「ジャイアント・インパクト・たこ焼きを作ろう!」(調達編)

第一回

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

●開戦編

●出撃編

・空中戦グループの出撃
・海上戦グループの出撃
・海中戦グループの出撃

●戦闘編

・空中戦グループの戦況
・海上戦グループの戦況
・海中戦グループの戦況

●決戦編

・空中戦グループの決戦
・海中戦グループの決戦
・海上戦グループの決戦

●戦闘領域離脱編




●開戦編


 本日、サウザンランド・シーフード海域沖は、雲一つない快晴であった。
 初夏の気温に潮風も心地良く、絶好のタコ狩り日和だ。


 海上沖には、一隻(いっせき)の漁船が猛速度で飛沫(しぶき)を上げながらやって来た。
 船の側面にはスズメバチのロゴが描かれている。
 さらにその真上では、蜂のような色のヘリコプターがぶんぶんと飛んでいる。
 どちらも冒険者ギルド・ワスプ所有の船とヘリだ。

「よーし! ここらへんでいいんじゃねえすか? ヘリさん、いっちょ、頼みますぜー!」

 漁船を運転している船長は、当ギルド本店のスタッフであるナイト・ウィング(NPC)だ。これから行われる狩りのため、海上の位置確認を目視で行い、ヘリにいるスタッフへ携帯電話で連絡をした。

 数分もしないうちに、上空のヘリは、魚(餌)をまいて、大タコを呼び寄せる。
 タコの方も数分もしないうちに……。

 ざっぱあああああああああああああああああああああああああん!!!!!!

 全長20メートルを誇る巨大で真っ赤なタコ入道参上!
 8本のタコ足をうねうねとくねらせながら、ぷぎー、と吠えた。
 顔も燃えるような赤色で目つきも悪い。

 ボスに釣られて、手下の敵陣も同時に出現!

 今まで、真っ青で誰もいない沖であったが、大タコが現れたと同時に……。
 ブルーカモメの大群がばさばさと上空に発生し、電撃クラゲの大群がぷかぷかと海面に現れ、サーベルフィッシュの大群が海中で輪を描きながらぐるぐると登場。

「いよいよ始まりますぜい! 皆さん、頼みますよ!!」

 船長のナイトが全員に合図を送ると、彼が雇った冒険者たちはそれぞれの持ち場へと散って行った。

 本日、空中戦、海上戦、海中戦の3グループに分かれて大タコ攻略が開始されるのである。


●出撃編



・空中戦グループの出撃


「よし……。みんな、準備はいいかな? 俺たちは空中から攻めるので、さっそく飛んで行ってしまおう!」

 魔剣士青年のジニアス・ギルツ(PC0025)は「魔黄翼」を広げつつ、「サンダーソード」を抜き出した後、上空へと羽ばたいて行った。

「うん、ボクはいつでもOK! 早めにタコを仕留めに行こう!」

 彼のフードの中には、猫のぬいぐるみ姿のラサ・ハイラル(PC0060)が、「水のエル・オーブ」衣装(魔法猫姿)で魔法銃を握りながら乗っていた。

「OK! わたしもいざ、出撃!!」

 ジニアスたちが飛び立つ直後、女子高生・姫柳 未来(PC0023)も一緒にジャンプして飛行上昇。
 本日の彼女は、萌葱色の魔法少女姿(「風のエル・オーブ」)に「魔白翼」を広げて飛んでいるので、まるで白い翼を羽ばたかせる天使少女のような姿だ。

「う……。羽がある方たちは便利ですわね。ですが、わたくしには、ローラースケートがありましてよ!!」

 羽のある3人……に続いて、ローラースケート・テクニックで、デッキから上空へと、かん、かん、かん、と金属音を鳴らしながら飛び上がって行くのは、フランス令嬢のアンナ・ラクシミリア(PC0046)だ。ちなみに今日は、「エル・オーブ」姿ではなく、防水性を考慮してあえて「レッドクロス」を装着している。久しぶりの戦闘ヒロイン風姿だ。

***

 ジニアスたちの遊撃隊は、大タコを空から仕留めに行く目的で編成されている。
 やはり空から攻めるとなると、まず敵対する相手はブルーカモメ。

 みゃあみゃあ、と猫なで声で鳴きながら、大量の青いカモメの大群はさっそく迎え撃ちに来た!!

「それ、それ、先手必勝ですわ!!」

 アンナは、船の甲板から上空遥か高くへ飛び上がった直後、落下と同時にブルーカモメを粉砕!

「グエエエ!!」

「ホップ・ステップ・ジャンプですわ!!」

 そして、撃沈したカモメを台にして、さらに飛翔し、別のカモメたちの上をぴょんぴょんと跳ね上がりながら進んで行く。その姿、まさに海上のローラースケーターだ。

 だが、アンナが全てのカモメを片付けたわけではないので、カモメの残りと増援が空を飛んでいるジニアスたちを襲う!

「ともかく……。羽のないアンナには先に行ってもらうとして……。このカモメたちを一掃しよう! ラサ、頼む!!」

「うん、任っせて!!」

 魔法猫少女は、手元から無数の小さな泡ぶくを発生させる。
 泡の大群は、みるみると膨らみ、無数に分裂し、半径20メートルの視界を遮った。
「水のエル・オーブ」の技能「バブルミスト」が炸裂!!

「みゃあお!?」
「みゃああああ!?」

 慌ててパニックになるカモメたちに向かって、ジニアスが追撃!!

「それ、これで踊っていろ!!」

「サンダーソード」から雷光弾を周辺にまき散らし、「バブルミスト」の水泡と電気が接触!
 半径20メートル以内に感電攻撃が走り、ビリビリビリ、とカモメたちを次々と踊らせた。

 しかし、捕らえられたのはせいぜい10匹に満たない程度だ。
 電撃地帯の外にいたカモメたちは未来を襲っていた。

「ふっふっふ……。散れ、カモメたちよ! 我が名はハヤブサ未来!!」

「魔石のナイフ」を両手に構えた未来は、必殺の連撃「ブリンク・ファルコン」を発動。
 華麗なるナイフさばきと蹴り攻撃の3連続高速度攻撃が空中で爆発だ。
 ハヤブサと化した未来は、カモメたちを1匹ずつ確実に仕留め、海へ叩き落として行った。

 こうして、ブルーカモメの前衛を倒したジニアス、ラサ、未来は一度、合流し、真っ先にいる大タコへと向かって行った。
 タコのもとでは、一足早く、アンナが戦闘をしているようだ……。


・海上戦グループの出撃


 漁船スズメバチ5号はそれなりのスペックを誇っているが、本日はいつも以上に豪勢な船へと変貌していた。

 それもそのはず、「魔改造の名人」である魔導科学者・武神 鈴(PC0019)が徹夜で改造を施していたからである。

 鈴曰く……。

「この船の改造のどこがすごいかって? それはだなあ……。まず、船体の強度を上げるために被弾傾斜を考慮に入れた追加装甲が船全体に取り付けられている。この装備強化により、船の装甲値が上昇し……具体的には★5つの強度が★6つになった。そして、魚雷だけでは心もとないので、船体の左右に12.7mmの3連圧縮空気無反動砲を装備した。この大砲は、周囲の空気を魔力で圧縮した弾丸を発射して……発射と同時に反対方向にガスを噴出することで砲撃の反動を相殺する……といった優れものさ。とまあ、これだけ強化したので、船の移動速度が落ちてしまうのは織り込み済みであって……予備エンジンも追加搭載済み。これで速度の問題も無事に解決!」

***

 とまあ、改造版スズメバチ5号はこんな具合に強くなったわけだ。
 しかし鈴、徹夜で船を改造し、体力と魔力を猛烈に消費してしまったため、決戦本日はややぐったりとして眠そうだ。

 船長室では、ナイトが舵輪(だりん)を操縦している横で……。
 鈴は、砲撃手となり、大砲を担当していた。

「おや、空中戦部隊が飛んで行きやしたね? ま、武神さん、こっちはこっちでがんばりましょうぜい!」

 ナイトが缶コーヒーを手品のごとく手元にぱっと、出現させて、鈴に差し出してくれた。

「ふあああ……。お? すまない、ナイト。助かる。ま、俺は適当に砲撃しているんで、いざとなったときはあんたの魚雷に任せるぞ!」

 船は、大タコへ向かって、ゆっくりと進撃するのであった。

***

 デッキでは、黄色い中華拳法衣装のリシェル・アーキス(PC0093)が手をぱきぽきと鳴らして待機していた。

 本日、シールド魔法の使い手らしく、船の守りを担当することとなったのだ。
「大地のエル・オーブ」、「スキル・ブレイカー」といった戦力強化をした彼は、今日の狩りで盾の役目をすることを非常に楽しみにしていたらしい。しかも今日は、「ソレイユーレ」も事前に使用し、魔法防御力も追加強化だ。

(よおし……。空中戦が始まったが、さっそくジニアスたちはよくやってくれているみてえだ……。かかってきやがれ、海の魔物ども! 俺の盾で弾いてやる!!)

 気張って見張っていたところ、さっそく空中から流れ弾が飛んでくる!

「そりゃ、そこだ!!」

 リシェルは、両腕を前に突きだして、青白い魔法の盾を出現させる。
 流れ弾のブルーカモメは、リシェルの盾に弾かれて、あえなく海中に落下。

 一方で、海中戦から逃げてきたサーベルフィッシュも飛び出して来た!

「ふん、そこだ!!」

 同じ要領で、リシェルは、魚の魔物も盾で弾き返した。
 しかし、海に戻すとまた面倒なので、デッキの上に落下させる。

(ま、しばらくはこうして戦っていよう……)

***

「イーハー!! シーブリーズ(潮風)はワンダホーね!!」

 真っ赤な流線型の水上バイクを運転し、片手に魔法銃を握っている上機嫌のアメリカン・レディがいた。
 彼女の名は、ジュディ・バーガー(PC0032)。
 テンガロンハットをかぶり、サングラスを決めて、はちきれんばかりのダイナマイトボディを「特殊水着」の迷彩ビキニに包んでいた。そして、これからアメフトの試合でもするかのように、プロテクターの装備も欠かしていない。

「大型バイク運転技術」を持つ彼女は、水上バイクをワスプの支部からレンタルしたのだ。そして、こうして今、手慣れた力量で乗り回しているのだ。

 ちなみに彼女の水上バイクは、スズメバチ5号の護衛機というポジションである。今日のジュディは、船の護衛をしているところなのだ。

「ウインド(風)のパワーが詰まったスペシャルバレットを用意したヨ! テイク・ディス!!(これでもくらえ!!)」

 怪しいカモメのストライク攻撃を確認!!
 さっそく、風の弾丸で大空へ向かって拳銃を解き放った!!

「みゅううううううううう!!」

 クリーンヒットした風の弾丸はブルーカモメを海面へ叩き落とした。

「ヘイ、ドコカラでもかかってくるデース!! ガンファイター・ジュディがハチノスにしてやるデース!!」

***

 リシェルがデッキで善戦し、ジュディが水上で善戦していると同時期に……。

「うおおおおおおおおおおおおおお!! 突っ込んでやるのだあああああああああああああ!! 粉砕してやるのだああああああああああああああああああ!!!!」

 巨大な目玉が緑のマントをひらひらさせながら、魚雷2発と同時に突撃!!
 この突撃目玉の名前は、萬智禽・サンチェック(PC0097)という。

 なぜ、こうなった!?

 まず、ナイトに魚雷を2発撃ってもらった。
 そして、萬智禽が「風のエル・オーブ」の「ストームブースト」で速度強化をして、魚雷の速度に追いつきながらも、遠隔操作。
 彼のスキル「人形使いのジュエル」の力によって海面ぎりぎりで目視できる魚雷の動きを操作し、ホーミング魚雷と化したのである。
 そういうわけで、随伴飛行しながら、真正面の敵陣に激突中☆

 サーベルフィッシュたちや電撃クラゲたちは、突然、飛び込んで来た目玉と魚雷の強襲に驚愕(きょうがく)中☆


・海中戦グループの出撃


 空中や海上で仲間たちが出撃をしていた頃……。

 キューピー姿の座敷童子ことビリー・クェンデス(PC0096)は等身大サイズの泡(「気泡球」)に包まれながら、海中をぷかぷかと泳いでいた。

「ふん、ふん、ふん♪ お!? クラゲ発見や!!」

 ビリーが泡で海中をうろうろとしていたところ、ちょうど船を撃沈しようと企む電撃クラゲたちの一群に出くわした。中にはサーベルフィッシュも数匹混ざっている。

「さあ、かかってくるねん! コピーマン先生に鍛えてもらったボクの実力、見せたるでー!!」

 何かを企んでにやにやしているキューピーはそのまま泡で敵陣へ突っ込んで行く!
 同時に、敵を返り討ちにしてやろうと言わんばかりに、クラゲの群れが3匹、水泡にたかり出した!

 ビビビビビビ――――!!

 電撃クラゲの「電撃攻撃」がビリーにクリーンヒットで入った!

「アヘアヘウヘヘエエエエエエエエエエエ!!」

 電撃を直撃で浴びて、ビリーは悶絶絶叫中!

 やがて、攻撃が止み、ビリーはニヤリと笑った。

「ワハハ! ひっかかったねん! これであんさんらの攻撃、しかとコピらせてもらいましたー!」

 さて、反撃に出ようとした座敷童子だが……。

(はっ!? しもうた!? 体が動かん! そうかい、今の攻撃で体が麻痺してしもうたか!?)

 サーベルフィッシュの眼光がギラリと輝く。
 まさにストライク攻撃で突っ込んできた!!

 ざぱあああああああああああああああん!!!!

 ビリーがサーベルフィッシュの剣戟(けんげき)の餌食になるタイミングで……。
 空中から海中へ、「トライデント」の突きで突っ込んできた人魚が現れた!!

「あ、あんさんは!?」

「うふふ。ちょうどいいタイミングでしたわね!? おケガはありませんこと?」

 三又槍を駆使する海の女神こと――マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)が華麗に登場! しかも本日は、「水のエル・オーブ」(水柄のパレオ)姿だ。

 さて、説明しよう。
 マニフィカが今、何をしていたのか、と言うと……。

 まず、彼女は「魔竜翼」で一度、空中に上昇し……。
 空中から槍を構え、加速して海面にダイブイン。
 突きの体勢で構えた「トライデント」をフィッシュやらクラゲやらに串刺し攻撃を仕掛けたのだ。
 まるで水中の獲物を狙う水鳥の如し!!

「よっしゃあ! マニフィカさんも来たところで、反撃開始やで!!」

 泳いできたマニフィカに「クリアランス」をかけてもらい、ビリーの麻痺状態が完治!
 ここでさっそく、座敷童子は「コピーイング」の体勢に入る。

(ボクは……クラゲや! 電撃クラゲやでー! ビリビリウハハー!!)

 ビリーはクラゲのように体をくねらせて、溶けるかのように踊り出した。
 彼の身体から怪しい電気が放電され、周囲にビリビリ、と電撃が!

 ちょうどその頃、サーベルフィッシュたちも反撃に出るところだった。
 フィッシュたちは、「チャージ」で力を蓄えていたのだが……。

 ビリビリビリ!!

 ビリーの電撃に邪魔されて、「チャージ」の体勢が崩された!
 思わず、電撃でくねってしまう魚たち!!

「いただきますわ!!」

 電撃で麻痺状態になっているフィッシュたち、そしてクラゲの残党に向かって……。
 人魚モードのマニフィカが「トライデント」で諸手突きをお見舞いだ!

 グサ、グサ、グサ!!

 海の魔物たちは片っ端から串刺しになっていった!

「ふう……。ひとまず、敵襲の前衛は一通り倒せたで! さあ、マニフィカさん、タコまで進むで!」

「ええ……。頼りにしていますわ、ビリーさん」

 人魚姫に励まされ、思わず照れ笑いをする座敷童子であった。


●戦闘編


・空中戦グループの戦況


 空中戦でジニアスたちがブルーカモメの大群を相手にしていた頃……。
 アンナは華麗なスケートテクニックで、カモメたちの上をぴょんぴょんと飛び跳ねながら、一足先に大タコのもとへたどり着いていた。

「アテンシオン、ピユーヴフ(こら、タコ)! 覚悟なさい!!」

 最後のカモメの上を派手にジャンプしたアンナは、大タコの頭上に落下攻撃!
 空中からの加速ジャンプダメージ攻撃は効いたはずでは!?

「ぷしゅーー!!」

 タコ入道は顔をさらに真っ赤にしてお怒りだ!
 この分だと、今の一撃ではまだまだ倒せていないらしい……。

 頭上に乗っているフランス少女を排除しようと、大タコは「触手攻撃」を発動!
 8本のにゅるにゅるとした触手が猛スピードでアンナを襲う!

「なんの! 計算済みですわ! わたくしは……ピユーヴフ(タコ)……たこ焼き……いや、大タコ……触手、にゅるにゅるでのめのめですわー!!」

 アンナの両手は触手に変身!
「コピーイング」がキレイに決まり、タコ少女アンナへと変化した。

 ぱしん、ぱしん、ぱしん!!
 ぴしゃり、ぴしゃり、ぴしゃ!!

 両者の絶え間ないムチ攻撃が冴え渡り、引き分ける。
 どちらも譲ることなく、ひたすら互いの攻撃を相殺しているのだ。

(ううっ……。セ・アンフィニ……(きりがないですわ……)。ボスなだけあって強いですわね! ならば……)

 タコ少女の変身を解いたアンナは、今度はアイテム袋から、「魔石のナイフ」を取り出した。
 ナイフを両手に構え、いざ再攻撃!

 サバイバル少女アンナは、周辺のタコ足をつかまえて、ナイフでぐさり、と切れ目を入れる。
 何度も何度も切れ目をいれておけば……。
 きっと頑丈なタコ足であっても、すっぱり切れてしまうはず。
 そうすれば敵の攻撃はだいぶ削げるはずだが……。

「ぷぎゃああああああああああああ!!!!」

 だが逆効果だったようだ!
 ちょこまかと動き回りなかなか倒せない敵を前にして、さらにタコ足にまでダメージを受けて……大タコは動揺している。

 タコの目がきらりと光り、頭上から湯気を沸騰!
「タイダルウェーブ」、発動だ!!
 巨大な大波が発生し、タコ自ら、津波に飛び込んだ!!

「きゃあああああああああああああああああ!!!!」

 アンナは大波に呑まれて、流されてしまった……。

 ちょうどそのタイミングで、カモメの大群を倒した仲間の増援が現れる!

「な、なんだこの大波は!?」

 空を飛んでいるジニアスが海面の荒れ模様を見てびっくりしていた。

「おそらく……。敵のボスが津波でも起こしたんだね? 早いところケリを着けよう!」

 ジニアスのフードの中で、ラサがひょっこりと出て来てコメントをする。

「あれ、アンナは!?」

 同じく、飛行中の未来は、真下の情景に対して目を丸くして見ていた。
 下でタコと戦っているはずのアンナが見当たらない!!

 一方で、ブルーカモメの増援も遠方からみゅうみゅうとやって来る!

「くっ……。助けに行くべきだろうか、ラサ!?」

 ジニアスは、思わず判断を相棒に求めてしまった。
 未来も判断に迷い、無言で焦っている。

「ジニアス、未来! アンナのことより今は自分のことを! アンナはきっと大丈夫! 逃げ延びているはず! それよりも、目の前の敵の大群をどうにかしないとボクたちが……やられる!!」

 そう言いながらも、セリフを言い終えるや否や、ラサは「マギジック・レボルバー」を連射!
 押し寄せて来たブルーカモメの「水鉄砲」を風の弾丸で相殺!

「ねえ、ジニアス。ここは二手に分かれよう。ボクがザコを相手にするから、ジニアスと未来でタコを!!」

 猫姿のラサは、ジニアスのフードからひょっこりと抜けると、「飛翼靴」を履いている足で空中をとことこと歩き出した。

 そして、「マギジック・ライフル」を構え、向かって来るカモメの大群に向けて風の弾丸を吹き飛ばした。

 ジニアスと未来は、翼で空を遊泳しながら、タコへ近づいて行く。
 ともかく、冒険者たちは攻撃を同時に仕掛けてみた。
 魔剣士は雷光弾の連射を――。
 魔法少女は、風の弾丸を何発も撃つのだが――。

 大タコに攻撃が当たっているはずではあるが、なかなかびくともしない。
 その直後、反撃として「触手攻撃」が冒険者たちを襲った。
 タコ足のムチ攻撃を空中で回避するのが2人の精一杯の動きであった……。


・海上戦グループの戦況


 どっかあああああああああああああん!!!!

 魚雷が2発、爆発!!

 魚雷をホーミング化して放ったのは、萬智禽だ。
 しかし、「人形使いのジュエル」のスキルを使ったものの、ぎりぎり目視できるかできないかの範囲内だったので、手元が少し狂ってしまった。
 それでも、前衛で固まっていた電撃クラゲやサーベルフィッシュの何匹かには命中したようであった。

(さて、ここからが大変であるのだな……)

 マントでひらひらと飛んでいる巨大目玉は、上空を飛ぶブルーカモメの真似を始めた。

(私は……カモメ……青いカモメ……大海原の青空を舞う蒼きカモメ……そりゃあ、水、氷、スプラッシュ!!)

 ざぱああああああああん!!

 萬智禽は、「ブルー萬智禽」になった。
 要するに、ブルーカモメを「コピーイング」して、水と氷の属性を身につけたのだ。

(そして、お次は……。とう! これを発動なのだ!!)

 続いて、ブルー萬智禽が、ぴかぴかと光り出した。
 称号「注目のナンバーワン」が発動し、激しく輝かしい目玉が現れた!!

 現在、戦場で残る敵の数はおよそ60匹。
 60匹すべてが、「注目のナンバーワン」によって、注意が萬智禽へ集中!!

(えっ……!? なにこれ!? 熱い視線を方々から感じるのだ……)

「みゅーーーーーーーーーーー!!」(カモメたちの叫び)
「ビリビリビリ!!」(電撃クラゲたちの踊り)
「…………!!」(サーベルフィッシュたちの無言の気合)
「ぷぎゃああああああああああ!!」(大タコの怒号)

 戦場は一気に乱れた。

 ブルーカモメの大群が一斉に萬智禽のもとへ羽ばたいて行った……。
 電撃クラゲたちが、海上に浮きあがり、萬智禽の落下を待機し……。
 サーベルフィッシュたちが、ストライク攻撃を海上に連続で放ち……。

 大タコは、荒れ狂い「タイダルウェーブ」を萬智禽めがけて、連続攻撃中!!

「あわわ……。やばいのだな、これ……!!」

 冷や汗がたらり、と焦った萬智禽は、「ストームブースト」の出力を増強。
 10倍モードで加速・疾走・逃亡!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!」(萬智禽の悲鳴)

「みゅううううううううううううううううううう!!」(カモメたちのラブコール)

 おとりになり、戦場をかき乱した萬智禽であったが……。
 60匹すべての攻撃には耐えられず……。
 ブルーカモメたちの「水鉄砲」や「ストライク攻撃」を連続で受けてぼこぼこになり……。
 サーベルフィッシュたちの「ストライク攻撃」で何度も突っつかれ血まみれになって……。
 海中に落ちると、電撃クラゲたちの「電撃攻撃」で死ぬほど痺れ……。
 大タコの津波に呑まれ、流されて行ってしまった……。

***

 萬智禽の捨身とも言える覚悟の行動により……。
 戦況はがらりと一変した。

 各部隊、戦闘していた敵が一瞬にして消えた。
 いや、「消えた」というよりは、敵全員が萬智禽のもとへ行ってしまった。

 気が付いたとき、仲間たちと敵との距離は良くも悪くもぐっと縮まっていた。
 遠方にいたはずの大タコが、なんと船のすぐ近くまで来ていたのである。
 船の周囲には、手下の魔物たちがランダムで散らばっているではないか。

 敵の陣形は一気に崩れたが、全員がこれで近距離戦に持ち込まれたのだ。

 ランダムに散らばり、動き回っている敵たちは……。
 とにもかくにも、船を沈めようと、やっきになり出した。

 どがああああああああああああああん!!

 海中から、船が攻撃されていた。
 真下にはクラゲとフィッシュの大群が押し寄せているが、ビリーとマニフィカの2人だけでは攻防が追いつかなかったらしい。

「左舷、弾幕薄いぞ! なにやってんの!(お約束で言っとかないとな……)」

 戦艦(漁船)の司令部に乗っている鈴は、敵襲を受け、とある艦長のように思わず叫んでしまった。

「ははは!! やってくれやしたね!? 親父にもぶたれたことないのにー!(お約束ですぜい☆)」

 ナイトも嬉しそうに鈴に続いて叫び出す。
 だが、さすがに船長役を務めているだけあって、すぐに反撃に切り替える。

「オラオラオラーー!! ワスプをなめんなよ、海の魔物どもー!!」

 ナイトの華麗なる魚雷攻撃が炸裂開始!
 周辺に集っているクラゲやフィッシュが魚雷に爆撃され、弾け飛ぶ。

「ナイト、援護に入るぞ!!」

 鈴も砲撃の連打を開始!
 12.7mm3連圧縮空気無反動砲が熱く火を噴いた!
 軍艦と化したスズメバチ5号が、飛んで向かって来たフィッシュたちを、空中から急降下して来るカモメたちを、遠方で「指令」を出そうとしているタコを、集中砲火で猛反撃!

***

 ナイトと鈴が魚雷や砲撃で応戦している頃……。

 デッキでは、リシェルが奮闘中であった。

「ちっ、普通のシールド魔法だとらちが明かねえなあ……」

 彼は、両手でシールドを張りながら、格闘戦のごとく、敵陣の攻撃を弾いていた。
 数十匹にも渡るブルーカモメの「水鉄砲」や、現れては消えを繰り返すサーベルフィッシュの「ストライク攻撃」を弾きながら、対応していたものの……。

 さすがに1人での防衛には無理があり、船がめきめきと壊されて行く……。

「ふん、これでどうだ!!」

 リシェルは、「グランドクロス」を召喚。
 両手を前方に押し出し、上空から半円を描いて、半径3メートル前後に硬い土の壁を出現させた。

 それでも懲りずに、カモメやフィッシュは、「ストライク攻撃」で突撃して来るのだが……。

 がきいいいいいいいいいいいいん!!!!

「へ、かかったな!?」

 数匹のカモメやフィッシュが、まるで漁猟の網にかかるかのように、土の鉄壁に突き刺さったのだ!

 カモメはクチバシが、フィッシュは剣の部分が、ぐさりと、グランドクロスの防壁に突進してしまった。

「それよ!!」

 リシェルは、土の壁に刺さっている魔物たちを、デッキの片隅に放り投げた。

(ま、このままにしておけば息絶えるだろう。再び海中に戻したら手に追えねえよ……。ところで、こいつら、食えるのか? あとでワスプにでも売っておこうか……!?)

 とまあ、盾の魔術師は、敵が能もなく同じ「ストライク攻撃」を繰り返してくるので、もはやルーチン作業と化した「グランドクロス」防壁で対応し、次々とワスプへの「お土産」を生産していくのであった。

 そこで、不意打ち的に、大タコから、「タイダルウェーブ」の一撃が押し寄せて来た!!

「待っていましたの展開だな、こりゃ!!」

 リシェルは、「スキル・ブレイカー」を発動!
 船が大波に呑まれる直前で……。
 敵の魔術的スキル攻撃が形成されているゼロ・ポイントを割り出し……。
 スキルの急所めがけて、無効化の盾と化した諸手で直撃を浴びせる!!
 反撃と同時に、胸元の「聖アスラバッジ」(威力×2)がキラリと光る……。

「返すぜ、これ!!」

 リシェルは威力2倍となった「タイダルウェーブ」反射を敵陣に文字通り、返してあげた。
 敵は水属性に備えがある敵ばかりなので、攻撃力は期待できなかったものの……。
 大波の衝撃により、船周辺に集っていたザコたちは遠方へ流されて行ったのだ。

「ふう……。ひとまず、このラウンドは終了だな……」

 リシェルは大仕事を終え、額の汗を拭う。

***

 リシェルがデッキで奮闘している頃……。

 ジュディは、水上バイクからレボルバーで応戦していた。
 デッキの上にはリシェルがいるから良いとして……。
 問題は、今の「おとり作戦」で陣形が乱れ、敵の大群が船周辺にたくさん押し寄せて来てしまった、ということだ。

「ファイア、ファイア、ファイア!!」

 バイクを海面に停車させ、2丁拳銃を構えたジュディはひたすら連射していた。
 風の弾丸で、上空から飛んでくるブルーカモメを狙い撃ち……。
 さらには、海面から飛び上がって攻撃してくるサーベルフィッシュを瞬殺し……。

 称号「ガンファイター・ジュディ」が発動し、拳銃の反応速度は充実していて……。
 ナイトの魚雷や鈴の砲撃が援護射撃をしてくれてはいるものの……。
 敵勢の圧倒的な数にジュディの魔力は尽きかけ、多勢の敵の攻撃を回避するのでやっとのことであった。

「チーザス!! あまりにもモンスターが多いデース!! ここは一時撤退シマース!!」

 ジュディが一度、母艦(スズメバチ5号)に引き返そうとエンジンを噴かしていたら……。
 大波が船を襲っているではないか!!

 自身の「スキル・ブレイカー」で無効化しようとしても……この位置と距離からでは間に合わない!!
 船が!!

 しかし、間一髪で、大波は逆流し、敵の軍勢を押し流していった。

(オウ!? リシェルの「スキル・ブレイカー」デスネ!? サンクス!!)

 ひとまず、敵陣が後退していくのを確認した後、ジュディは戦線を撤退し、引き返すことにした。


・海中戦グループの戦況


 話は、「おとり作戦」で、敵陣が乱れたところまでさかのぼる。
 海中では、ビリーとマニフィカが入り乱れた敵陣とにらみ合っていた。

「ん? 海上で何かあったんかいな? って、敵共、えらい乱れてるやん!? さっきまで相手していたクラゲやフィッシュどもがごちゃまぜで……しかも増援がぎょうさんおるで!!」

「電撃攻撃」最中にこのような「異変」が突然起こり、ちょいとびびってしまったビリーであった。

「おそらく……。海上で誰かが壮大な「おとり作戦」でもやって敵陣を一気に切り崩したのでしょうね……。しかし、すごい数ですわね、これ? クラゲとフィッシュを合わせて、20匹以上はざっといるでしょう!?」

 マニフィカも、槍術で応戦中に「変異」に見舞われ、動揺を隠せないようだ。

 意を決したように、ビリーが前に出た。

「マニフィカさん……。行くねん! タコのもとへ行くねん! ここはボクが引き受けたで!!」

 突然のビリーの決意に、マニフィカは再び動揺した。
 確かに、タコを倒しに行く人員は必要であろう。
 だが、こんな多数の敵勢を前に、仲間を、しかも小さな子を、ひとりで置き去りにして任せて先に進んで行って良いものだろうか、と。

 どがああああああああああああああああああああん!!!!

 突然、魚雷攻撃が炸裂!!
 海中の敵の陣形は再び崩され、今の攻撃で1/3が撃破された。

 海中戦をしている2人は、これがナイトからの援護攻撃であることに即座に気が付いた。

「マニフィカさん!! 今のうちやねん!! ボクなら心配はいらん!! それよりも今はタコを!!」

 これ以上、ビリーの覚悟をむだにしてはいけないと悟り、マニフィカは人魚モードのフルスピードで、敵のボスのもとへ泳いで行った。

「さあ、かかってくるねん!! あんさんらを電撃ショックで踊らせたるでー!!」

「電撃攻撃」を構えながら泡ごとテレポートで突進して行くビリー……。
 突撃してくるクラゲとフィッシュの敵勢……。

 軍配はどちらに!?


●決戦編


・空中戦グループの決戦


「おとり作戦」により、一度、敵陣はシャッフルされた。
 それは、ジニアスたちが戦闘中の目の前のタコも例外なく……。

「おい、どこへ行く!? 俺たち、戦闘中だろう!?」

 ジニアスの呼びかけも無視して、激情した大タコは、萬智禽を追いかけ始めた。
 もちろん、それはラサが対戦していたカモメたちも同じく行ってしまったのであった。

「ジニアス、未来!! 仕方がないから、ボクたちもタコを追いかけよう!!」

 ラサは再びジニアスのフードに戻り、馬車馬でも発車させるかのように、相棒を叩く。
 未来も2人が飛んで行ったのを確認し、後を追いかけるように連れ立った。

***

 話は、敵陣が乱れ、海上戦・海中戦が激化したあたりまで飛ぶ。
 船周辺で大暴れしていた敵勢であったが、リシェルの「スキル・ブレイカー」の反撃により、大波が押し返された。そこで、敵陣の大半が遠方で押し流されたことで、戦況は一度、落ち着きを取り戻した。

 ジニアスは、飛行しながら、周囲にいる仲間2人に呼び掛ける。

「さて……そろそろ決着をつけよう……。3人がかりでも大タコは通常攻撃で倒せないし、何しろ動きが素早いのでらちが明かない。そこで、俺とラサでおとりになって敵の動きを食い止める。その間に未来が一撃必殺を……さらに海中戦で戦っている仲間の増援による追加の攻撃も期待して……敵に仕掛けよう!!」

「了解!!」(ラサの掛け声)
「ラジャ!!」(未来の掛け声)

 ジニアスは急降下して、タコの足元に降り立った。

「やーい!! ここまでおいで、べろべろばー!! あっかんべー!!」

 もはや体裁を気にしている場合ではない!
 魔剣士青年はキャラ崩壊を覚悟で、決死のおとり攻撃で挑む!

「ぷぎあああああああああああ!!」

 挑発に乗ってしまった単純生物のタコは、触手を振り回し、ジニアスを襲う!!

「おっと、あぶない!!」

 ジニアスは、「魔黄翼」を自在に操り、飛びながら、タコの攻撃を必死に回避する。

(ラサ……早く!!)

 一方、ラサは精神体の姿になり、(猫ぬいぐるみはジニアスに預け)タコの真上・上空にいた。

 彼女は厳かに、まるで海の荒神を沈めるかのように、「時の歌」を歌い出す……。
 歌のミューズとでも化した幼女からは、楽しげに踊り出す音符がぴょんぴょこと飛び出した。やがて音符の群れは、跳ね回り、タコの身体をぐるぐると取り囲んだ。

「時の歌」は無事に発動し、大タコの動きは、今や1/10の速度へ失速。

「ぷ・ぎ・ゃ・あ・あ・あ・あ!!」

 だいぶ速度が落ち、ほとんどスローモーションの「触手攻撃」であるが、攻撃を繰り出している大タコの方は正常通りの攻撃を真面目にやっているつもりだろう。
 しかし、傍から(ジニアスから)見て、明らかに速度の落ちた「触手攻撃」は、もはや恐れるに足らない。

「よ、そら、それ!!」

 ジニアスは、空中を四方八方、自在に飛びながら、「軽業」で攻撃を交わしつつ……。
 ぐるぐると大タコ周辺を回りに回り、8本の足をがんじがらめにして絡ませた。

 だが、何かがおかしいと異変を感じたタコは、反撃に出る!!

「ぷ・ぎ・あ・あ・あ!!」

 スローモーションだが、黙々と「スミ攻撃」が発動。
 周辺は黒スミで空気が乱れ、暗黒状態だ。

 そのとき、「レヴィゼルのお守り」がジニアスの胸元でピカリと光る。
 まるで防水加工のように、暗黒状態を1回分、弾いてくれた。

「さて、この辺で撤退する!! 未来、後は頼む!!」

 魔剣士青年は自分の仕事を終え、上空で待機している魔法少女に向かって叫んだ。
 彼は再び暗闇に呑まれないように、一度、上空へと撤退した。

***

「待ってましたー!! 魔法少女の必殺魔法、行ってみよー!!」

 未来は「ストームブースト」を10倍速でチャージ!!
 すさまじく激しい風圧が、彼女の周りでぐるぐると巻き起こり……。
 上向きに翻るスカートを抑えつつ……。
 萌葱色の台風に包まれて、未来少尉、「ごついウォーハンマー」を構えて突貫!!

「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 ごごごごごおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
 ぐるん、ぐるん、ぐるん!!
 ぎゅるん、ぎゅるん、ぎゅるん!!

 暴走した「エル・オーブ」の爆風が、猛回転しながら大タコへ直撃!!

 ガチコオオオオオオオオオオオオオン!!

 さすがの大タコも、今の直撃は堪えたようで……。
 少しふらつき出した……。

 だが、未来は……。

「あーーーーーーーーーーーれええええええええええええええええええ!!!!」

 暴走した「ストームブースト」と共に、空の果てへ旅立ってしまったのだ!

 きらん☆

 未来は星になった。


・海中戦グループの決戦


 時間は、リシェルが「スキル・ブレイカー」で大波を反射したところまでさかのぼる。

 さばあああああああああああああああああああああ!!

 ビリーとクラゲ&フィッシュらが取っ組み合いのけんかをしているとき、大波が押し寄せて来たので、戦闘は一時中止になった。

(なんやねん、これ!? うわっ、流されるやん!!)

 津波の影響により、海中がぐるぐるとかき回され、ビリーも水圧に耐えきれず、ぐるぐると飛ばされていた。

(うわあああああああああああああああああああ!!)

 しばらくして大波が止んだ頃、ビリーは気が付いたら船の真下にいた。

「よっしゃ! 仕切り直しや! ほな、かかってきな!」

 しかし、敵たちは既に押し流されたあとで、座敷童子の周辺には誰もいなかった。

(しゃあない! 撤退や! タコ狩りにでも加勢しとくで!!)

 ビリーは「神足通」を使い、船の上へテレポートするのであった。

***

「お!? リシェルさんやないか? ぼちぼちですか〜!?」

「ん? ビリーか!?」

 ちょうどリシェルが敵勢を津波で追い払い、ひと段落して休んでいたところに出くわした。(もっとも、休む間もなく、敵の増援が遠方からやって来ているのだが)

 だがビリーはリシェルに用があるのではない。
 再会のあいさつもほどほどにして、すぐそばの船長室へ向かった。

「ナイトさん! いまっか?」

 船長室の扉を開けると、ナイトと鈴が厳しい表情をして外をにらんでいた。
 おそらく、敵陣の増援の対応に備えているところだろう。

「お? ビリー君かい? どうしたぜい?」

 仲間との思わぬ再会で、ナイトはニヤリと笑い出した。

「頼みがあるんや……」

***

 ビリーはデッキ前で突撃をする姿勢でタコを指差した。
 口元には、葉巻を吸うかのように、「マギジスメイト」のチーズスティックがくわえられていた。
 彼の後ろには、ペットのランマル、サンドスネークのボーマル、お化けハイランダケのリキマルの3匹がぴしっとした姿勢で立っている。

「さあ、真打の出番や! ビリー雷撃隊、出陣するで!」

 3匹の手下たちは、まるで軍人がお見送りをするかのように敬礼の姿勢をして、ビリー軍曹を送り出したのだ!

 さて、「神足通」で瞬時に消えたビリーだが……。
 ビリーはナイトが放った魚雷の1発にしがみつき……。
 魚雷ごと空中へテレポート!

 空中移動で飛んでいる魚雷ごと、大タコのもとへ快速で突進中!

 対タコ戦では、ちょうど今、未来が暴走エル・オーブの一撃をかまし、退場して行ったところであった。

 そこにビリー軍曹の突撃攻撃が追撃・炸裂☆

 どっかあああああああああああああああああああん!!!!

 派手な爆撃音と共に、ふらついているタコの頭上に直撃!!
 大タコのHPはここまででだいぶ削られたことだろう。
 現に絡まった足で頭を押さえていた……。

 しかし、ビリーは……。
 魚雷爆発の爆風と共にどこかへ飛ばされてしまったのだ。

 こうして、未来に続き、ビリーまで星になってしまった……。

***

 海中が津波の反射で荒れた後あたりまでさかのぼろう。

 マニフィカは人魚モードで泳ぎ進み、ちょうど大タコの真下まで来ていた。
 道中で同じく流された敵たちとも遭遇し、クラゲやフィッシュと奮闘することもあった。
 何度かに渡るザコとの戦闘を経て、ちょうど今、仲間たちが大タコへ攻撃をしかけているタイミングに出くわしたのだ。

(おやおや!? 海上では、爆撃音が聞こえてきましたわね!? 誰かが突撃・自爆でもしたのかしら!?)

 そんなことは知らないが、それでも今、タコに追撃をくらわせるチャンスであることをマニフィカは把握しているようだ。

(わたくしも、続きましょう……。まず、『魔導動物概論』(魔牛編)を……)

 防水加工が施されている魔牛本をマニフィカは、アイテム袋から取り出す。
 魔導書の魔力を引き出し、魔牛の霊がマニフィカに宿る……。

 ムゥウウウウウウウウウ!!

(次は、「聖アスラバッジ」で……)

 胸元に付けておいたバッジがキラリと光った。
 まるで銀細工の聖アスラが笑っているようだ。
 マニフィカには今、攻撃力2倍の魔力が宿る……。

(トドメは……。ハヤブサ突きですわ!!)

 人魚姫は、「トライデント」を諸手突きで構えた。
 そして、猛速度で、海上に上昇中!!

 ハヤブサと化した人魚は、猛速度を抱く鋭利な三又槍の連撃を上空に向かい炸裂。
「ブリンク・ファルコン」の素早い突きが冴え渡る瞬間であった。

 突きの一撃、一撃も死ぬほど重い。
 何しろ、物理攻撃は魔牛の魔導書で強化され、魔力攻撃は聖アスラバッジで威力が2倍に倍増している。

 3連撃の突撃は、真上にいて、足が絡まっているタコの中心部にクリーンヒット!
 目にも留まらない強化版の連打突きがタコの装甲を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。

「ぷぎゃああああああああああああ!!」

 こうして、大タコはマニフィカのトドメの3連撃により、完全にノックアウトされた。
 マニフィカは攻撃が終わると、思うことがあり、一度、戦線を撤退するのだった。


・海上戦グループの決戦


 どうやら、大タコが倒されたようだ。
 巨大なタコは、海中からの凄まじい攻撃を受けたようで、一度、飛び上がったが、落下と同時に動かなくなってしまった。

 しかし、これで全てが終わったわけではない。
 むしろ、ボスが倒されたことにより、残党たちは撤退するどころか逆上していた!!

 どがあああああああああああああああああああん!!!!

 急襲で揺れる漁船。
 打撃音が鳴り響いて来た。

 船が、おそらくサーベルフィッシュたちの連続攻撃により、ぐらぐらとぐらついたのだ。
 揺られたショックで、ナイトと鈴は席から落ち、頭を打ってしまった。

「いててて……。やってくれるじゃねえですかい? って、おいおい? 武神さん、大丈夫ですかい?」

 立ちあがったナイトは、鈴がいる場所に振り返るのだが……。

 鈴は頭を強く打ったことと、昨日からの発明による多大な体力・魔力消費のため……。
 力が尽きて、がっくりと動かなくなっていた。

(ちっ!! やべえですな、これは。武神さんをこのままにしておくわけには……)

 ナイトは急いで鈴を運び、隣の部屋のベッドで休ませることにした。

 鈴を運び終えて、ナイトは慌てて船長室に戻る。
 窓越しから見えるデッキでは、リシェルが苦戦を強いられていた。

「リシェルの旦那!! 大丈夫ですかい? そちらに加勢しやしょうか!?」

 思わず、デッキへ向かって叫んでしまったナイトだが……。

「バカ野郎! こっちに来るな! ちょうど今、タコが倒されたところだ! おまえは船を操縦して、タコに近づけ!! デッキは引き続き、俺が引き受ける!」

 ナイトが心配するのも無理はない。
 リシェルは本日、ひとりでずっとデッキを守っていたのだ。
 魔力はそろそろ底をつく頃で……。

 彼がカモメやらフィッシュやらから防御するシールド魔法も弱々しく、もろくなっていた。
「スキル・ブレイカー」の「半減無効」や「反射無効」も使い果たし……。
「グランドクロス」の防壁も出せるだけの魔力がもはやなく……。
 さらに「回復球」すら碌に出せなくなり、体力回復もできる余地がないのだ。

 ふらふらしているリシェルにカモメたちがストライクで迫る!
 盾魔術師を鋭いクチバシが襲うところ……。

 下方から、風の弾丸が飛んで来て、カモメが撃ち飛ばされた。

「ヘイ、リシェル!! アー・ユー・オーライ?(大丈夫?)」

 船の真下から聞こえてきたのはジュディの声だ。
 ちょうど今、ジュディが弾丸を撃ち、助けてくれたらしい。

「アイム・ファイン・センキュー!(大丈夫だ!)」

 ジュディの助太刀を嬉しく思い、あえて英語で叫ぶリシェル。
 だが、笑っている笑顔もどこか弱々しい。

「リシェル! そっちへ行くヨ! ヘルプするネ!!」

 嬉しい申し出だった。
 だが、今、ナイトやジュディをデッキに入れて加勢してもらっては目的が達成できない。
 今日のミッションは、デッキを守るだけではなく、大タコを狩ることが大前提だからだ。

「ジュディ!! おまえはタコのところへ行って回収して来い! ここは俺が引き受ける!!」

「バット(しかし)……!?」

「俺が死ぬわけねえだろう!? さっさと行ってくれ!!」

 こんなやり取りをしている最中、ちょうどジニアスとラサが上空から降りてきた。

「お!? おまえら、無事だったか!?」

 リシェルが親しい仲間たちの生還を確認してそう言うと、疲れた顔でにやにやしていた。

「ああ、ちょうど今、マニフィカがタコを仕留めたところだ! 俺たちは戦線離脱して来た。そっちを手伝う!!」

「ま、ボクもいるから、ど〜んと、来いだね!!」

 こうしてジニアスとラサがデッキの防衛に加わり……。
 リシェルは仲間2人と共に、デッキを守り続けることになった。

 船をタコのもとへ黙々と進めるナイト……。
 大タコを回収しに急ぐジュディ……。
 デッキを守る3人の同志たち……。
 海域を泳ぎ回っているマニフィカ……。
 どこかへ流され、あるいは飛ばされてしまった仲間たち……。
 冒険者たちの運命はいかに!?


●戦闘領域離脱編


 ジュディは、水上バイクをがんがん飛ばし、倒された大タコがぷっかりと浮かぶ傍まで来た。

「オーライ!! オクトパスを運べば、ミッション・コンプリート、ネ!!」

 怪力レディは、大タコにそっと近づいて行く……。

 船の方もすぐ傍まで来ていた。
 デッキからは、ジニアスとラサが飛び道具で援護してくれている。
 敵の数もいい加減、減って来ているようだ。
 敵味方、どちらも現時点でだいぶ疲弊(ひへい)している。

「ソリャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 気合を入れ、力を振り絞り、ど根性のフルパワーでジュディが大タコを持ち上げた。

「ヘエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!!!!」

 大きな掛け声と共に、ジュディは大タコをぶん投げる!!
 スズメバチ5号のデッキの中央に、大タコが派手な音を立てて落下した!
 もっとも、漁船の装甲はだいぶ丈夫なので、破損することはなかった。

『各員に告ぎます!! 目標である大タコの捕獲に成功しやした!! 全員、戦線離脱してくだせえ!!』

 ナイトがスピーカー越しで戦闘海域にいる味方全員に告げた。
 これで全員が無事に逃げ切れば、ワスプ側の勝利だ。

「ふええええええええ……なんとか間に合ったよおおおおお……」

 台風と化し、暴走して飛んで行った未来が船へ戻って来た。
 へとへとに疲れながら、デッキに座り込む。

「まいど…………。ぼちぼち……やで……」

 魚雷の爆撃で吹き飛ばされたビリーもなんとかしてテレポートで船に帰還。
 同じく、疲れた表情で、ぐったりとデッキに座り、倒れた。

 ざぱあああああああん!!!!

 船の最後尾の海面側出入口から、浮上したマニフィカが入って来た。
 マニフィカに抱き抱えられて、気を失ったアンナと萬智禽も一緒だ。
 人魚姫は、流された仲間たちの回収をしていたのだ。

 さて、これで仲間たち11人が全員、そろったわけだが……。

『よし、後は逃げるだけですぜい!! 逃げ切るために、フルスピードで行くぜい!! みんな、振り落とされるなよ!!』

 スピーカー越しでそう叫ぶと、船長はアクセル全開……とでも言わんばかりに、猛速度でシーフード海域の離脱を目指した。

 だが、残り少なくなった敵の残党たちも容赦はしていない。
 ブルーカモメらが上空から「水鉄砲」を撃って来て……。
 電撃クラゲらが船を止めようと、へばりつき、「電撃攻撃」を仕掛け……。
 サーベルフィッシュらは、「ストライク攻撃」で船を攻撃したり、たまにデッキに上がってきて一撃をお見舞いしに来たりした。

 そこで、リシェルがデッキの先端まで歩み寄る。

「おい、リシェル!? どうする気だ!? 引けよ! もう体力も魔力もないだろう!?」

 ジニアスの忠告に盾の魔術師は耳を貸そうとしなかのように平然としていた。
 そんな彼を見て、俺が代わる、と前に出るが……。
 当のジニアス自身、もう力尽きる寸前だ。

 仲間たちが2人のやり取りを見守る中……。
 リシェルは胸元から、とあるバッジを取り出して、敵に向けた。

 キラリ、と太陽光で黄金のバッジが光るや否や……。
 薄く細い太陽光線の直線が、ブルーカモメを直撃し、焦がしたのだ。

「あ、それは!?」

 驚いたラサの目先に移るそのアイテムとは……。
 以前に、フレイマーズ大学環境科学研究所の誘いを受けて、赤い沙漠の植林を手伝った際にお礼でもらった「植林記念バッジ」だった。

「そうか!? そのバッジを使えば敵を退けられる! しかもバッジは魔力の消費ではなく、太陽光の消費で動いている優れものだったな!!」

 ジニアスは仲間の機転が利いた反撃に嬉しくなった。
 頼もしい仲間リシェルは、仲間たちの方に向かって力強く微笑していた。

「では、まだ動ける方で、このバッジを持っている方は、バッジを使って敵の攻撃を凌ぎましょう!!」

 マニフィカがリシェルに代わり呼びかけると、5人の仲間が集まった。
 ラサ、リシェル、ジニアス、マニフィカ、そして水面上のジュディ。
 この5人はバッジを持っている。
 そして、ぎりぎりだが、まだ何とか立てる状態であるのだ。

 5人は、バッジを煌めかせ、向かって来る敵に太陽光線の直撃を浴びせて猛攻。
 空中のブルーカモメは焦げ、デッキに飛んで来たサーベルフィッシュは弾かれ、海中にいる電撃クラゲとフィッシュは、水中で焼かれた。

***

「よっしゃあ!! あと50メートルで海域離脱完了ですぜい!!」

 最後の50メートルも……。
 敵の猛攻を退けて、何とか無事に離脱した。

 シーフード海域を離脱すると同時に、敵の残党たちは追ってこなくなった。
 敵も敗北を確信したのであろう……。

 船は既にぼろぼろ……。
 冒険者たちも激しく消耗していた……。
 だが、大タコは無事に捕獲できたので、これで盛大なお祭りができるはずである!

【次回予告】

 ちゃん、ちゃ、ちゃ〜、ら〜♪

 シーフード海域にて、無事に大タコ捕獲に成功した冒険者たち。
 全長20メートルに渡る巨大な珍味を手に入れた一行は、いよいよお祭りの準備に取り掛かる。

 聖アスラ学院地区の商店街で開催される「ジャンクフード祭り」……。
 今年はいったい、どんな猛者たちが集まって来るのだろうか?
 ナイト率いる、ワスプのたこ焼きブースに明日はあるのか?

 次回、たこ焼きシナリオはいよいよ最終回!

 さあ、冒険者たちよ!
 おまえたちの熱きジャンクフード魂で、渾身(こんしん)のソウルフードをがっつりと作り上げるのだ! そして死ぬほど売り尽くせ、心の底から食べ尽くすのだ!!

<続く>