「ウマドラの卵料理が食べたい!!」(調達編)

第一回

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ


1.下準備編

2.エリアA(難易度:易しい)攻略編

3.エリアB(難易度:普通)攻略編

4.エリアC(難易度:難しい)攻略編

4−1 作戦会議

4−2 陽動部隊

4−3 卵2付近部隊

4−4 卵3付近部隊

5.リザルト



1.下準備編

 標高4,000メートルを誇る紅き高山・ウマウ・マウンテンの上空にて、一機の小型飛空艇が青空を優雅に泳いでいた。

 やがて飛空艇は、山頂付近の平らな大地にゆっくりと、ふわふわと着地する。
 着陸した飛空艇から、扉が開き、同時に階段が飛び出す。
 中から、白衣を着た科学者らしき男とキューピーヘアの子どもが出て来た。

「ふう……。さすがにハイランダーズ国家が誇る高山の一山だけあって、見晴がいいな……。ふむ? あのあたりにある3つの洞窟がウマウマドラゴンの巣窟だな?」
 白衣の男、武神 鈴(PC0019)は洞窟を眺めながら、伊達眼鏡の奥にある瞳が輝いていた。彼は腕を空に向かって伸ばしながら、これから始まろうとする本日の一大作戦に対してワクワクしているようだ。

「ウマウ・マウンテンは空気がえろううまいやん? ほな、今から預かっていた発明品の数々、だしまっせ?」
 飛空艇から続いて降りてきたキューピー姿の子ども、ビリー・クェンデス(PC0096)は、深呼吸を始めた。そして、肩から担いでいた「打ち出の小槌F&D専用」を、「ほれ、ほれ!」と唱えながら空振りし出す。

 すると、小槌から、ぽん、ぽん、と煙になって怪しい発明品の数々が飛び出てくる。
 発明のうち一種類は、「おとりくん」だ。
 人型の大きさで、4足で動き、敵に異臭を放って挑発するマシーンである。
 まるでクモのような外見である。
 もう一種類は、「とんぼっと」だ。
 文字通り、昆虫のトンボ程の大きさだが、敵の情報や位置情報を解析したりするマシーンなのだ。
(本当はあともう一種類、あらゆる状態異常攻撃を無効化する腕輪もあったのだが……。鈴の時間不足とエネルギー不足で製造には至らなかったのが残念なところである……)

 ビリーが小槌を振っているとき、鈴の方は飛空艇からキャンプセットを取り出していた。周囲が森に囲まれている平らな大地の上で、さっそくベースキャンプを造り出す。さらに広げた折り畳みテーブルの上に、パソコンを設置し、起動する。

「よし、ビリー、その機械たちをこっちに持って来てくれ! 今からパソコンとつなげるから……」
「まいど!」

 鈴とビリーは一緒に「おとりくん」と「とんぼっと」を起動したパソコンとつなげ始めた。パソコンの画面は、メカたちのカメラ経由で周囲の光景が映り出した。

「ふう……。それにしても……。昨夜から徹夜でこいつらを造っていたから疲れてきたな……。両肩も痛てえし……。ビリー、なんとかならないか?」
 椅子に座りながら、右手で左肩をぽんぽんと叩いている鈴の背後にビリーが回り込んだ。

「鈴さん、もみほぐしまっせ!!」
 ビリーが技能「指圧神術」を発動すると、両手が黄金に輝き出した。ビリーはゴッド・ハンドと化した両手で、鈴の両肩を整体師顔負けの力量で指圧していく……。
 すると……。

「おお!? すげえ!? これぞ軌跡か!? 両肩の痛みがウソみたいにとれて行くぞ! おや? 徹夜で溜まっていた疲労も段々と薄れて行く……」
 指圧により血行が良くなり、体の循環がいい具合に回復していく鈴は、みるみると笑顔になっていった。

「ありがとう!! これで今日一日、がんばれそうだ!」
「まいど、おおきに!!」

 回復した鈴は、さっそく「おとりくん」と「とんぼっと」を起動させ、それぞれの洞窟に送り込む用意を始めた。

 送り込むのは……。

洞窟
マップA(難易度:易しい) おとりくん1台 とんぼっと2台
マップB(難易度:普通) おとりくん2台 とんぼっと3台
マップC(難易度:難しい) おとりくん3台 とんぼっと4台

 と、いった具合だ。

 起動したメカたちは作戦を開始する。
「おとりくん」たちは、クモみたいに這いつくばりながら洞窟へ向かって行く。
「とんぼっと」たちはトンボみたいに飛びながら洞窟へ羽ばたいて行った。

「さて、俺ができるのはこの辺までだな。何分、今回はサポート役なんでね。みんな、武運を祈るよ……」
 鈴は送り込んだメカたちが全て行くまで見届けていた。

「ほな、ボクは洞窟の方で他の仲間たちのサポートしてきまっせ!!」
 ビリーはそう言うや否や、技能「神足通」を使い、一瞬で消えていなくなってしまった。

「ふむ? 座敷童子か……。面白い仲間だ。実に興味深い……。ま、俺もがんばろう!」
 鈴は自分が放ったメカたちがちゃんと洞窟まで向かっているかどうかをチェックするため、パソコンの席に戻り、映像解析を始めた……。

2.エリアA(難易度:易しい)攻略編

 鈴たちが下準備をしていた頃、他の班も行動に移っていた。いわゆる「エリアA」と呼ばれる洞窟に2人の女性たちが到着していた。

「ふう……。この辺が『エリアA』ですわね? 間違いないかしら?」
 人魚姫(今は人間の姿)、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、ハンカチで額の汗を拭いながら、目の前の小さな洞窟を指差して質問する。

「う〜ん。ちょっと歩いたねえ〜! でも、きっとここだよ、マニフィカ! 『ワスプ』でナイト(NPC)からもらった地図だと、目の前のこれじゃん?」
 レンジャー姿のお姉さん、シェリル・フォガティ(PC0065)は地図を広げながら、マニフィカに対してにこやかに回答する。

 ちなみにこの2人、「ロープウェイ」の地点から山道を少し歩いて来たのだが、さすがに若くて体力があるので、まだまだ元気だ。

「ですわね! でも突入前に、武神さんの指示を待った方がよろしいのかと思いますわ」
「うん。鈴のメカたちがそろそろ来る頃だね?」

 女性たちが洞窟前で話し合っていると、2匹のトンボが飛んで来て、洞窟内へ入っていた。
 そして、洞窟前で、這って来たクモのようなメカが突然停止した。
 2人がその光景を眺めていたら、手持ちの「スカウター」から男の美声が聞こえてくる。

『ジジジ……。応答せよ、応答せよ、こちら武神鈴! 今、そちらに『おとりくん』と『とんぼっと』が向かったはずだが、至急、確認を頼む!』

「おや? 話している傍から、鈴から連絡が来たようだね?」
 シェリルは「スカウター」を耳にかけて、話しかける。

「こちらシェリルとマニフィカ! 今、トンボとクモみたいなメカがこっちに来たよ? 作戦を開始していい?」

『ジジジ……。今、『とんぼっと』が洞窟の地形と敵の正確な数を把握した……。データを転送する……』

 すると、2人の「スカウター」に地図と敵データが映し出された。

***



敵の陣形:

卵1付近:ウマウマドラゴン(大人)1匹。ウマウマドラゴン(子ども)2匹。ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ2匹ずつ。卵を守っているのは、ウマウマドラゴン(大人)。洞窟の中央付近で待ち構えている。

***

「まあ、これはブリリアントですわ! さすがは発明王の武神さん!」
「鈴、やるじゃん!! ありがとー!」

 女性たちに褒められて、鈴は嬉しいのか嬉しくないのか「スカウター」越しでわからなかったが、一瞬、黙ってしまった。

『ジジジ……。とりあえず、作戦開始だ。今から『おとりくん』一台を洞窟へ送り込む……。あとはそちらで立てた戦術通りに動いてくれ。何かあれば『とんぼっと』で適時、サポートする……』

 こうして、「エリアA」の攻略が開始された……。

***

「ウマ? ウマウマ?」(訳:おい? なんか洞窟の外が騒がしくねえか?)

「ウ? ウマウマウマ?」(訳:そうですか? 気のせいですよ?)

「エリアA」の洞窟中心部にいるウマウマドラゴン(大人)とウマウマベビードラゴンが会話をしていた。大人のドラゴンの方が卵を抱えて守っている。そして、その隣にいるベビードラゴンの方が大人に命令されて、入口付近まで様子を見に行くことになった。

「ギギギ……!!」
 まるで巨大なクモみたいな形状のメカが洞窟内に現れ、奇声を発した。しかも、のそのそと、それでいて素早いムーブで縦横無尽に走り始める……。

「ウマー!!」(訳:なんだこいつ!!)

 ウマウマベビードラゴンはウマウマと泣き叫び出し、洞窟内で共生関係にある「お化けハイランダケ」や「グリーン・ハイノシシ」といった面々にも、こちらへ来るようにと催促をする。

 突然、変なメカが現れてワケがわからないのだが、ベビードラゴンの指示を無視するわけにもいかず、お化けハイランダケとグリーン・ハイノシシが一緒に様子を見に来た。

 すると、怪しいメカが突然、スプレーノズルから真っ黒な濃い霧を噴射し出す。
 噴射された霧を吸い込んでしまったベビードラゴン、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシの3匹は、けほん、けほん、ぐは、ぐは、と咳き込み出す。

 黒い霧から異臭が立ち込め、周囲にいたモンスターたちはひっくり返って、もがき苦しんでいた。

 洞窟外で見ていたシェリルとマニフィカは、作戦の第一段階が上手く行ったことを確認。その後、マニフィカが「トライデント」をくるくる回して祈り、水術の召喚の術式を発動させる。

 マニフィカの前で地中から水流が沸き起こり、水面から青いストレートロングの髪と瞳を持つ美しい女性が出て来た。彼女は、水の精霊「ウネ」である。

「何かご用かしら〜?」

「ウネお姉さま! お願いがありますわ! わたくしたち、この洞窟にある卵を取ってくる必要がありますの。わたしくが卵を採取している間、おとりの役をやって頂けませんこと?」

 マニフィカの突然のお願いに、ウネは嫌な表情をひとつせず、にこやかに答える。

「かしこまり〜!!」

 ウネはそれこそ水流のようにウネウネとくねりながら、半透明の液体状の身体をゆらしながら洞窟へ入って行った。

 洞窟内は、未だに大騒ぎだ。
「おとりくん」が大暴れしている最中である。
 そこにウネが乱入☆

「あ〜め、あ〜め、ふ〜れ、ふ〜れ、ウネさ〜ん、がぁ〜!!」

 ウネは、水の精霊の「能力」を「大」の加減で駆使して、雨乞いを始める。
 すると、洞窟の上空が曇り出し、閃光と共に小さな稲妻が洞窟の天井の一部を破壊した。
 稲妻の一撃が終わると、雨水がすさまじい勢いで降り始めた。
 雨水は天井から滝のように侵入する。
 やがて力を増した雨は、洞窟内にいるモンスターたちをびしょびしょに濡らし行く。

 さて、この中で特に困ったのはお化けハイランダケとドラゴンリーフだ。
 これらのモンスターたちは胞子や花粉を飛ばせるのだが、水浸しになり、特技が半ば、封じられてしまった!

「よ〜し、いい感じじゃん!? じゃ、あたしたちも突入しよう!」
 シェリルは突入と同時に走り出し、卵を守っているウマウマドラゴン(大人)を目がけて一直線に突き進む!

 ウマウマドラゴンは侵入者たちを快く思わないどころか、逆上していた。
 洞窟内を荒らした者たちに制裁を加えるつもりで叫び出す。

『ウマウマーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

 ドラゴンはキレた勢いで、周辺に響き渡る「雄叫び」を叫び散らす。
「雄叫び」を受けて、「おとりくん」の動きが一時停止し、「ウネ」がゆらゆらと揺らいだ。
 シェリルはでんぐり返しをして除けようとしたが、「雄叫び」の射程内に入り、体が動けなくなる!

「雄叫び」発動直後、動けなくなった一同めがけて、モンスターたちが走ってきた。グリーン・ハイノシシが「おとりくん」を弾き飛ばし、お化けハイランダケが傘でシェリルにタックルをかます!

「きゃっ!!」
(つぅ……。痛あ〜い!!)

 タックルで後方に飛ばれて尻餅をついたシェリルだったが、「雄叫び」のスタン効果が切れて、態勢を立て直した。
 立ちあがったシェリルは、ボスのウマウマドラゴンに向かって再び走り出す。
 そして、ドラゴンの前で輪っか状のロープ(提供:ワスプ)を腰から取り出して、ぶんぶんと回し出した。

「や〜い!! ウマウマ〜、こっちおいで〜!!」

 シェリルの挑発に乗ってか、それとも洞窟が荒らされるのをこれ以上我慢ならないのか、ウマウマドラゴンがついにのそのそと動き出した!

『ウマウマウマーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』
 ウマウマドラゴンが吠え、「ファイアブレス」を思いっきり放つ。
 凶暴なブレスに威圧されつつも、シェリルは後方にバク転しながら射程外へ逃げた。

 少しピンチになってしまったシェリルに対して、鈴から通信が入った。

『ジジジ……。こちら武神鈴! シェリル、その炎には当たらないように頼む! 解析によると、当たると特大ダメージを受けて燃えてしまうようだ! 生身の人間だと一撃でやられる場合もあるぞ!』

「スカウター」越しに応答を返すシェリル。

「ありがとー! でも、お礼を言っている場合じゃないかもね! って、また炎、きゃっ!!」

(マニフィカ……!! 早く!!)

***

 一方でマニフィカは……。

 ウネを放った後、彼女は、鞄から取り出した「魔導動物概論」(ネズミ編)をぱらぱらとめくっていた。すると、淡い光に包まれて身体が透明化して行ったのだ……。さらに「リリのクッキー」もパクりと一口でくわえ、物理的な力がみるみると上昇。

(行っきますわよー!!)

 透明になったマニフィカは、気配を殺し、洞窟出入口から見て左側の壁沿いに従って素早く移動していた……。

 敵の陣形は既に乱れていた。
 卵を守っていたはずのウマウマドラゴンは挑発され、今ではシェリルを追いかけ回している。
 ベビードラゴン2匹は「おとりくん」をクローで攻撃したり、落下して踏みつぶしたりして、こてんぱんに叩きのめしている。
 お化けハイランダケ2匹とグリーン・ハイノシシ2匹はゆらゆらとゆらいめいているウネに対して、傘で攻撃したり、突進したりして、消去を試みている。

 あとは……。
 移動手段がないドラゴンリーフ2匹のみ、卵の傍にいた。

(そおっと……。そおっと……ですわ……)

 透明で気配を殺しているマニフィカが傍にいるとはいざ知らず、ドラゴンリーフたちはあくびをしていた。
 たまに卵のあたりがちょっとずつ動いているという認識はあったようだが、まあ、たいしたことではないだろう、と見過ごしていた。

 やがて卵が持ち上げられ、浮いて、ぷかぷかと空中を歩き出すと……。

「ウギャ!?」
 この時点で、ドラゴンリーフは不審に思い、蔓(つる)を伸ばして、ぺし、っと周囲を鞭打ちし出した。

「きゃっ!?」

 腰を鞭で打たれたマニフィカは、思わず悲鳴を上げ、コケそうになる。
 しかし、なんとかバランスを保ち、再び、卵の運搬を続けた。
 もちろん、傍から見ると、卵だけがぷかぷかと浮いている妙な光景だ。

 リーフたちは、再び蔓を伸ばし、鞭打ちを続ける。
 さすがにMではないので、そのままやられているわけにもいかない。
 マニフィカは「煙玉」をリーフへ放り投げた後、出入口へ逃げ出した。

***

 そして、シェリルは……。
 勢いをつけて走ってくるウマウマドラゴンに対して、反対側から思いっきり走って飛び出る。

「そりゃあ!!」

 シェリルは巨大なドラゴンの腹から首筋に向かって駆け上がる。
 頭部まで上がってきたら、今度は腰に巻いていたロープを取り出し、口をぐるぐる巻きにしばろうと試みた。

(こういう爬虫類系のモンスターは、噛(か)む力は強いけれど、口を開く方の筋力は弱いはずなんだよね〜!?)

 しかし……。

「ウマウマウマ!!」

 ウマウマドラゴンは、頭部をぶんぶんとハンマー投げのように振り回し出して、シェリルの動作を振り切ろうと全力だ。

「きゃああああああああああああ!」

 ドラゴンの反動の勢いに負けて、シェリルが弾き飛ばされる。
 弾かれた彼女は洞窟の壁に背中を思いっきりぶつけて、落下。
 その勢いで「スカウター」も飛ばされ割れてしまった。

(し、しまった……!?)

 ウマウマドラゴンは早くも勝利の雄叫びを上げ、舌をぺろりと出す。

『ウマウマウマウマウマウマウマウマウマウマ!!!!!』

 ウマウマドラゴンの両目から「ウマウマビーム」が発せられた。
 ビームは、ビビビと、怪奇音を立てて、シェリルにクリーンヒット!

(うう……お腹が空いたよ……動けないよ……)

***

 気がつけば、マニフィカの透明化は時間が過ぎて効力を失っていた。
「おとりくん」と「ウネ」の両方は既にいなかった。
 シェリルの方は、壁際でもがきながら、今にもドラゴンに食べられるところだ。

 マニフィカは卵をもう少しで持ち出せるところだったが、周囲を見渡すと明らかな劣勢を認識させられた。洞窟内へ退き返そうとするマニフィカに対して……。

「ブゴオオオオオ……!!」
 グリーン・ハイノシシ2匹が立ち塞がる。

「グギャ!!」
 お化けハイランダケ2匹がその後ろにいる。

「ウマウマー!!」
 ウマウマベビードラゴン2匹が空中からマニフィカを狙っていた。

(むむ……!? これは最後の手段しかありませんわね!!)

 マニフィカは一度、卵を地面に下すと、腰に差していた「トライデント」を構え直す。
 くるくると槍を回し、「水術」を全身全霊で念じ出した。
 すると、回転している槍から水流が滝のような勢いで流れ出す。

「お助けするわね〜!!」
 すると、地面に浸る水流の中からウネが再び、ウネウネと登場!
 ウネはもう一度、雨乞いの歌を歌い出し、暴風雨が破壊された天井から吹き乱れた。

 マニフィカの行動に気がついたウマウマドラゴンはシェリルを食べる前に、マニフィカの攻撃を阻止しようと飛んで来た。

 グリーン・ハイノシシたちは突進し……。
 お化けハイランダケたちは傘で頭突き攻撃を繰り出し……。
 ベビードラゴンたちは上空から落下し……。
 ウマウマドラゴンはクロー攻撃で突っ込んできて……。

 しかし攻撃が当たる前に、洞窟内では既に洪水が始まっていた。
 小さな洞窟内は、やがて川のように水が氾濫!
 マニフィカは攻撃を受ける前に、水中へダイブイン!!

 水流は止まる勢いを知らず、続々と溢れ出した。
 やがて1、2メートルほどの高さまで水が溢れると、モンスターたちは足をすくわれ、流され出す。

(早く……!! 助けに行きませんと!!)

 マニフィカは既に人魚化していて、卵を抱えながら、シェリルの元へ急いだ。
 既に水を飲んでしまって動かなくなっているシェリルを洞窟内で発見し、マニフィカは彼女を抱える。

 マニフィカは身長が179cmあるので、女性としては巨大な方だ。その体格を活かして、右腕から右肩にかけてシェリルを抱え、左腕では卵を抱えながら、全速力で泳ぎ回った。むしろ水中の方が、マニフィカは動き易かったようだが。

 やがて、出入口付近でダムから水流が噴射するかのように、モンスターたちを吐き出していた。洞窟内を水浸しにされたドラゴンたちはなす術がなく、洞窟の天井から羽ばたいて離脱していた。

 洪水を起こした当のマニフィカは、悠々と泳ぎながら、出入口へ帰還。

(ふう……卵もシェリルさんも何とか守れましたわ……)


*エリアA・クリア*
☆卵1個獲得!!


3.エリアB(難易度:普通)攻略編

 エリアAにおいて、マニフィカたちが作戦を開始すると同時期、エリアBの洞窟前にもメンバーが集まっていた。

「まあ、なんてことない山道だったじゃねえか? 早いところお宝を手に入れてさっさとずらかろうぜ?」
 異世界でも遺跡発掘をしている遺跡警備隊の男、リシェル・アーキス(PC0093)は一番乗りで洞窟前まで来ていた。日頃鍛えている筋肉質な体に動きやすい漆黒の衣装は、いかにも遺跡発掘の常連だ。後続のメンバーたちに、早く来い! と手招きをする。

「トッテモ、ハードワークなロードよネ! マイ・ラブリー・モンスターバイクをキャリーしながらのマウンテン、ベリーハード!!」
 愛車の大型バイク(伝説のHDASC社の製品)を力一杯ひいているのは、アメフト衣装に包まれた巨大なアメリカン女性、ジュディ・バーガー(PC0032)だ。「ロープウェイ」の地点から、ずっと凸凹な山道であったが、愛車をがんばってひいて来たのである。

「いやー、ロープウェイから歩くとは思ったけれど、ちょっとした距離だったっすねー。まあ、これも込みでギルドの仕事ってことでそこんところ、よろしくっす!」
 ジュディの後ろを歩いているのは、「ワスプ」のバーテンダー兼コックのナイト・ウィング(NPC)だ。いつも通りのギルドの制服のナイトは、ヒョウヒョウとした笑顔で、メンバーたちに弁解していた。

「はあ……。はあ……。皆さん、ちょっと……待ってくださいよ! 速すぎ……ますって!! だいたい……僕だけ……職業・魔術師なんて……ずるいじゃない……ですか!!」
 道中で拾った木の枝を杖にしてつきながら、額から汗がにじみ、青年は息を切らす。彼は実際に言葉通り、魔術師(正確には錬金術師の見習い)であるミンタカ・グライアイ(PC0095)という若者だ。

「ま、ミンタカさん、目の前は既に洞窟ですぜい? あとは予定通り、武神さんからの連絡を待ちましょうや?」
 ナイトは励ますかのようにミンタカに言葉をかける。
 突然、手元からハンカチを取り出し、ミンタカに差し出した。

 4人が無事、洞窟前にたどり着くと同時。
 突然現れたトンボが3匹、洞窟の中へ入って行った。
 そして、怪しいクモのようなメカ2台が、4足でガサガサと洞窟前までやって来た。

「ワッツ? ドラゴンフライ?(何? トンボ?)」
 ジュディは、きょとんとした表情で空中を泳いで行くトンボを眺めていた。

「おや? 新手の敵かな?」
 リシェルは「小型フォースブラスラー」を両手で構え、銃口をメカに狙い定める。

 すると、4人の「スカウター」から受信音が鳴り出した。

『ジジジ……。応答せよ、応答せよ! こちら武神鈴! 今、そちらに俺のメカである『おとりくん』2台と『とんぼっと』3台が到着したはずだ。そいつらは敵ではないから攻撃したりしないで欲しい……』

「スカウター」から情報をキャッチした4人は、それぞれ耳元にくくりつけ、音量や解析度を調整し出した。

「はい、こちらミンタカ・グライアイ! リシェルさん、ジュディさん、ナイトさんも一緒です!」
 錬金術師の青年が即座に応答した。
 すると、「スカウター」からまた通信音が響く。

『ジジジ……。今、『とんぼっと』3台に洞窟内の解析をやらせている。あと数秒で解析が完了し、そちらの『スカウター』へデータが送られるはずだ……』

「スカウター」はピピっと、受信情報をキャッチし、洞窟内情報がヴィジュアル化された……。

***



卵1付近:ウマウマドラゴン(大人)2匹。ウマウマドラゴン(子ども)3匹。ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ1匹ずつ。卵を守っているのは、ウマウマドラゴン(子ども)3匹。洞窟の三角形の頂点の一角付近で待ち構えている。

卵2付近:ウマウマドラゴン(大人)1匹。ウマウマドラゴン(子ども)1匹。ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ4匹ずつ。卵を守っているのは、ウマウマドラゴン(大人)1匹と(子ども)1匹。洞窟の三角形の頂点の一角付近で待ち構えている。

その他:洞窟の三角形の頂点の一角のうち、「宝物」のスペースがある。「ウマウマドラゴンの牙」という宝物が置かれている。宝付近で敵はそれなりに警備している。ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ5匹ずつ警備中。特に誰かが宝を守っているわけではない。

***

「おー!! これは素直にすげー!! 洞窟内の情報丸わかりですぜい!!」
 ナイトは「スカウター」に送られてきた情報をざっと眺めて笑顔だ。

「ほお……。中は厳密にはこうなっているのか? て言うか、この中、まあまあ広いな? 陽動作戦が活きてくるんじゃね? ま、ありがとよ鈴!!」
 リシェルは頼もしい仲間と一緒に来たものだ、とニヤニヤしていた。

「サンクス、鈴! ベリー・ゴージャスなインフォメーションよネ!! これで今日はノー・プロブレムに暴れ回れマース!!」
 ジュディも魔導科学の先端技術を体感し、ウキウキしていた。

「いやー、頼りになりますねー! 武神さん、ありがとうございます!! じゃあ、どうしましょう? 卵2付近の方が、攻略の難易度が低そうで狙い目ですかね、皆さん?」
 鈴への感謝と同時に気持ちが沸き立つミンタカは、さっそく皆に作戦を提起する。

『ジジジ……。ま、俺にできることはこれぐらいかな? あとは適時、洞窟内にて『とんぼっと』でサポートするぜ。『おとりくん』2台はいつでも動かせるから、やるときにやるって言ってくれよ? じゃあ、後はそちらの戦術で自由にやってくれ……』
 鈴の通信は一度ここで切れた。ちなみに、皆が見えない通信先のベースキャンプで鈴が照れていたのは、ここだけの内緒だ。

「ハイ、ハーイ!! ジュディ、オトリやりマース!! そのためのモンスターバイクネ!!」
 ジュディは、真っ先に手を挙げて陽動を志願した。

「うん……そうだな……。では、『おとりくん』2台とジュディにおとりをやってもらおう。で、ミンタカ、ナイト、俺で卵2付近へ向かおうか?」
 リシェルが今までの話をまとめて提案をすると、特に反対もなく作戦はそのように決まった。

***

「ウマ? ウマウマー!!」(訳:おい? なんか変なのが出入口付近から走って来ねえか?)

「ウ? ウマ、ウマ? ウマ!!」(訳:え? 何、あれ? うわーこっち来る!!)

 この会話は、卵2付近にいるウマドラ(大人)とウマドラ(子ども)の他愛もない世間話である。

 会話の通り、「おとりくん」2台が、4足でガシガシと全力疾走しているのだった。「おとりくん」のうち1台は卵2付近で、もう1台は卵1付近まで接近して来ていた。

「ギギギギギ!!」
 卵1付近の「おとりくん」が回転しつつ、ノズルからダークなスプレーをまき散らす。

「ギーギギギー!!」
 卵2付近の「おとりくん」も同時期にくるくる回り出して、悪臭スプレーを噴射!!

『ウマウマー!!』(ウマドラ&ベビーウマドラたちの悲鳴)
『ギャアアアア!!』(お化けハイランダケたちの悲鳴)
『ブゴー!!』(グリーン・ハイノシシたちの悲鳴)
『グシャー!!』(ドラゴンリーフたちの悲鳴)

 卵1、2それぞれの付近でモンスターたちが大パニックで踊り出す。
 しかし、敵からの奇襲があることは明白なので、卵を守るガーディアン(=指揮官)のウマドラたちは、即座に機転を利かして対処する。

 卵1付近では……。

 卵を守っているウマウマベビードラゴン3匹が……。

「ウマウマウマー、ウマウマ!!」(訳:みんなこれぐらいで怯むな、ガーディアンの俺たちとドラゴンリーフ以外は全軍、突撃!!)

 卵2付近では……。
 卵を守っているウマドラ1匹とベビーウマドラ1匹が……。
 代表して大人のウマドラが司令を下す。

「ウーマウマ、ウマウマウマウマ!!」(訳:みんな、これは罠だ! お化けハイランダケとグリーン・ハイノシシのみ突撃せよ!!)

 それぞれの指揮官の指示通り、卵1付近のモンスター軍団が「おとりくん」に襲い掛かった。
 一方で、卵2付近のモンスター軍団も「おとりくん」を襲い出す。

『ふん、『おとりくん』をナメてもらっては困る!!』
「とんぼっと」越しに事態を眺めていた鈴は、「おとりくん」たちのコントローラーを急操作し、全力で宝付近まで疾走させた。

「おとりくん」2台、逃げるに逃げる!!
 モンスターたちは罠だと知らず、あるいは罠だとわかって、全力で追いかけっこだ。

 と、「おとりくん」が全力で逃げ回り始めると同時に、ダイナマイトボディの乙女が文字通り、ダイナマイトの勢いでモンスターバイクごと出入口から突っ込んで来る!!

「ヘイ、モンスターズ!! イーハー!!」

 アメフト衣装で武装したジュディは、バイクを全力で噴かして運転しつつ、炎系魔術で発火させた丸太を振り回して、縦横無尽に駆け巡る。まるでジュディはアメフトの試合でもしているかのように、道中で邪魔なお化けハイランダケやグリーン・ハイノシシをバイクのタックルで跳ね飛ばしているのだ!

***

「いやー、派手にやっているっすね、武神さんもジュディさんも!! じゃ、俺たちも行きましょうかい?」

 洞窟内の乱闘騒ぎをナナメから眺めつつ、ナイトは仲間たちに突入を呼びかける。

「ちょっと待ってな……。今、『シールド魔法』を展開すっからよ……」
 リシェルが何かを念じ、彼の両手が蒼白い光で発光し出した。
 すると両手から、まるでしゃぼん玉のような蒼白い光がふわふわと広がり出す。
 やがて広がったしゃぼん玉は、ドーム状のオブラートとなり、3人を包み込んだ。

「お? これはまた高度な魔術ですね? 僕も学びたいぐらいですよ!!」
 ミンタカはリシェルの魔術展開に驚いた表情で興奮していた。

「さあ、中に入ろうか? 帰り道の確保も必要だから、なるべく壁沿いを歩くんだぞ?」
 リシェルのシールドに守られながら、3人は壁沿いをつたって、ゆっくりと、気配を殺して、卵2付近へと近づいて行った。
 もちろん、洞窟内の現状は乱闘騒ぎなので、この3人の動向を気にする者たちはいない……。

***

 さて、卵2付近まであと数メートルのところまで来た。
 洞窟内の岩壁に隠れながら、3人は敵勢をじっと見ている。

 どうやら……。
 手前にいるドラゴンリーフ4匹が邪魔だ。
 それにウマドラとベビーウマドラも1匹ずつ卵前で陣取っている。

(なあ、ナイト? ナイフ投げができるんだよな? ナイフ投げでリーフだけでも4匹同時に仕留められねえか?)

(ん? ナイフっすか? ま、4匹同時に向かって投げることはできるんすけれど……。敵の急所さえわかれば、割と楽に倒せますぜい?)

(そうだ! 武神さんに聞いてみましょうか?)

 ミンタカはすぐに「スカウター」で鈴へ連絡を入れた。

『ジジジ……。こちら武神鈴。現在、『おとりくん』で交戦中。どうした?』

(武神さん! ミンタカです! ドラゴンリーフの弱点ってわかります?)

『ジジジ……。ちょっと待ってくれ! うん……今、そちらにデータを送った……あとは任せる……』

(ええと……。ドラゴンリーフの弱点は……「のど」。それと植物だから「火」に弱い……ってところですか!?)

 ミンタカたちは受信した情報を「スカウター」越しで即座に読み取った。

(よし、じゃあ俺が「炎貝」を投げるぜ。そのあとにナイトがナイフ投げで続いてくれよ?)

(ラジャですぜい!!)

***

「そりゃあ!!」
 リシェルは、ドラゴンリーフめがけ、勢いをつけて全力で「炎貝」を放り投げた。

 リーフたちが生えている地面に叩き付けられた「炎貝」は、着地の衝撃で発火し、火炎を放射する!!

『グシャー!!』

 燃え盛る火炎に包まれながら、リーフたちは暴れ狂う。

「もらったあ!!」
 ナイトは、ベルトからナイフ4本を抜き出して、迅速な射撃の一撃を炸裂!

 リーフたちの「のど」をめがけて、ストン、ストン、ストン、ストンと、いった具合に4連続攻撃が見事にクリーンヒット!!

『グシェ!?』

 リーフたちは何が起こったのかもわからずに全て一瞬で倒された。

 何が起こったのかさっぱりわからなかったのは、ガーディアンのウマドラとベビーウマドラも同じである。周囲をきょろきょろと見回すが、さすがに卵を守っているので、自分から動くことはない。

(さーて……。あとはドラゴンどもをどうするかですぜい? リシェルの旦那、お好きな方をあげますよ?)

(お気持ちありがとう、ナイト……。ま、ここは場馴れしている俺がウマドラをもらおうか?)

(ありがとさん! そうしてもらえますかい?)

 リシェルは、ポケットから取り出した「リリのクッキー」をほお張り、「シールド魔法」を再び展開する。
 シールドの光を足にまとわせ、強力化した脚力で、地面から弾け飛んでスキップ移動を始めた。

「おい、ウマドラ! おまえの相手はこの俺だ!! どこからでもかかってきやがれ!」
 急速な勢いで飛び込んで来たリシェルは、ウマドラの腹を蹴飛ばすと、一目散に宝付近を目指して逃げ出した。

「ウマウマウマー!!」
 挑発されてしまったウマドラは顔を赤くして、リシェルを追いかけ出した。

「種も仕掛けもございやせん……。宴会部長、一番、ナイト・ウィング、飛びます!!」
 ナイトは制服に忍び込ませていた真っ黒い巨大なコウモリの羽(魔導具)を両裾から取り出すと、空中に羽ばたき出した。そして威嚇射撃のつもりで、ベビーウマドラを目がけて、ナイフの連射をする。

 ナイフは狙い通り、ストン、ストン、とベビーウマドラの腹に突き刺さった。

「ウマウマウマー!!」
 逆上したベビーウマドラは羽を羽ばたかせ、空中で飛んでいるナイトの元へ飛んで行った。
 こうして、コウモリとドラゴンの追いかけっこが始まったのだ。

(やったあ!! これで卵2付近はもぬけの殻(から)だ!! 今のうちに頂いてしまおう!!)

 ミンタカは急いで卵のもとへ迎い、回収の手順を始める。

(まずは……「風術」……)

 ミンタカが両手を合わせて祈ると、微かな風が巻き起こる。ふわりふわり、と卵が浮き上がった。

(落ちるな!! 落ちるな!! 落ちるな!!)

 ミンタカはそのまま「風術」の呪文を続け、地面の土を風でこねて、かき集めた土を徐々に卵にまとわせる。

(ええと、僕は、「水術」は使えないから……これで、と……)

 ミンタカはポケットから「水術の符」を抜き出して、浮いている卵のてっぺんにぺたり、と札を貼った。

(武神さん、ありがとう!!)

 実はこの「水術の符」、鈴から今回の作戦用に、と事前にもらっていた札だった。

 そして、札からは次第に水がちろちろと流れ出し、土でまとわれている卵は泥団子のような姿へ変化して行く……。

(あとは「火術」で水分を飛ばせば……!!)

 ミンタカは、続いて、「火術」を念じ出す。
 淡い炎がめらめらと、泥団子を覆いだし、じりじりと水分を弾いて行く……。
 やがて卵は、土の被膜といった殻で覆われ、ちょっとやそっとの衝撃で壊れないぐらいの楕円状のボールと化した。

(よし、完成!! あとはこいつを外へ運べば!!)

***

(ふう……やっと出口か……)

 ミンタカが土の殻で覆われた卵をコロコロと転がして出入口へ急いでいた頃……。

 洞窟内の戦況はより過激化していた。

 仲間たちは、三角形上の洞窟のちょうど中心点にて、戦闘をしている最中だった。

 まず、「おとりくん」は2台ともモンスターたちに破壊され、煙をむくむくと上げながら燃え盛っていた。

 ジュディは相変わらずバイクで逃げ回っていたが……。

「ワッツ!? ジョークでしょう!?」
 ジュディは先ほどから、「サイ・フォース:コンセントレーション」の発動や「小型フォースブラスター」の乱射を試みていたが、どうもいまいち、いつも通りに決まらないのだ。

 そんなジュディの戦いぶりを「とんぼっと」越しから観ていた鈴は、彼女へ通信を入れる。

『ジジジ……。ジュディ、聞こえるか? 武神鈴だ。『サイ・フォース』関連の技能やアイテムはどうもこの世界では使いづらいらしい……悪いが他の技能や武器を試してみてくれ……』

 解説しよう。「サイ・フォース」関連の技能やアイテムは、「時現代世界」において最大の効力を発揮するが、「マギ・ジスタン世界」では威力が半減以下となる。なぜなら、「マギ・ジスタン世界」は「時現代世界」と違い、「サイ・フォース」のエネルギー源がほとんど流れていないからだ。

 仕方なしに、ジュディは「火術」や「水術」の技能を繰り出すが、もともと魔術師タイプではなく、しかも強敵ウマウマドラゴンを前にして、かなりの苦戦を強いられていた。

(ならば……こっちもマイ・ドラゴンをレッツ・ユース!!(使うわよ!))

 ジュディは、アイテム袋から絵本「召喚☆バカムートくん!」を取り出した。
 絵本のページを開くと、むくむくと煙に包まれながら、ちっぽけなドラゴンが、ぱたぱたと飛んで出て来た。

『わい、バカムートやねん! わいのギャグでぎょうさん笑わしてやるで、こんちきしょー!!』

(オウ! 頼もしそうなドラゴンネ!!)

 と、思ったのも束の間……。

『くらえ、わいのギャグ! 布団(ふとん)が吹っ飛んだ!!』

 などと、言いながら、バカムートくんは、布団を召喚して、吹っ飛ばしたのだ……。

 戦場は凍った。
 旧世代のオヤジギャグをマジでかましているドラゴンのおもちゃがみんなのハートを凍えさせた。

 確かに、寒いギャグで場を凍らせるのは、「スタン」効果なのだが……。

 しかもドラゴンや他のモンスターは人間の言葉がわからない。
 さらに言えば、バカムートくんはドラゴンの一種のはずなのに、なぜか人語を話し、ドラゴン語を全く話さないらしい。

『ほな、さいならー!!』
 バカムートくんは、絵本の世界に帰って行った。

(ガッデム!! イッツ・ノー・ユース(使えないじゃないの)!!)

 ジュディは絵本を放り投げて、再びバイクに跨る。
 とりあえず「火術」と「水術」の攻撃で持ち堪えることにした。

***

 一方、リシェルは……。

 最初のうちは、モンスターたちを挑発し、一カ所(三角形の中心点辺り)にひきつけ、「閃光玉」や「煙玉」を放ち、かく乱させていた。

 この戦法は「直感」が鋭利なウマドラたちには抜群に効く戦い方だった。
 光と煙で視界を奪われたウマドラたちは、半径5メートル以内にいるすべての者を、敵味方の区別つけず、片っ端から攻撃し出したのだ。

「ウマウマウマー!!」
 ある一匹のウマウマドラゴンが仲間に向かってクローの一撃を顔面に浴びせる

「ウマー!!」
 クローの一撃を浴びた方のドラゴンは、カウンターとして尾尻攻撃を返した。

 といった、具合にウマウマドラゴン同士が相打ちをする次第だった。
 もちろん、巻き込まれたお化けハイランダケやグリーン・ハイノシシもウマドラの強烈なクロー、尾尻、炎などを浴びて次々と倒されていった。

(さーて、こんなもんだろう? じゃ、煙幕から出るとするか……)

 リシェルは、「サイ・フォース」を駆使して、「サイサーチ」で敵の位置や脱出の位置情報を把握……。
 しようとしたのだが……なぜか、「サイサーチ」が全く機能しないことに気づく。

(あれ? 変じゃね?)

 ここで、リシェルの「スカウター」に鈴から連絡が入る。

『ジジジ……。こちら、武神鈴。聞こえるか、リシェル!? とりあえず『サイ・フォース』関連の技能や武器は控えてくれ! どうもここの『世界』では、『サイ・フォース』の流れが悪いみたいなんだ!!』

「おい、鈴!! マジかよ、それ!?」

 と、叫んでいる間もなく……。
 視界の悪い背後からグリーン・ハイノシシが「突進」して来て、リシェルは跳ね飛ばされた!

「ぐはぁ!!」
 宙を舞い、思いっきり地面に背中を叩きつけられ、リシェルがもがく。

 地面から立ち上がるところで、視界がやや晴れ、出入口付近で戸惑っているミンタカの姿が目に映った。

(あれ? あいつ、何をやっているんだ!! 既に卵を持って逃げたと思ったのに!!)

 ミンタカは、洞窟から撤退するべきか、仲間を助けに行くべきか、迷っていた。

 リシェルは「意志の実」を使って、ミンタカの心へ言葉を送り込む。

(『ミンタカ!! 行ってくれ!! 貴重な卵を奪い返されたら仕事が達成できねえ!』)

(『え? リシェルさん!? って、そんな場合ですか!! 仲間を放って逃げられません!!』)

(『行くんだ!! 仕事仲間を信じるのもの仕事のひとつだ!! 俺はこれぐらいのことじゃ死なねえよ!!』)

(『わかりました! 信じています! 死なないでくださいよ!!』)

 ミンタカは決意し、卵を抱えて洞窟を去って行った……。

 ちょうどそんな「心の会話」を2人がしていたと同時期……。
 空中を飛び回って、割と善戦していたナイトが翼を折られ、地面へ落下して来た……。

***

 リシェルが放った弾幕の煙が段々と晴れて来て、仲間たちとモンスターたちは互いの姿が確認できた。

 どうやら、ジュディ、リシェル、ナイトの3人は洞窟の三角形の中心部にいた。
 しかも洞窟内全体で陽動をしていたので、分が悪いことに、三角形の各頂点にいたモンスターたちが中心部に集結していた。

 卵1付近からは……。
 ウマドラ1匹、ベビーウマドラ2匹、グリーン・ハイノシシ1匹が来ていた。

 卵2付近からは……。
 ウマドラ1匹、お化けハイランダケ2匹、グリーン・ハイノシシ2匹が来ていた。

 宝付近からは……。
 グリーン・ハイノシシとお化けハイランダケがそれぞれ3匹ずついた。

 ちなみに卵2付近のドラゴンリーフは既に全滅していたし、そもそも場所を移動できないので卵1付近と宝付近のリーフらは動いていない。

 また、リシェルたちの陽動作戦でだいぶ敵の数は減ったものの……。
 生き残っている敵数は今からこのパーティを全滅させるだけの戦力が十分にあった。

「ふう……。ミンタカには、生きて帰ると強気で言ったものの……。この数、どうやって突破すればいいんだ?」
 敵勢にじりじりと追い詰められながら、リシェルは「シールド魔法」のカタを構える。

「モンスターバイクでブレークスルー(突破)をやるにシテモ……。コイツら、特にドラゴンズ……全くスキがないネ!!」
 ジュディはバイクを噴かしながら、迫ってくるドラゴンたちと睨(にら)み合いをしている。

「うーむ……。なかなかの無勢に敵勢ですぜい? だが敵らは、スキがあればまだ突破できる数とレベルとも言えますぜい?」
 ナイトは最後のナイフをくるくる回しつつ、へらへらと笑顔で敵を眺めていた。

「おい、ナイト! いきなり何を言う? って、まさか!?」
 リシェルがそう言うや否や、ナイトは一歩前に出て、敵に近づいて行った。

「レディース&ジェントルメーン! ウェルカム・トゥ・ワスプ!! 手品師・ナイト・ウィング、今からとっておきの芸をしますぜい!!」
 ナイトは、背広の中に背負っている薄い「ブツ」から出ているヒモを一気に引き抜いた。
 すると、背中から……。

 小型ジェット機がみるみると大きくなって飛び出して来て……。
 ちょうどナイトが小型ジェット機をランドセルみたいに背負うかたちになった。
 やがてジェット噴射が始まり、発火と同時に、手品師は上空へ飛び上がった。

『皆さん、また来世で会いましょうぜ!! 悪役のスター曰く、ば●ば●き〜ん!!』

 ロケットとなったナイトは、洞窟天井の隙間から大空へ向かって駆け巡り、最後はキラリと輝く星となった。

 モンスターたちは、もはや何が起こったのかわからず、あんぐりと口を開けていた。
 おそらく生まれて初めて観たド肝を抜かれた手品だったのであろう。

「ヘイ、リシェル!! ラン(走ろう)!!」
「おうよ!!」

 ジュディは、「魔法のお面(怪人二千面相)」を装着し、素早さを上昇……。
 さらに「バーナーロケット」もモンスターバイクで点火し、ジェット移動で速度を加算して、一直線に駆け出した。

 リシェルの方は、「シールド魔法」を足にかけて、再び「リリのクッキー」を口にくわえる。そして、全速力でジャンプ移動し、出入口を目指す。

 もちろん、スキを突いたのは一瞬だけだったので……。
 気を取り直したモンスターたちがわんさかと追いかけて来た!

「これでもくらえってんだ!!」
 リシェルが「煙玉」を投げると、モンスターたちは煙に飲まれて、咳き込み、もはや追って来なかった。

***

 こうして約束通り、洞窟前で卵を抱えて待機していたミンタカと、無事に生還したリシェルとジュディは、再会することができたのだ。
 しかも、ロケットで星になったはずのナイトが、なぜかミンタカの隣で爽やかに笑っていた。


*エリアB・クリア*
☆卵1個獲得!!


4.エリアC(難易度:難しい)攻略編

4−1 作戦会議

 ウマウ・マウンテンにおける「エリアC」と呼ばれるドラゴンの巣窟は、本山の中でも最大規模を誇る洞窟のひとつである。ロープウェイで山頂付近まで行けるとしても、道中の山道がそれなりに険しいことは容易に予測ができるだろう。

「エリアA」と「エリアB」では既に作戦が開始されていたが、やや遅れて、冒険者ギルドで集った仲間たちが巨大な洞窟前に到着した。

『ジジジ……。こちら武神鈴。……よし、『エリアC』組もやっと全員そろったようだな? では、今から『とんぼっと』経由で洞窟内の詳しいデータを転送するので、後はそちらでうまくやってくれ。洞窟に入った後も、俺は『とんぼっと』で随時サポートするので、よろしく!』

***


敵の陣形:

卵1付近:ウマウマドラゴン(大人)5匹。ウマウマドラゴン(子ども)5匹。ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ5匹ずつ。卵を守っているのは、ウマウマドラゴン(大人)3匹。ドーナツ型の空洞付近で待ち構えている。なお卵2付近と卵3付近とは距離が近いので、乱戦・混戦になる可能性が高い。

卵2付近:ウマウマドラゴン(子ども)10匹。ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ4匹ずつ。卵を守っているのは、ウマウマドラゴン(子ども)5匹。ドーナツ型の空洞付近で待ち構えている。なお卵1付近とは距離が近いので、乱戦・混戦になる可能性が高い。

卵3付近:ウマウマドラゴン(大人)1匹。ウマウマドラゴン(子ども)1匹。ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ10匹ずつ。卵を守っているのは、ウマウマドラゴンの(大人)1匹と(子ども)1匹。ドーナツ型の空洞付近で待ち構えている。なお卵1付近とは距離が近いので、乱戦・混戦になる可能性が高い。

その他:洞窟の奥に「宝物」スペースがある。「ウマウマドラゴンの遺骨」という宝物が置かれている。敵はそれなりに警備している。ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ10匹ずつ警備中。特に誰かが宝を守っているわけではない。なお卵1、2、3付近とは距離的に離れているので、乱戦・混戦になる可能性は低い。

***

「鈴、ありがとう! へえー!! 洞窟の中ってこうなっているのか!? それにしてもすんげえ広い洞窟だな? 敵の数もかなりいるし、卵を採取する奴ら以外にも、派手に陽動する班も必要じゃないか?」
「スカウター」越しの巨大なマップを眺めながら、冒険者風衣装の青年、ジニアス・ギルツ(PC0025)はこれから始まるミッションに胸がワクワクしていた。ちなみに背中には「サンダーソード」を背負っている魔剣士なので、腕はそれなりに自信があるようだ。

「わ、鈴ありがとー! で、ねえ、ジニアス? 言いだしっぺでなんだけれど、この班ならボクたちで陽動をやったらどうかな? ボクたち冒険慣れしているから、洞窟内で暴れるのはケッコー得意だよね?」
 ジニアスのベストのフードから、ひょっこり顔を出した精神体の美幼女、ラサ・ハイラル(PC0060)が話しかけてきた。

「わはは、さすがは鈴さん!……で、陽動ならボクも一緒にやりまっせ! むしろ、勇者たちをサポートする役目やりたいやんけ! ボク、テレポートとかできまっせ! それなりに使えるキャラでっせ!!」
 ジニアスとラサの背後から会話に加わって来たのは、キューピーのビリーだ。ちなみにビリーは本日、2回目の登場となる。鈴のサポートを終えた後、超特急のテレポートを繰り返して、作戦開始前の「エリアC」組のもとへ到着したのである。

「メルシー、鈴さん! さて、陽動は3人もいれば十分ですわ! それよりも卵を採取する班も決めませんといけませんわね。わたくし、戦闘能力はそれなりに自信がありますから、卵2付近を志願しますわ。まあ、卵2付近のガーディアンはベビーウマドラみたいですから、体格差もなく戦いやすいと存じますわ!」
「スカウター」の卵位置の情報を分析し、仏国の令嬢、アンナ・ラクシミリア(PC0046)は、おそらく卵2付近が一番採取しやすいと考えたようだ。そこで、自ら卵を取りに行くと志願する。

「武神殿、かたじけない。……ふうむ。ベビーウマドラとは言え、卵2付近には10匹もいるとはかなりの数。できることなら、私は龍たちを無暗に殺さず、卵を手に入れたいものだ。アンナ殿、私も同行しよう。私の符術で貴殿を援助致そう!」
 アンナの志願に横からサポートを名乗り出てくれたのは、猫間隆紋(PC0078)だ。隆紋の職業は陰陽師であり、若いながらも符術には一定の心得がある。もっとも、服装にはあまりこだわりがないらしく、陰陽師の正装というよりは、カジュアルな陰陽服を着ているが。

「鈴さん、ありがとう! そうねえ……。卵はできればもう一個欲しいところ! わたしが卵3付近をやるよ!! 卵3付近は強敵のドラゴンが少なくて狙い目かも!!」
 同じく、「スカウター」の情報を眺めながら、卵3付近で「面白い手品」をやろうと考えた姫柳 未来(PC0023)が採取班に志願した。ちなみに彼女、エスパー少女の女子高生なので、「手品」どころか「超能力」だってお手の物である。

「鈴さん、ありがとぅ! うふふ……。卵3付近は植物系の敵も多いわねぇ……。わたしとお友達になれるかなぁ? 未来さん、お供しますよぉ……」
「スカウター」に映るお化けハイランダケやドラゴンリーフの画像をじっと見つめながら、どこか植物のような雰囲気が感じられる美しき乙女、リュリュミア(PC0015)は戦闘サポートを提案する。

「よっしゃ、決まりだな!」
 ジニアスは全員の配置が把握できた後、「スカウター」に連絡を入れた。

「おい、鈴! こちらの作戦が決まった! 何か指示はあるか!?」

『ジジジ……。こちら武神鈴。……そうか、作戦が決まったか? よし、では事前に陽動として、『おとりくん』3台を洞窟に送り込む。既に『おとりくん』は洞窟前に待機しているから、俺のメカが動いたらそちらも作戦に取り掛かってくれ!』

 こうして、「エリアC」の攻略が始まったのである……。

4−2 陽動部隊

「ギギギギギ!!」
「おとりくん」3台は、怪しい機械音を立ながら、4足走行でガサガサと動き回り始めた。

 出入口から侵入した3台は、卵1付近と卵2付近へと向かう。

「ウマウマ!!」(訳:なんか変なのがいるぞ!!)

「ウマー! ウマー!」(訳:おい! 黒い霧を噴いているぞ!)

「ウマ、ウマ、ウマ!!」(訳:うわー! こっち来るぞ! くせえ!)

 早くも洞窟内でかく乱は成功しているようだ。
 焦っているウマドラたちの反応を画面越しで観覧している鈴はニヤリと笑った。

(ジニアス……。モンスターたちが「おとりくん」に気を取られているスキに、ボクたちも陽動に加わろう!)

(うん! 用意はいいか? 突っ走るぜ! あ、ちょっと待って! 脚力を上げるために「リリのクッキー」を食べるぞ! ムシャムシャ……)

(ほな、ぼちぼち行きましょか?)

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
 ジニアスは「サンダーソード」を振り上げながら、大声を出して突っ走る。
 ルートは、卵1付近でまずモンスターたちを挑発し、卵2付近でもモンスターたちを驚かして、最終的に宝付近まで敵をひきつける作戦だ。

『やーい! ウマドラのドアホ! おとといきやがれやんけ!!』
 ビリーも「科学的革命残党分子」の旗を振りながら、あちらこちら「神足通」でテレポートを繰り返しながら進んでいる。もちろん、ジニアスと同じルートで一緒に挑発しているところだ。

(むむ……。熱いやん! 熱すぎやで、今のボク!!)

『聖アスラはんたーい!!』

『科学ばんざーい!!』

『科学的革命残党分子、ただいま推参やでー!!』

 ビリーは熱き革命じいさんたちの言霊を叫ばすにはいられなくなった。

(ぴんぽん♪ ビリーには状態異常「熱き革命青年の心」が付与されました☆)

***

 やがて一同は、卵1付近に到着した……。

 悪臭を噴射して暴れ回る「おとりくん」たち……。
 サンダーソードから雷撃を繰り出して、モンスターたちを爆撃するジニアス……。
 ジニアスのフードの中から魔銃で威嚇射撃をするラサ……。
「熱き革命青年」になりきってテレポートを繰り返し挑発するビリー……。

 洞窟内は既に荒れに荒れ、モンスターたちはもはや混乱状態だった。

「そらよ、こいつもやるよ!」
 ジニアスは「炎貝」を一発、卵1付近のモンスターへめがけて放り出した。

 投げられた「炎貝」は、卵付近で動き回っていたお化けハイランダケにヒット!
 もともと炎に弱い植物系モンスターのハイランダケは火炎噴射を直に浴びて、燃えるに燃えた。
 そして飛び火した炎は、周囲の同類やグリーン・ハイノシシまで燃やし出す……。

 攻撃を仕掛けて来たジニアスを迎え撃とうと、グリーン・ハイノシシたち2匹が突進してきた。
 ハイノシシたちは、「グリーン・ストライク」を発動し、緑色の光になって突撃攻撃!

「そこだね!!」
 ジニアスの死角となった場所から、ラサが魔銃で精密射撃を繰り出す。
 スピードの勢いをつけて突進して来た一匹は、迎え撃たれた射撃の一撃で後方に弾け飛んだ。

 一方で、ジニアスの後方から突っ込んできたもう一撃の「グリーン・ストライク」は、ジニアス得意の「軽業」で、ひらりと回避。

 外れた「グリーン・ストライク」は、ジニアスの先にいたベビーウマドラの1匹に大ヒットして、子どものドラゴンはハイノシシごと空洞へ弾き飛ばされた!

「ま、こんなもんよ!!」
 ジニアスは何もなかったかのように、涼しい顔で進撃を続ける。

「ふれー! ふれー! ジ・ニ・ア・ス!! ラ・サ!!」
 ジニアスの上空では、テレポートを繰り返しているビリーが旗を振って応援していた。

***

 卵2付近に到着した後も、パーティは基本的に同じ行動を繰り返した。
 ジニアスが「炎貝」を卵2付近の敵陣営にも投げつけ、ヒットし、ドラゴンリーフやお化けハイランダケを一通り燃やしておいた。
 そして怒ったグリーン・ハイノシシやベビーウマドラたちの襲撃を避けて、ひたすら進撃の足を休めることがなかった。

「ジニアス! あれ、『ウマウマドラゴンの遺骨』じゃない?」
 ラサは目の前に広がる骨の化石のような光景が目に入ると、相棒に伝えた。

「よっしゃあ! 宝付近まで来たぜ!」
 ジニアスたちの進軍は、いよいよ洞窟の奥までやって来られたのだ。

「へへ、お宝、お宝! 遺跡発掘隊は辞められないぜ!!」
 ジニアスは再三「炎貝」を投げて、目の前の宝付近で待ち構えているモンスターたちを燃やした。お約束通り、お化けハイランダケが燃え、周囲の同類、ドラゴンリーフ、グリーン・ハイノシシに飛び火し、「遺骨」付近は軽く火事になった。

 火炎で燃え盛るパニックの中、ジニアスは、さりげなく小さな骨を何本か拾った。

「まあ、ざっとこんなもんよ。ほら、ラサにもやるよ!」
「ん? ありがとう! 今、忙しいから後でもらう!」

 と、2人がお宝の前でウキウキしていたのも束の間……。

 卵1付近と卵2付近から陽動して連れて来ていたモンスターたち……。
 さらに宝付近を徘徊していたモンスターたち……。
 前後両方のサイドから挟み撃ちになった。

 そんなピンチな中……。

「むむ! あかん! あれはあかん!!」
 と、叫んだビリーは「神足通」(テレポート)でいなくなってしまった。

「ひえー!! 囲まれちゃったよ!! どうするのさ、ジニアス!!」
 精密射撃や威嚇射撃を続けていたラサも、気がついたときには一緒に敵の包囲網の中だった。

「なーに! これも計算済みさ! ほら、これでどうだ!!」
 ごそごそとアイテム袋を探りながらジニアスが叫ぶ。

 ジニアスは「煙玉」を周囲一面に向かって放ち出した。
 すると、もくもくとスモークが立ち上がる。

「ラサ、歌を頼む!」
「はいよ!」

 煙幕の広がりと同時に、ラサが「時の歌(遅滞)」を軽やかな声で重い歌詞を歌い始めた。
 洞窟内に音響がこだまし、少なくとも宝付近にいるモンスター全員に「状態異常:遅滞」を与えることができた。

 煙の量がある程度立ち込めたところで、ジニアスは「青の元素水晶」を袋から取り出して、周囲にひたすら水の飛沫(しぶき)を充満させる。
 徐々に霧が発生した頃を見計らって、「サンダーソード」から雷撃を四方八方に拡散させた。

 ジニアスの作戦通りの展開だ。まず煙に巻かれて相手が見えなくなったウマドラやベビーウマドラは「直感」を繰り出し、もはや敵味方関係なく半径5メートル以内にいる者すべてを攻撃し出す。ウマウマビーム、雄叫び、ファイアブレス、クロー攻撃、尾尻攻撃……もはや凄惨たる修羅場だ。

 一方で、ジニアスが放った霧の中の雷撃に感電したモンスターたちは次々と倒れて行く。ドラゴンリーフも、お化けハイランダケも、グリーン・ハイノシシも、感電を繰り返し、ショック死していく始末だ。

 しかも敵らは、ラサの「時の歌」でスピードが格段に落ちているので、仮にジニアスやラサが視界に入っても、移動速度が低下しているため攻撃にならない。

 と、ここで、戦況をだいぶ有利にかき回しているジニアスたちに、鈴から「スカウター」で連絡が入った。

『ジジジ……。ジニアス、聞こえるか? こちら武神鈴。ひとつ警告がある。これ以上、陽動班だけでやり過ぎないでくれ! ウマドラは戦士5人がかりで1匹を仕留めるのがやっとの戦闘能力だ! 撤退を頼む!!』

 通信が入り、ジニアスも即座に応答する。

「おう! そろそろこっちも限界だ! ちょうど今、撤退するところだぜ!」
 と、ジニアスとラサが煙幕を出たところ……。

「あ、あれ!?」
「どうした、ジニアス?」

 ジニアスとラサは、ちょうど「遺骨」を背にしている洞窟の壁際まで追い込まれていたことに気がついたのだ。

 しかも目の前で「霧」や「煙」が段々と晴れて、モンスターたちの状態異常:遅滞が徐々に解除されて行く……。数が減ったと言っても、まだまだ敵の戦力の方が圧倒的に上だ。

「あれ、ヤバイんじゃね!?」
「今度こそどうするのさ、ジニアス!?」

4−3 卵2付近部隊

 陽動班のジニアスたちが卵1付近を通過した頃、アンナと隆紋も行動を開始していた。
 卵1付近で暴れ回っている「おとりくん」と既に敵をかく乱させてくれた陽動班のおかげで、割とスムーズに道中を移動することができた。

 しかし……。

(あれ、 変ですわね? 「レッドクロス」で変身したはずなのに、ローラースケートがいつもみたいに自動車並みのスピードが出ませんわ!?)

 出入口付近で、アンナは「レッドクロス」に変身し、ピンクが基調となるスーパーヒロインの姿ではあるものの……。なぜかいまいち、力が出て来ないような気がしていた。現に、ローラースケートのスピードが格段に落ちている。

 ともかく、荒れくれる戦場の中、アンナと隆紋は、卵2付近までたどり着けた……。

***

 卵2付近へ2人が到着すると、既にジニアスたちが火炎やら雷撃やらで荒らした後なので、戦場はところどころ燃えたり、電撃が走ったりして、モンスターたちが悲惨な状況だ。

 しかも、「おとりくん」のうち1台は既に破壊されてしまったが、もう1台は生き残っているので、悪臭のスプレーを放って未だに暴れ回っている。

 アンナと隆紋の数メートル先には、敵が卵を守って待ち構えていた。

 敵勢は……。
 ウマウマベビードラゴン5匹。
 これでもだいぶ数が減った方だが、2人で子どものドラゴン5匹を相手にするのは、なかなかの骨折り作業だろう。

「アンナ殿。ここは私に任せてもらえるだろうか。私が符術で『睡眠の符』を放ち、龍たちの動きを封じよう。その間に卵を持って逃げてくれるかな? もっとも、相手は子どもと言えど、かのウマウマドラゴン。最悪、『睡眠の符』が効かない場合、交戦もお願いしたいのだが?」
 隆紋は、カジュアル陰陽服のポケットに入っている「睡眠の符」を数枚抜き取り、符術の動きを構えた。

「了解ですわ! わたくし、防御力には自信がありますから、危なくなったら言ってくださいますか? 盾になるますので」
 アンナの方も、ローラースケートで突っ込むつもりなので、徒競走のスタート地点で今から走る選手のようにしゃがみ込んだ。

 相互に作戦を了解した2人は、いざ行動に移る。

「おとりくん」に気を取られていたベビーウマドラたち3匹、そして卵の上で卵をガードしている他2匹は、ここでやっとアンナと隆紋の気配に気がついた。

「それ、それー、龍どもよ! 私の符で眠ってしまえー!!」
 隆紋は、「睡眠の符」を紫色に発光させ、放り投げると、3枚の札はくるくると回転しながら高速度でドラゴンたちを襲う!

「ウマ、ウマ、ウマー!!」(訳:負けるもんか! やってやるぜ!!)

 隆紋にかかってきたのは、おとりに気を取られていた3匹だ。
 うち2匹はクロー攻撃で突っ込んできた。もう1匹は防御態勢を取っている。

「睡眠の符」の3枚は、飛翔した後、ベビーウマドラの額にぺたり、と貼りついた。
 すると、紫色の波紋が広がり、ドラゴンたち2匹は、ふらふらと揺れて、ばたり、と倒れて眠り込んでしまった。
 しかし、防御態勢を取っていた最後の1匹は、「睡眠の符」の状態異常攻撃の確率から外れたらしく、全く平気だった。

「む……!? しまった、不覚を取ったか!!」
 隆紋は、ベビーウマドラの尾尻攻撃をくらい、後方へ弾き飛ばされた……。

 一方で、卵を守るベビーウマドラ2匹に向かって、ローラースケートでアンナは突っ込んで行った。モップを構え、モップ攻撃の突きの一撃をお見舞いするが……。

 ローラースケートでは思ったほどの加速がつかず、またモップ攻撃の突きをくらわせても、ドラゴンはまったく動じなかった。

「ウマ?」(訳:なんだ、どうしたよ?)

「ウマ、ウマ?」(訳:やるならやってやるぜ?)

 ドラゴンたちは卵から動くのが面倒なので、尾尻を使って、アンナを攻撃する。
 前後左右から右往左往に揺れる無数の尾尻の鞭(むち)攻撃が炸裂した!

(これぐらい、「レッドクロス」の装甲なら……)

 と思ったものの、「レッドクロス」の防御力が発動せず、あんなは大ダメージを受けて弾け飛んでしまった。

(え? なんでですの!?)

「ウマー!!!」(訳:これでとどめだ!!!)

 ベビーウマドラ2匹は尾尻を使って、アンナを空中に放り投げてしまった……。
 飛ばされたアンナは、空洞へ投げ捨てられて……。

『アンナ殿!!』
 ちょうどその頃、戦闘中にベビーウマドラの攻撃を受けて地を這っていた隆紋が……。
 仲間の非常事態を目撃し、叫び出す。

 アンナが空洞へ落下するそのとき……。

 突然現れたキューピー姿の妖精が、アンナをキャッチ!!

(ふう……あかんかった! 間一髪、間に合ったで!!)

『ほな、撤退しまっせ!!』

 アンナはビリーに抱えられて、「神足通」のテレポートにより洞窟外部へ撤退した。

 ちょうど同時期、鈴から隆紋に「スカウター」の通信が入る。

『ジジジ……。こちら武神鈴。どうやら卵2付近の採取作戦は失敗だ。猫間、撤退してくれ!』

 隆紋も交戦中のベビーウマドラから逃げながら、通信に答える。

「うむ。撤退したいのは山々だが……。敵にスキがなくてな……」

 と、話をしている最中、眠っていたベビーウマドラ2匹もむくむくと起き上がった。

『ならば、俺がスキを作るから逃げろ!!』

 ベビーウマドラ3匹が同時にクロー攻撃で向かって来たと同時に……。
「おとりくん」が3匹と隆紋の間に割り込んできた。

 そして……。

 ピピピ、と怪しい機械音を立てた後……。
 突然、メカが自爆をして炎を噴きあげた!!

 ベビーウマドラたちは、突然の急展開に意表を突かれたのだ!

(よし、今ならば……。それ!!)

 隆紋は「扇子」を腰から抜き取り、雷撃を天井に浴びせた。
 すると、天井の岩が崩れ、落盤が起こり始める……。
 天上から落ちてくる小さな岩の数々が頭上に降り注ぎ、ベビーウマドラたちはパニック状態だ。

 隆紋は、「スカウター」へ通信を繋ぐ。

「猫間隆紋、撤退致す!!」

4−4 卵3付近部隊

 アンナと隆紋が、卵2付近へ向かって走り出した頃……。
 未来とリュリュミアも作戦を開始していた。

 未来とリュリュミアはこっそりと、卵3付近まで来ていた。

(そーれ!!)

 未来は、「炎貝」と「煙玉」を空中に放り、サイコキネシスでぷかぷかと浮かせた。
 ぷかぷか浮いている貝と玉は、卵1付近へ直行して行く……。

 卵3付近は、陽動では無傷なので敵の数も初期状態のまま残っている。
 卵を守っているウマウマドラゴン1匹とウマウマベビードラゴン1匹。さらに、ドラゴンリーフ、お化けハイランダケ、グリーン・ハイノシシがそれぞれ10匹といった敵陣だ。

「ウマ!! ウマ、ウマ!!」( 訳:おい! あの貝と玉はなんだ、みんな見てくれ!!)
 大人のウマドラが仲間たちに尋ねる。

「ウマ? ウマ、ウマ!?」(訳:なんだあれ! 誰か、確認に行ってくれ!!)
 子どものウマドラが焦り出す。

(武神さん、お願いがあるんだけれど……)
 未来は鈴に通信を入れる。

『ジジジ……ラジャ!!』
 そこで、鈴の追撃が入る。

「ギギ、ぴこぴこ、ギギギ、ぴぴぽ!!」
「おとりくん」が怪しい効果音を鳴らし、ぴょんぴょんと跳ねながら、卵3付近へ現れた。そして、エスカレートした挑発手段に出る。
 もちろん、効果音のあとには、悪臭のスプレー噴射!

「ウマ!? ウー!!」(訳:なんだよ、こんな変なのまでいるぜ!? 誰か、何とかしろ!!)
 大人のウマドラが騒ぎ立てる。

「ウマ、ウーマ、ウマ!!」(訳:わかっているよ! しかし、敵の罠では? 卵は守らないといけないし!!)
 ベビーウマドラも一緒に騒ぎ出す。

「ウマ、ウマ!!」(訳:なら俺が行く! おまえは卵を見ていてくれ!!)
 卵から大人のウマドラが立ちあがった。

「ウマ、ウー!!」(訳:了解!!)
 一方、子供のウマドラは卵の位置に待機。

 と、ウマドラ1匹、お化けハイランダケ10匹、グリーン・ハイノシシ10匹は、未来が浮遊させている貝と玉、そして「おとりくん」を追いかけて、卵1付近までドタバタと走って行ってしまった。
 この後、メカやアイテムが弾けだして、大変なことになるのだが……。

 卵3付近の現状は……。
 もはやベビーウマドラ1匹とドラゴンリーフ10匹が卵を守っているだけだ!

***

(さて、どうしようか、リュリュミアさん? もう11匹いるね?)

(未来さ〜ん! リーフはわたしに任せてくれるかなぁ〜?)

(10匹いるけれど、大丈夫?)

(うん。むしろドラゴンの方が相手は無理かなぁ〜?)

 と、次の作戦が決まり、未来が「テレポート」をして、突然、ベビーウマドラの前に現れた!

 未来はベビードラゴンの腹を駆け上がり、顔面に向かって、蹴りを直撃させる!

 ベビードラゴンは、未来の一撃で、鼻血を噴きだした。
 もちろん、未来の超ミニスカートから純白のパンティがちらりと見えたから……ではなく、顔面に打撃を受けたからである。(ドラゴンには人間の女の子のパンティの価値がわからない)

 鼻血を噴いたドラゴンは、頭に血が上り、クローや尾尻をぶんぶん振り回し、未来を倒そうと躍起になる。

 しかし、未来は細かい「テレポート」を何度も繰り返し、ひたすら攻撃を避け続けるものの……。

(うう……。さすがはドラゴン! 速いよ!! よーし、ならば……!!)

 未来は突然、空洞へ「テレポート」した。
 すると、ベビーウマドラは、クローの手を伸ばし、未来を捕まえようとして……。
 足場のバランスを崩し、空洞へ落下して行ってしまった……。

***

 未来がドラゴンと格闘している頃……
 リュリュミアは、ドラゴンリーフ10匹を相手に、花粉合戦をしていた。

「それ、それ、それぇ〜!!」
「ブシャー、ブシャー、ブシャー!!」

 リュリュミアが飛ばした花粉は、ドラゴンリーフの花粉で相殺される。
 一方、ドラゴンリーフが飛ばす花粉は、リュリュミアの花粉によって同じく相殺された。

 もっとも、リュリュミアは数において劣勢なので、やや押されているようだ。

「う〜ん……。時間もないしぃ〜。そろそろ遊びは終わりにしようねぇ〜!!」

 リュリュミアは、自身の身体を植物化させて行く……。
 2本の脚が根となり、高速度で根が大地に張り巡らされた。
 体の色も樹のように茶色へ変色し、頭上に紅の大きな花が咲き、光輝く花粉が凄まじい勢いで拡散する。

「すべての草花よぉ〜! 土にお還りなさぁ〜い!!」

 リュリュミアが「腐食循環」を完成させると、眼前にいるドラゴンリーフ10匹が、根元からみるみると枯れて散って行く……。

 ものの数秒で、10匹のリーフたちは枯れ木へ変化し、命が果てた。

「うふふ〜。こんなもんかしらぁ〜!」

 実はリュリュミア、普段はのほほんとしたお姉さんだが、実は植物相手だと最強の実力を発揮するのだ。

***

 こうして、卵3付近のモンスターはすべていなくなった。

「ふう……。そっちも無事みたいね?」
 ドラゴンを空洞へ落とし終えた未来は、卵のもとへ駆けて来た。

「うん。なんとかねぇ〜。じゃ〜、卵、頂いちゃいましょ〜!」
 さっきまで植物に変身していたが、事が終えて人型モードに戻っていたリュリュミアは、にこにこしていた。

 未来とリュリュミアが卵を運ぼうとしたそのとき……。

 鈴から突然の通信が入った。

『ジジジ……。こちら武神鈴! 至急、応援を頼みたい! ジニアスとラサがピンチなんだ!!』

 2人は通信を拾うと、未来がすぐに返信をする。

「どういうこと? 何かあったの?」

『ジジジ……。ジニアスとラサが宝付近の位置で敵に包囲されている……。早く行かないと命が危ない!!』

「よし! わたしが行くよ! リュリュミアさんは卵を持って逃げて!」

「は〜い!! 責任持ってお預かり致しま〜すぅ!」

 未来は「テレポート」を使い、一瞬で消えて行った。
 リュリュミアは飛行アイテム「しゃぼんだま」に乗って、ふわふわと上昇し、空洞の天井から外部へと逃げるのであった……。

***

「ねえ、ジニアス? 大丈夫? おい、おいったら!!」
 モンスターたちに殴り倒されて跳ね飛ばされたジニアスの耳元で、ラサが必死に叫ぶ。

「……つぅ……。あ、ああ……何とか生きているさ!!」
 ジニアスは起き上がり、ふらふらと「サンダーソード」を構え直す。

 それにしても未だにすごい数の敵だ。

 宝付近にもともといた敵は、ドラゴンリーフがあと5匹、お化けハイランダケがあと3匹、グリーン・ハイノシシがあと4匹。

 卵1付近から連れて来ていた敵は、ウマドラがあと1匹でベビーウマドラがあと3匹。お化けハイランダケとグリーン・ハイノシシが3匹ずついる。

 卵2付近からの敵は、ベビーウマドラがあと2匹、お化けハイランダケがあと2匹、グリーン・ハイノシシがあと3匹だ。

 これだけの数をジニアスとラサの2人で相手にするには、さすがに、手練れの冒険者である彼らでも無理があるだろう。

 陽動で宝付近まで敵を引きつけて来たものの、離脱の手段をぬかってしまったのが、そもそもの命取りであったのだ。

 とにかく、これだけのモンスターを相手にするとなると、もはやまともに攻撃手段を確保することができない。ジニアスは回避と防御に専念し、ラサは威嚇射撃でフォローをした。

 しかし、正念場なのは敵もまた同じで、そろそろとどめを刺そうと動き出す。

 グリーン・ハイノシシたちが同時に「グリーン・ストライク」で突進し……。
 お化けハイランダケたちとドラゴンリーフたちが、胞子&花粉攻撃を一斉に放ち……。
 ベビーウマドラたちは「雄叫び」を叫ぶ態勢に入り……。
 ウマドラは「ウマウマビーム」の発射を構え……。

 ジニアスとラサには、もはやこの攻撃の全部を受けるだけの余力はなかった……。

(ウソだ!! ここでやられてたまるか!! あきらめたくない!!)
(ジニアス……。ボクたちはここで終われないんだよ!!)

『ジニアスさん!! こっちへ!!』

「テレポート」で飛び出して来た未来が間一髪で間に合った。
 ジニアスとラサは攻撃を受ける直前で、未来につかまり、一緒に瞬間移動で消えた。

***

 エリアCの洞窟内では想像を絶する戦闘になったものの、こうして、仲間たちは誰も死なずに、洞窟の外へ出ることができた。

 ジニアスらが大惨事の頃、エリアC組のメンバーたちは洞窟外で待機していた。

 戦闘で負傷したアンナを指圧しているビリー。
 無念そうな表情で座り込んでいる隆紋。
 卵を大事そうに抱えているリュリュミア。

 と、仲間たちが洞窟外でくつろいでいたとき……未来、ジニアス、ラサの3人が、「テレポート」で突然出現!
 この3人の生存を仲間たちは心配していたので、彼らが出現するや否や、みんなで温かい歓声をもって迎えるのであった。

「いやあ……。本当にあぶねーところだったぜ!!」
「もう、ジニアスったら! ホントにムチャばかりするね!!」

 頭をかいて笑っているジニアスの横で、フードから出て来たラサが彼をど突いた。

「あのさ……。ところで、未来! さっきはマジでありがとう! 宝の『遺骨』が1本余っているから、あげるよ! 受け取ってくれ!」
 ジニアスはアイテム袋から先ほどの土壇場で取ってきた「遺骨」を取り出し、未来に差し出す。

「え? わたしが受け取っていいの? 武神さんが指示を出してくれたから、わたし、飛んで行けたんだよ!!」

 と、未来が迷っているところで、C組に鈴から通信が入る。

『ジジジ……。こちら武神鈴。みんな、おつかれ! うん? いいと思うぜ? 未来が『遺骨』を受け取れば?』

 鈴もそう言っているし、他に誰も反対しなかったので、未来は受け取ることにした。

「ジニアスさん、ありがとう! この骨、大事にするね!」


*エリアC・クリア*
☆卵1個獲得!!
☆称号「ウマドラハンター」獲得!!


5.リザルト

 ちゃらりらりん♪

 エリア・オール・クリア!!
 ユー・ウィン!!

☆卵:合計3個獲得!
☆判定:成功!

<備考>

卵3個以上:シナリオは当然クリア。次回の「料理編」でPC様方も料理を食べられます。その上、パーティをすることもできて、当シナリオに直接登場していない人たちにも分け与えることができます。また、次回に美味しい「お持ち帰りアイテム」としてより上等なものを入手できます。

【次回予告】

 ちゃん、ちゃ〜、ちゃら〜、ら〜ん♪

 何とかして、ウマウマドラゴンの巣窟から、卵を3個も無事に持ち帰れた冒険者たち。
 あまりにも熾烈な戦闘シナリオであったため、プレイヤー諸君は本来の目的を忘れてしまったかもしれないので、ここで一度、思い起こされたい。

 そう、ギルドのバイト少年ティムの妹ジェニーが病気であるため、滋養のある卵料理が必要だったのである!

 さて次回、冒険者ギルド「ワスプ」では卵料理のクッキングタイムが始まる! 冒険者たちは、無事に美味しく卵料理を作れるのであろうか? そして、魔術師階級に対してあまり良い感情を持っていないティムとは仲良くなれるのか? そもそもジェニーはウマドラの卵料理で助かるのだろうか!?

 次回で「ウマドラの卵料理が食べたい!!」はいよいよ最終回!
 怒涛のエンディングがいかに迎えられるのか、乞うご期待!
 冒険者のみんな、最終回もばっちりシメてくれよ!

<次回へ続く>