ゲームマスター:夜神鉱刃
もくじ ●グループA 岩場付近での植林 A−1 下準備 岩の破壊と移動 A−2 苗木を運ぼう A−3 保水剤(吸水ポリマー)を使おう A−4 砂質改善をしよう A−5 モンスター除けのトラップを作ろう A−6 休憩しよう A−7 植林を開始しよう A−8 穴を掘ろう A−9 苗を植えよう A−10 埋め戻そう A−11 バケツリレーをしよう A−12 土を整えよう A−13 完成 ●グループB オアシス付近での植林 B−1 下準備 プイプイ草の除去 B−2 苗木を運ぼう B−3 保水剤(吸水ポリマー)を使おう B−4 砂質改善をしよう B−5 モンスター除けのトラップを作ろう B−6 休憩しよう B−7 植林を開始しよう B−8 穴を掘ろう B−9 苗を植えよう B−10 埋め戻そう B−11 バケツリレーをしよう B−12 土を整えよう B−13 完成 ●グループC 人面岩付近での植林 C−1 下準備 念入りに砂質改善 C−2 苗木を運ぼう C−3 保水剤(吸水ポリマー)を使おう C−4 モンスター除けのトラップを作ろう C−5 休憩しよう C−6 植林を開始しよう C−7 穴を掘ろう C−8 苗を植えよう C−9 埋め戻そう C−10 バケツリレーをしよう C−11 土を整えよう C−12 完成 ●グループA 岩場付近での植林 A−1 下準備 岩の破壊と移動 気温40℃を超え、陽炎と共に炎を吐く果てしない砂場とごつい岩場……。 本日、この「赤い沙漠」にて、植林作業を決行する勇者たちがいた。 「ふむ。岩場班の7人全員(ワシを入れて8人)が、ラクダに乗って無事に着いて来られたようだな? では、これより植林作業を開始! だが、開始前にこのへんでごろごろしている岩どもをどかさんとまずいのう!」 岩場付近班の指揮を執るのは、フレイマーズ大学環境科学研究所所長のドーン・ファイアバーン老人である。もっとも、「老人」とは言え、筋肉質な老練の魔術師なので、この8人の中の誰よりも戦士らしき身体を誇っている。 ところで、所長が説明している傍から、突然、砂場が炎を吐いた。 灼熱玉が、シュゴゴゴ、と効果音をあげながら上空へ発射! (ふう……。また火炎か……。昨日の戦闘でも砂場が炎を噴いて大変だったよな……) 「あの……ファイアバーンさん! 岩もどけないといけないと思いますが、炎にも対応する人員も必要そうですね?」 赤い髪を束ねた冒険者衣装の青年、ジニアス・ギルツ(PC0025)は、タオルで汗を拭い、所長に質問をする。暑いながらも、青年の紫色の瞳は、キラキラと輝いていた。実は何気に、今日の植林作業が楽しみだったのだ。 「うむ。この班のメンバーは8人いる。では、4人が岩を除去し、残りの4人が『魔法の火消砂』をまきながら岩を除去するメンバーをサポートすること! さて、諸君、岩の破壊と移動をするにあたり、立候補はいるかな? まず、ワシ、そして副所長! あと2人!」 ファイアバーンが一同の表情を見まわすと、ほとんどのメンバーが下を向いてしまった。そんな中、ひとりの元気なアメリカン女性が手を挙げる。 「ジュディがロック・クラッシュの担当シマース! パワーが必要ナラ、ジュディにオマカセなのデース!!」 颯爽と名乗り上げた女性は、身長が200cmを超える巨体の持ち主だ。しかも、着込んでいるアメフトチームのシャツは、ダイナマイトバディではち切れそうだ。彼女の名は、ジュディ・バーガー(PC0032)である。 「ええと、俺もやります! と言っても、パワー系ではないけれど……岩の砕き方なら以前に別の冒険で経験があるので、やれるかな、と」 ジニアスも即座に立候補し、これで岩を破壊する人員があっさりとそろったのであった。 *** (岩をそのまま砕くのは大変なので……温度差攻撃でやってしまおう!) ジニアスは、植林スポット付近に転がっている巨大な岩の前に座ると、アイテム袋から「炎貝」を取り出した。 その後、立ち上がり、岩から少し距離を取って、「炎貝」を岩の下に向かって放り投げた。 すると……、攻撃のショックで発動した貝から、灼熱の火炎が舞い上がる! (よし、ここまではOK! で、温めた岩を……) 次に冒険者青年は、アイテム袋から「青の元素水晶」を取り出した。そして、焦げた岩のてっぺんから、真水を洪水のように浴びせた。 勢いよく飛び出た水分は、岩全体を冷やすように流れ込んで行く……。 一方、作業中に、砂場から炎が上昇した! ジニアスが驚いていたところで、後ろから所員が炎に「魔法の火消砂」をかけてくれた。 それに気がついたジニアスは、ありがとう、と軽く会釈。 さて、最後の仕上げとして、魔剣士青年は、「サンダーソード」を鞘から抜いて、上段で構えた。 「そらああああああああああああああああああ!!」 沙漠に響き渡る掛け声と共に、上空から振り落とされた剣が、焦げて湿った岩を一撃で破壊! こうして、温度差攻撃(熱した直後、急激に冷やして斬撃を加える)をクリーンヒットでくらった岩は、いともたやすく砕かれてしまったのだ。 ジニアスが、次の岩も同じパターンで砕こう……と、思っていたとき……。 「ヘイ! イーハー!!」 カウボーイのような奇声を上げているジュディは、岩を軽く持ち上げては、付近の岩に投げつけて砕き、あっという間に破壊していたのだ。 (ジュディさん……すごいな……!!) ジニアスが目を丸くしている暇もなく、元アメフト選手のスーパーレディは、次々と岩場の岩を砕きながら、植林地を整備して行くのだった。 ジュディの背後では、炎の砂を慣らしている所員と、砕かれた岩を運んでいる所員の2人が、あくせくと働いていた。 (ファイアバーンさんたちは……どうしているかな?) 気になったジニアスは、ファイアバーンと副所長の方に、ちらりと、視線を向ける。 「ふう……ふう……。所長、無理です!! これ以上は、持ち上がりません!!」 渋い中年の副所長は、岩石を持ち上げて運ぶのに一苦労しているところだ。 しかし、そんな副所長を差し置いて、ファイアバーンの方は……。 「おい、どうした! この程度の岩石を軽々と持ち上げられないとは、情けない! おまえさん、ジニアス君とジュディちゃんを見てみなさい! 善戦しているじゃないか!」 などと、副所長を説教しながら、当の所長は、岩石を軽々と持ち上げて、別の岩に向かって投石して砕いていた。 (ははは……。ファイアバーンさん……さすがだな……) ジニアスは同じ方法で次の岩も……とも思ったが……。 ジュディとファイアバーンの真似がしたくなったので、「リリのクッキー」を取り出して、パクリ、とかじった。 そして力を発揮した冒険者青年は、岩石の投石に精を出すのであった。 A−2 苗木を運ぼう 「さて、邪魔な岩の排除はこれぐらいでよいだろう。今から苗木のポプラ改を渡そう。各自、1個から10個まで好きな数だけ持って行っていいぞ。ああ、あとスコップに軍手などの道具も各自、忘れずにな!」 ファイアバーンが号令をかけ、一度、停車していた魔導ラクダ前に一同は集合した。 荷物を乗せていた魔導ラクダたちのコブから、所員たちは道具一式を降ろして行く。 「う〜ん、どうしよう? 何個ぐらいがいいのかな?」 苗の数で悩んでいるジニアスの横で、ジュディは、ほいほい、と次々と苗を取って行く。 「え? そんなに!?」 驚くジニアスを前に、ジュディはにこにこと笑う。 「イエス! ナーサリーツリー(苗木)は10コ、植えマース!! たくさんのネオ・ポプラが埋まれば、きっと、グリーンで、いっぱいになりマース!!」 ジュディが自信満々にそう答えると、ジニアスも、うん、と頷いて納得した。 そして、苗木に手を伸ばし、配布している所員からたくさん手渡してもらうのであった。 (そうだな……。この班、人数も少ないし、どちらにしても苗木をたくさん植えないといけないから……俺も多めに10個、持って行こうかな?) A−3 保水剤(吸水ポリマー)を使おう 怪力のジュディ、そして割と力がある方のジニアスは、率先してスコップ、バケツ、保水剤などの運搬を手伝うのであった。 「さて、皆の者、苗木は受け取ったな? では、今から、お手元のバケツに、保水剤のパックを空けて、こちらのパックに入った水も混ぜてもらおう。バケツの中身ができたら、苗をその中に浸すのだぞ? 沙漠の環境は厳しいが、保水剤を使えば、水の量が少なくても苗はよく育つようになるからのう!」 ファイアバーンが保水材の説明しながら、各自に使用を呼び掛けていた。 ジニアスとジュディも、さっそく保水剤入りの水をバケツの中で作り始めるのであった。 「よし! 中身は完了! そおっと、そおっと……苗を浸けて行けばいいんだな?」 ジニアスは丁寧に、1個1個の苗を、バケツの中へ浸すのであった。 「10・オブ・ネオ・ポプラもやるデスカ!! なかなかハードワークねえ……」 細かい作業を10連続も行うジュディであったが、彼女なりに心を込めて、楽しみながら作業に取り組むのであった。 A−4 砂質改善をしよう 「よし、ワシもできた! では、皆の者、苗はひとまず置いておくとしよう。なぜなら、植える前に、植える場所の砂質改善も必要だからだ。ご存知のとおり、この沙漠では……」 と、ファイアバーンが説明をしている傍から、シュゴゴっと、砂が炎を噴くのであった。 「などといった具合に、砂が炎を吐いたりする。先ほどの岩の撤去により、一部の範囲では砂質改善ができている。しかし、苗を実際に植える場所において、砂質は徹底的に改善しておかないといかん。先ほど、ワシが、事前に草方格(そうほうかく)づくりとロープを設置しておいた。各自、自分が植えるだろう場所の付近において、入念に砂をまくこと!」 こうして、ジニアスとジュディは、ラクダの荷を下ろした所員たちから「魔法の火消砂」の麻袋を受け取るのであった。 「まあ……。昨日のこの場での戦闘経験者としては……あの炎が厄介だということはわかっているので、念入りに砂をまかないと……」 魔剣士青年は、魔剣を繰り出すときのイメージを連想しながら、「魔法の火消砂」に自身の魔力を注ぎ込むのであった。 そして砂には、ジニアスがよく使う「サンダーソード」の影響だろうか、ジジジ、と電撃が走った。 実際にジニアスが砂を植える予定の周囲にふりかけると、赤い砂がみるみると通常の茶色っぽい砂に変色して行くのであった。 (お!? おもしろいな!!) 興味を抱き、作業を続けるジニアスの横で、ジュディも同じく、砂質改善に取り組む。 「ウウン……ジュディのマジックは、ファイア、ウォーター、アイスなどアリマスね……。そーいったマジックをイメージすれば、グッドでしょうカ!?」 何気に魔術も使える巨体の選手は、「魔法の火消砂」に魔力を念じ込む。 すると、「アイス」(氷)をイメージしたジュディの手元で、砂が一瞬、カチン、と冷凍してしまった! だが、その直後、即座に元に戻ったのであった。 「OK! とりあえず、コレを……」 ジュディが魔法の砂を周囲の地面にふりかけると、赤い一面の砂場は、茶色い砂へみるみると変化していったのだ。 (グレイト! このチョーシで、ガンガン、やりマース!!) A−5 モンスター除けのトラップを作ろう 「皆の者、砂質改善はそろそろ終わった頃かな? 次は、モンスター除けのトラップである、魔導かかしを配布する。このかかしを、各自、植える予定の場所の付近に立てるように! こいつがあれば、バシリスクなどといった魔物も近寄ってこんからのう!」 ファイアバーンの説明を受け、所員たちはラクダからかかしを降ろすのであった。 かかしは、1人につき1体の配布である。 ジニアスはかかしを受け取ると、1体は自分の持ち場に刺しておいた。 そして、所員からもう2体受け取り、持ち場を離れ、ロープが張られている端と端にも設置するのであった。 「おや? ジニアス君、どうしたね? 魔導かかしが3体も必要だったかな?」 最後のかかしを設置し終えているジニアスのところに所長がやってきた。 「はい。昨日、ここで戦闘した経験から、どこにかかしを設置すれば効果的か……と検討した結果、植林地の端と端を挟むかたちで設置するのが良いと思いましたので……。いわゆる、モンスターに対して、テリトリーの結界を張る感じでしょうか?」 ジニアスが笑顔で丁寧に受け答えると、老人は、ほっほっほ、と笑い出す。 「うむ。的確なアドヴァイスをありがとう! ワシもそこまで気が回らんかったよ! ま、よろしく頼むぞ!」 一方、ジュディは、自分の持ち場でかかしを設置し終えたのだが……。 何かが足りない、と首をかしげていた。 (オウ! ここはアメリカン・スタイルにするですネ!!) バーガー牧場の娘は、アイテム袋から、彼女自身の古着をがさごそと取り出した。 そして、古い上着と帽子を袋から抜き取り、かかしに着せるのであった。 (ワンダホー! イッツ・アメリカン・ヴァージン・ランドスケープ(これぞ、アメリカの原風景)ですネ!) A−6 休憩しよう 「さて、いよいよ次の段階から本格的な植林作業に入る! だが、そのまえに、休憩を少しだけ取ろう! あの大きな岩陰になっているところで、各自、好きなように休憩! 水分や塩分の補給はちゃんとやっておくように!」 ファイアバーンが休憩時間を告げると、一度、全員は岩陰に集まることになった。 そして、下っ端の所員たちは、暑さと疲れに負けて、だらだらと座り込んでしまった。 これは士気の面で少しまずいかもしれない、と思ったジニアスは所員たちのもとに歩み寄る。 「おつかれさまです! それにしても、こんな沙漠に森ができるなんて、すごいですね! まだまだ作業はたくさんありますが、皆さん、最後まで一緒にがんばりましょう!」 ジニアスが満面の笑みでそう語りかえると、所員たちも暑そうな顔をしながらも、にこにこと応答してくれた。 「そうだ、ジニアス君の言う通りだ!」 「俺たちが、がんばらないでどうする!」 「よし、もう一仕事だ!」 といった具合に、所員たちは声を上げ、士気が回復して行った。 そのやり取りを見ていたファイアバーンと副所長は、彼らに穏やかな視線を送っていた。 「ハーイ! 水分タブレット、アリマース! これでウォーター&ソルトを取りましょうネ!!」 ジニアスたちが励まし合っているところに、ジュディがタブレットを持ってやって来た。 そして、ジニアスや他の所員たちに補給物資を配り出した。 「お!? ジュディさん、ありがとう! ちょうど水分が欲しいところだったんだ!」 冒険者青年はラムネ状のタブレットを受け取ると、口の中に放り込んだ。 ちょっとしょっぱい塩の味が口一面に広がり、そしてカラカラののどが潤されてスッキリした。 もちろん、ジュディ本人も、しょっぱそうな顔をしながら、タブレットのラムネをぺろりと食べるのであった。 「おいおい、おまえら! ジュディさんはお客さんだろう! おまえたちが水分タブレットを持っていないでどうする?」 そこに副所長が割り込んできて、皆に水分タブレットを配布するのであった。 タブレットを受け取りながら、ファイアバーン所長も、どっこいしょ、と岩陰に腰を下した。 「ところで、ファイアバーンさん……。よかったら、休憩中に武勇伝を聴かせてもらえませんか? シルフィー隊長から聞いたところ、今回の依頼を申し込む前にこの辺まで偵察に来ていたんですよね? それで、沙漠の魔物に囲まれた後、余裕で生還したそうですね?」 タブレットを舐め終え、冒険者青年はワクワクしながら、老練の魔術師に問いかけるのであった。 「うむ、いかにも。ま、あの程度の修羅場は修羅場には入らんよ。で、話か……そうだな、では、ワシひとりでバシリスクどもを撃退した手順について話そうか……」 こうして、ファイアバーンは、沙漠の魔物を撃退したときの話を熱く語り出すのであった。もちろん、彼の話を止める者は誰もいず……。 30分後……。 「……というわけで、ワシとシルフィーちゃんでピラミッドへ探検に行ったときにそんなことがあったのだよ。ま、ワシにかかれば、ミイラもゾンビもちょちょいのちょいだったがな!! ガハハ!!」 話は脱線し、なぜかファイアバーンがシルフィーとピラミッドへ探検したときの話まで話題が飛んでいた。 ところで、ジニアスも、ジュディも、副所長も、それ以外の所員も、皆、暑い中、日陰で怪談でも聴き入るかのように必死で聴いていた……。 「はっ!! しまった!! ワシとしたことが!!」 突然、立ちあがって叫ぶ老所長。 「どうされました!?」 ジニアスもつられて叫び出す。 「ワシら、植林作業をしている最中だったじゃないか!! いかん、休憩は終わりだ! 他の班に遅れを取るわけにはいかん!!」 老人の長話は、休憩終了と共に強制終了したのであった。 A−7 植林を開始しよう 「とまあ、休憩中は色々あったが……。気を取り直して、作業再開! では、これより植林作業にて、いよいよポプラ改を植えるぞ! 各自、配置につくように!」 ファイアバーンの号令と共に、所員たちは、各自の持ち場へと戻って行った。 ジニアスとジュディは、岩場に張り巡らされたロープに沿って、一列に並ぶのであった。 彼らが並んでいるロープの前には、草方格づくりによる草の枠が広々と設置されていた。 「よし、この辺だよな! さて、10個、がんばって埋めていくぞ!!」 ジニアスはバケツに入ったポプラ改らを下に置いて、穴の位置を定めるのであった。 「ホールはこのエリアに掘るのですネ! ジュディも、10コ、がんばりマース!!」 ジニアスの隣で、ジュディもたくさんあるバケツを足元に置き、草方格づくりの位置を確認するのであった。なお、邪魔な小岩も転がっていたので、この際に一緒に撤去しておくことにした。 A−8 穴を掘ろう 「各自、位置確認はできたな! では、これより、穴を掘る!! スコップの用意は良いな!?」 所長が確認を促すと、皆、スコップを取り出して、穴を掘ろうとする。 「ちょっと待ってください! せっかく8人いるので、体育祭みたいに競争しながらやりませんか?」 ジニアスがその場の全員に呼び掛けると、皆、わはは、と笑い出した。 「いいぞ、ジニアス君! では、ワシが号令をかけるので、他7人は、一斉に掘り出すこと! 掘り終えた者から順にアガリ、ということだな!」 こうして、ファイアバーンが、「それ開始!」 の号令をかけて、皆、一斉に掘り出すのであった。 (ふう…………。ええと、たしかマニュアルによれば……直径40cm、深さ100cm、ってこのぐらいかな? …………ハハハ、穴掘りなら冒険でよくやるから慣れている! 1番乗りはもらったああああああああああ!!) 張り切る冒険者青年の横で、アメリカン・レディも負けまいと猛烈に掘っていた。 (ウオオオオオオオオオオオ!! ディッグ(穴掘り)なら負けませえええええええええええええん!! スポーツのゲーム(試合)みたいで燃えるデース!! ジュディ、ファイアアアアアアアアアアア!!) (え? ウソ? ジュディさん……すさまじい!! やばい、負けるかも!?) 競争の結果、1位ジュディ、2位ジニアス、3位副所長……となるのであった。 A−9 苗を植えよう 「よし、穴もできた、と! では、保水剤入りのバケツに入った苗を各自、植えて行くこと!」 老所長が呼びかけ、各自、今、堀ったばかりの穴に苗を植えて行くのであった。 「ふう……。そういえば、俺のは10個あったな……。まあ、先は長い。地道に植えて行こう……」 ジニアスは首にかけているタオルで汗を拭いながら、改めて位置を確認する。 定位置を確認できたら、今度はバケツの中から湿っている苗を取り出し、穴の中へそっと入れていくのであった。 彼はこの作業を地道に10回、繰り返す……。 一方、ジュディも10個なので、ジニアスと同じぐらいの苦労がある。 しかし、厳しく太陽光が照らす真夏の中、彼女の表情はとても穏やかであった。 今、こうして、苗を1個1個、順調に植えている畑仕事(?)の作業を心から楽しんでいるのだろう。 今は遠くにいるグランマ(祖母)とグランパ(祖父)のことを思いながら、牧場にいた頃にやっていた手作業を懐かしんでいた。 A−10 埋め戻そう 「うむ。皆の者、上手く植えられらようだな? では、今から、埋め戻そう!」 巡回しながら、ファイアバーンは、作業が順調なことににこにこしていた。 ジニアスとジュディも、やっと10個もの苗を埋め終えたので、埋め戻すところだ。 「ええと……。とりあえず、砂をかけていけばいいのかな?」 冒険者青年が砂をかけようとしたところで、元アメフト選手が手を遮った。 「ヘイ、ジニアス! ウェット・サンド(湿った砂)から埋めマース! 70%まで埋めマース! ラストでは、ステップして固めマース!!」 自信あり気にジニアスに教えるジュディ。 実は彼女、ここに来る前、今朝、マニュアルをよく読み込んでいたのだ。 そして、ジュディの指示通り、(ジュディ本人はもちろんのこと)ジニアスも無事に埋め終えられた。埋め戻したあとは、それぞれの持ち場で、苗にかぶせた砂の上をぴょんぴょんと跳ねて足で固めて行く(10回分繰り返す)のであった。 A−11 バケツリレーをしよう ファイアバーンは、全員が埋戻しの作業を終えるところを確認すると、またラクダの方へ戻って行った。 荷物を積んでいるラクダから、巨大なタンクを取り出した。 この中に、大量の水分が入っているようである。 「では、皆の者! ただいまより、このタンクから水を汲み上げ、バケツに水を入れて行く。皆でバケツリレーをして、70%まで埋め戻した穴に水を注入すること!」 指示を出しているファイアバーンの傍で、ジニアスが手を挙げた。 「せっかくなので……。またさっきの穴掘りみたいに、体育祭のノリでバケツリレーの競争をしませんか?」 と、青年がにこやかに問いかけたところ、半数の所員たちは、へばっていて回答ができなかった。 そこでジュディが挙手する。 「ヘイ、ジニアス! ベターな方法ありマース!!」 ジュディが何かを念じて、バケツの上に手を振りかざした。 すると、手元が一瞬、青く発光し、空のバケツの中に水を呼んだのだ! 「そうか! 水系魔術を使えば一発だったね!」 所員の中で同じく水属性の魔術を持つ者も、続いてバケツの中に水を呼び込んだ。 「うむ。それでもよかろう! では、水系魔術を使える者はジュディちゃんみたいにやっとくれ! 使えん者は、ジニアス君たちと一緒にバケツリレーをしよう。ジニアス君もそれでいいかな?」 所長が確認を促すと、ちょっとバツが悪そうに、ジニアスは舌をぺろりと出した。 (一応、「青の元素水晶」を使うという手もあるが……。ここは、みんなで楽しくバケツリレーの方がいいかな?) 「はい! では、バケツリレーをする人は、一緒にがんばりましょう!」 ジニアスが呼びかけ、彼自身を含む4人は共にバケツリレーに勤しむのであった。 A−12 土を整えよう 「うむ! 水を植え穴に注ぐ作業も終わったようだな! では、残り30%の穴もそのまま埋め戻してくれ!! 踏み方が甘いと後始末が悪いから気を付けるのだぞ! なお、これが本日の植林作業の最後なので、気合を入れて終えること!!」 全員がバケツ作業を終わったことを確認し、ファイアバーンは最後の作業に喝を入れた。 ジニアスとジュディも、がんばって10個分の苗に水を入れ終え、汗を拭っていた。 今日はまだまだ暑いが、これが最後の作業となると、疲れていても張り切らずにはいられない! 「よし……。穴は……こんなもんかな? あとは、10回分、さっきみたいにジャンプして踏み固めれば終わりだな!!」 冒険者青年は、元気よく、ぴょんぴょん、と穴の上を跳ねだした。 「イエス、ジニアス! グッド・ジョブ! ジュディもラストまでファイトですネ!!」 元アメフト選手も、試合で突進するかのごとく、勢いよく穴の上を跳躍した。 どうやら、2人は手堅く踏み固められたようなので、これで苗が風で倒されたりする心配はないだろう。 A−13 完成 「よーし!! 上出来だ! 皆の者、いい感じだぞ! これにて植林作業は終わり! 最後に記念撮影をしよう! と、その前に……ジニアス君とジュディちゃん、ちょっとこっちに来てくれるかのう?」 ファイアバーンが手をこまねいているので、やっと作業が終わった2人は、所長のもとへ歩み寄って行った。 「なんでしょうか?」 「ワッツ?(何かしら?)」 「ほい、これ! 今日の報酬だぞ!」 所長から2人に、黄金に輝くバッジが手渡されたのだ! 2人が受け取ると同時に、所員たちは拍手をしてくれた。 頂いたバッジだが……よく見ると、今日、植えたポプラ改の苗の形をしていて、中央に「フレイマーズ大学環境科学研究所」のサインも刻まれていた。 「うちの研究所がゲストへ配布している植林記念バッジだ! 持っていると自慢できるし、いざとなったら太陽光線も発射できる優れものだぞ!」 最後の「いざとなったら太陽光線も発射できる優れもの」というところに、受け取った2人は首をかしげるのであったが、とりあえず、これはいいものだ、ということらしい。 「ありがとうございます! 俺、今日の植林のことは一生忘れません!」 「サンクス! ジュディも、今日は、ホントに、エンジョイしましたヨ!!」 こうして、お礼を述べた2人を中心にして、8人全員で記念撮影に入った。 撮影は、魔術仕掛けの写真機鳥が取ってくれるようである。 鳥は、ぱたぱたと飛び出して、全員の全身をシャッターの中に収めた。 「それ、チーズだ!!」(ファイアバーン) 「チーズ!!」(全員) パシャリ、とシャッターが切られ、皆、思い思いの格好で記念に残る撮影ができた。 ジニアスは、中央でファイアバーンと肩を組みながら自信ありげな笑顔で……。 ジュディは、前回の戦闘報酬で配布された「激辛にんじんドリンク」をラッパ飲みで一気飲みしながら、顔を真っ赤にした満面の笑顔で……。 ●グループB オアシス付近での植林 B−1 下準備 プイプイ草の除去 ギラギラと光る強めの太陽光に、キラキラと輝く蒼きオアシス……。 オアシス周辺には真っ赤に燃えるような砂と紫色の大きな雑草の点々が広がっていた……。 「ええと……本日、オアシス付近担当の指揮を執らせて頂く所員のボブといいます。で、こちらはもうひとりの指揮者であるシシリアですね。改めてよろしく。では、この地域を担当する12人全員が魔導ラクダから降りたようですので、そろそろ植林作業を開始したいと思います……」 ボブと名乗った30代前半の小柄な男の所員は、今日、一緒に作業する11人の顔を見回しながら、暑そうな表情で話していた。 「調査部隊さんたちもよろしく! 改めて、シシリアよ!」 ボブに紹介され、シシリアと名乗った20代後半で長身の女所員もあいさつを続けた。 「では、さっそくですが……。この地域はプイプイ草の駆除を最初にやらないといけませんね。出発前にも説明があったと思いますが、あの雑草はポプラ改の成長を妨げるので大変いけません……。さて、それはそうと、12人いるので、雑草を駆除する人6人、雑草を駆除している間、砂が炎を噴かないように『魔法の火消砂』をふりかける人6人、で分担しましょう!」 ボブは、立候補がいないものか、と皆の顔を見回した。 「そうねえ……。シルフィーさんの調査部隊の方たちにせっかくだから雑草駆除をやってもらったらどうしかしら? あとは、私とボブも一緒に駆除をやって、残りの所員6人はふりかけ係でいいと思うけれど?」 シシリアの提案に反対はなかったので、そのように班分けが決まった。 *** 「雑草という名前の〜♪ 草はないんやで〜♪」 お気楽に歌を歌いながら、手鎌でザクザクとプイプイ草を刈っているのは、ビリー・クェンデス(PC0096)だ。 今日のキューピーさんは、日光対策として、大きな綱代笠を被っている。 しかも身長が108cmしかないこの座敷童子は、すっぽりと笠の中に身体が入ってしまっているお姿だ。 後ろから見ると、笠地蔵と言うか……笠が動いているポルターガイストみたいである。 「コッコ、コ、ココ、コケコケ♪」 同じく、楽しそうに一緒に歌唱しているのは、ビリーのペットである金鶏のランマルだ。 ランマルの方は、プイプイ草をくちばしで突っつきながら駆除しているらしい。 だが、鶏さんは、その紫の草をなぜかパクパクと食べている。 笠地蔵と家畜の鶏による草むしり……。 一応ここは沙漠だが、見方によってはのどかな田園風景なのかもしれない。 ところで、ビリーが草むしろをする隣で、メカが機械音を鳴らしながら、黙々と草刈をしていた。 (ま、たまには草刈といった地道な作業もいいもんだな……。機械いじりも楽しいが、これはこれで嫌いじゃない……) 植林作業用に改造された人型機動兵器に乗って作業をしているのは、魔導科学の発明家・武神 鈴(PC0019)だ。ロボは背後のバックパックから精密作業用のマニュピレイターを6本、生やしている。また、反重力マントといった武装も施されているので、地面からぷかぷかと浮いている。 (ふん……。このロボなら草刈など一発だな!!) 鈴はマニュピレイターを操作し、紫色の雑草を高速で次々と刈っていくのであった。 「ふう〜ん……。しゃがみながら草を延々と刈っていくのって、思ったよりも大変! だけれど、根気よくやるしかないよね! がんばれ、わたし!!」 人型ロボが高速度で草刈をしているその隣で、地道に草むしろに励んでいるのは、女子高生・姫柳 未来(PC0023)だ。今日もお気に入りの超ミニスカートの制服で淡々と作業に取り組んでいた。 (おっと、いけない! スカートが!!) だが実は彼女、超ミニスカートに穿き慣れているので、絶妙な角度を維持しつつ、ぎりぎりでパンティが見えないように草むしりをしていた。 (お!? すごいなあ! 見えないかなあ?) そんな健気な女子高生の隣で作業をしているボブは、至近距離で未来のスカートをちらちらと見ている。傍から見たら、スケベなおじさんだ…… 「あ、ごめん! 手が滑ったわ!!」 そのボブの隣にいるシシリアが、同僚の痴態に気が付き……。 火炎魔術が炸裂して、ボブ、ヒートアップ!! 「うぎゃああああああああああ!!」 「大変だ! 砂が火を噴いたみたいだ! 早くボブさんに火消砂をかけないと!!」 「了解しました!!」 火消砂をまいていた他の所員たちが駆けつけ、ボブとボブ周辺に急いで魔法の砂をふりかけるのであった。 (ん? 隣がうるさいな……。ま、いいや、もうあとちょっとでこの辺が終わるから、続けてがんばろう!) そんな事情を小悪魔未来は知る由もなかったのだ……。 とまあ、お隣のシシリアとボブあたりがやや騒がしいことになっていたのだが……。 並んでいる6人の一番端で作業をしていた猫のぬいぐるみ……いや、それに憑依している精神体幼女のラサ・ハイラル(PC0060)は黙々と草むしりをしていた。しかも草の根を残さないように、と丁寧に取り組んでいた。 「にゃご、にゃご、にゃご♪……ん? そうだ!!」 ラサは猫の手で、さくさくと草刈をしているとき、あることが閃いた。 「ねえ、みんな! おもしろいことを思いついた! みんなで草むしりの競争をしないかな? その方がきっと楽しいと思うけれど!!」 猫さんの呼びかけで、周囲のメンバーたちの手が一度、止まる。 「うん、いいね! やろうよ! おもしろい方がいいよ!」 未来が元気よく賛同してくれた。 『そうだな……。みんなで競争してやった方がはかどるかもな!!』 鈴もロボのスピーカー越しで快く回答してくれた。 「ん? 競争かいな? 合点やで、負けないやんけ!!」 ビリーも、笠から鋭い視線をキラリと光らせ、即答だ。 もちろん、ボブとシシリアも反対はしなかったどころか、むしろ競争をやろう、という話になった。ボブが審判とカウントの役になり、シシリアが参戦することになった。 『では、位置について……よーい、どん!!』 ボブの掛け声と共に、レースが始まった! 「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃーーーーーーーーーーーーーーー!!」 ラサ選手、猫のクローでサクサクと刈って行く、掘って行く……。 「もうかりまっかああああああああああああああああああああああ!!」 ビリー選手、キューピーハンドを光らせながら、猛烈に草を摘んでいく……。 隣でランマルも頭を激しく上下運動させながら、草をガツガツと食べる……。 「負けるつもりはないからねえええええええええええええええええ!!」 未来選手、スカートに気を配りながらも、サイコキネシスも発動させ、草を駆除……。 『ハハハ! 悪いが、この勝負、俺がもらったああああああああああ!!』 鈴選手、メカの能力をフルアーマーモードで駆動し、超高速度のマニュピレイターで、草を一網打尽……。 (むむ……みんな、さすがに早いわね!!) 焦りながらも、必死でがんばるシシリア選手……。 さて、勝負の行方は……。 1位、鈴選手。(メカの圧倒的なスペックの実力で優勝!) 2位、未来選手。(サイコキネシスが決め手で2位!) 3位、ビリー選手。(ゴッドハンドを草刈に応用してなんとか3位! 2位との差はわずか) 4位、ラサ選手。(ぬいぐるみの猫のスペックで猛者を相手にするのは厳しかったらしい。せめて、バシリスクがこの場にいたら……) 5位、シシリア選手。(猛者たちの実力を前にして無力だった) こんな感じで草刈を猛烈にがんばっていたので、プイプイ草除去は割とあっという間に終わってしまったようであった……。 B−2 苗木を運ぼう 「草刈は上手く終わったので、そろそろ苗を配ります! スコップやバケツといった道具も一緒に運んでください」 ボブは全体に指示を出し終えると、魔導ラクダから荷物を降ろした。 所員たちで手分けをして、ラクダから荷物を続々と降ろすのである。 そこで、上空から、小型飛空艇が、ゆらゆらと降りてきた! 「皆さ〜ん! 荷物はボクが預かりまっせ〜! 飛空艇に苗や道具を積んでくれや!」 ビリーは『空荷の宝船』を召喚し、自ら運搬の役目を買って出たようだ。 「うん。じゃあ、ビリー君にお願いしましょうかね。君、苗はどれぐらい必要ですか?」 ボブが飛空艇に歩み寄って来た。 「苗は10個もらおうかいな? スコップやバケツはじゃんじゃか積んでくれていいで!」 座敷童子のご厚意に甘えたいものの……小型のゆらゆらした飛空艇なので、おそらく重量に加減があると思われたので……ボブは控えめに荷物を積ませてもらった。 『おーい! 運搬メカならここにもあるぞー! 俺のロボなら、並みの戦士よりもよほど力持ちだから、重い物やかさばる物なんか平気で運べるぜ!』 スピーカー越しに音声を発する鈴も名乗り出た。ボブは礼を言うと、彼にも苗と道具を用意した。 「君は、苗は何個欲しいですか?」 『苗か……。実は、みかん改の苗を持って来ていてね。ポプラ改は、必要ないかもしれない』 残念そうに言う鈴に対して、ボブはロボに苗を1個押し付けた。 「まあまあ、そう言わずに! 今日は植林のお手伝いに来ているんですから、ぜひ記念に1個だけでも! では1個、任せましたよ!」 『……承知した……』 ともかく、鈴は苗を1個受け取り、スコップの山を担がされたのであった。 「あのさ……。ビリーと鈴のおかげで荷物がだいぶ減ったと思うけれど……。わたしは、テレポートで運べるから、ちょっと重い物でも何個でも平気だよ!!」 未来の申し出に、シシリアが笑顔で応対した。 「未来ちゃん、ありがとう! じゃあ、空のバケツを運ぶのを一緒に手伝ってくれる? それと、苗は何個必要かしら?」 「うん、バケツぐらいいくらでも! 苗は……5個にしておこうかな? できるだけ丁寧に作業したいし……」 未来は、必要分のを受け取り、バケツの運搬を手伝うのであった。 そこに、ラサが猫姿でとことこと出て来る。 「あのう……ボクはこの姿なんであんまり重い物は運べないけれど……。苗を運ぶの手伝おうかな?」 ラサの問いかけに、シシリアはにこやかに答える。 「ありがとう、ラサちゃん! 苗は何個欲しい?」 「う〜ん……。この姿ではあまり作業ができないだろうから……3個で!」 こうして、それぞれの調査隊員たちは、苗や道具の運搬を自分のできる範囲で手伝うのであった。 B−3 保水剤(吸水ポリマー)を使おう 「皆さん、苗は受け取りましたね? では、保水剤パックと水分パックを配布しますから、各自、バケツの中で液体を混ぜてください! この作業は、苗の水分吸収補強のためにも重要な作業ですので、抜かりなく!!」 ボブがそうアナウンスすると、各自、バケツの前で、保水剤を開封するのであった。 「よ〜し……。丁寧に、丁寧に!!」 ラサは保水剤をクローでパカっと開けると、バケツに液体を流し込んだ。 続いて、同じようにして開けた水分パックの水も流して、バケツを回して混ぜ混ぜする。 「苗、苗、えへへ♪」 その後、ぬいぐるみのラサは、もらってきた苗を1個ずつ、バケツに浸すのであった。 肉球で、ちゃぷ、ちゃぷ、とよく浸し、保水剤が染みたのを確認。 一方、ビリーは……。 「これ、ランマル! 保水剤、突かんといてくれ!!」 ペットの鶏と、保水剤の取り合いをしていた。 「ほら、ビリー! 貸してみて」 横で見ていた未来は、困っているビリーを助けようとして、保水剤と水分パックを空けて、バケツの中身を作ってあげた。 「あとは自分で混ぜてね!」 「ほな、おおきに!!」 隣で、このやり取りを見ていた鈴は、微笑ましいとでも思ったのか、クスっと、笑っていた。 が、しかし……。 『むむっ!? 細かい作業だな? マニピュレイターを操作して、パックを引き千切るのはやや大変だ……しかも、力加減も必要……一気に破壊してはまずいだろう……』 などと、焦っている鈴に対しても、未来は保水剤作りを助けてあげた。 「はい、これ鈴のね! って、あなたさ……ロボから降りればいいんじゃない?」 『はっ!? しまった!! その手があったか!!』 B−4 砂質改善をしよう 「では、保水剤の作業も皆さん終わったみたいだし、ここで砂質改善をしよう! 今から、『魔法の火消砂』の麻袋を各自に配布するね! この砂を赤い砂のところへまくだけで、砂質がみるみる変わるからおもしろいよ! 失敗すると、砂から火炎を噴かれて、さっきのボブみたいに燃焼するから気を付けてね!!」 シシリアの掛け声に、は〜い! と、全員で元気よく返事をしていた。(ボブは除く) ボブの人体発火現象が起こった本当の原因を追及する者は誰もいなかった。(ボブ以外) さて、気を取り直して、まず、ラサがシシリアから麻袋を受け取った。 そして、ケットシーみたいに「飛翼靴」を履いている足で、空中に飛んだ。 「枯れた沙漠に苗を咲かせましょう! それ、ぱっ、ぱっ、ぱっ!!」 空を舞う猫は、まるで花さか爺さんにでもなったかのように、麻袋の砂を、植林予定の地面一面に向かってまくのであった。 ラサがまいた砂によって、辺り一面の真っ赤な砂地がみるみると茶色に変色! 「わっ! おもしろいね! わたしも一緒にやろう!」 「ボクも加勢しまっせ!!」 「俺も飛ぼう!!」 こうして、未来は「魔白翼」で、ビリーは「飛翼靴」で、鈴は反重力装置で、それぞれの飛べる範囲の高さで空に舞った。空中を舞う4人は、桜吹雪でも吹かすかのように「魔法の火消砂」をまいて、赤い砂質を茶色の通常の砂質へと改善していくのであった。 B−5 モンスター除けのトラップを作ろう 「では、砂質改善はこの辺にしておきまして……。次は、モンスター除けの魔導かかしを配ります! 各自、かかしを受け取ったら……ロープが張り巡らされている場所にて、自分が苗を埋める近辺に設置するようにお願いします!」 ボブが再び仕切り、魔導ラクダに積まれているかかしを、所員たちと一緒に降ろし出した。 さて、かかしを受け取ったビリーは、自分が苗を植えるだろう場所へそれを持って行き。 一思いに、グサリ、と砂地にかかしを刺す。 その後、かかしを眺めながら、あることを思っていた。 (う〜ん……。なんとなく、ボクの本体である『迷い家』に似ているような似ていないような……。そや、よりボクの分身らしくしてしまおうやん!) 座敷童子は、「打ち出の小槌F&D専用」を振って、ビリーが被っている笠のミニチュア版を出してあげた。そして、その傘をかかしに被せるのであった。 「うん、似合うやん! ほな、これから厳しいやろうけれど、がんばってな!」 一方、ラサはかかしを運ぼうとするのだが……。 自分よりも明らかに大きくて重いので、苦戦していた。 「あ、わたしがやるよ、ラサ! ちょっと貸してごらん!」 未来がラサの分のかかしも受け取り、ラサを抱えて、テレポートで消えて、目的地まで一瞬で移動した。 ロープ前の苗を植える予定の付近にて、未来は、自分の分とラサの分のかかしを地面へ刺した。 「はい、これでいいね!」 「うん、ありがとう!」 ラサは、自分の分のかかしに勇ましい漢の顔をマジックでさらさらと書いた。 「よし、これで魔物も恐れるだろうね!」 「わっ、ラサのかかしすごいよ!」 猫姿の幼女は、ついでにエスパー少女の分にも同じく勇ましい漢の顔を描いてあげた。 「あのさ、そのテレポート便利だね? もう2回、手伝いをお願いしていいかな? 前回、魔物に憑依した経験からして……おそらくこのテリトリーの前後にかかしをもう2体設置すると、奴らが入って来ずらいと思うんだよね……」 「そうだね! それ名案だよ、ラサ! よし、一緒にもう2体、設置をがんばろう!」 こうして、ラサと未来が組んで、植林テリトリー前後にかかしの設置を追加するのであった。 ところで、鈴は……。 「お〜い、武神さん! こっちに頼むよ!」 「こっちもお願い!!」 『ああ! 今、行くぞ! こっちを手伝っているから、ちょっと待ってくれ!!』 スピーカー越しで元気よく返事をしているのは鈴だ……。 かかしの運搬を手伝っているのだ。 所員も全員が大柄ではないし、力がない者もいる。 なので、人型ほどのサイズを誇るかかしの運搬を力持ちロボが手伝っていたのだ。 B−6 休憩しよう 「では、本格的に埋める作業に入る前に、ここで一度、休憩を入れます! 各自、オアシス付近の木陰ででも休むようにお願いします! なおスポーツドリンクを持って来ているので、欲しい人は行ってくれれば出しましょう!」 ボブが、かかし設置作業を終えた頃を見計らって、アナウンスをした。 調査隊員たちも、ちょうどかかし設置が終わったので、オアシスの木陰で休むことにした。 そして……。 「ふう〜! 生き返るね!(ボクは精神体だけれど!)前回の戦闘でも、みんなでオアシスで休憩したよね! あれ、楽しかった〜! だから、ここが緑でいっぱいになるといいなあ〜って、思うよ!!」 ラサは一度、猫のぬいぐるみから離脱して、精神体の姿で木陰前のオアシスに入っていた。もちろん、精神体なので水浸しになることはない。 「そうだね、ラサ! まあ、さすがに今日は植林作業が中心なので、泳ぐつもりはなかったけれど……。軽く休むぐらいなら……」 未来は、ルーズソックスを脱いで、白い足を冷たいオアシスに入れて、ばたばたしていた。口元では、スポーツドリンクをちょくちょくと飲んでいた。 「皆さ〜ん! スポーツドリンクもいいと思うんやけれど、100マギンアイス、いかかでっか〜!?」 ビリーは、小槌で召喚した100マギンアイスを所員たちに振る舞っていた。 その後、メカのメンテナンス中の鈴のところへもやって来る。 「鈴さ〜ん! 100マギンアイス、どうでっか!?」 「ん? アイスか……。では塩をもらおうか? って……なんかこれ、デジャブーを感じるのはなぜ!?」 「今日は、水着のお姉さんはいないやで〜」 「ガッデム!(ジュディじゃないが……)そのパターンはもう勘弁してくれ! 俺、そういうの苦手なんだよ!!」 B−7 植林を開始しよう 「では、そろそろ再開しようね〜! オアシス付近に引いておいたロープがあるよね? さっき『魔法の火消砂』をまいたり、かかしを設置したあたりよ! 草方格づくりが既に置かれているから、その上に苗を植えようね! まずは位置の確認から始めよう!」 シシリアが休憩の終了と作業の再開を宣言すると、全員、立ちあがって、各自の持ち場へと歩いて行った。 調査隊員たちと所員たちは、張り巡らされたロープに沿って、一列に並び、各自の定位置についた。 ちなみに調査隊員の列は、ラサ、未来、ビリー、鈴の順番で並んでいた。 「よ〜し! いよいよ、埋める段階だね! みんな、枠目をよく確認してから埋めよう!」 ラサが仲間たちに呼び掛けると、皆それぞれ、自分の苗が入っているバケツを足元に置き、草の枠から定位置を確かめるのであった。 B−8 穴を掘ろう 「さて、自分の定位置は確かめられましたか? 穴は、マニュアルにあった通り、直径40cm、深さ100cmでお願いします。あと、穴掘りをしていく際に、湿った砂と乾いた砂の分別に注意してくださいね!」 ボブは全員が定位置についたことを確認できると、穴掘りの指示をアナウンスした。 さて、ラサはクローで、未来とビリーはスコップで、鈴はマニピュレイターで、黙々と穴を掘って行くのであった……。 途中で……。 未来のスコップが、ザクリ、と変な感触があった。 「あれ? どうしたのかな? 砂が変だね?」 「どれ? 見せて?」 隣で困っている未来に向かって、ラサが顔を出し、穴に手を突っ込んだ。 「あ、これ! 湿り気が強い砂だね。でもその一方で乾いた砂も!!」 「う〜ん、どうしよう、ラサ?」 「そうだねえ……。任せて!!」 ラサはアイテム袋から「青の元素水晶」を取り出して、未来の穴場にかけてあげた。 すると、乾いて崩れやすかった砂がみるみると湿っていった……。 「ラサ、ありがとう! これで作業がしやすくなったね!」 「いえいえ、これぐらい……」 一方、ビリーと鈴は……。 「これ、ランマル! 穴に入らんといて!!」 「コケ、コケ!!」 ビリーは、穴にすっぽりと入ってしまったペットに困っていた。 黙々と穴掘りをしていた鈴が、隣の異変に気が付き、話しかけて来る。 『どうした、ビリー? その鶏を外に出せばいいのだな? 任せてくれ!!』 そして、マニピュレイターをギュイイインと回転させながら、鈴はビリーの穴場に手を差し伸べる。 「コケコケ!!」 「わわ、待ってほしいやん! なんか、その手でランマルに触れると、スプラッターホラーみたいな展開になりそうで怖いで!!」 その後、なんとかしてランマルは自力で穴場から脱出したそうだ……。 B−9 苗を植えよう 「さて、穴も掘れたみたいね? じゃあ、いよいよ、苗を植えるよ! みんな、用意はいいかな〜!?」 全員の穴掘り完了の確認が取れたシシリアは、苗植え開始の合図を出した。 『ふふふ……。やっとこの時が来たか!! 異世界ではみかんで会社を興した俺だ……。今植えたみかんが実を結んだら、それを元手にまた商売を興してみるのも、おもしろいかも知れんな……』 実は鈴、この瞬間を待ち望んでいたようだ。 先ほど、ボブと少しもめたが、みかん改を植林で植えたいとウキウキしていたのである。 鈴は、保水剤の中に入っているポプラ改1個とみかん改9個を、マニピュレイターで丁寧に取り上げ、穴場へ着々と移し替えるのであった。 一方、野望を企てていた男の横で、ビリーは、淡々と10個の苗を穴に埋めていた。 そして、埋めながら、1苗ごとに、優しく声をかけ、ぽんぽんと軽く叩いてあげたのだ。 「元気に育つんやで〜!!」 植物に優しい声をかけてあげると、声をかけられたその植物はすくすくと育つ、という都市伝説がある。この座敷童子には、某植物系お姉さんみたいに、植物の成長をどうこうするスキルはない。しかし、それでも心優しい彼は、ポプラ改たちの幸福な未来を望まずにはいられなかったのだ……。 ところで、ラサと未来も同時期に、苗植えに取り組んでいた。 ラサは、猫の手で、バケツの中から苗を1個ずつ持ち上げ、合計3個の苗を、丁寧にちょっとずつ埋めて行くのであった。 未来も、合計5個の苗をゆっくりと優しく、丁寧な作業で埋めて行った。 そして、何かもう1過程、作業が足りない……。 と、思案している2人の横で、ビリーが植物に声をかけていて……。 これだ! と、閃いた2人はさっそく同じことをするのであった。 「がんばれ、がんばれ、ボクの苗!! 大きくな〜れ!!」 ラサが苗の前で、猫ダンスをしながら応援する。 「すくすくと健やかに育ってね! がんばって、わたしのポプラ改!!」 未来も苗をそっとなでて、優しい声で応援するのであった。 B−10 埋め戻そう 「では皆さん、苗を穴に入れ終えたようですね? さて、ここで苗を埋め戻しましょう。苗の位置を固定し、湿った砂からかけていき、穴を70%まで埋め戻しましょう!」 ボブは調査隊員たちや所員たちの作業過程を確認すると、埋戻しの指示を改めて出すのであった。 「んんと〜。70%って、これぐらいかな? でもボクの体重で踏めるかな?」 ラサは仲間たちの方も確認しながら、だいたいみんなが埋めている位置まで、砂を埋め戻すのであった。 そして、埋めた穴の上をぴょんぴょん、と跳ねるのだが……。 何分、ぬいぐるみの身なので、軽さでなかなか踏み固められない……。 そこで、隣の未来が、気がついてくれて、ラサの埋めた穴の上でも飛び跳ねて助けてくれた。(蛇足だが、スカートのガードはもちろん完璧☆) 「ふう、未来、またまたありがとう! ボク、軽いから、こういうのダメなんだよね!」 何気ないラサの一言だったが、未来の背後で、ゴゴゴと効果音が響き、炎が燃える。 「ラ・サ! わたしだって軽いもん! 体重には気を付けているし! でもね、ぬいぐるみの軽さに比べられたら、さすがにわたしでも……」 「わわっ、未来! ごめん! 悪気はないよ! うっかりだよ! 軽いって、そういう意味じゃないんだ、信じてー!!」 軽く戦闘シーンな2人をよそに……。 ビリーと鈴も穴埋めをしていた。 鈴は、マニピュレイターを駆使し、ちょうど70%地点きっちりで砂を埋め戻せていた。 こういう機械系の計算作業は得意なのだ。 「ほお……。さすが鈴さんやで! よかったら、ボクの方も見てくれるやろか?」 適度に穴埋めをしていたビリーだが、さすがにプロの目には敵わないと、アドヴァイスを求めた。 『むむ……。俺が分析したところによれば……あと1.6gほどの砂が70%まで足りないようだ……。また、角度は180度水平にすることが望ましいが、その角度だと172.5度なので、もう少し足りないな……』 (ほえ〜!! プロは違うんやな〜!!) 感心するビリーであった。 B−11 バケツリレーをしよう 「みんな、埋められたみたいだね〜! では、今から、バケツリレーをして、穴に水を注いでいこうね! オアシスから水を汲み上げて、バケツに入れていくわよ! バケツリレーの際には、列の移動の指示係や空のバケツを集める係とか決めておこうね〜!」 これにて、シシリアがバケツリレーの開催を宣言するのであった。 「ほな、オアシスから水の入ったバケツをボクが運びまっせ! この小型飛空艇があれば、楽勝やで!!」 ビリーが愛車を召喚し、バケツを積み出す。 『俺はビリーからバケツを受け取って、所員たちに水入りバケツを渡す役に回ろうか!』 鈴は、ロープの端に待機して、ビリーのバケツを待った。 そして受け取ったバケツを、次々と所員たちに渡していく係なのだ。 「じゃあ、わたしは、列の移動の指示係をやるね! みんなが列を乱さないように、ちゃんと交通整理をするね!」 未来は、列の中央に待機し、並ぶ所員たちを整理させる係になった。 「ボクは……重い物は運べないので……空になったバケツを鈴のところまで運ぶ係がいいな!」 こうして、ラサは、空バケツの運搬係になるのであった。 *** 「ピピー!! 開始!!」 ボブが笛を吹いて、いよいよバケツリレーが始まった! オアシス付近で待機していたシシリアと数人の所員たちが、オアシスから水を汲み、それをバケツに移す。 「はい、ビリー君!!」 バケツを受け取ったビリーは、次々とバケツを飛空艇に積んで行った。 「とりあえず、5個でええやろ! ほな、発車!!」 *** 飛空艇でぷかぷかと移動したビリーの先には、鈴がメカで待ち構えていた。 「鈴さん、バケツ、お願いしまっせ!」 『おう、任せてくれ! 5個か!? な〜に、これぐらい!!』 鈴のロボが、マニピュレイターでバケツを持ち上げ、彼の背後に待機している所員たちに次々と手渡した。 「武神さん、ありがとう!!」 所員たちは礼を言って、バケツを担ぎ、列に並んで待機している所員たちにバケツを渡して、リレーしていくのであった。 *** 「ピー!! そこ、列を乱さないで! あ、そこはバケツの水をこぼさないで丁寧に!!」 列に並んでバケツをリレーしている所員たちに向かって、未来が笛を吹いて、指示を出していた。 列には、5人の所員が並び、バケツを交互に渡し合って、運搬しているものの、これがなかなか難しい。 勢い余って列を乱してしまう者、水の入った重いバケツを早く渡そうとしてこぼしてしまう者……と、いった具合にたまにミスが出てしまう。 そういったミスをリカバーし、未然に防ぐために、未来は列を見張り、適時、指示を出していたのであった。 *** 「よし、これで終わりだ!!」 リレーの1回目が終わった。 バケツリレーで先頭にいる所員がバケツの水を苗の中に注ぎ、無事、終了。 「は〜い! バケツの回収はこちらだね〜!」 ラサが先頭にいる所員に話しかけ、その男は空のバケツを猫さんに渡した。 「おう、ありがとう、ラサちゃん! よろしく頼むな!」 渡されたバケツを抱えて、ぬいぐるみは走った。 さすがに軽い空バケツなので、運べないことや速度が落ちることはない。 また水が入っていないので、零す心配もない。 すたたた、とラサが走った先には、鈴が待ち構えていた。 「はい、鈴! バケツ、ここに置いておくね!」 「ああ、ありがとう! このバケツはビリーが来たら渡しておこう。まあ、あともう何回の往復になるかわからないけれど、お互いにがんばろうぜ!」 こうして、オアシス付近の担当班は、バケツリレーを何周も何周も必死でがんばった。 隊員らは、暑い中、文字通り、汗水を垂らしながら、植林作業を一歩ずつ完成させて行くのであった。 B−12 土を整えよう 「は〜い!! バケツリレーもこれにて終了! では、いよいよクライマックスに入るわね〜! 最後は、残り30%の穴を埋めようね。ちゃんと足で踏んで固めておこう! 踏み方が十分だと風で倒れたりするから、凸凹がないように確実にお願いね〜!」 猛暑の中、地獄のようなバケツリレーが終わり、ついに植林作業も最終段階へ突入するのであった。 ややばて気味の一同であるが、それでもこれで最後なので、元気を振り絞って、最後のひとがんばりだ。 さて、ラサは、砂の残りの部分もしっかりと埋めて行き、100%の埋め具合を確認すると、穴の上でぴょんぴょんと飛び跳ねた。 もっとも、さっきと同じで、この軽さではさすがに固められない……。 (どうしよう? さっきは未来をちょっと怒らせちゃったしなあ……。他の人に協力を頼んでみようか?) ラサは、まずビリーを見た……。 「ランマル、一緒にやろうで! 砂の上を跳ねて歌えばええんや!」 「コケコケ!!」 妖精と鶏は、埋めた苗の上で、歌を歌いながら、跳ねていた。 おそらく、植物に声をかけるアレの続編なのだろう……。 ラサは、邪魔をしては悪いかと思い、今度は鈴の様子を探る……。 すると、鈴は、巨大な人型メカごと、苗の上に乗っていた。 飛び跳ねはしないものの、足踏みをして土を固めているが……。 『おっ!? しまった!!』 グシャリ、とちょっと嫌な音がして、ロボの足が穴にすっぽりと入ってしまった。 中の苗は無事なのだろうか……。 ご心中を察する、といったところだろう……。 「ふう……。どうしよう……」 といった具合に、気が病んでいたラサの横で、未来が話しかけてくれた。 「あ、いや、そのさ……」 おどおどしているラサの目先に苗を植えた穴があったので、エスパー少女は超能力を使うまでもなく察したのであった。 「うん、いいよ、手伝うよ! 一緒に苗の上で飛び跳ねて固めよう!」 未来はさっきのことなど全く気にしていない。 むしろ、困っているラサを助けるつもりだった。 「未来……ありがとう!!」 「あ、でも、ちょっと待って……!!」 「どうしたの、未来!?」 「土を踏み固めるとき、スカートの中が見えない角度でやるから、ええと、こうかな……」 「そうだね……。そこはお約束だね!!」 こうして、一同は、無事に植林作業を終えることができたのであった。 B−13 完成 「これにて、本日の植林作業はすべて終了となります。おつかれさまでした! 最後に全員で記念写真を撮ろうと思います。ですが、そのまえに、調査隊員の4人の方たち……前に出て来てもらえますか?」 全てが終わった後、ボブが最後のアナウンスをしているのだが……。 4人を呼び出して、彼はどうしようと言うのだろうか? 言われるがままに、ラサ、未来、ビリー、鈴の4人はボブの前まで歩いて行く。 そして、ボブの隣にいたシシリアから、「ある物」を受け取った。 「それは今日の植林記念バッジよ! 私たちからの感謝の気持ちだから受け取ってね! ちなみにその黄金のバッジ、自慢できるだけでなく、太陽光線まで出せる優れものよ! フレイマーズやサウザンランドみたいな太陽が強い国家で戦闘するときは有効に使ってね!」 4人は、これはいいものを受け取ったぞ、と笑顔を浮かべながら、お礼をした。 所員たちもお礼の拍手をしてくれたのだ。 「では、最後に……。この魔術カメラが仕掛けられた鳩のロボで撮影をします! 各自、お好きなように映っちゃっていい記念を作ってみてください!!」 ボブからの最後の指示で、4人はそれぞれの思い思いの写り方をするのであった。 「では、チーズですよ……はい!!」(ボブ) 「チーズ!!」(全員) ビリーは、小槌で出したマギ・ジスオレンジジュースの瓶を所員たちと乾杯しながらの撮影だ。なお所員たちにも冷たいマギ・ジスビールの瓶を出してあげたので、彼らもビールでビリーと乾杯をしていた。 ラサは、シシリアに抱えられ、植林が終わった喜びによる満面の笑みで、シャッターに収められた。 鈴は、メカのままで、横になったボブを担いで持ち上げながら、勇ましいポーズでチーズ。 未来は、砂場の小石によろめいて、最後の最後で、うっかりパンチラをした姿が写真に収められてしまうのであった。 ●グループC 人面岩付近での植林 C−1 下準備 念入りに砂質改善 直射日光が手厳しく照らす真っ赤な沙漠の中……。 そんな太陽光を気持ちよく浴びて喜ぶかのように、巨大な人面岩がニコニコしていた……。 本日、人面岩周辺でも植林作業が行われるのだが、何分、マジック・スポットなので、魔力の加算が2倍となる辺鄙(へんぴ)な地である。時々、砂が吐く火炎は、まるで人面岩が口から炎を噴いているかのようだ……。 「よーし! 俺含めて、20人全員がラクダから降りたようだな? 改めてよろしく、人面岩付近を指揮するランディだ。ああ、あとこの後ろにいるのがジョン、副指揮官となる。ま、暑くて大変だが調査隊の人たちもお互いにがんばろうぜ!」 「うっす! ジョンっす! よろしくっす!」 元気よくあいさつをしたのは20代半ばの、いかにも魔法使い風の外見をしている所員のランディだ。さらに続いてあいさつしたジョンも同い年であり、あまり体力には自信がなさそうなひょろひょろとした体形である。 「こちらこそ改めてよろしく。現代魔術研究所の調査部隊隊長のシルフィーよ! ところで、この地域、さっきからさっそく炎を噴いているみたいだけれど……。まず、やるべきことは、この広範囲に『魔法の火消砂』をまいて、炎を鎮静化させることかしら?」 こちらの引率者である隊長が一歩前に出て、部隊を代表して質問をした。沙漠の作業でいつものナチュラルロリイタ服は暑いので、今日は真夏のクールビズ・ホワイトロリイタ服に着替えている。 「そうだな。隊長さんの言う通り、ここの地域は、まずは砂質改善から始めよう。では、さっそくだが、魔導ラクダに積んである『魔法の火消砂』の麻袋を全員に配布するので、受け取ったら各自、持ち場についてまいてほしい。なおこの地域は、人面岩周辺をすべて植林するので、かなり広範囲に砂をまかないといけない。だが、この人数がいるし、幸い、魔法使い系が多いメンバーで構成されているから、作業時間が他の地域に比べてそんなに遅れは取らないだろう!」 ランディは、にこやかに説明し、その間、ジョンが魔導ラクダたちを連れて来た。 2人は、調査隊員たちや所員たちに魔法の砂を手早く分けるのであった。 *** 『魔法の火消砂』の麻袋を受け取り、遺跡警備隊員でもあるリシェル・アーキス(PC0093)は悩んでいた。ちなみに、いつもは黒い衣装だが、今日は沙漠の中で作業をするので白い衣装だ。 あることを思いついた彼は、シルフィーの元へ歩み寄る。 「なあ、シルフィー! 良いアイデアがあるんだが……」 「ん? 何?」 麻袋の中身をまく位置を探していた妖精は、振り返った。 「ジニアスたちから聞いたんだが、隊長は風の精霊を召喚できるそうじゃね? だったら、あらかじめ魔力を込めたこの砂を用意して、精霊に風でまかせて、この広範囲の人面岩付近一帯をカバーできないかと……」 (ところでこの彼、前回の戦闘は不参加だったが、ジニアスとラサから連絡をもらい急きょ参加になったのである) 腕を組んで、うーむ、と悩むシルフィー。 「うん、いいかもしれない。じゃあ、やってみようか? ところで、あたしは精霊を召喚しているから、その間、『魔法の火消砂』に魔力を流し込んでおいてくれる? それとあなた、見た感じだと筋肉質で戦士系っぽいけれど、魔術に自信はある?」 「ああ……。俺はこう見えて、『シールド魔法』の使い手なんだ。最近の実績だと、ワスプに頼まれて、ウマウマドラゴンを相手にシールド魔法で戦って、卵を取って来たことがあるぜ。ま、もちろん1人ではなく、仲間たちと一緒のクエストだったが」 シルフィーは、にこにこしながら、リシェルを見つめていた。 「そう……。ウマドラ相手に魔術で戦えるってぐらいなら、期待できるね。じゃあ、この麻袋もお願い!」 隊長から麻袋を、ほいほい、と何袋も渡され、ちょっと困った表情のリシェル……。 かなりの魔力消費になりそうだ。もしかしたら、普通にやった方が「自分は」楽だったかもしれない……とは、今さら言えず……。 (はあ……。そうなるか……。って、やりゃあ、いいんだろう、やりゃあ!!) シールド魔法の使い手は、麻袋ごと、右手から魔力を注入する。 一瞬、盾のようなエンブレムがぴかりと青く光って……「魔法の火消砂」の魔力は強化されるのであった……。 *** 「行っけええええええええ、我が精霊、シルフよおおおおおおおおおお、この広大な人面岩一体に、魔法の砂をまくのだあああああああああああああ!!!」 シルフィーは、羽でぱたぱたと空中を飛び、上空から、麻袋を持たせた風の精霊シルフを使役した。 小さな羽を持つ虫みたいな小人の精霊たちは、10体も召喚された。 そして広大なエリアの方々に手分けして別れ、風を吹かせ、魔法の砂を四方八方に散らせて行く……。 おかげさまで、人面岩付近一帯の赤い砂は、瞬く間に、茶色の砂へと変色し、砂質改善が完了するかのように見えたところだが……。 だが、とあるお掃除好きの方は、このご様子にやや不満らしい……。 「風の精霊に『魔法の火消砂』を辺り一面にまかせるのは、悪くないアイデアだとは思いますわ……。しかし、所詮は人外! 人の手の温かさがこもったお掃除には敵いませんの!!」 そう呟いたのは、フランス令嬢でありお掃除の達人でもあるアンナ・ラクシミリア(PC0046)である。いつもはお嬢様ファッションであるが、今日は沙漠の暑い中、植林作業をするということなので、学院の夏用体操着を着て来たのだ。(薄手の白いシャツ(聖アスラ学院のロゴ入り)にブルマ、日焼けクリームを塗るという、風通しの良い姿である) 「ほら、このへん、まだまだ赤い砂が残っていますのよ! さあて、キレイにするべきですわ!」 アンナは、「魔法の火消砂」を赤さが点々と残る沙漠の一面に、ぱっと、ふりかけた。 すると、赤い点々の砂は、徐々に茶色へと変色して行ったのだ。 ところが……。 「きゃっ!!」 アンナがふりかけている傍から、赤い砂の残りが噴火し、火炎が上昇した。 「それっ、お助けしますわ!!」 アンナの後ろから飛び込んで来た女性は、ぱっと、一振りの砂を放った。 赤い砂の残党による炎を即座に鎮静化させたのだ。 その女性は、人魚姫・マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)である。風通しの良い貫頭衣に、麦わら帽子を被っている。ちなみに彼女、昨日から焼けてしまい、ちょっと日焼け気味だ。 「お怪我はありませんの、アンナさん?」 「はい……。なんとか……」 さて、マニフィカ、今の状況を少し冷静に考えてみた。 アンナはもともと魔法使いタイプではない。なので、マジック・スポットで魔力が強化している赤い砂の威力を削ぐことができなかったのでは……、と結論に至った。 「アンナさん、よろしかったら、わたしくの『魔法の火消砂』の麻袋をお使いになって! わたくし、基本的に人魚ですから、属性は水ですわ! ですので、水属性の魔力が流し込まれているこの火消砂をまけば、おもしろいぐらいにみるみると炎の砂が沈静化されますわ!」 そう説明しながら、人魚姫は令嬢に麻袋を渡した。 「それは、トレビアンですわね! メルシー、マニフィカさん! 頂いておきますわ!」 こうして、マニフィカは、自分の麻袋をアンナに譲り、自身はまた別の麻袋をランディから貰って来たのであった。 「いやあ、それにしても、あなたのような方が参加してくれて本当に助かるぜ! やはりこの辺一帯は、基本的に火属性の砂だから、真逆の水属性の魔力がこもった火消砂があると、よく静まるんだよな! さあ、じゃんじゃん麻袋を持って行ってくれ!」 「いえいえ、とんでもございません! 少しでお役に立てれば幸いですわ!」 マニフィカは、麻袋を複数、ランディから手渡されたのであった。 手渡された麻袋には、水属性の水色の煌めきと共に魔力が流し込まれて行く……。 そして、風の精霊の吹いた火消砂が届かなかった死角へ向かって、まるで穢れを塩で清めるかのように水属性の砂をまいて歩くのであった。 (ふう……さすがに、今日は暑いですわね……。ですが、わたしく、とても充実していますの! わたしくの水属性がこんなにお役立ちできるなんて! ノブレス・オブリージュというものかしらね……) C−2 苗木を運ぼう 「とりあえず……。人面岩付近一帯の砂から赤色がなくなったので……。これより、苗や道具を運ぶ作業に移りたい! では、俺とジョンが苗やスコップとかを配るんで、俺たちのところまで取りに来てくれよ!」 ランディは魔導ラクダから荷物を降ろそうとするが、彼の体力では一苦労だ。 ジョンも手伝って、スコップを降ろすが、スコップの山に潰されてしまった。 所員たちが手助けに来たが、どうも非力なメンバーばかりなので、どうにもこうにもいかない。 アンナ、マニフィカ、シルフィーが困って見ていたところ……。 (ちっ、これだから魔術だけしかできない頭でっかちの所員どもは! しゃあねえ、俺が助けるか……) リシェルは、「リリのクッキー」をパクリとくわえて、腕力を増強。 いつもよりちょっとマッチョになった遺跡警備隊員は、あっさりと、スコップの山をどかすのであった。 「ふう……。助かったっす! リシェルさん、ありがとうっす!! ありがとうっす!!」 スコップの山から解放されたジョンは、ぺこぺことリシェルに礼を言った。 「ま、これぐらいはたいしたことねえぜ。見たところ、力のない連中ばかりだから、スコップの運搬は俺がやってやるよ!」 こうして、リシェルはスコップ運搬係になった。 「ふう、すまなかった! ところで、リシェルさん。苗は何個いるかな?」 ランディが苗を持って、にこやかに間に入って来た。 「1個!」 即答するリシェル。 「え? 1個って……。せっかくの記念なんだし、もう少し埋めようよ?」 「ほら、俺は監督の補助もやってやるから、1個にしておくぜ! 決して、手抜きじゃねえ……。う……わかったよ、しゃあねえ、2個だ!」 ランディはしぶしぶ承諾して、苗を2個、リシェルに渡した。 そして、先ほどのスコップの山からジョンを助けた実績もあったので、監督補助も認めることにした。 「ところで、君たちは? 苗は何個いるかな?」 ランディの問いかけに対してアンナは、ちょっとだけ首をかしげて悩む。 だが、彼女はにこやかに答え返す。 「5個にしておきますわ! なるべく丁寧にやりたいですわ! いい加減な作業になってしまっては研究所の皆様に申し訳ありませんし!」 「うん、わかった、よろしく! はい、5個、頼む! で、ええと、マニフィカさんは?」 マニフィカの方は、迷いもせず、きっぱりと即答。 「10個ですわ! わたくし、可能な限り、沙漠を緑にするお手伝いしますわよ!!」 「それは助かる! では頼もうか!」 こうして、アンナとマニフィカもそれぞれの苗を受け取り、自分が使用する分のスコップとバケツも合わせて運ぶのであった。 C−3 保水剤(吸水ポリマー)を使おう 「ええと……。先ほどはスコップの件で見苦しいところをお見せして申し訳なかったっす! では、次に移るっす! 次は、保水剤を使うっす! 各自、バケツの中で保水剤パックと水分パックを混ぜるっすよ! 沙漠でポプラ改が育つために水分補助は不可欠っす!」 復活したジョンが指示を出し、各自は、それぞれのバケツの中で保水剤作りをするのであった。 ところで、調査隊員たちは、人面岩付近の一角で、次のような順番で並んでいた。 リシェル、アンナ、マニフィカ、といった順で。 (シルフィーは、監督のランディの手伝いに行っていた) 「よし……。そおっとな……。そおっとだぞ……!!」 リシェルは、保水剤パックと水分パックをバケツの中で混ぜた後、苗を傷つけないように、静かに、丁寧に、バケツの中へ浸すのであった。 (へへ、意外にも? 俺は、丁寧に作業をするのが好きなんでね……) 「あら? リシェルさん、ものすごく丁寧ですわね! わたくしも負けていられませんわ! ここはお掃除好きとして、苗をピカピカにしますわ!」 ちょっと趣旨が違うのかもしれないが、アンナの苗は保水剤でピカピカになってしまった!? そんな隣の2人の丁寧ぶりにも感心しながら、マニフィカは保水剤をじっくりと観察していた。 「まあ……。苗に水分がみるみると浸透して行きますわね! きっとこれで、少量の水しかない沙漠であっても、保水作用によって水分が保たれ、簡単には枯れないのですわね! 感心、感心!!」 C−4 モンスター除けのトラップを作ろう 「さて、保水剤はこれぐらいいいようだな? では、砂質改善は最初に念入りにやったので、そのプロセスは飛ばして……次は、魔導かかしを配布するぞ! 各自、自分の苗の前にかかしを立てて、魔物除けしてくれよ!」 ランディが魔導ラクダから人型サイズとかかしを取り出そうとして……。 またまたジョンが下敷きになる前に……。 「おい、待て! 手伝うから!」 リシェルが助けに出て、ぱっぱと、魔導かかしを降ろすのであった。 ちなみにこの遺跡警備隊員、出て来たと同時に、かかしを複数、持ちだした。 「ちょっと、リシェルさん! そんなにかかしを持ちだしてどうするんだ?」 焦ったランディが呼び止めたが、リシェルは悪びれた表情はしなかった。 彼なりに考えたことがあるからだ。 「ああ……。植林場所の人面岩の地形がちょっと気になってな。ただ単に苗の前だけにかかしを立てるよりも……巨大人面岩を中心として、五芒星の位置に設置した方が魔物除けには効果的だと思ってよ。ま、長年、魔物とやりあってきた俺の経験と直感だが……」 「うん……。確かにそうかもしれない……。よし、許可しよう! かかし5体を自由に使ってくれ!」 ランディの許可が下りて、リシェルはかかし5体を抱えるのであった。 しかし、1人で五芒星の位置に設置するのは面倒なので、手助けになる人材をきょろきょろと探した。 「おい、隊長! こっち手伝ってくれるか? 空、飛べるんだよな? ここから遠方の位置に設置してくれ! それと、アンナ! 近辺の位置でかまわねえから、俺の指示通りにこのかかしを設置しておいてくれるか?」 呼び止められたシルフィーとアンナは、目の前で話を聞いていたので、断る理由もなく、リシェルを手伝うことにした。 「うん、いいよ! じゃあ、あたしは遠方に2体、設置するね!」 シルフィーがかかし2体を担いで(小さな体なので後ろから見ると押しつぶされているように見えるが……)リシェルの指示に従い、ぱたぱたと飛んで行った。 「わかりましたわ! では、近辺に1体、手伝いますわ!」 アンナはリシェルに返事をした直後、付近で、かかしを担いで歩いていたマニフィカを呼び止めた。 「ところで、マニフィカさん! ……というわけで、わたくしやリシェルさんの分のかかしも、苗の前にて一緒に設置しておいて頂けますか?」 「かしこまりましたわ! お任せあれ!!」 マニフィカは承諾し、かかし3体を担いで、苗の元へと向かうのであった。 後ろから見ると、十字架を背負う殉教者みたいな姿で歩いて行った……。 *** 「ふう……3体とも、設置終わりですわ!」 人魚姫は、暑さでややへばりながらも、なんとかして、3体分の設置を完了できたのだ。 だが、一点、何かが足りない……と、彼女は感じていた。 「そうですわ! これですわよ、これ!!」 マニフィカは、トライデントに見立てた三又の枝を、自分のかかしに持たせた。 そして、満足げに、うふふ、と笑い出す。 「なかなか似合っていますわね! あなたを流派ネプチュニアの門人に加えましょう……なんて、ですわね!」 流派ネプチュニアの師範である彼女は、こうした場にもちょっとしたアクセントが必要だと思うのであった。 C−5 休憩しよう こうして、かかしを無事に設置し終え、一同は休憩を挟むことにした。 ランディは魔導ラクダに積んでいた「テントカプセル」といった魔道具を取り出して、近辺に、ぽいっと投げたことで、大きなテントを即座に召喚した。 「では、ここのテントの中で日を除けながら、各自、休憩ってことで! 休憩後は、本格的に埋めて行く作業に入るから、それまでは休むなり、食べるなり、水分を取るなり、自由行動!」 ランディのアナウンスが終わるや否か、合計20人もの人間が余裕で入れる程度の大きさのテントの中で、それぞれが散って行った。スポーツドリンクを飲む者、水分タブレットを舐める者、横になって昼寝をする者、お菓子やお弁当を食べる者……といった具合に。 「ふわあ……。『魔法の火消砂』に魔力を注ぎ込んだことや、かかしを設置したことは骨が折れる作業だったぜ! 暑いし、疲れたから、眠いな……。よし、昼寝でもしよう!」 リシェルは、テントのマットが張られた床に寝転がり、手持ちのアイテム袋を枕にして、うとうとと眠ろうとするのだった。 そこにシルフィーがやってくる。 「ほら、リシェル! 水分タブレット、舐めておきなよ! 熱中症はつらいよ!」 妖精の隊長が、タブレットを1錠、リシェルに手渡してくれた。 「ああ、ありがとう……。これ食べたら、寝る……」 遺跡警備隊員は、パクリ、と食べた直後、ぐーすか寝込むのであった。 「もう、リシェルは……」 と、ため息をついている隊長の横で、マニフィカが弱く笑っていた。 「ふふ……。前半は確かに疲れましたわね! わたくし、この通り、人魚ですので、暑いところや直射日光はどうも苦手で……」 やや熱っぽく、顔が赤い人魚姫に、妖精はタブレットを渡した。 「ふう……。水分タブレットですわね……ありがたく……頂きますわ……」 ちょっとこれはまずいかもしれない、と思い至ったシルフィーは……。 魔法陣を宙に書いて、ウンディーネを呼び出した。 そして、マニフィカの頭上から、ざっぱあああん、と行水! 「おや!? 冷水が一気に来ましたわね! ありがとうシルフィーさん……。でも、お返しですわ!」 マニフィカは水術を呼び出し、鉄砲みたいに手を構えて、シルフィーの顔面に水を浴びせた。 「きゃっ!! 冷たい!!」 などと2人が遊んでいるところに、アンナがやって来た。 彼女は、ランディからもらった水分タブレットを舐めながら、所員たちが散らかしたスポーツドリンクや弁当の空を掃除していたところだ。 「もう! シルフィー隊長にマニフィカさん!! ここもまとめてお掃除させて頂きますわ!」 こうして、アンナの華麗なるモップがけが始まったのだ。 その場にいたシルフィーとマニフィカもモップでクリーンアップされてしまうのであった……。 C−6 植林を開始しよう 「では、休憩はここまでっす! いよいよ本格的に埋めて行くっすよ! 人面岩付近にあらかじめロープが引いてあるっすから、それに沿って並ぶっす! 苗を植える際には、草方格づくりの位置に気を配り、穴を掘る位置を見定めるっす!」 テントをカプセル内に収容しているランディに代わり、ジョンが指揮を執り出した。その後、調査隊員たちや所員たちは、指示に従って、ロープに列を作るのであった。 「さてと……いよいよだな、埋めるのは! きっちりやらねえとな……」 リシェルは、自分の持ち場につき、草の枠の中心に苗が来る位置を想定しながら、間隔をシミュレーションして、丁寧に位置を決めて行くのだった。たった2個の苗、と言えども、やるからにはしっかりやりたいからだ。 しかし、そんな几帳面に作業をする警備隊員の横で……。 「なあ、草の枠に入ればいいんだよな? だったら適当に苗を埋めておけばいいか?」 「ああ、いいんじゃね? 草の枠って目安だろう? アバウトにやろうぜ!」 と、隣付近で若手の所員たちがいい加減な話をしていて……。 「おい、おまえら! 苗と苗の間が狭すぎるとお互いの成長を阻害するからな! その程度のことはちゃんと注意を払って植えろよ!」 といった具合に、「監督補助」の役割を全うするかのごとく、リシェルは若手たちに注意を促した。 「やべ! 聞かれていたか!?」 「すんません、リシェルさん! ちゃんとやりますので、ランディさんたちに報告はなしで!!」 こうして、いい加減にやっていた所員たちは、態度を改めたのであった。 リシェルが若手を説教していた一方で……。 リシェルのもうひとつ反対側の隣にいたアンナ、そしてその隣のマニフィカは、丁寧に植林する苗の位置を見定めていたのであった。 それにしても、アンナは5個、マニフィカは10個、と数がちょっと大変だ。 その分、時間をかけて、全ての苗がきちんと埋まるように、と想定に注意を払っていた。 C−7 穴を掘ろう 「では、位置の確認ができたら、ついに穴を掘るっすよ! マニュアル通り、直径40cm、深さ100cmで頼むっす! 砂崩れに注意するっすよ!」 ジョンが引き続き、指揮を執っていた。 隊員たちや所員たちも引き続き、その場で見定めた位置から穴を掘る作業を開始するのであった。 「さあ、ちゃんと掘って行くぞ……。ま、スコップでざくざく堀るのもこの辺までか……」 リシェルはマニュアル通りのサイズで穴掘りを遂行していたのだが……。 ざざざ、と砂崩れして、穴がやや塞がれてしまった! 「しまった! 乾いた砂と湿った砂が変な具合に混ざっちまったみてえだぜ……!?」 やや躊躇(ちゅうちょ)したが、警備隊員は、遺跡発掘のスキルを思い出し、シールド魔法を展開した。 リシェルの両手からは、淡く蒼白い光が溢れ、穴の中に微弱なシールドが張られて行く……。 「よし、これでガードをかけて……。あとは、もう一度、ちゃんと掘り進めればいいんじゃね?」 その後、シールド魔法使いの目論見通り、穴は崩れることなく完成したのであった。 一方で、アンナも黙々と穴を掘っていた。 「数値は正確に掘りたいところですわね……」 令嬢は、小さいスコップを使って、くっきりと、直径40cm、深さ100cmの時点まで見定めて、丁寧に掘り進めた。 「ふう……。あと4個分の穴! がんばりますわ!」 さすがに体力勝負のような仕事だ。戦士系みたいにパワーが溢れていないアンナにとっては、5個の苗を確実に埋めて行く、という作業で正解だったようだ。 他方で、人魚姫は、大きなスコップで穴を掘っているものの、途中でざっくりと、大きな砂の塊にぶつかることもあって、一苦労だ。 「おや? 乾いた砂が……硬いですわね! ならば……水術で!!」 そこは水術使いなので、微弱な水で硬い砂を濡らして、溶かして、作業を進めて行くのであった。 「とりあえず……。あと9個分の穴ですわね! 沙漠を緑いっぱいにするためにも、まだまだがんばりますわ!」 C−8 苗を植えよう 「よし、では、いよいよ苗を植えていくぞ! 足元に、先ほど保水剤と水分を入れて作った液体が入っているバケツはあるな? その中に苗はあるな? そいつを、今、堀った穴に丁寧に入れていってくれよ!」 指揮に戻ってきたランディが、埋める作業のアナウンスを改めて行うのであった。 全員、穴は掘り終えたようであり、ついに埋める段階まで来たのだった。 「よーし……。ついにこいつを埋めるんだな……。ポプラ改を傷つけないように……丁寧に……丁寧に……」 リシェルはここでも意外(?)な几帳面さを発揮して、2個の苗を、1個ずつ、丁寧に心を込めて、穴に中へ植えて行くのであった。 彼の横では、アンナが同じく、丁寧な作業で苗を植えているところだった。 (それにしても……。リシェルさん、精密作業が本当にお上手ですわね? わたくしも見て頂きましょうか?) 「あの、リシェルさん……。わたくしの苗、ちゃんと埋まっていますでしょうか? 少々、見て頂けません?」 隣のアンナに呼び掛けられ、リシェルは彼女の分も真上、斜め、遠方、真直からじっくりと見下ろして確認した。 「ああ、ばっちりだ!」 そんな隣のアンナを見ていたマニフィカも……。 (あの方、そういえば遺跡発掘関係のプロでしたっけ? お仕事でこういった細かい作業もよくおやりになるのかしら? ここは、わたくしも……) 「ええと、リシェルさん……できればわたくしのも……」 「おう、任せてくれ!」 などとやっていたら、さらにマニフィカの隣、あるいはアンナとは逆方向の隣の所員たちも、リシェルのところへやって来て、みんなで見てもらうことになった。 「あーあ! しゃあねえ、全部まとめて俺に任せろ!!」 C−9 埋め戻そう 「では皆さん! 苗を穴に入れたっすね! そうしたら今度は、砂を埋め戻すっすよ! 苗の位置は固定で、湿った砂から埋めて行き、70%の埋め具合まで完了するっす! 最後に踏んで固めるのも忘れずに頼むっす!」 見回りしていたジョンが指示を出しに来た。 各員は、スコップを手元に持ち、それぞれの持ち場で埋める作業へと取り組み始めたのであった。 「ふう……。埋め戻すのは……なかなか骨だ……。70%までまだまだだ……。しかし、湿った砂、足りなくね? しゃあねえ、ここは……」 リシェルは水術を発動して、手元から流水を召喚。 そして、乾いている砂の水分を満たして崩して行き、湿った砂を作るのであった。 「よし、これでいいはずだ……。うん……あとは、この湿った砂を埋め戻せば、70%は、あっという間だぜ!」 警備隊員は埋戻しを完成させた後……穴を埋めた場所の上で、ジャンプして抜かりなく踏み固めるのであった。 一方、同時期に作業をしていたマニフィカは……。 (ふう……。なぜかこのへん、湿った砂が少ないですわね? マジック・スポットの影響かしら? ん……!? リシェルさん? あれは水術ですの?) 人魚姫も真似をして、水術を発動。 手元から水脈が溢れ、みるみると湿った砂を作って行った。 「ふふ! これでばっちりなはずですわ!」 人魚姫は、湿った砂をざくざくと埋戻し、すぐに70%地点まで到達してしまった。 それを見ていたアンナは……。 (ふう……。はかどりませんこと! おや、リシェルさんもマニフィカさんも水術で……湿った砂をお作りになっていますわ! しかし、わたくし、水術なんてからっきしですわ……) ため息をついて困っていたアンナを見て、マニフィカが近寄ってきた。 「アンナさん! よかったら、わたくしの水術をお貸ししますわ!」 「え? 本当にいいのかしら! マニフィカさん、メルシーですわ!」 マニフィカは水術使いとして、アンナに水を分け与え、共に植林の喜びも分かち合うのであった。 C−10 バケツリレーをしよう 「どうやら、全員が無事に埋め終えたようだな? では終盤戦の砦(とりで)とも言えるバケツリレーをして、穴に給水しようぜ! 今から、ラクダに積んだタンクを降ろすから、特にリシェルさんとか、力が少しでもある人は手伝ってくれよ!」 ランディがバケツリレーの開始を提案し、タンクを降ろす作業でリシェルを指名した直後……。 リシェル本人が、タンク前までやってきて、首を横に振った。 「ちょっと待て! もっといい方法があるぞ!」 リシェルは一同の中からシルフィーを探し出し、彼女にこちらへ来るように手招きをした。 「なあ、シルフィー? さっきの召喚魔術だが……水の精霊も出せるよな? だったら、精霊に水まきをしてもらって、ショートカットできねえか?」 「え? ウンディーネを? うん、一応、できるけれど……。植林作業のリーダーはあたしじゃないから、指揮官のランディやジョンが何て言うかだね……」 シルフィーは、ランディとジョンに視線を向けて、そう事務的にコメントするに留めた。 警備隊員の奇策に、一同は、がやがやと騒ぎ出したが……。 ランディが、こほん、と咳をした後、口を開いた。 「本来なら……。植林作業を味わってもらうために人力でバケツリレーをするところだが……。確かに、この広い範囲でこの人数だ。しかも、体力のない所員ばかりが集まってしまったので、作業負担もそろそろきついな……。よし、許可する。」 こうして、ウンディーネの導入が決まったのであった。 「あ、ちょっとお待ちを! わたくしも似たことができますわ!」 そう名乗り上げたのは、マニフィカだ。 「わたくし、水の精霊のウネお姉さまを召喚できますの! シルフィーさんとわたくしの2人でやった方が作業は早いと思いますわ!」 結局、賛成する者はいても、特に反対する者はいかなったので、バケツリレーの代わりに精霊たちを召喚して給水することになったのだ。 *** 赤い沙漠の人面岩周辺付近……。 草方格づくりの範囲だけをピンポイントに狙って、天空から大雨が降り注いだ。 傍から見たら奇妙な光景かもしれない。 なぜなら、沙漠の天候は晴れているはずなのに、草方格づくりの上だけ、雨雲が出来て、大雨が降っているからだ。 しかも天高くには、ウネお姉さまが雨を降らせていて……。 地面付近の死角には、ウンディーネが給水している。 もっとも、精霊たちは全自動で放っておけばいいわけではない。術者たちは、濡れないように、草方格づくりより距離を取った場所から、術を駆使している。 すなわち、シルフィーとマニフィカが魔力を注ぎ込んで、精霊たちを動かしているのだ。 その彼女たちの横で……術士たちが雨に濡れないようにと……シルフィーにはアンナが傘をさして、マニフィカにはリシェルが傘をさしていた。 (おやまあ……。精霊まで召喚されてしまっては、さすがのわたくしも出番はありませんわね……。レッセ・フェール(成すがままに)ですわ……) 今回、特に出番がなかったアンナは、傘をさしながら、ふう、とため息をついていた。 C−11 土を整えよう 結局、雨水は、70%の埋戻し地点に水が行き渡るまで、降り続けたのであった。 しかし、洪水を起こすような必要性は今回、全くなかったので……2人の術者が召喚して発動させた雨は、10分ぐらいの時間であった。 「ええと……。とまあ、召喚魔術の力でバケツリレーはショートカットされたっすが……。いよいよ最後のシメとして、土を整える段階でフィニッシュを決めるっす! 穴は残り30%が空いているっすから、それを最後まで埋めるっすよ! その後、よく踏み固めて、苗が後々に倒れることがないようにしっかりやるっす!」 ジョンが最後の指示を出すと、一同は、穴を掘った草方格づくりのところまで歩いて行くのであった。 もっとも、マニフィカとシルフィーが器用に雨を降らせたおかげで、途中の道が水浸しになっていることは一切なかった。何かの奇跡かのように、草方格づくりの中のみ、必要分だけ給水が施されていたのだ。 「よっしゃあ! ここまで来たら、もう終わったも同然だぜ! さあ、ちゃっちゃかと埋めて、終わりにするぜ!」 リシェルはスコップで、残り30%を勢いよく埋め終えて行く。 その後、苗が固定されている様をじっくり確認して、しっかりと踏み固めるのであった。 「そういや、俺の苗は2個だけだったな……。作業漏れしているところがないか、周囲の分も確認して行ってやろう……」 リシェルが見回りを始めようとして、まず隣のアンナの方を眺めた。 アンナは、小さいスコップで穴を100%まで埋めて完了し、その上をぴょんぴょんと飛び跳ねて、土を固めていた。 「おう、アンナ! 手伝おうか?」 「ええ、お言葉は嬉しいのですが……。もうあと3個で完成ですので、こちらは大丈夫かと! それよりも、隣のマニフィカさんが……」 アンナに促され、リシェルがマニフィカの方を向くと……。 「ふう……ふう……。暑い中、魔力消費も高く……大変ですわね……。しかも、苗が、あと8個も……沙漠は体力的に……けっこう、きてますわね……人魚には……!! しかし……!!」 人魚姫は苦戦していた。 そろそろ限界が来ているようだが、苗はまだまだある……。 「よお、マニフィカ! 手伝うぜ! がんばろう!」 リシェルが穴のひとつに手を伸ばし、土を埋めてくれようとしていた。 「おや……!? リシェルさん……。いえ、これぐらいわたくしひとりで、と言いたいところですが……ふう……」 まあ、無理するな、と苦笑して、リシェルは無言で手伝ってあげた。 その後、作業を終えたアンナもマニフィカを手伝い、植林は無事に完了できたのであった。 C−12 完成 「はい、それでは、本日の植林作業は、これにて完了! 皆さん、おつかれでしたー! では、植林を手伝ってくれた調査部隊隊員の4名、前に出て来てくれるか?」 作業が終わり、一同が人面岩前に集められ、隊員の4人がランディの前まで出て来た。 「これを君たちに渡そう! そう、これは植林記念バッジだ! このバッジは今日、植えた苗の形で金ぴかだぞ。しかも研究所のサイン入りだ! いいだろう!? マギ・ジスタン世界のみんなが欲しがるバッジだぞ! だが、オークションで売って金にしてはいけないぜ!」 ランディからバッジが4人に手渡されると、所員たち全員が拍手をして祝ってくれた。 「おう、今日は色々とありがとうな! ところでこのバッジ……。他になんか付加機能とかねえのか? 例えば、回復アイテムになる……とか?」 リシェルが質問をすると、ランディは、ちっち、と口をならし指を振った。 「実はな、このバッジ……。こうすると、すげえんだ……」 ランディがバッジを空にかざし、手の甲の角度を変えた瞬間……。 ずきゅううううううううううううううん!!!! 派手な効果音と共に、太陽のレーザー光線が付近の岩に向かって直進! そして、爆撃音と共に岩を破壊したのだ!! 「こうなるのさ! これは、基本的に攻撃アイテム! 太陽光の力の強さによって、今みたいなレーザー光線が撃てることもあるんだ。あるいは、逆に太陽光が弱ければ、敵の目つぶしにも使えるし、もしくは体温を温めるカイロみたいにも使えるぞ!!」 ランディが自慢げに話すと、調査隊員たちは目を丸くして聞いていたのであった。 「さて、バッジの説明はこれぐらいにしとくっす! 最後は、みんなで記念写真を撮って、バッチリと最後を決めるっす!!」 ジョンは、魔術仕掛けが施された鳩ロボを宙に舞わせて、カメラの用意をしてくれた。 皆、それぞれが記念に残したいかたちで、撮影に臨むのであった。 写真の中央に写っているアンナは、モップ、ほうき、ちり取りを持って、澄ましながら笑っている。彼女は、この後、掃除をすると言い出したのだが、所員たちはそこまでしてくれなくても良いと止めたものの、やはり掃除をしたい、といった問答になってしまった。そんな話をしている最中、写真に呼び出されたため、お掃除姿なのだ。 マニフィカは、アンナの右隣、そしてランディの左隣で、嬉しそうな笑顔で撮影に臨んだ。記念写真に写る彼女は、ちょっと日焼けをしていて、麦わら帽子を自慢げに被っている。後日、この写真は彼女の思い出の1枚となり大事に部屋で飾られるのであった。 リシェルは……。 最初は辞退したものの、ジョンや他の所員にどうしても写真に写って欲しい、と説得されてしまった。そういうわけで、仕方なしに、後方の端で面倒くさそうにつっ立っていた。彼の隣では、ジョンがピースをして笑っていた。 *** こうして、赤い沙漠の一部を巡る、植林作業の一環は、緑いっぱいの未来を夢にして、幕を閉じたのであった。 3年後、この地が緑で溢れる植林地になることを、調査隊員たちはまだ知らない。 そう遠くない未来のいつか、隊員たちは再びこの地に訪れることになる。そして、自分たちが植えた苗の成果に驚きつつも、大きな喜びを分かち合うのであった。 <終わり> |