「ゲット!フリーダム」 第三回

ゲームマスター:高村志生子

 アーニャを乗せた馬車が王宮へ向かってがたごとと道を走っていく。その様子を雲の上か ら眺めていた睡蓮は不思議そうに1人ごちた。
「せっかく帰れたってのに、またあの王様のところに自ら行くなんて、人間ってほんとわか らない生き物だよなぁ。ま、これもなにかの縁だ。一緒に行ってやるか」
 どろんとトーニャの姿に変化すると、雲で先回りして王宮前で飛び降り、馬車の前に飛び 出した。
「な、なんだ!」
「姉さんを1人で行かせるなんて出来ないよ!僕も一緒に連れて行って!」
 両手を大きく広げて通せんぼする。御者は無視して通り過ぎようとしたが、アーニャが中 にいた警護団員に訴えて止めさせた。馬車から降り立ったアーニャに、トーニャの振りをし て睡蓮が抱きつく。そしてさも心配げに声を張り上げた。
「父さんも王宮にいるんでしょ。僕だけ1人残して行かないで。父さんや姉さんだけを辛い 目にあわせるなんてできないよ。お願いだから」
「トーニャ……」
 アーニャはしばらく何事か考え込んでいた。そして顔を上げると警護団員に睡蓮も一緒に 連れて行ってくれるよう頼み込んだ。
「弟はまだ幼いので、放ってはおけないのです。それに父の仕事の手助けになるはず。だめ ですか?それならば私も行きません」
「うむ、仕方ないな。いいだろう、乗りなさい」
 警護団としても人質が多いに越したことはない。しばらく相談した後、同行を許可した。 馬車に乗り込んだ睡蓮は、明るくアーニャに話しかけた。
「姉さんのことは僕が絶対に守るからね!」
「私のことよりあなたのほうこそ……無茶はしないでね」
 アーニャはやはりどこか考え込んでいる感じで返事を返してよこした。
 王宮は復旧工事が終わり元の美しい姿に戻っていた。しかしそのきらびやかな姿も悪政の 象徴にしか見えず、アーニャの顔は曇ったままだった。馬車が門をくぐり入口につけられる と、そこで一悶着あった。予定ではアーニャとマイトが連れてこられるはずだったのだが、 実際に来たのはアーニャだけだったので、その処遇をどうするかでもめてしまったのだ。そ の隙に馬車に取り残されたアーニャが睡蓮に話しかけてきた。
「あなた……トーニャじゃないんでしょう?いくらなんでも別荘から馬車の前に先回りする なんてできるはずないもの。誰なの?」
「なんだ、ばれていたのか。オレだよ、オレ」
 睡蓮が今度は以前王宮で会ったメイドの姿に化ける。アーニャがほっとした顔になった。
「あなただったの」
「おっと、警護団の奴が戻ってきた」
 睡蓮はそっと馬車を抜け出した。どうやらアーニャはそのまま後宮に連れて行かれるらし い。睡蓮は迎えのメイドを装って登場し、アーニャと一緒に後宮へと向かった。トーニャの ことはやはり家に帰したといったが疑われはしなかった。
 後宮にやってきたアーニャは、満面の笑みを浮かべているリュリュミアと、少しあきれた ようなマニフィカ・ストラサローネに迎えられた。決意を鈍らせまいとしているアーニャの 表情は硬く、マニフィカの不審をかった。リュリュミアはのんきにぽふんとアーニャに抱き ついた。
「ああ、良かった〜アーニャさん戻ってきましたぁ。部屋がめちゃめちゃに壊れてたから、 フリーダムに攫われたかと心配してたんですよぉ」
 後宮にいることになんら疑問を抱かないリュリュミアの台詞に、アーニャが困ったように 笑う。戸惑ったような笑顔に、リュリュミアがう〜んと考え込んだ。
「アーニャさんは好きな人がいるんですかぁ?」
「えっ!?どうして?」
「エッチな人が苦手みたいだから、そうなのかなぁって思ってぇ」
 どこまでも天真爛漫なリュリュミアにアーニャが苦笑した。
「好きな人は、別に今はいないけれど。触れられるのは、やっぱり好きになった人にがいい わね。嫌いな人に触られるのは嫌だわ」
「そぉですかぁ。そうですねぇ。人を好きになるのはいいことですよねぇ。わかりました。 レゼルドさんのことは嫌いなんですねぇ?だったら行くときは一緒に行ってあげますねぇ。 リュリュミアと一緒なら大丈夫ですよぉ。レゼルドさんもひどいことしないと思いますぅ」
「あ、ありがとう」
 殺害の決意を固めているアーニャには、それはいささか不都合な申し出だった。リュリュ ミアのように純真な人間に殺し合いの様子など見せたくない。その思いが自然と短剣を隠し 持っている腰元に手をやらせた。その手にマニフィカの手が添えられた。アーニャがはっと する。感触とアーニャの様子からアーニャの意図を察したマニフィカがそっと首を振った。
「犯罪者の処刑にすら心を痛める貴女に、その覚悟は似合わないわ。およしなさい」
 アーニャは少しだけ泣きそうな顔になってから、きっぱりと言った。
「おわかりになりましたか……でも、この覚悟はひるがえせません。止めないでください。 いいえ、誰にも止めさせません」
 非力なアーニャでは暗殺などまず成功は無理だろう。マニフィカにはそれがわかっていた 。失敗すればアーニャといえどなにをされるかわからない。なんとか言いくるめてみようと 試みてみた。
「……王の進退について、わたくしに考えがあるのですのよ。あの王ならばきっと乗るであ ろう案ですの。それが成功すればこの国は必ず良い方向に向かいますわ。それまで待ってみ てはいただけません。それに、王宮にはお父様がいらっしゃるのでしょう?もしものときは お父様の扱いにも影響がでるのではありませんの」
「それは……そうですけど……」
 父親のことを持ち出されてアーニャがひるむ。と、開いていた窓から3本足の鳥が飛び込 んできた。
「変わった鳥ですわね。あら、なにかくわえて……これは。アーニャ、貴女宛の手紙のよう ですわよ」
 八咫烏がくわえていたのは長谷川紅郎からの手紙だった。手紙にはクナス救出作戦のこと が書いてあった。それを読んでアーニャの顔がぱっと明るくなった。
「お父さんを助けてくれるって人がいるの。頭が良くて強い人なのよ。だからきっと大丈夫 ……これで心配はないわ」
「心配って、まさか……」
「ええ、やるわ、私」
 アーニャの顔には再び強い意志が浮かんでいた。マニフィカが眉をひそめる。そこへメイ ド姿の睡蓮が飛び込んできた。アーニャが来たことを知って、レゼルドが後宮にやってきた というのだ。睡蓮の後ろからジェルモン・クレーエンが姿を現して、レゼルドがアーニャを 呼んでいることを伝えた。アーニャがきっとした顔でうなずく。マニフィカに軽く頭を下げ 部屋を出て行く後に、リュリュミアがてててとついて行った。
 アーニャは王の寝室に入るなり、吐き出すように現体制の批判の言葉を口にした。その激 しさにアーニャを抱き寄せようとしたレゼルドの手が止まる。アーニャはすかさず短剣を取 り出してレゼルドに切りかかっていった。
「あ、あぶないぃ。レゼルドさん、どぉん」
 リュリュミアがレゼルドの体を突き飛ばす。不意打ちにレゼルドの体はたやすく床に転が った。アーニャはジェルモンに取り押さえられて、手にしていた短剣が奪い去られた。
「あなたは人をあやめてはだめだ。その類まれな歌声が穢れてしまうよ」
「離して!彼が王である限り、この国は良くならないの。穢れたってかまわないわ。それで 皆が幸せになるなら」
 レゼルドは腰を抜かしていた。リュリュミアはレゼルドが大丈夫なのを確認してアーニャ を振り返った。
「ふぅ、何とか間に合いましたかぁ。アーニャさん、短剣なんて振り回したら危ないですよ ぉ。下手に刺さったら死んじゃいますからねぇ。死んじゃったら治らないんですよ?」
「その……つもりだったもの……」
 泣きながら床にくず折れたアーニャを軽く抱きしめながらリュリュミアが言った。
「ん〜でも、そうしたら、アーニャさんが好きな人が悲しみますよぉ。とりあえず2人とも 無事だったんだから仲直りしましょう。何か直して欲しいことがあったら、ちゃんと言葉に しましょうよぉ」
 リュリュミアがアーニャの背中を叩く。アーニャは泣き顔でまだ腰を抜かしているレゼル ドに訴えた。
「どうかもっと民のことを考えてください。力で押さえつけるばかりがすべてではありませ ん」
 部屋にそっと滑り込んできた睡蓮がアーニャを立ち上がらせた。そのままレゼルドとジェ ルモンを部屋に残して、リュリュミアと一緒に立ち去って行った。
 やがてショックから立ち直ったレゼルドが、憤慨したようにいらいらと部屋の中を歩き回 った。ジェルモンはそんなレゼルドをしばらく黙って眺めていた。やがてレゼルドが腹立た しげにジェルモンに退出を言いつける。ジェルモンはそれには従わず、アーニャから奪った 短剣をレゼルドに突きつけた。レゼルドがぎょっとしたように身を引いた。
「陛下、陛下にはあの娘の言葉の意味がわかりますか」
「意味じゃと!そんなもの考える必要があるものか。あの娘はわしに対して刃を向けた。王 であるこのわしにじゃ。あの美貌は捨てがたいが、許すわけにはいかん。父親もろとも死罪 にしてくれるわ」
 ジェルモンがふふふと含み笑いをもらした。そしていきなり短剣を首筋に当てたままレゼ ルドを横抱きにして、ベッドに向かった。
「な、なにをする!」
 レゼルドが青ざめて叫ぶ。見た目よりはるかにがっちりとした体格のジェルモンは、軽々 とレゼルドを運ぶと、そのままベッドに押し倒した。そして短剣を投げ捨て、代わりに唇を 首筋に押し当てた。レゼルドの喉がごくりと鳴った。
「自分自身でおのれひとりの身も守れない陛下……おそらくフリーダムは近いうちに決起す ることでしょう。民衆は奴らに味方するでしょうし、貴族の力も弱まっている。陛下のお命 は風前の灯といったところでしょうか」
 感情のこもらない声と一緒にジェルモンの舌がレゼルドの首を舐め上げる。レゼルドの背 を冷たいものが走った。
「民衆の支持を得られなくては陛下の命は保証できないということです。それには今のまま の陛下ではいけない。臣下の情をかいせるようにならなくては」
 その言葉にレゼルドがかっとなった。
「ええい、誰かおらぬか!この不埒者をつまみ出せ!」
 その声に兵士たちが飛び込んでくる。ジェルモンは体を引き上げられても抵抗しなかった 。
「この裏切り者が……二度とわしの前に現れるな!連れてゆけ!」
「やはりおわかりにはなれないようですね」
 連行されながらもジェルモンの口元には冷笑が浮かんでいた。レゼルドは顔を真っ赤にし て罵詈雑言を吐き散らしていた。

 心配しながら待っていたマニフィカは、リュリュミアと睡蓮に支えられながら戻ってきた アーニャを見てほっと胸をなでおろした。アーニャは泣きながらマニフィカにすがりつくと 、暗殺の失敗を打ち明けた。
「私はどうなってもいいから、あの男だけは殺したかったのに」
「人には向き不向きというものがあるんですよぉ。貴女は刺客には向いていなかった。ただ それだけのことです。とにかく無事でよかった」
 アーニャがはっと顔を上げた。
「そうだ、お父さん……きっとあの男は、見せしめにお父さんを殺そうとするに違いないわ 。なにか書くものはありませんか」
 紙とペンを受け取り手紙をしたためると、部屋にとどまっていた八咫烏にくわえさせる。
「お願い、紅郎さんにこれを届けて」
 八咫烏はアーニャの言葉を聞いて翼を広げて飛び立っていった。
 心身ともに疲れきってしまったアーニャをとりあえず休ませると、マニフィカはレゼルド の元に向かった。途中、メイドたちのひそひそ話で、ジェルモンが追い出されたことを知る 。先に粛清された貴族のことも考え合わせて、マニフィカはレゼルドの現状を冷静に判断し ていた。
 ジェルモンの仕打ちに怒り心頭に達していたレゼルドは、後宮の王の間でメイドたちに当 り散らしていた。さすがにマニフィカが入っていくと大人しくなったが、応対はこれまでと 比べてかなりぞんざいなものだった。マニフィカはおびえているメイドたちを下がらせると 、優しげな声でレゼルドに告げた。
「アーニャが陛下のお命を狙ったそうですわね」
「もう聞きつけられたのか。あんな大人しげな風情で……王たる私を殺そうとするなど。ふ ざけおって」
 吐き捨てるようにレゼルドが言う。威厳を保とうとはしているが、生来の小心さがあらわ になっていてどこか弱々しげに見えた。マニフィカはレゼルドの側に立つと、その肩に手を 置いてさりげなく言った。
「アーニャが動いたくらいですもの。これからもっとてごわな刺客がやって来るかも知れま せんわね」
 ぎくりとレゼルドの肩が動く。マニフィカは優しげにささやいた。
「わたくしは、陛下がお命を奪われるほど非道な方だとは思ってませんのよ。こうしてわた くしを賓客としてもてなしてくださってくださることですし。お優しい部分も持ってらっし ゃると思うのです。けれど、民衆や粛清された貴族たちはそうは思わないかもしれませんわ ね」
「どうなされよと言うのか、姫君は」
「万が一のことを考えて、国外脱出の用意などしておいてはいかがでしょう」
「脱出じゃと。逃げろと申されるか」
「今回は不向きな刺客であったから幸いしましたけれど、フリーダムが決起しましたら、陛 下のお命はどうなるか。保障は出来ませんわ。なにごとも命がなければどうにもならないの ですよ。陛下の財産は相当なものなのでしょう?今のうちにそれらを国外に出しておき、そ こでこれまで同様の悠々自適な生活を送るのも悪くはないのではありませんの」
「う……む……」
 自らが1人では非力であることは、ジェルモンによって証明されてしまっていた。マニフ ィカの意見は、レゼルドを動揺させた。
「民衆の意志は生活を向上させることにあって、決して陛下の命だけを狙ったものではない と思うのです。国の外にまで追いかけては来ないでしょう。たとえ王位をなくしても、命が 失われるのよりは良いのではありませんか。陛下にその気がおありでしたら、わたくしは助 力は惜しみませんことよ。リュリュミアにも手伝わせましょう」
 リュリュミアといるときの健やかな眠りは、不安におびえる今のレゼルドには確かに大き な魅力だった。おのれがいかに疲れているかいやでも自覚せざるを得なかった。王位を、権 力を失うことは耐えがたかったが、アーニャのような小娘にまで刃を向けられて、恐怖を感 じたのは事実だ。
 レゼルドの心の揺らぎは、マニフィカには手に取るようにわかった。レゼルドは明らかに 王には不向きな人格者だ。噂に惑わされ、政権を維持するための不文律に背いてしまった。 だからこの先何を行おうと、現体制は急速に瓦解するだろう。レゼルドが王でいられるのも 後わずかな間の話だ。しかし、マニフィカは決してレゼルドの死までも望みはしなかった。 できれば流血は避けたいし、これまでの待遇に対する恩義もある。ここでマニフィカまでが 彼を見捨ててしまうのは、あまりにも不人情というものだろう。
 思い悩んでいたレゼルドは、気弱な声でマニフィカに問いかけてきた。
「姫はなぜわしを助けてくれようとなさる」
 素直な質問に、マニフィカは偽りのない笑顔をレゼルドに向けた。
「陛下はわたくしを賓客としてもてなしてくださいました。その恩義に報いなくて、王族は 名乗れませんわ」
 それこそレゼルドに欠けている最たるものであろうが、その皮肉にはレゼルドは気づかな かった。
「粛清した貴族に、恩を着せることで王位を守ることは可能じゃろうか」
「彼らがそう思うかはわたくしにはわかりません。信用は失うのはたやすく得るのはより以 上に難しいものですから」
「賢者殿に相談してみるか……。だが、ミハイルだけは……」
「え?」
「ああ、いやこちらの話だ。それはそうと、先ほどの件じゃが、財産を国外に出しておくの は姫の言われるように良い案かも知れぬな。しかし表立って動くのはフリーダムに機を与え ることになるじゃろう。ここは姫にお任せしてよいか」
「おおせとあらば喜んで」
「うむ。頼みますぞ」
 マニフィカは王の間を退出しながら、レゼルドがもらしたつぶやきを反芻していた。
「ミハイル卿になにかしかける気なのでしょうか。こちらも手を打っていたほうが良いかも しれませんわね」
 ひとまずアーニャの世話をリュリュミアに任せたマニフィカは、王宮に行って口の堅い人 材を選び出し、念のためチップを与えて口止めしてからレゼルドの財産整理を始めた。同時 にこっそり使者をしたててミハイルの元にやった。
 王宮の水面下でひそかな動きが進行している頃、紅郎は八咫烏を使ってアーニャと手紙の やり取りをしていた。クナスの救出は早ければ早いほうがいい。王宮内の居場所さえわかれ ばあとは簡単な話だ。軟禁されているアーニャはリュリュミアに頼んで父親の居所をメイド たちから聞きだしていた。それはわずかな情報だったが、王宮の構造を警護団にいたときに 把握していた紅郎には充分なものだった。細工物を作らされているなら、そこには細工を行 うための炉が必ずあるはずだ。炉からは煙が立ち昇っているだろう。おおよその目安をつけ て黒い翼で空を飛翔しながら王宮の様子を探索する。予想通りの場所から一筋の煙が細く伸 びている。窓からは熱心に炉に向かっているクナスの姿がうかがえた。紅郎はそれを確認し てにやりとした。
「さて、じゃあ行くか」
 八咫烏を使ってその場所からは離れた場所に創造した小さな爆弾をいくつもばらまいた。 はじけた爆弾は王宮内を混乱に陥れた。ばらばらと兵士たちがそちらに向かって走っていく 。作業場の見張りに立っていた兵士たちも、紅郎自身がばらまいた爆弾によって騒ぎに巻き 込まれていた。紅郎は人気がなくなるとさっそく窓から室内に入っていった。そして騒ぎに 驚いていたクナスにアーニャの手紙を見せた。
「弱いと思っていたけれど、案外あんたの娘も強いな。刺客になると言ったときは本当にい い目をしていたぜ。まあ、さすがにそれは失敗しちまったみたいだけどな。だからぐずぐず してられねえ。このままじゃあんたとてさっさと処刑されちまう。逃げるぞ。あんただって いつまでもこんなところにいる気じゃなかったんだろう。行くぜ」
「ありがたい。恩に着る」
 クナスは出来上がっていた細工品をざらざらと袋に放り込むと、言われるままに自分も袋 の中に入り込んだ。それを持ち上げ紅郎はすかさず飛び上がった。そして後宮で待っている アーニャのところに向かった。
「紅郎さん!」
「親父さんは袋の中で眠っているよ。さあ、あんたも早く入るんだ」
「アーニャさぁん?」
 珍客にきょとんとしていたリュリュミアが、アーニャが紅郎の持っていた袋に入ろうとし ているのを見て驚きの声を上げた。アーニャは少しだけ動きを止めてリュリュミアを振り返 った。
「リュリュミアさん、優しくしてくれて本当にありがとう。マニフィカ姫様にもよろしく伝 えてください。私はもうこれ以上ここにはいられないから」
「その人がアーニャさんの好きな人?」
 アーニャは軽く目をみはってから、ここは誤解させていた方が良いと判断して紅郎に自ら キスを送った。それは報酬として奪われたときのものとは違い、本当に触れるだけの軽いも のだったが、アーニャには精一杯の勇気を込めたものだった。それがわかった紅郎は、アー ニャを安心させようと離れかけた体を力強く抱きしめてキスを返した。アーニャが真っ赤に なる。しかし特に嫌がるそぶりはなかった。それでリュリュミアはにこにことアーニャを送 り出した。

                   ○

 ミハイルの別荘では戻ってきたクナスやアーニャの無事に喜びが湧き起こっていた。なに より喜んだのはトーニャだった。久しぶりに親子三人がそろってはしゃぎまわっていた。
 一方、本邸ではディック・プラトックがミハイルと味方の貴族たちの説得について話し合 っていた。
「王位を卿に?」
「外様の自分がしゃしゃりでるよりは良いだろうとマニフィカ姫がおっしゃるのだ。どうや ら姫はレゼルド王を国外に逃がすおつもりらしい。そして王位を私に禅譲させる気であると 」
「国外逃亡……それで民衆は納得するでしょうか」
「それはわからない。ただその計画自体には王はかなり心を動かされているらしい。ただ、 私のことも放ってはくれなさそうだけれどもね」
「時間はあまりないということですね。では急ぎましょう」
 ディックは貴族の説得に当たって、ミハイルの使いであることを相手に納得させるために それらしい立ち居振る舞いを徹底的に教え込んでもらっていた。また服装も用意してもらっ て、それらしい気品を身につけていた。王位が自分に禅譲されることにミハイル自身には異 論はないようだった。その新体制樹立には貴族の賛成が必要不可欠だ。民衆の方はフリーダ ムが決起することによってなんとかなるだろう。それにあわせて貴族側も動かなくてはなら ない。禅譲のことはさておいて、反乱に手を貸してくれるようミハイルに書状をしたためて もらって、ディックは別荘にやってきた。そこでクナスたちが無事帰ってきたことを知り、 志気が上がっているフリーダムのメンバーと決起の時期について打ち合わせをした後、貴族 たちの屋敷へと向かった。
 レゼルドによって失脚させられた貴族は、言うまでもなくレゼルドへの不満を抱えており 、反乱には協力的だった。またミハイルの人望はレゼルドよりもはるかに高いものだった。 現体制に疑念を抱いている貴族もミハイルの使いであるディックの言葉に素直に耳を傾けて くれた。教え込まれた立ち居振る舞いがそれに一役買っていたのは言うまでもなかった。直 筆の書状も効果を表していた。
 手を貸してくれる貴族から約束の証として証文をもらい、ミハイルに報告する。そしてそ の報告をフリーダムにも伝えようとした。情報漏えいが気にはかかったが、相手が有力貴族 ならばそうたやすく手出しは出来ないだろうとの判断からだった。
「それだけじゃ足りないね。情報がだだ漏れなら、逆にそれを利用してやれば良いじゃない かい」
 そう1人ごちたのはクレイウェリア・ラファンガードだ。クレイウェリアは漏洩源を突き 止めるために、ディックが持ち帰った情報の中から、もれても大丈夫と判断した貴族の情報 だけを選んでフリーダムの仲間全員に伝えた。ただし一度に言うのではなく、内容を少しず つ変えて一人一人に伝えていったのだ。
 誰にどんなことを言ったかは逐一記録しておいた。それで漏れた情報が誰からのものか調 べ上げようというのだ。誰を信じていいのかわからない状態では、たとえ相手がフリーダム の幹部であろうと反体制の貴族であろうと外すわけにはいかない。だから首領であるマイト にもそれは内緒で行われた。対象は片腕とも言えるクナスも含まれていた。またディックに 同行して、貴族の説得をする振りをしてフリーダム側のささいな情報を貴族に流していた。
 クレイウェリアがそんなことをしているとも知らないルシエラ・アクティアは、プロンテ ア親子の帰還をともに喜びつつ、クレイウェリアから得た貴族の情報を元にひそかに行動を 起こしていた。
 ルシエラは警護団の中でも残虐さで名をはせたテネシー・ドーラーとは実はとある結社の 幹部と部下という間柄だった。殺戮人形の異名をとるテネシーもルシエラの命令には従う。 そこでルシエラは警護団の中でも腕の立つものを何人か借り受け、反体制の貴族のところに 向かっていた。もちろんまだフリーダムに正体がばれてはいけないと思っていたので、得意 の変装で警護団のリーダーを装っていた。だからテネシーに借り出された警護団員たちも、 ルシエラが偽者のリーダーとは気づいていなかった。
 出かける理由についてはマイトには、遊郭や街で情報収集すると伝えていた。戦力外と思 っているマイトは、さして疑う様子もなくルシエラを送り出した。実際、遊郭の娘たちから 得た情報の一部はマイトに伝えていたので、信用されたのだろう。
 ともあれ行動の自由を得たルシエラは、警護団員たちを引き連れて反体制の貴族を殺しに 行った。ディックやクレイウェリアのように貴族の説得に行っているフリーダムのメンバー と鉢合わせしないように、あらかじめペットの幽霊レイスに様子を探らせておく。そしてい ないことを確認すると、警護団員たちに突撃させて屋敷のものを皆殺しにしていった。
 だが、殺されたのは反体制と言っても、元はレゼルドに追従していて、偽情報によって粛 清された貴族ばかりだった。クレイウェリアがそうしむけていたのだ。それでも仲間になる と思っていた貴族が殺されて、それも使用人にいたるまで皆殺しという残虐な所業にフリー ダム側に動揺が走った。
「マイト、ちょっといいかい」
 そんな事件がいくつか起こった後、クレイウェリアがマイトを呼び出した。
 反体制の貴族に手が伸びることは予想の範疇だった。せいぜい本人が捕らえられるだけで 皆殺しされるとまでは思わなかったが、クレイウェリアはあえて割り切ることにした。そし て冷静に事件を分析して、貴族の情報がどこからもれたのか記録を元に探っていた。そして 限りなくルシエラが怪しいとにらんだ。現場をとらえることは出来なかったが、まず間違い ないだろうというところまで詰めることができた。話を聞いたマイトはさすがにひどく驚い た。ルシエラからはレゼルド側の有益な情報も得ていたからだ。
「その情報、嘘も混じっているね」
 遊郭の情報はクレイウェリアも掴んでいた。だからマイトに偽の情報が流れていることも 見抜いた。マイトは指摘されて黙り込んでしまった。遊郭での地位が高く、その元に集まる 情報が信用の置けるものであることはレゼルドのお墨つきが証明していたからだ。やがて決 心したマイトが、戻ってきていたルシエラを呼んで問い詰めた。ルシエラは困惑した顔にな ったあと、はらはらと涙をこぼした。
「疑うなんてひどい……。私は非力ですけれど、フリーダムのために一生懸命頑張っている んですよ。そりゃあ、できる範囲でしかありませんけれど。私、悪い女に見えますか……? 」
 泣きながらマイトにそっと擦り寄る。その様子は演技には見えなかった。だがクレイウェ リアにぐいっと引き離された。
「泣きまねは上手なようだねえ。けど、色気はいまいちかな。男を手玉に取りたいならもっ と色っぽくないとね。ま、平凡な女を演じているからかもしれないけどさ」
「そんな……手玉に取るだなんて、そんなつもりは……」
 肩を落とし悄然としてみせるルシエラ。疑うにはあまりに儚げに見えたが、疑いが晴れな いことには同士にくわえておくわけには行かない。マイトは毅然とした態度で出て行くこと を命じた。クレイウェリアが力づくでルシエラを連れて行く。2人の姿が見えなくなると、 迷いの残っていたマイトがはぁっと息を吐いた。
「すまない……」
「謝る必要はないさ。実際、警護団に情報を流していたのはあいつだからな。ここのところ の貴族殺害事件も奴の仕業だろう」
 淡々とした声がかけられてマイトが顔を上げる。立っていたのはルーク・ウィンフィール ドだった。マイトが首をかしげた。
「ルーク?なぜそう言い切れるんだ」
「ルシエラに情報を流していたのが俺だからだ」
 簡潔な言葉にしばらく意味を掴みかねてマイトが立ち尽くす。そして理解すると、驚愕の 表情を浮かべた。ルークは無表情のままそんなマイトを見つめていた。
「俺が情報を流していたのはルシエラだけだが、他に密告者がいないとは限らない。だから あんたにだけ打ち明けるが、もともと俺は貴族側に雇われてフリーダムに潜り込んでいたん だ。それで同じく潜入していたあいつに情報を流していた。それを何らかの手段であいつは 警護団に流していたんだ」
「それをなぜ今さら打ち明ける」
「現体制にはもう後がなさそうだからな。第一、向こうからもらった報酬分はもう働いたつ もりだ。これ以上従う必要はない。それに、あの娘の目……」
 不自然に言葉が途切れる。ルークの脳裏を強い決意を秘めたアーニャの表情がよぎる。そ れはかつてルークの心を揺さぶった娘のものに良く似ていた。常に冷静を心がけているルー クの心をかき乱した存在。その面影を想起させられて、毒気を抜かれたのが打ち明けるきっ かけになった。しかしそれを話すのは、ルークの性格が許さなかった。だから黙ってしまっ たルークをいぶかしげに見ているマイトに向かって宣言した。
「別に情報を流していたことを許す必要はないし、信用できないならそれでもいい。ただ、 あんたからも報酬をもらったからな。その分の働きはさせてもらいたい。それが俺のポリシ ーだ。そこで一つ提案があるんだが」
 ルークが持ちかけてきたのは、警護団の力をそぐために偽の情報を流して罠にはめること だった。ルシエラは追放されてしまったが、噂をばらまくことは可能だろう。ようは敵をお びき出せればいいのだ。ルークはマイトだけに打ち明けたのは、その噂が罠だと敵に悟られ ないためだと言った。マイトはじっとルークを見つめていたが、ルークの態度は揺るがなか った。やがて腹をくくったマイトがルークの肩をぽんと叩いた。
「わかった。お前を信じよう。俺や仲間を助けてくれた恩もあるしな。罠についてはあてが ある。これ以上味方を減らすわけにも行かないしな。警護団の力は削げるものなら削いでお きたい。手を貸してくれ」
「報酬分は働く。それだけさ」
 ルークは短く答えた。
 マイトはルークの打ち明け話は伏せて、警護団を罠にかける話だけをホウユウ・シャモン に持っていった。そのときホウユウはすでにルシエラが内通者であることを突き止めていた 。
「どうやって……」
「もともと金で密告を促していたような連中だからな。同じ手を使っただけさ。あっけなか ったぞ?金を渡したら、簡単に口を割ってくれた。ルシエラはゴーストを自由に操れるそう だ。それでひそかに警護団に情報を流していたんだ。どうやら貴族を殺害した警護団を率い ていたのもあの女らしいぞ。テネシーというのがあの町の人間を見せしめに殺していた奴の 名前だが、そいつから部下を借りて行ったそうだから。もっとも変装していたらしく、実行 部隊は上司だと信じて疑わなかったそうだが。ときにそのルシエラの姿が見えないようだが どうした?」
 ホウユウの問いに、クレイウェリアがルシエラの正体を見破ったため追放処分にしたこと を答えた。
「そうだったのか。じゃあ、罠を仕掛けたらおおっぴらに乗り込んできそうだな。面白い。 相手してやろうじゃないか」
 ホウユウがにやりと笑う。それから実際の罠についてマイトと話し合った。
 町外れの森でフリーダムと反体制派の貴族が秘密の会合をするという偽情報が噂として流 れたのはそれからすぐだった。フリーダム側では森に陣地を張り、仕掛けを施して敵が引っ かかってくれるのを待ち構えていた。
 フリーダムを追放されたルシエラは、再び警護団のリーダーに変装し、数を増やした人員 とともに森へとやってきた。ルークが暴露したことは知らなかったので、もたらされた情報 が罠であるとは気づかなかった。そしてまんまとホウユウの施した仕掛けにかかってしまっ た。
 集まっていたフリーダムのメンバーが警護団員たちに気づいて逃げ出す。それを追おうと した時、火矢が放たれたのだ。矢尻の火は用意してあった干草に燃え移り、さらにはその下 にあった火薬を爆発させた。火は瞬く間に燃え広がり、警護団員たちを飲み込んでいった。 ルシエラはかろうじて火を免れた部下に撤退を命じた。火勢の弱いところを探し出し脱出を 試みる。立ちはだかったのは待ち構えていたマイトたちだった。その中にルークがいること に気づいて、裏切りに気づいた。だがもう遅い。背後は燃え盛る火だ。戦って突破する以外 に術はなかった。
 警護団員たちとルークたちが戦い始める。翼を生やして飛び上がったルシエラの相手をし ているのはホウユウだ。翼を黒く染めたルシエラが狂気の笑みを浮かべながらホウユウに襲 い掛かって来た。
「ほほほほほほほっ!」
 硬い水晶が飛んできて当たりそうになるのをホウユウが剣で叩き落す。ルシエラは水晶を 手元に戻すと、剣を取り出して切りかかっていった。上空から急降下してくるルシエラを見 てホウユウが技を放った。
「流星天舞!」
 衝撃波が飛び、ルシエラに傷を負わせる。しかし戦闘行動に意識を支配されたルシエラは 、衝撃に一瞬はとどまったものの、怪我には構わずにさらに迫ってきた。長く伸びた爪がき らりと光る。剣と剣がぶつかり合い、鋭い音があたりに響く。剣の腕はホウユウの方が上だ ったが、力はほぼ互角と言って良かった。しかもルシエラはほとんど捨て身に近い状態で、 守りを一切考えない攻撃を繰り出してきていた。飛んでいるため攻撃角度も自在だ。心眼で 技を見切り攻撃をかわしていたホウユウは、他の警護団員たちがマイトやルークと離れた場 所で戦っているのを確認すると、一気に決着をつけようと正面に向き合ってわざと剣を交え た。
「くらえ、天壊怒龍撃滅破!」
 交えていた斬神刀が光り、ルシエラの剣がぽきりと折れた。同時に爆発が起き、ルシエラ の体が吹き飛ばされた。ぼろぼろになったルシエラが地上に落下する。意識を失うのと一緒 に羽が黒から白へと変わっていった。その羽も爆発であちらこちらが焼け焦げていた。フリ ーダムのメンバーと戦っていた警護団員たちが、不意におきた爆発に駆け寄ってきた。その 後をルークが追い、銃剣でとどめを刺していった。かろうじて逃れた者がルシエラを担ぎ上 げ逃げ出す。その数はごくわずかで、五体満足なものは一人としていなかった。
 全員が逃げ出すと、フリーダムのメンバーからわっと歓声が上がった。マイトが嬉しそう な笑顔でルークとホウユウの肩を抱いた。
「やったな。あれだけの敵を倒せたらいうことなしだ。ありがとう」
 周りではまだ燃え盛っている火をメンバーが消し止めているところだった。その行動もみ な嬉しそうだ。ホウユウはマイトの肩を叩き返すと、気を抜かないよう厳しい声で言った。
「ルシエラもこれでしばらくは動けないだろうが……実際に動いたことで、現体制派の追求 は厳しくなるはずだ。まだまだ油断は出来ないぞ」
「そうだな。これからが本番だ。味方の貴族が多いうちに手を打とう」
 マイトの笑顔はそれでも消えなかった。

                    ○

 王宮ではマニフィカの指示の元、レゼルドの国外脱出の準備が着々と進んでいた。それで もまだ王位に未練があるのだろう。レゼルドはエルンスト・ハウアーに教えをこうていた。
「反逆者は処分しているが、まだ油断は出来ぬ。どうしたらいいものかのう」
 エルンストは白い髭を撫でながら頭を振った。
「処分もよろしいが、いささか数が多すぎますな。おそらく処分されたものの多くは、叛徒 によって濡れ衣を着せられたものでしょう。わかっておられますかな。此度の所業で、こち らの勢力はかなり弱体化してしまっておる。おそらくきゃつらはこれを好機に、必殺の一手 、本格的な暗殺か、大規模な反乱を仕掛けてまいるでしょう」
「む、それは……いかがしたものか」
 うろたえるレゼルドの前に、エルンストが指を三本立てて突き出してきた。
「暗殺につきましては、軍に陛下の身辺を守らせることといたしまして。反乱を抑えるため の策としては三つ。民衆の機嫌をとり、陛下の政策が正しいことを印象付けるために、布告 を出されるのです」
「布告?」
「さよう。まず第一に、税金を一割減らすこと。そして歓楽街の収益によっては、さらに減 らすことを告げるのです。これは一見すると人気は取れても陛下の収入が減るようでござい ましょうが、歓楽街の収入が増えれば税金が減るのですから、民衆はゆるくなった財布をも っとゆるくするために歓楽街で今まで以上の金を使うことでしょう。歓楽街の収入はつまり 陛下の収入。結果的には税金で搾り取る以上の金が陛下に流れ込んでくるのでございます」
「なるほど」
「第二に、これからの武闘大会についてですが、フリーダムの構成員は捕まえても処刑しな いことにするのですじゃ。そのかわり捕まえたものや密告したものが剣奴にして良いことに するのです。叛徒は一定回数勝ち抜けば赦免され、「観客の慈悲」があれば、負けても生き 残れる寛大な措置で。そうすれば密告者や捕らえた人間の罪悪感も軽減されまする……まあ 、観客に慈悲があればの話でございますがな」
 先だっての大会では、血に酔った観客は容赦なく凶悪犯罪者を死に至らしめた。慈悲が期 待できないのは明らかだった。
「密告者たちには賞金のほかに剣奴のオーナーとして毎試合ギャラをもらえるようにするの ですじゃ。これならば凶悪犯の代わりも補充できて一石二鳥というものですじゃろう」
「なるほど」
「第三に失脚させた貴族たちに歓楽街への投資を命じるのです。さすれば民衆は、非道な貴 族に罰を与え建設や施設での雇用を産んだと陛下に喝采を送ることでしょう。貴族側には懲 罰的な資金供出に見せかけ、実際には歓楽街での利権を得られることをちらつかせるのです 。これでなびかない貴族には要注意ですじゃがな」
「ミハイルのようにか?」
 失脚させようにも、レゼルドについで地位が高く人望も厚いミハイルは目の上のたんこぶ と言っても良い存在だった。フリーダムに組しているのは明らかなのに、手を打てないこと がレゼルドを苛立たせていた。
「クナスやアーニャがフリーダム側に帰った今、きゃつらは暗殺よりは反乱を選んでくるで しょう。しかしこの布告を聞いた民衆が彼らに味方するかどうか。あやつらは犯罪者なので す。そして民は犯罪者の死を願った。闘いでの健闘をたたえ、慈悲でもって救うことも出来 たのにですじゃ。いかがかな」
 レゼルドは安心したように何度もうなずいた。
「確かにそうだ。ではさっそく手配を整えよう」
 手の内で軽やかに踊らされているレゼルドを見て、エルンストはひそかにほくそえんでい た。
 ちょうどルシエラが破れ、警護団の力がそぎ落とされたことで貴族への処罰は見送られて いた。レゼルドは生き残った貴族たちにこれ以上の粛清はしないと布告を出し、遊郭を含め た歓楽街の拡大事業に手を尽くすよう命じた。同時に民衆へは、税金の軽減と新たな定期的 な大会の宣言、それに関しての密告を促す触書を出した。先だっての大会の余韻醒めやらぬ 民衆は、ぽつぽつと密告を出し始めた。オーナーになって収入を得られるというのが効いて いたらしい。ルシエラやルークなどといった者からの情報漏えいはやんでいたが、噂は飛び 交い真実味を帯びて語られていた。それによって無実のものが捕らえられ、大会で死んでい った。貴族たちはこぞって歓楽街の発展に力をいれ、レゼルドの元へは多額の金が流れ込ん できた。レゼルドはその金を国外へと持ち出していた。
 もちろん捕らえられた者の中にはフリーダムのメンバーもいた。末端の人間とはいえ、仲 間を失ってマイトたちは歯噛みしていた。いまや民衆の心は豊かになってきた経済の中で遊 興へと傾いていた。
 そんな中でも貧富の差はでてくる。大黒柱を失い路頭に迷うところを、やむなく遊郭に娘 を売ってしのいでいる民もいた。融和と反発が貴族にも民衆にも滲み出していた。
 そんなある日のこと。アメリア・イシアーファとアルトゥール・ロッシュは町の人を連れ て遊郭の近くに忍び寄っていた。彼らは油の入った樽を抱えていた。
「ありがとう、やっぱり来ていたんだねぇ」
 アメリアの手の平で空色の髪の精霊が顔をしかめていた。娘たちの苦痛が充満する遊郭は 、正の心を司る光の精霊には相容れないものらしい。ジルフェリーザは必要なことを語り終 えると、すっと姿を消した。
「レゼルドは一番奥の店にいるんだってぇ。来てから少し時間が経っているって言うから、 お酒とかまわっている頃じゃないかなぁ。今がチャンスだよぉ」
「よし。じゃあ、手はず通りにアメリアが先に潜入してくれ。例の件、始まったらすぐに乗 り込んでいくから、そうしたら合流しよう。皆、追っ手は僕たちで引き受けるから。皆は大 切な娘さんたちをしっかり守るんだよ。こんな場所がなくなれば、娘を売るなんて真似は出 来なくなる。必ず成功させよう」
「おお!」
 集まった町人が決死の表情で手を振り上げた。
 そこにいたのはみな、仕方なく娘を遊郭に売った民衆だった。しかし働いて借金を返せば 家に戻れるというのは表向きの話で、実際は収益はみな吸い上げられてレゼルドの元に集ま っていることがわかったのは、後の話だった。このままでは家に帰れるどころか死ぬまで働 かせられるのは目に見えていた。しかしいかに税金が減ろうと、もともと収入の少ない自分 たちに娘が取り戻せるはずもない。そこへアルトゥールが遊郭の壊滅と娘たちの解放を持ち かけてきたのだ。遊郭の発展に腐敗した貴族が力を入れている現状に怒りを覚えていた家族 たちは、計画を聞いてすぐに乗ってきたのだった。
「じゃあ行ってきまぁす」
「すぐに合流するから、無理はしないようにね」
「大丈夫、信じているものぉ」
 アメリアとアルトゥールがぎゅっと抱き合う。幸せそうな2人に、自分たちの娘にもこん な幸せが訪れることを祈って、賛同した仲間がかすかに涙ぐんだ。
 アメリアが姿を消して遊郭に乗り込んでいく。目指すはレゼルドが来ていると言う店だ。 道すがら目立たないようにそっと油をまいていく。そして目的地に着くと、すかさず油に火 をつけ、魔法で火の勢いを強めた。強まった火は轟音を立てて建物を飲み込み始めた。
「さあ、行こう!」
 火の手を確認してアルトゥールたちが遊郭に足を踏み入れる。立ち並ぶ店からは娘たちが 用心棒たちに追い立てられるようにしながら逃げ出してくるところだった。
「娘さんたちを!」
「わかった!」
 町人たちが娘たちを誘導して走り始める。追いかけようとした用心棒をアルトゥールがみ ねうちで気絶させた。攻撃をかわした用心棒の前には煙幕を張って逃走を手助けした。
「早く、早く!あっちだよぉ!みんな、無事で……そして私たちに協力してねぇ」
 遠くからアメリアの声が響いてきた。アルトゥールがそちらに向かって駆け出す。ジルフ ェリーザが娘たちを先導して飛んできた。アメリアは風を使って用心棒たちを足止めしてい た。アルトゥールに気づくと、一軒の店を指差した。
「レゼルドがいるのはここだってぇ」
 その建物も火に巻かれようとしていた。中から護衛の兵士に守られたレゼルドが飛び出し てくる。すかさずアルトゥールが疾風のブーツで駆け回りながら兵士たちを倒していった。 圧倒的な強さに腰を抜かしたレゼルドの喉元に、アルトゥールがジルフェスの剣先を突きつ けた。青い刀身に炎が揺らめいている。レゼルドは身につけていた飾りを震える手で外し、 アルトゥールに差し出し命乞いをした。アルトゥールは無雑作にその飾りを剣で弾き飛ばし た。仲間の町民がやってきて、勢いづいてレゼルドに殴りかかっていった。多勢に無勢でや られるままのレゼルドに、アルトゥールが冷ややかに言った。
「今は命だけは見逃してやる。ただしこれ以上民衆を苦しめるような真似をしたら……次は ないからな」
「お前もフリーダムの仲間か」
「さあな」
 遊郭は炎上する炎の中に消え去ろうとしていた。手負いの獣にぼこぼこにされたレゼルド は、屈辱に身を震わせていた。

 見逃してもらった恩など意に介さないレゼルドは、壊滅した遊郭の復興を貴族たちに命じ た。従えばこれまで通り、いや前以上に取り立ててやるとのお達しに、処分された貴族たち は飛びついた。突貫工事で建物を復旧させ、家族の元に戻れて喜んでいる娘たちは、借金が なくなったわけではないからと無理やりに連れて行ってしまった。つかの間の幸せを奪われ て、民衆に不満が募る。ここぞとばかりに町の大広場で演説を行ったのはリリア・シャモン だった。
「人は城、人は石垣、人は堀。情けは味方、仇は敵なりという名言はあります。つまりどれ だけ城を堅固にしても、人の心が離れてしまったら世は治められないのです。情けは人をつ なぎとめ、結果として国を栄えさせますが、仇を増やせばその国は滅びるでしょう。現王レ ゼルドは政を省みることさえせず、ただ私腹を肥やしては若い女性たちを無理やり連れ攫っ て淫蕩にふけり、忠臣を遠ざけて奸臣を寵愛し。 その悪政の結果が今のこの国の状況なのです!幸せは待っていても来ません。自分自身の手 で掴まなくてはならないのです。皆さんが本当の幸せを望むならば、悪王たるレゼルドを討 ち、奸国政を正すために立ち上がらなくては!私たちが力になります。真に国を良くしよう としている貴族も味方です。さあ、ともに戦いましょう!今こそこの国を真に美しく豊かな 国にするときです」
 ざわめきが広場を支配する。リリアは挑発するようにさらに声を張り上げた。
「このままでいいのですか!?先日の火事で家に戻ってきた娘たちは、非道な貴族たちにま たもや連れ去られてしまいました。また、フリーダムのメンバーは処刑しないといいながら 、実際には投獄され真偽もわからぬまま処刑されている民もいます。残された家族の嘆きは いかばかりでしょう。それに闘いにおいては、確かに凶悪な犯罪者であったかもしれません が、ろくな装備も持たされずになぶり殺し。それが正しい姿ですか?それは認められてよい ものですか!?」
 きっと集まった民衆をにらみすえる。武闘大会での犯罪者の処刑に一役買ってしまった民 衆たちは、言葉をなくしてしまった。また娘を奪われたり無実の罪で家族を失ったりした者 は、そうだそうだとはやし立てた。リリアの演説はどんどん熱を帯びて行き、広場にはたく さんの人が集まりだした。その中にグラント・ウィンクラックの姿もあった。グラントは熱 弁を振るっているリリアの姿を見て、ほおといった顔つきになった。
「あの娘は……確か、ホウユウの娘とか言っていたなかなかの使い手だったな。ふん、かつ て刃を交えたことも肩を並べて戦ったこともあるホウユウの娘と、こうして関わりあうとは な。奇妙な縁と言うか……世界は面白いものだな。ん?」
 殺気に気づいてグラントが身構える。やってきたのは城の兵士たちだった。反逆者として 処刑しようというのか、はては見せしめのためか、兵士たちはその場にいた民衆たちに問答 無用で切りかかって行った。悲鳴とどよめきに気づいてリリアが演説をやめ兵士たちに立ち 向かっていく。グラントも動き出していた。
 リリアは愛用の小烏丸をたくみに操って敵を相手にしていたが、集まっていた民衆も守ら なくてはならないため苦戦を強いられていた。戦う手段を持たない民衆たちは、ただ逃げ惑 うばかりで役に立たない。兵士によってばたばたと切り捨てられていた。小さな子供がおび えてリリアの背後に隠れた。ぎゅっと抱きつかれてリリアが動きを封じられる。子供相手で は手荒な真似も出来ず、リリアは危うく兵士に捕らえられそうになった。
「おっと、あぶねえ!これでもくらいな、破軍流星!」
 そこを救ったのはグラントだった。鞘つきの破軍刀で技を放ち、リリアに襲いかかろうと していた兵士たちを吹き飛ばしたのだ。窮地を救われてリリアが素直に頭を下げる。グラン トは油断なくあたりに気を配りながらリリアに話しかけた。
「よお、この間は戦っている最中に逃げ出すような格好になってすまなかったな。せっかく の決勝戦だったってのによ。そうそう、こいつは忘れもんだぜ」
 グラントがひょいと華蝶の仮面をリリアに投げてきた。反射的に受け取って、相手が誰か 悟る。と、きいんと鋭い音が響いて兵士の剣がはじかれた。グラントが嬉々とした顔で兵士 を相手にしていた。リリアも加勢を得て戦いを再開した。
「そうそう、名乗りがまだだったな。俺の名はグラント、グラント・ウィンクラックだ。親 父から聞いているかもしれないが、改めてよろしくな」
「あなたがグラント様ですか。お名前だけはお父様に伺ったことがあります。ではそれが、 一振りで一軍を破ることも可能だという破軍刀ですね」
「ああ、そうだ」
 グラントの刀は鞘をつけたままでも大した力を発揮した。兵士たちが押されていく。リリ アは残っていた民衆に散会するように呼びかけた。
「今は分が悪い。ここはひとまず退いてくださいませ。こいつらの相手は私たちがしますか ら。さあ、早く!けれど心意気だけは忘れないでくださいね!悪は必ず滅びるのです」
「そうだぜ!みんなが力を合わせりゃ、国は変えられるんだ。忘れるんじゃねえぞ!」
 グラントも怒鳴る。その後に小さく「さあて、楽しませてもらおうか」と戦いを喜ぶ台詞 を吐いてリリアに苦笑された。
 やがて騒動を聞きつけたホウユウも駆けつけ、兵士たちはほうほうの態で逃げ出していっ た。グラントがリリアの腕前を誉めていると、ホウユウががしっとグラントの肩を掴んだ。
「うちの娘に変なちょっかいは出さないでもらおうか」
「なぁにをかんぐっているんだ?」
 グラントがしらばっくれる。リリアもきょとんとして父親の顔を見上げた。
「グラント様は私を助けてくださっただけですわよ」
「お前は黙っていなさい」
 ホウユウはむすっとしていた。
 それからもリリアはことあるごとに広場で演説を繰り返した。成り行きでグラントが護衛 を勤めていた。そのおかげで、民衆には決起の心意気が広まっていった。レゼルドや現体制 派の貴族が何度か集会を急襲したが、それはことごとく失敗に終わった。そして反体制派の 貴族たちもディックの説得でフリーダムと接触を図り始めた。マイトやクナスは確かな手ご たえに士気を高めており、見守るミハイルも忙しなく貴族間の調整を始めた。
 テネシーがミハイル邸に現れたのは、そんな風に時代の流れが早まろうとしていたときだ った。テネシーはレゼルドの書状を持ってやってきた。折りしもマイトたちは民衆の説得の ため出かけていたときだった。いや、テネシーは初めからそれを狙っていた。ルシエラは怪 我がまだ治りきっていなかったが、ペットのレイスを扱うことは可能だったので、わざわざ フリーダムのメンバーがいないときを探ってもらってやってきたのだ。それは目的を邪魔さ れないためだった。
 これまでレゼルドは、自分についで地位の高い大貴族であるミハイルには、フリーダムに 加担しているとわかっていても手が出せずにいた。だが国外脱出の準備も整い、たとえ反乱 が起きても大丈夫と確信したため、後顧の憂いを無くすためにミハイルを処分することにし たのだ。テネシーは屋敷に招きいれられると、書状をミハイルの前に広げ、王宮に同行する ことを強制した。
「貴方がフリーダムに加担なさっていることは自明のこと。弁明なら王の御前で聞きましょ う。来ていただけますわね」
「嫌だといったら」
「逆らうならば……ここにいる者たちの命の保証は出来ませんわよ」
 さっと手を上げ部下に合図する。部下が合図を受けて、控えていた使用人を捕らえその首 筋に剣を当てた。警護団のやり口はこれまでの貴族殺害の一件からも良くわかっていたミハ イルは、大人しく従うことにした。できたらマイトたちが帰って来るのを待ちたかったが、 時間稼ぎは出来そうもなかった。
 ミハイルが用意されてあった馬車に乗り込むのを確認すると、テネシーは見送りに出て来 ていたメイドを物も言わずにウィップで殺害してしまった。それを引き金にテネシーの部下 たちが屋敷へと突撃していく。屋敷からは使用人たちの悲鳴が聞こえてきた。ミハイルが驚 いて、平然と馬車に乗り込んできたテネシーに詰め寄った。
「約束が違うではないか」
「約束?あら、そんなものしましたかしら?」
 問われて護送役の警護団員が「さあ?」と肩をすくめた。ミハイルが怒りに肩を震わせて いると、テネシーはすました顔で告げた。
「それもこれも貴方様がフリーダムなどに手をお貸しになられたのが悪いのですわ」
 人形めいた感情の読めないテネシーの顔に、ミハイルは背筋がぞっとするのを感じた。
 マイトたちが帰ってきたのは、すべてが終わってからだった。血の匂いに真っ先に気がつ いたのはグラントだった。屋敷に駆け込むと、生きているものは1人もいなかった。そこか しこに死体が転がっている。ただ、ミハイルの姿がないことだけは確認できた。王宮に連れ て行かれたのだろうということは容易に推察がついた。だが、レゼルドがどういう処分をす るのかまでは読めなかった。
 反体制派の貴族が書いた証文は別荘に隠してあったので警護団には見つからなかったらし い。王宮からはマニフィカがミハイルの処遇についての連絡をよこした。レゼルドはすぐに でも始末してしまいたかったらしいが、なんとかマニフィカの忠告で幽閉にとどまっている らしい。だがそれも時間の問題だろう。ミハイルを失えばせっかく得た貴族の協力も失うこ とになる。マイトはディックに味方の貴族への使いを頼むと、自分はリリアとともに大広場 にやってきた。そこにはトーニャが駆けずり回って集めてきた民衆が集っていた。ミハイル の人望は民衆にもあった。そのミハイルが王宮に連れ去られ、屋敷のものは皆殺しにされた ことを伝えると、民衆に動揺が走った。マイトはここぞとばかりに熱弁を振るった。
「決起するなら今しかない!レゼルド王を倒し、腐敗した貴族を粛清して国をあるべき姿に するんだ。この国は俺たちのものだ。俺たちが変えて行かなきゃならないんだ。みんな、立 ち上がろう!これ以上、悪をのさばらせていてはだめなんだ!」
 町を駆けずり回っていたトーニャの後を追いかけていたのはアスリェイ・イグリードだっ た。別に体力に自信がないわけではなかったが、子供の無尽蔵な気力に息を切らせていた。 ただ民衆を集めているトーニャの邪魔をしようとする警護団員を相手にするときだけは別だ った。まだ幼いトーニャの前で殺人沙汰は見せたくなかったので殺しはしなかったが、完膚 なきまでに叩きのめして追いかけてこられないようにしていた。その強さに目を丸くしてい たトーニャに、アスリェイはただ飄々とした風情で先をうながした。
 そして今、広場で決起を呼びかけているマイトやクナスの姿を並んで眺めながら、アスリ ェイはいつになく真剣な声音で言った。
「この説得がうまくいったら、町の人たちも国王と戦う決意を固めるだろう。決起は必ず成 功する。そうなったら今の王政は終わる。けどな、どんなことでも、壊すより新しく作るこ とのほうが大変なんだ。国もそうだ。国を壊したつけってのは、国に住んでいる奴が払わな きゃならない……お前さんも含めてな。なあ、少年。少年もいずれは大人になる。大人にな ったとき、この国のために何が出来るか……そのときまでじっくり考えて、実際にそれが行 えるような男になりなよぉ」
 最後だけはいつものように軽い口調で。トーニャは真剣なまなざしで父親やその親友を見 詰めていた。
「僕に出来ること……そうだね、考えなきゃね」
 アスリェイはくしゃっとトーニャの頭をかき回した。
「もし答えが出たら、おじさんにも教えてくれよぉ」
「うん、きっと!」
 トーニャが明るい笑顔でアスリェイを見上げた。その顔は初めて会った頃よりずっと大人 びてきていた。少し見ないうちに成長した弟を見て、アーニャが微笑んだ。アーニャはすう と息を吸い込むと、歌い始めた。それは国の再生の歌だった。明るい未来を夢見る歌だった 。歌声は広場中に響き渡り、人々の胸に染み込んでいった。

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