「心いろいろ〜孤高の少女〜」

−第3回−

ゲームマスター:高村志生子

学内新聞より。
「校内で多発している超常現象につきまして。これまでの調査の結果、それらは未開発の能力者によって召還された異世界の存在によって引き起こされていることが判明いたしました。現在のところその能力者は、自らの力をコントロールできないでいるため、異界の住人たちもこの世界で暴走しているものと思われます。事態の沈静に必要なものは件の能力者が自分の力を制御できるようになることですが、異界の住人たちはその前にその能力者を自分たちの仲間にしようと狙ってきております。そのために引き起こされるであろう現象は予測できておりません。緊急事態にそなえ、至急の研究チームが結成されました。中心となっているのはミナ・ガウ先生です。某所よりの情報によって、ガウ先生にもなんらかの能力が備わっていることがわかっています。それが事態打開の要になるものと判断されました」
文責探偵部副部長レイミー・パッカート

「と、まあこんなところでどうでしょう」
 レイミーが下書きを見せてディスに尋ねた。ディスはざっと目を通してから、ミナのことを思い出してにやついた。とたんにレイミーが冷たく言った。
「思い出し笑いはスケベ心と比例しているそうですが」
「失敬な」
 こほんと咳払いして表情を引き締める。原稿をレイミーに返しながら話した。
「でも見せてやりたかったよ。あの女丈夫のうろたえた姿は。ま、それはそうとして、詩歩嬢の能力研究はどうなっているかな。ちょっと情報を集めに行ってくるよ」
「はい行ってらっしゃい」
 部室からつれなく追い出されて、ディスが肩をすくめた。
 詩歩は己の能力についてはうすうす感づいていたのか、それにはあまり驚きはなかったが、両親の霊が身の回りにいることにはたいへん驚いていた。休みの日に部屋でレポートを仕上げていた詩歩のもとに訪れていたのはテオドール・レンツだ。テオドールは1ザイルコインを抱えながら言った。
「あのね、聞いた話なんだけど、詩歩ちゃんのお父さんとお母さんは、詩歩ちゃんがまだ小さいからなんにも話さなかったんだって。本当はなにを伝えたかったのかなぁ……小さすぎるなんて言わずに、話しておいてくれたらよかったのにね。そのときわからなくても、大きくなってからわかるようになってたかもしれないもんね」
「そう……そうね。私ももっといろいろなこと、知りたかった……」
「でね、今なら詩歩ちゃんだってたくさんのことが理解できるでしょ?だからなんとかして詩歩ちゃんのパパやママが伝えたかったことを聞き出そうと思うんだ。詩歩ちゃんの側にパパたちがいるって言うから、霊おろしをすればいいんだよ。ボクたちにもできるやり方、教わってきたんだ。みんなも手伝ってくれるよね?」
 振り返った先には、詩歩のことを気にしてばたんと飛び込んできたミルル・エクステリアがいた。いささか乱暴なふるまいに、同室者がいないのをいいことにちゃっかりルームメイトの座を確保していた梨須野ちとせが、陣取っていた詩歩の肩から転がり落ちた。詩歩が慌てて受け止める。ちとせは眉をひそめて「乱暴ですわね」と小言を言った。
「ごめん、ごめん。ちょっと勢い余っちゃった。気をつけるね。で、なに、何しようとしていたの?」
 ミルルの後ろにはレイシェン・イシアーファもいた。2人は部屋に入ると、テオドールから交霊術の話を聞かされた。
「このコインを使うの?」
「そう、紙も用意したよ。やり方はこう……簡単でしょ?」
 いろいろ文字やら数字やらが書かれた紙をテオドールが取り出す。レイシェンが受け取ってしげしげと眺めている脇で、テオドールが話を進めていた。
「詩歩ちゃんの能力について話を聞いたあとは、詩歩ちゃんにはたくさんの仲間がいるから大丈夫、安心してって伝えられたらなぁって思っているんだ」
「……それはいいな。うん、詩歩は大切な友達だから。奴らの思うようにはさせない」
 レイシェンのかたわらで、精霊のティエラが「友達ねえ」とぼやいていた。詩歩が不思議そうに問いかけてきた。
「思うようにって……まだなにか、あるの?」
 身を乗り出したのはミルルだ。早口で詩歩の召還者としての能力のことや、暴走して怪異を引き起こしている異世界の住人たちが、詩歩を自分たちの世界に連れ去ろうとしていることを話す。最後に、あまり驚きもなく聞いていた詩歩の肩をがしっと掴むと、真剣な表情で問いただした。
「詩歩は奴らがあなたを連れて行こうとしていること、どう思う?」
「どうって……。そうね……そうなれば……」
 ふっと視線を泳がせて言葉を濁す。言いよどんだ先を察知して、ミルルがはぁっと息を吐いた。
「あたし的には?せっかくできた友達だもの、帰ってこられるかわからないような世界になんか行って欲しくないんだけど。そりゃ最終的に決めるのは詩歩だけどさ」
「そんなのだめに決まってますわ!これだけ詩歩さんを傷つけておいて、それで仲間になんて虫が良すぎますもの。私は絶対に反対です。詩歩さんも納得したりなさらないで」
 詩歩の手の上でちとせがぷりぷり怒る。レイシェンが紙を机に置きながら言った。
「詩歩が……自分の能力を、ちゃんとコントロールできるようになれば、そんなことにはならない。変な現象もおさまる。……怖がらなくても、大丈夫。あいつらも、詩歩のことが好きで、一緒にいたいから連れて行こうとしているだけ。だから、詩歩があいつらの気持ちを理解して、きちんと話すことが出来れば、あいつらもわかってくれる。詩歩の能力は……そのためにあるんだと思う」
 詩歩が軽く目をみはった。レイシェンはティエラの頭を撫でながらぼそぼそと自分の経験を話した。同じように自分の能力をコントロールできなくて苦しんだ経験を。そしてそれを、見守っていてくれた両親や契約してくれたティエラのおかげで乗り越えてきたことを。詩歩は黙って聞いていたが、その顔からはあきらめのような色が、わずかにだが薄れたような感じがあった。
「だいたいどんな生き物も、自分で理解できないものには過敏反応するもんじゃ」
 ひょっこり会話に加わってきたのはエルンスト・ハウアーだ。エルンストは詩歩に1冊の本を手渡した。それはエルンストが授業で使っている魔術理論の参考書だった。
「詩歩君。だいたいが魔術の禁忌の多くはじゃのう、自分の常識と違った未知のものにたいする恐怖心に基づくものなんじゃ。そこに術者の思い込みや技量に頼った行使が加わって完成じゃ。じゃからまずは調べてみるんじゃ。そして己のこと、これまでの現象のことを知りたまえ。正体がわかれば案外たいしたことではなかったなんてことも往々にしてあるもんじゃぞ。まあ、まずはその参考書でも読んでみたまえ」
 それから周囲を見回してにやりとした。
「ほれ、ガウ先生を見てみたまえ。詩歩君が無意識に呼び出した魔物にはあれだけぎゃーぎゃー騒ぐくせに、世間一般的な分類からすると幽霊の類に入るワシを、見た目が理解できないものではないからと言うだけで、教師仲間として受け入れてしまっているんじゃぞ。世の中そんなもんじゃ」
 確かに反生命と言う意味においては、アンデッドのエルンストは幽霊と同義と言えるだろう。だがミナは確かに教師仲間として普通に付き合っている。それはエルンストが見た目は普通の人間と変わらないからだ。おかげでエルンストの言葉には妙な説得力があった。
「詩歩君の周りで怪異を引き起こしているのは、みんなに迷惑をかける何かではなく、未知の生命体なんじゃ。未知でなくなれば恐怖もなくなるもんじゃろうて」
「そう、そうですわね」
 ぐっと握りこぶしを握ってちとせが同意する。ちとせは自分のサイズでは交霊術の役には立たないからと部屋を出て行った。エルンストも用件を済ませて満足したのか、ふぉふぉふぉと言う笑い声を残しながら去っていった。入れ替わりに入ってきたのはアリューシャ・カプラートだ。あたりを警戒しながらアルヴァート・シルバーフェーダが付き添っている。アリューシャは甘い香りのお菓子を持参していた。それを、参考書をぱらぱらとめくっていた詩歩に笑って差し出した。
「部活でカスタードのカップケーキを作ったんですのよ。詩歩さん、お好きかしらと思って持ってまいりましたの。いかがです?」
 甘い香りに詩歩が微笑みを浮かべた。受け取ってもらえてアリューシャも嬉しそうに笑う。アルヴァートだけがむすっとしていた。アリューシャは机の上の紙切れや参考書を見て首をかしげた。テオドールが交霊術のことを話す。アリューシャはにこにこしながら聞いていた。
「それはいい考えですわね。ご両親の霊はだいぶんお力が少ないそうですから、うまくお話ができるといいのですけれど」
「そうだねー。詩歩が自分を守れるようになったら、安心するって聞いたんだ。その方法が見つかるといいんだけど」
 ミルルがよく自分がやってもらうようにぽんぽんと詩歩の頭を叩くと、詩歩が目を上げてミルルを見た。
「ミルルさん、詳しいのね。それに……とても優しい。前に言っていた、仲間がいるから……?」
 ミルルは照れて真っ赤になった。けれど嬉しそうでもあった。
「うん、そうだよ!詩歩にもそういう仲間がいるんだよ。だからあきらめたりしないでね」
「あきらめるって、どういうことですの」
 手早くカップケーキを配っていたアリューシャが眉をひそめる。詩歩はいささか居心地悪そうにし、ミルルは憤然と詩歩が異世界に行く気満々でいることを伝えた。アリューシャが切なそうな顔で詩歩を抱きしめた。
「彼らの世界に興味があって行きたいというのであれば、とめだてすることはできませんわ。けれど、みんなに迷惑をかけたくないから行くのでしたら、そんなことはやめてくださいませ。それはなんの解決にもなりませんもの。詩歩さんが心理学の勉強をなさっているのは、ご両親の遺志を受け継ぎたい気持ちもあるでしょうけれど、なにより詩歩さんが、人に対する興味と愛情を持っていらっしゃるからでしょう。誰も傷つけたくないと思っていらっしゃるのでしたら、今までのように他人と距離を置くのではなく、その原因となるものに立ち向かうべきではありませんの」
 抱きしめる腕に力を込めながらアリューシャは言い募った。
「わたしたちはあなたを失いたくありませんの。それに、自分たちの目的のためになりふりかまわず他者を害するような異世界の存在などには渡したくありませんわ。守りたいんですのよ、あなたを」
 それまで黙っていたアルヴァートも、厳しい表情で口を開いた。
「そりゃ、頼まれてやっていることじゃない。こっちのおせっかいだといわれたらそれまでだ。でもな……このまま自分の殻に閉じこもって終わらせる気か?そんな真似は俺は認めねぇぞ!小さい頃からずっと、あんな連中に言いように引っ掻き回されて、人生めちゃくちゃにされているんだぜ、悔しくはないのか?腹は立たないのか!?あの連中を何とかして、好きなときに好きなように友達と会って笑ったりしたいとは思わないか」
 詩歩はそれを聞いてぽろぽろと涙を流した。アリューシャがそっと頭を撫でると、詩歩はしゃくりあげながらアリューシャに頭を預けた。
「彼らも……暖かいけれど……こうして触れてはもらえなかった。優しい言葉もないね……。私が力をコントロールできるようになれば、大丈夫って……本当?できる、かな……」
「大丈夫。おれも、最初は怖かった。でも、できるようになった。詩歩も、だから大丈夫」
「そうそう、1人じゃないんだから!」
「そうですわ。安心してくださいませ。ご両親だって見守っていらっしゃるのですし」
 口々に言われてようやく安心したのか、詩歩が身を起こして涙をぬぐった。
「お父様やお母様が、安心して眠れるようにならなくちゃ、いけないね。彼らが本当は優しいんだってことも、わかってもらいたい……それは、私にしか、できない……のよね?」
 最愛の恋人を傷つけた生き物を、間違っても優しいとか思いたくないアルヴァートだったが、詩歩の、というより詩歩を気遣うアリューシャの手前、こみ上げてくる感情をぐっとこらえて言葉を発した。
「オレの魔曲は勇気を振り絞らせることはできるけど、ない勇気を出させることは出来ない。最初の一歩は本人に振り絞ってもらわなきゃならないんだよ。できるね?」
「うん……がんばる。彼らのためにも……みんなのためにも……」
 まだどこか異世界に心を置いているかのような言い方に少しかちんときたアルヴァートだったが、「アリューシャが見ているんだし」と心でつぶやいて詩歩の背中をパンと叩いた。
「その調子だ。詩歩がこういう能力を持ったのは運命かもしれない。その運命に負けるな。戦えよ!」
「そうね……」
 詩歩はじっと机の上の紙を見つめた。アリューシャが「お疲れ様」とささやきながら、カップケーキをアルヴァートの口にそっと放り込んだ。甘い香りと柔らかな指の感触、優しい笑顔にささくれ立っていた心が少し静まる。詩歩が立ち上がってお茶をみんなに振舞った。しばし和やかな時間が流れた後、椅子に乗ったテオドールの指示のもと、広げた紙の中心におかれたコインにそれぞれが指を乗せる。教えられたまじないを唱えていると、コインがすすすっと動き始めた。
「わっ、動いた」
「しぃっ!答えてください。あなたは詩歩ちゃんのご両親ですか?」
 コインがしばらくうろうろと紙の上をさまよう。やがてついっと動いて、ハイとかいてある文字の上で止まった。テオドールは慎重に言葉を選んで質問を繰り出した。それは主に詩歩の能力についてだった。一文字一文字動いていくので、細かいディティールの回答が返ってこない。それでも根気よく質問を繰り返しているうちに、ある程度のことはわかってきた。やはり月の魔力と深い関係があるらしい。月光を浴びることによって詩歩の能力は発動し、ある異世界との通路が開かれるらしい。通路の大きさは月齢と関係しているらしかった。また詩歩の能力が不安定なため、異世界の住人たちの能力も不安定になり、様々な怪奇現象が引き起こされているらしかった。
 そこまで聞き出すのにやたらと時間がかかり、術者たちにも疲労が見え始めた。ちんたらしたことが嫌いなミルルが、最初に苛立って声を荒げた。
「あーっ、もうめんどくさいなぁ!」
 指を離しかけてテオドールに注意される。コインは不安げにぐるぐると円を描いた。ミルルがうーっとうなっていると、部屋にミズキ・シャモンが入ってきた。交霊の成功で、ミズキには詩歩の両親の姿がはっきりと見えた。ミズキはすかさず式神用の呪符を取り出すと投げつけた。呪符はまっすぐに空を飛んで霊体に吸い込まれていった。むくむくと呪符が形を変えて男女の姿をとる。現れた姿に詩歩がしがみついた。
「お父様、お母様!会いたかった……!」
「ふむ、まずは成功のようですね。その呪符には強力な幽体が乗り移っていますので、ある程度自由に動けるでしょう。話せますか?」
 男の方が軽く頭を下げた。
「ありがとう。またこの子と話せるようになるとは思わなかったよ」
「礼はけっこうでございますわ。わたしは知りたいことがあったからこうしたまでなのですから」
 思いがけない展開に詩歩以外の一同が固まっているのを尻目に、ミズキが矢継ぎ早に質問を繰り出した。学会で発表されたものについてはすでに調べつくしていた。その中には詩歩を連想されるような物はなかった。意図的に隠していたとしかミズキには思えなかった。娘を守るために。だから質問は、かなりプライベートに踏み込んだものまで含まれていた。式神となっていた毅たちには、ミズキの意志に逆らうことは出来なかった。
 暖かな存在は毅たちも感じていたらしい。とても美しい満月の晩に詩歩が生まれた瞬間から、それは感じられていた。ただ始めは異世界の存在によるものとは思っていなかったらしい。霊の存在の肯定派である2人は、子供が生まれた喜びから、単純に周囲にいる先祖霊か何かが一緒になって喜んでくれたものと思ったそうだ。
 それが変わってきたのは、不可思議な出来事が頻発するようになり、赤ん坊の詩歩がなにかに甘えるようなしぐさを見せるようになってからだった。最初に気づいたのは母親だった。出来事はそのほとんどが夜に起きる。ミルクを与える機会があった母親が真っ先に気づくのも当然だっただろう。寝付けなくてあやしていた際に、月光の中で不思議な影を見たのが決定打となった。そのとき、それが異世界の存在だと心が感じ取っていた。理屈では割り切れない。ただ存在に対する違和感が、霊ではなく異世界の住人だと知らしめたのだ。
 2人も恐怖は感じなかった。だが、学者として見たとき、娘の将来に不安を感じざるを得なかった。赤ん坊の頃から発現する能力が強大なものであることは疑う余地がない。娘がその能力に振り回されないか心配になったのだ。また異世界との接触が安全なものばかりではないことは、これまでのアットの歴史からも推察された。
 2人はそのため、研究テーマをそれまでの霊に関するものから異世界交流に関するものに切り替えていったのだ。将来的に安全に娘が己の能力と付き合っていけるように。自分の子供を研究するのはいささか気が引けたが、これも娘のためと割り切って研究を続けた。その結果、月の魔力と引力に力が大きく影響されることがわかった。ただ娘のことを隠して学界に発表していたのは、やはりさらし者にするようで嫌だったからだった。
「詩歩さんが能力をコントロールできる可能性につきましては?」
「異世界通路が不安定なのは、詩歩に自覚がなかったせいもあるでしょう。逆に言えば通路をなんらかの方法で安定させることが出来れば、能力をコントロールする手助けになるかもしれません。ガウさんの能力が役に立つといいのですが」
「むう、なるほど。そうですわね。しかしそれと同時に、詩歩さんが意識的に力を使えるようになればいいわけでもありますね。これまでそれは行ってなかったのでしょう」
「はい……精神的にまだ幼い娘では、難しいと思っていましたので」
「詩歩さんはそんなにか弱くはありませんよ。それにこちらの世界で強い絆を得ようとしている人たちもいます。それは手助けとなることでしょう」
「そうですね。万が一、詩歩が連れ去られても、その絆があれば呼び戻せるかもしれません。向こう側からも通路は開けるでしょうし。それに私たちもかけましょう」
 両親にしがみついていた詩歩の肩にそれぞれの手が置かれた。詩歩は安心したように顔をほころばせた。胸に下げた小袋にはもらった意志の実が入っていた。それがあれば仲間を呼ぶこともできるかもしれない。レイシェンの言ったとおり、異世界の住人ときちんと意思疎通が図れれば詩歩だけを連れ去ることもなくなるはずだ。それだけではない。その世界とアットが自由に行き来が出来るようになれば、アットにとっても有意義なものとなるだろう。詩歩の心から不安が薄れていった。
 式神となった詩歩の両親は、ある程度自由に行動できるようになったので、ミナのところに行くことになった。あちらの能力の研究も重要だったからだ。詩歩は詩歩で、仲間と能力の開発をすることになった。
 そのために動いたのはアメリア・イシアーファだった。能力発現には月が大きく関わっていることはわかっていたが、もっと正確に調べようとしていた。特定の条件下で事件が起きるか調べれば、それははっきりすると思っていた。
「雨の日にはこれまでも事件は起きていなかったんでしょぉ?それが本当か確かめてみたいんだぁ。逆に、月が出ているときに月光を浴びて、彼らが現れるか確かめてみない?大丈夫、詩歩のことはみんなで守るから。ね、アルトゥール」
 アルトゥール・ロッシュはアメリアに言われて大きくうなずいた。前向きになっていた詩歩は、迷うことなくその実験を快諾した。
 そしてとある雨の日、これまで事件が起きていた場所などをまわった一行は、なにも異変が起きないことを確認していた。詩歩によれば異世界の住人の気配も感じられないとのことだった。
「じゃあ、次は肝心の月がでている晩だねぇ」
 実験に同行していたシエラ・シルバーテイルは、謎の存在が霊ではないとわかって安心したのか、強気な表情で詩歩を振り返った。
「お化けじゃないなら、怖いことなんか全然ないんだからねっ。まったく脅かすんじゃないわよ、てやんでぇ、べらぼうめ」
 ちなみに詩歩の両親のことは内緒にしてあった。
「なぁんてね。ま、それはともかくとして。それなら彼?らを責めることはできないわよね。そうやってでしか存在を主張できないんだから。わたしたちは安定した扉から、この世界に留学して来れたけど、彼らはそうじゃないもんね。そんな風に限定的にしか干渉することが出来ないんだったら、さびしい、仲間が欲しいって思うのは仕方ないことだと思うのよ。で、詩歩はどうしたい?」
「どう……って?」
「向こうに行きたいって言うんなら止めないけどね。それがあなたが本当に望むことなら。でも、そうじゃないなら、向こうの世界にさびしんぼうが増えるだけ。解決にはならないわ。仲間が欲しいって気持ち、詩歩にもわかるでしょう?きっと、力だけじゃなくて、境遇的に通じるものがあると思ったからこそ、彼らは詩歩を仲間だと思っているんだろうし。その原因がどこにあるかは別として」
 詩歩はこくりとうなずいた。
「私は……向こうとこっちが、普通に行き来できるようになればいいと思う……。私がいなくなってしまったら、悲しんでくれる人がいるって、もうわかっているから」
「そうでしょ〜。だったら思い切って扉を開放しちゃおうね」
 アルトゥールが渋面になった。
「向こう側が危険な世界だったらどうするんだい」
 シエラは平然としていた。
「そもそもこの世界は、いつどんな世界と繋がるかわからないじゃない。そのために異世界交流を謳ったこのSアカデミアがあるんじゃないの?くさいものにふた的解決じゃあ、この学校がなんのためにあるのかわからないよね。とりあえず開けちゃって、それからどうするかは、詩歩一人に背負わせるものじゃなくて、みんなで考えることだよ。危険はみんなで回避!でしょ」
 明快な論理に反論が出来ない。アルトゥールが苦笑した。
「月夜の実験には政志も一緒の方がいいよねえ。政志にもきちんと詩歩の能力のこと、知ってもらいたいもん」
 その政志は、学食でいつものようにホウユウ・シャモンとランチを取っていた。
「ミズキの奴、わざわざ俺向けの授業をしやがるんだぜ。親父が昔やった戦術についてとか。まあ、周りには受けていたけど。ついでに育児のための本まで最近はもちこんできやがる。お前らを赤ん坊の頃から見守ってきたのは誰だと思っているんだ」
 文句を言いつつも、つい真面目に取り組んでしまうのだろう。その様子を思い浮かべて一緒に楽しくなりながら、政志はまあまあと軽くなだめていた。そこへアクア・エクステリアが現れて、なにやら封筒を渡して去っていった。楽しげな様子に一抹の不安を抱きつつ、封を開ける。それは懇親パーティーの招待状だった。
「なんだって?」
「詩歩と、対立している生徒たちとを集めて、月夜の晩に懇親パーティーを開きたいそうだよ」
 月夜の晩の懇親パーティーなど、事件を起こしてくださいと言わんばかりの状況だ。さしもの政志も困ったように顔を曇らせた。ホウユウは箸を振り回しながらさらりと言った。
「危惧していることはわかるさ。けど、兄妹や仲間を信じろ。大丈夫だ。詩歩は絶対の信頼を政志に寄せているし、最近じゃ仲間ともうまくやっているようじゃないか。守れるさ」
「だといいんだけど。あ、アメリア」
 やはり招待状を手にしたアメリアが政志のもとにやってきた。アメリアはちょうど月夜の晩の実験をするつもりでいたので、便乗したい旨を伝えた。詩歩も乗り気だと知って、政志はため息をつきつつ承諾した。
 アクアは学内を駆けずり回って詩歩と敵対する生徒たちに次々と招待状を渡していった。学内新聞でおおよそのことを知っていた生徒たちは、詩歩への反発を少し和らげていたが、それでも事件を警戒してパーティーにはためらいを見せていた。そこここに固まって相談を繰り返す。詩歩とちとせが現れると、話はぴたりと止んだ。詩歩も招待状を手にしていた。アメリアの意見も聞いていたので、参加する意志はあったが、生徒たちの反応が怖い気持ちも多分にあった。生徒たちの好奇の目にさらされると、思わず立ちすくんでしまった。ちとせは乗っていた肩から浮遊バスケットに乗り移ると、生徒たちの前にふよふよと近寄って行った。
「招待状はいただきまして?ぜひご参加くださいませんか。前のランチパーティーのときは、状況がわかっていなかったとはいえ、怖い思いをさせてしまい申し訳ありませんでした。まさかあんな事態になるとは……反省しておりますわ。けれど、あれでわかったこともございますのよ。事件を引き起こしているのが異世界の住人であることは、すでに皆様にもお分かりと思いますが、あれがもたらすのはどうやら「恐怖」という感情のようですわね。恐怖は心をすくませ、体をこわばらせますわ。それは、ある意味、自分に負けるようなものだと思いませんか?」
 生徒たちからざわめきがもれる。詩歩が思い切って一歩前に踏み出すと、ざわめきがぴたりと止んだ。気まずそうな生徒たちを奮起させるように、ちとせは努めて明るい口調で言った。
「自分のうちにあるものに対抗するのは容易ではありませんが、私は自分に負けたくありません。なんとしてもアレから詩歩さんを護りたいと思っています。皆さんはどうですか?皆さんの心は、もう折れてしまったのでしょうか」
 そこへおずおずと詩歩が言葉を添えた。
「何も起きない……保証はできないけれど……。新しい世界との交流が上手くいけば、もう変な事件も起きなくなるって言うから……。彼らも、ひどいばかりじゃないの。優しいところもあるの……。みんなに、それが伝わったらと思う。彼らにもたくさんの仲間が出来たら……暴走もしなくなるはず。お願い、協力して」
 精一杯の誠意を見せる詩歩に、生徒たちが動揺する。今まで沈黙を守ってきた詩歩が、協力を求めるのは予想外の反応だったのだ。再びざわめきが広がると、騒ぎを聞きつけたテネシー・ドーラーがやってきた。相変わらずの服装で、持っていた竹刀を向かい合っている詩歩たちの中心に突きつける。風紀をよりいっそう厳しく取り締まる気合入れにかけていた眼鏡が、日の光にきらりと輝いた。
「また騒いでいるのですか」
「喧嘩なんかしてねーよ」
「喧嘩でないというならなんなのです」
「いや、ちょっと……懇親パーティー出席の件で」
「懇親パーティですの?」
 差し出された招待状をながめてから、詩歩と生徒たちを見比べる。生徒の1人が、半ば投げやりに言った。
「よりにもよって、事件が起きる可能性が大きい月夜の晩にやるっていうんだ。それでどうしようかって話していたところさ」
「そんなの、でればよろしいではありませんの。異世界の住人が現れるならば好都合というもの。詩歩様が己の能力をコントロールできれば、暴走もないのでしょう?協力して差し上げればよろしいではありませんか。詩歩様は賛成なのでしょう?」
「うん……。ガウ先生も、出てくれるって聞いたから。いいかなって……」
「詩歩様を支えて差し上げれば、コントロールだってうまく行くと思うのですわ。対立してきたあなた方が協力するというのは大きな励みとなることでしょう。それともこのまま詩歩様を追い詰めますか?」
 ひゅうと風がなびいてテネシーの服のリボンをひらひらとさせる。テネシーは無表情に、今度は詩歩とちとせに目をやった。
「これまでの経緯がありますし、難しいことは承知の上でお誘い申し上げているのでしょう。よもや引き下がりはしませんわよね」
「そんなことしませんわ。こんなチャンス、そうそうありませんもの。お願いです、どうか詩歩さんを助けてあげてくださいませ」
「……どうしてそこまでするんだ?」
 低い声で問われて、ちとせはにっこり笑った。
「理由が必要でしょうか?それでしたら、そうしたいからとしか申し上げようがないのですけれど。友達ってそういうものでしょう?それに、私はみなさんとも仲良くなりたいんですのよ。嘘じゃありませんわ。友達は多い方がいいですもの。きちんと事が収まって、皆様とご一緒に遊びに行けたらと思います。もちろん詩歩さんも含めてね。それが願いですわ」
「まあ、変な事件に巻き込まれていなかったら、こうもこじれはしなかったのでしょうけれど。そもそも、この事件というのは、異世界の住人が詩歩様を連れ去るために引き起こしたものなのでしょう。詩歩様が孤立するように。ならば、逆手に取るのも良い方法ではございませんこと。いかがです?」
「逆手?」
「実は孤立してなどなく、大勢の仲間がいると思い知らせるのです」
「ああ、そりゃいい考えだな」
 政志と歩いていて通りがかったホウユウが口を挟んでくる。ホウユウは詩歩を政志の方に追いやりながら相手生徒たちと向き合った。
「お前たちは考えたことがあるか。自分が今の詩歩のような立場になったらどう思うかってことを。いくら異世界の存在があるからと言っても、この世界での友達もなく、孤独になってしまう気持ちを。理解してくれる存在がないって言うのはけっこう辛いもんだと俺は思うぞ。それに、せっかく仲良くなれると思った相手が、わけのわからないことで傷ついていくのを見るのもな。詩歩はその孤独にずっと耐えてきたんだ。ようやくその原因がわかったんだ。助けてやろうじゃないか。ん?それとも男らしく拳で語り合うか?」
 すっとファインティングポーズを取る。相手がぶるぶると首を振った。ホウユウはつまらなそうに構えをといた。
「わかったよ。やるだけやってみるか」
 政志に支えられていた詩歩がほっとした顔になる。生徒たちががやがやと立ち去ると、テネシーが詩歩にささやいた。
「わかっていますわね。いざと言うときは必ず呼んでくださいませね。すぐに駆けつけますから」
「うん……そうする……」
 詩歩は胸の意志の実をぎゅっと握り締めた。

 図書館で相変わらず調べものをしていたファリッド・エクステリアは、ご満悦と言った表情でやってきた妻を見て不思議そうに本を机に置いた。
「機嫌よさそうだね」
「例の懇親パーティーなんですけどぉ。思った以上に人数が集まりそうなんですよぉ。敵味方関係なく集まってくれるようで安心しましたぁ。これで異世界の住人が現れて暴れてくれたら、目的は達成したも同然ですねぇ」
「詩歩が自分の能力をコントロールするために、強制的に仲間を守らせるってあれか。アクアなら大丈夫だとは思うが、怪我にはじゅうぶん注意するんだぞ」
「多少の無茶は大目に見てくださいねぇ。派手にやらないと詩歩にもみんなにわからないでしょうから。ところでそちらは何か収穫がありましたかぁ?」
 張り切っているアクアとは裏腹に、ファリッドの表情は今ひとつさえなかった。詩歩の両親の論文を詳しく検証すれば、詩歩の能力の手がかりが必ず掴めると思っていたのだが、それらしきものは何一つでてこなかったのだ。せいぜいがすでに分かっている、月と異世界通路との関係くらいだった。詩歩の能力と月が深い関係にあることはわかっている。知りたかったのは能力の制御だについてだったが、そこまでわからなかったのか、隠していたのか、文献にはでてこなかったのだ。
「コントロールについてはわからなかったんだ。仕方がない。他の異世界との扉の開閉について調べておくか。なにかの役には立つだろう。召還魔法で詩歩に呼び出された魔物を強制退去させることができるかもしれないしな」
「退去させちゃうんですかぁ?」
「ぎりぎりまでアクアの作戦に乗るが、いざと言うときはおかえり願うのがいいだろう。被害が甚大すぎても今後困るだろうから」
「そうですねぇ。まあ、懇親パーティーのときに特撮研が余興をやってくれるそうですので、守りのほうは安心してください」
「期待する」
 そう言ってファリッドは新しい本に手を伸ばした。

 懇親パーティーにあわせて学園中を走り回っていたのは武神鈴だ。これまでの監視装置に加えて、屋上に月の観測装置を設置する。これは月の魔力なども計測できるものだった。それに付随して、流動的な月の力に合わせた特殊な結界装置を作り上げた。これはペンダント型の小さなもので、パーティーに参加する予定のトリスティアに渡すことにしていた。
「へえ、これが月の力をさえぎる結界発生装置?」
「気休めにしかならないかもしれないが、ないよりましだろう。連れて行かれるのはなんとしても阻止せねば。あいつにはここで学んで行ってもらわないとならないことが、まだまだたくさんあるんだ。勝手にいなくなられたら困る」
「ふうん、優しいんだ」
 トリスティアがペンダントをもてあそびながらからかうように言う。鈴はこほんと咳払いをして照れを隠した。
「一応、教師としては生徒の誘拐を放置しておくわけにはいかないからな。ただそれだけだ」
「はいはい」
「ああ、それからこれを」
 鈴はもう1つ、きらめくリングをトリスティアに渡した。
「なに、これ」
「できたらその異世界の住人を一体捕獲してもらいたい。それは投げると大きくなって次元断層を作り、その輪の中に入ったものを閉じ込める装置だ。やれるな?」
「いいけど……これって、詩歩に渡した方がいいんじゃない?」
「教師は生徒の問題に軽々しく口を出すもんじゃないからな……一歩引いたところから見ていればいい。……それに、今まで裏でばかり動いていた俺が、今さらどんな顔をして出て行けると……いや、これは俺らしくないな。忘れろ」
「気にすることないのに。先生の奇行……あわわ、言動にはみんな慣れていると思うんだけどな」
「余計なお世話だ。とにかく頼んだぞ。手慰みに作ったものだが、天才の俺が作ったものだ。それなりに効果があるはずだ」
「了解!」
 元気よく手を振ってトリスティアが去ると、鈴がふうとため息をついた。
「やるだけのことはやった。あとは事件が起きるのを待つだけか」
 自室のモニターには、相変わらず図書館のファリッドたちや、食堂でくつろいでいるホウユウや政志、懇親パーティーのことを話しているアメリアたちが映し出されていた。それから別の機械に行って、屋上の装置の様子を確かめる。状態は良好で、月の運行状況がグラフとなって画面にあらわれていた。
 鈴が学内に仕掛けたモニターは教員室も含まれていた。今そこに映っているのはジニアス・ギルツだ。ジニアスはミナの能力は思念波が関係していると考えて、思念波を研究している教員を捕まえてあれやこれやと質問しているところだった。
「ガウ先生の思念波?ああ!そりゃすばらしいよ。ぜひとも研究に協力してもらいたいところなんだけどねえ。ESPは持ってないようなんだけど、あの強力さは匹敵すると言っても過言じゃない」
「そんなにすごいんですか。だから異物をはじいてしまうのかな。霊体が近寄れないって本当ですかね」
「あら、それは本当よ。わたしのペットの仲間を近づけようとしたんだけど、ものの見事にはじかれちゃったわ」
 背後から口出ししてきたのは、ちょうど休憩していたルシエラ・アクティアだ。ジニアスが振り返ってルシエラに確認した。
「アクティア先生のペットって……幽霊でしたよね。その仲間?ってことはやっぱり幽霊?」
「そうよ。あの人、霊の存在は認めていないじゃない。だからゴーストを見せ付けて、認めさせようと思ったのだけど、見事に玉砕しちゃったの。無理やり近づいていたら散り散りになっていたでしょうね。レイスのほうは詩歩の両親に力を貸しているんだけど、って言うかシャモン先生にあの2人を式神化させるのに力を貸して欲しいって言われたんでそうしているんだけど、実体化して自由に動けるようになっても近づくのは嫌らしいわ。行こうとはしたらしいんだけど、だめだったんですって。実体化しているから消滅することはないでしょうけど、どうも感覚的に嫌らしいのよね。反発しちゃうみたい」
 ルシエラは白衣のポケットに片手を突っ込んでずずっとお茶をすすりながら、のんきにそんなことを話していた。ジニアスは考え込んでしまった。
「幽霊ははじいてしまうのか。その異世界の存在もそうなのかな。うーん、うまく接触させて検証できたらいいんだけどなぁ」
「それなら今度、月夜の晩に懇親パーティーを開くそうよ。これまでの状況からして、異世界の存在は必ず現れるはず。ディスが言っていたんだけど、それをつかまえる装置を武神先生が作っていたんですって。パーティーにはガウ先生も参加するそうだし、ちょうどいいんじゃない」
「へえ、そうなんですか。で、そのパーティーっていつなんですか」
「主催はアクアさんよ。聞いてみたら」
「そうします。ありがとうございました」
 さっそくアクアをつかまえてパーティーの招待状を手に入れる。それからジニアスはミナの研究室に向かった。
「事件の前と後とで変わったこと?」
「はい。詩歩の両親は異世界交流下での心理状態の変化について研究していました。ガウ先生や事件にあった生徒たちが詩歩を嫌うのって、その変化によるものじゃないかなと思ったんです。先生ご自身はなにか気づいたことはありませんか」
 問われてミナはしばらく考え込んでいた。そしてなにか思い当たったのか、ぽんとひとつ手をたたいた。
「そうね。少なくとも、事件が起きるまで持っていたはずの同情心とかはなくなったわね。教師だから特定の生徒を嫌うのは良くないとわかっていても、嫌という気持ちがどうしても湧き上がってしまうのよ。自分ではとめようがなかったわ。そして辛く当たっていたわね。みんなもそうじゃないかしら」
「そうやって孤立させて、この世界での関係を希薄にしていたのかな。向こうに行きやすいように」
「それは……ありえる話ね……」
 さすがのミナも納得せざるを得なかった。それだけ自身の心情の変化は、言われて見れば不自然だった。思念波の話も、研究への協力要請は以前からあったので、納得のいくものだった。
「ご自分では見えないから、霊に対しても否定的になれたんじゃないですか」
「どうやったら見えるようになるって言うのよ。はじいてしまうんでしょ」
「亡くなった詩歩の両親が、シャモン先生によって式神にされているらしいですよ。実体があるから先生とあっても消滅しないだろうって。詩歩の側にいるそうだから、きっと懇親パーティーにも現れますよ。顔は知っているんですよね。会えばわかるんじゃないですか」
「そうなの?それは興味深いわね。あたしを納得させられるものならさせてみせなさい」
 それでもまだ否定的信念は曲がっていないらしい。ミナは不敵に笑った。
「もー、かたくななんですから。ガウ先生にだって異物を排除する能力があるんでしょう。素敵な能力ですよね。素晴らしいですわ!わたくしもそんな能力、欲しいです。だってほこりやごみもきれいさっぱりって感じですもの。実際、先生のお部屋、素敵に片付いていらっしゃいますわ。お掃除のしがいがないくらい。うーん、どうせならワックスがけでもしてしまいましょうか」
 ぱたぱたと室内の掃除にいそしんでいたのはアンナ・ラクシミリアだ。大雑把に見えて、ミナは意外と整理好きらしい。本や教材もきちんと片付けられていて、掃除好きのアンナには物足りないくらいだった。さすがに細かいほこりまではどこからともなく進入してくるからとりきれないでいたが、それも大したことはない。まさかミナの能力がそういった方面に発揮されているわけではないだろうが、アンナはこだわらなかった。
 ミナが止めないのをいいことに、つるつるの床にワックスがけを始めていく。窓もぴかぴかに磨き上げられて、昼の日差しがまぶしいほどに入ってくる。満足するまで掃除しつくしてアンナができばえを眺めていると、猫間隆紋が入ってきた。隆紋は磨き上げられた室内にはあまり関心がないようで、まっすぐにミナのもとにやってきた。
「懇親パーティーの会場は交渉してきた。屋外でって言っていたらしいが、月明かりのよく入る実験室を借りることになったぞ。実験室なら準備室もついているからな。奴らが現れたらそこに逃げ込んでもらおう。捕らえる算段は講じておく」
「守ってくれるって言うわけ?どういう心境の変化かしら」
「いくら気が強いと言っても、ミナ殿とておなごにはかわりあるまい。おなごを守るのは男の役目。よろこんでやらせてもらおう。二言はない」
 臆面もなく言い切られて、ミナの方が照れてしまう。ほとんど恐怖政治に似た形で詩歩を攻撃していた身としては、こそばゆさすら感じられてしまう。かたくなだった心がほぐれていくようだった。隆紋はミナの照れなど意に介せず、手順を説明していった。パーティーの参加者は多い。準備はたいへんそうだったが、アンナやジニアスも快く協力を申し出てきた。
「しかし、奴らも上手く話してくれるかな」
 手順を聞いて渋い顔をしたのはリオル・イグリードだ。もともと、ミナに関わるのはあまり気が進まなかったのだ。しかし恋人のミルルのたっての頼みとあって、この場にやってきていた。今頃ミルルの方も詩歩の能力コントロールのため奔走している頃だろう。ミナの能力を使えば、うまくすれば暴走を止められるかもしれないとも聞いていた。
「ガウ先生の能力があれば、詩歩が連れ去られるのを阻止できるかもしれないことはわかっているし、詩歩も向こうに行くことは望んでいないそうだから、対話が出来て事態が解決できるならそれにこしたことはないけどね」
「それが出来るかは私たちの尽力しだいであろう。やる前から弱気になっていては、上手くいくものもいかなくなるぞ」
「誰も弱気になんかなってないさ。やれるだけのことはやる」
 隆紋の挑発に、表面は静かに、しかし気合を入れなおして乗ったリオルだった。
「ガウ先生は詩歩の能力の研究をしたいんでしたよね。そのためにはまず自分が研究対象になって、対象者としての気持ちを理解したほうがやりやすいと思うんです。いくら大人びていると言っても、詩歩はまだ子供なんですから、不安は少しでも少ない方がいいでしょう。結果も違ってくるはずです」
「わかっているわよ。これ以上いじめるなっていうんでしょ。あたしだって下手につついて奴らに攻撃されたくはないわ。とはいえ、いるだけで攻撃の対象になるんじゃね。どうしたものかしら」
 ミナが口をへの字に曲げた。これも本人の無意識によるものだ。隆紋が安心させるように胸を張った。
「だから準備室に逃げ込んでくださいと言っているんだ。闇雲に対峙しようとしたって、暴走がおさまるわけじゃない。奴らの本質を知ることが私たちに出来る最善の策ではないのか。奴らとて知性ある生き物なのだろう。対話は可能なはずだ」
「そうね」
「どうしても奴らがいらぬちょっかいをだしてくるというなら、きっちりお片づけさせていただくまでですわ。詩歩様の能力も大切ですが、ガウ先生の能力も必要なものなのですから。大丈夫、先生の思念波があれば必ず成功いたします」
 アンナが愛用のモップを構えて(これが武器にもなることをミナは知っていた)びしりと決めた。

 そして運命の懇親パーティーの日がやってきた。予報ではこの日は一日天気が良いはずだった。昼間のうちに実験準備室に仕掛けを施しておいた隆紋は、わらわらやってくる参加者たちの中で、特に詩歩やミナと関わりが強そうな人物に、ある呪文を書き付けた符を渡して行っていた。暖かなオレンジ色が紫から紺に変わっていく。星々がまたたく空で一際美しく輝いているのは、半分に欠けた月だった。細く延びた月光が室内に差し込んでいる。最初はまず打ち解けようと室内は明かりに満たされていた。アリューシャやアメリアたち調理部員が作った心づくしの料理が生徒たちの手によって運び込まれる。飲み物が配られ、そこかしこで雑談が始まる。テネシーもすでに待機していて、部屋の後方から生徒たちの様子を監視していた。少し離れたところに立っていたルシエラは、レイスの気配が近づいてくることに気付いて口の端をあげた。符を面白くなさそうにながめていたミナは、部屋の入口が騒がしくなったのに気付いて目をそちらに向けた。
 廊下では仲間に囲まれた詩歩が、緊張した面持ちで入口を見つめていた。肩にはちとせが乗っている。ちとせは緊張を和らげようと詩歩の髪を撫でた。政志とレイシェンが両側から肩に手を置く。詩歩の前に立っていたジュディ・バーガーがくるりと振り返った。
「ヘイ!詩歩サン、怖がらないで。アナタはジュディたちが必ず守るネ!」
 特撮研の衣装なのだろう。胸のAマークがど派手なコスチュームで、おどけるように言う。白一色に頭のターバンに三日月のマークがついた衣装のトリスティアが、ばっとマントを翻らせると室内に飛び込んで行った。
「ムーンライトマスク参上!」
「キャプテンも登場だぁ!」
 ハハハハと高笑いしながらジュディも飛び込んでいく。そのまま教壇で殺陣を披露する。にぎやか振りに一行があっけに取られているうちに、ジュディがさっと手を入口に向けた。
「行こう、詩歩」
 レイシェンがうながす。アメリアがほのぼのと2人を見つめていると、アルトゥールがそっと肩を抱き寄せてきた。
「本番はこれからだよ。頑張ろうね」
「そぉだねえ」
 アメリアがぽっと頬を染める。詩歩の真後ろには詩歩の両親が立っていた。室内にいるミナが気になるらしく、動きがややぎこちなかったが詩歩たちが歩き出すと素直について行った。入るなりミナの声が響いた。
「莫迦な!あなたたちは死んだはずじゃ……」
「ミズキさんの力を借りているのですよ。お久しぶりです」
「まさか本物の幽……」
「わーっ。その先は言うの禁止っ。あれは式神なの!」
 シエラがミナの言葉をさえぎった。ざわめきが大きくなり、視線が詩歩に集中する。一瞬、ひるんだ詩歩の手をジュディが掴んで引っ張った。トリスティアが飲み物を渡す。アクアが前に進み出てコップを高々と掲げた。
「学園の平和に乾杯ですぅ!」
 つられてあちらこちらから乾杯の声が上がる。詩歩が思い切って笑顔を見せると、ほぅっとため息が漏れた。ひとまず詩歩を人の輪に溶け込ませようと、アクアが壇上から生徒たちの群れの中に詩歩を誘って下りて行った。両脇をジュディとトリスティアが固める。アメリアは入口に立ったままだった。
「アメリア?行かなくていいのかい」
「電気がついていると異世界の住人が現れないかもしれないでしょぉ。だから消す役目をしようと思って」
 ひそひそと会話している間にも、詩歩の周りには人の輪が出来ていた。やはりみんな本心では仲良くしたいと思っていたのだろう。いつもならやかましく言うミナですら、自分から進んで詩歩の側によってコップを触れ合わせた。詩歩が目を丸くしていると、ばつが悪いのか目をそらして詩歩の両親を見やった。
「式神、ねえ。まるで生きているみたいだわ」
「ガウさんのパワーにはかないませんよ。こうしているだけで吹き飛ばされそうだ」
 毅があながち冗談ともつかない口調で苦笑いする。実際、母親の方の顔色は悪かった。娘を案じる気持ちだけが頼りのようだった。ミナは肩をすくめてコップを口元に運んだ。
 まずまずの反応にアクアは気をよくしていた。詩歩を気にしながらも、少し離れたところで様子を伺っていた政志のもとにライン・ベクトラがやってきた。ラインはせっかくのパーティーだということで、気合入れておめかししていた。体の線もあらわな光る素材のドレスがゆらゆらと揺れる。政志はまぶしそうにラインを見た。ラインは妖艶に笑いながらコップを政志に差し出した。
「詩歩さん、楽しそうですわね」
「ああ。このまま何も起きないといいんだけど」
 実際は事件が起きることを誰もが予測していたので、和やかな中にもぴりぴりした緊張が混じっていた。政志がそれを感じ取ってため息をつくと、ラインは何気なさを装って質問してきた。
「以前、詩歩さんと政志さんは似てらっしゃるとおっしゃってましたわね。あの異世界の住人たちも、政志さんのことを近い存在だと言ってましたわ。もしかして政志さんも、詩歩さんと同じ能力を持っていらっしゃるのではありませんか」
 政志は首をかしげた。
「どうなんだろう……僕自身はそういう体験をしたことがないから、なんとも言えないな。叔父さんたち同様、異世界の住人を暖かな存在として感じることは出来たけど」
「わたくし……詩歩さんの代わりに、政志さんが連れ去られるようなことになったら嫌ですわ」
「え、まさか」
 政志は笑い飛ばそうとして、真剣なラインの気迫に飲まれた。
「絶対無いと言い切れまして?今の詩歩さんは、あれだけ大勢の仲間に守られていらっしゃいますわ。危険なのはむしろ政志さんの方かもしれませんわよ。でも安心なさってくださいませね。あなたのことはわたくしが守りますわ。ねえ、セバスちゃん」
「はい、ラインお嬢様」
 ラインの背後に控えていた執事型アンドロイド・セバスがうやうやしくお辞儀をした。政志が頬を緩める。その瞬間、室内の明かりが一斉に消された。とはいえ月光でそれなりに明るい。ただ明かりに慣れた目にはとても暗く感じられて、しばしどよめきが起きた。スイッチを押したアメリアはさっさと詩歩に近づくと、月光の当たる場所に詩歩を連れて行った。あわせてトリスティアがサイ・サーチを発動させる。ミナが意図を察してごくりと息を飲む。驚いていた詩歩も、実験のことを思い出して自ら進んで月光の中に立った。きらきらと髪が輝く。室内なのにふわりと風が巻き起こって、詩歩の輝く髪を広がらせた。いつも感じていた暖かな存在がやってくるのが詩歩にはわかった。そして詩歩は初めて自分の意志でその存在に語りかけた。
「ねえ、私はどうしたらいいの……?」
「来たよっ!みんな、気をつけて!」
 トリスティアの声と一緒に突風が吹き荒れる。窓のガラスががしゃんがしゃんと割れた。詩歩の肩に乗っていて突風の被害から免れたちとせが声を張り上げた。
「見えないのは不利ですわ。なにかで着色してしまわないと」
「着色は出来ないけど、場所はわかるよ。これでどう!」
 トリスティアがサイ・サーチの反応がある方向に向かってとりもちランチャーを発射させる。何かがとりもちに絡め取られてじたばたと床で暴れる。やってきたのはそれ一体だけではないらしい。他の気配にトリスティアが警告を発しながらランチャーを乱射する。詩歩の側にいたアメリアは風に吹き飛ばされていたが、倒れこんだ体の前でアルトゥールが剣を構えていた。
「アメリアには触れさせないぞ」
「きっと月光を使って姿を消しているんですわ。ですからわたくしが!」
 ラインが差し込む月の光を使って不可視の存在を浮き立たせる。獣人のような姿がまぼろしのように浮き上がった。アルヴァートが怒りに任せて飛びかかって行った。
「アリューシャを傷つけたのはお前か!?よくもアリューシャの珠の肌に傷をつけてくれたなっ」
「待って……お願い、話をさせて!」
 ジュディに支えられた詩歩が必死に声を張り上げる。心に感じる暖かな気配と意識を同調させながら、歩を進めた。政志が慌てて詩歩を止めようとした。
「詩歩、危険だ。近づくんじゃない」
「大丈夫……彼らも、友達だもの……だから、お願い。私が悲しむようなこと、もうこれ以上しないで……」
 鼓動の音がやけに大きく聞こえる気がしていた。詩歩は穏やかな気持ちで歩みを進めていた。止めようとするアルヴァートとアルトゥールをレイシェンがとどめる。詩歩の体が光りだした。光は月光と同じ柔らかな白色だった。同調している異世界人も光りだす。詩歩はいつになくはっきりした口調で語りかけていた。
「私はあなたたちの世界には行けない。この世界に大切なものがたくさんあるから。切れない絆があるの。切りたくない絆があるの。失いたくないものをすべて捨て去ることは出来ないわ。なにより、ここが私の在るべき場所なんだもの。ここはいいところよ。たくさんの異世界と繋がっていて、いろんな人が出入りしている。あなたたちもそうなればいい。私はその手助けにならない……?」
 光がますます強くなって、風も止む。と、その光が一条の光線になってなにかに飛んで行った。その先には風に吹き飛ばされていたミナがいた。光線は肩を貫き、血が噴出してくる。隆紋がミナを立ち上がらせて、かねてより準備しておいた準備室に逃げ込ませた。
「どうしてガウ先生を!?」
「嫌な気配がする。だから攻撃した」
 相手が淡々と言った。詩歩はくるりと向きを変えてミナの後を追った。追従するように異世界人が移動する。どどどっとトリスティアたちがそれに続いた。
 準備室に入ったのは、あらかじめ隆紋に符を渡されていた人物たちだけだった。狭い室内は別の呪符で結界が張られていた。符を持っている人間は普通に行動できたが、持っていない異世界人たちの動きが遅くなった。隆紋は仕掛けの成功ににやりとした。すかさずトリスティアが月の魔力の流れを寸断する。とたんに通路が封じられて異世界人が消滅した。
「あ、あれえ?」
 トリスティアがうろたえた声を出す。しかし他の異世界人がやってきた。やはり動きが遅くなる。気を取り直して、トリスティアが今度はリングを投げつけた。リングはぱあっと大きくなって異世界人を輪の中に閉じ込めた。動きを封じられた異世界人は、大人しく座り込んだ。隆紋がさっそく質問を浴びせかけようとした。と、その異世界人が悠然と言った。
「詩歩を連れて行けないなら、政志を代わりに連れて行くことにしよう」
 パーティー会場からラインの怒り声が聞こえる。詩歩が慌てて戻ると、政志とラインが異世界人たちに取り囲まれていた。
「だめぇ!やめてぇ!」
「詩歩!来るな!」
 政志が止めようとしたときには遅かった。異世界人の1人が詩歩を抱えあげる。はずみでちとせがコロンと落ちた。異世界人は嫌がってもがく詩歩を軽々と抱きしめて窓から空中へ躍り出た。政志たちを取り囲んでいた異世界人たちも次々に出て行く。政志が窓に飛びつくと、空中を飛んでいた詩歩たちの姿がふっと消えた。空には雲が出ていた。
『テネシーさん……聞こえる?』
 攻撃に備えながら様子を伺っていたテネシーに、詩歩の声が届いた。どうやら次元を超えても距離はそう遠くないらしい。意志の実での会話ができるようだ。テネシーは詩歩の声に耳を澄ませた。
『こちらはまるで砂漠みたいなところ……やっぱり、月はあるのだけど。あの月でも通路を開くことが出来るかしら』
「聞いてみましょう」
 準備室では隆紋が厳しく捕らえた異世界人を尋問しているところだった。結界は意識をも鈍らせるらしい。異世界人は「オリジン」と名乗り、詩歩が迎えに来てくれることを望んでいると伝えていた。
「ということは、向こうからも通路は開けるということですわね」
「ああ、そうだ。巫女の力なら可能だ」
 意志の実からは詩歩の声が弱弱しく伝わってきていた。
『私……帰りたい……』
「その気持ちがあれば大丈夫です。どうやらそちらからも通路が開けるようですよ。こちらももう少し詳しく条件を聞き出して見ます。あなたもくじけずチャンスをうかがってください」
『わかった……がんばる……』
 窓辺では床に崩れ折れた政志をラインが必死に慰めているところだった。
「詩歩を守れなかったなんて……」
「大丈夫ですわ。もしかしたら政志さんの力で迎えに行けるかもしれませんわよ」
「その可能性がありましたね」
 テネシーは手早く意志の実での会話を伝えた。会話が出来るということは、世界が繋がっているということだ。その条件が、捕らえられたオリジンと政志にあるとしたら。話を聞いて、政志の顔に生気が戻った。そこへ傷の手当てを受けたミナが戻ってきた。ミナの顔にはふつふつと闘志が湧き上がっていた。
「あんなわがままな連中、放っておけないわ。あのオリジンとか言う異世界人を連れ戻しに、どうせ通路は開かれる。お仕置きしてやらなきゃ気がすまない。戦うわよ!」
 完全に敵とみなしたらしい。目が据わっていた。友好的にと考えていたシエラが「くぅ〜ん」と小さく吼えた。レイシェンも顔をしかめている。アルヴァートのように元から敵意を抱いていた人間は、同意を示してやる気満々になっていた。詩歩は取り返したいが、異世界人とことを構えるのにはいささかためらいのあった政志は、ただ黙って顔を曇らせた。
 なす術を持たなかったのは詩歩の両親も一緒だった。だがこちらは少し様子が違っていた。おろおろしながらも、異世界人とのコミュニケーションを必死に取ろうとしていた。

→高村マスターシナリオトップP
「孤高の少女」シナリオトップPへ