『Velle Historia・第2章〜煌めく風の息吹』
ゲームマスター:碧野早希子
【シナリオ参加募集案内】(第4回/第2章全5回)
静かなる襲撃。それは無意識の内に恐怖を植えつけられる――。 天空遺跡の地下・育児施設で、一人調査に勤しむシャル・ヴァルナード。 目の前には、八賢者の血液型リストを中心に、大量に置かれた資料の山。 「そういえば、八賢者って何の為に組織されたんでしょうね。天宮の――皇帝の直属とはいえ」 ただ皇帝を守護する立場である事は間違いないのだが……水の賢者だけは特別な立場につけられていたようにみえる。強制とも取れそうな、そんな感じがナガヒサの言葉から連想される。 わからない事はまだある。八賢者の司るものは色で何とかわかる。その内六つは予想はつく。 「ナガヒサさんの司る水の色が青ならば……赤は『火』で、緑は『風』。白は『光』、黒は『闇』、黄は『大地』って事になるんですよね。でも、紫と灰が何を司っているのかはわからない」 同じ『SDDDeSb』型の血液型を持つ賢者達。その内、O型でSDDDeSb型のは青と黄の二人だけ。 「輸血された血は、この黄色の賢者の確率が高そうですね……」 この人物について、念入りに調べようとした。だが、残念な事に該当するものが何処にもない。 「何でこれに関しても無いんでしょうね……余程八賢者に関しては触れてはいけないというルールなのでしょうか。皇帝って一体何を考えていたんでしょうね」 ため息をつき、今度はナガヒサの事を考え始める。先月彼が話していた、『薬を飲まされていた』事を。 膨大な資料から、それらしきものを探してみたが、該当するものがない。 「おかしいですね……薬の製造や実験のはあるのに、ナガヒサさんが飲まされたものが何処にも載ってないなんて」 首を傾げるシャル。これも皇帝によって表記しないようにしているのだろうか。 八賢者は育児施設でさえも触れてはならぬヴェレ王国最優先の『極秘事項』だというのか。ならば、八賢者本人でしか聞く事が出来ないのかもしれない。ただし、質問しても答えてくれるかどうかが問題だ。特にナガヒサは思い出したくないようだから。 ○ 病院の中と外での攻防戦。 先に侵入した不審者を、集中治療室前の廊下で足止めした梨須野ちとせ達。 「やりましたね。ここで暫く大人しくしてもらったほうが良いかもしれませんね」 「さて……こいつ等には後で事情徴収するとするかね。それにしても、特別機動隊が来ないね」 マリー・ラファルの言葉に反応したのか、侵入者の一人が意外な言葉を口にする。 「来る訳ないだろう……足止めを食らってるんだ」 「どういう事ですか?」 マニフィカ・ストラサローネが三叉槍で侵入者の首筋を当てて聞き出そうとする。 「病院の周辺には見張りが十数人、それ以外に通りそうなルートで先回りしてるんだ」 もし、それが本当だとしたら、用意周到に行われている可能性がある。計画者は一体誰なのだろうか。 ○ 「それにしても、気付かれずに病院襲撃とは……ある意味派手にやってくれるわね」 シエラ・シルバーテイルは仁王立ちで病院の様子を伺う。静かではあるが、中に侵入者がいる事は間違いない。 未だ、特別機動隊は到着していなかった。ワイトも公務で到着が遅れるらしい。 シエラの他には、近くにA・ナガヒサとエスト・ルークスがいる。 「ところで……どうやら見張り役の怪しい人達もいるようですが」 病院の入り口に二人、周囲の木に十数人隠れていた。 「話し合いしてくれる雰囲気じゃないわね……」 「向こうは銃器類持ってるし、行動次第では蜂の巣にされるのがオチね……」 「どいてドイテ〜あぶないヨ〜!」 ジュディ・バーガーが遅刻でもしたかのように、大型バイクで突っ込んできた。A・ナガヒサはスピードで侵入すると警告音が鳴る仕組みとその理由を告げ、慌ててジュディがブレーキをかける。 「うわわわわわ〜!」 うるさい警告音に負けぬくらいの、バイクの大きいブレーキ音。道を外れて近くにあった自動販売機に激突する。が、何故かバイクは見たところ無事のような気が。 入り口にいた不審者二人が発砲する。エストは銃を構えて数発発砲した。 「ここは病院デース。命の危険を晒そうとする人は許さないからネ〜!」 ジュディも負けじと、その自動販売機を軽々と持ち上げ、別の不審者に投げつける。見事当たって下敷きにさせて動けなくした。 その後、何人かと合流して、十数分間後に治療室へ到着する。 「無事みたいね」 エストの言うとおり、中からは何も聞こえないが、危険そうな音がしないのは無事な証拠。 しかし、さっきの戦闘はこれで終わったわけではなかったのだ。 ○ 集中治療室内では、ウィンディアとトキホ、マーガ、そしてポッドの中のナガヒサだけしかいない。 「静かになりましたね……でも、何故か嫌な空気だけは抜けない」 「ツァイト長官が来てくれれば何とかなるかもしれませんが」と、トキホ。 「大統領も遅いし、機動隊も一体何をしているんだ」 少し苛立ちをし始めるマーガ。 すると、突然何処からか声が聞こえてきた。 「来ませんよ。我々の仲間が妨害しているのですから」 「その声は……マージナル・クロックワーク博士!?」 全部締め切った筈なのに、誰にも気付かれずに一体何処から入ってきたのか。 後ろには数人の新たな不審者が。同時にマージナルが圧力がかった空気震を放つ。 ウィンディアはポッドの前に立ち、素早く両手をかざして見えない壁を作る。 不審者はそれを通り越して、トキホとマーガに体当たりをする。 「二人とも大丈夫ですか!?」 返事がない。二人共押さえられて気絶をしていた。異様な音を聞いたグラント・ウィンクラックが扉を斬って入ってくる。 「な……これは一体――!」 空気と空気のぶつかり合いにも見える、マージナルとウィンディアの魔導。マージナルを止めようとして向かっていったが、風が強いのか、前に進めない。 「この……っ! 一体何なんだ?」 余裕の表情を見せるマージナル。彼の口から意外な言葉を出した。 「久しぶりに見ますね……『疾風の癒し手』、風の賢者ウィンディア・ゼファーの力」 「か、風の賢者……!? ウィンディアが?」 「『疾風の聖女』と呼ばれた時期もありましたけど、私の専門は防御と治癒系統です……それに、その通り名と本名を知ってるという事は、貴方は何者ですか?」 否定しないウィンディア。やはり彼女も八賢者の一人なのだ。 知っているのは、皇帝と八賢者、そしてIGK(ヴェレ王国近衛騎士団)のみだ。しかし、マージナルは何も答えない。 ふと、ウィンディアはポッドのほうを見る。暫くして、こう叫んだ。 「すみません、ポッドを開放して下さい!」 「え? 何で? 開けたらどうなるか――!」 トリスティアが止めようとするが、ウィンディアは首を横に振った。 「私もわからないけれど、博士が……ナーガが出たがってます。頭の中で――いえ、これはテレパシーみたいなものですね。ともかく、お願いします」 「本当に宜しいのなら、私がやります。解除方法を」 目覚めかけているのだろうか。それとも、この事態を感じ取ったのだろうか。どちらにしろ、この空気の振動を感じない筈がなかった。 ウィンディアに言われたとおりにA・ナガヒサがポッドの開放ボタンを押す。 開けられると同時に、中の人工羊水が勢いよく飛び出し、マージナルに向かってきた。 「そんな簡易的な水で、俺の魔導を止められると思うなよ……ナーガ!」 言葉遣いの変わったマージナルも水の魔導を使って進行を止める。ポッドの中からナガヒサが出てきた時、ニヤリと不気味な笑みを浮かべた。 髪が床まで異様に長く伸び、顔立ちも若く見える。 「ナガヒサ! 大丈夫かい?」 マリーが声をかける。振り返って笑みを浮かべるナガヒサ。 「ご心配をおかけしましたね……申し訳ない。それと、ウィンディアも有難うございます」 「私は医師としての仕事をしたまでです。あとは貴方の意志に任せるべきだと思いましたので。事故に遭ったところまでは覚えていますよね?」 ゆっくり頷き、今度はマージナルに向きなおすナガヒサ。 「クロックワーク博士……交通事故に遭ってからさっきまでの間、どのような事が起こっていたかは私にはわかりませんが……ただ言えるのは、今貴方が上位魔導に近いようなものを使っている事。もしかして、事故を起こすよう仕向けたのは貴方ですか?」 何も答えず、ただ薄笑いを浮かべているマージナル。 「やはりそうですか。もしそうならば……何故ですか?」 淡々と話してはいるが、ナガヒサの頭の中は混乱と怒りになっているだろう。 「貴様を本来の姿に戻す為。この25年間は長かったよ……じっくり時間をかけるには、革命以降の平安を待つ必要性があったからな。過去の歴史を忘れかけ、平和の均等を崩す時が『今』なのだ。我々『ノヴス・キャエサル』が王国復興の為に。そして更なる目的の為に――」 何処か引っかかる口調であったが、ナガヒサは思い出せない。 「貴方は一体……?」 「気付かぬか? ふ、無理もない、力をセーブしているから気付く筈はないか……あの男以外はな」 空気の流れが変わり、陰湿な、そして威圧的なものへと変化する。 「この空気は……まさか!」 ウィンディアはナガヒサを見やる。顔が青ざめ、肩を抱いて震えている。 「そんな……あの方は亡くなった筈では……!」 思い出したくない、この重み。 何度も身体と精神に刻み込まれた、忌まわしき記憶――リミッター。 マージナルが顎辺りに手をあて、皮膚をはがす。マージナルの顔だと思っていたそれは精巧に出来たマスクで、未だに渦巻くマグナエネルギーに反応したのか、すぐに消滅した。 本当の顔は、肩辺りまで伸びたオールバックの黒髪に威圧感のある顔。紫の瞳の目つきは悪く、額に金の細いサークレットをつけている。 ウィンディアはその者の名を口にした。 「皇帝……陛下……!」 「な……! あれが……本当に皇帝だっていうのか?」 着ている服はマージナルのままだが、見方によってはワイルドな中年男性にも感じられる。だがそれ以上に近づき難いものをグラントは破軍刀を構えながら警戒する。 「25年前に死んだといっていた筈では……でも誰かに似てるような」 マニフィカは元より、誰もが思い出そうとしていたのだが思い出せない。 「確かに私はあの時、天宮で瓦礫の下敷きになった陛下を見てる……ツァイトと」 「そういえばマグネシア長官と似ているわね……でも似ている人なんてそんなにいないわよ」 皇帝と呼ばれる男は、髪形を除けば確かにツァイトに良く似ている。エストは、知っている限りではツァイトに良く似たという人間を見た事がない。 「迎えに来たぞ。華の皇子」 手を差し出し近づいてくる男。ナガヒサは後退りしようとするが、足がすくんで動けない。 「わ、私は貴方と行く理由がありません。もう放っておいて下さい」 「貴様には永遠の価値があるのだ。普通ならば生死を問わずだが、特別だからな」 「特別って――」 突然男の姿が消えたと思ったら、ナガヒサの目の前に現れ、左肩に剣を突き刺した。 「――っ!」 「あの傷が疼くのだろう? まだ傷痕を残しているとは」 「やはり本当に……」 血が刀身をつたい、それを舌で舐めとられる。 「『ザイアンワード』へと至る道……力ずくでも連れて行くぞ」 その時、別の方向から小さな刀が飛んできた。それに気付き、ナガヒサから剣を抜いて離れる男。 ナガヒサの左肩の傷口が、みるみる塞がっていく。これも特殊な血液故のものなのか。 「……貴様か。来るのが遅いな」 ツァイトが小刀――クナイを投げた腕を上げたまま立っている。隣にはラウリウム・イグニスが。 「俺は会いたくなかったけどな……やはり死んでなかったか、ティーマ」 皇帝の本名であるティーマと呼び、睨み付けるツァイト。 「俺も会いたくなかったが、これも運命かな?」 「いや、必然的に計画されたものだろ? 「皇帝の証、長剣『キリアズム』を持つのは皇帝のみ……あの時の皇帝は身代わりだったか。今更現れてどうしようというのだ。ナーガには既に自らの道を歩んでいる。放っておくべきだ」 「放っておけないんだよ、ツァイト。それとも、阻止するかね?」 不敵な笑みを浮かべるティーマ。 「ツァイト……来てたんだ……迎えにいけなくて申し訳ない……」 嬉しそうなナガヒサの表情。 「謝る必要はないぞ。悪いのはあいつだからな……それよりも気を抜くな。抜いたらあいつの思うつぼだからな」 長剣マーグヌスを出すツァイト。 「ラウリウム、援護を頼む。ウィンディア、損壊せぬように結界を張ってくれ」 ウィンディアは風術の下級魔導『ウィンドウォール』を集中治療室内に張る。空気の流れによって傷つけないようにする為の処置だ。 「ねえ、あの二人は一体……?」 シエラがウィンディアに思い切って聞いてみた。 「黒髪の方は『ティーマ・マギステリウム・ヴェレ』、ヴェレ王国の、その時には帝国でしたが、136代王朝――ヴァーヌスヴェレ王朝の皇帝陛下です。そして、ツァイト・マグネシア・ヴェレ長官は、ヴェレ帝国の特別天空階級で公爵、外交の担当をなさっていました……長官は、皇帝陛下の『双子の弟』なのです」 「でも誤解しないでいただきたいのです」 すぐに話をつなげるナガヒサ。 「ツァイトは私が生まれる前からの、両親の知り合いです。王国とは無関係に接してくれました。疑うのも無理はないですが、無条件で私達の味方ですよ」 疑う疑わないかは人それぞれの判断。 いろんな意味において張本人ともいうべき人物が現れた今、新たな事象が始まったのも事実なのだ――。 |
【アクション案内】
o1.集中治療室でティーマと戦う o2.病院内の見回り(侵入者が未だいた場合は戦う事も含まれる) o3.天空遺跡で調査(場所を明記。王宮の場合は階数も) o4.その他 |
【マスターより】
今回も遅くなってしまいましてすみません。 今回も明らかになった情報の中には、今章では取り扱わないものも含まれています。その内、数十年前に起きたという官庁爆破テロ未遂事件に関しては、本作品では取り扱いません(後の章でも話の中に出てくる程度になるかもしれませんが)。近いうちに私のHPで概要をUPできればと思っております(いつになるかは未定です)。 また、後半であの人物が登場という事で、どう書こうか結構悩みましたが……。思っていたものより若干変更してしまったという感じです。なかなか上手く書けないものです。 アクションの補足ですが、治療室内での戦闘では、ウィンディアが結界を張って室内を傷つけないようにしていますので、ある程度の戦闘は可能です。が、あまりやりすぎると建物が倒壊する恐れがありますのでご注意を。 それでは次回も宜しくです。 |