フィアレルの希望 第2回

ゲームマスター:高村志生子

 うっそうと生い茂った緑のせいか薄暗い森の中で、力の輪が広がった。それを 見てエルンスト・ハウアーがリーンに言った。
「ふむ、結界は得意そうじゃな」
「ありがとう。家が家でしょう?結界魔法使いになれたらと思っていたから、学 校でも専攻しているの」
「そう、学校に行っているんじゃな。なら一通りの基本は押さえているはずじゃ な」
「そのつもり……だけど、なぜ?」
 小首をかしげたリーンに、エルンストがやせ細った胸を張った。
「指輪を守るといっても、逃げまわっているだけじゃ解決にはならんじゃろう。 当然あちらさんも攻撃を仕掛けてくるはずじゃ。そのとき有効なのはなんじゃと 思う?」
「え?え、と」
 とっさに言葉に詰まるリーンに、エルンストが諭した。
「攻撃には攻撃じゃろうが。幸いワシは魔術学博士じゃ。理論はばっちりじゃ。 気合は十分のようじゃし、ここは一つワシが教えてやろう」
「攻撃だってできるわよ」
 プライドに抵触したのか、憤然としてリーンが言う。エルンストは若者の勢い を一笑に付すことでかわした。
「実戦経験はどうじゃ。実際ここまで逃げてくることしかできておらんじゃろう 。いきなり強い魔法を教えることは無理でも、魔法の組み立てで術を回避したり 、隙を作ったりすることができれば、反撃のチャンスを作ることができるはずじ ゃ。そういったことを学ばねばならんのじゃよ」
「……はい」
 リーンがおとなしくうなずく。そこへ姫柳未来が割り込んできた。
「魔法を教えてくれるの?わたしにも教えて!それこそ初心者なんだもん。先生 がいてくれると助かるな」
「おお、良いとも」
 未来の申し出にエルンストが快く応じる。未来がステッキを振り回して喜んだ 。
「やったー!頑張らなくちゃ」
「そうね。あたしももっと攻撃できるようにしなくちゃいけないわね」
 リーンもきゅっと口を結んだままもう一度うなずいた。
 とりあえず練習用にそこいら辺のモンスターを相手にすることにする。エルン ストの話を聞きながらリーンと未来が森の中に去ってゆくのを見送っていたマリ ーが、ひそかにため息をついた。
「心配ですかぁ?」
 ため息を聞きつけて、アクア・マナがマリーの隣にやってきた。
「まあ、一人じゃないし。大丈夫よね」
「そのわりには浮かない顔ですねぇ」
「たいしたことじゃないわよ。ただ、うまく行かないなぁと思って」
 座っていたマリーは、立ち上がって大きく伸びをした。そんな様子を見て、ア クアが肩をひそめた。
「リーンさんとの仲の問題ですかぁ?」
 アクアの言葉に、マリーも肩をすくめた。
「恨まれてしまったみたいね」
 口調は軽かったが、顔は苦々しげだった。そんなマリーにアクアは座るよう促 しながら問いかけた。
「マリーさんは家を出た理由をちゃんとリーンさんに話したことがあるんですか ぁ?」
「家を出た理由?私が勝手に、家の事たくして自分の道を選んだんだもの。あの 子はまだ14歳だったし、話してないわ」
「それがいけないんですよぉ」
 アクアがマリーの前に指を出した。
「仲はよかったんですよねぇ?」
「そうねぇ、まあ良いほうだったと思うけれど」
「あの調子では、本人は絶対に言わないと思うんですけどぉ、仲の良かったお姉 さんに置いていかれて、きっと寂しかったんですよぉ。それに何も言ってもらえ ないのってすっごく悔しいと思うんですよねぇ。だから素直になれないでいるん じゃないですかぁ?」
「そう……かしら」
 マリーが小首をかしげる。アクアがふぅっとため息をついた。
「ちゃんと話さないと、伝わらないことってあるんですよぉ。せっかくこうして 会えたんですし、一度きちんと話し合いをしたほうがいいですよぉ」
 と、すとんとリュリュミアが隣に座ってきた。
「まあ、久しぶりの姉妹対面で気持ちが昂ぶっているんじゃないかなぁ。あせら ずいきましょうよぉ」
  「話し合いねぇ……」
 どうもマリーはあまり乗り気ではないようだ。アクアは無理強いはせずにそっ とその場を離れた。
 森の中ではさっそくリーンたちがモンスターに遭遇していた。甘い芳香が周囲 に漂っている。ウスバカゲロウの大群に取り囲まれた中央に、リーンの張った結 界が円を作っていた。
「結界だけじゃだめじゃぞ」
「わかってるわ」
 エルンストの促しに、リーンが考え込んでいた。知識はあっても実戦はほとん ど初体験に近いリーンは、相手がモンスターといえど攻撃することにためらいを 持っているようだった。エルンストはそんなためらいにすぐに気づいて、はっぱ をかけた。
「こやつらには結界も重要じゃが、これでは身動きがとれんじゃろう。結界を張 りながら攻撃するにはどうしたらいいか考えるんじゃぞ」
「未来、風の魔法は放てる?」
「やってみるね」
 リーンの言葉に未来がステッキを振りかざす。その先で風が渦をまく。リーン が火を放って風に乗せる。風に乗った火はウスバカゲロウを燃え上がらせた。
「火と風を組み合わせたか。良い手じゃな」
 ほめられてリーンがうれしそうな顔になった。
 と、リーンの体がぐらりとかしいだ。エルンストが慌てて支える。未来がのぞ き込むと、リーンは不思議そうな顔をしていた。
「いやだ、どうしたのかな。急にめまいがして……」
「ふむ、疲れがとれておらんのかもしれんのう。みなのところへ戻るか」
 エルンストに肩を抱かれながら戻ってきたリーンに、マリーは一瞬ちらっと視 線を向けたが近寄ろうとはしなかった。アクアはそんなマリーを横目に見ながら 、リーンに近寄っていった。
「リーンさん、どうしたんですかぁ」
「ちょっと疲れていたみたい。めまいがしちゃって」
「大丈夫ですかぁ?ちょっとこちらで座って休みましょう」
 そしてマリーとは少し離れた場所にリーンを誘っていった。
 座るとアクアの衣からシャリンと鈴の音が響いた。それはリーンのいらだちを 鎮めてくれた。しばらく二人は黙ったまま、そうして座っていた。やがて落ち着 いたのかリーンが大きく伸びをした。それをきっかけにアクアが口を開いた。
「リーンさんはお姉さんと話をする気はないですかぁ?」
「え?」
 急に問いかけられてリーンが困った顔になる。アクアは優しく微笑みながら言 葉を続けた。
「お姉さんが家を出た理由とか、ちゃんと聞いてみるつもりはありませんかぁ? さっきちょっと話をしたんですけどねぇ、お姉さんはリーンさんのことをいつも 気にかけていたみたいですよぉ。だから聞いたらきっと話をしてくれると思うん ですぅ」
「そんなこと、急に言われても……あたしが置いて行かれちゃったことに変わり はないのに」
「リーンさんはそれが寂しかったんですねぇ」
 素直に認めるのは気恥ずかしかったのか、リーンが顔を伏せてしまう。アクア が励ますように背中をぽんぽんとたたいた。
「私にも妹がいるんですよぉ。だから姉妹が仲違いしてるのは辛いですぅ。あな たたちはお互いに理解が足りないだけだと思うんですよぉ。だからちゃんとお話 ししてみましょうよぉ。ねぇ?」
「マルグリット姉様は話してくれるかな」
 そこにリュリュミアの声が重なった。
「あなたが聞いてくれれば大丈夫ですよぉ。けんか腰にならないでね」
 リュリュミアの背後にはマリーが立っていた。リュリュミアに手を引かれて、 軽く横を向いている。どうやらリュリュミアが引っ張ってきたらしい。今ひとつ 素直でないその様子に、リーンも横を向いた。
「いろいろ話したいことはあるんでしょぉ。気を落ち着けて。まずはお互いを見 るところから始めましょうよぉ」
 リュリュミアがマリーを、アクアがリーンを促す。隣同士に座らされて、いさ さか気まずい雰囲気が漂った。
「そうだ、聞きたいことがあるんですけどぉ」
 雰囲気を解きほぐそうと、リュリュミアが明るく問いかけてきた。
「シークスの一味は、ほかにも盗んだ魔法具を持っているんでしょぉ。サークレ ットを取り返す手伝いをしたら、お礼になにかもらえますかぁ?」
「お礼?だったらリーンに言って」  マリーが素っ気なく言う。リーンがかっとなって立ち上がった。
「長子はマルグリット姉様の方よ。姉様がいいというならあたしは文句なんて言 わないわ」
「私は家をあなたに任せるつもりなの。魔法使いの家系として、どちらが家を継 ぐにふさわしいかなんて考えるまでもないでしょう。リーンには重荷かもしれな いけれど、あなたなら立派に家をもり立てられると信じているわ。リュナイのサ ークレットをシルドナが持っていることにも気づけたんだもの。大丈夫。信じて いるわ」
「そ、そんなの勝手すぎるわ」
 リーンが地団駄を踏む。マリーは表情をこわばらせていた。
「ちょっと、ちょっと。こんなところで仲間割れしている場合じゃないでしょ」
 いつから聞いていたのだろう。リューナが話に割って入ってきた。
「ねえ、リーン。マリーが本当にあなたのことをどうでもよく思っているなら、 こんな風に助けに来たりしないでしょ。えーっと、シルドナだっけ?あいつの目 的がリーンの持っている指輪なら、また襲ってくると思うの。けんかなんかして たって状況は打開できないわ。今は協力しあうべきじゃない」
「もちろんサークレット奪還には力を貸すわよ。他人事じゃないもの」
 マリーの言葉にリューナが意を得たりと瞳を輝かせた。
「そうそう、シルドナの持っているサークレットとリーンの持っている指輪は対 だそうね。前に聞いたんだけど、王家から賜ったものだと言うことは、国一つ覆 すくらいの力を持っているのかしら」
 リーンが顔をしかめた。
「話したの?」
「そんなにたいしたことじゃないわよ。そろうとふつうの魔法具の2〜3倍の力 を引き出してくれるの」
 マリーが慌てて言った。
「本当にそれだけ?」
 リーンの反応から、奥がありそうだとリューナが追及の手を伸ばす。マリーが ばつの悪そうな顔になった。
「だから、私はあんまりよく覚えていないのよ」
「じゃあリーンは?こうまで執拗にシルドナがねらってくるんだもの、何かある のは確かなんでしょう」
「国一つ……そうね、そうかもしれない。シルドナが知っているとは思えないけ れど、あたしたち魔法使いにとっては重要なことかも。詳しくは話せないのだけ ど」
「そんなにすごいお宝なの?」
「魔法使い以外には価値がないかもしれないわよ。力の増幅だもの」
 それは明らかにマリーの言葉に便乗した台詞だった。どうやらリーンにも話す 気はないらしい。リューナが首をかしげた。
「本当にシルドナは知らないのかしら。そろったら何かが起きるってわかったか ら狙っているんじゃないの?昔の盗難事件とシークスが同かかわってるかはわか らないけど」
「リュナイのサークレットが奪われたのは、数代も前のことだから、それとシー クスとは関係ないと思うの。でも、もしかしてなにか感づいたのかしら……」
 半分独り言のようにつぶやくリーンの首筋に、赤い傷跡を見つけてリューナが ふと眉をひそめた。そっとマリーに合図を送る。マリーも怪訝そうな顔になった 。
「わたし、思うんだけど、そのサークレットがなくなったからあなたたちの家は 没落したんでしょう?ならお姉さんにその家宝を取り返すチャンスを上げてもい いんじゃない、リーン」
「チャンス?」
「そう。マリーが家に戻るか否かは別として、戦いなら冒険者をやってきたマリ ーのほうが有利だと思うの。マリーだって家の役には立ちたいでしょう」
「それはあるわ」
 マリーがおずおずとうなずく。その目の前に指輪が差し出された。
「リーン?」
「ならこの指輪は姉様が持っていて。魔法を使うだけならピアスがあるからあた しは大丈夫だもの」
「でも……」
 魔法をあまり使えない自分が持っていても仕方がないのではないかとマリーが ためらっていると、リーンが急に気弱な声で言った。
「なんだかいやな予感がするの。ううん、あたしに先見の能力はないけれど、な んだか不安で……あたしがもっているより、それこそ冒険者としてやってきたマ ルグリット姉様のほうが、指輪を守れそうな気がして」
 うつむいたリーンの首筋に残る赤い傷跡。リュートとマリーがひそひそと話し 合った。
『そんな話は聞いたことないけれど』 『シルドナって、やたら強いじゃない。可能性はあるわよ』 『まさか、めったにいない吸血鬼だなんて、そんなこと……』 「姉様?」  リーンの問いかけに二人がはっとする。マリーがぎこちなく笑いながら指輪を 受け取った。
「わかったわ。シルドナからサークレットを奪い返すまで、これは私が預かるわ ね」
 自分で言ったように不安があったのだろう。マリーの言葉にリーンが安堵の表 情を浮かべた。

            ○

 アザクの森の中は薄暗い場所だが、「そこ」はよりいっそう暗く感じられた。 リリエル・オーガナは手にした新式対物質探索機の反応を見ながらそう思ってい た。
「出たわね!」
 機械の反応にリリエルがすばやくフォースブラスターを構えた。木の陰から灰 褐色の体毛を持ったウルフが飛び掛ってきた。リリエルは意識を集中させて狙い を定めた。 「うぎゃうぅ!!」
 気の塊に横腹を貫かれてウルフが悲鳴を上げる。しかし逃げるどころかさらに 獰猛なうなり声を上げて立ち向かってきた。鋭い牙がリリエルに食らいつこうと する。だがそんな動きは持ち上がった岩にさえぎられた。リリエルが手近な岩に 擬似生命を吹き込んで盾としたのだ。ウルフが勢い余って岩に激突する。その隙 を狙って再びフォースブラスターで今度は眉間を狙う。ウルフの体がどさりと倒 れた。
「ふう、あら?」
 一息つくまもなく、機械が新たな反応を示す。しばらくモンスターとの戦いに 明け暮れたリリエルは、いつの間にか川の近くに来ていた。せせらぎの音があた りにこだまする。それにまじってどどぅと地鳴りのような音も聞こえる。リリエ ルは探索機の反応を確かめながら音の方向に向かっていった。
「滝かしら」
 強い水の気配を機械が伝えてくる。と、不意に反応が消えた。
「なに……新手!?」
 いきなり周囲を炎が取り囲んでいた。が、確かに炎なのに火の気配は感じられ ない。それでリリエルには、それがただの炎ではなくモンスターなのであること がわかった。
「甘いわね」
 とっさにエアカーで空中に浮かび上がる。マホロビたちが後を追ってくるとこ ろへ、気弾を続けさまに発射する。マホロビたちが霧散して消えるのを確認した 目の端に、滝の姿が映った。
「ああ、やっぱり滝があったのね」
 ついでだからとエアカーでそのまま滝に向かう。滝はなかなか雄大な姿をして いた。
「水の反応だけかしら」
 エアカーに乗ったまま探索機を操る。水の気配のほかに何かないか探ってみる と、どうも滝の奥深くに探知できない場所を見つけた。近くに寄ってみようとす ると、滝の裏側からマホロビたちが出現した。
「しつこいわね!」
 どうやら探査できなかったのはこのせいのようだと判断し、エアカーの向きを 変える。よく目を凝らしてみると、マホロビたちは洞窟のような場所から沸いて きているようだった。
「住みか(?)でもあるのかしら」
 水の豊富な場所に炎のモンスターという奇妙な取り合わせにリリエルが首をか しげる。気づけば眼下にウルフたちも集ってきていた。
「ずいぶんたくさんいること」
 さすが有数のモンスター生息地帯、と感心している間はなかった。探索機が滝 の上部に人の気配を感知したのだ。リーンたちではないことは明らかだ。とすれ ば考えられるのは一つしかない。
「シークスの奴らね!」
 リリエルは洞窟の存在も気になったが、シークスの出現を重視して、急ぎリー ンたちのところに戻っていった。

 シークスの出現に勇み立ったのはグラント・ウィンクラックだ。さっそく相棒 のエアバイク型AI「凄嵐」にまたがり、リリエルに場所を尋ねた。
「相手が盗賊団なら心置きなくぶちのめせるしな!」
「先のほうに滝があるの。連中はその上にいたわ」
「よし!行くぜ、凄嵐」
 白い車体がグラントの声に呼応して奮える。ずばっと走り出すその後を、リー ンたちが追った。
 滝まではAIなら一っ飛びだった。いかにも盗賊らしい凄みをました顔つきの 男どもがたむろしている。中心に立つ男の姿にグラントが気を引き締めた。
 どうやら敵方でもグラントが来たことに気づいたらしい。シルドナの手が上が るのを見て、グラントが破軍刀を呼び出した。シルドナの呼び出した雷がグラン トを狙う。それをかわしながら近寄っていくと、手下の男どもが崖をひょいひょ いと降り出していた。ふと気づけばシルドナの姿がない。急いで探すと、先に転 移魔法で下に降りていたらしい。森の中に入り込む後姿が見えた。
「ちっ、行かせるかよ」
 森の中では後からやってきた仲間たちとの交戦に入ったようだ。宝生院夕月が 木立の影に潜みながら、やってきたシルドナに手裏剣を放った。とっさにマント でそれを防ぐ間合いに入り込む。愛用の刀を抜き去りながら切りかかるが、それ は防御魔法によって防がれてしまった。再び木立に身を潜め間合いを計る。シル ドナは目的がわかっているかのように、薄暗い森の中を疾走していた。
「リーンの元には行かせないわよ!」  夕月も後を追って駆け出した。
 木立の合間合間から攻撃を繰り出し、何とかシルドナの足を止めようとする。 ウルフたちも出てきた。
「この先はだめだよ!」
 未来がシルドナの正面に躍り出て、風の刃を放った。真っ正面から来られて、 さすがにシルドナが一瞬足を止めた。
 シルドナの背後にはトリスティアが回り込んでいた。手にはヒートナイフが握 られている。その視線は未来や夕月と戦っているシルドナの額に向けられていた 。額ではリュナイのサークレットが白銀に輝いていた。シルドナは転移魔法を使 おうとしているようだったが、絶え間ない攻撃に移動する先を決めあぐねている ようだった。
 ウルフたちが人間の気配に忍び寄ってきていた。シークスの面々はお頭に続こ うとしていたが、モンスターに囲まれてそちらとの交戦状態に陥っていた。しか しそれはリーンたちも一緒だった。
「こいつらは群れないはずなのに」
 マリーが剣を抜き去って先頭の一体を切り裂く。意識してやったわけではない だろうが、魔法が発動して炎がその一体を包み込んだ。が、すぐその後から別の 一体が飛びかかってくる。剣と牙ががっきり組み合った。
「マルグリット姉様!」
 リーンが光の玉をそのモンスターにぶつけた。アクアが怒鳴った。
「離れた隙に攻撃ですよぉ!とどめはお姉さんに任せて」
「わかったわ」
 ウルフとマリーが間合いをとると、その隙にリーンが火球弾を撃ち込む。火に 巻かれて跳ね上がった体をすくい上げるように、マリーが剣で切り裂いた。
 対シルドナ戦には、凄嵐で駆け戻ってきたグラントが突っ込んできていた。
 木立の合間を巧みにすりぬけ、乱戦となっている場に叫びながらやってきた。
「やあやあやあ!遠からん者は音にも聞け!近くば寄って目にも見よ!我が名は グラント・ウィンクラック!リュナイのサークレットは返してもらうぜ!それと おまえらが人々を苦しめた罰を受けてもらおうか!おとなしくしろとは言わない ぜ!力一杯抵抗して俺を楽しませろ!」
 猛スピードで乱戦の最中に突入して行く。破軍刀をしっかりかまえ、いきなり のことに右往左往している手下どもに突きつけた。
「一軍を破るという意味で名付けられた破軍刀だ、当たったら痛いじゃすまねぇ ぞ!」
「ええい、やっちまえ」
 手下どももだてに盗賊団にいるわけではない。面白いようにグラントの挑発に 乗って立ち向かってきた。
 てんでに得物を手にかかってくる手下どもを、いとも簡単に右に左になぎ払っ て行く。ついでにいたウルフをも倒して行くと、視界が開け未来たちと戦ってい るシルドナの姿が目に入った。グラントはそこで凄嵐から降りて、あらためて破 軍刀を手にシルドナに詰め寄っていった。
「あんた、強くって悪いんだってな。だったら今まで泣かせてきた奴の分、今度 はあんたに泣いてもらうぜ。この破軍刀でな!」
「やれるものならやってみろ!」
 シルドナとて自分の力量には自信を持っている。横なぎにされた破軍刀の一撃 をひらりとかわし、光球弾を投げつけてきた。
「あいにくだったな!」
 グラントがそれを抗魔手甲で受け止める。はじけた光が森を照らした。シルド ナが続けて雷を放つ。それをよけつつグラントが再び立ち向かっていった。
 シルドナが接近戦は不利と悟ってなんとか間合いをとろうとする。しかし破軍 刀は2mを越す大刀だ。そう簡単にはいかない。しかもグラントだけでなく未来 も迫ってきた。
「これでどう!」
 未来がステッキを振りかざし突風をたたきつけた。
「ちっ」
 シルドナは軽く舌打ちし、樹上を見上げた。その一瞬の間を見逃さず、潜んで いたトリスティアがヒートナイフを立て続けに投げつけた。
 シルドナが気配に身をかわす。何本かははたき落としたが、爆発が起きる。頬 をかすめた物もあって血がにじんだ。
 ヒートナイフの爆発にあおられてシルドナが体勢を崩す。すかさずグラントが 破軍刀を振りかざした。シルドナは膝をついた状態で樹上に転移した。
「逃げる気か!」
「戦いは目的じゃないんだがな」
 シルドナの手が一閃すると、鋭利な風の刃があたりの木々を切り裂き、グラン トたちの上に倒れ込んできた。未来が風の壁でそれを防いでいる間に、シルドナ はまた転移してしまっていた。
 ちょうどその頃、リーンはウルフと戦っていた。さすがに戦いの最中にわだか まりは持っていられない。アクアの指示するままにマリーたちと連携してモンス ターを攻撃して行く。その場所にほど近いところにシルドナは現れた。
「いたか」
 リーンの気配はすぐに感じ取れた。シルドナの目が怪しく光る。その瞬間だっ た。
「リーン!」
 気丈に立って攻撃をしていたリーンが、いきなり倒れた。マリーたちが慌てて 駆け寄る。シルドナを追ってきたトリスティアたちが援護に回った。抱え起こさ れたリーンはすっかり意識を失っていた。その様子を見届けてから、シルドナは やはりモンスターと戦っていた手下の元に戻った。
「野郎ども、引き上げるぞ」
 群がるウルフを雷で気絶させ、撤退して行く。
 気を失ったリーンは、仲間の呼びかけにいっこうに目を覚まそうとしなかった 。

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