「魔女の特急便」(温泉旅館編)

第2回

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ


●パートA 温泉編

A−1 男湯編


A−2 女湯編

A−3 混浴編

●パートB 宴会鍋編

B−1−1 精進鍋(萬智禽&ビリー、ときどき未来)

B−1−2 いろいろ鍋パーティ(アンナ&リュリュミア&シルフィー、ときどき未来)

B−1−3 憑依しながらの鍋?(ジニアス&ラサ&リシェル、ときどき未来)

B−1−4 飲兵衛たちの鍋(リシェル&ジュディ&マニフィカ、ときどき未来)

●パートB2 宴会出し物編

B−2−1 魔法少女、歌います!

B−2−2 超・卓球バトル

●パートC お土産編

C−1 ノーザンデビルベアの干し肉をもらう

C−2 焼酎「雪女」をもらう

C−3 ミニ精霊石をもらう




●パートA 温泉編


A−1 男湯編


 クマ骨温泉は、静々と降り注がれた雪山を背景に、夕闇のライトアップが煌(きら)びやかに灯っていた。

 真っ白いクマの骨の成分で溶かされたぽかぽかの露天風呂に、ひとりで優雅に浸かっている男がいた。

「ふう、いい湯だ……。やはりメンツ的にみて、男湯は俺の独り占めだったな……。相棒の冒険者は混浴に行っちまったし。ははは、贅沢で愉快だぜ!」

 リシェル・アーキス(PC0093)は、タオル一枚の姿で、クマ骨温泉に身を沈めている。あたり一面まっさらなお湯は、クマ骨の成分で出来ているせいか、魔力に効くという。本日の配達任務で魔力を散々使ったリシェルは、クマ骨の湯で、神経を休め、疲れを癒していた。

(こうして湯に浸かっていると、今日の配達での様々な光景が目に浮かんでくるぜ……。特にルート1のボスデビルベアは強敵だったなあ……。仲間が詠唱時間を稼ぐために、おとりにはなったものの、あの一撃を避けきれなかったとは……。マギ・ジスに帰ったら、改めて反応速度の鍛錬をしないといかんだろう……。ちっ、あのクマ野郎、今度会ったらただじゃおかねえぞ! って、いてて、あのときやられた、みぞおち、未だに痛むぞ……)

 クマ骨の湯を満喫したリシェルは、次は魔石サウナに入ることにした。

 サウナルームに入るや否や、むっとする強い空気がリシェルを襲う。
 90℃もある暑めのサウナルームの中央には、巨大な魔石が置かれている。
 この魔石はノーザンランド産の魔石で、魔力や体力の回復、デトックス(解毒)に良いとされる。

(ははは! サウナも独り占めでなかなか愉快じゃねえか! よし、5分入ろう!)

 リシェルは、タオル一枚で、たらたらと汗が流れる中、猛暑のサウナに5分間、入っていた。部屋には簡単な時計が置かれているので、5分の目安もすぐにわかった。

 汗が流れると同時に魔石の成分が体に浸透してくる。
 サウナでいい汗をかいたリシェルは、すっかりと今日の疲れから回復していた。

 サウナルームを出た彼は、水で一汗流し、水風呂に浸かる。
 この水風呂もノーザンランド産の天然水なので、入るととてもすっきりできるのである。

(おおっ!! さすがに冷てえ!! そういや今の気温は5℃だったか? いくらサウナ後だったからといっても、真冬の水風呂はこたえるぜ!!)

***

 お風呂から上がったリシェルは、仲間たちの間で、自分が最初に上がったことに気が付いた。
 浴場前の休憩室には、誰もいないからだ。

(お? こ、これは!?)

 休憩室前には、マッサージ機が設置されていた。
 浴衣姿のリシェルは、さっそく機械の椅子に座ってみる。

(なになに? 10分・100マギン? よし、やってみるか!!)

 100マギンコインをかちゃりと入れて、マッサージ機はうねうねと動き出す。

(う〜む、肩叩きか……。ぽんぽこと気持ちいいぜ! 腰の方もぐりぐりいいな〜! ふくらはぎのあたりも、もみもみと最高だ! へへへ、たまには温泉旅館もいいもんだな……)

 リシェルはひとまず、仲間たちが出て来るまで、マッサージ機でくつろぐのであった。


A−2 女湯編


 女湯の方は、夕闇の雪景色を背景に、青白くぴかぴかと光る精霊石温泉が、浴場のライトアップと共にきらきらと輝いていた。

「うふふ! いい湯ですわね! 温泉というのはそもそもアカデミックですわ! 温泉に入りながら考察するのもオツですわね!」

 人魚姫マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、タオルを全身に巻いた姿で、柴色の精霊石温泉にゆったりと浸かっていた。下半身はお湯に入ると魚に戻るらしく、足の代わりに鱗(うろこ)やヒレが見えていた。彼女は、手元にあるぴかぴかする石を愛でながら、ヒレをぽちゃり、と弾いた。

「精霊石でお肌ぴかぴか〜!! 100歳越えの身には、こたえるわ〜!! ん? マニフィカはこんなところまで来てもお勉強なの? 相変わらず熱心ね〜」

 マニフィカの隣で、同じくタオルを全身に巻いてお風呂に入っているのは、調査部隊隊長のシルフィー・ラビットフード(NPC)である。紫のお湯を自分にばちゃばちゃとかけて、若返りを試みていた。

「おやおや、シルフィーさんは、はしゃぎ過ぎですわよ! リアル小学生にならない程度でお願いしますわ。しかし、この温泉、温度が低めでゆっくりと入っていられそうでいいですわ〜」

 シルフィーの隣で、彼女を注意しながら、湯に浸かっているのは、フランス令嬢のアンナ・ラクシミリア(PC0046)である。タオルを体に巻いた姿で、精霊石温泉にじっくりと芯まで浸かっていた。

(やっぱり女湯にしておいてよかったですわ。水着でも混浴は恥ずかしいですし、何よりほとんどの方が混浴へ行かれたので、女湯は人数も少ないからのんびりできますわ!)

 アンナはちょっと恥ずかしがり屋のようだ……。

「さて、温泉の考察ですが……。そもそも温泉の利用形態とは、入浴して体を休める・療養する・楽しむ(泳ぐ)・飲む(飲泉)・蒸気を利用する(サウナや蒸し風呂)等に大別できますわ。
 入浴して体を休めるという形態は、意外にも少数派で、湿潤な気候に反映した文化とされているようですわね。
 ちなみに、わたくしの出身世界ウォーターワールドでは古くから海底火山の熱水を活かした伝統がありますので、これが温泉に相当するようですわ。
 ここノーザンランドは典型的な雪国であり、どの利用形態に当てはまるのか、お湯に浸かりながらじっくり検討してみたいですわね、皆さん?」

 マニフィカの考察のお誘いを受けて、シルフィーとアンナは、う〜む、と考えていた。

「そうねえ……。あたしの知っている限りだと、ノーザンランドは、入浴して体を休める・療養する・蒸気を利用する(サウナや蒸し風呂)に当たると思うね。反面、楽しむ(泳ぐ)・飲む(飲泉)は、ないこともないけれど、あまりないかなあ……。もともとノーザンランドは、一年中が雪国で温泉地が栄えているだけあって、保養地として、マギ・ジスタン世界界隈で有名よね? このシロクマ旅館のコンセプトも、雪国で温泉に浸かり、美味しい郷土料理を食べ、ゆったり休むってところだし……」

 シルフィーがそう答えると、マニフィカは、ふむふむと、頷いていた。
 一方、アンナは……。

(まあ、なんと!? マニフィカさんって、湯に浸かると足が魚になるのですわね!! やはり人魚なので、そういう展開になるかとは思っていましたが……)

 マニフィカは、足の部分であるヒレをぽちゃり、と浮かした。

「アンナさん、いかがされましたか?」

「そ、そうですわね……。故郷のフランスの温泉地だと、エヴィアンが有名ですわ。飲める天然水なんかでも有名でしょ? あはは……」

 よそ見をしていたので、慌てて答えたアンナだったが、マニフィカはにこりと返す。

「いいですわね〜。異世界のフランスにも今度、行ってみたいですわ!」

 ここで一度、3人は露天風呂の方にも行って、ノーザンリーフ温泉に浸かることにした。

***

 薬草の露天温泉はとても解放的であった。
 ノーザンリーフそのものが入った、ダークグリーンの湯から、アロマハーブの匂いが香っていた。

「ふう……。これまたいい湯ですわ。アロマで温まりますわ! わあ……。なんて広大な雪景色! ここの旅館、標高が高いのかしら? この位置から、今日、わたくしたちが配達で通って来た雪山や雪原が広々と見下ろせますわね!」

 マニフィカは、薬草を愛でながら、暮れる夕焼けを背景とした広大な雪景色をきらきらした瞳で眺めていた。

「う〜ん、これまたトレビアンですわ! ハーブと雪景色の合せ技で心身が回復ですわ!」

 アンナも薬草風呂に浸かりながら、夕闇に染まる雪景色をしげしげと眺めていた。

「いい湯じゃのう〜」

 シルフィーも湯にもぐり、薬草の湯を満喫していた。

 さっきまで温泉を考察していた3人だったが、温泉の魔力に呑まれ、アカデミックな思考は霧散したようだ……。

***

 一通り、湯に浸かり終えた3人は、塩サウナに入ることにした。
 塩サウナルームも、3人だけの貸し切り状態なので、ゆったりとしている。

 彼女たちがルームに入ると、ノーザンランド産の塩の塊が中央に置かれていた。
 どうやら美肌効果やデトックス効果なんかもあるありがたい塩だ。
 しかもサウナは50℃の低温なので、リラックスして入ることができる。

 3人は、タオルを巻いたまま、一列に座り、共にたらたらと汗を流した。
 汗を流すと、同時に塩の塊が体内に吸収され、心身共にリフレッシュ!

「ふう、いいサウナですわね……。のぼせる前に、水風呂に行きましょうか?」

 10分したところで、汗をたくさん流したアンナがみんなに問いかけた。

「ですわね! 水風呂も楽しみですわ!」

 そろそろ出ようかと考えていたマニフィカも、額の汗を拭いながら答えた。

「そうねえ……。あたしはもう少し、ここにいるよ……」

 汗をだらだらと流しているが、シルフィーはもう少し、ここに残るらしい。

***

 アンナとマニフィカは、サウナから出ると、軽く水をかけて汗を流した後、水風呂へと浸かり始めた。

「ふう……。サウナ後とは言え……真冬の天然水の風呂は、まるで我慢大会みたいですわね!」

 寒々とした水風呂で、のぼせかけていたアンナは、一気にクールダウンした。

「うふふ。これもまた適温ですわね! 人魚たる者、深海に生きるので寒さには強いですわ! しかし、いい湯ですわね〜。とろけそ〜」

 マニフィカは、再び、下半身を魚モードにして、ぴちゃぴちゃと水を弾いていた……。
 かと思うと、あまりにも気持ちよかったのか、溶けて弛緩(ちかん)してしまう!

「あれ!? マニフィカさん、とろけていますわよ!」
「うへへ〜。大丈夫ですわ〜。人魚はとろけることもありますわよ〜!!」

 これは、のぼせているのだろうか?
 それとも人魚とは、そういうものなのだろうか?

 温泉の魔力、恐るべし!


A−3 混浴編


 混浴のウォーターパークは、今宵、愉快なお客たちで賑わっているようだ。
 広々とした露天風呂が4つも広がるパークで、青年たちはがやがやとやって来た。

「よーし! みんなで全部制覇するぞー! 全軍、突撃ー!!」

 勢いよく入ってきたのは、冒険者青年のジニアス・ギルツ(PC0025)だ。海パン姿で、温泉に向かって突進!

「いえーい、いえーい!! 温泉だ、制覇だ、やっほー!!」

 ジニアスと共に元気よく現れたのは、彼の相棒ラサ・ハイラルだ。本日も猫のぬいぐるみ姿であり、猫姿で風呂に突撃!

「きゃ、きゃ、うふふ!! 温泉よ、やったー☆」

 この部隊の後に、元気いっぱいで続くのは、エスパー女子高生の姫柳 未来(PC0023)である。今日は、アイテム「特殊水着」であるスクール水着を着て、混浴に出陣!

「わぁ、お湯がいっぱいですぅ! せっかくだから、端から順番に入っちゃいますよぉ。
誰が真っ先に全制覇するか、競争ですぅ!」

 未来の後ろには、天然植物系お姉さんのリュリュミア(PC0015)がきゃっきゃと続いていた。一応、水着……というか、服を破ってパレオ風ビキニにしてしまったようだ。服は彼女の一部なので、破っても再生するらしい。人外はすごい!

「これや! こんなんしたかったんや! めっちゃ楽しいで♪ わはは!!」

 さらに部隊は続き、これでもかという勢いではしゃいでいるのは、キューピー姿の座敷童子であるビリー・クェンデス(PC0096)だ。今日は子ども用水着を着用。さらにその後ろには、ペットの鶏であるランマル、カプセルモンスターであるサンドスネークのボーマル、お化けハイランダケのリキマルまで、よちよち(にょろにょろ)と歩きながら行進中。

「イエッサー!! オンセン、ヨー!! セイハするですネ!!」

 部隊の最後に続くのは、巨大なアメリカンレディ・ジュディ・バーガー(PC0032)である。愛用の迷彩ビキニをダイナマイトバディに着用し、のさのさと最後尾を行軍! しかも首には、ペットの愛蛇ラッキーちゃんを巻いているのだ!

「ほっほっほ、みんな若いであるな! 温泉とは休むところであるぞ!?」

 部隊には加わらず、ひとり、のんびりとクマ骨の湯に浸かるのは、巨大目玉の萬智禽・サンチェック(PC0097)である。目玉が湯船に浸かって、熱くないのだろうか? 痛くないのだろうか? そんなことは関係ねえと言わんばかりに、にやりと笑いながら、若者たちのはしゃぎっぷりを見守っていた。

***

 マグマ温泉……。
 火炎魔術が沸騰し、ぶくぶくと泡を吹き出す真っ赤な高熱温泉だ。
 肩腰に良し!

「よーし! まずは体力の回復だー! みんな、行くぞー!!」

 ジニアスは、マグマ温泉に浸かると、高温度の赤い湯で身体が温まる!
 ぶくぶくと凄まじい泡は、意外と気持ちよかったようだ。
 特に肩と腰に強い刺激が!?

「うわあ……。ぶくぶく……。一緒にぶくぶくするぞー!!」

 ラサもマグマ温泉に浸かり、一緒にぶくぶくと歌いだす。
 猫の身体は真っ赤な湯で清められる。

(ふうむ……。中はこんなに真っ赤なのね!?)

 未来は、「特殊水着」で潜り、真っ赤な温泉の噴火山的な姿をじっくり観察していた。

「ほれ、ランマル、ボーマル、リキマル、マグマや、マグマやで〜!!」
「こっこ!」
「シャー!」
「べろん、べろん!」

 ビリーと手下たちは、たがいにマグマ(赤い湯)かけごっこをしていた。

「イエーイ! レッドなマグマ・オンセン、レッドな夕焼けネ!! ラッキーもファイア、焼けるネ!!」
「シャー!」

 一方、ジュディの方も、ラッキーちゃんとマグマかけをやっている。
 サンドスネークにしてもラッキーにしても、変温動物なので、温泉は気に入ったらしい。
(たぶん、鶏やきのこも温泉は好きだ……)

「う〜ん。熱い湯ねぇ〜。どうもわたし、40℃を超えるとダメみたいねぇ〜」
 リュリュミアは、50℃に沸騰しているマグマ温泉は、足だけ入ることにした。

***

 クマ骨温泉……。
 真っ白なクマ骨が神経を癒し、魔力を回復……。

 クマ骨温泉では、一足早く、萬智禽がのんびりと湯に浸かっていた。

(う〜む、この温泉、視神経の疲れに良く効くであるなあ……気持ちがいいので、しばらく浸かっているのだ……)

 と、ゆっくりと疲れを癒していると……。

「ん? うおっ!? そなたら、何事なのだ!?」

 巨大目玉が慌てたわけは……。

「よし、全部隊、クマ骨に突撃!! みんなー、ここで神経癒して、魔力を回復だー!!」

 ジニアスが勢いよく、入って来た。

「隊長、ラジャー!! ネコだけれど、クマの湯に入るでありまーす!!」

 ラサも同時に、ざぶん、と入って来る。

「きゃー、真っ白!! 探検しちゃお〜!!」

 未来も、入るや否や、潜り出した。

「お供ども!! レッツ・ダイブ・インやで!!」

 ビリーたちの部隊も、はしゃぎながら、湯に次々と入って来る。
 ランマル、ボーマル、リキマル、そしてなぜかラッキーちゃんも一緒にざぶん!

「フウ〜。ベア・ボーンはホットで温まりマース! ここで1曲! ン、ン、ンン、ン、ン〜、スタンド・バイ・マギ・ジス〜♪」

 ジュディは湯に浸かり、夕闇を背景とする雪山を見て、歌を歌いたくなったらしい。

「ん〜!? クマ骨は40℃ねぇ〜。ぎりぎりかなぁ〜。もうちょっと浸かってみよぉ〜」

 リュリュミアは、腰まで浸かり、ぎりぎりの限界温度であるクマ骨温泉をゆったりと楽しめたようだ。

***

 精霊石温泉……。
 ぴかぴかと光る石の入った、柴色の温泉。
 美肌効果、冷え症対策、胃腸整腸、デトックスなど特に女性にうれしい効果抜群。

「さて、この辺でゆっくりしようか!? 全軍、休憩!!」

 ジニアスが仲間たちに指揮を伝えると、部隊は一度、精霊石温泉で休憩することにした。

「えへへ!! 広いなあ〜。……ボクたちしかいないし、これだけ広いなら泳いでもいいかな!!」

 ばちゃ、ばちゃ、とラサが泳ぎだし……。

「こら、ラサ! 温泉で泳ぐのは良くないよ! 少なくとも、仲間のみんなもいるんだし、迷惑かけちゃだめだ!」

 ジニアスはまるでラサの保護者かのように、彼女を注意し、マナーを教えた。

(う〜ん……。この温泉おもしろい!! お湯は透明な紫だけれど、中の石は青白くぴかぴか光っているね!?)

 未来は、潜りながら、光る精霊石に近寄り、愛でていた。

「きゃっ、きゃっ!! 紫やん! 石も光ってるで! そりゃ、この印籠が目に入らへんのか!?」

 ビリーは、少し大きな精霊石を持ち上げ、お供のランマル、リキマル、ボーマル、ラッキーをスケサン・カクサン・その他サムライに仕立て上げ、時代劇をやっていた。

「フーム……。日も暮れて、なかなかナーバスなタイムになったネ〜。ココラで、アルコールの出番ヨ!!」

 ジュディは先ほど、売店で購入していた雪見酒(中身は焼酎「雪女」)を取り出した。
 小さな冷たい瓶のプルタブを開け、彼女は雪景色と夕闇を温泉と共に満喫だ。

「ウーム……。この一杯に限るネ!!」

 ジュディの心の中では、一足早く、宴会が始まっていたようだ。

「う〜ん……。これはいい湯ねぇ〜。35℃なんてなかなかの適温よねぇ〜。ゆっくり肩までつかろぉ〜!!」

 リュリュミアは、ぴかぴかと光る中、紫色の湯にとっぷりと体を沈めた。

***

 ノーザンリーフ温泉……。
 薬草の温泉。体力も魔力も回復し、肩こりから打ち身や解毒まで色々効能あり。

「うう〜ん。気分、爽快! ミッション・コンプリート! 薬草で回復!」

 ジニアスが全軍に呼び掛け、仲間たちは薬草で冒険の疲れを癒すのであった。

「薬草じゃぶじゃぶ、気持ちいーなー」

 ラサは、薬草の湯に浸かり、身を清めた気分になると、一度、シャワーへ向かった。
 ボディシャンプーも薬草入りだったので、ぬいぐるみボディを洗いながら、シャワーを流す。ジニアスも軽く入浴後、ラサ洗いを手伝うことにした。

「ふぅ〜。温まるねん!」

 ビリーたちも、そろそろはしゃぎ疲れた頃だろうか、静かに薬草風呂に浸かっていた。
 彼の周囲では、ランマル、リキマル、ボーマル、ラッキーが共に浸かっている。

「ラ・ラ・ララ・ラ〜、オーイエ、マギ・ジス、ル・ル・ル〜」

 ビリーたちの横で、ジュディも、雪見酒をあおりながら、『スタンド・バイ・マギ・ジス』の歌をハモっていた。

「うわーい! リュリュミアの髪と同じ色の薬草温泉ですかねぇ。顔だけ出してお湯の中に寝そべっていると、身体がお湯に溶けていくみたいですぅ!」

 リュリュミアは薬草温泉が特に気に入ってしまったらしく、深くまで潜ってみた。
 そして、突然、お湯と同化!?
 人外、恐るべし!?

 それを横で見ていた未来も、試してみたくなった。

「わー、気持ち良さそー!! よーし! わたしもやってみよー! リュリュミア、勝負!」

 未来も深くまで潜って、同化にチャレンジ!?
 リュリュミアと未来は潜りっこの勝負になった。

 だが、先ほどから風呂で遊び過ぎていた未来は、次第にお湯にのぼせてしまい……。

「きゃっ、未来さ〜ん!? だいじょーぶぅ〜!?」

 未来は、ぷかぷかと露天風呂に浮かび上がった……。
 その隣で、リュリュミアが慌てている!!

 そこに颯爽と冒険者青年隊長・ジニアス参上!!

「未来! 大丈夫か! 今、介抱するぞ!!」

 ジニアスは、未来をお風呂から抱き上げ、安全な場所に寝かせた。

「よし、ジニアス、まずは人工呼吸だ!」
 ラサが相棒へ向かって真剣に命令した。

「よし、人工呼吸か!! って、おい、のぼせているだけだろう! 必要なのは……バスタオル、冷たいタオル、それと水分補給だ! みんな手分けてして頼む!」
 ジニアスがみんなにぱっぱと指揮を出し、未来の介抱に取り組むのであった。

***

 お風呂から上がった混浴班の何人かは、食事まで、休憩場で休むことにした。
 休憩場では、既に上がって休んでいたリシェル、アンナ、マニフィカ、シルフィーがいた。

「ぷはー!! うまいんだな、これが!!」

 浴衣姿のジニアスは自販機で買った牛乳瓶をごくごくと飲み、チョコアイスをぺろぺろと食べていた。

「ぷはー!! と、真似をしてみたり……」

 隣で猫のラサも、空き瓶を片手にジニアスの真似をしていた。
 飲めないので、気分だけでも、と。

「プハー、デース!! デリシャス!!」

 浴衣姿のジュディは雪見酒パート2を、片手に持ってごくごくと呑んでいた。

 一方、介抱された未来は、無事であったようで、カーペットのところに寝そべっている。
 念のため、ビリーが彼女を指圧して、ほぐしている。

 ちなみに萬智禽とリュリュミアは、今度は、改めてサウナに入っているようで、もうしばらくしないと出て来ないようだ。

 午後七時には、宴会場で全員そろっての夕食が待っている……。


●パートB1 宴会鍋編


B−1−1 精進鍋(萬智禽&ビリー、ときどき未来


 午後七時になり……。
 温泉から上がり、ゆっくりと休んだ後の一同は、3Fの宴会場へと招待された。
 本日のメインディッシュは……ウィッチクラフト地区特製の郷土鍋料理だ!

 それぞれ、食べたい趣向の鍋によって、班を分けることにした。

 まず、萬智禽とビリーの班は……。

 ずばり、精進鍋だ!

 ぐつぐつぐつ……。
 鍋には、たっぷりと盛られた野菜たちが熱そうに煮えている……。

 野菜の種類は……。
 大根、しいたけ、白菜、長ネギ、梅、きくらげ、まいたけ、ぎんなんだ。
 そこに豆腐とラーメンもトッピング。

 この料理、実は肉類が全く、入っていない。
 郷土料理の肉鍋であるはずなのに、肉が一切入らないその姿は、まさしく精進だ!

「では、いただきますねん!」
 ビリーは、ぱんぱんと手を叩いた後、両手を合わせて、お辞儀した。

「うむ、いただくのだ!」
 萬智禽は、巨大眼球を、カッと見開いて礼をする。

 求道者向けの鍋料理、ここにて開幕!!

***

 萬智禽は念力を使って、ぷかぷかとお椀に野菜と麺を盛って行く。
 醤油ベースのスープに、ラーメンとたっぷりの野菜が盛られた。
 最後に梅を乗せ、巨大目玉はにやりとする。

「ビリー殿。ラーメンに梅はよく合うのだぞ。食べてみるのだ」
「ん? そうかいな?」

 ビリーも萬智禽の真似をして、同じような内容をお椀に盛ってみた。

 そして、しこしこの麺を、梅やその他しゃきしゃき野菜と合わせ、ちゅるちゅると食べて行く……。梅のすっぱさとラーメンの歯ごたえの相性は、意外にも……。

「む、これは!?」
 ビリーは、カッと目が見開く。
 まるでさっきの、いただきます、のときの相棒のように。

「梅ラーメン、ごっつ美味いねん!!」
「わはは! 言った通りであろう?」
「むむっ! おぬし、やるな……」

 そして、目玉はさらなる追撃を加える。

「ところで、ビリー殿。ラーメンライスという言葉を知っているであるか?」
「な、なにものや、そいつ?」
「こうするである!!」

 萬智禽は、念力で、ラーメンの麺を、白米の茶碗の上に乗せた。
 そして、再び念力で、お椀を口元まで運び、中身をぐしゃり!!

「なんと!? ラーメンとライスを共に喰らうと!?」
「左様だ。さあ、ビリー殿もやってみてくれ!」

 促されるまま、ビリーも試してみたが……。

「う……美味いやん!! ラーメンとライス、異質な者同士やけれど、よう合うとるで!? 下界にはこんな楽しみもあるとは発見や!!」

 2人が渋いやり取りをしているところに、超ミニ浴衣姿の未来が、ぴょんぴょんとやって来た。

「わたしも精進鍋に混ぜてよ!!」

 未来も、一緒に梅ラーメンの野菜盛りを食べてみることにした。

「う〜ん……。すっぱいけれど……麺も野菜も相性合うねー、おいしー!!」

 ここにてひとまず3人で、精進の祈りを込めて、改めて鍋に礼をするのであった。

***

「ぷはー! 食後の一杯もいいのだなー!!」

 萬智禽は、ぷかぷかと念力で焼酎「雪女」を浮かせ、ごくごくとラッパ飲みしていた。
 アルコール度数も適度で、雪国の味わい深い焼酎が胃にしみた。

「ぷはー!! 果実の汁もうまいねん!!」

 ビリーは、ノーザンランド産のりんごジュースとみかんジュースを比べるように、ごくごくと飲み干す。

 最後に、しめのデザート、バニラアイス(ウェハースとさくらんぼ付き)が登場!

「うお!? アイスやねん! ごっつ喰らうでー!!」

 ビリーは一気に、アイスを呑みこむかのように、一口でペロリと食べるが……。

「ガーン!! 頭痛がすんねん!!」

 急激な頭痛に頭を抱えてしまった。

「肉を食べられない私はアイスの原料の牛乳も卵も駄目なはずであるが……。思えば、先日のお祭りでバニラアイスが入ったクレープを食べているであるな。どれ、食べてみるとするか?」

 萬智禽は、念力を使い、アイスを、ぱくり、と試しに食べてみた。

「……意外と食べられるであるな? うむ、美味である!!」

 精進鍋班は、野菜ラーメンも、ラーメンライスも、ドリンクも、デザートもしっかりと堪能したようであった。


B−1−2 いろいろ鍋パーティ(アンナ&リュリュミア&シルフィー、ときどき未来)


 精進鍋班が精進を開始している頃……。
 いろいろな鍋を作ってパーティをしている人たちもいた。

「う〜ん……。やはりお鍋は、さっぱり塩ベースがいいですわね。名産のクマしゃぶ肉を入れて……それから香味野菜を中心に……トマト、セロリ、レタス、玉ねぎ、にんにくの芽を入れましょう! それから……卵を落として、ラーメンの玉も混ぜれば……」

 アンナの鍋は、クマしゃぶの塩野菜鍋だ。
 ぐつぐつと、肉が贅沢に煮込まれ、香味野菜や卵に麺類も美味しそうに彩られている。

「ぐるぐるぐるぅ〜。お腹空いたぁ〜。わたしの鍋はぁ……醤油ベース・キノコ鍋! お肉はいならいからぁ〜、しいたけ、きくらげ、まいたけ、もやしをどっさり入れよぉ〜!! そしてうどん玉をどっぷりぃ〜!!」

 一方、リュリュミアは野菜のみのキノコ鍋を作っていた。
 ぐつぐつと、きのこたちが煮え盛る中……。

「続いて、もう1人前、同時追加ねぇ〜。こっちはぁ……胡麻味噌ベース・野菜鍋よぉ〜。同じくお肉はなくてぇ〜。にんじん、大根、白菜、長ネギ、ぎんなんをどっさ〜りぃ! そうだ、お豆腐も入れちゃおぉ〜!! あとは……あ、女将さん、白米茶碗お願いねぇ〜!」

 植物系お姉さんは、まるで今から共食いでも始めるかのように、さらなる野菜鍋をぐつぐつと煮て作るのであった……。

 同じ班のシルフィーは……。

「うふふ。にんじん、にんじん、にんじん、にんじん……!!」

 真っ赤な鍋にひたすらにんじんを投入している!?

***

 ひとまず鍋が煮えたようで、3人は、自分たちが作ったものを食べてみることにした。

「ふうふう……。まずはクマしゃぶ……う〜ん、トレ・ボン(とても美味しいですわ)! 意外と臭みもなく、肉厚と肉汁がたまりませんわ……。野菜も……肉をレタスに巻いてみたり、玉ねぎやにんにくの芽を肉に挟んで食べたりしてみると……とても歯ごたえ豊かですわね!」

 アンナは、はふはふしながら、クマしゃぶ肉をぱくぱくと食べる。
 だが、小食のアンナは、オーダーを1人前までにしておいた。

「お鍋は美味しいものの……ちょっと多いですわね。残すのも抵抗ありますし……」

 小食少女が悩んでいるところで、超ミニ浴衣の未来登場!

「はい、は〜い!! そのお鍋、わたしにちょうだいね〜!!」
「おや、未来さん? ええ、ぜひお食べになって!」

 未来は、塩ベースのクマしゃぶに、レタスをまきまきしながら、ぱくぱくと食べだす。

「アンナさ〜ん! わたしにもちょうだ〜いぃ!!」

 隣でリュリュミアが箸(はし)を伸ばして来たので、アンナは彼女にも分け与えた。

「ええ、ぜひ手伝ってもらうと助かりますわね」

 リュリュミアは、アンナにお椀をよそってもらった。そして、お姉さんは、肉を除いて、トマトやセロリをがっつりと美味しそうに食べる。

「あら、あたしももらおうかな?」

 さらに隣で見ていたシルフィーも誘い、アンナはみんなのための鍋奉行をすることになった。

***

 リュリュミアはアンナの鍋も食べているものの、自分の鍋もがつがつと食べている。

「うふふぅ〜。醤油味のきのこ美味しいなぁ〜。胡麻味噌味のネギやぎんなんも最高ぅ〜。うどんも乗せてぇ、ご飯もぱくぱくぅ!」

 鍋料理をぱくぱくと嬉しそうなリュリュミアを見ながら、未来も一緒に鍋を突こうと思った。
 ノーザンりんごジュースとみかんジュースをごくごくいっているリュリュミアに向かって、未来が話しかける。

「リュリュミア〜! わたしにも、きのこ鍋と胡麻味噌野菜ちょうだいよ〜!!」
「は〜い、未来さ〜ん! どうぞぉ、どうぞぉ〜!!」

 未来は、きのこ鍋と胡麻味噌野菜鍋を交互に食べ、野菜の深みを味わった。

「う〜ん。身に染みる野菜鍋だね〜。精進鍋班も良かったけれど、リュリュミアのもいいねぇ〜」

「それ、にんじん!! ひたすら、にんじん!!」

 シルフィーは、リュリュミアの胡麻味噌野菜鍋から、にんじんのみをよそって、ひたすらガツガツ食べていた。

「ねえぇ、シルフィーさ〜ん? わたしにもあなたの鍋分けてぇ〜」
「あ、それいいかも! わたしも欲しい!!」

 リュリュミアに続き、未来も、シルフィーにお願いする。

「うん、いいけれど……」

 シルフィーの鍋、それは……。

「うわ、シルフィーさんの鍋、辛いぃ! お水お水ぅ!!」
「きゃ、何これ!!」

 リュリュミアと未来が食べたのは……。

 辛味で真っ赤な、ノーザンイノシシのもつ肉にひたすらにんじん(×5)が入った鍋。
 すなわち、にんじん激辛鍋だ!

「ふぅ……。お水、飲めて、良かったぁ……。ん? これ、お水じゅないれすかぁ〜」

 リュリュミアが手に取ったのは、焼酎「雪女」がグラスに注がれたコップだった。
 間違って酒を飲んでしまった、彼女は……!?

「う〜ん……。なんだかぐるぐる目が回りますぅ……。まだデザート食べてないのにぃ……。ZZZzzz……。」

 ばたり、と寝込んでしまった。

「ちょっと!! リュリュミア、大丈夫!?」
 心配した未来がリュリュミアをゆするが……。
 アンナと未来がどうしようか、と迷っているところでシルフィーが提案する。

「酔いつぶれたみたいだね……。そのまま部屋の奥で寝かせてあげればいいんじゃない?」

 リュリュミアは女子3人に担がれて、部屋の奥まで連れて行かれた。
 未来、アンナ、シルフィーが作った即席の座布団ベッドで、酔った彼女はぐっすりと休むのであった。

***

 ひとまず、リュリュミアは酔いつぶれてしまったが……。

 一通り、鍋を食べ終えたアンナとシルフィーはデザートを食べることにした。

「温かいノーザングレイ紅茶……。シンプルなストレートに氷砂糖で頂きますわ! あら、なかなかの渋みが効いていますわね? 甘いバニラアイスに合いますこと!」

 アンナはホットの紅茶を優雅に飲みながら、アイスクリームをスプーンで掬って食べていた。

「う〜ん。にんじんジュースに、バニラアイスのにんじん添え……。よく合うよね!!」

 シルフィーは、鍋用にんじんをコップの中に入れて絞り、ジュースを作った。
 バニラアイスにも、にんじんを乗せて食べている。

(ん!? セ・エトロンジ!(奇妙ですわね!)にんじんジュースにバニラアイスのにんじん添えなんてありましたっけ!?)

 隣人が奇妙な行動に出ていたが、ひとまず、ノーコメントだ。
 アンナはそれすらも余興の一環として楽しむことにした……。


B−1−3 憑依しながらの鍋?(ジニアス&ラサ&リシェル、ときどき未来)


 みんなが鍋の調理を開始した頃……。
 ジニアスチームも鍋の用意をしていた。

「よ〜し、みんなでそれぞれ別々の鍋を作って、分けて行こう!! 俺のは……塩ベースの海鮮鍋だ!」

 ジニアスは、塩ベースの鍋に、ノーザンカツオの刺身を、ぽんぽん、と入れて行った。
 海鮮風に合うように、野菜も、きくらげ、白菜、しいたけ、長ネギ×2(長ネギが好きなので多めに入れる)といった内容だ。
 オプションでは、豆腐も投入。
 うどんも入れたいところだが、これは最後まで取っておく。

「ねえ、ジニアス? 今日はボクも鍋を作っていいんだよね?」
「ああ、かまわないさ! 例の作戦を立てて来たからね!」

 ラサとジニアスには、今日、とある作戦がある。
 それで、精神体のラサも鍋を食べられるといいのだが……。

「じゃあ、遠慮なく! ボクのは……カレー鍋! カレーベースの鍋に……。クマのしゃぶ肉を入れて……。野菜もカレーに合うように……にんじん、玉ねぎ、しいたけ、まいたけ、ピーマンだ! オプションで、豆腐は×2も入れよう!」

 さらに追加で、ラサは白米お茶碗を頼んだ。

「ふふふ〜。楽しそうだね〜。鍋は見るのも作るのも楽しい! きっと、食べるのも!!」

 ラサが鍋を作っている横で、リシェルも彼の鍋を作っていた。

「俺のは、オーソドックス鍋にするか……。醤油ベースに、クマのしゃぶ肉を、と……。それから、野菜は、しいたけ、もやし、白菜、長ネギ、にんにくの芽が、いいだろう。ああ、あと豆腐やラーメンの麺なんかも入れるといいだろうな……」

 リシェルは手慣れた手つきで、黙々と鍋を作って行く。
 彼は意外とこういうのが好きなようだ。

「ねえ、リシェルさん? お酒も強いんでしょう? わたくしたちとも飲みませんこと?」
 リシェルの隣の席(ラサの席と反対側)では、マニフィカとジュディが飲んでいた。
 マニフィカの呼びかけに、リシェルも答える。

「おう、鍋を作り終えたら、そっちにも適当に混ぜてくれ!」
 リシェルは、ノーザンウィッチビールの生ジョッギを女将に注文した。

***

 ジニアスチームは、ドリンクも注文し、テーブルには飲み物類も充実し出した。
 ジニアスとラサが飲む、ノーザンりんごジュース、ノーザンみかんジュース、天然水、麦茶、緑茶……。リシェルが飲むビール、ワイン、ウィスキー、焼酎、梅酒……。

「さてと、ラサ。アレをやろう!」
「うん、ぜひやろう!!」

 ジニアスは、魔剣を構えるかのごとく、精神を統一!
 気をラサに同調させる……。

 一方、ラサも猫から抜けて、ジニアスに乗り移り……。
「憑依」を行い、ジニアスに乗り移った。

 合体、ゲッ●ーロボ!!

(な、わけがないが、そんな感じの重要なシーンなのである)

 それはともかく……。
 ジニアスはラサになり、ラサはジニアスになった!

 試しに、ラサが「右手を動かせ」とジニアスに念じると……。
 ジニアスの右手が動いた。

 さらにラサが「箸(はし)を取れ」と相棒に念じると……。
 本当に相棒は箸を取った。

 どうやら、ここまでは成功したようだ。

「お、おいおい!? 何を始める気だ!?」
 リシェルはビールを飲みながら、2人の奇行を見守っている。

(さあ、行け、ジニアス! ノーザンカツオを食べるのだ!)
(オッケー!! やってみる!!)

 ラサに念じられ、ジニアスは、カツオを箸で取り、しゃぶしゃぶして、お椀に掬った。
 そして、カツオを、ぱくり、と食べると……。

(はふはふ、美味い、美味い! どう、ラサ? 味は感じる?)
(ん〜!! 美味しい! これがカツオのしゃぶしゃぶ!! うん、実験は成功だね!!)

 こうして、憑依による同調実験は成功し、2人は鍋を次から次とがつがつ食べた。
 ラサのカレー鍋では、クマしゃぶ肉をにんじんやピーマンと一緒にむしゃむしゃ食べて……。
 リシェルのオーソドックス鍋では、ラーメンをにんにくの芽や肉と共にがっつり喰らいつき……。
 再び、ジニアスの鍋に戻り、カツオを白菜と共に味わい……。

(よし、ではこの辺で長ネギを食べようよ、ラサ!)
(え? なにそれ、食えるの?)

(うん、食えるよ。ラサは長ネギを知らないの?)
(いや、そういう意味じゃなくてさ。ボク、長ネギって……)

「えい!」
 ジニアスは、自らの意思で右手を行使して、鍋から長ネギを取り出し、食べようとするが……。

(それ!!)
 ラサが念じると、ジニアスの右手の箸に乗っていた長ネギは、ジニアスのお椀の中に返された。

(何すんだよ、ラサ! 長ネギが食べられないだろう!?)
(いいんだよ、そんなの食べなくて! ボクは昔から長ネギがキライなの!!)

(こら、ラサ! 好き嫌いは良くない!!)
(だが、断る!!)

(……俺は、長ネギが食べたいのー!!)
(再び、断る!!)

 まるでコントをしているようだ。
 ジニアスは長ネギを食べようとするのだが、彼の中にいるラサがそれを拒否する。
 だが、ジニアスは拒否されたことを拒否して、再び、長ネギを食べようする。
 すると、ラサは、拒否されたことを拒否したジニアスを拒否して、どうにかして長ネギを食べないようにお椀へ返す……。

 と、こんな感じで繰り返しているところに未来がやって来た。

「お鍋分けて〜!! って、あれ!? ジニアスとラサは何をやっているのかな〜!? 宴会の出し物でもやってるの? 二人三脚?」

「いや、未来。それを言うなら、二人羽織じゃないか?」

 冷静に突っ込むリシェルだが……。
 そろそろ真面目に注意した方が良い時期だろう……。

「……ネギ食うときだけ、憑依を解きゃいーだろが!」

(はっ……その手があったか!?)
(そうだね、ジニアス……。その手があった!!)

 こうして、ラサはジニアスから離脱し、ジニアスは無事にネギが食べられたとさ。

***

「……さて、そろそろ、うどんを入れる頃合いだな……」

 ジニアスは、そろそろ中身が少なくなってきた自分の鍋に、うどんの玉を入れた。

「う〜ん、うどんにノーザンカツオの塩鍋って、合うなあ〜」
(いいねえ、合うなあ〜)

 再同調したジニアスとラサがほっくりとして、うどん鍋を食べていると、隣から仲間たちが寄って来た。そこで、二人は分けてあげた。

「わ〜、ほんと、美味しいねえ、これ〜!」
「おう、悪くはなぇな!」

 未来とリシェルもジニアスの鍋をお椀に取ってもらうと、カツオだしうどんをつるつると食べた。

「なあ、未来、俺の鍋も食ってってくれ。オーソドックスで、色々あるぞ!」
「未来は、カレー雑炊は好き? けっこう美味いよー!」

 リシェルはクマしゃぶ醤油ラーメンを、ラサはカレー雑炊を、未来に勧めた。

「わー、ありがとー! こっちも、そっちもどれも美味しくてサイコー!!」

 仲間たちは、カツオだしうどん、カレー雑炊、クマしゃぶ醤油ラーメンを、ふうふうと分け合って、仲良く食べるのであった。

 その後、鍋を無事に平らげたジニアスチームには、バニラアイスというお楽しみが登場。
 ジニアスとラサは、ここでも同調し、キーンとなりながらも本場の手作りアイスを味わった。
 リシェルはウィスキーのつまみで、アイスをちまちまと食べていた。


B−1−4 飲兵衛たちの鍋(リシェル&ジュディ&マニフィカ、ときどき未来)


 各班が鍋を作り始めていたとき……。
 ジュディとマニフィカもそれぞれの鍋を作っていた。

「フン、フン、フン♪ ジュディはカレーデース!! ベアのしゃぶビーフ、ガンガン、入れマース!! ベジタブルもガンガン、デース!! オプションもマスト、デース!!」

 ジュディは、カレー鍋へ、クマ肉、にんじん、しいたけ、キャベツ、玉ねぎ、ニラといった野菜、そして卵にうどんの麺、と次々と放り込んで行った。

「バット(しかし)、モチロン、ノット・イナフ(足りマセーン!) 鍋をモット作るデース!!」

 ジュディは、同じ鍋を3人前ずつ、同時にぐつぐつと作り始めるのであった。

 鍋を作りながら、あらかじめオーダーしておいたビールジョッギをあおる。

「デリシャス!! ビールは生でコールドがイカシマース!! ビーフもベジタブルもアルコールもガンガン、行くデース!! オカミサーン、チャーハンも追加デース!!」

 さて、ジュディの隣にいるマニフィカは……。

「わたくしは、海鮮鍋で行きますわよー!! まずは、塩ベースの鍋に、ノーザンカツオを、とぽとぽと入れますわ! そして、お野菜は、にんじん、トマト、キャベツ、ピーマン、玉ねぎあたりがいいかしら……。オプションはない方がいいですわね。ええと、女将さん、わたくしはガーリックライスをお願い致しますわ!」

 マニフィカの塩鍋の中では、カツオ(既に刺身状態)がぐつぐつと踊っていた。
 一緒に踊るかのように、野菜たちも色とりどりできれいな彩(いろどり)だ。
 鍋が煮えるまで、少し時間があるので、食前酒の梅酒「梅吹雪」でもここで一杯!
 う〜む、濃い梅のエキスが、ロックで、き〜んと染みる味だ。

「ねえ、リシェルさん? お酒も強いんでしょう? わたくしたちとも飲みませんこと?」
 彼女の隣の席では、酒飲みのリシェルもいるので、ひとまず呼びかける。
 マニフィカの呼びかけに、リシェルも答える。

「おう、鍋を作り終えたら、そっちにも適当に混ぜてくれ!」
 リシェルは、ノーザンウィッチビールの生ジョッギを女将に注文していた。

「さて、食前酒の次は、白ワインがいいですわね!」
 マニフィカが白ワインをグラスに注ごうとすると……。

「ヘイ、マニフィカ! カンパイ、ネ!!」
 ジュディが注いでくれた。
 代わりにマニフィカはジュディに赤ワインを注いであげた。

「乾杯ですわ!!」
「イエーイ、カンパーイ!!」

 酒豪の美女二人は、ワイングラスをかちん、と乾杯してごくごくと飲み干す。

「今夜は飲みますわよー!」
「イエス、レッツ、ドリンク、ネ、マニフィカ!!」

「おう、俺も混ぜてくれ!」
 ジニアスたちの相手をしている合間、リシェルも隣から焼酎を持って来て参入した。

***

 その後、ジニアスたちの二人羽織騒動が隣であって……。

 その間、ジュディはひたすら食いまくっていた。

「オール・イートしまーす!! コンプリート、デース!! カレー・ベア・鍋、9人前までレッツ・ゴー・デース!!」

 先ほど、マニフィカと同時期に作っていた3人前の鍋は一瞬で平らげてしまった。
 再び、3人前を同時に作り出して、現在、そのサイクルを繰り返しているところだ。
(しかし、さすがに3人前以上は追加料金なので、ジュディであっても9人前までで我慢しておいた)

「ウーム、チャーハンもテイストがワイルド、ネ! ジューシィ・ベアに、ザクザク・ベジタブルをたっぷり共にイートして、ハッピーデース!! サケは、雪女が合いマース!!」

 ジュディは、カレー鍋をチャーハンと共にかけ込むと同時に、焼酎を一気に飲み干す。

「うふふ。ジュディさん、ナイス・食べっぷり&飲みっぷりですわ! わたくしも負けていられませんわね!!」

 マニフィカも、海鮮鍋をぺろりと平らげて行く。
 ふうふうして、塩つゆの味付けががされたベア肉を、ほお張りながら、野菜も味わう。
 カツオの出しに染みた肉や野菜と共に、パンチの効いたガーリックライスもかけ込んだ。
 もちろん、お供の白ワインも忘れない。

「いえーい、ですわー!! ノーザンランドはお魚もお酒も美味ですわねー!! わっはっは!!」

 マニフィカはそろそろ酔っ払い始め、焼酎「雪女」を瓶ごとラッパ飲みして、赤い顔で笑い出した。

 そこで、リシェルが戻ってくる。

「っつたくよぉ……。ガキじゃねえんだから、ネギぐらいで、もめんなよ!」
(注:ジニアスは青年で、ラサは少年である)

 リシェルは先ほどの二人羽織の出来事にぐちぐち言いながら、梅酒を飲んでいた。
 と、そこで彼が油断していたら……。

「ヘイ、リシェル!! アルコールは、ドリンクしてマスカー!? ガンガン、飲むデース!! 一緒にコンプリート、シマース!!」
 酔っているジュディがリシェルをハグして来た!

「うふふ、リシェルさん、わたくしたちとぜひ飲みましょうですわ!!」
 マニフィカは焼酎片手にぐいぐい飲みながら、もう片手でリシェルの肩を左手でぱしぱしと叩いていた。

「あー!! ったく、酔っ払いどもめ! こら、ジュディ、抱きつくな! マニフィカもぱしぱし叩くな! いいか、酔ったときは、酒1に対して、水10でな……」

 リシェルが酔っている女たちに説教をしているところ、未来がやってきた。

「やっほー、未来だよ! お鍋を分けてもらいに来たよ! あれあれ? もうみんな酔っているね〜!? ならば、わたしも酔っ払いに参加しよー!」

 未来は、一緒に持ち運んでいた麦茶に、厨房で炭酸水(プレーンの)を混ぜてもらい、謎のドリンクを作って来た。これは、決してアルコールではない。

「ぷはー!! ったく、やってらんないわよ、まったく!! エスパー少女で魔法少女をやるのって、大変なのよぉ〜!! おい、こら、リシェル、聞いているのか、このお!!」

 酔っ払い?未来は、リシェルのひざをぺしぺし、と叩き出した。

「お、おい!? 未来、未成年の飲酒はまずいぞ!?」

 焦るリシェル。
 だが、未来は……。

「酔ったふりだよ! まさか麦茶で酔うわけがないでしょう? ……はい、続きね。で、よお、リシェル、まったく、最近は、広報部の仕事が大変でさぁ……」

 酔っ払い?未来は、再び、愚痴り出した。
 仕方なしに、リシェルは聞いてあげることにした。

 一方、ジュディとマニフィカは酒をコンプリートしたらしい。
 コンプリートした酔いと達成感で、食後、その場ですやすやと寝てしまった。

***

 さて、そろそろ鍋も食べ終えて……。

「おっ、アイスか? 酔い覚ましにいいな。って、おい、マニフィカにジュディ、起きろ!! デザートが来たぞ!」

 リシェルと未来に揺さぶられて、酒豪美女の2人が起き上がった。

「あら……。もう朝ですのね……。ん、なにこの焼酎? 萌え酒? 記憶にございませんわね……」

「ワッツ……。アイスクリーム、ネ!? レッツ・イート・アゲイン!!(食べ直さなくては!!)」

 アイスの登場に、酒豪たちはぱっと、目を覚ました。

「うふふ。ノーザンマウンテンのホットコーヒーもなかなか味わい深い濃さですわね……。この上品な香りと苦さが、アイスの甘さによく合いますわね……」

 マニフィカは、コーヒーを嗜みながら、アイスを丁寧にスプーンで掬い食べて行く。

「イエス、アイ・ラブ・アイスクリーム!! ジュディは、ファーム(牧場)育ちなので、アイスのテイストには、ウルサイ、デース!! ウーム、デリシャス!!」

 ジュディは、ぱくぱくと凄まじい勢いでアイスを平らげた。最後のスプーン一杯まで味わい尽くしたほどだ。

「ふう……。今日はお腹いっぱい、鍋料理を食べたねえ……。でも、甘いものは別腹!! わたしもしっかりと自家製バニラアイスを頂こー!!」

 甘いものが大好きな未来も、この場で一緒にアイスを食べることにした。
 ウェハースで、アイスを掬い、ヒヤリと甘いクリームにうっとり。

 こういった感じで、一同はそれぞれが楽しみながら、食事を済ましたのであった……。


●パートB2 宴会出し物編


B−2−1 魔法少女、歌います!


 鍋料理を食べ終え、一度、宴会場をきれいに片づけることにした一同……。
 この後、宴会の出し物大会が開催されるのである!!

 アンナが浴衣をひらひらさせながら、ステージ前にやってきた。
 そして、マイクを取り、カラオケ情報をセットした。

「皆さーん!! 宴会の出し物、エントリーナンバー1番、アンナ、魔法少女の歌を歌いますわねー!! タイトルは、『恋する魔法少女はラブリービーム』ですわ!!」

 宴会場が暗くなり、カラフルなスポットライトが、ぱっとアンナを照らす。
 アンナの後に、未来とシルフィーも続いてやってきた。

「エントリーナンバー2番、未来、バックコーラスとバックダンサーやるよー!!」
「同じく3番、シルフィー、同じくバックコーラスとバックダンサーで助太刀!!」

 前奏で、未来とシルフィーは、くるくると踊りながら、手を叩いていた。
 アンナは、マイクを握り締め、歌いだす……。

『私は恋する少女、青い少女、普通の少女……でなく、魔法少女♪ 魔法でラブラブ、どかん☆ どか、どか☆ いざ、ラブコメ、行ってみよー♪』

『いえい、いえい、ひゅー、ひゅー♪』
『わふわふ、うふぁー♪』

 アンナの歌唱中に、未来とシルフィーがバックでコーラスやダンスに続いた。

「いいですわよー、アンナさーん!! やっちまえ、ですわー!!」
「ヘイ、アンナ、ベリー、キュート、ヨー!!」

 酔っ払いのマニフィカとジュディは、諸手を上げて大声で応援していた。

「ん〜!? 何が……起こっているのぉ〜!?」
 部屋の隅っこで酔って寝ていたリュリュミアは事態が飲み込めず、ぼんやりしている。

「大丈夫だ、今は宴会をやっているところだ。そのまま寝ていて良いぞ。まあ、寝られれば、だが……」
 隣で、リシェルが教えてくれた。
 念のため、リシェルはリュリュミアに付き添っていた。

 ステージの歌と踊りは続く……。

『ビビビ、私、魔法少女なんで、恋してビーム♪ 実らない恋なんて、あれば、そんなの魔法でどっかん☆、どっかん☆……ビーム、ビーム、ラブリービーム♪ 恋する乙女は、ラブリービームで全☆開♪』

『ビビビ、ビーム、ビーム、ラブラブ〜♪』

『わふわふ、いえーい、いえーい、ビビビ、ビビ♪』

 アンナが必死で歌唱し、バックにいる2人もアンナと共に場を盛り上げる……。

 やがて、1曲を歌い終えたアンナたちに向かい、みんなが盛大な拍手をした。
 アンナはお辞儀をしつつも、照れて少し赤くなってしまった。

「わー、アンナたち、ありがとー! 楽しかったー!!」
「いえーい、魔法少女、ばんざーい!!」

 ジニアスとラサが拍手を始めた。
 その後、酔っ払いたちや、萬智禽とビリーも拍手喝采。
 リュリュミアは再び寝てしまったようだが、横でリシェルも小さく拍手していた。


B−2−2 超・卓球バトル


 アンナたちのカラオケ後、今度は、ジニアス、ラサ、萬智禽、ビリーがステージに上がって来た。

「ええと、では、エントリーナンバー3番、ジニアス! 今から、超・卓球バトルの司会、させて頂きまーす!!」

「同じく、ラサ、4番! ボクも一緒に司会するねー!!」

 そこで一度、ステージ下から、拍手が起こる。

「さて、ジニアス。本日は、これから何が起こるのだろう?」
「うん、いい質問だね、ラサ。本日は、これから卓球でバトルをしてもらうんだ!」

「へえ〜。卓球バトルかあ〜。で、萬智禽とビリーもいるけれど……」
「そう、卓球バトルはこの2人にやってもらうことになりましたー! はい、みんな、ここで拍手ー!!」

 再び、拍手が起こる。

「では、選手紹介! まずは、萬智禽選手、どうぞ!!」
 ジニアスに促され、萬智禽が自己紹介する。

「エントリーナンバー5番、萬智禽なのだ! 今日は、念力を駆使して、そこにいるキューピー相手に卓球するのだ! 負けないのだ!」

「さて、青コーナー萬智禽選手に対して、赤コーナー、ビリー選手!! さあ、紹介どうぞー!!」
 今度はラサに促され、ビリーが自己紹介をする。

「どもども、エントリーナンバー6番、ビリーやねん! 今日は、神足通(テレポやで)を駆使して、そこの巨大目玉相手に、卓球するんや! ボクも負ける気はせえへん!」

 さて、いったい、いかなる卓球バトルが開催されるのであろうか……。

「では、司会兼審判は、引き続き、ジニアス&ラサがやらせて頂きまーす! それで、卓球バトルですが……ルールは通常の卓球と同じものの……唯一違うのは、ぴんぽん玉(ビリーの「小づち」から提供)を超能力で浮かせたり、打ったりすることです。ラケットは、スリッパで代用、と……。こんなところでいいかなー!?」

 ジニアスが説明を終えると、ラサが続きを引き継ぐ。

「さあ、両者、かまえて、かまえてー!! ボクがぴんぽん玉を投げるね……レディ・ゴー!!」

 決戦の火ぶたは切って落とされた。
 ラサが空中に放ったぴんぽん玉を、まずは萬智禽が念力でぷかぷかと浮かせる……。

 金の鶏のランマルやカプセルモンスターのボーマルとリキマルは、熱い視線をビリーに送り、奇声を上げて応援していた。

「それ、スマッシュなのだ!!」

 さっそくスマッシュ炸裂!

 急速度で飛んで来たぴんぽん玉であったが……。

「きらり☆ そこやねん! とう!!」

 ビリーは、「神足通」で瞬時に移動し、回転レシーブをしながら、スリッパ・ラケットで玉を返す!

「わはは、なかなかやるのだな、ビリー殿よ……。だが、これでどうだ!! 消える魔球なのだ!!」

 弾き返されたぴんぽん玉を、萬智禽は念力で一度、止めてしまった。
 その後、念力を再度かけて、凄まじい勢いで、空中でぐるんぐるんと、大回転。

 消える魔球、大リーグボール100号が炸裂!!

「なっ!? 消えてしもうた!?」
 ビリーは、テレポートで飛ぼうにも、消えてしまった玉には対処ができない。

 座敷童子が焦っていると……。
 消えたはずの魔球が頭上から降って来た!

「きらり☆ そこやねん!」

 ビリーは打ち返した……。
 と、思うと、再び、念力がかかり、変化球、フォークボール!!

 ドスっ!!

 フォークボール・ぴんぽん玉は、超特急で、ビリのあごに下から命中!
 ビリーはアッパーカットをくらったみたいに宙へ飛んだ……。

「ぐはっ……まっさらに燃え尽きたねん……」

 カンカンカーン!!
 ラサがコングを鳴らした。
 そして、ジニアスが旗を上げた。

「勝負あり! 勝者、青コーナー萬智禽の判定勝ち!!」

 ジニアスが勝負結果を告げると、ステージ下から拍手と歓声が沸き起こった。
 ビリーの手下たちは、残念そうにうつむいていた。

 だが、リシェルは……。

「すまん、審判。ひとつ質問があるが、いいか?」

 質問を受けて、ジニアスが答える。

「はい、どうぞ?」

「これって卓球だよな? 卓球って、格闘技だったか? なんか展開が格闘技の試合っぽいが……」

 はっ、しまった!
 と、一同は青ざめた。
 そこでラサがフォロー!

「そうだよ、リシェル! 卓球は格闘技だよ! 漢たちが、熱い玉を投げ合って、汗が出たり血が出たりする熱血スポーツなんだ!」

 ともかく……。
 超・卓球バトル、再開!!

 熱い2回戦目が始まった!

 巨大目玉とキューピーはリングの上で、再度、熱い玉で殴り合う!
 さあ、勝負の行方は……!?

 ……そうこうみんなで熱くなっているうちに、楽しい宴会の夜は更け、深夜前にはお開きになった……。


●パートC お土産編


C−1 ノーザンデビルベアの干し肉をもらう


 さて、楽しい一夜も開け、翌朝は、清々しく晴れた天気であった。
 調査部隊の一同は、朝食を取り、荷物をまとめ、午前9時にはロビー前に集合。

「現代魔術研究所・調査部隊の皆様! お帰りはこちらのスノーモービルになります! しかし、お帰りの前に、ぜひ当旅館のお土産をお持ちくださいね! 昨日、鍋でノーザンデビルベアをお食べになったかと思われますが……クマの干し肉が欲しい方は、こちらに集合、お願いします!」

 旅館の支配人が、干し肉を持って、調査部隊に呼び掛けて来た。

 アンナとジュディが、干し肉を取りに行く。

「お土産はやっぱり名産らしい干し肉がいいですわね! ……わわ、ありがとうございますわ! こんなにたくさん入っていますのね!!」

 アンナは、スタッフから、ビーフジャーキー(クマ肉)の袋を1パックもらった。
 この中には、スモーキーで濃い味のクマ肉がたっぷり入っている。
 保存が効くものであるし、体力の回復値+αもなかなかのようだ。

「ノーザンランド名産というキャチフレーズは、きっと珍味でしょうネ! コーテス(NPC)への土産にもいいデース! ジュディもそれくだサーイ!」

 ジュディも、スタッフから干し肉パックを受け取った。
 美味しそうな肉の断片が詰まった袋をにぎりしめて笑顔で礼を言う。

「また機会があったらリピートしたいデース♪ サンクス、ネ!」


C−2 焼酎「雪女」をもらう


「調査部隊の皆様! 昨夜は、当旅館自慢の地酒『雪女』という萌え酒を飲まれた方もいるでしょう……。萌え酒が欲しい人は、こちらへどうぞー!」

 女将の呼びかけで、リシェル、ジニアス、マニフィカ、萬智禽が取りに行った。
 この酒は、萌えな絵柄(雪の精の美少女画)パッケージの粋な焼酎瓶である。
 魔力の回復値+αもなかなかのようだ。
 ただ、酒に弱い人は、使用時に酔うらしいが……。

「俺は、酒がいいな。さて、この酒だが……ばーさん(マープル先生(NPC))への土産にいいな! マギ・ジスへ戻ったら、今回の任務の話を肴にして、ばーさんと一杯やるか……」
 リシェルは焼酎瓶を手渡してくれた旦那に軽く礼を言って、受け取った。

「俺も酒にしよ! 焼酎『雪女』なんて、地方の名酒だよね? ワスプのみんなのお土産にいいな! ナイトさん(NPC)たち、きっと喜ぶぞー!」
 ジニアスもスタッフに礼を言い、萌え酒を愛想よく受け取った。

「うふふ……。この焼酎……不思議なくらい心が惹かれるもの感じますわ(笑) きっと、わたくしの酒乱の何かと深いところでシンクロしているのかもしれませんわね……。」
 マニフィカは女将から一升瓶を受け取ると、昨日は大変お世話になりました、とお辞儀をして、礼を言った。

「うむ。昨夜の酒、けっこう美味かったのだ。また飲みたいであるな。私も『雪女』を頂くのだ!」
 スタッフたちは、萬智禽に、『雪女』を渡そうとするが……。
 目玉だけの身体に渡し方がわからないものの……。
 萬智禽が念力を駆使して、ぷかぷか浮かせながら、背負っているバッグの中に、そっとしまうのであった。


C−3 ミニ精霊石をもらう


「ミニ精霊石が欲しい人はこちらですよー。昨日のお風呂で精霊石があったと思うけれど、あの石、美肌効果や美人効果(その他、状態異常いくつかのガード)もあって、なかなかお得ですよー。お土産のミニ版でも効果は健在!」

 女性スタッフに呼び掛けられ、ミニ精霊石が配られるところに、ビリー、未来、リュリュミア、ラサ、シルフィーがやって来た。

「精霊石かいな! こりゃええねん! なあ、隊長、美人効果があるんやて♪」
 ビリーはミニ精霊石を受け取ると、隣にいるシルフィーに、ニヤリとしながらさりげなく大事なことを伝える。

「わたしも美人効果を狙い、ぜひ精霊石!! これでナイスバディの美人になれるかも……。シルフィー、一緒にがんばろう!!」
 未来もミニ精霊石を受け取り、隣にいるシルフィーを、今、もらったばかりの石で突いてみた。

「あ、あたしは……別に美人になんかなりたくないんだからね!」
 シルフィーは、スキル・ツンデレキャラを発動した。
 そうは言いつつも、しっかりとミニ精霊石を受け取る。

 一方で、リュリュミアとラサもミニ精霊石をもらっていた。

「かわいいですぅ。お土産はミニ精霊石がいいですぅ!」

「わー、かわいい! ボクもこれにする!!」

 リュリュミアとラサは、外見のかわいさでミニ精霊石に決めたようだ。
 石をもらった2人は、互いに見せ合いっこして、にこにこと笑っていた。

***

 その後、調査部隊たちは、それぞれが有意義なお土産をもらうと、スタッフたちが運転するスノーモービルに乗って帰るのであった。ウィッチクラフト地区からマギ・ジス(聖アスラ学院地区まで)への転送装置のところまで送ってもらったのである。

 もちろん、魔術書『モンストロギア』は既に手元にないので、道中、魔物に襲われることはなかった。むしろ、襲ってくる魔物の反応が道中は全くなく、快適な帰り道だったそうだ。

 マープル先生から依頼された魔術書の配達任務を遂行し、報酬の雪国旅館1泊貸し切りのバカンスを終えた部隊は、全員無事にマギ・ジスへ帰国できたそうである……。

<終わり>