『Velle Historia・第2章〜煌めく風の息吹』

ゲームマスター:碧野早希子

【シナリオ参加募集案内】(第3回/第2章全5回)

 ヴェレスティア総合病院、集中治療室で、ウィンディア・シュリーヴがツァイト・マグネシアから輸血用IDカードを受け取った後の会話。
「場の空気というわけではないが……病院の外で数人、怪しい奴を見かけた。すぐに何処かへ行ったがな」
「そういえば、博士が運び込まれた時も嫌な空気がして……」
「行動を起こされるのは時間の問題だとしてもだ、どのタイミングでというのが問題だな」
 その頃、アムリタと刻印されていた容器に入っていた血液に関して、リーフェ・シャルマールとマニフィカ・ストラサローネはトキホ・ペインとマーガ・グレイに協力している。
 リーフェが眉をひそめ、顕微鏡を指しているので、マニフィカが覗き込むと。
「細胞? いいえ、これって赤血球や白血球ですよね……細胞分裂のように増えているようにも見えますし、こんなに活発に動いている血液は初めてですわ」
 血液検査で見るようなサラサラと流れるものではない。細胞のように動き、余程の事がない限り凝固する事のない血液。血小板も同じように動いているのだから、これなら例え怪我をしても早く完治してしまうかもしれない。
「それがSDDDeSb型の血液です。また、マグナに関しても異様に高く反応すると言われていますが、未だ未知の段階なので何とも……」
 資料の中にアムリタが書かれている箇所を探し出すリーフェだったが、何処にも書かれていなかった。余程の最重要なもの……記してはいけないものという事に見える。
 数分後、梨須野ちとせとマリー・ラファルが入ってきて、遺跡の王宮から発見した骨を持ってきた。これが皇帝のものかどうかを確認したい為だ。
 だが、調べようにも比較する為には皇帝のDNA等が無い。残念ながら、それらのは何処にも無いのが実情である。ツァイトが言うには、皇帝はあまり血液やら遺伝子を残すのを好まない性格だったらしく、もしも残したとしても、どう使おうとしていたのか分からないという。
 とりあえず骨からDNAを採集してシャーレに入れて保管する事にした。
「もし、アムリタの血液がナガヒサさんの血液でなかったとしても、投与させる事が目的で事故を起こさせたのだとしたら……あまり選択の余地がなかったとはいえ、あちらの思う壺だったのではないでしょうか」
 ただしメリットが分からない。ちとせはそう付け足す。
「一部の天空階級――『ノヴス・キャエサル』の仕業か」
 深刻そうなツァイトが口にした、初めて聞く名。ニュースでは流していないが、そういう組織は革命後から活動している事は分かっている。一般には知らせないように、ワイトが情報操作を命じているという。



 A・ナガヒサ・レイアイルとエスト・ルークス達は、事故現場にいた。
 グラント・ウィンクラックが不審者を見つけ、走り出す。不審者は目が合った途端に逃げ出した。
 そのままアジトに行ってくれたら、容赦なく捕まえてやる。グラントは足の速い不審者の後を追い、着いたのは川の橋の下だった。川によって堆積された土に降り、腰まで伸びている雑草をかき分ける。
 もしかしたらアジトがあるかもしれないと思ったその時に、突然足元をつかまれて倒れそうになる。
 何とか振り払って離れ、グラントは『召武環』で破軍刀を召喚すし、自分の気を込めて破軍流星を放つ。雑草も刈り取られ相手が見えたと同時に倒れるのが見えた。
 どうやら一人だけらしく、アジトらしきものがない。
 A・ナガヒサ不審者がアンドロイドだと見抜いた。瞳の中を覗き込むと、確かに瞳孔の部分がカメラのように見える。
 緊急停止スイッチを押してもそこまでの記録は消去される事はない。もし遠隔操作で操っていたとしても電波を遮断されるはずだ。エストはとりあえず押した。
 数時間後、エストはL・Iインダストリーに赴き、トリスティアが待っていた。
 2人は中に入り、社長のテツト・レイアイルが出迎える。中を通され、向かった先は『自動車部門』のエリアだった。結構広い。
 事故車の製造元はL・Iインダストリー製のものと判明した。だが改造はされているようだ。所有者に確認したところ、数日前だが隣町のメッツァの代理店でオプション――制御装置プログラムをつけたらしい。
 一枚の紙切れを渡される。そこには、代理店の名前とオプション取り付け内容、値段等が書かれていた。
「プログラムは向こうの専門プログラマーがやったみたいですが、数日前から無断欠勤していると聞いております」
「何か怪しいね、そのプログラマー。タイミングよ過ぎって感じがするよ」
 得られた情報はこれだけだが、とりあえずワイトに連絡してみるトリスティア。
「――というわけで、司法公安局を数人まわして欲しいんだけど」
「容疑者を逮捕するには、場所とタイミングが必要だ。気をつけてくれ。それと、これは極秘なのだが……」
 ワイトの言葉が一旦途切れたが、重い口を開くように、こんな言葉が告げられた。
「司法公安局の中にも、不穏な動きをする一部の天空階級に組している人間がいるという情報を、最近こっちに内部告発してきた。誰かは今のところ調査中だが……下手をすると大変な事になりかねない。気をつけてくれ」



 一方、天空遺跡(ヴァーヌスヴェレ・ルイン)・地下の胎児育成施設では、シャル・ヴァルナードとエルンスト・ハウアーが調査続行している。
 エルンストが皇帝がどのような選択をしたのかを考察してみる。本当の不老不死ではないがそれに近い方法が存在するという事を。
「恐らく、リスクを減らして少しでも同じ肉体を使う為に、クローン体に長命種族の因子を組み込むような小細工でもしているのではないじゃろか。後は時間の余裕を本物の不老不死研究に振り向けるだけっていう事じゃな」
「なるほど、確かに考えられますが……資料によると、精神的な実験の成功例はあまりないようですね。余程苦労したように見受けられます。他の人間であれクローン体であれ、精神や魔導の強さが精神転移の鍵になりますね」
「それに全員が対象というわけでもないようじゃのう。ともかく、昨今の騒ぎは何処かに若い姿の皇帝がおって自由に動き回り、なおかつある程度の長生を得た自分の伴侶として、長命種であろうナガヒサ君を求めているとか……になるのかのう」
「ナガヒサさんが長命種……という事ですか? でもアスールで生まれたとはいえ、考えられなくもないですね。確証はないですが。それに、ナガヒサさんは男ですからね……もし皇帝がそのように生きているとしても、同性に伴侶にされたら嫌でしょうに」
 苦笑いするシャル。ふと、一枚の紙に目をやると、八賢者の血液型リストを見つけた。残念ながら皇帝の血液型が書かれたのは何処にもなかったが、これがあったのは幸いだった。ただ、名前は書かれておらず、色とその血液型しか載っていない。
「そういえば、ナガヒサさんが『八賢者はあまり人前には出ず、殆どの人が名前や姿を知らない』と言ってましたよね。つまり、ここの施設の人間はまったく名を知らないという事です」
 色は赤、青、黄、緑、白、黒、紫、灰の八つあり、血液型に関してはその内5つしか表示されていなかった。ABO式ではバラバラであったものの、そのどれもがあの特殊な『SDDDeSb』型であった。
 O型に該当するのは青と黄のみであり、A型は赤と緑、B型は白であった。残りの黒と紫、灰は横に線が引いてあった。不明なのか調べる暇がなかったのかはわからない。
「名ではなく色とは……何かの暗号にしか見えんのう」
「きっと司っている象徴の色なんでしょう。ナガヒサさんは水の賢者ですから……青に該当するようです。黄色のが誰かは気になりますが」
「司るものもな……ただ、皇帝に関しての資料がまったく無いというのはどういう事じゃろう? 最重要機密じゃったのかな? それとも記録するなと命令でもされていたんじゃろうか」
 二人は考え込む。皇帝と八賢者の謎は深まるばかりだ――例え、ナガヒサの事であっても、未だ分からない部分があるのかもしれないが。



「……存在しない? マージナル・クロックワークが?」
 レイアイル邸に戻ったツァイトはリビングで電話を受けたのだが、驚きを隠せない。
 政府高官のタバル・ポンピドーによると、現在残されている天空階級の生存リストにも死亡リストにも、改名届のほうも調べさせたが、何処にも載っていないという事だ。
 電話を切ると同時に、ラウリウム・イグニスが入ってきた。
「長官、今後のスケジュールはどうしますか? 無期限とはいえ、いつ再開されるか――」
 途中で言葉を制するツァイト。
「その先は言わなくていい。アスールにいても仕方がないのはわかっているが、気には……っ」
 突然、気分を害するような表情をし、床に崩れ落ちるツァイト。
「どうしました?」
「……この感じは……やはりあいつは……!」
 嫌な予感というものは、過去の思い出をも引き出してしまう事がある。
(歴史は繰り返される、という事か?)
 暫くして再び元の状態に戻った。だが、心の中では胸騒ぎがしてならないのだ。



「ある程度のファクターがそろった……もうそろそろいいかもしれないな」
 中央行政府の高層ビル群の一つの屋上にて、何者かがそう呟く。
 何の事かは不明だが、ナガヒサの事も入っている可能性は大だ。
「さて、本格的に動いてもらおうか。新たなる夢の為に」
 背後で待機していたと思われる者が数名、立ち上がって瞬時に消えた。
 ツァイトが病院を出て数時間後の夜に、それは突如訪れたのだ。
 遠くから悲鳴が聞こえ、ウィンディアが扉をロックする。
「嫌な空気……予感は当たりですね。隙をつかれるとは」
 受付からのインターホンからによると、武装したような黒い人間が数人、集中治療室へ向かったという。既に十数名の医師や看護師、患者が怪我を負っている。死者も数人出ているようだ。
 狙いは間違いなくナガヒサだろう。ウィンディアはそう確信すると、ワイトに連絡を取る。
「ノヴス・キャエサルらしき組織の人間が数名、集中治療室へ向かっているとの連絡を受けました。ただ今封鎖中です。狙いは博士です、間違いなく」
「本格的に動いたか……何とかして守れ。特別機動隊をそちらへ向かわせる。今そこには何人いる?」
「現在、私を含めて数名。医療スタッフの他に、博士を心配して来てくれる方が何人か……」
 通信を切り、ウィンディアはポッドの中のナガヒサを見る。
 何も知らない彼の表情は穏やかだ。時々空気の泡が漏れているのが確認できる。
(どうにかここを守らなくては……患者を守るのが私の使命だから)
 この先の時間が、果たしてどう進んでいくのか……ウィンディアは知る由もない。
 ただ医者としての意志が、恐怖に打ち勝つのかもしれない。
 ワイトや特別機動隊が到着するまでには、ここを守らねばならないのだ――。

【アクション案内】

o1.病院へ向かって侵入者と戦う
o2.病院内(集中治療室を中心に)で侵入者と戦う
o3.天空遺跡で調査(場所を明記。王宮の場合は階数も)
o4.その他

【マスターより】

 今回も遅くなってしまいましてすみません。
 今回明らかになった情報の中には、今章では取り扱わないものもいくつか含まれていますのでご注意を。
 さて、何者かによる病院襲撃となりましたが、戦う事を選択された方は、外からか病院内かのどれかにいるという事になりますので、その時何をしていたのかを明記して下さると執筆の際助かります(必ずその行動が書かれるという訳ではありませんが)。
 それと前回書き忘れていましたが、ワイト大統領から武器の調達が可能ですが、現時点ではたったの一種のみです(ごめんなさい)。主に護身用として使用される事の多いレーザー・弾丸兼用小型拳銃『LI-2500』という武器を所持したい(つまり欲しい)方は、メッセージ欄に記入して下さい。このアイテムはこの世界でしか使用出来ませんのでご了承下さい。
 それでは次回も宜しくです。