「ウマドラの卵料理が食べたい!!」(料理編)

第二回

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

●パートA クッキング・パート

A−1 鈴の調理

A−2 ビリーの調理

A−3 アンナの調理

A−4 ミンタカの調理

A−5 未来の調理

A−6 マニフィカの調理

A−7 ジュディの調理

A−8 ジニアスの調理

A−9 ラサの調理

A−10 リシェルの調理

A−11 リュリュミアの調理

●パートB コミュニケーション・パート

B−1 ジェニーと一緒に食べる

B−2 ティムと一緒に食べる

B−3 コーテスと一緒に食べる

B−4 仲間たちとパーティをする

B−5 ワスプからのお礼



●パートA クッキング・パート


A−1 鈴の調理


 さて、ウマドラの卵3個をキッチンテーブルに置いて……。
 手洗いをし、ワスプのエプロンを着用し……。
 始めたいところなのだが……。

 皆、とある理由で悩んでいた。

「う〜ん……。この巨大な卵3個を全員で分けて調理するんですよね? でも……この人数でうまく均等に分けられるでしょうか……?」
 錬金術の見習い青年・ミンタカ・グライアイ(PC0095)が腕を組みながら、悩ましい言葉を投げかけた。

「ふふ……。ミンタカよ……俺に良い考えがあるんだ! なあ、みんな、ちょっと俺に卵3個を貸してくれないか? ま、悪いようにはしないと約束するからよ!!」
 自信ありげににこにこと話し出すのは、伊達メガネが光る武神 鈴(PC0019)だ。彼は、怪しい器材をがちゃがちゃと持ち込んで来ていて……キッチンテーブルに広げるのだった。

 特に誰も反対する者がいなかったので、一同は鈴の奇行を見守ることにした……。

***

 ガチャガチャ……
 パカッ!!

 キッチンテーブルの上で、巨大な卵割器が卵を1個ずつ、キレイに割って行く……。
 割られた生卵は、巨大なボウルに移し替えられた。
 黄金色の鮮やかな黄身と透明なゼラチン状の白身がぷかぷかとボウルの中に浮いている。

 鈴は、ボウル3個を1個ずつ丁寧に持ち上げ、巨大な鉄製の謎の機械へ注入して行く……。
 やがて、機械は、ガガガと音を立てながら……。
 ガチャコン、ガチャコン、と黄身を小さなサイズへ器用にも分割し出すのであった。
 それと同時に、ゼラチン状の白身の方も黄身と同じようなサイズで分割された。

 最終的に分割されて鶏の卵サイズになった黄身と白身は、別のボウルに移し替えられて、そおっと、そおっと、機械が密かに合体させる……。

「ふむ……。そろそろコイツの手番だな」
 鈴は、巨大なボウルを持って来て、その中に入っている無数の卵の殻を取りだした。
 この殻は、上下を二分割したように真っ二つに割れている人造の卵の殻である。

「そっと行くぞ……」
 そして魔導科学青年は、実験を完成させるかのように……。
 黄身と白身をボウルからおたまですくい出して、人造の殻に移し替えて行くのであった。

「仕上げは、コイツだ!」
 最後に、パカリ、と上下の卵の殻を閉めて……。
 鈴は、ガスバーナーのような器材を取り出し、殻にスプレーを吹き付けた。

「みんな、安心してくれ。体に害はない。カルシウムのスプレーだ」
 真っ白いスプレーが完全に吹きかけられ終えると、卵の継ぎ目も消えて、キレイな卵になった。

「わっ!! 武神さん、鶏の卵そのものじゃないですか、それ!!」
 鈴のパフォーマンスを直に眺めていたうちのひとり、ミンタカは、驚きを隠せず、思わず叫び出してしまう。

「よし、じゃあ、今から人数分、鶏の卵サイズを作るから手伝ってくれるか?」
 鈴は、仲間たちの方に振り向いて声をかけると、皆、ぞろぞろと鈴の周囲に集まり出して、卵作りを手伝うのであった……。

***

「まあ、こんなもんだろう……」

 鈴指導のもと、数十分もしないうちに、ウマドラの卵3個は、見事なぐらいに無数の鶏の卵に変身! (もちろん、中身の品質はウマドラのまま!)

「では各自、自分の料理に使う必要な分だけ勝手に持って行ってくれ! 俺は、ワスプの裏手の空き地で温泉卵を作っているから……」
 鈴は鶏の卵サイズの卵を数個持ち出して、そそくさとキッチンを去って行った。
 と言うのも、みんなの熱い視線と感謝の言葉に弱いからだ……。

***

「さて……。空き地はこの辺だな? では、さっそく……」

 鈴は、「シークレットアーム」を取り出して、空き地の地面を、コツン、コツンと、叩きながら歩き出す……。

「ふむ……。この辺がいいな……」

 ダウジングでもしているのだろうか……。
 魔導科学青年は、とある水脈を当てたようだ……。
 さっそく、アームで土をえぐり出して、何かを掘り出すのであった。

「よし、これを!!」
 符術で作った草の門(ミニチュア)を鞄から取り出した。
 そして、門を穴にセットし、釘でグサリ、と刺すのであった。

「さあ……。出てこい、符術界カルルスよ!!」
 鈴の呼びかけと共に、符が赤く発光し、グラグラと軽く地震を起こす……。

 すると……。
 ざあああああああああああああ……!!
 異界の門から湯が沸き出した!!

「ふふん……成功だ! 俺の故郷である符術界から召喚した符術界カルルス温泉……」
 ニヤリと笑い出す鈴の足元で、温泉はみるみると湯を張って行く……。

「あとは、こいつを……」
 鈴は鞄からザルを取りだして、卵を1個だけ乗せた。
 その直後、ザルを温泉の中に漬け込むのであった。

「ふう……。温かいな……。今日が料理する日でなければ、温泉に入りたいぐらいだ……。まあ、それはそうと……。俺の計算では、70℃の温泉に20分、卵を入れれば、美味しい温泉卵ができるのだが……」
 鈴は、さらに鞄から温度計と懐中時計を取り出して、セットを開始。

「まあ、最初の1個はちゃんとできるかどうかの実験で……。あとの残りの数は、自分用、持ち帰り用、ジェニー用、そして予備として使おう……」


A−2 ビリーの調理


 鈴が卵を機械で分けてくれていた頃……。

 キューピー妖精のビリー・クェンデス(PC0096)は、アイテム袋から「ミニチュア通天閣」をごそごそと取りだしていた。

(お? これやん、あったで!!)

 そして、通天閣を厨房の片隅に設置して……。

 パン、パンと両手を叩いてお辞儀。

(ダイスの神様……!! どうか仲間たちの料理に幸運を!!)

 と、幸福を招く妖精らしく、祈りを捧げていたのだ。

***

 ビリーは鈴から卵数個を受け取り、さっそくキッチンに向かうのであった。

(よっしゃ!! ほな、カスタードプリンでも作りましょか!!)

 妖精は、卵の他、ワスプの食材から、牛乳、砂糖、バニラエッセンスを調達してきた。

(まずは……カラメルソースや!)

 彼は、割り当てられたキッチンスペースにて、鍋を用意してみた。
 そして、鍋の中に、水と砂糖を……適量分入れて……中火でゴトゴトと煮込む。

(焦げ茶色になるのが目安でっせ!)

 やがて数分煮込み、こんがりと茶色になってきたところで、かき混ぜて、火を止める。
 煙も立っているみたいだし、とりあえず大丈夫だろう……。
 出来上がったアツアツのカラメルソースは、別のカップに移しておいた。

(ほな、プリン液、行きましょか!)

 ビリーは、ボウルに、ウマドラの卵を割って入れて、泡が立たないように、ホイッパーで混ぜ込む……。

 一方、鍋に牛乳を入れ、沸騰させない程度の弱火で温めると、軽く湯気が出た。
 このあんばいで良いだろうと、ここで砂糖をほどよく加え、溶かし出す。
 荒熱にも注意しながら……。

(ううむ、いい感じやで! ほな、合体や!!)

 座敷童子は、溶かれた卵が入っているボウルを取り出し、牛乳と砂糖を煮ていた鍋にゆっくりと注入。

(まぜまぜしまっせ!!)

 その後、鍋を回して、ヘラでほどよく混ぜて……段々とプリン液っぽくなっていく……。

(仕上げはバニラの液や!!)

 さらに鍋の中へバニラエッセンスをたらして、匂いの方も段々とプリンっぽくなっていく……。

(ほな、カラメルソース、行きましょか!)

 ビリーは、カラメルソースをカップの中へ、たらり、と流し込む。
 そして、完成したプリン液が入った鍋を、今度はそのカップの上へ注ぎ出した。

(このへんで……蒸すんやったな?)

 カップからは美味しそうな匂いの湯気が立っていた。
 キューピー妖精は、ワスプの蒸し器の中へ、作ったカップらを、そおっと、入れる。

(弱火で11分ぐらいでしょか?)

 座敷童子は、蒸し器の具合を確認しながら、プリンにときどき竹串を刺してみたりして、完成度を確かめるのであった。

***

(よっしゃ! 時間やで!!)

 ビリーがプリンのカップらを蒸し器から取り出すと、いい感じにこんがりとしたカスタードプリンがアツアツで出来上がっていた!

(あとは冷蔵庫に入れて冷やすんやけれど……。普通にやったら2、3時間はするで? みんなの料理と同じタイミングで出したいんやけれど……)

 妖精がプリンの前で悩んでいるところ、ワスプのコック兼バーテンダーのナイト・ウィング(NPC)がやって来た。

「おや? ビリー君、どうしましたかい? 何かお困りで?」

 ナイトに背後から話しかけられて、ビリーは、はっと我に返った。

「うん……。あとはこのプリンを冷蔵庫に入れたいんやけれど……。まともにやったら時間がかかってあきまへんな……」

 ビリーの話を聞いて、ふふ、と笑い出すナイト。

「なら、ワスプ特製、魔法の冷蔵庫を使ってくれていいですぜ。あちらの冷蔵庫なら早くて数分、かかっても数十分の調整で、チン! と、いった具合にできますぜい!」

 ナイトが指差す先に、「魔法の冷蔵庫」(見た目は普通の冷蔵庫だが)が設置されていた。
 その存在を確かめると、座敷童子は、ニカっと笑い出す。

「ナイトさん……。おおきに! 助かりましたわ!」

(しかし……チン! はオーブントースターやろ? とツッコミを入れたいところを我慢するビリーであった……)


A−3 アンナの調理


(さて、卵はこのくらいで……。あとは生地とクリームの材料も集めて……)

 分けてもらってきた卵を10個ほど抱えて、アンナ・ラクシミリア(PC0046)は方々から食材と調理道具を集めていた。
 彼女はフランスのお嬢様家系出身なので、小さい頃にシュークリームの作り方を教わったことがあった。なので……母国の実家で習ったシュークリームを作るのが良いだろう、と思い立ったらしい。

(まあ! ワスプのキッチンは本当にキレイに整備されていますのね……。しかし、料理開始前にクリーンアップするのも、わたくしのお仕事ですわ!!)

 アンナは、消毒液の付いたキッチンペーパーで拭き拭き、と自分に割り当てられたスペースを掃除していた。

***

(まずは、カスタードクリーム作りですわ! ウマドラの卵で作りますから、きっと甘くて美味しいクリームができることでしょう!)

 アンナは、鍋を取りだして、その中に、卵黄、砂糖、バニラビーンズをざっと注ぎ込んだ。そして、ヘラでかき混ぜ、やがて中身は白っぽくなって行く……。そこで、薄力粉も追加。

 その後、鍋にバニラビーンズのさやを入れ、牛乳を注ぎ込み、着火。
 沸騰するまで温め続け、だまにならないように、ときどき手早くかき混ぜるのであった。

(おや、焦げるといけませんわね!)

 と、鍋の隅が焦げやすくなっているので、中火で素早くかき混ぜ、ヘラを大きく回した。

(ふんふん♪ こんなもんかしら?)

 やがてクリームが固まって行く……。
 そこで、火を少し弱め、加熱。

(そろそろ粘りが収まる頃ですわね!)

 アンナがヘラですくうと、クリームは、すっ、と落ちて行くくらいの固さになった。

(う〜ん。そろそろ冷やしますわね!)

 令嬢は、鍋に入っているクリームをプラスティックの箱に移し替えた。
 そして、ラップで表面を覆い、保冷剤も使い冷やし始める……。

(けっこう、固くなりましたわね!)

 と、固くなったクリームをヘラでよく練り、柔らかくしていくのであった。

(さて、こっちはこんなもんで……)

 アンナは一度、カスタードの作業を中止して、別のボウルに生クリームを入れる。

(では、これも!)

 さらに、ヘラでかき混ぜると、生クリームが泡立ち、固くなっていく。

(最後に、ミックスですわ!)

 さて、クリームパートは、最終段階まで来たところだ。
 アンナは、大きなボウルに生クリームとカスタードクリームの両方を全て注ぎ、がんばって混ぜ合わせるのだ。

(こんなもんでしょうかね?)

 シュークリームのカスタードクリームが完成!!

 作った本人は、スプーンで一口すくい出して、ペロリと味見。

(トレビアン! さすがにウマドラの卵、素材がいいですわ! 口の中がとろけてしまいそうなほど甘くて切ない味ですわね!)

***

(では、続けて、生地も作りますわ! ウマドラの卵が入る生地ですから、きっと美味しいはずですわね!)

 アンナは、先ほどの鍋とは別の鍋を取り出した。
 牛乳、水、バター、塩を一緒に適量、入れてみた。
 そして、着火し、沸騰まで待つ……。

(これぐらいかしら?)

 沸騰したら、一度、火を消して、薄力粉と強力粉をふりふりとかける。

(続いて、混ぜ混ぜですわ!)

 鍋の中にヘラを入れて、中身をよくかき混ぜて……。
 再び、火にかける。

(そろそろ、生地が鍋から離れますわね?)

 鍋から離れた生地を、今度はボウルに移し替えた。
 一緒に、溶いた全卵を練り混ぜ、少しずつ、そおっと、入れて行く……。

(おや? 今、生地がヘラから、とろん、と垂れましたわね? そろそろいいかしら?)

 その後、アンナはオーブンシートを広げ、天板へ生地を適量ずつ乗せて行く。
 シュ、シュ、と霧吹きで水をかけて……。

(さあ、焼きますわ!!)

 令嬢はそのまま、オーブンに210℃で設定し、焼くのであった。

(ふむふむ……。このオーブン、普通のオーブンではないですわね? 普通なら15分かかるところを……1、2分でできて? どうやら火力魔術を使ったオーブンのようで……)

 能書きの説明とおり、オーブンを使うこと1、2分。
 まるで一瞬の出来事だったかのように、生地がふっくらと焼き上がった。

(おやまあ? では、あと10分ほど、オーブンの中で乾燥させた方がよいでしょうね……)

***

 いよいよ最後の詰めだ。
 アンナは、出来上がった生地とカスタードクリームを合体!

(ふんふん♪ あとは、この生地の中にクリームを詰めれば完成ですわね!!)

 令嬢は1個ずつ、丁寧に心を込めて、生地の中にクリームを挟んで行く……。
 仕上げに、パラパラと粉糖をかけて、雪化粧をしたかのようなきつね色のシュークリームが出来上がった!

(さーて、お料理はこれぐらいで!! お片付け、がんばりますわ!!)

 アンナはなぜか料理よりも掃除の方が、気合が入るらしい。
 自分が使用した器材を丁寧に片し、汚れてしまった割り当ての調理場を丹精込めて、キレイに、キレイに、磨きに磨いて……調理以前よりもその場を美化させてしまい……後にワスプのコックたちが驚いて叫んでしまうのであった。


A−4 ミンタカの調理


 ミンタカは、とりあえず鈴から卵を分けてもらったものの……。
 卵数個をテーブルに転がしながら悩んでいた。

(う〜む……。ジェニーちゃんは何を食べたいのかな? 滋養のある料理……とは、少し違うかもしれないけれど……女の子だからお菓子を作ってあげたらどうだろう? ……うん、それがいい!)

 ようやく作る物が決まり、青年は、ガタリ、と席を立ち、割り当てられて調理場へ向かうのであった。

***

(さて、材料もそろえたことだし……。僕はスフレを作ろう!!)

 ミンタカは、ストウブ鍋を持ち上げて、コンロにごとり、と置く。
 一方で、ボウルの方には、フィリング(ケーキのパンの部分)を作る用意をした。

 錬金術青年は、室温で溶けているクリームチーズを取り出し、まずはボウルの中に入れる。
 ボウルにグラニュー糖を入れようと、したが……。

(ん? ちょっと待てよ? せっかくだからウマドラの卵の味がよく出るようにしよう! そうだな……砂糖類は通常よりも少なめに調整して……)

 と、砂糖の量を加減しながら、ホイッパーでかき混ぜるのであった。

(よし、このへんでいいだろう。ウマドラの卵黄を混ぜよう!)

 ミンタカは用意していた卵黄を使い、ボウルの中を再びかき混ぜた。

(そして……レモン汁、生クリーム、薄力粉なんかも入れちゃって……)

 まるで錬金術の実験でもするかのように、ほいほい、と適量をボウルに注いで行く。

(うん。フィリングはこのぐらいで……。あとは、メレンゲ(膨張剤)の用意を……)

 ミンタカは、別のボウルを取り出し、その中に、先ほどの卵黄の残りである卵白を入れて、ホイッパーで泡立て出した……。

(ふう……ちょっとした力作業だな……。さて、卵白の味も強めに出したいから、グラニュー糖は少し加減しておこう……)

 やがて、出来上がったメレンゲの中に、先ほど用意しておいたフィリングを注入。

(これもまた力が……。さあ、がんばってかき混ぜよう!)

 青年は、ヘラで丁寧にかき混ぜ……次第にボウルの中はふんわりとしてきた。

(さて、ここでようやくストウブ鍋の出番だ)

 続いて、彼は鍋の内側の形状に合わせてクッキングシートを敷き出す。
 このとき、シートは鍋に合うほどよい大きさで、接着にはバターを使用した。

(よし、ここまで来たら、あとは、このボウルの中身を鍋に移して、着火……)

 彼にはちょっと重いかもしれないボウルを持ち上げ、ストウブ鍋に向かって、キレイに注ぐのであった。

 コンロも点火して、弱火でとろとろと焼き出す。

(う〜ん。あと40分は焼くことになるのだろうか? しかし、あまり時間がかかると他の人たちとの調理終了時間に間に合わない……ん? 弱火改? 改とはなんだろう?)

 ミンタカは、その辺をふらふらしているナイトが目に入ったので、呼び止めた。

「すみません、ナイトさん? この弱火改ってなんですか?」

 ナイトは、へらへらしながら、ミンタカのもとへ歩み寄って来た。

「弱火改とは、弱火の改造版ですぜ? 弱火で焼く分において、通常の弱火と同じ火力で時間を短縮できる装置ですぜい。まあ、うちみたいなキッチンで使う魔術仕掛けのコンロですかね?」

「なるほど。では、使っていいでしょうか? 時間を短縮できると嬉しいのですが?」

「ええ。どうぞ。作っているのはスフレですかい? まあ、その分だと、普通にやればあと40分はかかるかな? しかし、改を使えば、ものの5分もあればできますぜい!」

「なんと! わかりました。ありがとうございます。使わせてもらいます!」

 こうしてミンタカは、弱火改を使って、5分ほどでスフレを完成させるのであった。

(う〜ん……。蓋(ふた)を開けて見て……出来上がりもいい匂いがしてふっくらと上等! そうだな……できるだけアツアツのスフレを食べさせたいから、常温で少し冷ますだけにして、冷蔵はしないようにしよう!)


A−5 未来の調理


 姫柳 未来(PC0023)は、スズメバチキャラのロゴが入ったワスプのエプロンをひらひらとさせていた。かわいいハチの絵が気に入ってしまったようだ。ついでに、制服の超ミニスカートもつられてひらひらしてしまうのだが……まあ、気にしない、そういうものだろう。

(よ〜し! わたしはがんばってオムライスを作ろう!!)

 未来は、卵料理を作る、という話が出たときから、彼女の中でオムライスを作る! と、決まっていたそうだ。
 オムライスというのは、愛情たっぷりの料理、というイメージが未来の中にあるからだ。
 きっと、未来の愛で、ジェニーは元気に、ハッピーになるだろう……!!

(ええと、オムライスだから……まず卵を割るんだよね? ん? 待って!!)

 未来は、とあることに気がついた。
「オムレツ」ではなく「オムライス」なので、ライスが必要だ。
 それも、普通のライスではなく、できればチキンライスが良いだろう。

(どうしよう? お米をとぐところからやったらすごい時間がかかるよね? う〜ん……)

 彼女が周囲を見渡すと、ワスプのコックたちがライス類をよそっている光景が目に映った。
 どうやら、ワスプでもオムライスは作ることがあるらしく、コックたちはチキンライスを炊飯器からしゃもじで、よそっていた。

「すみません! そのチキンライス、分けてもらってもいい?」

 少女がにこにこしてコックたちに頼み込むと、彼らもにこにこしていた。

「ん? どうしたんだい、お嬢さん? ああ、例の卵料理を作っている人たちか? このチキンライス? うん、かまわないよ。今日は、好きなだけうちの食材や器材を使っていいことになっているようだからね」

 こうして、未来はコックからチキンライスを分けてもらえた。
 真っ赤なほかほかのライスをおわんに入れて、持ち場へと帰る……。

***

(とりあえず、ライスはOKなので……卵パートをがんばろう!! まずは……)

 未来は、ボウルの中に食材を次々と適量通りに詰め込んだ。
 ウマドラの卵、牛乳、片栗粉、マヨネーズ……。
 そして、ヘラを使って、キレイに混ぜ混ぜするのであった。

(次は、焼こう!!)

 エスパー少女は、フライパンを持ち上げ、コンロにことり、と置く。
 その後、バターを敷いて、軽く熱する。

(じゃあ、溶かしたやつを流して……)

 やがてフライパンがいい感じに熱してきたら、今度は今先ほど作ったボウルの中の液体を熱い鉄器に残さず流し込んで……。

 箸(はし)を使って、ぐるっと、中身を1周させた。

 すると……。卵の表面がだんだんと固まって来て……。

(ここでチキンライス投下!!)

 おわんに盛られた先ほどのチキンライスを、ごっそりとフライパンの中に落とし込む。
 チキンライスが、広がっている卵の上にちゃんと乗ったことを確認したら、彼女は一度、火を止めた。

(ふふん、ここが腕の見せ所!!)

 さて、ここでフライ返しを使い、固まってきた卵の両端を折りながら……フライパンの隅に寄せた。
 そこで……。

(それ!!)

 真っ白いお皿の上に、オムライスをひっくり返して乗せて完成!
 我ながら、うまく出来たものだ!
 と、ほっとする未来であった。

(最後の仕上げは、もちろん、コレ!!)

 未来はケチャップを取り出して、ほかほかに焼けている黄色のオムライスの上に絵を描き出す。

(女の子が好むのは……やはりウサギだよね!!)

 こうして、にこにこしているウサギの顔をケチャップで描き、エスパー少女のオムライスは出来上がったのであった。


A−6 マニフィカの調理


 真面目な女子大生人魚のマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、料理本を広げながら、何やら悩んでいるようだ。

(どうしましょう……。みんなでお料理をするというから、学校の図書館から借りて来た料理本も持って来たものの……。わたくし、姫の暮らしが長かったので、お料理なんてまともにやったことありませんでしたわ! って、さすがに言い出せないですし……)

 などと、彼女が悩みながら料理本をめくっていると、とあるページで……。
「人魚でも作れる! 食べられる!」という魅力的なキャッチと共に、美味しそうな海鮮カルボナーラの特集が掲載されていた。

(ふむふむ……。面白そうで美味しそうですわね……しかも、作り方が割と簡単なようですし……)

 ちなみに、周囲を眺めてみると、仲間たちは着々と料理を作り始めている。
 このへんで考える時間もタイムリミットになったようで、マニフィカは、海鮮カルボナーラ作りに挑戦してみることにした。

***

 マニフィカは、まずパスタから茹で始めようと思い立ち、コンロに鍋をセットした。
 水を注ぎ、湯を沸し、塩を入れようとするのだが……。

(ええと……。本によると……大さじで2ぐらいがちょうど良いのかしら?)

 戸惑いながらも、塩をふり、パスタの麺をぱらっと放ち、とりあえず茹で続ける。

(それで、パスタを茹でている間は……具を作ればいいのですわね?)

 人魚姫は、ボウルを取り出して、素材を次々と入れ出す
 ウマドラの卵、粉チーズ、マヨネーズ、牛乳、生クリーム……といった具合に、じゃんじゃんとボウルの中身が埋まって行った。

(ええと、その後は……このボウルを、泡立てないようにフォークで混ぜるのですわね?)

 やや不器用な手つきだが、初心者の彼女は、丁寧に心を込めて、フォークで混ぜ混ぜするのであった。

(カルボナーラのクリームパートはこれで良いとしまして……。海鮮パートの具もちゃんと作らないといけませんわね……)

 ここで一度、マニフィカは、フライパンを取り出して、コンロにセットする。
 最初にオリーブオイルを入れて……。
 その後、ワスプの食材から貰ってきた……剥(む)いてあるクルマエビにホタテ貝、切られたイカの足、輪切りになったタマネギ……を一斉にフライパンへ放り込んだ。

(で、これらを炒めると良い……のですわね?)

 人魚姫は、炒める……ということは、強火だろう、と思い……。
 思わず、強火改のレバーを押してしまい……。

 ゴオオオオオオオオオオ!!
 一気に火炎が炎上!

(きゃっ!! ちょっと、これ!! どうしますの!?)

 マニフィカが慌てているところで、ナイトがすたすたとやってきた。

「マニフィカさん? これだと強すぎですぜい? もう少し加減しましょう……」

 ナイトが火加減を見てくれたお蔭で、マニフィカは、何とか炒めることができた。

「ふう……。ありがとうございましわ、ナイトさん。わたくし、実は初心者ですので、料理はわからないことだらけで……」

「な〜に、大丈夫ですぜい! 俺もちと見てあげますから、がんばりましょう!!」

「はい!!」

 こうして、マニフィカは、ナイトに少しだけ手伝ってもらいながら料理を続けることになった。

(次は、白ワイン、塩、胡椒で味付けですわね……。マニュアル通りで上手く行くかどうかわかりませんし……せっかくナイトさんが隣にいるから聞いてしまいますわ!!)

「あの……調味料を入れる加減って、これぐらいで……?」

 ナイトは、マニフィカが調味料を量って入れる手つきを見ながら、微笑していた。

「うん……いい感じじゃないですか? それぐらいですぜい!」

 プロのお墨付きをもらい、マニフィカは胸をなでおろした。

 だが、料理初心者の彼女が炒めものに熱中していたとき……。

 ぶくぶくぶく……っと、パスタを茹でている鍋から泡とお湯が溢れ出す!

「きゃっ!! またやってしまいましたのね!!」

 ナイトがとっさに、パスタの鍋の火を弱めにした。

「大丈夫ですぜい。パスタが茹で上がっただけですので……」

(ほっ……。そういうことだったのですの……)

 こうして、マニフィカは、茹で上がったパスタ鍋を湯切りして、パスタの麺をフライパンの海鮮具材と一緒に混ぜて、フォークを使ってよく和えるのであった。

(あとは……クリームと合わせればいいのですわね!!)

 人魚姫は、フライパンの火を止めて、ボウルの中身であるクリームの部分をフライパンへきれいに残らず注ぐのであった。

「そう。そんな感じですぜい。ま、そのフライパンの余熱を使って、少し温めましょうか。で、全体に卵液が絡まるようにすれば、完成ですぜい!」

(ふう……。なんとか、完成に漕(こ)ぎつけましたわね!)

 マニフィカはフライパンの中で完成した海鮮カルボナーラを、大きめのフォークとスプーンを使って、大皿へ移し替えるのであった。

(とまあ、出来上がってみたものの……。これ、本当に美味しいのでしょうか!?)

「ナイトさん、ありがとうございましたわ!」

 マニフィカがお礼を言う頃には……。
 ナイトはニヤリと笑って手を振り、他のところへ手伝いに行ってしまったのであった。


A−7 ジュディの調理


「フンフン、フン♪ マイ・ラブリー・エッグス、ヘイヘイ♪」

 パーティ好きなアメリカン女性・ジュディ・バーガー(PC0032)は自作の歌を歌いながら上機嫌だ。それもそのはず、彼女は大の大食いであり、やっと手に入れた最高級品ウマドラの卵をがっつり食べられるのが大変楽しみなのである。

(作るのは……モチロン、スクランブルエッグね!!)

 まず、作るべきものは、スクランブルエッグの元となる卵の液だ。
 ジュディは、ウマドラの卵を次々と割って、ボウルの中に入れて行く。

(レッツ、ドロップ、エッグス!!)

 スクランブルエッグは卵をケチるとうまく作れないから、惜しみなく投入!
 さらに、牛乳やクリームもたっぷり混ぜてクリーミーにして……。
 ほどよくヘラでかき混ぜ、白身が確認できる程度にしておいた。
 コシのあるスクランブルエッグを作るためにも……。

 そしてジュディは、フライパンをコンロの熱(弱火)で温め始める。
 段々と温まってくるフライパン……。
 濡れた布巾を熱い鉄鍋の上に落とすと、「ジュ!」と音が出た。

(グッド! そろそろバターを!!)

 その直後、バターを一切れフライパンの上に落とす。
 熱する音と共に、バターが溶けだし、大きな泡を発生させる。
 ジュディは手慣れた手つきで、フライパンを動かし、泡は次第に消えて行った。

(さ〜て……メルトしたエッグスを、ダイブイン!!)

 アメリカンな彼女は、ボウルに入っている溶き卵を熱き鉄鍋にそおっと、注ぎ込んだ。
 すると、弱火のフライパンの上にある卵がみるみると固まりそうになって行くので……。

(オウ! アブナイね!! クイック、クイック!!)

 ジュディは巨体の手元をゆすりながら、フライパンをゆさゆさと揺らした。

(フン、フンフン♪)

 そして、鼻歌混じりになりながら、一定のリズムに乗って、スクレイパー(柄付きのゴムベラ)を器用にちゃっちゃかと動かす。

 ジュディが手際よく動かすと、固まって行く外側が中心にかき混ぜられ、段々と固まり始める内側もほどほどに混ざって行くのであった。

(スパイスも、マストアイテム、ネ!!)

 たまに塩や胡椒もふりかけながら、スクランブルエッグはみるみると完成度が高まって行く……。

(ウ〜ム! クリーミー!! ラストは、グランマ(祖母)直伝、バーガーファミリー流のアレよネ!!)

 最後の仕上げとして、バーガー牧場の娘は、スライスしたハム、ハーブ、チーズ(ピザ用ミックス)をパラパラとスクランブルエッグの頂上からふりかけて……ゴージャスな逸品が出来上がったのだ!!

 ジュディは、フライパンの上で完成したほかほかで豪勢なスクランブルエッグを、ヘラを使い、大皿に移し替えるのであった。

(ワンダホー!! ウマドラのテイスト……きっとデリッシャスよネ!!)


A−8 ジニアスの調理


(う〜ん……。さすがに冒険者ギルドなだけあって、ワスプのキッチンは素晴らしい!! 本当に色々な食材があるなあ……)

 冒険者青年のジニアス・ギルツ(PC0025)は、キッチンの食材をがさごそと漁っていた。そして、食材をかき集めながら、本日のメニューを決めるのであった。

(よし、俺は、和風かき玉春雨スープにしよう! このメニュー、俺の故郷でも作ったことがあったから……やり方を思い出せば……割と簡単にできるかな?)

 ジニアスは割り当てられた調理場で、さっそく鍋に水を入れてコンロの上にセット。
 その後、切り分けられていたホタテを、ぽんぽんと放り込み、マギ・ジスの地酒をとくとくと注いだ。鍋の中身がひとまず完成した時点で、コンロを中火に点火した。

(うん。こんなもんかな?)

 彼は冒険をこなす職業柄、サバイバルスキルとしての料理には慣れているので、割と手慣れた手つきだ。しかし……量りを使わずに適当なのである!

(さて、鍋を煮ているうちに……。シイタケとにんじんを切ってしまおう!)

 これも適当に、包丁で、とんとん、さくさく、とあっさり処理。

(うん! よくできた!!)

 一方で、鍋の方は湯気を上げて、段々と煮えてきたようだ……。

(ふう……。さすがにアクが出ているな……おたまで取らなければ! ……で、アクが取れたところで、先ほどの具材を入れて、と……)

 青年は、刻んだシイタケとにんじん、もらってきた春雨を、鍋の中にぽんぽん、と放り込んだ。火加減は、そのまま中火で継続。

 しばらくして……。

(さあて……春雨はどうなったかな? ちょっと箸で触ってみよう……)

 ジニアスが箸を入れると、春雨はほどよく柔らかくなっていた。

(うん、いいぞ! この調子で、醤油、めんつゆ、みりんを加えよう……)

 調味料を、それとなく、どぱっと注ぐのであった。

(味は染み込んだ方がいいだろう。このままちょっと待つか……)

 待っている間、魔剣士青年は、ウマドラの溶き卵を作っていようと考え出す。
 もらってきた鶏卵サイズの卵を、こつん、こつん、と割って行き、ボウルに入れる。
 ボウルの中を、箸で軽くかき混ぜ、溶き卵が出来た。

(さて……。時間は計ってなかったけれど、そろそろいいかな?)

 そこでジニアスは、ボウルから溶き卵を鍋の中に注ぎ込んだ。
 箸を使って、溶き卵を回すようにかき混ぜ、全体を混ぜて行く……。
 やがて、具材が絶妙なバランスで混ざり合い……ひとまずの完成。

(ふう……。一苦労だったな。これを器に盛れば、本当の完成……)

 冒険者青年は、おたまで鍋からひとすくいして、器にスープを盛った。
 器の中には、ウマドラの卵で黄色く彩られ、春雨で白くも彩られて……ホタテ、シイタケ、にんじんといった具材がごろごろと転がり豪勢で……良いダシが出ている琥珀色のあつあつスープが完成していた。

(うん! いい具合じゃないか! 最後は、三つ葉を乗せて、よりそれらしくしよう!!)


A−9 ラサの調理


 ジニアスの相棒である精神体の幼女・ラサ・ハイラル(PC0060)は、ジニアスが調理に移る様をじっと遠くから観ていた……。

(ふう〜ん……。ジニアスは春雨スープでも作るのか! よ〜し、ボクも負けないぐらいすごいやつを作ってやる! そうだな……卵焼きなんていいな!)

 ラサは、食材を適当にあちらこちらから、ぞろぞろと集め出した。
 これ、本当に卵焼きに必要なの?
 と、思えるような食材や器材まで用意して、調理場の割り当てられたところにやって来た。

(あ、でもボク、精神体だから食べられないんだよね? でも、まあ、いいや。せっかくの機会だし……ジニアスたちに美味しいやつを作ってあげて喜ばそう!!)

 しかし……。
 食材や器材は用意したものの……。
 料理なんてさっぱりやったことのないラサにはチンプンカンプンであった。

(卵焼きというのは……まず、卵をかき混ぜるものだよね! うん、きっとそうだ!)

 ラサは、ボウルを用意して、その中に、ウマドラの卵をパカパカと次々と割って入れて行った。そして、箸で、ぐるぐるかき混ぜた。

(卵焼きは……甘いやつを作ろう! 甘い、甘い……と言うと……うん、チョコレートだね! あとは、キャンディ……チューイングガム……バニラアイス……プリン……クッキー……。そうそう、調味料だよ! 砂糖をどっさりと! でも、甘すぎるのもいけないから…唐辛子、ニンニク、塩胡椒、オリーブオイル、赤ワインなんかも入れるときっといいよね! それから…………)

 本人は正しいつもりで……次々と奇抜な食材が溶き卵の中に投入されて行くのであった……。

(さて、こんなもんかな! 次は、卵を焼こう!!)

 よくわかっていない幼女は、卵焼き器をコンロにセットした。
 その中に、今先ほど合成した謎の液体を注ぎ込んだ。

(火は……強火……改……かな?)

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオ!

 凄まじい勢いで、コンロが燃え上がった。

(わ、いけない! 弱火にしておこう!!)

 急いで弱火に直し、卵が焦げてしまわないように、ラサは必死で、箸でかき混ぜるのであった。

(ふう……段々と落ち着いてきたな……卵焼きもそれらしくなってきた!?)

 そろそろ半熟になってきた頃だった。
 ラサは、フライ返しを使って、卵焼きをまきまき、と巻き上げる。

(うん、こんなもんだろう!!)

 精神体は、すさまじい臭いがする謎の卵焼きをお皿に盛りつけながら、笑っていた。

(ふふふ……ジニアス……ボクの愛を受け取ってね☆)


A−10 リシェルの調理


(へっ、卵料理を作るだと? たり〜よ、それ!)

 みんながせっせと調理開始をがんばっていたところ……。
 黒衣の遺跡発掘隊員・リシェル・アーキス(PC0093)は、だらだらしていた。

(しかし……本当に何もしねえとあとでジニアスとかから説教されるだろうし……。う〜ん……冷蔵庫でも漁ろう!!)

 リシェルは、ワスプの巨大な冷蔵庫を思いっきり開けて、冷えた中身を物色。

(おっ!! ビールがいっぱいあるじゃねぇか!! へへん、何がいいかな〜!! マギ・ジスビールもいいが……ハイランダーズ高原ビールなんてのもあるな……)

 だが、漁っている最中、リシェルはあることに気が付いてしまった。
 それは、ワスプのビールを勝手に飲んでいいのか、ということだ。

(ええと……今日はウマドラの卵料理を作るのでワスプのキッチンを自由に使って良い=キッチンにある食材は無料で各自に提供される=冷蔵庫の中にあるビールも食材の一種なので無料でもらっても差し支えはない=ここにあるビールは俺の物……うん、きっとそうに違いねえ!!)

 長年の経験から弾き出された公式の結論により、リシェルはハイランダーズ高原ビールの缶を2、3本、頂くことにした。

(あとは……つまみだ!! ビールには、つまみが必要なんだ!!)

 もはや本来の目的を喪失しているリシェルは、ワスプのコックたちが調理している場面をじろじろと眺めていた。

 どうやら……コックたちは、キノコのバター焼きとホルモン焼きを調理しているらしい……。

「おい、そこのコックたち!! それはなんだ?」

 リシェルが突然、背後から質問を投げかけると、コックたちは、我に返ったように、はっとした。そして、黒衣の男の方に、にこやかに答えを返す。

「これは……ハイランダケのバター焼きとハイノシシのホルモン焼きさ。ハイランダーズ国家でよく食べられている料理なのさ」

 なるほど……。
 それは、つまみに最高だな……。
 などといった回路が、リシェルの脳内で完成。

「よし、それと同じものをくれ! 3,000マギンある、これで頼む!!」

 リシェルは、財布から取り出した3,000マギンをコックたちに渡した。

「え? これをかい? まあ……この皿はお客さんに出すものだからあげられないけれど……少し時間をくれれば同じものを用意できるよ」

 コックは意外にもにこやかに応対してくれたので、腹黒い発掘隊員は、思わずにやりとした。

「ああ、あと、もうひとつ頼みが!! この手渡した予算内でかまわねえけれど……プリンも作ってくれ!!」

「ん? プリンかい? それならあっちの冷蔵庫(ビールとは別の冷蔵庫)にたくさん入っているから、必要なだけ持って行っていいよ」

 コックはリシェルの算段など全く気が付かず、好意でとんでもないことを教えてしまったのだ!

(よっしゃ!! ビール、おつまみ、プリンをゲットォォォ!! しかもプリンは、俺が作ったことにしてジニアスたちに食べさせよう!!)


A−11 リュリュミアの調理


 みんなが卵料理作りに精を出していた頃……。
 植物的な雰囲気を醸し出すお姉さん・リュリュミア(PC0015)は、分けてもらった鶏の卵サイズの卵をテーブルで転がしながら、ため息をついていた。

(はあぁ……。どうしよう〜? 流れでここまで来ちゃったけれどぉ……わたし……実は料理なんてできないよねぇ……。食べるのだったら得意なんだけれどなぁ……)

 しかし……。
 本当に何もしないわけにもいかないだろう……。
 彼女は意を決したかのように立ち上がり、「ある料理」を作ることにした。

(ええとぉ……まずはぁ……卵を割ろう!!)

 割り当てられた調理場で、ボウルを用意。
 ボウルの中に、卵を1個、パカリと割って、落下。

(次はぁ……箸でかき混ぜよう!!)

 ボウルの中身を、箸で丁寧に、まぜまぜとかき混ぜる。

(よ〜し……。それらしくなってきたわぁ……あとはぁ……)

 リュリュミアは、炊飯器のある場所に向かい、お茶碗に1杯、ライスをよそった。
 そして、お茶碗を両手で持ちながら、持ち場へと帰る。

(これを……流し来んでぇ……!!)

 ボウルの中に入っている溶いた卵を、ライスの上からゆっくりと、とろとろと流し込んだ。

(最後はぁ……コレ!!)

 食材としてもらってきた三つ葉を1枚、はらり、とライスの山頂に乗せた。

(できたわぁ〜!! 卵かけご飯!! わたしってぇ……すごい!! やればできる子じゃん!!)


●パートB コミュニケーション・パート


B−1 ジェニーと一緒に食べる

 各自の調理が終わった後、そのままキッチンに残って食べるわけにもいかないので、一度、ゲストルームの方へ移動することになった……。

 一同がゲストルームに入ると……。

「みなさん、こんにちは! きょうは、よろしくおねがいします!!」

 緊張した面持ちで、金髪の小さな女の子が笑顔で出迎えてくれた。
 ジェニーである。

「皆さん、今日はジェニーのために本当にありがとうございました!! 兄として、深くお礼を言わせて頂きます!!」

 ジェニーの横から、同じく緊張で顔がこわばっているティムが、ガチガチの姿勢であいさつをしてくれた。

 そこで、ナイトが間に入る。

「ま、お堅いごあいさつはあとにしましょうや! それよりもだ、ティムとジェニー。こちらの冒険者様方がウマドラの卵を調達してくれた上に、卵料理まで作ってくれたんだぞ! おまえら、今日のことは一生、感謝しておくんだぜい!!」

 ナイトが子ども2人の頭をくしゃくしゃとなでると、子どもたちははにかんだ表情で、冒険者たちに温かな眼差しを向けていた。

***

 ここで、ジェニーに卵料理を分け与える班の5人は、兄妹から距離を取って、ゲストルームの奥の一角で集合した。
 ちなみにその5人とは、鈴、ビリー、ミンタカ、アンナ、未来の5人である。

(さて、それはそうと……。どうしようか? 各自が作った料理をさっそく出してあげて、ジェニーに食べさせようか?)

 鈴が開口一番、仲間たちに問いかける。

(いいや……。余興があった方がええと思いますわ! ボク、マッサージが得意なんで、ジェニー嬢の肩を揉みまっせ!)

 ビリーの口元が、キラリと光った。

(うん、いいね! じゃあ……わたしは、手品をしてあげるね! 食べる前に楽しいおもてなしがあったら、きっとジェニーは喜ぶよ!!)

 未来も、両手をグーにしながら、ワクワクして提案に乗った。

(では……わたくしは、お掃除しますわ! 食べる前にテーブル近辺のクリーンアップをしますわ!)

 アンナも、両手をぱちん、と合わせて賛成した。

(じゃあ、僕は……。魔術で手品みたいなことをしようかな?)

 ミンタカも、頭をかきながら、賛同する。

(よし、わかった! では、俺も符術で手品もどきのことをやるか……)

 鈴も、当然のように、流れに乗ることにした。

 こうして、各自の出し物が決まり、決行に移った。

***

「1番、アンナ、クリーンアップしますわ!!」

 アンナは、これからジェニーや仲間たちが一緒に食事をすることになるテーブルの前に現れて、お掃除道具一式を取り出して、とっとと準備完了。

「それ、それ、それ、それ、それですわ!!」

 目にも留まらない迅速なジェット機のごとく……アンナはよく洗浄された布巾を両手に持って、一瞬でテーブルをピカピカに磨き上げてしまった。
 そのピカピカさは……ワスプのスタッフが雑巾がけをしてキレイにしたはずのテーブルを遥かに上回る清掃ぶりであった。

 そして、凄まじいピカピカぶりを前にして……。
 ジェニーとアンナは、テーブルの眩しさに負けて、まともに直視することすらできなかったのである……。

(ふふ……やりましたわ!! どうでしょうか、ジェニーさん!?)

 令嬢は偉業を成し遂げたかのような眩しい笑顔で少女の方に振り向く。
 すると、ジェニーは、テーブルにだきついて大はしゃぎだ。

「おねえちゃん、ありがとう!! たべるまえにぴかぴかになってよかった!!」

 ジェニーとアンナがじゃれていた頃……。
 他の4人は料理の運搬をしていた。

 鈴が料理を運ぶ滑車を滑らせて、全員分の料理を持って来てくれた。
 さらにミンタカがその滑車の後ろを押して、運搬を手伝っていた。

 続いて、ビリーがジェニーの前に出て来る。

「2番、ビリー、行きまっせ!! 『指圧神術』の極意、とくと見せまっせ!」

「きゃっ、きゃっ!! すごい! きゅーぴーさんだ!! つぎはどんなことするの!?」
 キューピー妖精の登場で、もてなされている少女もテンションが上がっている。

「ジェニーさん、まず座ってもらえるやろか?」
「はい、がんばります!」

 テーブルに着席したジェニーの背後に、ビリーが回り込んだ。

「はああああああああああああああああああああああああああ!!」

 座敷童子がスキルを発動し……。
 彼の両手が、神々しい黄金色の光に包まれて行く……。

「秘儀、ゴットハンド(指圧神術)、肩モミモミ、ほぐしまっせ!!」

 ビリーの両手が、ジェニーの両肩に向かって、すとん、と落ちる。
 黄金色の諸手は、小さい彼女の両肩を優しく、強く、揉み解して行く……。
 そして、肩のツボを刺激して、コリをほぐし、体内の循環を改善させ……疲労回復や病気回復の効能をもたらす指圧が惜しみなく展開されるのであった!

「う〜ん!! きゅーぴーさん、ありがとー! かたがすっきりするー!!」
 ジェニーもご満悦のようだ。

 そこに、未来が横からすっと入って来た。

「3番、未来! 手品をするねー!!」

 未来はポケットから私物のハンカチを取り出し、ひらひらと少女に見せる。

「ねえ、ジェニー! このハンカチ、前にも後ろにも何も隠されていない至って普通のハンカチだよね?」

 未来が確認をうながすと、ジェニーはハンカチをじっと見つめてから頷いた。

「うん! ふつうのハンカチ!!」

「だよね? でもね……なんと、ここから……ワン、ツー、スリー!!」

 手品師がハンカチをくるり、と翻(ひるがえ)すと、ハンカチの中に何やら金属製の短い棒のようなものが入っていた。

 そして、未来がハンカチを上から、ぱっと、取り上げると……。

「はい、スプーンだよ!!」

 手品師少女の手元には、スプーンが握られていた。
 その直後、彼女は小さな少女にスプーンを手渡すのであった。

「すごーい!! なにもないところからスプーンがでた!!」

 目を丸くして大声を出すジェニーの表情を見ながら、未来もつられて嬉しい気持ちになっていた。

 さて、盛り上がって来たところで、余興はさらに続く。

「4番、ミンタカ、やりましょう!!」

 魔術師青年は、テーブルの上に乗っている食器を前にして、何やら呪文を唱え出した。
 すると、スプーン、フォーク、ナイフが、ぷかぷかと浮き出したのだ!

「すごーい!! ういてる!!」

 ジェニーがはしゃぎだすと、ミンタカは、成功したぞ、と微笑した。

「はーい、これ、風の魔術! お兄さんは魔術を勉強しているんで、風で物を浮かせたりできるんだよ!」

「へえー、そうなんだ!? おにいさんって、すごいひとだね!!」

 盛り上がりの最後を締めくくるのはこの男、鈴だ!

「ラスト、武神鈴、やらせてもらおう!!」

 鈴は、符をポケットから取り出して、息をふっ、と吹きかけて軽く念じた。
 今度は……符が、真っ白い光を放ち、折紙の鶴になった。
 鈴が鶴を放り投げると、その折紙の鳥は、ぱたぱたと羽を広げて飛行するのであった。

「うわー! とりさんだー! きゃははは!!」

 少女が手を叩いて喜んでいるところ、鶴がぽとり、とジェニーの手元に落ちた。

「まあ……符術の手品だ。それ、やるよ」
「うわー、ありがとー!!」

 ジェニーに感謝されて照れくさい鈴であった。

 ミンタカと鈴は目があい、互いに苦笑した。

(しかし、風の魔術(あるいは符術も)本来はこういった使い方はしないけれど……それでも、小さい子に喜んでもらえるのなら、こういうのもアリかな……)

 と、いった心境のミンタカと鈴であった。

***

 盛り上がった余興が終わり、この班の5人はそれぞれの料理をジェニーに食べさせることにした。

「ジェニーさん、シュークリームはいかが?」
 アンナが、作ったシュークリームをたくさん皿に乗せて、さあさあ、と勧める。

「カスタードプリンもありまっせ!」
 ビリーは、自作のプリンをジェニーの目の前に持って行って、ニカっと笑った。

「最初はごはんもののオムライスからどう!?」
 未来は、オムライスのお皿を両手で持ちながら、ジェニーのそばへ持って行く。

「スフレもいいよね! 今ならまだアツアツだよ!」
 ミンタカは、三角に切られたチーズスフレのケーキが乗った皿を、小さな彼女に手渡そうとする。

「まあ、病気のときは温泉卵といった消化の良いものがまず良いだろう!」
 鈴は、麺つゆを垂らした温泉卵の小鉢を病弱な彼女に食べるよう促した。

 どれもこれも美味しそうだが……。
 ジェニーは、一度に5個の料理を同時に食べることはできない!

「う〜ん……。まようよお……。じゃあ、どれもひとくちずつたべるね!!」

 こうして、もてなされている少女は、それぞれの料理の最初の一口を食べることにした。

「まず、しうくるいむは……。う〜ん……そとがパリパリしてるね! なかの、くりいむもあまくて、ふわふわさいこー!!」

 ジェニーのうっとりとしたご満悦な様子に、アンナは、ほっと、胸をなでおろした。
 しかし……ちょっと上出来な評価かも、と思いながらも令嬢は微笑んでいた。

「じゃあ、つぎは、きゅーぴーさんのプリン! う〜ん……プリンもからめらも……おくちでとろけるあまさ〜! まあまあおいしー!」

 まあ、初めて作ったプリンな割には良い評価やん……と納得して微笑したビリーであった。

 ところでこの座敷童子、ここまでの展開であることを思い出した。

「ジェニーさん……。これ、渡しておきまっせ! 必要なときは、いつでもボクを呼んでくれていいねん!」

「ん? なにこれ? まっさーじけん!?」

 ビリーは、彼が手製で作ったマッサージ券をジェニーに手渡した。
 券は至って普通の紙に子どもの字で「マッサージけん」と書かれている紙切れであった。
 しかし、このアイテムは……券を空に向かってかざすと、ビリーを一瞬で呼べるラッキーアイテムなのだ!

(こんなモンで堪忍したって……今はこれが精一杯やねん。でも、きっとイイことありまっせ!)

 ビリーとしては、できれば貧困で病弱な彼女を救い出したいのだが……さすがにまだまだ修行中の身であるため、できることは限られていた。
 それでも、ジェニーに対して、今の自分でできる最大限のことをしてあげるつもりだったのだ。

「うん、きゅーぴーさん、ありがとー!!」

 少女は「マッサージ券」をポケットにしまうと、次の料理に移った。

「それでは、オムライス、いただきまーす! わー、うさぎさん、かわいー!! う〜ん……。ふわふわたまごに、あつあつちきんのらいす……。ふつうにおいしいねー!」

 ふ、ふつうにおいしい……のか……、とちょっとガクっとした未来であった。
 だけれど、まあ、最低限、普通に美味しいレベルのもので良かった……。
 と、ほっとした未来でもあった。

「つづきましては、すふれ? たべるね! う〜ん……。ケーキのいいにおい……あつあつだね! おあじも……ちーずとたまごのあじがたくさんして、まあまあおいしいよ!」

 あまりお菓子は作らないけれど、今回、奮発して作った甲斐はあったのかな……。
 と、ミンタカは苦笑いした。
 慣れないお菓子作りだった割には、まあまあおいしい、という評価は悪くないだろう、と開き直る。

「さいごは……おんせんたまご?」

 ジェニーが温泉卵の小鉢にフォークを突き刺そうとしたところで、鈴が彼女の隣に来た。

「お好みで、ネギやワサビを入れても美味しいぞ!」

「ん? ねぎやわさび? うん、ちょっとだけ、いれてみるね!!」

 さて、少女は改めて温泉卵を食べ出すが……。

「う〜ん……。おんせんたまご、つるつるして、ちょっとたべずらいかも……。でも……けっこうおいしいよ、これ!! たべるかんじがおもしろい! ねぎやわさび、からーい!!」

 ジェニーの割と良好な評価に笑顔の鈴であった。
 今回、まともに料理するよりも、理科の実験的に作れる温泉卵の方が自分は上手く作れるだろう……と、踏んでいた鈴の直感は当たったようだ。

 ともかく、ジェニーが5人それぞれの料理を一口ずつ食べた終えたところで……。

「あの……。シュークリーム、いっぱい作ってしまいましたの!! よかったら、皆さんもお食べになってくださいまし!」

 アンナは、皿に盛られためいっぱいのシュークリームを仲間たちにも勧めてあげるのであった。

「そうだね! これだけたくさん作ったんだから、ここにいるみんなで一緒に分けて食べようよ! わたしのオムライスもみんな分けて取ってね!」

 未来も、お皿に乗っている大きなオムライス(ジェニーの分ではない分)をフォークとナイフで切り分けて、小皿に盛り出した。

「プリンもたくさんありまっせ!! 皆さんで分けてくれるとうれしいで!!」

 ビリーは滑車のトレーの中に入っているカスタードプリンの瓶を取り出して、その場にいる全員に手渡した。

「スフレもたくさんあります!! せっかくなんで、皆さんのデザートにでもぜひ!!」

 ミンタカはストウブ鍋いっぱいに作ったスフレを人数分に切り分けた。
 そして、お皿にケーキを1個ずつ分けて盛って行く。

「温泉卵も人数分ならあるぞ! 食べて栄養つけてくれよ!!」

 鈴は小鉢に盛られている人数分の温泉卵を、滑車のトレーから取り出して仲間たちに勧めるのであった。

 この班の仲間たちは、ジェニーを囲んで、楽しい団らんのひと時を過ごせたのであった……。


B−2 ティムと一緒に食べる


 ティム少年は、ジェニーのお世話をするつもりだったので、ジェニーに分け与える班と合流して行動を共にしようと思っていたのだが……。

「ちょっと待ってくださいますか! わたくし……あなたのためにお料理をご用意致しましたわ!!」

 人魚姫マニフィカは、歩いて行こうとするティムを後ろから呼び止めた。

「え? 僕にですか!? 皆さん、今日はジェニーのために卵を取って来てくれて、料理まで作ってくださったのですよね!? なんで、僕なんかに……?」

 ちょっと混乱して挙動不審なティム少年に、人魚姫は笑顔で答えてくれた。

「ティムさん……。依頼の詳しい話はナイトさんから聞いていますの。妹さんのために、今回、がんばられたのよね? わたくし、あなたの肉親の情に心が動かされたので、今回の依頼には参加しましたの! ですから……ぜひ、あなたにもウマドラの卵料理を味わって頂きたいのですわ!!」

 マニフィカの心がこもった言葉に、少年は、はっとしたようだ。
 気が付けば、顔が真っ赤になっていた。

「い、いや、べ、べつに、僕は……。兄としてあたりまえのことをしただけで! そ、そんな、人様からほめられるようなことは、なにひとつとして……!!」

 人魚姫は、慌てるティムの頭をそっとなでた。

「もっとも……。わたしく、お料理は初心者なので……あまり美味しくないかもしれませんけれど……。それでも、まごころで作ったお料理なので、食べて頂けませんか?」

 さすがに、断る理由はどこにもない。
 むしろ少年は感謝の気持ちでいっぱいだった。

「は、はい……! 喜んで!!」

***

 ゲストルームの一角……。
 ジェニー班とは少し離れた席で、ティムが着席をした。
 マニフィカはキッチンから、大皿に盛られている海鮮カルボナーラを、滑車のトレーで運んできた。

「まだまだ熱いですわよ! 冷めないうちに召し上がれ!!」

 当パスタを作った調理人は、巨大なスプーンとフォークに絡めて、中身を小皿に取り分けるのであった。

 取り分けたティムの分であるお皿を手渡し、自分の分も席の前にゆっくりと置いた。

「では、いただきます!!」

 ティムはフォークとスプーンを使って、パスタを巻き巻きした後、口へ運んだ。
 パスタには、海鮮汁、卵汁、クリームがたっぷり絡められている。

「うん! まあまあ美味しいです! 初めて作った割には上出来じゃないですか!? って、バイト料理人の僕が言うのも変ですが……」

 マニフィカは、まあまあ美味しい、という評価でも満足であった。
 最高に美味しい、と言われなくても……。

 それは、初めて作った海鮮カルボナーラだから、という意味よりは……。
 自分が食べてもらいたいと思って作った人が、笑顔で美味しく食べてくれているからだ。

「へえ……。ウマドラの卵って初めて食べましたけれど……。こんなにも濃厚でパンチの効いた卵味なんですね!? しかもお姉さんが作った海鮮具材などもいい具合にミックスされて、より一層、味が引き立っていますね!!」

 と、詳しい評価を終えたや否や……。
 食べ盛りの少年は、がつがつと、マニフィカの料理を夢中で食べてしまうのであった。

「ふふ……。良い食べっぷりですわ!! まだまだたくさんありますからね! ぜひお代わりしてくださると嬉しいですわ!」

 ティムが満足そうに手料理を食べてくれている光景を眺めながら……。
 マニフィカ自身も、海鮮カルボナーラを口へ運んでみたら……。

(うん! 本当にまあまあ美味しいですわね! ふう……ナイトさんにみてもらって良かったですわ!! この調子で、今後もお料理はがんばって続けて行きたいですわね!)


B−3 コーテスと一緒に食べる


 ジェニー班やティム班が料理を楽しみ始めている頃……。

 ひとりの青年は、ワスプのゲストルームに向かって走っていた。
 しかしこの青年、運動が苦手な魔術師なので、走っても遅いのだが……。

「はあ……。はあ……。すんません……。遅刻かな……!?」

 真っ赤なスパイクヘアーの魔術師青年が、ゲストルームの扉をくくった。
 すると、扉の前で巨体のアメリカン・レディが、ギロリとにらんで、彼の肩に手をぽん、と置く。

「ヘイ、コーテス!! レイト(遅刻)ね!!」

「わーん!! ジュディさーん……ご勘弁を!! 今日は風紀委員会が休みで……さっきまで街中をうろついて……いたんですよ!! 急に呼び出されても……これが……全速力!!」

 今、ジュディと会話しているこのNPC、名をコーテス・ローゼンベルクという。
 聖アスラ学院風紀委員会の副委員長を務めている大学生だ。
 ちなみにジュディとは、「聖アスラ学院のお化け事件」のときに一緒に調査をしたことがあり、「新年祭」では共にどんちゃん騒ぎをした間柄であるのだ。

 なおこのNPC、実は今回のウマドラシナリオとは何の縁もゆかりもない人間だ。
 だが、ジュディの好意によって、今回、特別に招待されたのであった。

***

 とりあえず、ゲストルームのテーブルの一角で2人は着席した。

「で、ジュディさん……。ウマドラの卵料理……を食べるんで……したっけ? しかし……なぜ、僕を!?」

 明らかに部外者である彼は、念のため、確認を取るところから始めた。

「ビコーズ(なぜなら)……。レヴィゼル・チャーチのニューイヤーフェスティバルのときは、ターイヘン、お世話になったからデース! 屋台で共にフードファイトして、フードやドリンクをオゴッテもらって、ゲームもツキアッテもらって……サンクスベリーマッチですネ!! そのお礼ネ!!」

 ああ、なるほど……。
 と、一応、頷くコーテスであった。

「いやいや……あれぐらい……オールオッケーですよ!! しかし……あのお祭りのとき、最後に、空中魔法テーブルを……ジュディさんがハイジャックしたときは……心臓がぶっ飛ぶかと……思いましたよ……」

 コーテスは、唐突に嫌なことを思い出すのであった。
 もっとも、彼に悪気はない。

「ワッツ!? (なにそれ!?) アイ・ドン・ノー!(知りませんよ!)」

 両肩をすくめて、諸手をあげるジュディ……。

「え!? ジュディさん……酔っぱらって……大変……だったでしょう!?」

 しかし……。
 このことをぶり返さない方がコーテス自身のためになるだろう……、と思い至り、これ以上は深い追及をやめる副委員長であった。

***

 ともかく……。
 料理が冷めないうちに、2人は頂くことにした。

 テーブルの上には、巨大なお皿に盛られたほっかほかのスクランブルエッグが登場!
 鮮やかな黄色に彩られた柔らかそうな半熟の卵料理……。
 しかも、ハム、ハーブ、チーズも豪勢に盛られている。

「うわー!! すごい……ですね……! スクランブルエッグですね!? ハム、ハーブ、チーズ……は、ジュディさんの……オリジナルかな?」

 料理を盛り分けながら、ジュディが笑顔で答え返す。

「イエス! バーガーファミリー、オリジナルよ!」

 ジュディが、お皿に盛られたスクランブルエッグをコーテスに手渡すと……。
 彼は、早くもよだれを垂らしていた。

「ふふ……。ウマドラの卵料理か……。久しぶりだな……」

「ん? コーテスは……ウマドラ・エッグを昔、イートしたのデスカ!?」

「ええ……。実家がハイランダーズに……ありますので……。子どもの頃……新年祭のときに……僕の母親が……ウマドラの卵焼きを……作ってくれたので……」

 ちょっと思い出に浸りながら、副委員長は、フォークでエッグをすくって、パクリ、と口に放り込んだ。

「むむむ……これは……!? けっこう美味しい……って、やつじゃ……ないですか!? ウマドラ独特の濃厚さ、甘さ、破壊力が口の中に……響き渡り……。しかも、スパイスやアレンジが……さらに美味さを加速させる勢いで……なんというか……デリシャスの一言ですよ……!!」

 懐かしさと美味さで泣きそうな表情で、しかも、心から喜んでスクランブルエッグを食べてくれるコーテスを見つめながら……ジュディも満足そうである。

 調理した本人であるジュディも、スクランブルエッグをフォークですくって食べ始めた。
 今日はいつもみたいにガツガツと食べず、バーガー家の味とウマドラの味を、心より味わいながらの食事となった。
 そして食べている最中、ジュディは、今は遠いところにいるグランマとの思い出に浸るのであった……。


B−4 仲間たちとパーティをする


 各班がそれぞれのパーティを始めている頃……。

 ゲストルームのテーブルの一角で、ジニアスたちは祝賀会を始めていた。

「卵調達、お疲れっした。成功を祝してカンパーイ!!」

 ジニアスが、ハイランダーズ高原麦茶を頭上に高く掲げ、乾杯を叫ぶ。

「おう! 乾杯だぜ!」

 リシェルも、ハイランダーズ高原ビールの缶を掲げながら、一緒に叫ぶ。

「いえーい! かんぱーい!!」

 ラサは、飲めないのであるが、お冷を掲げて乾杯した。

「はーい! かんぱいねぇー!!」

 ゲストルームでうろうろしていたところ、この班に合流していたリュリュミアも、高原ビールの缶を頭上に上げて、乾杯に便乗していた。

***

「いやー、それにしても、今回は良い冒険をしたし、手に入れたウマドラの卵で料理したのも楽しかったなあ……。ささ、和風かき玉春雨スープを作ったんで、みんな、遠慮なく食べてくれよ!!」

 ジニアスは、滑車のトレーからスープが入っている鍋を取り出した。
 ラサは食べられないとして……。
 その場にいる人数分3人分のスープをどんぶりによそおい出した。

「スープにはぁ……。ご飯よねぇ〜! さあ、じゃんじゃん行ってねぇ〜!!」

 リュリュミアも、彼女特製の卵かけご飯を、トレーから取り出す。
 3人分のお茶碗を人数分、配るのであった。

「おい、俺はプリンを作ったぞ!! さあ、遠慮なく食ってくれぇー!!」

 実はリシェル、このパーティが始まる前から既に着席しながら、一杯やっていたのだ。
 彼は既に高原ビールを3缶空け、ハイランダケのバター焼きとハイノシシのホルモン焼きを完食していた。(ちなみに今のビールで4缶目だが、この男は全く酔っていないらしい……)

 ジニアスは、ゲストルームに入って彼を発見したとき、何か怪しいと思ったのだが……。
 とりあえず、本人が作ったらしいプリンが数瓶、テーブルに置かれていたので、信じてあげることにしたそうだ。

 3人が楽しそうに、料理を配っているところで……。
 ウェイターが滑車を引いてやって来た。

「ええと……ジニアスさんのテーブルはここですかな? ご注文のハイランダケのバター焼きとハイノシシのホルモン焼き、3,000マギン分、ただいま、お持ち致しました」

 店員が、ほかほかのきのこ料理とホルモン料理の皿をテーブルに並べてくれた。
 どうやら、ジニアスが事前に注文してくれていたものらしい。

「ありがとうございました!!……ささ、みんな、これも食べてくれよ! 俺のスープだけでは、ちょっとさびしいと思ったので、追加の注文もしておいたんだ!」

 わはは……。
 ジニアスって、気が利くよね……。
 うん、きのこもイノシシも美味しそうでいいよね……。

 などと、みんなで盛り上がろうとしていたところ……。

「あのさあ……。みんな、何か、とんでもないこと忘れてない!? ボクね、卵焼きを作ったんだけれど……!!」

 必死で注意を促すラサ。
 ラサは笑顔だが、血管のバツ印がおでこに出現していた。

 ところで、彼女の料理……。
 とある少年漫画みたいに……。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。
 といった禍々しい効果音とダークカラーのスクリーントーンが、卵料理に!!

「あ、ああ……。ラサ……ありがとう……卵焼きを作ってくれたんだね!? うん……すごいなあ……美味しそうだなあ……俺……うれしいなあ……ははは……」

 無理に笑うジニアスだったが、リシェルは笑いをこらえていて、リュリュミアは何かを悩んでいた。

「あのぉ……。もし、リサイクルするつもりならぁ……わたしが、『腐食循環』のスキルでこれを土に還しておこうかなぁ〜?」

 とんでもないことを、悪気なしで、さらりと言い放つリュリュミア……。
 ジニアスの方をみつめながら、にたにたと笑うラサ……。
 ひたすら笑いをこらえるリシェル……。
 冷や汗がたらたら出ているジニアス……。

「あのおよ……。俺さ、さっきからキノコとイノシシ食って、腹がいっぱいなんだよ。それによ、ビールも飲んでいることだしな……。と、いうことで、俺の分はジニアスにやるぜ! ていうか、その顔は、たくさん食べたくて仕方ないっていう表情だよな?」

 リシェルは、ラサが取り分けてくれた分の皿を、ジニアスの方へスライドさせた。

「へ、へぇ……。そうなんだぁ? ジニアスさんが欲しいならわたしの分もどうぞぉ〜!」

 ジニアスがこの卵焼きを心から欲しがっていると勘違いして、リュリュミアも自分の分を差し出した。

 ジニアスは、もはや後がない……。

(だが、あきらめてはいけない!
 あきらめては終わってしまう!
 俺は、あきらめない冒険者のジニアスだ!!)

 魔剣士青年は、覚悟を決めて、ラサが分けてくれた暗黒系卵焼きをがっつりと食べだした。

(む!? こ、……これはっ!!)

 カチン、と魔法がかかったように固まるジニアス……。
 一同は、彼の生死を見守る……。

「う、うん……はじめて作ったにしては、上出来だよ!!」

 はあ……はあ……と、あえきながら食べるジニアスにラサは追撃を加える。

「本当!? よかった!! 作ったかいがあったよ!! じゃあ、全部食べてね!!」

 真に受けたラサは、キラキラした眼差しで、お代わりをよそってくれた。
 一方で、ジニアスのテーブルには、リシェルとリュリュミアが分けてくれた(押し付けてくれた)分もある。

 男ジニアス、覚悟を決めて、一気食い!!

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!」

(ぐはぁ……。まっさらに……燃え尽きたぜ!!)

「おい、誰かー!! 回復魔術を使える奴いねえかー!? ジニアスが……ジニアスが、大変なんだー!! くっ……死ぬなよ、戦友! 俺の『回復球』でひとまず応急処置を……」

 リシェルはノックアウトされた友人を介抱し、必死で助けを叫ぶのであった。
 もはや事態は、戦闘シナリオの展開だった……。

***

 ラウンド2……。

「卵調達、お疲れっした。成功を祝してカンパーイ!!」(ジニアス)
「かんぱーい!!」(他の3人)

 さて、気を取り直して……。
 一同は、再び祝賀会を続ける……。
(ラサだけ、ちょっとガックリしながらみんなが食べるところを見守っている……)

「ん!? おいジニアス!! このスープ、マジでうめえよ!! 特に卵、最高!!」

 リシェルは、卵に絡めた春雨をずるずると箸で食べながら、琥珀色のスープをごくごくと飲み込む。

「あらぁ!? 最高に、いいお味ねぇ〜!! 卵ダシも強くてアクセントがあるわぁ!」

 リュリュミアも、お野菜と卵をパクパク食べて、温かなスープをスプーンですくって飲んでいた。

「え? マジで?」(計量は直感でやって適当だったんだけれど……)

 先ほど、キッチンで作った際に、自分用のスープは試しに飲んだものの……。
 まあまあかな、とジニアスは自分で思っていたが、仲間たちの反応を見る限り、最高の一品が完成していたようであった。

「よっしゃ! 春雨スープに飯を駆け込むぜ!!」

 リシェルは、リュリュミアが作った卵かけご飯を、バクバクと食べだす。

「おっ!? 飯の方は、卵の味がそのまま出ていて、まあまあ美味しいって感じだぜ? うん、まあいいや! スープと一緒にがつがつ行くぜ!!」

 友人の好反応を窺いつつ、ジニアスもご飯に手を付ける。

「ん? うん……。確かに、卵のパンチが直に効いていて、まあまあ美味しいね……。」

 箸が進むジニアスは、スープをごくごく飲みながら、ご飯も美味しく平らげるのであった。

「うふふぅ〜!! 卵のご飯も美味しいわねぇ〜!! しかもスープもあってぇ、きのこもあってぇ、ホルモンもあってぇ、たのしいわねぇ〜!!」

 リュリュミアは、目の前にたくさんの料理が広がっていて上機嫌だ。

「あ、そうだ! デザートにプリンもあるんだよな、リシェル!? 楽しみだぜ!!」

 一足早く、ジニアスはリシェルが作ったというプリンに手を伸ばす。
 そして、スプーンで一口分すくいだして、パクリ、と食べる。

「へえ〜! 普通に美味いぞ!! リシェルにこんな才能があったなんて!!」

 驚きを隠せない友人に向かって、リシェルは、がはは、と豪快に笑い出した。

「あたりめえだろう? ワスプのコックが作ったプリンなんだから、うめえに決まっているだろ!?……はっ!! しまった……!!」

 え……!?
 今、この人、なんて……!?

 ジニアス、ラサ、リュリュミアが冷凍魔術にかかったかのように凍結した。

 解凍後……。

 ジニアスは真顔で、静かな口調をもって語り出す……。

「リシェル……。あんたとは、今後の交友関係をどうするかも含めて、一度、腰を据えて話し合うべきだと思うんだ……」

「ジ、ジニアス……!! すまん! 俺が悪かった!! マジでキレないでくれ!! 頼む!!」

 ラウンド2は、ジニアスの説教とリシェルの土下座で終了したのであった……。


B−5 ワスプからのお礼


 ワスプが雇った冒険者たちが、ゲストルームでパーティを楽しんでいる頃……。

 ナイトは厨房で、ミキサーを操作しながら、あるものを作っていた。

(ふんふんふん♪ こんなもんですかね!?)

 ミキサーでガガガ、と機械音を立ながらミックスしているナイトだが……。
 傍目から見ると、ちょっとグロテスクかもしれない……。

 ミキサーにウマドラの卵や砂糖などの調味料を入れるところまでは割と普通だったのだが……。
 その後、紫色の特殊なハーブ、赤でも白でもない青のワイン、黄金のマムシ、真っ黒い鷹の爪、フリーズドライのミツバチ、そのミツバチのハチミツ、巨大エスカルゴの目玉、食用符術、妖怪植物の種、トロピカルな色をしたスライムのゼリー……などと世にも奇妙な食材を次々とミックスしていったのだ……。

 この男……本当にワスプでトップレベルのコックなのだろうか!?

 ナイトが、ガガガと、調理を完成させているところに……。
 ジニアスとラサがやって来た。

「ん? どうしたましたかい? パーティはそろそろお開きで?」

 ナイトが確認を促すと、どうやらこの2人は真剣な表情で歩み寄って来た。

「いや、パーティの方はまだ皆さん、楽しまれているようで……それよりも、ナイトさん……」

 ジニアスがまっすぐに見つめると、ナイトは、ふっと、微笑した。

「俺に何かご用ですかい? 話すなら、今ですぜい?」

 意を決して、ジニアスとラサは口を切る。

「あの……。俺、ワスプで働きたいんです!! 俺を雇って頂けませんか?」
「ボクも……ジニアスと一緒にここで働きたい!! お願い!!」

 2人の真剣なお願いに、年長者のギルド職人は、にこやかに笑い出した。

「本当ですかい!? それは、ぜひこっちからお頼みしたいぐらいですぜい? 見たところ、あなた方、手練れの冒険者ですね? あのウマドラ相手にかなり善戦したそうだから、違いねえと思いますぜ。ま、うち専属の冒険者ももっと欲しかったし、用心棒も増やしたいと思っていたのでね……」

 ナイトがお願いを聞き届けてくれたことに、冒険者の2人は満面の笑みを浮かべた。

「ナイトさん、ありがとうございます!! 俺、がんばります!!」
「ありがとうございます!! ボクもがんばる!!」

 ところで……。
 と、ナイトは完成したミキサーの中身に目を向けた。

「ま、お雇いの詳しい話は後日にしたいと思うんで、明日にでもまたうちに来てくださいね。ところで、このミキサーの中身、何だと思いますかい?」

 怪しいミキサーを目のあたりにして、冒険者2人は目を点にしていた。

「え? なんですか、これ!?」
(ねえ、ジニアス……。これ、大丈夫かな? さっきのボクの料理みたい……!!)

「ははは、これは『ウマドランV』ですぜい!! ちょっとした奮発剤ですぜい。こいつを飲むと、体力が完全回復、眠気が醒めて、胃袋は満腹!! ま、皆さんの今後の冒険にお役立ちするアイテムをワスプとしてもご提供させて頂こうと思ってね……」

 う〜む……。
 見るからに、不思議なドリンクではないだろうか……。
 これが、ねえ……。

 とは、これから先輩になる人に向かって、言ってはまずいだろう、と思いとどまるジニアスとラサであった。

「ああ、あと、これも皆さんに配布しますぜい! 魔法のポットで作ったお持ち帰り用パックですぜい! これに入れれば、今日、作った卵料理が、新鮮なまま、いつでもどこでも賞味できる優れものですぜい」

 キッチンテーブルには、魔法のポットが無数に並べられていた。
 その横で、例のミキサーの中身を移し替える瓶もたくさん置かれていた。

「ささ、お2人とも! 手が空いているなら、手伝ってもらえますかい?」

 ナイトに頼み込まれ、ジニアスとラサはお持ち帰りパックと瓶の配布を一緒に手伝うことにしたのであった。

***

 こうして、ウマドラの卵料理を巡る一連の冒険もこの夜のパーティにて、無事に幕を閉じたのである。

 ちなみにこれは後日談だが……。
 このパーティで滋養料理を食し、栄養をつけたジェニーは着々と回復に向かっているようだ。孤児院が開いている学校にも、再び通えるようになったそうである……。

<終わり>