『Velle Historia・第2章〜煌めく風の息吹』

ゲームマスター:碧野早希子

【シナリオ参加募集案内】(第5回《最終回》/第2章全5回)

 天空遺跡の地下・育児施設で調査しているシャル・ヴァルナードは、SDDDeSb型の血液の事について考察していた。
 何度調べなおしても、皇帝や八賢者に関する資料は残っていない。あの、八賢者の血液型とて名前や司るものの類は書かれていない。
 気分転換に同じ階の他の部屋を見回ってみる事にした。そして一つの部屋にたどり着く。よく見ると、『血液保管室 最重要物在中につき、関係者以外立入禁止』と書かれてある。
「なるほど……ここにも血液関連のがありましたか」
 中へ入ると、沢山のビンが置いてあった。ただし中は長年放置されていたのか、底には乾燥したような感じの血液が残っているものの、実際は空で血液は残念ながら入っていない。
 ビンのラベルを確認すると、あのSDDDeSb型の血液ばかり書いてあった。下には採取された者の名とABO式の血液型が記入してあった。
「最重要物……つまり、SDDDeSb型のみの血液保管室だったというわけですか」
 異星人、種族、老若男女、ABO式を問わず、全てのSDDDeSb型血液が集まっていた。その中には、先代の水の賢者だったナスカディア・アクアライドの名も、無論ナガヒサ・レイアイルことナーガ・アクアマーレ・ミズノエの名も。
「確かにアスール人のは少ないようですね……ん? これは……」
 一つのビンのラベルを見るシャル。そこには『O−SDDDeSb/RYOKUU AQUAVIT MIZUNOE』と書かれてあった。
「リョクウ・アクアヴィット・ミズノエ……? ナガヒサさんの本名と同じ姓を持つという事は、家族か血縁関係なのでしょうか?」
 もしかしたら、ナーガと近い関係があるのかもしれない――シャルはそう思った。



 総合病院の集中治療室に現れた、ヴェレ王国最後の皇帝。その名はティーマ・マギステリウム・ヴェレ。
 ツァイト・マグネシア・ヴェレの双子の弟。そして、ナーガに身体と精神に傷を負わせた張本人。
 25年ぶりに二人の目の前に姿を現した。怒る赤髪のツァイトに、不敵な笑みを見せる黒髪のティーマ。何人かがティーマに向かって攻撃をするが、決着はつかない。
『風の賢者』ウィンディア・シュリーヴは、ティーマを見て少し考え込む。
「偽者……ではなさそうだけど、なんていうかちょっと揺らぎを感じますね」
「ええ……陛下の気を正確に感じるのはツァイトだけですから」
 それは双子だから、お互いの事は無意識に感じ取れるという事ではないだろうかという意味で言っているナーガ。
「お前もだ、ナーガ。気による拒否反応が強く現れるのが証拠だ」
「揺らぎというのは、ティーマは半実体状態という事ですか? 熱センサーが微妙に反応しませんが」
 A・ナガヒサ・レイアイルの言う半実体とは、肉体的にも精神的にも『ここにあってここにあらず』というべきものなのだろうか。
「かもしれんな。だとしたら、向こうから攻撃をする場合は実体で、されたら空間の歪みを利用してかわす可能性があるって事か」
 ティーマにそんな能力があったのかどうかは分からないが、かといってそうするような器具を身につけているとは思えない。
 マニフィカ・ストラサローネがナーガに力を貸して欲しいと言ったが、当の本人は躊躇しているようだった。躊躇というよりは、恐怖と逆らえない威圧に対しての。
「え……でも陛下には逆らえな――」
 ティーマに対してのリミッターが強く残っているナーガに対し、ツァイトは舌打ちをする。
「八賢者は元より、ヴェレ王国にいた奴等は全員、ティーマに対して手を出す事など許されないリミッターをかけられているからな。やれないなら俺が貸す!」
 ツァイトが上級の水術魔導『アクア・フォルティス』を発動する。これはナーガでも扱える筈なのだがあまり使用しない。何故なら、一部に対して腐食性効果がかかり、一歩間違えれば自分は元より相手も身の危険に晒される魔導であるからだ。それを承知の上でツァイトは使う。
 二つの水がティーマめがけて向かってきたが、似て異なる双方の水の威力は、ティーマのウォーターウォールによって弾かれた。
「これも駄目なのですか……?」
「他人の力を借りたとて、逆らう事だけは一人前だな、ツァイト。だが、ナーガ同様に俺を倒す事はできない……リミッターは未だ有効のようだ」
「いや……お前は更にナーガに新たなリミッターをかけたようだな。一体何をした?」
 薄笑いをするティーマ。眉間にしわを寄せ、嫌な予感を感じるツァイト。
「あの血液にリミッターを施した。アムリタ……あれは元々俺の輸血用として採取した血液だが、ナーガを若返らせる為に使った。一体誰の血液だと思うかな? ナーガには分かる筈だ、貴様に近しき者と夢で会ったのではないかな?」
 ハッとするナーガ。ポッドで眠っている間、確かに感じたモノ――27年前に目の前で殺された両親と、自分の為に命を落とさなければならなかった人。
「ま……まさか……父さんとナスカディア様!?」
「そう。あの二人の血液を輸血した。俺に逆らえんように遺伝子レベルでリミッターを施しておいた。俺が死んでも解除できぬし、その姿のまま年をとる事も死ぬ事もできないようにしていたからな」
「不老……不死ですか。不老はともかく、不死に関しては未だ実験段階というわけではなかったのですか? 何の為に? 貴方の為にだとでも?」
「半分はそうだが……姿はどうなるか、結果は貴様次第だ。それから、俺の血も少し入れておいたぞ。これで『絆』は更に繋がる……」
「! うぐ……っ!」
 気分を害したかのように、口を押さえて倒れ掛かるナーガ。逆らえない者の血を今すぐにでも抜き取りたい、そんな気分になった。
 トリスティアとリーフェ・シャルマールがティーマに問う。ノヴス・キャエサルの目的とそれを果たすとどうなるかという事、そして『ザイアンワード』とは何か。
 しかし、ティーマはこんな事を返答した。
「俺が話すと思っているのか? まあいい、再度言うがノヴス・キャエサルの目的は王国の復活だ。過去の歴史を忘れかけ、平和の均等を崩す時が『今』なのだからな。そして更なる目的の為にもナーガは欠かせない。ザイアンワードについては、ツァイトに聞いてみろ」
 ティーマはそれ以上言わない。リーフェはツァイトのほうを向く。彼の目はまっすぐティーマのほうを向いたままで、答えるかどうか迷ったが、重い口を開く。
「ザイアンワード……ザイアンワーズとも言うが、『天国へ』という意味だ。ザイアンは『天国』や『天の都』、『理想郷』を指す」
 ティーマは目を細め、突然こんな事を話し始めた。
「ツァイト……貴様やナーガの親でしか知りえない事を俺は知ってるのだぞ。すみからすみまで見たんだからな。例えば……ナーガの右太腿の内側には、牡丹の様な痣があるとか」
 それを聞いた途端、ナーガが羞恥の念に駆られ、ツァイトは怒りをあらわにした。
「ティーマァァァァァァ!」
 長剣マーグヌスを振り上げるツァイト。ティーマも所有の長剣『キリアズム』をシフトして受け止める。
「育ってきた環境が違いすぎたせいで、地上の下衆共と謀反を起こした。その罪は重いぞ、ツァイト!」
「お前の行いを止める為、そして、ナーガをはじめとするアスール人の自由獲得の為だ。ヴェレに対する裏切りではあるが、罪ではない!」
 グラント・ウィンクラックも破軍刀を振り下ろすが、やはり受け止められてしまう。
 援護するようにリーフェがティーマの腕辺りに向けて発砲。乾坤一擲の機会を伺い、実弾に付加した魔力の効果によって真空のフィールドで包み込んで射出する。ティーマは何らかの防御フィールドで身を護っている筈だから、これによって中和してこじ開け、修復するまでの瞬間に穴から実弾を打ち込む作戦だ。
 しかし中和するどころか、寸前で弾が爆発した。ティーマが片手をかざしただけで。
「うそ……効かないの!?」
「それだけ強いって事さね。いくよ!」
 今度はマリー・ラファルが殺すつもりで突撃する。梨須野ちとせが天井から攻撃しやすいように攻撃してはいるが、剣でかわされてしまう。
(駄目か……どうすれば隙をつけられる?)
 戦闘には参加せず、困ったような顔をするリュリュミアは、タンポポ色の幅広帽子に手をかけ、お辞儀するような仕草で帽子を脱ぐと、突然大量の花粉が出てきた。皆がそれに気を取られている隙に、ガシッとナーガの手を掴んで扉へ向かう。
「え、ちょっと何処へ――?」
「ここにいてもあれなんでぇ、逃げちゃいますぅ」
 ナーガを集中治療室から脱出させればティーマも後を追うかもしれないが、この状態では足止めぐらいできる筈だ。
 ツァイトはそのほうが良いと判断し、リュリュミアに任せた。
「頼む、リュリュミア。ナーガを安全な場所へ!」
 咳きをしていないように見えるティーマは、やはり視界の悪さに苦戦しているようだった。狙うには絶好の機会だと判断したマリー。ちとせは彼女の声を合図に矢を放ち、見事にティーマの右肩に命中した。少し苦痛そうな彼の顔を確認できる。
「本当は皇帝がナガヒサを連れ去られそうになったら放そうかと思っていましたが……まあ、結果オーライといったところですね」
 花粉が全て床に落ちる前にティーマが少しかがんで矢を抜く。
「小賢しい真似をしてくれるな……」
「そうか? 俺達にとってはお前がそう見えるがな。さて、どうする? ナーガは遠くへ逃げたぞ」
 睨みつけるツァイト。ティーマはゆらりと立ち上がった。
 静かなる緊張感が続いたかと思ったが、扉が開いてワイト・シュリーヴが入ってくる。数人の機動隊員は廊下で待機させている。
 ティーマはその人物に気付くと、薄笑いを浮かべた。
「ほう……これはこれは、誰かと思えばインフルエンティアのリーダーではないか。いや、今は大統領だったな」
 ヴェレ王国に対して反旗を翻した、反天空組織インフルエンティア。そのリーダーがワイトなのだ。彼本人はうろたえる事無く、堂々とティーマのほうに向く。
「皇帝ティーマ……お前と会うのは25年ぶりだな。初めて会った時はツァイト長官に似て驚きもしたが……」
「だが、貴様は少し年をとった。力は衰え始めているのではないかな?」
「さあ、どうだか」
「それと……」ティーマは死角になっている箇所のほうを見やる。
「貴様が既に覚めている事はわかっている。様子を見、事の次第によっては戦闘に加担する筈だったのだろうが……ある意味無駄だったようだな、『ザルドズ』」
 むくりと起き上がったのは、気絶していた筈のトキホ・ペインだった。
「俺でなくとも、そこにいる彼等がやってくれると信じていた。俺も同様、皆ナーガの身を案じ、護りたい意志があるのだから」
 トキホは服を剥ぎ取り、顔も剥がした。そこに現れたのは、オールバックの紫の髪に白い長衣と灰色のマントを巻きつけた、遮光グラスをかけた男性の姿だった。
「八賢者が一人、『時の賢者』ザルドズ・クロノだ」
 実際の声は機械で作られた音声のような感じに聞こえる。少し不快を感じるくらいだが、聞き取り難いというわけではない。
 ツァイトの幼馴染みであり、大地革命後も彼の補佐として行動しているが、殆どは独自の行動であちこち行っている様である。
「『時の管理者』が俺の監視とはな。余程ツァイトの補佐は暇らしい」
「そうでもないさ。ただ、俺とて行動に限度はある。リミッターがかけられている限りはな」
 ふ、と鼻で笑うティーマ。
「どうやら時間をかけすぎたようだ。今回のところは諦めよう。ナーガは未だ目覚めたばかりだが、血液のほうも未だ未完全ではあるからな。暫く様子を見ることにしようか……ではまたいずれお目にかかるとしよう。もっとも、いつになるかは分からぬがな」
 身体が光り、砕け散るように消えるティーマ。
「待てっ!」
 グラントが追いかけようとするが、ツァイトが止める。
「追っても無駄だ、あいつは何処にいるかも分からん。それに、一度現れたらいつ会えるかはあいつの気まぐれ次第だから、何とも言えん」
「とはいえ……ノヴス・キャエサルを従えているという事は、暫くはその組織から攻撃をかけてくるとみていいのかもしれない」
 考え込むワイト。ウィンディアが続けて言う。
「それに、忘れた頃に突然現れる可能性もあります。そういう方なのですよ、陛下は」
 深いため息をつくツァイト。
「俺が代わって謝るべきだな。生存していたのかどうか確認もせず放置していたのは事実だから」
 頭を下げるツァイト。こういう姿を晒すのは珍しい。そして、神妙な面持ちでウィンディアとワイトに向く。
「ウィンディア、ナーガの退院を許可してくれないか。見た目からしても大丈夫だと思うが、ここにいても治療する意味はないと思うし、別のノヴス・キャエサルがまた襲撃するとも限らん」
「……わかりました、そのように手配します。ここもちょっと傷だらけだから、修復の為に一時閉鎖します。他階のほうも直さないといけない箇所がありますし、清掃もかけないと」
 早速専門の業者に連絡するウィンディア。
「ワイト、情報操作をかけてくれないか。無論ナーガの事も忘れんようにな」
 ツァイトがザルドズのほうを見やると、マーガの様子を見ている。
「打ち所が悪かったが別に命に別状はない。ただ、記憶障害がでるかどうかは怪しいが」
 とりあえず数日間安静にさせる事にしたザルドズ。
 ワイトの命令で機動隊が全階に散らばり、病院関係者や患者の無事を確認した。また、不審者は連行されていき、総合病院は再び静かさを取り戻していったのだった。



 ワイトの情報操作――病院襲撃は一部の天空階級の強硬派によるものとニュースは伝えられた。ノヴス・キャエサルはある意味強硬派である事は間違いないが、組織名も存在も一般に知られないようにするのが政府の方針なのだ。もし知られたら、25年前前後の事を思い出しかねないような気がしてならない。
 ナーガについてだが、ニュースでは身体の損傷が激しく、治療は困難という理由でA・ナガヒサの中に脳を移植するという事にしている。また、27年前にヴェレ王国へ拉致された皇和国元環境局長官の子息であるナーガが冷凍保存の状態で発見され、約25年ぶりに解凍されて生き返ったというニュースも流れた。
 実際は見てのとおり、ナーガが輸血により昔の状態へと若くなり、代わりにA・ナガヒサが起動する事態となったわけであるが。
 ともかく、ナーガが本当に不老不死になったのかどうかは分からないが、以降A・ナガヒサが『ナガヒサ・レイアイル』と名乗り、ナーガはナガヒサではなく本名の『ナーガ・アクアマーレ・ミズノエ』と名乗る事にした。
 真実を知られてはいけない事なのだが、こういう事も仕方がないのは人間の都合故か。



 何日かぶりに戻ってきたレイアイル邸。既に夜となっていた。
 ウィンディアも一緒に邸宅へ行き、黒っぽい着物に着替えたナーガの状態が良好なのを確認すると、長くなった髪を整え始めた。
「その顔で短くするのは合わないと思うから、胸の辺りまで切り揃えましょうか」
 足元まであった髪を切るのはもったいなかったが、動くのに邪魔である。その後で軽く三つ編みをし、赤いリボンを結んだ。
「……ますます女っぽいな」
 同じく来ていたワイトの感想。25年前の姿を思い出し、それ以降の短くなった髪型をも思い出す。
「本当に父さん、若くなってたんだね。でもどうやったらそうなる事ができるんだろう?」
 ナーガの息子であるテツト・レイアイルが首を傾げるが、A・ナガヒサはとりあえず誤魔化す。
「医療も科学も、未だ分からない事があり過ぎますからね。今後、医療の研究機関が調査に乗り出すかもしれませんが……ニュースの内容がああなので、皆無に等しいかもしれませんよ」
「そうですね。今まで父さんの代わりを務めてくれてありがとうございます。今後も代わりを務めるのはつらいでしょうが、お願いします」
 お辞儀するテツトに対し、A・ナガヒサも同じようにお辞儀をする。実際の親子だったら、こんな事やったらおかしく思われてしまう。
 ツァイトは下を向いて、ナーガの着る服のデザインを描いている。よく見ると、着物や何処かの民族衣装を組み合わせたような服に見えるのだが、着物では動きづらいだろうと思い、デザインしたものを2〜3着オーダーメイドする事にした。
「あの……それは有難いのですが、スーツがありますし」
 ナーガがスーツがあるからいいと言ったが、ツァイトは彼の言葉を無視。色をつけ、ホログラフィー・コンピュータにスキャンした後、皇和服専門の店に注文内容とデザインを送信する。出来上がり・受け取りは3日後だ。
「長官、明日から中断していた会談を行おうと思いますが、どうしますか? それともこのまま終わりにしますか?」
 ワイトが会談の事を聞く。後者ならば、すぐに戻らなければならない。つまり、1ヵ月間会えない事になるのだ。
 ナーガの表情が悲しげに見える。何も言わないが、ツァイトに帰って欲しくないのだろう。
「いや……前者でお願いする。未だ話し合っていない事もあるのだろう?」
「では、明後日から3日間延長という事で宜しいですね。他惑星のアスール担当外務長官にも連絡します」
 再開する会談の日の時に買い物に出かける事になったが、ナーガはとても嬉しそうだった。



「やはりここにいましたか」
 ツァイトが間借りしている部屋に、ナーガが入ってきた。
「何か用か?」
 俯いたまま何も言わないナーガ。少し肩が震えているのが分かると、ツァイトが近づいてくる。
「辛い想いをさせたな……まあ、当分ティーマは現れんだろう」
「あ、あの……か……」
「帰らないで欲しい、と? しかしだ、俺は今はキャエルムのアスール担当外務長官で――」
「ザルドズがその役職をやれるはずです……今までツァイトの仕事を補佐してきているわけですし、それに独自の仕事はちゃんとやってるいるのでしょう? どういう任務についているかは分かりませんが、例え遠くにいてもすぐに来る能力はあるわけですし……」
 暫く二人は黙ったままだったが、ナーガがまた言い難そうに口ごもっている。
「他に言いたい事があるようだな」
「そういえば……マントを貸して欲しいなあと……」
「やっぱりな」
 呆れるツァイトにマントを渡され、顔をうずめる様に抱きしめて大きく息をつくナーガ。
「いい香りですねえ……」
「お前は猫か」
 間を空けずにつっこむツァイト。
「ともかく寝ろ」
「ここで寝たいのですが……」
 顔をマントにうずめたまま返答するナーガ。
「部屋に戻りたくないのか?」
「何故か一緒に寝たい気分なんです……」
「お前は子供か。マントは貸してやるから」
 確かに数日前のナガヒサだったら、こんな事はしないし言わない。だが、今は寂しいのか甘えてくる様な感じに見える。
(これもティーマのかけたリミッターのせいか? いや、もしかしたらこいつの意志が強く出たのか?)
 長年付き合ってはいるが、こんな状態のナーガを見るのは27年前から2〜3年間ぐらいのみだ。
 その後は精神的にも成長したものだと思っていたのだが……。
 ナーガがベッドに入って寝たのを確認すると、部屋を出た。目の前にザルドズとグラントが立っている。
「悪ぃ、覗き見するわけじゃなかったんだが」
「いや、別に悪い事をしているわけではないからな」
「で、ツァイト。お前はここに残るつもりか? 別に俺はアスール担当外務長官になっても構わないが」
 ザルドズの問いに、ツァイトは考え込む。
「……わからん。だが、俺がここにいたら嫌だという奴はいるだろうな。まあ、ティーマを放置していたのは俺の責任でもあるわけだが、生きていたというのも一時的に疑わなかったのも悪かった」
 リビングへ歩き出すツァイト。ナーガにベッドを取られ、どちらにしろ気が散って仕事が出来ない為にそこで寝るというのだった。
 
 束の間の平和とは、次へ続く為の繋ぎ目。
 その先が希望だろうが絶望だろうが、前に進むしかないのが現状なのだ――。

【アクション案内】

o1.ツァイトとナーガの買い物に付き合う(護衛も可)
o2.天空遺跡で調査(場所を明記。王宮の場合は階数も)
o3.その他

【マスターより】

 今回もかなり遅くなってしまいましてすみません。
 アクションが偏りすぎてなかなか筆が進めなかった事と、気温による体調不良でダウンしていました。皆さんも暑さにはお気をつけくださいね。例え遅くなろうとも、ちゃんと書きたい部分は書かないと後悔しますので。
(何かお詫びというわけではないですが、何か本とか出そうかなあと……設定資料集では興味もたなそうな気が)
 ナガヒサが若くなったので、以降本名の『ナーガ』で行動します。その代わりに、アンドロイドであるA・ナガヒサの名前から『A』をとり、『ナガヒサ』として行動します。当分の間混合してしまうかもしれませんが、ご了承下さい。
 次回は第2章の最終回となります。
 アクションの補足ですが、買い物の行き先は、皇和服(着物)専門店です。あとは散歩ついでに公園とか寄るかもしれません。
 それでは次回も宜しくです。