マギ・ジス新作アイテム展示即売会(通称:マギケット)

第2回 サークル参加編

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ


☆パートA サークル参加編(既存ブースの手伝い)


A-1 アンナのお掃除お手伝い

A-2 未来のホットドッグスタンドお手伝い

☆パートB サークル参加編(アイテム開発&ブース立ち上げ)

B-1 マニフィカの水筒屋さん

B-2 ジュディのシール屋さん

B-3 ビリーの救命道具屋さん

B-4 萬智禽の攻略本屋さん

B-5 リュリュミアのお花屋さん



☆パートA サークル参加編(既存ブースの手伝い)


A-1 アンナのお掃除お手伝い


 マギケット2日目、午前9時ごろ……。
 本日もマギケットの一般入場が始まるわけであるが、エントランスは既に混雑している。
 開場のアナウンスやBGMが流れると、一般客らは大量に押し寄せてきた。

 エントランス付近に位置する風紀ブースはさっそく大忙しだ。

「すんませーん、ナイフって、どこで売っていましたっけー?」
「お嬢さん、すまないねえ、萌え本を探しているんだけれど」
「ママー、どこー!?」

「はい、ただいま!! ええと、ナイフは……。萌え本は……。ママは、一緒に探しましょうね!」

 風紀ブースでは、スノウ・ブロッサム委員長(NPC)が筆頭になり、てんやわんやのご多忙対応に追われていた。

「あの、スノウ? お取り込み中のところ、申し訳ないのですが……。風紀のお掃除部隊もそろそろ活動を開始したいのですが?」

 フランス令嬢のアンナ・ラクシミリア(PC0046)は、モップを肩にかけながら、委員長に恐る恐る質問をする。

「そうね! では、アンナさんは、一番、混雑と汚れが予想される2F西ホール(フードセクション)をお願いできるかしら?」

「はい、かしこまりました!」

 アンナの本日のお掃除は、フードセクションへの派遣に決まった。
 なお、副委員長コーテス・ローゼンベルク(NPC)は、現在、休憩中だ。
 今頃、萌え本ハンティングでお忙しいところだろう……。

***

 まだ午前9時が過ぎ、開始したばかりのフードセクションは他セクションよりも賑わっていた。
 特に家族連れや友人グループ、カップルで来ている者たちが、さっそく美味しそうに飲食している。
 一方で、周辺のテーブルや床はだいぶ散らかっていた。

「おや、まあ!? ホットドッグを食べた後の紙くずは、いけませんわね! むむ!? こちらには、ペットボトルがコロコロと落ちていて危険ですわ! さっそく、お掃除しなくては!!」

 ポイ!
 ポイ、ポイ、ポイ!!

 アンナは、紙くずやペットボトルを拾い上げ、ゴミ箱へ捨ててあげた。

「あら!? なんてこと!! テーブルに植物オイルが溢れていますわ!! おやおや、ピザの食べ残しまでテーブルに散らばっていますわね!! これはお掃除せねば!!」

 お次にアンナは、愛用のモップを取り出して、テーブルをクリーンナップした。
 
 キュッ、キュッ!
 ゴシ、ゴシ、ゴシ!!

 植物オイルのしつこい汚れも、入念なモップ掛けでなんとか駆除完了。
 ピザの食べ残しも一気に清掃し、テーブルはピカピカになった。

「やれやれ、すさまじい散らかりようですわね!! しかし、本日はマギケット!! まだまだ序の口でしょうね、これぐらい……。あら!? 今度は、かき氷が丸ごと床に落ちていますわ! 滑ると危険でわね! おやまあ、ドーナツがボックスごとあんなところで散らかっていて、汚いですわ!」

 発見するや否や、アンナは再び、必死にお掃除するのであった。
 アンナは付近にあるゴミ箱へゴミを次々と入れていくのだが、何ぶん、ゴミの量が多くて箱が満タンだ!

「な、なんと!! ゴミ箱がこの有様!! でも、あきらめてはいけませんわ!」

 アンナは一度、更衣室へ引き返すことにした。
 そして、再度、彼女が登場した時は、魔法少女姿だ!
 全身は、土色を基調としたポンチョにティアードスカートでひらひらと登場。
 髪型は、ツインテールが風に揺れ! 
 足元は、黒ニーソに魔牛スニーカーがキラリと魅力!
 モップを槍のように構えながら、魔法少女アンナ、華麗に参上!!

「出でよ、ゴーレム・ジュディ!!」

 魔法少女は、右手の人差し指でキラキラ光る黄金の指輪を掲げ、手下を召喚!!

 光り輝く指輪から、一欠片の土塊が溢れ、やがて泥水たまりとなった床からはゴーレムが誕生した。
 その姿、まさにジャイアント・アメリカン・レディのジュディ・バーガー(PC0032)!!

「ウオオオオオオ!! クリーンナップ、してヤリマース!!」

 全身泥色でウェスタン姿のゴーレム・ジュディは、マッチョのポーズで吠えた。

「トレ・ボン!(よくできました!)ひとまず召喚は成功ですわ! さあ、ゴーレム・ジュディよ、この重たい大きなゴミ箱を庭の焼却炉まで運びなさい!!」

「オーライ!! ガッテン、デース!!」

 はいやゃああああ!!
 ゴーレム・ジュディは雄叫びをあげて、巨大なゴミ箱をお神輿(みこし)のように担ぎ上げた。

「出発、進行!!」

 アンナは、ジュディの前を歩き、先導し、庭の焼却炉まで無事にゴミ箱を運ぶのであった。
 その後、ゴーレム・ジュディに掃除を手伝わせたり、あと数回、フードセクションと庭を往復するのであった。

***

 昼過ぎになり、一時休憩をすることにした。
 アンナはゴーレムを小さくして指輪にしまい、飲み物を購入しようと考えていたら……。

「あの、スンマセン? あなた、風紀の手伝いに来ているアンナさんですよね?」

 人の良さそうなマギ・ジス人とわかる中年男が近づいて来た。

「はい、そうですわ?」

「お掃除お疲れ様です! 私は、マギケット運営委員です! スノウ委員長からあなたのこと聞いていましたよ! お掃除が得意な子がフードセクションのお掃除に来てくれるって!! で、よかったら、これ、持って行ってください!」

 おじさんは、「マギ・ジスの天然水」と書いてある500mlのペットボトルを二本、アンナに手渡した。

「あら!? 本当にいただいても良いのですわね!? メルシーですわ!! ちょうど今、のどが乾いていたところでしたの! 助かりましたわ!!」

 アンナはありがたくペットボトルを二本、おじさんから受け取るのであった。
 なお、ペットボトルが二本あるので、一本は自分用、もう一本は、友人のリュリュミア(PC0015)にあげることにした。
 アンナがリュリュミアにお水をあげたエピソードは、マギケット第2回の「B-5 リュリュミアのお花屋さん」でまた詳しくお話しよう。(<続く>ってやつです)

***

 やがて一般客の退場時刻である午後5時ごろになった。
 本日一日、来場客たちは、風紀のサポートがあることで、安全に楽しむことができたようだ。
 来客たちは、ばらばらと帰り始めている。

 そして、アンナも、今日一日のお掃除が無事に終わることができたのであった。

(ふう……。大変な一日でしたが、やりがいのある一日でしたわ。みなさん、楽しんで頂けたのであれば、幸いですわね!)

 彼女は、担当であったフードセクションにて最後のモップ掛けやゴミ捨ても終わり、風紀ブースへ帰還した。

 風紀ブースへ帰ると、スノウがニコニコして待っていてくれた。

「アンナさん、お疲れ様!! はい、本日のお礼よ!」
「あら? なんでしょう!?」

 アンナは、キラキラと光る銀色のバッジをもらった。 
 バッジには、「風紀」の文字とビックリサイトの逆さピラミッドがロゴとして刻まれていた。

「今日一日、風紀のお手伝いをしてくれたので、お礼に風紀バッジを差し上げるわ! 経験値2倍効果もおいしいけれど、風紀を愛する心を今後も忘れないように胸に刻んでおくのよ!」

「はい、もちろんですわ!! 今後とも、風紀もお掃除もがんばりますわ!! こちらこそ、今日は一日、ありがとうございました!!」

 張り切って返事をしたアンナは、スノウ委員長よりありがたいバッジを頂戴するのであった。
 魔法少女のポンチョにさっそく取り付けたバッジは、キラリと輝いた。

 風紀魔法少女アンナよ、今後とも、その愛と正義のモップで世のため、人のため、役立ってくれ!!


A-2 未来のホットドッグスタンドお手伝い


マギケット2日目のお昼時。
 フードセクションは、盛大な賑わいを見せていた。
 そんな中、フードセクションをインタビューして回る広報ガール、発見!

「よ〜し!! かき氷屋に、ピザ屋に、お香屋を回ったことだし、ひとまず休憩でもしようかな〜!?」

 フードセクションの座席の片隅に取材グッズを下ろした姫柳 未来(PC0023)は、ドリンクバーでもらってきた天然水をごくごく飲んで、ぷはーをしてみた。
 本日も、広報部のお仕事ということでも来ているので、学院制服超ミニスカ仕様に鳩印の広報バッジもキラリと輝いている。

「ん? あれは!?」

 取材班(未来一人だが)の鷹の目に止まったのは、健気にホットドッグを売っている少年少女たちであった。男子二人に女子二人だ。忙しくがんばっているが、客の出入りがあまり良くないことは、遠目からでもわかった。

(ええと? 確かあれは……。店長っぽく指揮を出している男の子が、ティム(NPC)だっけ? それと、一緒にいる小さな女の子が妹のジェニー(NPC)で……。あとは、知らない……。けれど……なんか見ていられない!!)

 未来は意を決して、ティム&ジェニーのホットドッグスタンドへ足を運ぶことにした。
 ちょうど今、客の出入れが途絶えたところだ。
 
「やっほー!! 少年少女たちよ、その後、お元気!?」

 チェキしながら、未来がまぶしく笑顔で登場!

「あ、あなたは!? 未来さん……でしたっけ? その節は、お世話になりまして……。あ、あの、よかったら、ホットドッグ、おひとついかがですか?」

「わーい! みくさん、いらっしゃいませー!!」

 ティム&ジェニーも笑顔で出迎えてくれた。
 どうやら二人は、未来を覚えていたようだ。
 バイトのマイクとクララ(NPCたち)も、こんにちは、とあいさつをしてくれた。

「うん、実はね、お客で来たのではなく、学院広報部の取材で来ているんだよ! よかったら、わたしも手伝っていい? 大変そうだね? でもその代わり、取材はさせてよ?」

 突然の申し出に、メンバーたちはちょっと戸惑ったが、ティムが代表して答え返す。

「はい、ぜひ取材の方、お願いします! ご覧の通り、なかなかホットドッグが売れません。ここらでうちの広報活動も手伝ってもらえると助かりますね!」

 ティム店長の正式回答を受け、未来はやる気満々だ!
 
「そうだねえ……。例えば、こんなのどうかな!? 店長、ホットドッグを試食用に一つもらっていい?」

「はい、どうぞ!!」

 未来は心でサイコキネシスを強く念じた。
 ターゲットは、たった今、ティムが焼き上げたホットドッグだ。
 プレートに乗っている熱々のホットドッグが、ゆらり、と揺れ、プカプカと動き上がる。

「うわー! ホットドッグがー!! すごーい!!」

 ジェニーは手を叩いて感動していた。
 マイクとクララも目を丸くして見ている。
 ティムはドキドキしながら見守っている。

(それ!! もういっちょ!!)

 未来が右手をつつつ、と動かすとホットドッグも右につつつと空中移動。
 彼女が左手につつつ、と行けば、ドッグもつつつと左にターン。

『お!? なんだ、これ!? 何が始まろうっていうのか!?』
『うお!? ホットドッグの曲芸ショーか!?』
『パパー、あれ買ってー!!』

 未来のパフォーマンスにより、観客たちがいつの間にか集まっていた。
 未来もここでセールスを忘れてはいない!

「とっても美味しいホットドッグだよー! 試食品もあるけれど、いかがー!?」

 空中のホットドッグがパクリ、と、10等分に割れた。
 集まってきたお客さんたちに、試食用ホットドッグをサイコキネシスで配ってあげた。

 空中でダンスするホットドッグを楽しんだ観客たちは、我先に、とホットドッグを買い求めた。
 急に忙しくなったティムたちは、てんやわんやで対応に追われる。
 これを見て、未来はキラリと笑った。

***

 まだまだ続くぞ!!
 第2ラウンド、開始!!

 今度は未来、超ミニスカ制服にティム&ジェニーのエプロンを着用。
 萌えポーズでにゃんにゃんしながら、集客だ。

『うおー!! 萌えー!! ホットドッグ一つくれー!!』
『お、俺も!!』
『こっちも!!』

 萌えに釣られた野郎ども、現れた!!

「ハートの注入サービスもあるよー!!」

 未来は、ホットドッグにケチャップでハートマークを描いてあげた。
 この辺のロジックは、イースタ旅行で学んだゲイシャ喫茶仕込みだ。

 メイドと化した未来はこの調子で、どんどんと集客に貢献した。
 だが、ジェニーにはまだちょっと早く、クララは恥ずかしそうだったので、メンバー四人は販売と裏方でがんばるのであった。

***

 第3ラウンドでは、未来は裏方に回ることにした。
 未来は販売に勤しむ少年少女たちを撮影した。

「店長ー!! チェキだよ、チェキー!!」
「ああー!! 未来さん、チェキは勘弁してくださーい!! 今、調理中でーす!!」
 パシャリ!!

「ジェニー!! 売り子さんスタイル、決まってるねー!!」
「はーい!! がんばりまーす!!」
 パシャリ!!

「裏方のバイト二人も、笑顔、笑顔!!」
「おっす! 頼もう!」
「ええと、こういう時は、ブイ、かしらね!!」
 マイクとクララもパシャリ!!

「お客さんたちー!? ホットドッグは美味しいかなー!? はい、チーズ!!」
「萌えー!! うめーよ、これ!!」
「チーズ、チーズ!!」
 楽しそうにホットドッグを店頭で食べている客たちもパシャリ!!

 さて、昼時のお手伝いも取材も終えた未来は、お礼のホットドッグをティムから受け取り、その場を去ろうとしたのだが……。

「ぬお!? ここで会ったが100年目だぜー!!」
「だね、未来さん!!」

 萌え魔王トムロウ・モエギガオカ(NPC)とその忠実な子分のコーテスが萌え本袋と共に現れた!

「おや!? 未来ちゃんは、今日はホットドッグ屋でアルバイトか!?」

 トムロウは、ホットドッグを抱えている未来を見ながら、そう言った。
 いや、萌え魔王は、未来がティムからお礼を受け取るシーンを見ていてそう言ったのであろう。

「うん。取材も兼ねてね。もしかして、今、ホットドッグを買うところだったの?」

「おう、まあな!! 腹が減っては萌えな戦はできぬ、とイースタのことわざにもあってだな……。それはいいとして、そのホットドッグ、一個くれよ!? 俺の同人誌、やるからさ!」

 魔王は、懐から自作の怪しい薄い本を取り出し、未来へ差し出した。
 未来も特に断る理由がなかったので、抱えていたホットドッグを一つ、トムロウにあげることにした。

「はい、これ。物々交換ってやつね。で、どんな同人誌なの、それ!?」

 未来は受け取った同人誌をパラパラとめくってみた。
 すると、魔法少女たちのあはん、いやん、おバカ、な展開が本の中で炸裂していた。

「と、トムロウ君! それ、この場で見られたら、まずい、のでは……!?」
 焦るコーテスは既に後の祭りだった。

 ゴゴゴゴゴ!!
 未来の背後から、暗黒の風が巻き起こった!!

「あなたたちねえ……。魔法少女をバカにして……。魔法少女未来の名の下に、成敗!!」

「うひゃー、やべー、コーテス逃げろ!!」
「うわーん、トムロウ君、もう無理だ!!」

 未来のブリンク・ファルコンが烈火の勢いで飛び出した!

「とう!!」
 トムロウの顔面にハイキックが勢いよく入った!!
「ぐは!!」

「ええい!!」
 続いて、トムロウのボディに思い切り膝蹴りが直撃!!
「ぐえ!!」

「それー!!」
 連続攻撃は収まらず、前屈みで苦しむトムロウのあごを上空へ蹴り上げた!
「うひゃー!!」

「はいよ!!」
 蹴り上げた脚は、トムロウの落下と共に、かかと落としで脳天にクリティカルヒット!!
「ひでぶ!!」

「うりゃあああ!!」
 地面にぶっ倒れているトムロウの上に飛び乗り、未来は全力で落下し、踏みつけてやった!
「……」(トムロウ、もはやHP切れでノックアウト)

 その後、コーテスも同じ目にあったことは、想像に難しくないだろうが、割愛。

(ふう……。こんなもんでしょ!? まったく、これだから魔法少女をエロい目で見る輩はお仕置きが必要なのよね!!)

 さて、風紀がやって来る前に、未来は萌え尽きた亡骸たちを後にして、マギケットを去るのであった。
 所詮、魔法少女の世界は殺し合いである、と偉いアニメは言ったものだ。
 未来の未来に幸あれ。


☆パートB サークル参加編(アイテム開発&ブース立ち上げ)


B-1 マニフィカの水筒屋さん


 マギケット2日目が始まろうとしていた。
 午前8時、サークル参加者たちが一斉に入場。
 その大蛇の列に揉まれつつも、人魚姫マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、大きなアイテム袋を抱えて、自分のブースを探していた。

「あったわ、ありましたわ!!」

 マニフィカのブースは、Gセクション(その他)にある。
 とは言ったものの、Gセクションは、フロア分けが決まっていない。
 どういうわけだが、マギケット運営委員会の都合上、マニフィカのブースは2F東ホールのCセクション、つまり「お守り」セクションに分類されてしまったのだ。

 人魚姫が持っているハガキには、G-5Bとブース位置が書いてあった。
 ちなみに、マニフィカのブースから見て、右隣はG-5Aは、「魔石彫刻ミニ美術館」である。
 左隣も、何かの「その他サークル」らしいが、まだ誰も来ていない。

 さて、実はマニフィカ、マギケットのサークル参加は初めてなので、右も左もわからない。
 しかし、ネットの情報によれば、まず、隣のサークル同士は、あいさつから始めるそうだ。

「おはようございます!! 本日はよろしくお願いいたします!!」

 マニフィカは、G-5A「魔石彫刻ミニ美術館」の渋い中年店主にぺこりとお辞儀した。
 すると、ドワーフらしきおじさんも、にこやかに、会釈してくれた。

「おはよう、お姉さん。こちらこそ今日はよろしくお願いするね」

 ひとまず、マニフィカはブースのセットアップに取り掛かった。
 パンフレットで散らかっている机をきれいにして、青いシートを敷いて、値札を立て、お金を管理する金庫も置いて……。最後に、自作のボトルを、一個、二個、三個、と置いて……。
 もちろん、看板である「ネプチュニア王立給水所」も忘れずに立て掛けた。

 よし、これでいいだろう。
 だが、一般客来場時刻まで暇だ。
 何をすればいいのだろう、と姫が悩んでいたら、隣の男は石を彫り出した。

「おや? 彫刻ですの? あら? その像は、かなり小さいですが、聖アスラ像ではありませんか?」

 好奇心旺盛な人魚姫は尋ねずにいられなかった。

「ああ? そうだよ、聖アスラ像さ、これは。だいぶ小さいけれどね……」

 マニフィカは、暇な時間を潰すために、この彫刻屋と話をしてみることにした。

「その像ですが、おいくらでしょうか?」

「おや? 興味があるのかい? 申し訳ないが、これは売り物ではないんだ。貴重なマギ・ジス産の魔石を寄付してくれた人にお礼で配っているんだよ」

 マニフィカは、何かを思い出し、アイテム袋をガサゴソと漁った。
 出てきたのは、マギ・ジス産の魔石だ。

「ありましたわ! よかったら、これ、差し上げますわよ!」

 ずっしりとした魔石を受け取り、彫刻屋はニヤリと笑った。

「こらまた、えらい量で、しかも質もいい魔石だね? それを本当にくれるんだね?」
「はい!」

 彫刻屋は、店頭に並べられていた塩ビ人形いや、ミニ聖アスラ像を、人魚姫に手渡した。

「わわわ!! 本物の聖アスラ像みたいですわね? 硬度もそのままでしょう?」
「ははは!! もちろん! このミニチュア版もなかなかの優れもんでなあ、戦闘中に物理&魔法防御が一定の時間、ぐんと10%も上がったりするんだよ。使用の際には、事前に像をこするのを忘れずに!!」

 マニフィカは、懐かしい像をしばらく見入っていた。
 この像は、ミニチュア版だが、聖アスラ学院にある本物を遜色なく再現している。
 彼女は、当時のウォルター先生を巡るあの事件を思い出していた。

「それにしても、お姉さん。聖アスラ像好きだね? 聖アスラ学院の学生さんかい?」
「ええ、そうですわ! しかも、当時、無敵の装甲を誇る聖アスラ像がなぜ傷つけられたのか……というあの一連の事件を風紀委員会と一緒に追いましたの!」

「へえ? あの事件をねえ? あれ、うちの業界でも有名ですぜ。ちなみに私、その像の彫刻家であるアイボリー・モブリン(NPC)の末裔でさあ。私、アイゼン(NPC)っていうんだよ。まさかご先祖様のあの像が傷つけられるとは、思ってもみなかったなあ……」

「あら? 末裔様でいらっしゃいまして? 改めてよろしくお願いしますわ、わたくし、人魚姫マニフィカ・ストラサローネですわ」
「うん、よろしくな、マニフィカさん。で、そうだねえ、あの像何だけれどね……」

 しばらく会話が弾んだが、ここで人魚姫、あることを思い出した。

「あの、よろしければ、これ、お使いになってくださいまし!」
「ん? マグボトルかい? いいねえ、これ!! そろそろこういうの欲しいと思っていたんでさ」

「うふふ。魔石を加工する作業は塵芥が多く出られますわよね? のどを潤すには、もってこいのボトルですわ!」
「へえ、全くで」

 さて人魚姫、ここでちょっとデモンストレーションをしてみたくなった。
 えい、とボトルを振った。
 すると、ボトルからみるみると水が湧いてきた!!

「うひゃあ!! なんだい、これ!! 今、突然、水が湧いてきたでしょ!!」
「はい! これぞマギボトル。正式名称、マギテック・ウォーターボトルですわ!」

 人魚姫は、驚く彫刻屋に、ニコリと笑って答えてあげた。

「水属性の魔術が施されているのですわ! 内在されている簡素化された術式が反応して、真水を出す仕組みになっているのですわ!」
「うへえ。そりゃあまた、考えたね? でも、なんでまた?」

「それは、ですわね……」

***

 とある日の暑い夏の午後。(*フレイマーズは常夏の国)
 フレイマーズ国家の砂漠内に位置するフレイマーズ大学環境科学研究所は会議をしていた。
 冷房の効いた涼しい部屋の中、所員たちはアイスコーヒーを飲みながら、マニフィカのプレゼンテーションを聴いていた。

『本日、わたくしが皆様にご提案させて頂く新商品は……この、マギボトルですわ!!』

 ホワイトボードのプロジェクターには、電子化されたボトルの設計図が映されていた。
 マニフィカが新開発を考えているマギボトル(正式名称マギテック・ウォーターボトル)は、徹底的に解剖された図と水術の術式と共に、びっしりと記されていた。

『……というのが、ボトルに施す水術の術式の説明でした。この内在された水術が発動すると、いつでも、どこでも、誰でも、真水がすぐに飲めますわ!!』

 マニフィカのプレゼンが一通り終わると、所長のドーン・ファイアバーン(NPC)が挙手した。

「うむ。良いプレゼンであった。共同開発を提案された責任者として、一つ、質問をしてもいいかね?」

「はい、どうぞ?」

「そのボトルの仕掛けはよくわかった。だが、なぜそれを開発するのかね?」

「それはですね……。以前、わたくし、貴研究所のお手伝いで、赤い砂漠に植林をさせて頂いたことがありました。 その時、過酷な暑さを実体験し、フレイマーズに水の恵みをもたらすようなアイテムで、植林作業に従事する人々の役に立ちたい、という思いが芽生えましたの。そして今回のマギケットでの新アイテム展示会のお知らせを受け、ぜひこの機会に、皆様のお役に立てれば、と本日プレゼンをさせて頂いたわけであります!」

 マニフィカがそう説明を言い切ると、所員たちは皆、拍手してくれた。
 もちろん、所長も笑顔で手を叩いている。

「良いだろう。採用しよう。では本日から、マギボトル開発のプロジェクトチームを組もう。マニフィカちゃんも研究所に泊りがけでぜひ手伝ってくれ!」

***

「へえ……。そんなことがあったんですね? 良い話じゃないですか、砂漠で働く人たちのためにマギボトルを作るだなんて……」

 アイゼンは、年のせいか、半ば涙目でマニフィカの話を聞いていた。

 さて、気がつけば、時刻は午前9時を過ぎていた。
 ぞろぞろと入ってくる一般客らだが、お守りセクションも賑わい出す。
 周辺のブースは既にお守りが売れているようだ。

「ネプチュニア王立給水所」前にも、客がばらばらとやって来た。

「いらっしゃいまし!! どうぞ、見ていってくださいませ!! マギテック・ウォーターボトルですわ!! このボトルはそもそも水術が施されていて……」

 必死で客にセールスする人魚姫だが、客はなかなか捕まらない。
 それもそのはず、マニフィカは、初のサークル参加で慣れていない上に、知名度もない。

 だが、物は確かに良い。
 ターバンを巻いたフレイマーズ人らしき紳士がやって来た。

「お姉さん、それ一つ、もらえる?」
「はい、ぜひ!! 1万マギンですわ!!」

 ひとまず、一個、売れた。
 この後、昼過ぎまでしばらくは退屈な時間が続いたようだ。

***

 昼過ぎに、隣のブースが賑わっていた。
 アイゼンの友人が来たらしい。

「おーい、アイゼーン!! 像あるかー? 魔石持ってきてやったぞー!!」

 大道芸人みたいな奇抜な格好の男がのそのそとやって来た。

「ほらよ、これやる! で、魔石は……ふむ、悪くはないだろう。先ほど、お隣さんからもらった魔石より小さいが……」

「おう、ついでにこれもやる。面白いぞ、読め!!」

「ああん? バカムートくんだ? は、ガキが読むもんじゃねえかい、それ!! でも、付き合いでもらってやるよ!」

 そう、何を隠そう、この奇抜な芸人風の男こそ、絵本作家スタンプトン(NPC)である。
 そして、彼が今、アイゼンに渡した本こそ、新刊の『召喚☆バカムートくん!改』である。
 いわゆる、おバカなドラゴンが飛び出してドカンとかいう、アレな本だ。

「おいおい? その本は丁重に扱えよ! それ、ファンの間ではプレミアムなんだぞ! なお、前作『召喚☆バカムートくん!』なんてよお、今、超プレミアだぜ!!」

 そこでマニフィカ、レア本の話まで出てきたので、たまらくなって話しかけてしまった。

「ええと? スタンプトン先生ですの? もしよろしれば、わたくしにも一冊、そのレア本を頂けませんか? ……代わりに、マギボトルを差し上げますわ!! それにしてもその前作の超レア本、わたくしの知り合いの誰かが持っていたような……」

***

「ヘクション!!」

 マギケットのどこか遠くで、その超レア本所有者のジュディが盛大にくしゃみをしていた。

***

「ん? マギボトル? 何それ?」

「ええと、これはですわね……」
 
 マニフィカは用途と仕掛けを説明してあげた。

「おう、面白えな、それ!! じゃあ、交換な、ほい!!」
「はい、ありがとうございました!!」

 ナイス・タイミングで、人魚姫はレア本をゲット!!
 しかもこれで同人誌セクション、コンプリートという快挙だ。

***

 その後、マニフィカは一般客の閉場時間ギリギリまで粘って販売をがんばった。
 初参加であり、しかも姫様商売?のごとく商売が苦手な彼女にしては悪くはない結果だ。
 マギボトルが十個も売れたのだ!
 10万マギンの収入を得て、人魚姫、ご満悦のようだ。
 小さな開発、小さな商売、小さな積み重ねだが……。
 マニフィカのマギボトルは砂漠作業の人間たちの間でじわじわと普及して行くことだろう。


B-2 ジュディのシール屋さん


 マギケット2日目、サークル入場時刻の午前8時過ぎ、お守りセクションのサークルたちは忙しく準備していた。
 そんな慌ただしい準備時間に、一人の巨体のアメリカン・レディが現れた。
 レディ、いやジュディは、大きなアイテム袋を背負って、自分のブースを探していた。

「オウ! ドクター・ファイアバーンではアリマセンカ!? グッドモーニング!!」
「うい、ジュディちゃんおはよう! 元気しとったか?」

 なんと、運の巡り合わせとも言おうか。ジュディのブースは、C-3Bである。
 ちなみにC-3Aは、フレイマーズ大学環境科学研究所のブースである。
 代表は、もちろん、ファイアバーン所長だ。

 さて、開始まであと一時間近くあるが、ジュディはさっそく支度を始めた。
 ブース上のパンフを方して、グリーンのシートを敷いた。
 備え付けの小さな金庫と値札もぽつりと置く。
 看板は、「ジュディ先生の第7保健室」と書いてあり、ジュディの手書きの絆創膏まで付いている。
 アイテム袋から出てきたのは、ステッカーだ。
 なんの変哲もないステッカーなので地味だが、実はちょっと違う逸品だ。
 ステッカーのセット(10枚入っている)を3セットほど並べた。
 準備完了!

 暇なのでジュディが隣のブースを見ると、ファイアバーンは既に準備が済んでいた。
 手下の若い所員も手伝っていたようで、ファイアバーン以外は手伝いが終わるとどこかへ行ってしまった。
 おそらく、あいさつ回りかトイレだろう。それとも一般参加をするのだろうか。

「ヘイ、ドクター!! 何をセールスしマスカー!?」

 ファイアバーンは、ブース店頭に並んでいるバッジを取り出した。
 バッジの絵柄はまた変わっていて、魔術がリサイクルされているような図が載っている。

「マギ・エコバッジだわい。このバッジは魔力をリサイクルしてくれる便利アイテムだ。例えば、戦闘中、魔力を使っても10%還元されるのだな」

「オウ! リサイクル、ネ!! ナイス・アイデア!!」

 今度は、ファイアバーンが、ジュディのステッカーに指をさして質問する。

「それはなんだい?」

 ジュディは、1セットを取り上げて、中身を見せてあげた。
 中身は、複雑な術式が仕込まれている青白いステッカーだ。

「これは、エアコン・ステッカーと言いマース!! 術式でバリアでマース!! 暑さや寒さからプロテクトしてくれマース!!」

 ジュディからセットを手渡され、ファイアバーンは、じっくりと観察した。

「ふむ。四大元素の召喚術式だな……。この術式を書いたのは、シルフィーちゃん(NPC)だな?」

「オウ! ザッツ・ライト!! シルフィーにヘルプしてもらいマシター!! ドクターはなんでもお見通しデスネ!?」

「ハッハッハ! 年の功だわい。では、ジュディちゃん。それを1セットくれんかのう? 砂漠での作業に役立つだろうからな。代わりと言ってはなんだが、このバッジをあげよう!」

「サンクスね!! ジュディもそのバッジ、欲しいデース!! レッツ・トレード(交換)ネ!」

 さっそく1セットがはけて、嬉しいジュディ。
 二人がそうこう話しているうちに、一般入場のアナウンスとBGMが流れ、ついにマギケット2日目が本格的に始まった!

***

 さて、午前9時過ぎの幕開けから数十分……。

「ヘーイ!! カモーン!! ナイス・ステッカー、ネ!!」
「オーマイガッー!! ベリー・グッドなステッカー、デース!!」
「ホットもコールドもオールオッケイ、ワンダホー!!」

 巨体で狭いブースに陣取り、大きな地声で客を呼び込もうとしているジュディだが……。
 初参加な上に、商売下手なので、なかなか客が来ない!!

 しかも商品のステッカーも地味な上に怪しい術式まで描かれている。
 少しだけ手にとってくれたお客さんたちも、買わずに去って行ってしまった。

 やがて、昼頃に差し掛かるある時……。

「おう、姉ちゃん!! 変わったステッカー、売っているじゃねか? ちょいと見せてくれ?」

 お客はイースタ人のおっさんだ。
 しかも、怪しいコードとか抱えて、いかにもオタクっぽいなりの野郎だ。

「オウ! カスタマー(客)デース!! イエス、見てくだサーイ!!」

 怪しいオヤジは、ステッカーをペラペラめくったり、クンクン匂いを嗅いだりしてみた。

「このステッカー、ただものじゃねえな!? どんな効果があるんだい?」

 待ってました、とジュディが解説!

「ホットな環境もコールドな環境もオールオッケイにするマジックのステッカー、デース!!」

「ふうむ。暑さにも寒さにも負けず、か。雨にも風にも負けずか。イースタの作家ケン・ミヤザワの言葉見てえなステッカーだな? 実に面白い。開発秘話とかも聞いていい?」

「イエース!! レクチャーしマース!!」

***

 とある日の午後。
 ジュディは、前回の風紀のミーティングで、マギケットがあることを知った。
 初日は、銃器の改造、フードファイト、風紀の手伝いに費やそうと思っていたが、2日目は自身でサークルを出すのも面白いかとも思い至った。

 しかし、出店するからには新商品が必要だ。
 さて、何にしよう、とジュディは考えを巡らせてみた。

(フウム。どんなニュー・アイテムが、マスト、でショウカ!? ……赤い砂漠で以前に植林ヘルプしたデース!! 砂漠のホットな環境はなかなかハードでしたネ! ……他にも、ノーザンランドへ、マジックブックを届けた際に、雪山のコールドな環境もベリー・ハードだったネ!! マギ・ジスタンは、国家によって四季が豊かネ!! さて、マイ・ジャージだけで、ハードな環境を今後も乗り切れるでショウカ!? ううん、これからもハードなアドヴェンチャーに備えると言う意味デモ、ホットとコールドな環境に対応できるアイテムがマストでショウ!! まさに必要は発明のマザー、ネ!! ……これは当時、一緒に行動したシルフィーにでも相談するデース!!)

 というわけで、現代魔術研究所へやって来たジュディ。
 シルフィー・ラビットフード隊長とアポを取り、研究所の会議室で話し合うのであった。

「……と、いうわけネ、シルフィー!! ジュディは、ニュー・アイテムの開発したいデース!! ヘルプ・ミー!! ひとまず、ステッカー用意したデース!! これをカスタムしマース!!」

「……なるほどねえ。なかなか面白そうなアイテムじゃない!? でもあなた、術式は書けるの!? 暑さと寒さの環境に耐える術式をステッカーに記す場合、最低でも四大元素の全ての術式をマスターしてないとダメだけれど?」

 オーマイガッツ!!
 ジュディ、それは盲点だったと、ガックリした。

「ジュディ、まさか四大元素全てマスターしてないデース!! ジュディが知っているのは、ファイア、アイス、ウォーター、スカイ(天空)デース!! しかもどれもマギ・ジスタンの術式じゃないデース!!」

 うふふ、と妖精隊長が笑った。

「あたしが手伝ってもいいけれど……。研究所の利用費用と指導費用に合わせて2万マギン頂くね! 費用をくれたら、特別に精霊を召喚して、四大元素の術式を書いてあげるけれど?」

 ジュディは、ここまで来たからには多少の出費は覚悟していた。
 むしろ、たった2万でその開発ができるならば、安いとも言える。

「オッケー!! 2万マギン、払いマース!! さっそく、サモン(召喚)プリーズ!!」

「了解、毎度あり。じゃあ、今から、ウンディーネ、シルフ、ノーム、サラマンダー、といった基本的な精霊を召喚するから、ステッカーの用意をしててね。精霊の魔力を全部一度に一つのステッカーに移すから、ジュディはステッカーを1枚ずつ、ラベリングの管理してね?」

「オーライ!!」

 こうして、この後、宗教研究所のラボに移り、ジュディとシルフィーは精霊を呼び出し、ステッカーに移転させて術式を施し……といった作業を夜通しで行ったようだ。

***

「へえ……。そんな開発エピソードがあったんだな? いや、いいね、開発ってロマンがあってさ! ぜひそのステッカー、2セットちょうだいよ!!」

 オタク系オヤジは、ジュディからステッカーを受け取ると、代わりに怪しいコードをくれた。
 コードは小さいが、赤、白、青の微妙なコードがお互いに絡まっている。

「ワッツ!? この変なコード、何ネ!?」

 オヤジ、メガネがキラリと光る。

「コード・ブレイカーっていうアイテムさ。モエジマデンキの秘蔵品さ。こいつを装備すると、スキル・ブレイカーに追加技能が加わるんだ。相手の魔術を発動前に一発、どんなのでも封じられる優れもの。ただ、難点は、スキル・ブレイカーの技能がないと効力が発動しないんだ。スキル・ブレイカーは、身につけるのが難しいから、なかなか売れないんだよ、これ!! だから俺が、こうして今、行商人みたいに売り歩いているわけ!!」

 この説明を聞いて、ジュディも眼光が光った。

「ワオ!! スキル・ブレイカー用のアイテム、ネ!! ジュディ、実はスキル・ブレイカーのユーザー、ネ!! ぜひくだサーイ!! マスト、デース!!」

 ともかく、お互いに珍しいアイテムに興味津々なので、物々交換は成立したようだ。
 ジュディはステッカーが2セットはけたのと、今後の冒険に役立ちそうなアイテムを思わず入手できたのでハッピーだったようだ。

***

 マギケットもいよいよ閉場時刻。
 商売の世界は厳しいようだ。
 ジュディは初参加の割にはがんばった方であるが、ステッカーは500枚(50セット)用意したものの、物々交換を抜かせば、10セットしか売れなかった。
 だがジュディは、5万マギン(10セット×5000マギン)の収入を握りしめ満足なのだろう。
 彼女は、日が暮れ、ぽつぽつと退場する来客たちの流れを眺めつつ、楽しそうに微笑んでいた。

 ときに世の中というのは面白いものだ。エアコン・ステッカーは、マギケットではあまり売れなかったものの、その後の新商品として警備員業界でちょっとしたブームが訪れた。

 ジュディが大量に余ったステッカーを、マギ・ジスの警備員仲間たちに配ったところ、みんな、使ってくれているらしい。

 以下、ユーザーたちのコメントがジュディのメールボックスに届いた。

 警備員A:いやー、暖かなステッカーだなー。マギ・ジスはいつも春だけれど、夜は冷え込む時があるんだよね。そんな寒い日は、このステッカーを服に貼って学院の警備すると、仕事がはかどるな!

 警備員B:このステッカーは出張の際にはいつも携帯しています。ノーザンランドの関所を警備する仕事がこの前あったのですが、このステッカーがあれば、極寒の地でも楽々警備ができました!

 警備員C:ジュディさんからもらったステッカーは、マギ・ジス・ビックリサイトのイベントを警備するときによく使えるわ。あの会場、毎回、熱気がすごいし、人が多くて暑いのよね。暑い、暑い、って文句ばかり言っていたら警備はできないので困っていたの。でも、このステッカーが保温してくれるので、暑い会場ではとても役立っているわ!

 ジュディのステッカー、大好評のようだ!
 これはこれで、商品開発は大成功と言えよう。


B-3 ビリーの救命道具屋さん


「こ、これは……!? なんでやねん!?」

 マギケット2日目の午前8時、エセ関西弁妖精のビリー・クェンデス(PC0096)は、サークルブース位置に戸惑っていた。

 というのも、お守りセクションにある壁ブース(C-5)が自身のサークルブースに割り当てられたからだ。
 しかも左右に他のサークルがいない特等席である。

「よしゃあ!! と、喜ぶべきやろか!? まあ、ええわ。今日は、ごっつがんばりまっせ! せや、せっかくやから、カプセルモンスターどもにも手伝ってもらうねん!」

 ビリーはカプセルモンスターたちを次々と召喚した。
 それぞれの種類は、サンドスネーク(ボーマル)、お化けハイランダケ(リキマル)、異次元獣(ジューベー)、ウォルターラット(トーキチ)、アリ地獄モグラ改(ゴローザ)、冬の精(キチョウ)、マッハ・ハイノシシ(ゴンロク)、ブルーカモメ改(マタザ)、おまけにペットの金の鶏のランマルもいる。合計9匹の大世帯である。

 さあ、準備開始!

「ぷごー!!」
 ゴンロクが、看板「皆様の幸福に貢献するビリー・ザ・ニューワールド商店総本舗」を店頭に傾げた。看板には、ビリーのやんちゃな文字と彼自身の渋い似顔絵が描かれていた。

「シャー!!」
「ベロー!!」
 ボーマルとリキマルがブース机で散らばっているパンフを方してくれた。

「みゅー!!」
 マタザが空中で羽ばたきながら、金色のシーツをブースに落とした。

「コケー!!」
 ばさっと、雑に落ちたシーツを、ランマルが直してくれた。

「これは、1マギン。こちらは、100マギン。それは、1000マギン!!」
 キチョウは金庫の中身を改めて確認した上で、テーブルに金庫を置いてくれた。
 また、1枚5000マギンの値段札もブースに設置してくれた。

「モグー!!」
 ゴローザが神出鬼没に現れ、ビリーが開発したアイテム「救急護符(エマージェンシー・アミュレット)」を丁寧に、1枚、2枚、3枚、……と、並べてくれた。

「うひゃひゃ!! 楽チンやでー!!」
 ビリーは、ジューベー(ポリゴンブロック)を椅子にして腰掛け、くつろいでいた。

 どうやら、楽しくブースの準備が完了したようだ。

***

 ところで、ビリーが本日、販売することになる「救急護符(エマージェンシー・アミュレット)」とは、どんなものだろうか?
 ここで、ビリーの回想シーンと共に、おさらいしておこう!

 思えば、ビリーの神様見習いとしての試練は苦労の連続だった。
 ハイランダーズでは、卵争奪のため、ウマウマドラゴンといった強敵たちと乱闘した。
 フレイマーズでは、過酷な赤い砂漠で、砂漠の魔物たちと死闘した。
 サウザンランドでは、絶海での海上戦にて、巨大タコの一味とタマの奪い合いをした。
 ノーザンランドでは、険しい雪山を行軍し、数々の魔物や精霊とも激闘した。
 イースタでは、イースタ大学の精鋭たちと模擬戦でしのぎを削り合った。

 今回のお祭り参加で気持ちを改め、ビリーはあることに思い至ったのである。
 それは、自分がサポート役として、仲間たちの役に立っているのだろうか、ということだ。
 今までに死亡した仲間は一人も出なかったが、もっと身近に救命手段を広げていきたいとも思った。

 しかし、彼は今までの人生でアイテム開発なんてやったことがなかった。  
 そこで、ボスのシルフィーと相談したところ、彼女と現代魔術研究所の同僚であるアガサ・マープル先生(NPC)を紹介してもらえることになった。
 ビリーはさっそく、現代魔術研究所の宗教研究所でマープル先生と話し合いの場を設けるのであった。

「……と言う感じでな、ボク、マギ・ジスタンに来てからは、いろんな強敵と戦って大変だったんやで。でな、救命手段を広げるにあたり、新しいアイテムを開発したいねん。救急護符(仮)っていうアイテムなんやけれどな、こいつさえあれば、仲間がピンチの時にこれ一枚貼るだけで、延命できるとか、どうやろ? 要は、HP0や死亡と言う自体を避けたいねん。まあ、最初はボクの手が届く範囲で使いたいんやけれど、ゆくゆくは、今回のマギケットを通して、世界に普及させて、困っている人たちを助けたいんや! マープル先生、どうか力を貸して頂けないやろか?」

 マープル先生は、老練の先生なだけあり、ビリーの真摯な思いを、うんうん、と聴いてあげていた。

「そうねえ。素晴らしいアイテムだと思いますよ。仲間のピンチを救うのがあなたの役目であるのならば、ぜひその役目を全うできる救命道具を作る価値はあるわ。それとまだ幼いの偉いわね、世の中で役に立つ妖精になりたいなんて、なかなかそう思っても、実行できる子は少ないのよ。いいわ、私でよければ、お助けしましょう」

「先生!! おおきに!!」

 ビリーは承諾を受けて、ついつい叫んでしまった。
 しかしビリー、念のため、ハガキサイズの護符を用意したものの、どうするべきか改めて考えた。
 プレーンの護符には、何も書かれていない。
 いや、魔術師でもない彼には、何かを書くことすらできない。

「あら? 手に持っているのは、護符ね、それ!?」
「あ、うん、そうや! でもなあ、一度、仲間を仮死状態にした上での延命処置のスペルとかわからんので苦労しとるねん! なあ、先生、スペルとかもしかしてわかるやろか?」

 マープル先生は、護符を一枚取り出し、魔法のペンで、すらすらと古代マギ・ジス語のスペルを書き上げた。

「はい。これであなたが言っていた魔術の効果は発動するわ。これはねえ、古代マギ・ジス語で唱えられた錬金術の呪文よ。そもそも理論的には、錬金術でいうところの賢者の石を概念化したスペルね。不老不死の研究などあるのだけれど、その辺りの解釈から、延命処置の魔術術式を導き出したのよ」

「ほう……。そいつは興味深いなあ! さすがは、老練の錬金術師やな!! 助かりまっせ!! やっほおい!!」

 ビリーは、先生が施してくれた護符を掲げて、しばらく踊っていた。
 マープル先生は、そんなビリーを眺めて微笑んでいたという。
 幼い座敷童子は、マープル先生が、なんとなく自分のおばあちゃんに思えてきたので、「小槌」でお茶と茶菓子を出してあげた。
 二人はこの後、お茶とお菓子で団らんの時を過ごしたようだ。

 一方、ところ変わって、ビリーの自室。
 ビリーは出荷前に、人体実験をやった方が良いという結論に至った。
 手下のカプセルモンスターたちにもペットにも志願者はいなかった。
 そこでビリー、ランマルに貼り付けることにした!

「せや!!」
「コケー、コケ、コケ、ココケ!!」

 ぺたり!!
 乱闘の末、なぜかランマルがビリーに護符を貼ってしまった。

「うひゅひゅううううん!!」
 ビリーはおかしな声をあげた後、すくすくと眠りこけてしまった。
 実験は成功したようだ。
 
 この後、明日の昼まで彼は眠ったままだった。
 様子がおかしいということで、シルフィーがビリーの部屋まで見に来たら、このざまだったとか。
 その傍ら、ランマルがビリーを突っついていたらしい。

***

 時間は、進む。
 ようやく、午前9時を過ぎ、一般客入場と共に、マギケットが本格的に動き出した!

 ビリーはここで、寸劇を披露することを思いついた。

「よってらっしゃい、見てらっしゃい!! 浪速の座敷童子ビリー一座の寸劇、始まるで!!」

 ビリーは掛け声を出しながら、丸めた新聞紙で、ゴンロク(マッハ・ハイノシシ)をペシペシと叩き始めた。

「そりゃあ!! たった今、ボクはゴンロクを叩き切ったで!! ゴンロク、危うく、HP0でバタンキューや!! そんな時は、どうすればいいやろか? もちろん、我が社が発売している救急護符を彼に貼れば、あらびっくり、復活や……」

 と、ビリーが護符を貼ろうとしたところで……。

「みゅー!!」

 ぐしゃり!!
 マタザ(ブルーカモメ改)が、空中から、ビリーの脳天めがけて、くちばしで直撃落下!!

「うぎゃあああ!!」

 ビリー、出血多量で大ピンチ!!

「そこで、登場、救急護符です!! 瀕死のビリーに貼れば、あら不思議、復活だわさ!!」

 キチョウ(冬の精)が救急護符を、倒れたビリーにぺたり、と貼った。
 すると、ビリーがすやすやと眠りだし、傷が癒えていった。

『おお、すげー!! こりゃ、本物だー!!』
『俺にも一枚、売ってくれ!!』
『私も買うわー!!』

 来客万来、これにて寸劇、大成功!!
(ビリーは犠牲になったが……)

 なお、この寸劇により、護符は20枚売れた。

***

 そして昼過ぎ……。

「はあ。午前中はえらい目にあったわ! ま、復活したんで、そろそろ他のブースも回りたいねん! というわけでな、配下ども、店番頼むわ!」

「シャー!!」
「ベロー!!」

 ひとまず、ブース席に座っているボーマルとリキマルが返事をしてくれた。
 人語を解せない彼らに店番を任せるのはやや不安であったが、人語が話せるキチョウもいる。
 それにジューベーを、「冬の精」に変換しておいたので、これで人語を話せるスタッフが二名いる。

(ま、大丈夫やろ……)

  ビリーは自軍のブースを後にして、まずは、真正面のブースにいるファイアバーンの所へ、てくてくと向かっていくのであった。

「毎度、儲かりまっか!? おっちゃん、元気にしとるか?」

 ビリーに話しかけられて、ファイアバーンは、ニカッと笑って答えた。

「おお、ビリー君か? 植林の時以来だのう。ワシはこの通り、元気100倍だわい! どうだ? マギ・エコバッジはいらんか?」

 魔術がリサイクルされているロゴ入りのバッジを、所長はビリーに手渡した。

「お? おもろいもん売っとるな? なになに……魔力が10%セーブされるんかい? うん、普通に欲しいわ、これ! どや、物々交換せえへん?」

 ビリーは、持っていた救急護符を一枚、所長に渡してあげた。

「これ、いざとなった時、仲間の延命処置をする救命道具やねん。使い方は簡単。この護符を貼るだけで、仲間が眠りだすんやけれど、回復したら剥がすんや。砂漠の仕事って危険が多いやん、何かと。ぜひ使って欲しいねん!」

 ファイアバーンは、護符を受け取り、術式を読んでいた。

「うん、ありがとう。ふうむ……。古代マギ・ジス語……錬金術か。ビリー君、よく勉強してるな?」

 いやいや、とビリーは首を横に振る。

「違うねん。そのスペルはアガサ・マープル教授に書いてもらったんや! まさか、ボク、書けへんで!!」

 わはは、と二人の間で笑いが溢れた。
 ビリーは良い物を手に入れ、ご満悦だ。
 笑顔でファイアバーンと別れ、次のブースへ行くのであった。

***

 次にビリーがやって来たのは、3F西ホール、Fセクションの魔物セクションである。
 ビリー、実は本日、2日目を心待ちにしていた。
 なぜなら、昨日、諸般の制限があって、魔物セクションをコンプリートできなかったからだ。
 本日、リベンジ、なるか!?

 ビリーは、F-1の「聖アスラ学院現代魔術研究所 第二支部」を訪れた。

「いらっしゃーい!! 調教グッズいかがですー!?」

 シルフィーの部下、萌え魔導ロボのエリスが出迎えてくれた。
 ブースには、大きな注射器が並んでいる。
 先端は、針ではなくスタンプだが。

「ええと、エリスやったな?」
「はい!」

 この二人は、現代魔術研究所にて、シルフィーの部下という共通点があるので、少しだけ知人である。

「これ、欲しくないかいな!?」

 ビリーは、救急護符を二枚、ピラピラと手元で揺らしながら、悩ましげに相手を見つめた。

 一方、エリスは、ピピっと、解析した。

「おや? 錬金術の札ですね? 不老不死の理論が搭載されているようですね?」

 どうやら、エリスに説明は、いらないようだ。

「うん、まあ、そういう代物や。こいつさえあれば、仲間がピンチの時に延命できるねん!」

「あら、それは素敵ですね! ぜひ2枚もらっておきましょう。調査部隊が派遣先で倒れた際には、ぜひぺたりと仲間に貼っておきましょう!」

 とりあえず、交換は成立した。
 ビリーは、サンドスネーク用とお化けハイランダケ用の注射器を一本ずつ手に入れた。

(うしし!! これで魔物セクション、コンプリートやで!! ミッション終了!!)

***

「うおおおお!? なんやねん、これ!?」

 ビリーが上機嫌で自軍ブースへ戻ると、ブースが盛り上がっていた。
 ビリーの寸劇を学習した配下たちが、殴り合い、ど突き合い、噛(か)み合い、護符を貼り合い、復活の劇を繰り返している。
 面白いことをやっていると評判になり、客が集まった。
 その傍、冬の精たちは、会計をがんばり、接客に精を出している。

 護符は、先ほど20枚売れて以来、追加でもう20枚売れた。
 だが配下たちは何ぶん、知能が低いのと、護符の価値をわかっていないので、寸劇で40枚ほど消耗してしまった。

(あはは……。どないしましょ!? 嬉しいやら、悲しいやら、複雑やな……)

 よくわからん展開になっているが、このまま護符を寸劇で消耗し続けてはまずいと思い、ビリーはひとまず止めに入った。
 以後、冬の精たち以外のカプセルモンスターとペットをしまい、残りの時間、地味に商売を続けた。

 結果として、この日、ビリーは護符を50枚売り上げた!
 1枚5000マギンなので、ビリーは25万マギン儲けたようだ。
 まさに、儲かりまっせ!
 浪速の商魂のなせる一大曲芸、これにて閉幕!!


B-4 萬智禽の攻略本屋さん


 マギケット2日目のお守りセクションは、上記で前述したように盛り上がりを見せていた。
 だが、盛り上がったセクションは、お守りだけではない!
 やはりマギケットと言う名だけあって、同人誌も健在!

 同人誌に熱きパトスを賭けたこの漢(厳密には性別なし)、萬智禽・サンチェック(PC0097)こと、巨大目玉野郎を忘れてはいけない!

 巨大目玉は、3F東ホールの同人誌セクションにぷかぷかとやって来た。
 午前8時30分過ぎのことだ。
 ブース位置は、E-1B。
 なお、E-1Aは、かの悪名高きHENTAI部である。
 まさか、HENTAI部の隣になってしまうとは、 萬智禽も夢にも思っていなかったそうだ。

(ふむ。HENTAI部の隣というのは別にかまわないのだが、トムロウ殿は留守だな? ブースのセットアップだけして、どこかへ出かけてしまったのだろう。さて、私も早いうちに支度を済ませよう!)

  萬智禽は、念力を繰り出し、ブースをセットし始める。
 ブース上のパンフを方し、白黒のチェス盤のシートを敷いて、金庫も置いた。
 テーブルのセットが終わると、同人誌『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』パーフェクト攻略を、ドカン、と落下。分厚い攻略本20冊だ。なお、値札には、一冊5万マギンと表示されている。

(お、こいつも忘れてはいけないのである!!)

 萬智禽は、巨大な目玉がニカッと笑う絵のノボリを店頭に掲げるのであった。
 ノボリには、大きく「めだま屋」とポップに描かれていた。
 まさに店主を一目で表現しているノボリである。

 ちなみに、周辺サークルは皆、欠席しているようだ。
 萬智禽は、十分ほど退屈な時間を過ごした後、午前9時の一般入場を迎えるのであった。

***

「さあ、お客様方、ぜひいらしてくださいなのだ!! 『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』パーフェクト攻略、本日、発売なのだ!! あの難易度高しの萌えゲー、『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』がなんと、完全攻略されてしまったのだな! ヒロイン攻略もSLGパート攻略もなんでも来いなのだ! この一冊で、あの最強ゲームが手に取るように全クリできるのだよ、わはは!」

 必死で客引きをがんばる萬智禽。
 だが……。

「うひゃー、こえー!!」
「逃げろ、巨大目玉だー!! しかも充血してるー!!」
「きゃー!!」

「あう〜! 怖がって足早で通り過ぎないで、一冊、手に取って読んで欲しいのだ〜!」

 客が逃げるのも無理はない。
 それもそのはず、今、この目玉の外見は恐ろしい。
 彼は、前夜、初めてのサークル参加が楽しみで一晩中、眠れなかったのだ。
 そして今、萬智禽は、眼球(全身)を真っ赤に血走らせ、不気味さをいっそう増した姿にて、客を必死に呼び止めていたのである。

「くう〜。一冊も売れなかったらどうしてくれよう? 本書執筆でご協力してくれたトムロウ殿にも申し訳ないのだよ!! おかしいなあ、攻略は間違ってないはずなのに……」

 そんな感じで巨大目玉がしぼんでいたら、通りすがりのオタク野郎がやって来た。

「おい、目玉の店主! その本、一冊、くれないか?」
「な、なんと、お客さんであるか!?」

「もちろん! このゲーム、完全攻略が難しいんだよな! ヒロインといい、SLGといい。俺ら、マギ・ジスのオタクの間でも攻略に手間取っていたわけよ! 公式は、攻略に関するお問い合わせは一切受け付けません、の一点張りで、攻略本すら出してくれねえし!」

「全くなのだな! 本書が生まれた動機もその辺にあるのだ!」

「いくらだ?」
「5万マギンなのだ!」
「うおおおお、買ってやるぜ、このやろう!!」

 一般客と意気投合し、ひとまず一冊が売れた。
 これには萬智禽、巨大目玉の涙腺が少し緩んだようだ。

***

 昼過ぎのことだ。
 隣のブースの主人、トムロウがコーテスを引き連れて戻って来た。
 なぜ二人の姿がボロボロなのかは、察してあげて欲しい。

 ヒント:A-2 未来のホットドッグスタンドお手伝い

「よお、目玉! 売れ行きはどうだい?」

「お、トムロウ殿!! いや、師匠!! それが全くもって芳しくないのだ! 一冊しか売れていないのだよ!」

 トムロウは、アイテム袋から、何かをガサゴソと取り出した。

「ま、気長に行こうぜ! こういうのは長丁場だからな! これでも飲め! マギ・ジスの天然水は、うめえぞ!」

 おや? と目玉を傾げていた萬智禽を見て、コーテスは、「差し入れだよ」と教えてくれた。

「おお! これが同人仲間からの差し入れと言う奴であるか!!」

 感動している巨大目玉は、ありがたく天然水ボトルを受け取った。
 そして、コーテスも、アイテム袋から魔法少女の天然水ボトルを取り出し、手渡した。
(正確には手渡せないので、ブースの机にボトル二本が置かれた)

「なんと、コーテス殿まで!! 嬉しいのだ! ぜひ二人には、本書を一冊ずつ差し上げるのだ!!」

 攻略本がぷかぷかと宙に浮き、トムロウとコーテスに手渡された。

 コーテスは、さっそく、パラパラとめくってみた。

「お? これは……すごい!! ヒロイン8人全員の攻略があるし、……SLGパートは、強敵ボスからラスボス、隠しボスまで対策が……網羅されている!! さらに、これは手描き? ヒロインのイラストも充実!! いやあ、それにしても壮観だね!! ヒロイン1ルートにつき……プレイ時間が平均100時間とかでしょ? それを一人で……完全攻略したわけ?」

 焦るコーテス。彼は興奮を隠しきれず、一気にしゃべりだした。

「いや、さすがに一人では、この本は完成しなかったのだ。だな、トムロウ殿?」

「おうよ! 実はな……」

***

 マギケットへのサークル出店を検討していた萬智禽。
 ある日、攻略本を同人で出したいと思いついた。
 もちろん、攻略するゲームは、先日、イースタの修学旅行で入手した『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』だ。
 この本は、かねてより完全攻略が不可能と言われていた無理ゲーだった。

 しかし、一人で完全に攻略する自信が萬智禽にはなかった。
 彼はゲーマーとしては優秀な腕前だが、相手が無敵すぎたのだ。
 そこで、以前、イースタで知り合ったオタクマスターのトムロウに打診し、共同で完全攻略を申し出た。

 二人は、トムロウの自宅(イースタ大学の男子寮)に集まり、ゲーム大会を開くことになった。

「と、いうわけで、トムロウ殿! レッツ、プレイなのだ!」

「おう! 萌えゲーって普通は一人プレイだよな? それをあえて二人プレイだなんて、なかなかの修行じゃね? ま、腐女子とかに見つかってBLのネタにされないように、こそこそと攻略しようぜ!」

 最初からプレイして一時間後……。

「トムロウ殿、最初の選択肢が出たのだな? このヒロインを落とすには、選択肢Aを選ぶのだ!」
「いや、それは引っ掛けだ! きっとAを選んだら、この後、デッドエンドになる! Bだ! あ、セーブしとけな!」

 さらに数時間後……。

「おい、トムロウ殿! このステージのボス、強すぎるのだよ! もう何度、全滅プレイしたか!?」
「いや、これは作戦なんだ。あえて全滅プレイをして、経験値を得ているのさ。このステージのボスは反則なぐらいに強えー。だからこちらも裏技、全滅プレイのリピートで太刀打ちする!」

 それから数日後……。

「ふう……。ようやくヒロインAのルートが終わったのだな? ん? 最初からプレイしてから90時間過ぎているのだ?」
「いや、90時間ならまだいい方だ! Aのルートは腕のいいゲーマーでも110時間かかるとネットで出てた。それよりも、おまえ、社会人として大丈夫か? 休みは取っているんだろうな?」
「もちろん! この日のために有給休暇を全て使い果たしたのだ! 足りない日数は研究休暇も使ったのだ!」

 とまあ、こんな具合に、プロゲーマー並の実力を持つ最強オタクコンビの活躍により、ついに『マギ・ジスタン萌え萌え大戦』は完全攻略されてしまったのだ!
 そして、萬智禽は、トムロウと一緒に攻略した全ての情報を完全に記録していた。
 後日、二人の努力の成果が、こうして同人誌として完成したわけだ。
 むしろ、5万マギンという値段は、安いのかもしれない。

***

「うわーん!! なんて、いい話なんだー!!」

 萬智禽とトムロウの苦労話を聴き終え、コーテスは泣き出してしまった。
 すると、周辺に同志たちも集まって、もらい泣きしていた。

「いよ、目玉、あんた漢だぜ! 買ってやる!」
「よし、俺も買うぞ、ぜひくれ!」
「へえ、本当にあれを完全攻略したんだ! ていうか、欲しい!」
「さっきは逃げてごめんね、目玉さん! やっぱり買うわ!!」

(おお、これは、なんという、ビジネス・チャンスなのだ!!)

「わはは!! ぜひ買って欲しいのだ! 完全攻略をこの巨大目玉と萌え魔王が保証するのだよ!!」

 そして、観客四人を集めたことで、本が四冊売れた。
 だけれど、さすがにレアな分野での5万マギンの本である。
 しかも販売主の萬智禽はマギケットでのサークル参加は初である。

 この日は全部で五冊売れて、合計25万マギン儲けた。
 上等な出来具合いではないだろうか。

 がんばれ巨大目玉、マギ・ジスタンのハードゲーマーたちの星となるのだ!


B-5 リュリュミアのお花屋さん


 マギケットで盛り上がっているのは、何も室内だけではない。
 野外の庭でも、Gセクション(その他)の同志たちが熱く燃えていた。

「ふん、ふん、ふん♪ わたしのお花屋さんは、どこかな〜♪」

 午前9時前。ギリギリセーフの時刻に、マギケット庭にて、植物系お姉さんが歌いながら出現した。
 リュリュミアは、植物の種が詰まった袋を抱えて、ブースG-7に荷物を置いた。
 ちなみにG-7ブースは、庭の端っこである。
 日当たりもよく、今日はのびのびと日光浴でもできそうだ。

「らん、ららら、らん♪」

 リュリュミアは歌いながら、ブースのセットアップをする。
 テーブルのパンフを除け、花柄のシーツを敷き、金庫と袋を置いた。
 小さなアイテム袋のパッケージには、「虹の花の種」と表記されている。
 この種は、蒔くと瞬時に虹の花が育つオリジナル品である。
 値段はなんと、1袋10粒入っていて500マギンというお財布に嬉しい設定だ。
 そして、ブースの看板である「リュリュミアのお花屋さん」と書かれた旗を掲げた。
 旗には、虹の花の絵がリュリュミアによって描かれていた。

 リュリュミアがちょうど用意を終える頃、野外にアナウンスが流れた。
 勇ましいBGMと共に、マギケット2日目開始の宣言がされた。

 一般客らは、一斉にエントランスへ押しかけるが、中には庭へ直行する者たちもいる。
 庭にあるその他セクションへ客が流れてくるのだが、リュリュミアのブースは端っこにあるので、なかなかそこまで客足は歩んでこないようだ。

「ふうぅ。開始したみたいだけれどぉ、暇よねぇ」

 リュリュミアは開始早々、だれていた。
 でも暇にかまけて眠りこけるわけにはいかないので、デモンストレーションをすることにした。

「えーい!!」

 リュリュミアは、「虹の花の種」を地面に向かって、投げつけた!
 すると、地面に当たるや否や、種が弾けて、にょきにょきと急成長!

『パン!!』

 破裂音と共に、ひまわりの外見に似た、虹色の花びらを持つ大きな花が咲いた。

「おおぉ〜!! 大成功ぅ!!」

 このお花、実はステータスの「運」を上昇させる効果を持つ。
 今みたいに、花びら全てに七色が揃ったら、「運」の上昇効果「大」である。
 
 もうちょい説明すると、通常は、咲いた花びらは1色だけ。
 虹の七色の花びらの2、3枚が違う色の場合は、ステータス「運」が「中」程度に上昇。
 虹の七色の花びらの1枚が違う色の場合は、ステータス「運」が「小」程度に上昇。
 虹の七色の花びらの色が全て同じ色の場合(デフォルトそのまま)は、ステータス「運」が「小」程度に降下。

 といった、仕組みだ。

 さて、さっそくリュリュミアの運気が上昇したので、お客さんがたくさんやって来た。

「あら? 素敵なお花ね? その種、1袋もらえるかしら?」
「おお、今のデモ、すごいな!! ぜひ俺にも売ってくれ!」
「ねえ、お姉さん、今のどうやってやるの? 僕も七色の花、出せるかな?」
 以後、客がもう数名、押し寄せる。

「はい、は〜い! みんな並んでくださいねぇ! 一人につき1袋までですよぉ〜」

 リュリュミアは軽く交通整理をして、店頭に並ぶ十人の客を順番にさばいていった。
 10袋が一度に売れたので、残りあと10袋だ。(全部で20袋用意して来た)

***

 昼過ぎになった。
 朝、花を咲かすデモで一気にお客を十人寄せて以来、客足はばったりと途絶えた。
 
 へなへなと萎れていた植物お姉さんだったが、そこへよく知る人物が来た。

「あら、リュリュミアちゃん、枯れているのかしら? せっかくお客さんで来たんだから、1袋、売って欲しいわね!」

「聖アスラ学院現代魔術研究所所属植物園」ブース代表のオネエ、パフィン(NPC)がくねくねとやって来た。

「あ、パフィン!! ぜひ、買ってぇ!!」

 チャリン♪ 1袋、毎度あり。

「特訓の成果はでているのかしら?」

 パフィンは、リュリュミアの師匠として気にかけてくれたようだ。

「うん、もちろんですよぉ! さっきなんてぇ、花の運が咲いたおかげで、10袋売れましたぁ!」

***

 今回、リュリュミアが売っているこの「虹の花の種」だが、開発秘話がある。
 リュリュミアは、現代魔術研究所で「青いバラの種」を練成して以来、マギ・ジスで植物開発をしていた。
 しかし、今回のような複雑な要素を持つ「虹の花」の練成方法にはさすがの彼女も手間取っていたのだ。
 そこで、かつて、現代魔術研究所でお世話になったアガサ・マープル先生と、その植物園の管理人であるパフィンの二人に協力を申し出たのだ。
 先生二人を指導につけて、リュリュミアの特訓開発の日々が始まった。

 とある午後の現代魔術研究所、植物学実験室……。
 マープル先生と一緒に種の練成をしていた時のこと。

「ねえぇ、おばあちゃん先生! この種の合成だけれどぉ、これで合ってますぅ?」

 リュリュミアは、ひまわりの種を今、まさにグツグツ煮えているフラスコに入れようとしていた。
 フラスコの中には、虹の涙、タマムシ魔物のエキス、世界霊魂、錬金護符などが入っている。

「ええ! あとは、この中にその種を入れれば完成だわ!」

 さあ、最後の緊張の一瞬、リュリュミアは思い切って、種をぽとん、とフラスコへ投入!!

 どかああああああん!!

「きゃああああぁ!! 何よぉ、これぇ!!」
「うふふ。これは錬金術のお約束よ、リュリュミアさん!!」(ごめんね、調合量を間違えたみたいね♪)

 そして、種が完成した後……。

「さあ、リュリュミアちゃん。その完成した七色の種を、今から庭に蒔くわよ、いいわね?」
「は〜い!!」

 今度は、パフィンと一緒に、植物園の庭の一角を借りて、いよいよ種蒔きだ。

「それ!!」
「えぇ〜い!!」

『パン!! パパパン♪』

 なんと、咲いた花は、どちらも赤一色か青一色だった。

「あれぇ? 実験は失敗したのかなぁ?」

 首を傾げるリュリュミアの頭上に、おぼんが落ちてきた。

 ごちぃぃぃん!!

「きゃああぁ!! 今度は何よぉ!?」

「うん。実験は成功よ! 虹の花の種が咲いたとき、花びらが一色だと『運』のステータスが落ちるのよ! 今、リュリュミアちゃんの運気が悪くなったわ! それでおぼんが落ちて来たのよ!」

 ごちぃぃぃん!!
 追加で落ちて来たおぼんは、パフィンを直撃した。

「あーれー♪」
「きゃあああぁ!! パフィン、大丈夫ぅ〜!?」

***

「うふふ。思えば、開発も大変だったわよね!」

 パフィンは思い出して、くすくすと笑い出す。

「そうねぇ。パフィンと一緒におぼんで直撃されたのはぁ、良い思い出ですよねぇ〜」

「じゃあね! がんばってねぇ〜!!」
「は〜い!!」

 パフィンが行ってしまうと、リュリュミアはまた暇になった。
 その後、昼過ぎ以降も暇を持て余してしまったので、彼女は日光浴を楽しんだ。

 ちゅん、ちゅん♪
 キラキラキラ!!

 野鳥の声に癒され、淡い太陽光に照らされながら、光合成中!

「うふふぅ〜。マギケットって楽しいわねぇ〜」

 楽しみ方を少し間違えているかもしれないが、彼女はとてもハッピーな顔をしていた。

***

「うふふ、リュリュミアは真面目に商売しているのでしょうか? そういえば、新しい花の種を売るとか言っていましたわね? 楽しみですわ!!」

 風紀の掃除をひとまずお休み(2回目の小休憩時間)し、アンナはリュリュミアのブースへ、るんるん気分でやって来た。
 新商品をアンナにもあげると言うので、ぜひもらいに来たところだ。

「きゃあああああああ!! リュリュミア、ちょっと、あなたああああ!?」

 絶叫するアンナ。
 それもそのはず、リュリュミアはブースの中で干からびていたのだ!
 ちょうど、何日も水をあげ忘れた植物がしおしおに枯れているような姿で、彼女はそこにいた。

「これはまずいですわ!! 水分補給を!!」

 アンナは先ほどもらって来たマギ・ジスの天然水のボトルを開けた。
 そして、枯れた植物お姉さんの頭上に、ざぱああああああん、とぶっかけてあげた。

「あらぁ!? アンナじゃなぁい!? お姉さん、ふっかーつぅ!!」

 あら不思議、リュリュミアが一瞬で生き返った!

「こら、リュリュミア!! 毎度、毎度、心配ばかりかけて、あなたって人は!!」
「いやぁん!! ごめんねぇ!! 悪気はないのよぉ!!」

 ともかく、アンナから手渡された天然水ボトルをごくごくと飲み、リュリュミアは持ち直した。

「はい、これぇ!! 虹の花の種よぉ!!」
「あら? 種がまず虹色なのですわね? で、これ、どうやって使うのかしら?」

「こうするのよぉ、えいぃ!!」
『パン!!』
「ん? きゃあああ!!」

 この後、花が緑一色に咲き、運気が落ちたアンナの頭上におぼんが落ちて、リュリュミアは再び説教されるのであった。

 二人がコントみたいなことをやっている側で、ホットドッグ屋台がやって来た。

『ホットドッグ、ホットドッグ、いりませんか〜!? 熱くて美味しいホットドッグ、ありますよ〜!!』

 ティムが、ホットドッグが五個ほど乗ったおぼんを担いで、やって来た。
 どうやら、魔法の紙でホットドッグが包まれているらしく、冷めない仕掛けのようだ。

 ぐるるるるるぅ!!
 リュリュミアの腹の虫が鳴った。

「くださーいぃ!! ティム、こっち来てぇー!!」
「ん? リュリュミアさん!?」

 ティムがリュリュミアとアンナに気がつき、ブースまでやって来た。

「あら、ティム? お久しぶりですわ。あなた、こんなところで何をやっているのかしら?」

 アンナがそれとなく質問する。
 確か、ブースはフードセクションにあったはずだが。

「いやね、昼時はホットドッグ、よく売れていたんですよ。未来さんが手伝いに来てくれた、ということもあってね。でも、昼飯時が過ぎた後、なかなか売れなくて……。ブースにはスタッフが四人いるけれど、四人もいらないわけで、ジャンケンで負けた僕が外部でホットドッグを売り歩いているわけです……」

「ティム、わかったけれどぉ。早く、早くぅ!! わたし、お腹ペコペコで死にそぉ!!」

「あ、すみませんでした! ホットドッグですね、はい、ただいま!」

 ティムからホットドッグを受け取り、リュリュミアはバクバクと食べだした。
 今日はお昼を抜いていたし、朝も早いのであまり食べていなかったらしい。

「あらあら? リュリュミアったら!」
 アンナはあきれながらも、微笑んで友人の食事を見守っていた。

「ええとぉ、お代はぁ……」

 リュリュミアは即行で食べ終えると財布を取り出した。
 一方、ティムは、店頭にある虹の花の種が気になっていた。

「あの、これは?」
「うん、これはねぇ……」

 この後、ティムが蒔いた種の花びらは黄色一色で、彼の頭上におぼんが落ちたことはお約束!

「ええと……。今、運気が下がっておぼん攻撃を受けましたが……。これって、要は、花びらが、七色揃うのがベストなんですよね? そして、花びらの色が複数になればなるほど、運気が上がるんですよね? 運気が上がるってなんかいいなあ……。商売やっていると、運気とか気になりますし! よかったら、1袋もらえませんか?」

「うん、いいわよぉ! そうだぁ! さっきのホットドッグのお礼であげるぅ!!」

 リュリュミアは、ティムの手元に、種の袋を1袋、渡してあげた。

「そうですね……。さっきのホットドッグ代ですが、物々交換にしましょうか? ちょうど、どちらも500マギンですし!」
「うん、そうしましょ!!」

 リュリュミアのお花屋さんはこの後、種が売れ続けることはなかった。
 だけれど、本日は、運気上昇の時に10袋売れ、パンフィが1袋買ってくれたので、11袋売れた。
 1袋500マギンなので、本日は5500マギンの儲けだ。
 これではイベント参加としてちょっと赤字だけれど、強力なアイテムを入手できたのでチャラと思おう。
 アンナやティムともアイテム交換ができたので、リュリュミアはその点も嬉しかったらしい。

 今後のマギ・ジスタンの冒険で、虹の花の種が役立つ日が来ることに期待し、リュリュミアのお花屋さんは本日をもって閉店するのであった。(何げに運気を左右するアイテムは強烈だろう。かの少年漫画で、運も実力のうちと考えれば宇宙一の実力を持ったヒーローまでいたのだから……)

***

 こうして、マギケット2日目も平穏に終わるのであった。
 次回、マギケット3日目は、いよいよスタンプラリーが始まる。
 さあ、PC諸君、スタンプを集めるため、明日は、マギケット中を駆け巡るのだ!
 目指せ、スタンプラリー入賞!
 ゲットせよ、豪華景品!

<続く>