そんなバナナ!

ミスターB「くっ……。今までの相手とは訳が違うねん! こやつ、相当のゲーマーやん! だが、しかし!!」

 ミスターB、いきなりダイナマイトカードを引き当てた!
 ダイナマイトが次々とBの箱内で小爆発を繰り返し、萬智禽の箱がうに大量でピンチに!!

萬智禽「Bよ……。運頼みなのだな!? だが、しかし!!」

 なんと萬智禽、777攻撃以外にもテクニックを持っている!
 ミサイルカードを引き当て、高速連鎖をさらなる最速で加速連発!
 ミスターB、いっきに箱がうに大量でピンチに!

 さて、そろそろ決着をつけるべきときだろう……。
 両者ともに、切り札を切る……。

ミスターB「超絶爆弾カード、3回連続連鎖やー!!」

萬智禽「777攻撃、3回連続攻撃なのだ!!」

 どかどかどっかーん☆
 ちゅどーん☆
 どかああああああああああああああああああん!!!!!

 ぴー、ぴー、ぴー!?
 ゲーム機、故障か……!?

未来「おっとー! これはどういったことかー!? まさかの超絶バトルにより機械が故障ということ!?」

トムロウ「係員、呼んでくるよ……」

 そして、係員が現れ、ちゃちゃっと、機械をいじったら……。
 試合終了画面が、ざああああ、と鮮やかにカムバック!

 判定は……。
 萬智禽がユーウィン!!

 ちゃんちゃかちゃん♪
 萬智禽は、称号「ゲーム大会優勝者」を手に入れた!

萬智禽「ふう……。勝ったのだ……。まさにこの大会はゲーマーの意地とプライドを見せた熱い戦いだったのだ……。ミスターBよ、機会があったら、また一勝負頼みたい!」

ミスターB「はは……。負けてしまったねん! でも楽しかったで! またやろうな!」

リュリュミア「うふふぅ〜。すごい戦いだったねぇ〜!! 楽しかったわよぉ〜!」

ラサ「うん! どっちもすごかった!」

レディJ「ナイスファイト、ネ! 感動したネ!」

未来「さて、萬智禽選手の判定勝ちで終了したゲーム大会! このゲーム大会は広報部のビデオに収められたので、みんなの記念になるね〜! おめでとう〜!!」

コーテス「まあ、いろいろあったけれど……。楽しいゲーム大会でした! ……と、副委員長らしくまとめてみる……」

トムロウ「おう、みんなここまでお付き合いありがとな! では、ここで大会終了! お開きになった後は、電気街でお土産でも買いに行こうぜ!」


C−3「モエジマデンキにてお土産編」


 モエジマデンキは、電気街を代表する総合電気ショップである。
 巨大な摩天楼の中に、ありとあらゆる電化製品や萌え製品が販売されているオタクの牙城である。

 それぞれ、メンバーは買いたいものがあるらしく、商品別に沿って別々に行動することにした。

 まずは、ゲームショップへ行く一同は……。

 ショップ付近では、売り子のお姉さんたちがいて……。

「いらっしゃいませ〜! ゲームはいかがですか〜」
「本場イースタのおもしろいパソコンゲームがいっぱいありますよ〜」

「おおっ!? あのお姉さんたちは間違いなく……」

 ごくり、と唾を飲む萬智禽。

「うん、そうだね……あれは!!」

 コーテスも、ごくり、と続く。

『きすとら(なのだ)だ!!』

 コスプレしているお姉さんたちは、それぞれ、ストラテゴスとJC将軍だった。
 ケモノ耳や尻尾も健在である。

「へえ〜! そうなんだ!? コスプレか〜、おもしろいね?」
 事情がよくわからないラサは、コーテスの上で、ひとまずそういう反応だ。

「お姉さん! 探し物があるのだ! 『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』はどこなのだ? 難易度『超ベリーハード』モードもあるというあの修行ゲーを探しているのだ!」

 ゲームショップのラインナップは煩雑だ。そこで萬智禽が素早く見つけられるよう質問してみる。

「あちらですよ〜! あの山積になっているコーナーありますよね? 萌え武将の等身大ポスターがあるところ? そこですね〜」

「ありがとうなのだ!」

 だが、コーテスと萬智禽が向かった先には、先客がいた。

 謎の黒服エージェント、レディJが、『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』を手に取って見ていた。

「フウム……。マギ・ジスタン・ワールドの戦争SRPGデスカ!? これは、夜間警備の暇つぶしにいいネ! オウ! このゲームをプレイするパソコン、なかったデース! ゲームとパソコン、両方、欲しいデスネ!」

 迷っているレディJの肩を、コーテスがとんとんと叩いた。

「あの……。ジュディさん、ですよね?」

「ワッツ!?(なに?) アイム・ノット・ジュディ!! アイム・レディJ! アイム・シークレット・サービス!!(私はジュディではありません! レディJです。シークレット・サービスですよ!)」

「その……。ジュディ殿、だな?」
「うん……。どう見てもジュディだね……」

 萬智禽とラサも、やはり……と、正体を見抜くが……。

「フウ……。バレましたか? コーテス、ユーの推理を聞きましょう! どの時点でジュディ=レディJとワカリマシタ?」

 なぜか推理劇になったが、コーテスは探偵っぽく続ける。

「うん……。今、ですね! あなたはどう見ても、ジュディさん!」

「いや、コーテス殿! さっきのゲーセンの大会の時点でレディJはいたのである。あの時点で彼女がジュディ殿だったと気づくべきでは?」

「それもあるけれど……。最初のゲイシャ喫茶に行くときに尾行されてなかったっけ? あの時点で、レディJはいたのかも?」

「オウ! 萬智禽にラサ、正解ネ! コーテス……まだまだヨ!!」

 ともかく、四人は改めてゲームを買うことにした。

「すまない、そこの店員殿! このゲームを欲しいのだ! いくらなのだ?」

 萬智禽が代表して、そこらへんにいる店員を呼び止めた。

「はい、1万マギンですが……」

「ですが?」

「あなた……もしかして、さっきのゲーム大会優勝者では? 優勝者には、特別で50%引きの優待遇があります! 5,000マギンで購入できますよ!」

「おお! さすがはゲーム大国イースタなのだ! では、ぜひそれで!! ああ、あと……中古のパソコンが必要なのだ。このゲームをやる手頃なパソコンを持っていなくて……」

「パソコンとなれば……。Moendows7なんていかがでしょうか? 萌えゲーをプレイすることに特化したパソコンがほぼ新品のような中古で買えますよ! 今なら特別で、2万マギン! 優勝者特別価格50%引きで、1万マギンでどうです!?」

 おお、さすがは優勝者の貫禄!
 パソコンまで安くなるとは!
 一同は、この展開に目を丸くしていた。

「オウ! ジュディもMoendows7、欲しいデース!! ジュディもディスカウント(割引)デキマース? ジュディは、レディJとして先ほどの大会でも活躍したデース!!」

 電気街では値引きは常套手段!
 レディJも負けじと参戦。

「ううん……では……10%引きで特別にOK!」
「イエース! サンクスネ、買いマース!!」

「わー!! 僕も、僕も!! 僕もさっきの……ゲーセンの大会で……がんばりましたー!!」

「ええと……あなたは子どもに一回戦負けした兄ちゃんでしたか? よし、あなたは1%引き!」

「ひえーん、そんなー!! でも1%引きでも……ありがとうです……」

 コーテス、1%引きでもうれしき泣き!

 一方、ラサは、パソコンゲームではなく、携帯ゲームを見ていた。
 先ほど遊んだ「うにうに7」の携帯機に興味を持ったようだ。

「店員さーん! ボク、これ!! これ、値引きない? ボクもゲーム大会、がんばったよー!」

「ええと……。『うにうに7ポータブル』かい? それは、1万マギンだ! そうだな……じゃあ、あんたも10%引きでどうだい?」

「わーい!! ありがとー!! あとでリシェルたちとこのゲームで遊ぼー!!」

 ゲームショップ組は、値引きの末、それぞれが欲しいゲームを手に入れたようだ。

***

 次に、フィギュア売り場では……。

 場所を見つけるまでが少し複雑だったので、リュリュミアはトムロウに案内されて、フィギュア売り場までやって来た。

「どうだい、リュリュミアさん? フィギュア、気に行ったのが見つかりそうかい?」

 トムロウは気軽にそう問いかけるが、このフィギュア売り場、恐ろしい数の人形で埋め尽くされていた。「巨大ロボットもの」のフィギュアから、「魔法少女」や「きすとら」のフィギュアまで勢ぞろい!

「う〜ん……。どれにしよぉ〜!? わ〜、やっぱり魔法少女は本場よねぇ〜! この人形すごーい!! 恐ろしくリアルよねぇ〜!! あ、ちっちゃくてカワイイ人形がたくさんありますぅ!」

「わっはっは! それは『魔法少女レヴィ』フィギュアのリアル版だな! 東洋随一の人形師が丹精込めて造った逸品だ! ちなみに戦闘で使用すると、萌え地獄の呪い攻撃なんかもあるぜ!」

 へぇ〜、そうなのぉ〜、とリュリュミアは感心しながら聞きつつ、人形の手足をいじって遊んでいた。

「このレヴィってお人形、ちょっとアンナに似てますかねぇ。誘ってくれたお礼に、プレゼントしようかなぁ?」

「おう、いいんじゃねえか! イースタの人形はプレゼントにも喜ばれるって評判だぜ!」

 トムロウはそうコメントを返すと、店員を呼んで来てくれた。
 2万マギンはちょっと高い出費かもしれないが、良いプレゼントになりそうだ……。

***

 一方、ミスターBこと、ビリーは……。
 なぜか、萌え書籍コーナーに来ていた。

「うひゃー!! これすごいねん! 修行にいいねん!!」

 修行に使う聖典を探しに来ていたというか、マニフィカを見習って理論から入ろうと考えていたのだろうか……しかし何を間違ったか、手元には『ゲイシャ・ガール水着コレクション』があった。

「これ、さっきの蜂蜜檸檬のゲイシャ・ガールの子やないか!! ぬおー、過激水着やねん! むむ、これは修行、そう修行や!!」

「コケ〜?」
「シャー?」
「べろー?」

 お供の鶏、ヘビ、きのこたちは、主をやや疑っているが……。

「これは……そう、科学的革命残党分子の老人達に土産やねん! ほら、このビキニとか革命的や! きっとこの本は、革命書やろ?」

 ビリーは5,000マギンを握り締め、水着写真集という名の「革命書」を購入するのであった……。

***

 さて、モエジマデンキで欲しい商品別にバラバラに行動することになった一同であったが……。
 未来は特に欲しい物はないので、店の雰囲気でもビデオで撮っておくことにした。

 そこに、店員たちが走って来た!

(あ、やば? 怒られるかな?)

 だが、店員から出た言葉は……。

「君、ルックスいいね! しかも女子高生だよね? 悪いけれど、今から屋上に来てくれないかな? 実はね、コスプレイヤーの子が体調を崩して急きょ来られなくなったんだ! でも新製品のイベントやらないといけないし……頼む!!」

 店員の男たちに頭を下げられて、未来も困惑。
 しかし、困っている人たちは見捨てられない!!

「うん、いいけれど……」

 ともかく未来は、謎の超ミニスカ制服を着て「魔白翼」を装着し、顔も悪魔的にメイクし、アニメ『JK天使ドクロちゃん』のヒロインを演じることになった。

『ステージの前の大きいお友達のみんなー!! 元気かなー!? わたし、JK天国の国から派遣されてきた天使のドクロちゃんよー!! 今日はみんなのために萌えを分け与えにやってきましたー!! さあ、みんなで合唱よ! 『わたしのドクロをお食べー!!』』

 未来が羽をぱたぱたとはためかせ、超ミニスカをふりふりと揺らす。
 すると、ステージの前の大きいお友達は、大絶賛!!

「いえーい!! ドクロちゃんサイコー!!」
「せーの……『わたしのドクロをお食べー!!』」
「ど・く・ろ♪ それ、ど・く・ろ♪」

 観客たちの声援を浴びながら、未来はそのまま歌まで熱唱してしまう。

『……そう、わたしは、ど・く・ろ♪ 天使だけれど、悪魔なJK、ど・く・ろ♪ どろどろ、どろんぱ、どろどろ、翼をぱたぱた、ミニスカふりふり、ど・く・ろ♪……』

 未来はすっかり本来の目的を忘れて、電気ショップのアイドルになってしまっていた……。


●Dパート「それぞれの解散後」


 スノウ&サクラ組、そしてコーテス&トムロウ組の両者とも、本日、初日のイースタ観光を楽しんだ後、午後六時過ぎには解散となった。

 だが、やはり学生たちの集まりでもあるので、解散後も一緒に食事をしようということになったようだ。参加者は女子が多かったので、女子寮のラウンジで東洋風ピザ(=お好み焼き)のデリバリーを取り、みんなでピザパーティとなった。

 アンナはスノウ&サクラ組だったが、実は電気街にもちょっと興味があったらしい。だけれど、真面目な性格なので、ひとまず王道系の観光コースを選んだが……。

「あら!? リュリュミアが持っているの、『魔法少女レヴィ』の人形ではないですか! いったい、どこで手に入れて……?」

 リュリュミアは、フィギュアの手を動かして、アンナにあいさつをした。

「うふふぅ〜。そうよぉ、これ、レヴィ人形よぉ〜。今日は、楽しかったわぁ〜。特にゲーム大会では、みんなの必殺技がそれぞれ、ずばばばぁーんって決まったこととかぁ〜」

「まあ、そうでしたの……。ずばばばぁーんと効果音で表現するところがとてもリュリュミアらしいですわね……」

 リュリュミアは何気にしょげているアンナをにこにこしながら見つめたあと、レヴィ人形をアンナへ手渡した。

「え? これって……!?」

「うん。アンナにプレゼント! 今日は誘ってくれてありがとぉ〜! うれしかったよぉ〜!!」

「わっ、メルシー(ありがとう)ですわ! 感激ですわ!!」

 アンナ、うるうると感涙!

(このご恩にお返ししなくては!)

 アンナはテーブルに移動し、素早く何かを紙に書きとめて、紙をちぎった。

「これ、お返しですわ!」

「あら、何かしらぁ〜? ん〜? 『お掃除券』?」

「はい、そうですわ。いつでもお掃除しますわよ! リュリュミアの部屋が散らかっているときとか、わたくしを呼んでくださいませ!」

「うん、ありがとぉ〜! 今度、お掃除してねぇ〜」

 リュリュミアの方も意外なラッキーアイテムを手に入れてご満悦だ。

***

 ジュディ、マニフィカ、萬智禽、コーテス、トムロウは飲めや、食えやの騒ぎをしていた。

 マニフィカは、「あけぼの」からテイクアウトしたお寿司をつまみに食べながら、イースタの焼酎をごくごくと飲み干す。

 ジュディもマニフィカを「手伝う」という名目で、本日、行くことができなかった「あけぼの」の寿司を豪勢に食べ尽くす。もちろん、焼酎をがっつり飲むことも忘れてはいない。

「いえーい! イースタばんざーい! ここは、萌えの国だー! わっはっは!!」
「いいぞ、兄弟! いい飲みっぷりだ! 今日は騒ぐぜ、がはは!!」

 コーテスとトムロウは酒を飲みまくり、既に出来上がっていた。

「二人とも……酒はほどほどにするである! 明日は演習があるのだぞ?」

 萬智禽も目上として、一応、学生たちの行き過ぎた行為を注意するが……。

「ヘイ、コーテス!! 今日はフードファイトできなかったデース!! この場で勝負するデース!!」

「わーい! マニフィカも混ぜてくれデース!! わたくしも酒なら負けマセーン!!」

「おっしゃー!! かかってこーい!!」

 酔っぱらったジュディは、コーテスに勝負を仕掛け、二人はピザ&酒でガチバトルになる!
 なぜか酔っぱらって口調がおかしくなったマニフィカも参戦。
 トムロウも黙って見てはいない!

「ほんとに……ほどほどにするであるよ、みんな……」

 萬智禽、もはや止める術はなし!

***

 リシェルとラサは、本日、二手に分かれたが、別れた後の行動について互いに報告しあっていた。

「……でさ、そんな具合にみんなで握り寿司のメニューを決めて、『あけぼの』で美味い寿司を食ったんだ……。その後、海浜記念公園で魔術結界の残骸を観てな……最後に雑貨屋『万華鏡』で陰陽のオーブっていう、使いどころに迷う衣装を買ってだな……」

「へぇ……。そっちはそんなことがあったんだ? 楽しそうだったねー!」

 リシェルが本日たどったコースの説明に、ラサは目を輝かせて聞き入れていた。

 さて、ラサの番になると……。

「でね、コーテスたちが萌えでさ……!! ゲイシャ喫茶では……××!! ゲーム大会で……○○!! モエジマデンキで……△△!!」

 ゴゴゴゴゴゴ!!
 リシェルに暗黒の炎が渦巻いた。

 酔っぱらっているコーテスとトムロウ……。
 背後に怪しい気配が!!

「ちび連れてどこ行ってたんだ、おまえら……!!」

 ラサの発言により、コーテス&トムロウ組の不真面目さがもろに発覚!
 萌え文化に全く理解がないリシェルはキレて、この後、二人をとことん説教したという……。

***

 未来は、みんなが談話し、ピザを食べている最中、ラウンジでビデオカメラの仕事をしていた……。

「ええと、……ここはカット、ここは残す!! ……うん、編集が上手く行きそう!!」

 未来は、本日の記念ビデオの編集をしていたのだ。

 がんばっている未来のところへ、ミズキがピザを持って来てくれた。

「未来さん、はい、どうぞ! 何をされているの? お仕事かしら?」

 ミズキの気遣いに気付いた未来は、一度、ここで作業を止める。

「うん、ありがとう! 撮影した映像は、あとでイースタの文化紹介や、両校の交流の様子として放送する予定だよ!」

 じじじ、と未来が映像をいじっていると……。
 自動設定で撮っていた未来の『JK天使ドクロちゃん』の映像が出現!

「あら!? 未来さん、これは……!?」

 焦るミズキ!

「うん、これは、ちょっとね……あはは!!」

 笑ってごまかす未来!

***

 さて、ビリーだが……。
 彼はこの場にいなかった。

 さすがに修行僧の彼のことなので、明日に備えて既に就寝……。
 と、思いきや……。

「うひょー!!ゲイシャさんのハイレグやー!! こっちはスクール水着やー!! うおおおおおおおおお、萌えるねええええええええん、萌え、やねええええええええん!!!!」

「コケコケエエエエエエエエエエエエエエエ!!」
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「ベロオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

 ビリーとお供たちは、現在も、『ゲイシャ・ガール水着コレクション』の解読に熱中していた……いや、熱狂していたようだ……。(そもそもビリーは性別がなく、お供たちは人間ではない。しかしこの写真集の萌えは彼らのハートにちん、と来たようだ……)

 明日は演習ということだが、夕食もそっちのけで「修行」が忙しい座敷童子一行であったそうだ……。

***

 パーティはまだまだ続くが、ミズキ、スノウ、サクラは、早めにお風呂に入ろうということになった。

「わー!! 寮のお風呂って、露天風呂になっていますのね?」

 バスタオルを巻いているが巨乳の目立つミズキは、女子風呂の石造りの露天風呂に感心していた。どうやらお風呂の湯も良いものを使っているらしく、きれいな透明の萌葱色である。湯加減も……ちょうどいい感じで、ゆっくりと浸かってみた。

「はい。イースタの温泉地区から湯を引いています! 健康にも美容にも良くて、温まりますよ!」

 バスタオルを巻いている美乳のサクラが、隣で湯に浸かり、詳しく答えてくれた。

「いいわよね、イースタって! そこらじゅうに温泉があるのよね? やはり東洋に来たら、温泉も満喫しないとね!」

 バスタオルを巻いているやや貧乳だがスレンダーのスノウも湯につかり、伸びをしながら答える。

 などど、女子三人でわいわいとお風呂を楽しんでいたら……。

「がっはっは!! コーテスよ、イースタは風呂もいいぞ! 温泉満喫だー!!」
「わっはっは!! トムロウ君、温泉でダイブインだね!! いやっほー!!」

 なんと、酔っぱらってタオル一丁になっているトムロウとコーテスが風呂に入って来た。

「え? あらら? サクラ……!?」
「お? んんん? スノウ委員長にミズキさん……!?」

 なぜ、こういうことになったのだろう?
 酔っぱらっている二人にはさっぱり記憶がない。
 そもそもここは女子寮だ、何をどう間違えたのだろう……!?

 本日、三度目のオーマイガッツ!! orz ×2人分!

「コーテス……覚悟はいいわね?」
 スノウのメガネがキラリと光る。

「トムロウさん……死ねますね?」
 サクラもぎろりと眼光が輝く。

「見ましたわねぇ……!! 式神、前鬼、後鬼、やってしまいなさい!!」
 ミズキは手下の式神や鬼たちを使役し、バカコンビ、大ピンチ!!

 この直後、コーテスとトムロウは式神や鬼たちに捕まり、裸のままロープで縛られ、逆さで木に吊るされたとのこと……。

「ぎゃあああああああああ、許してえええええ、サクラたあああああああん!!」

「うわああああああああああああん、委員長にミズキさん、ごめんなさああああああああああああい、もうしましぇえええええええええええん!!」

 明日は演習だが、大馬鹿ブラザーズが一晩中、このままお仕置きされたというのは、また別の話……。

<続く>