「心いろいろ〜彼岸を越えて〜」

−第2回(最終回)−

ゲームマスター:高村志生子

 ディスはアルトゥール・ロッシュの申し出を受けて、困ったように苦笑いしていた。対するアルトゥールはきっと真剣なまなざしをディスに向けていた。
「ハニャハ家にはいけないよ」
「どうしてだい。メリアの部屋を探れば、何か証拠が出てくるかもしれないじゃないか」
「証拠……ねぇ」
 アルトゥールが探していたのは、メリアがミルカを病気にさせていたという確たる証拠だった。日記などにその手口が残されているのではないかと切々と訴えた。しかしディスはうなずこうとしなかった。
「それにはミルカの許可よりも、2人のご両親の許可が必要だろう?なんて言って捜索する気だい。事故死した姉が妹を故意に病気にさせていたかもしれないから、その証拠を探したい?無理だね」
「もしも本当にメリアが妹を、家族の命を軽んじていたとしたら、それは許しがたいじゃないか」
「で、その証拠を見つけてどうしようってんだい。死んでしまっている相手を罰するとかでも。ミルカやご両親はそれを望むかな」
「じ、事実は明らかになった方がいいだろう」
 痛いところを突かれてアルトゥールが言葉に詰まる。ディスは軽く肩をすくめると、本のようなものをアルトゥールに放ってよこした。
「メリアの日記なら、ミルカが遺品として受け継いでいたよ。読ませてもらったけど、君が想像しているような記載はなかった。しいて言えば自画自賛が強めな表現が多いかなってぐらいで。まあ、読んでみればわかると思うけどね。ミルカには僕から説明しておくから、貸してあげる。納得いくまで読んでみるといいよ」
 その日記は確かに妹との思い出が過剰に美化されたような記述が多かった。妹を可愛く思っているというより、可哀そうに思っていて、頼られる喜びが随所に書かれていた。妹に優しい良い姉であるという評価をされたことが、ことさら喜びのように描かれていたのだ。一見すると妹思いの少女とも取れたが、深く読み込んでみると、周囲の評価に喜びを感じていることに嫌でも気づかされた。決して妹を嫌っているわけではなかったのだろうが、その真意が今一つ見えないのだ。自分に酔っているとも取れる記述は、読んでいてあまり気持ちの良いものではなかった。

「こんな形で片づけたくないですわね!」
「どうなさいました?」
 黒い影の正体が死んだメリアであるとはっきりしてから、メリアが残した言葉の真意を、その本性を探るべく、マニフィカ・ストラサローネはアンナ・ラクシミリアに協力を仰いで学園の図書館で資料をいろいろとあさっていた。本を放り投げてからおもむろに拾い上げ、片そうとしていたアンナに、マニフィカが手を差し出した。アンナは片そうとしていた本を手渡しながらイライラと眉をひそめた。
「代理ミュンヒハウゼン症候群、ですか」
「メリアがミルカを愛していたのは真実ですわ。こんなまやかしの病気であったはずなどありません」
「これはわたくしも気になってましたわ。先日のメリアの言葉から考えると……可能性は高いですわよね」
「ミルカさんはきっと重い病だったのですわ。メリアさんはきっとご両親からそれを聞かされていらした。メリアさんも幼い子どもだったでしょうから、それを受け止めるのはつらいことだったでしょう。けれど乗り越え、妹に別れの日までの精一杯の愛情を注いでいらした。その努力を考えると胸が痛みますわ。けれど、なんとかご自分を納得させようとして、それでその先の未来を見据えていらしたのでしょう」
 アンナはとても悲しそうに、それでも毅然とした表情でマニフィカに訴えかけた。
「メリアさんが学ばれていらしたのは介護福祉のことです。誰もが医者になれるわけではありませんし、もしかしたらミルカさんは先端技術を持つこの世界の医療でも治せない病気であった可能性もあります。悲しいことではありますが、愛する者との別れは、決して避けては通れないものです。大切な家族であっても、死は平等に訪れる……。ミルカさんとの別れが近くて避けられないとわかっていたから、その後を考えて勉強していたのだとは考えられません?それが突然逆の形になったら混乱もしますわ」
「そう、でしょうか……」
 アンナの意見にも頷けるものはあったが、マニフィカにはぬぐえない違和感が残った。むしろ代理ミュンヒハウゼン症候群であったという方が、筋が通っている気がしたのだ。なぜなら、本当にミルカが明日をも知れない病気を抱えていたならば、今、この学園にいられるはずがなかったからだ。いまだに学校にも通えず、治療を続けていたのではないか。姉の病に気付いた親が、二人を引き離すためにメリアを学園に入れたのだとしたら。
「その代理ミュンヒハウゼン症候群ってのはどういうものなんだ?」
 やってきたのはメリアの日記を携えたアルトゥールだった。マニフィカは簡単に症状を説明した。
「ミュンヒハウゼン症候群というものがもともとありまして、これは自傷行為によって周囲の関心を自分に引き寄せるといったものなのですが、代理ミュンヒハウゼン症候群の場合、害する相手が自分ではなく代理の存在、他者であるのが特徴なのですわ。多くは母親の自分の子供に対する虐待なのですが、殺意があったりとかではなく、病気の我が子を献身的に守り支える自分という位置づけを得る、認めてほしいという承認欲求を満たそうという、精神症状なのです。この場合、治療が必要なのは病気の庇護者ではなく、面倒を見ている保護者なんですの」
「承認欲求ねえ。それがこの日記に感じる違和感なのかな」
「それは?」
「ミルカが形見として持っていたメリアの日記なんだけど」
 その中身をマニフィカも読ませてもらって、メリアの闇への確信を益々深めた。
 そんなやり取りをよそに、アンナが握りこぶしで断言した。
「順番が逆になったとしても、別れは別れ。この世での別れなど一時のものにすぎません。早いか遅いか、どちらが先かなどの違いはあっても、いずれはあの世、ミルカの言う浄土で再会するのですから。それを納得するための儀式がパラミッタなのでしょう。その日を夢見て、メリアには成仏していただきましょう。ミルカの好きなメリアのままで」
 アンナの言葉を聞いてマニフィカがはっとした顔になった。

 ぐわっと風の塊が打ち付けてきたが、その程度で倒れるほどジュディ・バーガーはやわではなかった。気配を感じてゴースト・ブレーカーを発動させ、メリアの霊を撃退する。メリアはなにやら恨み言を言っていたようだが、ジュディは表向き意に介せずベッドで身を起こして震えていたミルカに近づくと、その頭を優しく撫でた。
「ウン、ご飯はチャンと食べられたようデスね」
「ジュディさん、今のは……」
「消し去ってはいないネ。成仏シテ欲しいのがミルカの望みだものネ」
「そう、だけど……ジュディさんに何かあったら」
 これまで大勢の友達が巻き込まれ怪我を負っていただけに、ミルカはボディガードと称してかいがいしく自分の世話を焼いてくれるジュディの心配をしていた。ジュディはミルカをそっと横たわせると、軽くウインクしながら握りこぶしを突き出した。
「大丈夫!ジュディはあの程度でケガするほどか弱くないのデス。見てわかるデショウ?」
 と陽気にあれこれポーズをとってみせた。ジュディのダイナマイトバディが力強く動き回る。その頼もしさにミルカがクスッと笑った。久しぶりの笑顔にジュディも嬉しそうに笑った。くしゃっと頭をもう一度撫でて、眠るようにうながした。
「消し去ってはいないケド、力はだいぶんそいだカラ、今夜はもう何も起こせないハズ。安心して眠るデスヨ。パラミッタには参加したいのデショウ?起き上がれるヨウに、ならないとネ」
「はい、おやすみなさい」
「オヤスミナサイ。ヨイ夢を」
 ミルカの規則正しい寝息が聞こえるのを確認してから、ジュディはそっと灯りを消して部屋から出た。
 ジュディのゴースト・ブレーカーは力の弱い霊体なら消し去ってしまえるほど強力な技だったが、それでも消し去れないほどメリアの霊は強力になっていた。先刻の現象も、頑丈なジュディだったから対応できたのだ。その事実にジュディはそっとため息をついた。
 そしてやってきたのは探偵部の部室だった。マニフィカと待ち合わせをしていたのだ。影の正体がメリアであることはジュディも理解していたが、なぜ襲ってくるのかがわからなくてマニフィカから調査結果を聞こうと思っていたのだ。そして話を聞いて、悲しみに拳を震わせた。
「ガッデム!本当に酷い話デス……」
 マニフィカも顔を曇らせていた。
「代理ミュンヒハウゼン症候群は故意の虐待ではなく、精神的な病ですわ。きっかけは今となってはわかりようもありませんが、アンナの言うように、ミルカさんが重篤な病だったから世話をすることで自分を納得させようとしていたのかもしれませんわね。今こうして学園生活を送れているのですから、実際には治るものだったのでしょうけれど。それを認められたくなかったのかもしれませんわね。お姉ちゃんだから、丈夫だから、と抑圧されることはあったでしょうし」
「ミルカに……伝えるベキでしょうか」
 そうでなくても弱っているミルカに伝えるには、それはあまりに重い真実だった。せっかく元気になって学園生活を送れていたのに、大好きな姉が実は自分を虐待していたなど、到底受け入れられるものではないだろう。幼子と言っていいミルカにすっかり母性本能を刺激されていたジュディは、困ったようにマニフィカを見た。マニフィカはそんなジュディにきっぱりと言った。
「部長たちとも相談したのですが、やはり今は真実を告げるべきではないと思いますわ。ミルカが、そしてメリアが望んでいる形はそうではないでしょう。アンナが言っておりましたの。ミルカの好きなメリアのままで成仏させた方が良いと。それは自分を愛し守ってくれた優しい姉ということです。その姿はメリアが望んでいた己の姿でもあったはず。仲の良い姉妹として別れをさせてあげた方が良いでしょうね」
「そうですネ。ジュディの故郷にも、真実ほど人を傷つけるものはない、という言葉がありマス。ミルカには強くなって欲しいケド、心の傷は乗り越えられるほどデナイと。知るには早すぎネ。で、ドウするつもりなのデスか」
「ミルカの望む姿と、メリアの望みが同じならば……」
 メリアの望みは他者からの肯定。良い子であると認められること。死んでしまったことでその望みは叶えられなくなってしまった。しかもそのための手段であった妹には自分以外のものが愛を注いでいる。精神体となったメリアにはその不快な思いを浄化する術がなかった。行き場のなくなった負の感情が、だから暴れくるっているのだろう。ならば望みを満たしてやればよいのだ。そして満足してもらって、パラミッタの儀式で成仏してもらえばいいだろう。
 マニフィカとジュディは、互いに力強く頷きあった。

 そして儀式の日は訪れた。とくに方角とかは関係ないということだったので、猫間隆紋は貸し切りにした体育館の1つに祭壇を作ることにした。テオドール・レンツが花屋が持ってきた花をせっせと運び入れては白木の壇に飾り付けていた。
「わぁ、すごい」
「あ、ミルカちゃん。このお花でいいんだよね?」
「うん、そう。うちの近所にたくさん咲いていて、お姉ちゃんが良く持ってきてくれたの」
 ジュディに支えられながらやってきたミルカが、テオの持っていた花を見て顔をほころばせた。猫先生がハニャハ家に聞いて花壇で育てているという花を用意させたのだ。懐かしそうに花を見つめるミルカに、テオがささっと花冠を作って渡してくれた。。
「ミルカちゃん、どうぞ〜」
「ありがとう。お姉ちゃんもこうして花冠を作ってくれたっけな……」
 壇上には花に埋もれるようにメリアの遺影が置かれていた。その優しい笑顔を見て、ミルカがそっと涙をぬぐった。テオはミルカに抱き上げられると、花冠を頭に乗せてやりながらふと首をかしげた。
「ねえねえ、ミルカちゃん。メリアちゃんは火葬されたの?」
「え?うん、そうだけど。私は熱を出してしまってお葬式には参加できなかったのだけど、思い出の品とかと一緒に煙になったって聞いたよ」
「そっか〜。火葬のところってやっぱりそうなんだ。ママも火葬だったら、ボクも一緒に焼いてもらえたのかな」
 なにげなく不穏なことを言われてメリアがぎょっとする。テオはそんなメリアに、自分の生まれを淡々と話した。
「ボクはママがボクを一杯愛してくれたから動けるようになったぬいぐるみなんだ。火葬の国じゃなかったから一緒に燃やしてもらえなかったけれど、きっとね、ママもボクを置いていったりしたくなかったと思うの。だって一人は淋しいものね。メリアちゃんもそうなんじゃないかなぁ」
「お姉ちゃん?」
 今度はミルカが首を傾げた。テオはつぶらな瞳でミルカを見つめながらうんうんとうなずいた。
「きっとメリアちゃんはミルカちゃんを一等愛していたと思うの。だから置いていくのは辛かったんじゃないかなぁって。ボクには心がないからよくわからないけどね。でもミルカちゃんを連れて行きたがっているのってそういうことじゃないのかしら」
「愛していたから……」
「でも、行く日が来たら行かないとね。それは仕方がないことだもの」
 あっさり言われて、ミルカが少し困った顔になった。
「ママと一緒に燃やしてもらうことはできなかったけれど、ううん、だからこそボクは動けるようになったんだけど。ママね、生きているときボクと一緒にいて少しほっとした感じだったの。だからボクはここにいていいんだって思ってるし、ミルカちゃんもきっとそうだよ。だからメリアちゃんをきれいに送ってあげようねぇ」
「そうだね……」
 それからミルカはテオと一緒になって祭壇を仕上げていった。たくさんの花に囲まれたメリアの笑顔。それは確かにミルカの記憶に残っている優しい姉の姿と同じだった。最初は少しおどおどしていたミルカだったが、穏やかなテオと話しながら花を飾っているうちに、あれこれと思い出話など語りだした。ベッドに縛り付けられて淋しかった自分にとって、優しい姉の存在がいかに大切であったかを。思い出がよみがえるたびに、テオが言った「きれいに送る」という気持ちも強まっていった。
 ジュディやマニフィカはそんなミルカの様子を微笑ましく、また内心では痛ましく見ていたが、その表情がはっと変わった。
 突如体育館の中が寒くなり、冷たい風がどこからともなく吹いてきたのだ。飾られた花がバサバサと揺れる。メリアがテオを抱きしめて真っ青な顔で座り込んだ。ジュディがすかさず駆け寄りその体を支えた。祭壇の遺影から黒い影が立ち上り、憎しみにこわばったメリアの顔を形どる。ジュディがミルカを抱え上げて下がると、猫先生とマニフィカが前に進み出た。メリアの霊はその2人を追い払おうというのか、口から呪いの言葉を吐き出してきた。
「ふむ、それは効かないな」
 猫先生は事前に祭壇に呪符を仕掛けておいたのだ。悪霊退治の腕を試したい気持ちもあったのだが、マニフィカからやりたいことをあらかじめ聞いていたので、結界としてメリアの霊を祭壇にとどまらせるための符だった。メリアの霊が言霊を発しようとしたのだが、それを封じるのは猫先生にとっては何の造作もないことだった。メリアの動きが封じられたことを察知して、マニフィカが二頭の守護犬「阿」と「吽」を呼び出した。マニフィカは彼らに、メリアの霊から邪気を払ってくれるよう祈りをささげた。神聖な咆哮が響き、メリアは黒い姿から生前と変わらない姿へと変化した。
「うむ、邪気はなくなったようだな。いいか、よく聞け。ミルカ殿はおまえに成仏してほしいそうだから、無理に払うことはせぬ。それで……おまえは、何が望みだったのだ」
『私の、望み……?』
 身動きが取れなくなっていたメリアが動揺を見せる。マニフィカがばっと魔術書を開いて、己を精神体へと変換させた。ふわりと浮き上がったマニフィカが、メリアに向かって手を差し伸べる。
『ミルカは今でもあなたを優しい姉と慕い、心の支えとしていらっしゃいますわ。わたくしもあなたは良き姉だったと思っておりますの。妹をこよなく愛するその姿は美しいものですわ。わたくしは尊敬いたします』
ね 『私……尊敬されているの?ミルカを愛していると思われているの?』
「違うのか?おまえにとって、そういうことが価値あるものだったのだろう?でなければミルカ殿にとって「優しいお姉ちゃん」であり続けられたはずもあるまい。さあ、行くべき場所は分かるであろう。メリア、貴殿はどのようにありたかったのだ。これが最後だ。貴殿はどうしたい、どうありたい?」
『ミルカの気持ちをわたくしが伝えましょう。心の声が聞こえませんか?』
「お姉ちゃん!」
 マニフィカは片手をミルカに差し伸べ、もう片方の手をメリアに差し伸べた。その体を通して、ミルカの精一杯の感謝と愛情と、清らかに成仏して欲しいという願いがメリアに流れ込んだ。その一途な願いに、メリアの体が打ち震えた。
『ミルカ……あなたは私に逝って欲しいのね』
「本当はそれは淋しい。でも、このまま悪霊となって皆に嫌われるお姉ちゃんになって欲しくない。お姉ちゃんが大好きだから。本当よ?今までありがとう、大好き、ずっと忘れない。私の命はお姉ちゃんに守られていた。そのことを一生忘れないから」
『ミルカ、私が必要だった?』
「もちろん!魂は浄土に行っても、お姉ちゃんの優しさはきっとこれからも私の支えになるよ」
『本当に愛されていますのね』
 途端にメリアの体が光り出した。それを確認してマニフィカが実体へと戻る。猫先生が天井を指さした。
「あの光が見えるか」
『ええ、暖かい……迎えが来たのね』
 柔らかく微笑んだメリアが、天に向かって手を差し伸べる。冷たく冷えていた空気が暖かな気配に包まれる。猫先生が符を解呪すると、メリアはすうっと上昇し始めた。その姿は明るい光に包まれて次第に薄くなっていった。ミルカが大きく手を振りながら叫んだ。
「お姉ちゃん、本当に、本当にありがとう!私のお姉ちゃんに生まれてくれてありがとう!」
 光に溶け消えてしまう間際、メリアは慈母のような笑みをミルカに向けた。

 その後、ハニャハ家の親族も集まって、パラミッタの儀式は何事もなかったかのようにつつがなく進んでいった。
 ミルカをめぐる不可思議な現象もぴたりと止み、ミルカの体調も次第に落ち着いてきた。
 こぽこぽこぽ。アメリア・ロッシュが淹れた紅茶が、芳しい香りを部屋に広がらせた。ミルカは嬉しそうに笑った。
「良い香り」
「ありがとぉ。少しは落ち着いた?」
「うん。まだちょっと淋しいけど、お姉ちゃんはきっとあの世から私を見守っていてくれるんだよね。そう思うと元気が出てくるの」
 机の上には姉妹が笑顔で写っている写真が飾られていた。アメリアはその写真を手に取り、目を細めた。
「うん、きっとねぇ。それにミルカにはほかにもたくさんの友達ができたでしょぉ?淋しくないよねぇ」
 ばたばたばたと飛び込んできたのはジュディだ。やかましくしたことをその後ろからマニフィカに叱られていた。その隙間をぬって部屋に入り込んできたのはテオだ。そしてわいわいとおしゃべりが始まった。
「そぉだ、今度はピクニックに行こうよぉ。私、お料理も得意なのよぉ。そのときはアルトゥールも誘っていいかなぁ?女子寮に入れるわけにはいかないけど、アルトゥールも友達になりたいってぇ」
「嬉しい、楽しみだなぁ」
「これから学園生活をいっぱい楽しもうねぇ。ミルカは1人じゃないのぉ。だから大丈夫!」
「うん!」
 ミルカの明るい笑顔は、周りをも照らす光にように輝いていた。