「ゲット!フリーダム」 第一回

ゲームマスター:高村志生子

 大国アカルスは、海と山に囲まれた美しい国だった。だが美しいのは外見ばかりだった。現国王レゼルドを筆頭に、一部の貴族が私利私欲に走り、街の人々は圧制と貧困にあえいでいた。
 だが、嘆いている人ばかりではなかった。いつの頃からか、圧政に立ち向かおうとする人々がいると噂が広がっていた。暴君の癖にどこか気の弱いところのあるレゼルドは、その噂に焦り、反乱分子をあおりだすために街でも人気の細工師クナスの娘アーニャをその一員として捕らえてしまった。しかしアーニャは何も知らなかったがため、なんの手がかりも得られず、さらに焦ったレゼルドはアーニャを処刑すると宣言してしまった。
 そんな不穏な情勢の中でも享楽は忘れない貴族たちは、日々開かれるパーティーに明け暮れていた。今日は遠来より来たという賢人の話を聞こうと王宮に集っていた。
「反乱分子を制圧するなどたやすい話。奴らをばらばらにし、なおかつ皆様方も楽しめる方法など興味はありませんかの」
「ほう。それは面白そうだな。どんな方法なんだ」
 エルンスト・ハウアーは見事な白い髭を撫でながら、身を乗り出してきたレゼルドに向かってにやりと笑いかけ口を開いた。
「そう、簡単な所では歓楽街に力を入れることでしょう。人間というものはとかく快楽に弱いものでございます。どんな安手のものでも、頻繁に味わえるなら、多くの者は手を出し快楽にふけまする。刺激的なものならなお良いでしょうな」
「刺激的なもの?例えば」
「つまり、賭け事や色事を用意してやれば良いということですな。おお、見ず知らずの他人の不幸なども甘い蜜と言えますから、賭け事が楽しめそうな闘技場や娼館などに投資されるのが最上でしょう。安い酒の流布が出来ればもっと良いですな。それに陛下から民衆へのいたわりとして安く提供されているという噂がつけば、効果は上々。こうして民を堕落させ、その場限りの快楽漬けにしてしまえば、反乱に加わるものはおらず、稼ぎは陛下の用意した快楽につぎ込み、さらに些少の賞金を用意すれば、遊ぶ金欲しさに密告する輩も増えるというものです」
「なるほど。それは名案だな」  レゼルドはほくそえんでいるエルンストを見ながらうんうんとうなずいた。反乱を抑え、さらに己に利益が出る方法をさらりと言い出せるエルンストは、さすが賢人と言いたくなるような風格を備えていた。
「さすがは賢者殿だ。長く生きておられるといろいろな知恵が回るものだな」
「なに、諸国を見聞しているとおのずと人間というものがわかってくるものですじゃ。世の中には思いがけない知識が隠されているものです。そう、不老長生などもそうですな」
「なんと!それはいかなるものですかな」
「いやいや、これは長く厳しい修行によってのみ理解できるものですじゃからな。ふぉふぉふぉ」
「そう言わずに教えては下さらんかな」
 得てして富や名声に貪欲なものほど、そういう話題には弱いものだ。レゼルドだけでなく周囲の貴婦人たちもが身を乗り出していると、ざわめきが起きて1人の衛兵が広間に駆け込んできた。話をさえぎられたレゼルドは忌々しげな顔になったが、耳打ちされた言葉に顔色を変えた。
「人魚だと?そんな生き物がいるのか」
「海にいるときは確かに下半身が魚だったそうです。いかがいたしますか」
「ふぉふぉ、世界は広いものですじゃ。そういう人種がいることは確かですじゃぞ。まあ、このあたりにやってくるのは珍しいといえますがな」
 エルンストの言葉にレゼルドはその人魚を連れてくることを衛兵に命じた。
 故郷に似て海の多い世界に来たマニフィカ・ストラサローネは、久しぶりにのびのびと海を泳ぎ回っていた。やがて陸地が見えてきたのでキュンキュンと鳴きながら一緒に泳いでいたペットのイルカ、フィルの頭を撫でて町に行ってみようとそちらに向かった。やがて桟橋が見えてきて水面に頭を出す。とたんに陸地にいた人間と目があってしまった。
「あら、こんにちは」
 マニフィカは平然と挨拶したが、体がまだ海につかったままだったので、下半身が魚のままだった。それに相手がぎょっとする。そして騒ぎになってわらわらと人が集まってきた。そんな反応には慣れっこになっていたマニフィカは、海の中から優雅に手を差し出して言った。
「あがりますです。手を貸してくださいますかぁ」
「え、上がれるのか」
「大丈夫ですよぉ。よいしょっと」
 陸地に上がったとたんに魚の尾が消えてすんなりした2本の足に変わる。その様子を見ていた警護団の1人が、驚いてついその足を撫でてしまい、マニフィカに蹴りを入れられた。
 ともあれ珍しいことだけは確かだったので、マニフィカの身柄は王宮に移されることになった。その途中、街中をふらふらしていたリュリュミアがマニフィカについて行っていいか尋ねていた。反乱の噂で街の雰囲気がぴりぴりしていたさなかに見慣れない人物がふらふらしていたので、リュリュミアも警護団に捕まったところだったのだ。本来なら牢に連れて行かれるところなのだが、マニフィカのしぐさに高貴なものを感じてリュリュミアが持ち前の好奇心で着いて行きたくなったのだ。マニフィカも王宮で自分の身分を明かすのに、侍女の1人もいないのはおかしいだろうと考えて、快くそれを了承した。
「いいですかぁ?これからあなたをわたくしの侍女として扱いますから、そのように振舞ってくださいねえ」
「はぁい。それであなたのことはなんて呼んだらいいんですかぁ?」
「わたくしはネプチュニア連邦王国の王女ですの。だから姫と呼ぶように」
「姫様ですねぇ。わかりましたぁ」
 陸に上がったマニフィカはたくさんの装身具をしゃらんしゃらんと鳴らせながら堂々と馬車に乗り込んだ。そして否やを言わせずリュリュミアも同乗させた。その優美な行動に口出しできる警護団員はいなかった。
 そうしてやってきた王宮で、マニフィカはレゼルド相手に臆することなく自分が異国の王女であると告げ、相応の扱いをするよう要求した。高貴な身分であることは身に着けている装身具の質の良さで確かと思えたので(レゼルドもそれなりの目利きだった)、レゼルドも一国の主として相応の態度をとることにした。すぐさま客間を用意させ、行っていたパーティーの賓客として貴族たちに紹介する。今は普通の人間と変わりなく見えるマニフィカだったが、実は人魚であることは先触れでわかっていたので貴族たちは不思議なものを見る様にマニフィカを見ていた。細かいことは気にしないマニフィカは、おおらかに笑いながらそんな視線をなにげなく受け止めていた。ついてきていたリュリュミアはご馳走に目がくらんで、自由に飲み食いを始めていた。その中には酒も混じっていた。リュリュミアはただの色のついた水と思って口にしていたが、けっこう度数が強かったらしい。ぽーと頬が上気して、目がとろんとなった。侍女だと紹介されていたレゼルドは、そんなリュリュミアの様子を見て好色な色を顔に浮かべた。
「姫君、ちょっと相談なのだが……」
 同じ賓客であるエルンストの話を聞いていたマニフィカは、同じ支配階級の人間としてこの国の状況に疑念を抱きながら、表面はさりげなくレゼルドに向き直った。レゼルドは薄ら笑いを浮かべながらマニフィカにリュリュミアの身柄を貰い受けたいと持ちかけてきた。その頃にはすっかり酔っ払っていたリュリュミアは、レゼルドの思惑などまったく気がつかないで、様子を伺ってきたマニフィカににこりと笑いかけてきた。少し迷ってから、マニフィカは交換条件を出してきた。
「お忍びの旅なので、侍女は1人しかつれてきておりませんのよ。お譲りするのはかまいませんが、それではわたくしの身の回りの世話をするものがいなくなってしまいますわ。聞けば、町娘を捕らえているそうではありませんの。代わりの侍女としてその娘をわたくしに与えてはくださいません?」
「む、し、しかしそれは」
「あらあら。なんでも処刑なさるおつもりの娘だとか。それは反乱分子をおびき寄せるためなのでしょ?ふふふ……どうせすぐに用なしになる娘なら、わたくしに売ってくださいませ。言い値で買いましてよ。やはり専属の侍女でないと、いろいろと不都合があるのですもの」
 くすくす笑うマニフィカに戸惑うレゼルド。マニフィカは招きよせたリュリュミアをレゼルドのほうに押し出しながら言葉を続けた。
「処刑を取りやめにする必要はありませんわ。罠としてあくまでやることにして置けばよろしいでしょう。処刑の話はだいぶん広まっているようですから、中止と言っても信じてはもらえないでしょうからね。ですから形だけ残しておいて、身柄はわたくしにくださいませ。いかがです?」
「う、うむ。それもよかろう」
 リュリュミアからは馨しい花の香りが漂ってきていて、レゼルドの思考を奪っていった。酔っ払っているリュリュミアはほわんとした足取りでレゼルドにしなだれかかってきた。それが決め手になった。
「わかった。その取り引きに応じよう。しかしアーニャの身柄は今は牢にある。連れて来るまでお待ちいただけるかな」
「そうですわね。今日はもう遅いですし、急ぐ旅というわけではありませんもの。とりあえずそれまでの間の世話役でもつけてくださいませ。それでけっこうですわ」
「すぐに手配しよう」
 リュリュミアの香りにすでにでれっとなっていたレゼルドは、おざなりな返事を返してマニフィカに背中を向けた。そして側近にエルンストの提案についてもっと詳しく話を詰めるよう指示を出し、客室の支度を終えてきたメイドにはマニフィカの側についているよう言ったりした後、ほわほわした気持ちで幸せそうなリュリュミアを抱き上げてそそくさとその場を去っていった。
 君主がいなくなってパーティーもお開きになった。エルンストは側近の部屋に行って提案実行のための具体策を話し始めた。マニフィカはついてきたメイドにチップをやって遠ざけると、1人きりの部屋でこの国の現状について考え込んでいた。貧富の格差の大きい社会はいずれ破綻する。不穏分子がいることが、すでにその兆候が現れているいい例だ。偶然行き着いた国ではあるが、関わりを持った以上なにかしら己に出来る役割があるはずだとマニフィカは思った。
「同じ支配階級にいるものとしては、見過ごせませんわねえ」
 マニフィカが1人ごちている頃、寝室にリュリュミアを連れ込んだレゼルドは、にやけながらベッドにリュリュミアを放り出した。
「むにゃ〜?なんですぅ〜?」
 半分寝ているリュリュミアが、さすがに怪訝そうに半身を起こそうとした。その肩を掴んでベッドに押し付けたレゼルドは、髪に頭をうずめて香りをかぎながら言った。
「お前はアーニャと引き換えにわしが貰い受けたんだ。大人しく言うことを聞けば悪いようにはせん。ああ……なんて馨しいんだ」
「ほえ〜?引き換えですかぁ?じゃあそのアーニャさんって人が姫様のところに?」
「いや。アーニャには別の役割があるからな。渡すわけにはいかない。なに、適当なメイドをつけてやれば文句もなかろう」
「ふうん、そうなんですかぁ。ああ、そんなに髪に頭をうずめていると……あ、やっぱり」
 いつしかレゼルドの体はぐったりとなっていた。くーすーと静かな寝息が聞こえる。リュリュミアは自分も大きなあくびをして呟いた。
「花粉の吸いすぎですよぉ。でもいい顔をして寝ていますねぇ。いい夢でも見ているんでしょうかぁ。はぁ、わたしも眠くなってきちゃいました。おやすみなさい〜」
 レゼルドが無意識に腰に手を回して抱きしめてくる。その仕草がどこか幼く感じられて「甘えん坊さんですねぇ」とリュリュミアが軽く笑って隣で目を閉じた。
 その夜半のことだった。王宮の上空に雲が広がってきた。その一部がするすると下降して来る。雲には睡蓮が乗っていた。近づきすぎると警護の者に見つかるからと適度な距離を置いて空にとどまり、羽虫型人形に仮初の命を吹き込んで王宮へと飛ばした。
「これ、なにをする気だ」
 腰にぶら下がっている瓢箪から声が響く。睡蓮は意識を人形に集中させながら瓢箪に向かって返答した。
「捕まっている女の子を放置ってのも気が引けるし、なにより行動を起こさなきゃ清徳だって積めないよな?人間同士のくだらないいさかいに直接関与するべきじゃないって師匠は言っていたけど、こそっと関わる分にはその言葉に逆らうことにはならないよな?」
「うむ。それはそうじゃが……人形など放ってどうするんじゃ」
「髪の毛の1本でも手に入れられたら、領主を呪うなり操るなりできるだろ。そうすりゃ捕まっている子と引き換えの人質として、処刑のときに現れるだろう反乱分子のほうへ歩かせることもできるはずだ。これなら、影から捕まっている子を助ける手助けになるよな。な?」
 瓢箪に話しかける声音は段々弱気なものになっていく。瓢箪からため息が聞こえてきた。
「なにを弱気になっておるんじゃ。やると決めたのならしっかりやらんかい。中途半端なことをしてみい。修行にはならんぞ」
「うん、わかっている。あ、寝室発見。女が一緒か。俗物だなぁ。まったく人間って奴はこれだから……よし、中に入り込めたな。ベッドを探れ。髪の毛が落ちているはずだ」
 リュリュミアの花粉でぐっすり寝入っているレゼルドは、人形の羽音が聞こえても身動き一つしなかった。人形の一つが枕についていた髪の毛を入手して飛び出してくる。それを回収した睡蓮は、満足げな笑みを浮かべながら乗っていた雲を動かし去っていった。

                    ○

 爽やかな睡眠をえたレゼルドはリュリュミアをお気に入りの側女として手元においておきながら、アーニャの引渡しにはのらりくらりと言を労して拒んでいた。専属のメイドをつけられてあまり強くも言えなかったマニフィカは、とりあえず様子を伺うことにした。リュリュミアから聞いた「別の役割」というのがなんなのかわからないこともあった。しかし少なくとも本気で処刑するわけではなさそうだということだけはわかった。
 その処刑まであと数日となった頃。街では恐ろしい事態が起きていた。
 ビシリ!鞭がうなり、地面を叩く。目があってしまった男が、しびれたように動きを封じられて恐怖を顔に浮かべた。テネシー・ドーラーは背中の黒い羽を張るく羽ばたかせ、鞭をぴんと張った。
「では、反乱分子については話せないとおっしゃるのですね」
 男がおびえながらこくこくとうなずく。テネシーはすっと背筋を伸ばして再び鞭をしならせた。刃のついた鞭に切り裂かれて男が絶命する。赤い血が地面に広がった。周囲の人だかりは声もなくその様子を見つめていた。テネシーが視線を向けると、みなそそくさとうつむいた。テネシーはドレスの裾を風になびかせながらよく通る声で冷ややかに告げた。
「これはレゼルド様の命です。反乱分子に組するものには制裁を。しかし、情報を与えてくれたものはそれなりの報酬が与えられるでしょう。どちらがよろしいか、言われなくともわかっておりますわね」
 近くの小道では、トーニャが憤って飛び出そうとしていた。それを止めたのはアスリェイ・イグリードだった。
「よしなよ。そんな素手で行って立ち向かえる相手じゃないぞ。ありゃあ、見た目は子供だが、かなりの使い手だ」
「だけどあんなひどいこと!」
 テネシーの言葉はまだ続いていた。
「アーニャ・プロンテアの処刑までに情報が集まらなかったら、見せしめに毎日誰かに死んでいただきます。よくお考えになってくださいませ」
「姉さんの処刑までこんなひどいことが続けられるのか!?」
 たまらなくなって制止を振り切って飛び出したトーニャが叫ぶ。テネシーは感情のこもらない冷たい視線を送った。アスリェイが慌てて追いかけてきた。背後から抱きとめられながらトーニャが泣き喚いた。
「姉さんだって無実なのに!それなのに処刑するなんて!」
「本当に無実かはわかりませんでしょう。だから処刑されるんです。それとも貴方が何か知っているとでも」
「……知らない、けど、でも……だから姉さんだって、きっとなにも知らない……なのに」
「お話になりませんわね」
「まあまあ。子供が言っていることをいちいち本気にしないほうがいいよぉ。あんたはずいぶん強そうだけど、こいつは見ての通りのひよっこだ。捨て置いてやってくれよ。な?」
 テネシーはそれには何も答えずにいなくなった。殺された男の遺体を知り合いらしい町人が運んでいく。通りにざわめきが戻っても、トーニャは泣きじゃくったままだった。アスリェイは最初の小道にトーニャを連れ込むと、優しく頭をなでまわした。
「ぼうず。男なら泣いてんじゃねえぞ。自分になにができるか考えるんだ」
 と、背後でどさりと音がした。アスリェイが驚いて振り返る。トーニャも泣き止んでそちらを見た。そこにはルシエラ・アクティアがぼろぼろの姿で倒れていた。医者としての反応で、とっさに駆け寄り容態をみる。幸い怪我は見た目ほどひどくはないようだが、服で隠された部分の傷までは確認できない。ルシエラはトーニャに悔しそうな目を向けた。
「あんたがアーニャの弟かい?可哀想に……私も反乱分子の一員と疑われてさっきの奴に痛めつけられたんだよ。反乱分子のことなんか何も知っちゃいないってのにさ!反乱さえしなきゃ、貧しくても平和な生活が送れるってのに。いったいどこのどいつなんだい。こっちが探し出して突き出してやりたいよ。そうすりゃあんたの姉さんも助かるかもしれないねえ……あ、つう……」
「あんまりしゃべんなさんな。ぼうや、おじさんはこう見えても医者なんだ。この女性を手当てしてやりたいんだ。どこかいいところはないかな」
「ここからならレックスが近いよ。マイトおじさんなら手を貸してくれると思う。着いてきて」
 粗末な身なりのルシエラを軽々と抱き上げたアスリェイがトーニャに続く。レックスはトーニャの言ったとおり大通りに出てすぐだった。レックスはアーニャを気遣う客で一杯だった。しかし大声出して領主や警護団の悪口を言うわけにもいかない。ひそひそ声だけが店の中を埋め尽くしていた。
「マイトおじさん!」
「トーニャ?どうした、そんなに慌てて」
「この人の面倒をみてやって欲しいんだ。警護団の人に怪我させられちゃって……」
 とたんにぴたりと話し声が止む。トーニャのあとから入ってきたアスリェイは、背中のルシエラを見やりながらマイトに言った。
「場所だけ貸してもらえたらいいんだ。道具は持っている」
「奥に入りな。休憩室にソファーがあるから、そこに寝かせるといい」
「そうさせてもらうよ」
 アスリェイとトーニャが奥に行ってしまうと、ひそひそ話が再開された。その中で黙々と酒を飲んでいるのはルーク・ウィンフィールドだった。カウンターで1人静かにしている。しかし耳だけはあたりに敏感に澄まされていた。
「そうか、ここだったのか」
「なんのことです、お客さん」
 酒のおかわりを頼みながらルークは軽く眉をひそめて見せた。
「今度、処刑されるって言う歌姫のいた酒場ってことさ。本当にその娘は無実なのか?」
「当たり前だ!ここだけの話だがな……」
 とぷとぷとグラスに酒を注いでやりながら、マイトが声をひそめてルークに喋った。
「アーニャの父親は名うての細工師なんだ。本当に疑われているのは、その父親のほうさ。アーニャはクナスをおびき出すための餌に過ぎない。おそらくだが、処刑って言うのも口実だろうと俺はにらんでいる」
「ほう。それはなぜだ」
「領主のレゼルドは無類の女好きだ。アーニャを見たら絶対に手を出してくるに違いない。それに、宝飾品にも目がない。この国でも1,2を争う細工師のクナスを、お抱え職人として取り込みたいってのが前々から噂としてあったんだ。娘の命を盾に取られたら、強情なクナスでもいやとは言えないからな」
「なるほど。反乱分子というのが都合のいい口実なのか」
「ここだけの話だぞ」
「わかっている」
 そこへ血相を変えたクナスが飛び込んできた。
「トーニャが警護団に怪我させられたって!?」
「クナス、そうじゃない。怪我人を見つけてつれてきたんだ。今奥で手当てしている」
「そうか……奴らもひどいことをするな」
 安堵のため息をつきながらクナスが頭を振る。その横顔は憔悴しきっていた。ちらりと様子を伺いながらルークが立ち上がった。
「この親子を助けたいなら、力になってやっても良い。そうしたいみたいだからな。その気があったらいつでも声をかけてくれ。俺はしばらくこの先の宿屋に泊まっているから。ルークと言ってくれればいい」
 がちゃりとかたわらに置いてあった銃剣を肩に担ぎ上げる。少しだけ探るような目がルークに向けられた。ルークはそれ以上なにも言わずに黙って出て行った。マイトは気がつかなかった。ルークが座っていたカウンターの裏側に、ももんがのコリンが残されていたことを。コリンはルークに意思の実を持たされていた。マイトを無視してクナスが奥に向かう。コリンがふわふわと飛び立ってクナスのあとに続いたが、客の応対で忙しくなってしまったマイトはそれに気がつかなかった。
 クナスはトーニャを家に帰そうとしていた。それに逆らうトーニャとクナスがもめながら店に出てくると、リリア・シャモンが前に立ちはだかった。
「なにかな、お嬢さん」
「あなたがアーニャ様のお父様ですね。今、皆にも話をしていたのですが、1つ提案があるのです」
「提案?」
「警護団は反乱分子狩りを着実に進めています。このまま事態が進めば、反乱を起こす機を失うと思うのです。その恐れはじゅうぶんにありますわ。ここはアーニャ様の処刑を逆手にとって立ち上がるべきでしょう!誰かがやらなくては、こんなゆがんだ政治は正せません。それに……娘さんを助けたいでしょう?」
 見たところリリアはアーニャとそう歳の差はないようだった。だがその毅然とした態度とまっすぐに見つめてくる視線の強さは周囲を圧倒していた。細身な体を異国風の鎧に包み、腰には刀を携えている。そんな重装備でも隙のない身ごなしは、能力の高さをうかがわせた。クナスはまぶしそうにリリアを見つめながら低く言った。
「反乱を起こすには手が足りない。しかし、娘は本当に何も知らないんだ。だからなんとかして助けたい。手を、貸してくれるか。あんたはかなり強いようだからな」
「もちろんそのつもりですわ」
 リリアが力強く請合った。クナスは少しほっとしたように口元を緩めた。トーニャがぎゅっと口をかみ締めながら父親とリリアの顔を交互に見ていた。その背中をクナスが押す。トーニャが嫌がって身もだえした。
「お前は家に帰るんだ。そうだ、お嬢さん。名前は?」
「リリアです」
「リリアか、いい名だ。すまないが、俺はまずこいつを家に連れて行くから。ちょっと客も来ることになっているし。話はマイトと詰めていてくれないか。ここのマスターだ。あとで聞きに来る」
「僕も参加する!」
「だめだ。お前じゃ足手まといになる。お前にも出来ることがきっとあるはずだ。だからそれまでは大人しくしていろ。いいな」
 クナスとトーニャが去っていくと、リリアは店の中を見回して宣言した。
「こんな腐った政治はつぶれて当たり前です。大切なのは圧力に押し負けてしまわないことですわ。アーニャ様の処刑は、圧力を見せつけようとする手立てでしょう。屈してはなりません。よろしいですわね、ここにいるのはみなアーニャ様を案じているのだと信じております 。くれぐれもアーニャ様救出のことを敵に売ってはなりませんわよ」
 どうやら集まっていたのはみな仲間であったらしい。リリアの宣言にウォー!という叫びで応えていた。マイトは客たちを帰し、閉店の看板をぶら下げるとリリアと一緒に奥に向かった。ソファーでは手当てしてもらったルシエラがすやすやと眠っていた。ももんがのコリンは天井の柱に止まっていた。マイトは椅子をリリアに勧め、自分も適当な椅子に座ってほれぼれとした目をリリアに向けた。
「まだ若いのに、しかも女の身でそれだけの迫力をもてるとはすごいな」
「私の国では男も女も関係ありませんから。幼い頃より剣を父に教わり、国では侍マスターの称号をいただくまでになりました。この力は正しいことのために使うものと教えられています。無実のアーニャ様を救い、ひいては国の政道を救うことに協力せよと、父や母ならば言うでしょう。……弟さんは可愛らしい方ですわね。お姉様のために必死になって。その気持ちは私にもよくわかります。私にも妹や弟がおりますが、その家族のためならどんなことでもするでしょう。ですからあの子のためにも頑張りますわね。ところでさっきの客たちは帰してしまって大丈夫だったのですか?」
「密告のことなら心配いらない。残っていたのはみんな俺の仲間だ」
「あなたの?」
「あんたになら話してもかまわないか。反乱分子と呼ばれている連中の首謀者はこの俺だ。もちろんクナスも仲間だ。アーニャやトーニャには何も知らせていなかったがな。まだまだ仲間集めの最中だが、いずれは国の解放軍『フリーダム』としてレゼルドを倒すつもりだ。権力は奴にほぼ集中していると言っていいからな。その他の貴族は、頭が瓦解すればたやすく落ちるだろう」
 眠っていたルシエラが、背中を向けたまま薄目を開けて酷薄な笑みを浮かべた。コリンの持っている意思の実から聞こえてきた言葉に、宿に戻っていたルークも耳を澄ませていた。
 マイトはルシエラの様子を伺いながら声をひそめて、ルークに話したのと同じことを告げた。処刑が罠であることはマイトたちにも見え見えだった。まだ戦力も意識も集まりきっていない状態で反乱を起こしても、レゼルドは倒せない。せいぜい警護団の戦力を多少、奪うだけだと。しかもテネシーのように警護団の戦力が高まっていることもある。いくらリリアの能力が高くても、難しい話だろう。
「ルークとかいう奴が協力を申し出てくれている。彼もかなり腕が立つと見受けられた。だから仲間になってもらおうと思っている。俺の考えでは、まずはアーニャを救い出し、フリーダムの名前を奴らに知らしめようかと。その上で王宮に誰かをもぐりこませて、レゼルドの身辺の弱点を探り出すつもりだ。フリーダムが表に出れば身辺警護もさらに厳重になるだろうからな。奴はどこか気の弱いところがあるそうだから間違いないだろう。それにあわせてこちらも地盤を固めておかないとな」
「腐敗しているのは全部の貴族というわけではないのでしょう。手を貸してくれそうな貴族はいないのですか」
「クナスをひいきにしている貴族は確かにそれなりにいる。中にはまっとうな意識を持ったものもいるだろう。味方につけられたら助かるが、問題はそれをどうやって見分けるかだな。クナスが尽力すると言っていたが」
「そうですか。では、それはあの方にお任せするとしまして、私たちはアーニャ様をどうやって助け出すか、フリーダムの存在をどうやって知らしめるかが課題ですわね。処刑が罠なら、深入りせずに存在をアピールしなくてはなりません」
「そうだな」
 最前線に出て戦う気満々のリリアは、自らが象徴となってもいいと申し出てくれた。しかし大切なのは、中心となるのはあくまで町の人間だということも言い添えた。マイトもそれにはうなずいた。
「私が説得して回りましょう」
 そこで起き上がったルシエラが言い出した。
「起きて大丈夫なのか」
「おかげさまで。ありがとうございました。それで、町の人への説得なのですが……私のように反乱分子としてひどい目に合わされる人がこれからも出ると思うのです。私を襲った警護団の人は、見せしめのために毎日誰かを殺すと言っていましたから。きっと恐れで密告したりする人が出てくると思うのです。それでは思う壺です。だから逆に見せしめになった私が、一緒に抵抗するように言ってまわりますわ。説得力はあると思うのですよ。暴力に屈しなかったものとして。仲間が増えたらここに知らせに来ます。ここのこともその人たちに言ってかまいませんね」
 マイトはしばらく考えていたが、腹をくくった顔で承知した。
「クナスが自分の細工品を報酬に出してもいいと言っているんだ。それも伝えてくれ」
「わかりました」
 護衛にリリアが付き合うことになり、マイトは宿にルークを迎えに行った。

                  ○

 クナスの家で待っていたのはディック・プラトックだった。ディックは貴族の中に反乱に加わってくれるものがいないか探し出そうとしていた。そのために必要なものを入手するためにクナスのもとにやってきたのだ。
「貴族を説得するための手紙?」
「1通だけでいいんだ。物証を貴族のもとに残したくないからな。読んでもらうためだけのものを。それと、クナスからの使者だってことを証明するために、あんたの細工品を分けてもらいたいんだ。あ、代金はちゃんと払うぜ。あと、トーニャを借りていきたいんだけどだめかな」
「トーニャを?なぜ」
「息子が一緒の方が説得力あるだろ。姉が処刑されるって話なら、同情心もそそれるだろうし」
「行く!姉さんをそれで助けられるんだったら。父さんの言うように、僕は確かに戦えない。でもこういうことだったらできるだろ。許してくれよ」
「まったくひでぇ奴らもいるもんだぜ。実際に疑われているのはクナスのほうなんだろ?なのに本人を尋問しないで代わりに娘を捕まえるなんてな。しかも真実もわからないうちから処刑しちまうなんて」
「真実だなんて!姉さんは絶対に無実だ!」
 トーニャが涙目になってディックに食って掛かった。ディックは癒しのタッチを使ってトーニャを落ち着かせると、優しく頭を撫でてやった。
「辛いことを言っちまったな、悪かった。トーニャはいい姉ちゃんを持ててうらやましいぜ。絶対に助けような!」
「うん!」
 ようやくトーニャに笑顔が戻った。クナスはそれでも難しい顔をしていたが、貴族の中に仲間となってくれるものが欲しいのは確かだったので、思い切ってディックの案に乗ることにした。そして1つの箱を持って来た。中には燦然と輝くアメジストをあしらったブローチや髪飾りが数点入っていた。細工品にはそう詳しくないディックですらその美しさには魅了された。
「こいつは本当は売り物じゃないんだ。アーニャの嫁入り道具として作ったものだ。だが、当の本人が死んじまったらあっても仕方ないしな……。目利きの貴族ならそれなりの価値をつけてくれるはずだ。これを持っていけ」
 アーニャの銀の髪と紫の瞳に合わせた細工なのだろう。使われているのはプラチナだというから、それだけでもかなり高価なことは確かだった。それをディックの所持金に合わせて売ってくれたのだ。
「嫁入り道具だなんて、大切なものを……」
「いいさ。細工品ならまた作ればいいんだから気にするな。それよりトーニャが無茶しないよう見張っていてやってくれ」
「わかった」
 細工品を別々の箱に入れなおし、クナスが書いた書状と訪ね先のリストを持ち、トーニャと一緒にクナスの家を出たディックはまず市場で支度を整えた。立場は日ごろの愛顧の感謝を届けるよういいつかった園芸者だ。贈り物用の花束や観葉植物をそろえ、馬車でリストの家に向かった。
 トーニャを連れて行ったのは正解だっただろう。父親の跡を継ぐべく修行をしていた息子の顔を覚えている貴族は少なくなかった。またクナスもわざとそういう貴族を選んでいたのだろう。クナスの使いというだけで気さくに主が応対に出てきて、贈り物の花や植物に目を細め、差し出された宝飾品には目を輝かせた。アーニャの話には、痛ましげな顔をしただけの貴族もいたが、読みどおり憤ったりする貴族もいた。ディックはそんな貴族にはクナスの手紙を読ませた。手紙には率直に自分がフリーダムの一員であることが書かれてあった。現状打破のためには領主レゼルドと、癒着している貴族を成敗する必要があることも書いてあった。その上で心ある貴族の民衆を思いやった政治が必要だとも。トーニャには伝えなかったが、必要とあれば娘を犠牲にすることもいとわないとまで書いてあった。嫁入り道具用に仕立てた宝飾品がその決意の証だと。
「これがその宝飾品か。確かにあの娘に似合いそうだな」
「知っておられるのですか?」
「娘の方も美人で有名だからな。レックスは町の酒場だが、アーニャの歌聞きたさにお忍びで出かける貴族も少なくはないのだよ。かく言う私もその1人だがね」
 微笑みながら手紙をディックに返したのは、貴族の中でもかなり高い立場にいるミハイル卿だった。貴族には珍しく、下々のものにもよく気を配り、現体制を憂いていると評判だった。しかしそんな彼でもレゼルドに諫言することはできずにいたのだ。ミハイルはディックとトーニャをそっと温室につれて行き、人払いをすると話し出した。
「嫁入り道具ではこの宝飾品は受け取るわけにはいかないね。君からクナスに返しておいてもらおう。しかし、本当にクナスが反乱分子の1人だったとはね。彼の得意先には多くの貴族がいる。もちろん、民の言うところの腐った貴族もね。そういった輩はクナスをお抱え細工師にして独り占めしようとしていたようだが。まあ、それでうなずくような人物ではなかったが」
「父さんは、きれいになりたいのは誰でも同じだから、誰か1人のもになるのは嫌だって……。それに、そういう人物は、自分の細工が欲しいんじゃなく、それがもたらす財産が目当てだからなおさら嫌だって」
 トーニャの言葉にミハイルがくすくす笑った。
「確かにその通りだ。クナスほどの腕ともなれば、他国への献上品にしてもおかしくない細工になるからね。売ってもいいし、権力の道具としても使える。欲にまみれた貴族には大金を積んでも欲しい代物だ。ことここアカルスは、産業の主流が宝飾細工だし。その彼が現体制に牙を剥く、か」
「民が立ち上がることも大切ですが、貴族の中からも現体制を崩す勢力が出て欲しいんです。力を貸してくださいませんか」
「父さんがフリーダムの一員だったのは驚きだったけど、わかるような気がする……でも、姉さんが何も知らないってのも本当のことだと思うんです。どうか助けてください!」
 トーニャの必死な訴えに、ミハイルが苦笑した。
「処刑はおそらく罠だろう。これだけ大々的に公表されていることから考えても。しかし、さすがにそれに反発する貴族がいないわけではない。現体制への対処はゆっくり考えさせてもらうとして、まずは処刑からアーニャを救う方法がないか探してみよう。あるいは陛下の女好きを使えば命は助かるかもしれない。くみしやすそうな貴族にも働きかけてあげよう。それでいいかな」
「あ、ありがとうございます!お願いします!」
 トーニャは声を詰まらせながら何度もお辞儀を繰り返した。ディックも頭を下げながら、温室のチェックをしていた。温室はよく管理されていて、美しい花々が咲き乱れていた。調和を乱さないよう工夫された配置にも好ましいものが感じられた。この人なら信じられる。直感でディックはそう思った。またそういう貴族がいたことに心から感謝していた。

                    ○

 警護団に入ったのはテネシーだけではなかった。アルトゥール・ロッシュはいかにも女好きの道楽貴族といったいでたちで警護団にもぐりこんでいた。テネシーと違っていたのは、街中に出るのではなくアーニャの監禁状況を調べるために警護団内で情報収集に励んでいたことだった。優雅な立ち居振る舞いと一見して上質とわかる服装で、一般の警護団員より格上であると認知させながら、上手く取り入って処刑についての詳しい情報を集めてまわっていた。
 すでに処刑は明後日に迫っていた。公開処刑にするということで、収容所の大広場に処刑場を作り上げ、見物人を集めて火あぶりにするというのだ。それまでは牢の中でも特別厳重な警備が敷かれている部屋に閉じ込められているらしい。さすがにその部屋の位置についてはなかなか割り出せなかったが、なんとかつかみ出し、処刑当日の手順についても入手したアルトゥールは、さりげなく1人になった。すかさずアルトゥールの側に水色の髪の小さな少女が現れた。手の平サイズのその少女はアルトゥールから必要な情報を受け取ると、姿を消そうとした。
「そうだ、ジルフェリーザ。どうやら彼女、今は尋問はされていないらしいんだ。処刑当日の反乱分子の動き待ちって感じらしい。向こうは動くんだろう。戦いになったら僕はそっち側につくから、無茶はしないでくれとアメリアに伝えておくれ」 「わかったわ。アーニャには会えたの?」
「ああ。食事の差し入れという口実で部屋に行ったんだ。さっきの尋問云々ってのはそこで聞いた。彼女、自分が助かることよりも家族や町の人が無茶をすることを恐れていた。他人がいたから助けてやるとは言ってやれなかったんだけど……無事に助けてやれたらいいな。家族思いなところはアメリアに似ている」
 恋人の面影とアーニャの面影を重ねてアルトゥールがしんみりする。ジルフェリーザはそれには何も答えずに、今度こそ姿を消した。
 ジルフェリーザから情報をもらったアメリア・イシアーファは、さっそくレックスに行ってアーニャ救出の手立てを話し始めた。その場には仲間に加わっていたルークやリリア、ルシエラなどもそろっていた。
「私たちは正面から警護団に向かって行こうと思うのぉ。背後からはアルトゥールが加勢してくれるから、それで挟み撃ちにしちゃおぅ。火がつけられたらお終いだもんねぇ。一気にいかないとぉ」
「先陣は任せてください」
 リリアが豊かな胸をどんと叩いた。ルークは黙って銃剣を抱えなおした。戦闘能力がないように見えたルシエラは、店に行って作戦の詳細をその場にいたフリーダムの仲間たちに伝えていた。その仲間はかなりな数になっていた。テネシーへの恐怖は返って気合を入れさせたようだ。ルシエラの説得が功を奏していた。
 そしていよいよ明日は処刑という日。アーニャの見張りに立っていたのは長谷川紅郎だった。警護隊の制服をきっちり着込み、差し入れの食事を持って室内に入る。そのとき手には別の袋を持っていた。
 紅郎が入っていくと、アーニャがびくっと身をすくめた。長身の紅郎に見下ろされてすくんでしまっている。紅郎はにかっと笑って食事の皿を突き出した。
「食えよ。食べねぇと体が持たないぜ」
「……どうせ明日には殺されてしまうのに?」
「それなんだがな。あんたを助けてやろうと思ってな」
「え?」
 思いがけない言葉にアーニャが目を丸くする。紅郎は持っていた袋をあさってなにやら取り出しているところだった。さして大きくもない袋はどういう構造になっているのか、出てきたのはアーニャそっくりの人形だった。目を閉じていて気絶しているように見える。それに縄をかけて転がしてから、紅郎はアーニャに向き直った。
「弱いもんいじめも人質も趣味じゃないんでね。俺は強い連中と死合いできればそれでいいんだよ。だからやってくるだろう反乱分子どもと戦いたくてここにいるんだ。戦いたい奴がやってくる予感がするんだ。楽しめそうじゃねぇか」
 にやりと笑う右の眼窩で宝玉がきらりと光る。にわかには信じがたくてアーニャが戸惑っていると、紅郎は袋を差し出してきた。
「こいつは特別製の袋でな。なんでも中に入れられるんだ。人形を入れてきたのを見たろう。重さも軽くなるし、見た目には何も入ってない袋に見えるから持ち運びに便利なんだよ。中にいる間は動物は眠ってしまうから、戦いが終わるまで眠ってな。事が終わったら家に帰してやるよ。ただし、この報酬は前払いだぜ」
「きゃっ」
 ぐいっと手を引かれてアーニャの体がすっぽり紅郎の腕におさまってしまう。華奢な体を手加減なしに抱きしめながら唇を重ね激しくむさぼった。
「ん、んん」
 アーニャの頬が紅潮する。抱きしめてくる力も押し付けられる唇も乱暴だったが、うごめく舌は意外なほどに優しく、やがてアーニャはぐったりとしてしまった。
「ごちそうさん。これで交渉成立だ。さ、飯を食ったら袋に入りな……ん?なんだ?」
 そのとき牢の外が騒がしくなった。ざわめきと剣戟の音。しばらくして静かになったかと思ったら、扉が開かれてジェルモン・クレーエンが入ってきた。
「ふむ、まだいたか」
「今晩の当番は俺のはずだぜ」
 紅郎が人形をが見えないように位置を変えながらジェルモンに問いかける。ジェルモンは大人しく紅郎の腕の中にいるアーニャと紅郎を見比べながら答えた。
「どうやら目的は一緒のようだな。彼女を逃がしにやってきた。家族のもとにいることは危険だろうが、ここにいても安全なわけではないからな。明日は処刑の日だし、今しかチャンスはない。どうやら代わりのいいものがあるようだしな。貴君だろう、それを持ち込んだのは」
 目ざとく人形を見つけられて紅郎もやむなく素直にうなずいた。ジェルモンは手早くアーニャの銀の髪を染め粉で茶色に変えていった。アーニャが不審そうにしていると、ジェルモンは生真面目に告げた。
「この美しい髪を翳らせることは本意ではないが……貴女を、陛下も父君弟君も目指して、そうして騒乱が起き無用に血が流される。貴女は知らないと思うが、今、町では見せしめのために、貴女の処刑までに毎日民が殺されているのだ。それでも反乱分子を密告するものはいない。どうやら結束はかなり固いようだ。捕まっているのが貴女のような美しき乙女というせいもあるのだろう。貴女の美しさは人を狂気に狩らせる。だからしばしその月の輝きを隠していただきたい。貴女自身のためにも。貴女を守らねばならないわたしのためにも」
 座り込んでいるアーニャの前にひざを着き、ジェルモンがそっと手をとる。アーニャが紅郎を見上げた。ある意味惑わされたといえなくもない紅郎は、ぽんとアーニャの肩を叩いた。
「人形を囮にすることは初めから考えていたことだしな。どうやらこいつもなかなかの腕前と見た。任せても大丈夫だろう。後のことは俺に任せておけ」
 そしてジェルモンに指を突きつける。
「おい、おまえ。今回は手柄を譲ってやる。その代わり、ことが無事に終わったら俺と戦えよ。それが手助けする条件だ」
「いいだろう。さあ、行きましょう。外の番人はまだ気絶していますから大丈夫。ごまかしは彼がやってくれるそうなので、安心されよ」
「はい……あの、あなたもお気をつけて。身代わりがばれたら……」
 アーニャに気遣われて紅郎ががははと笑った。
「こっちは気にすんなって。ばれないよう、他の奴には触れさせねえからよ。ま、ばれたときはばれたときだ。別に戦う相手が警護団の連中だって俺はいっこうに構わないんだからよ。さ、行けよ」
「ありがとう……」
「報酬はもうもらったからな」
 先刻のキスを思い出してアーニャが真っ赤になった。
 牢からアーニャを連れ出したジェルモンは、人影のないところで侍女の服に着替えさせ、闇夜を馬でひた走った。そして行き着いた先は、なんとレゼルドの後宮だった。
 女ばかりの場所に連れてこられて驚いていたアーニャにジェルモンが説明する。
「自分の手の内にある、と思っている場所の方が見落とされやすいものです。後宮であれば貴女の美しさも目立たないでしょう。新入りが入ることはすでに伝えてあります。しばらくここで大人しくしていてください」
「はい……」
 豪華な一室を与えられて落ち着かない様子のアーニャを優しい笑みで励ましてから、メイドと入れ違いに部屋を出て行ったジェルモンは、外でくっと笑いを漏らした。レゼルドにはもとからアーニャを処刑する意志はなかった。その意を汲んだジェルモンが、アーニャを騙してここまで連れて来たのだ。もちろんレゼルドは承知のうえだった。そうとは知らないアーニャは、風呂に入らされ服を与えられてさらに磨きのかかった美貌を安堵の色に染めていた。

                    ○

 そして処刑当日になった。収容所には朝から大勢の民が押し寄せていた。大半は一般民だったが、それにまぎれてフリーダムの仲間もアーニャを救うべく配置についていた。やがてアーニャの人形を抱えた紅郎がやってくる。気絶しているように見える人形を十字架に貼り付けにしていく。紅郎が離れると、他の警護団員が足元にまきを積み上げていった。
 この日まで、約束したとおりミハイル卿はレゼルドに処刑の中止を訴えてきたのだが、もとから本気で処刑する気のなかったレゼルドは貸す耳を持たなかった。ジェルモンから張り付けにさせられるのが身代わり人形であることも聞いていたレゼルドは、処刑場に現れると警護団に守られながら面白そうに様子を見守っていた。
「姉さん……」
「力が及ばなくてすまない」
 あとはフリーダムの仲間を信じるしかないトーニャが泣きべそをかきながら張り付けにされている姉を見つめていた。先走ってしまわないようミハイル卿がその肩を押さえていた。クナスは朝からどこかに姿を消していた。アメリアが待機していたマイトのところにやってきて状況を説明した。
「レゼルドが口上を述べることになっているんだってぇ。それから火をつける手はずになっているのぉ。だからレゼルドが立ち上がって話し出そうとしたときに行こぉ」
「わかった」
 ところがその頃、王宮でちょっとした騒ぎが起きていた。グラント・ウィンクラックがエアバイクの凄嵐に乗って単身、王宮に奇襲をかけていたのだ。矢の届かない距離を保ちつつ空中に浮かんでいたグラントは、破軍刀を構えながら眼下にわらわらと押し寄せてきた騎士たちに向かって大声を張り上げた。
「やあやあやあ、遠からん者は音にも聞け!近くは寄って目にも見よ!我が名はグラント・ウィンクラック!悪逆領主に天誅を下すものなり!」
 朗々とした声はよく響き渡り王宮を守る騎士たちの耳に届いた。相手が1人と言うこともあって、騎士たちの志気は返って高まった。届かないとわかっていても矢が飛んでいく。グラントは高速で矢の雨を避けながら王宮に近づき、大門の前を固めている騎士たちに向かって火球を叩き込んだ。そして続けさまに大門に向かって技を放った。
「くらえ剛剣術奥伝!大振空刃!」
 ぐわっと派手な音がして大門が壊される。騎士たちが被害を避けて散り散りになる。グラントは壊れた大門には目もくれずにさらに高みに上がると、城壁を乗り越えて王宮の一番高いところに向かった。高速で移動するグラントに追いつけるものはいない。迎え撃とうとする騎士たちも及び腰になっていた。そこへ破軍流星を叩き込んだ。それは騎士たちを蹴散らし最上階の窓や壁を壊した。グラントはすたっと凄嵐から飛び降り開いた穴から王宮に侵入しようとした。なんとか立ち直った一部の騎士たちをしりぞけ踊りこむ。中でも騎士たちが待ち構えていたが、グラントの敵ではなかった。グラントは王の間に飛び込みながらレゼルドの姿を探したが、そのときはレゼルドは処刑場にいたので、部屋は無人だった。
「ち、いないか。なら宝物庫に行くまでだ」
 王宮内で警備に残っていた騎士や警護団員たちと戦いながら宝物庫を探す。と、いきなり王宮全体が震えた。さすがのグラントも不審を抱いてテラスに出た。その肩に白いテナガザルがよじ登ってきた。
「なんだ、こいつ。レゼルドのペットか?」
 空中にはいつの間にか一隻の飛行船が浮かんでいた。飛行船に乗っているのはアリマ・リバーシュアだった。アリマは怒りに震えながらカノン砲を王宮に撃ち放っていた。そのたびにどかんどかんと王宮が震えた。
「俺のキキちゃんを返せー!」
 怒り狂った叫びが聞こえる。グラントの肩でテナガザルがキキっと鳴いた。
「まさか……キキちゃんってこいつのことか?」
「キキッ!」
 そうだというような返事が返る。その間にもカノン砲の攻撃は続いていた。このままでは王宮と一緒に自分もやられてしまうと判断したグラントは、無事だった凄嵐に飛び乗ると、キキを抱え込んで飛行船「レッツラ号」に向かって飛んでいった。キキの姿を視認してアリマが攻撃をやめさせる。甲板に降り立ったグラントに(正確にはグラントが抱えているキキに)喜色満面の笑顔でアリマが駆け寄っていく。グラントはあきれながらキキをアリマに手渡した。
「無茶する奴だな」
「ああ、キキちゃん!無事でよかった!」
 グラントの言葉をまるで聞いていないアリマが再会の抱擁をしている。グラントが声をかけるのはあきらめて上から王宮を見下ろすと、王宮は上を下にの大騒ぎになっていた。カノン砲の攻撃で外壁は完全に破壊されている。王宮自体もだいぶん壊れてしまっていた。早馬が駆け出していくのが見えた。グラントは後をつけてみようと再び凄嵐に乗り込んだ。
「王宮にはレゼルドはいなかったぜ。あんたも早くこの場を離れることだな」
「そこの黒髪の奴。あんたがキキちゃんを助けてくれたのか。礼を言う。名前はなんていうんだ」
「グラントだ」
「グラントか。ありがとう。俺様はアリマだ。なにお尋ね者になることくらいどうってことはないさ。それが商売みたいなものだしな」
「ならいいけどな。おっと、奴が行っちまう。じゃあな」
 ご機嫌なアリマを残してグラントが飛び去る。早馬の行き先は処刑場だった。王宮の騒ぎは処刑場からも見えていたらしい。早馬の知らせを聞くまでもなくレゼルドは処刑の口上も忘れて立ち上がって呆然としていた。さらにグラントの話を聞いて震え上がってしまった。あれこれ言ったり処刑の様子を見るのはあきらめて、手短に役人に指示を出すと処刑場を後にした。慌てたのはアメリアやアルトゥールだ。手順が狂って火は今にもつけられそうになっていた。役人が松明を持って前に進み出る。必死に前線に出たアメリアが太陽の宝珠に蓄えた魔力を使って竜巻を引き起こした。火をつけようとしていた役人や周辺にいた警護団員が吹き飛ばされる。赤毛の馬に乗ってだっと飛び出したのはホウユウ・シャモンだ。娘のリリアが後に続く。ホウユウは詰め寄ってくる警護団員に向かって流星天舞を繰り出した。衝撃波に打ち抜かれてばたばたと警護団員が倒れていく。かろうじて攻撃を避けた警護団員が一丸となって詰め寄ってきた。その背後からアルトゥールが攻撃を仕掛けてきた。
「き、きさま……」
「悪いな。初めからこのつもりだったのさ。アーニャは返してもらうぞ」
 アルトゥールが疾速のブーツでかく乱しながら警護団員たちを倒していく。ホウユウも赤兎馬を駆りながら敵を蹴散らせていた。その前に立ちはだかったのは紅郎だ。紅郎はホウユウの姿にとても嬉しそうだった。
「やっぱりやってきたな」
「紅郎か?なんでおまえがここに」
「ホウユウのことだから、アーニャを救うためにやってくると踏んで警護団に入っていたのさ。これで晴れて敵同士だ。戦う理由ができたってもんだ。さあ死合おうぜ!今度こそ決着をつけてやる」
「おまえに構っている場合じゃない……と言いたいところだがな。見逃してはもらえないんだろうな。リリア、アメリア。こいつは俺が相手をする。おまえたちはアーニャを救出するんだ」
「はい、父上」
「あ、火が!」
 どさくさにまぎれてまきに火がつけられそうになっていた。馬から下りて紅郎と剣を交えていたホウユウには手助けにいく余裕がない。嬉々として攻撃してくる紅郎がその隙を与えなかったのだ。アメリアが慌てて水の精霊の力を借りて火を消そうとしたが間に合わなかった。ぼっと火がつき、人形が炎にまかれそうになったときだった。上空から影が飛来してきた。影は張り付けに使われている柱にぶち当たるとアーニャ人形を抱えあげて脱出させた。
「クレイ、貴様もか!」
 クレイウェリア・ラファンガードはアーニャ人形を横抱きにしながら、取り返そうと襲い掛かってきた警護団員たちに次々と手刀を喰らわせた。そしてどうと倒れたその警護団員を足蹴にしてどけると高笑いを響かせた。
「街で評判の可愛娘ちゃんが無実の罪でひどい仕打ちを受けるのは間違っているんじゃないのかい。そんなのこのクレイ姐さんが見逃すはずないだろ。このタイミングを見計らっていたのさ。とらわれの歌姫はもらっていくよ。追いかけられるものなら追い掛けておいで!」
 竜珠の力を開放し翼に注ぎ込むとばさりと飛び上がる。そのまま一気に去っていこうとしたが、腕に抱いているのが本物の人間ではなく人形であることに気がついて驚きの声を上げた。
「人形かい!?本物じゃない!」
 その声は地上にも届いていた。混乱状態で戦っているアルトゥールやリリアたちだけでなく、何も知らされていなかった警護団員たちの動きもしばし止まる。戦いを続けていたのは本物ではないことを知っていた紅郎とその相手をしているホウユウだけだった。アルトゥールと合流したアメリアが戸惑ったようにアルトゥールを見上げた。
「どぉいうことなんだろぉ」
「昨日までは確かにいたんだぞ」
「それはあたいだって知っているよ。そのためにわざわざ警護団に入って警備についていたんだからさ。でもこれは本当に偽者だよ」
 地上に降りたクレイウェリアが人形を差し出す。その視界の端を銀色の光がかすめた。
「あ、あそこに!」
「追え!逃がすな!」
 まだ元気だった警護団員たちがその光を追いかけ始める。だがすぐにやめてしまった。明らかに別人だったからだ。追いかけてこないのを見て、不満そうにシエラ・シルバーテイルが鼻を鳴らした。
「やだぁ、引きつけられると思ったのに」
「ち、こいつ娘じゃないぞ。犬だ!」
「犬じゃありません!狼です!」
「どっちでもいい!娘はどこだ!」
「さあ?知りませんよ」
 つーんとそっぽを向きながらシエラが答える。警護団員たちがばらばらとシエラを取り囲む。犬扱いされて腹を立てたシエラが大暴れして相手を叩きのめしてしまった。
「どういうことなんだろう。本物の姉さんはどこに」
 トーニャがおろおろとミハイル卿を見上げた。ミハイル卿も不思議そうな顔で首を振った。その腕をマイトが引っ張った。
「クナスが何か知っているかも知れない。だからいないのかも……家に行ってみよう」
「うん」
 マイトはリリアに目線で合図して引き上げていった。リリアがぼろぼろの警護団員たちに向かって高らかに宣言した。
「私たちフリーダムは、この悪政に対し断固たる決意で立ち向かうものであります!悪の根源を断ち切るまで徹底的に戦い抜きます。覚悟なされよ!」
「ふ、勇ましいことですわね」
 テネシーがソードを構えてリリアに向かっていった。止めたのはルークの銃撃だった。テネシーはさっと飛び上がって弾の雨を避けた。紅郎と戦っていたホウユウは、娘にせかされて退却の姿勢に入った。
「埒が明かないからな。決着はまたの機会に」
「おう!いつでも待っているぜ」
 紅郎が明るく応じる。クレイウェリアは良く出来た人形がもったいなくなって律儀に抱えて走り出した。

 プロンテア家はクナスの置手紙に重い雰囲気に包まれていた。追いついてきたアメリアが泣いているトーニャの顔を覗き込んだ。
「どぉしたのぉ?お父さんは?」
「姉さん……後宮に連れて行かれているんだって。呼び出しがあったって……父さん、1人で行っちゃったみたい」
「ええ!」
 マイトたちに話さなかったのは、呼び出しがあったときすでにみなはでかけていたからだったようだ。警護団員たちに囲まれて、置手紙を残すのが精一杯だったのだろう。手紙はかなり乱雑に短く書かれていた。一家を襲った更なる災厄に、アメリアはアルトゥールに抱きついて心の痛みをこらえた。
 レゼルドは王宮を襲ったのもフリーダムの仲間だと思ったようだ。直後に貼りだされた触書にはそのように書かれていた。見つけて連行してくた者には褒美が出されると触書にはあった。だがアーニャやクナスのことについてはなんの音沙汰がなかった。
 マイトはその後出された張り紙に、怪しいものを感じつつも乗ることにした。それは壊れた王宮の修繕のための人材募集の張り紙だった。
 時を同じくして、街の一角に遊郭が作られた。そこには貧困に窮した民が売り飛ばした娘たちが集められていた。国から補助が出ているとかで安く遊べるようになっている。娘たちにはフリーダムの情報を集めてくれば早く家に帰れると通達してあった。そうとは知らないマイトは、逆に国の内情を調べるために酒の納品を行い始めた。
 そんな時、王宮で武闘大会が開催されることになった。表向きは警護団の人員増強のためと言うことになっていた。

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