『Velle Historia・第2章〜煌めく風の息吹』

ゲームマスター:碧野早希子

【シナリオ参加募集案内】(第2回/第2章全5回)

 ヴェレスティア総合病院の集中治療室に運ばれた、水の賢者ナーガ・アクアマーレ・ミズノエことナガヒサ・レイアイル。
 治療用ポッドの中は人工羊水で満たされ、酸素マスクが装着されているので酸素吸入の件は心配ない。眠っているような彼の表情に苦痛は見られない。
 大統領夫人で医師のウィンディア・シュリーヴは、生命を司る者は、外傷内傷共に自然治癒力も一般人に比べて数倍早いらしい事を告げる。
 ポッドに収容した後で内部スキャンをしてみたところ、心配していた内臓は殆ど損傷は見られなかったという。ただ一つ――胃と肺の一部、その周辺に圧迫した痕以外は。心臓も少し衝撃は受けていたものの、今は殆ど心配ないという。これもナガヒサの自然治癒力が強いからか。
 問題は、他人から博士への輸血が問題だという事。珍しい型である事が彼女の口から開かされた。
「ABO式やプラスマイナス式以外のが合わないっていうのか?」
 手伝いをしたいと申し出たグラント・ウィンクラックやマニフィカ・ストラサローネは、血液型の種類がどのくらいあるかは知らない。
「その二つは赤血球の持つ抗原の種類によるもので、輸血の際には重要になるものです。とはいっても、血液や血しょうに含まれる色素タンパク質――血液色素等、有機的に構成されている事によっているけど、まだまだ未知の多い研究分野なのです」
 ウィンディアの専門分野は遺伝子医療・外科・内科である。ある程度知られている血液の事は分かっているが、彼女でも把握していない事があるのは確かだ。
「白血球の型だけが合わない人もいますし、同じ血を持つ家族間でさえも遺伝子的に合わない例があります。博士の場合……例外を除いて、輸血されたら魔導の威力が半減されるし細胞の親和性も危ういかもしれない。中には細菌の病原体を知らずに保持してしまっている人もいるみたいですからね」
「例外というのは?」
 リーフェ・シャルマールが集中治療室に入ってくるなり、気になる事を問う。
「彼へ輸血可能なのは、ごく一部の『珍しい型を持つ者』だけです。何処にいるのかさえ把握していないのが実情ですから。アスールにも殆どいないでしょうね」
 マージナル・クロックワークは一体何処の血液センターに連絡したのか? 知り合いのところとはいえ、もし遠かったら本当に生命に関わる問題であり、本当に型の合うのがあるのかも疑わしいのだ。



 国立会議場。ナガヒサが事故に巻き込まれた事故現場。
 トリスティアがエスト・ルークスに、手口の予想をする。
「赤い車を自動操縦か遠隔操作でナガヒサにぶつけたんじゃないかなあって思ってるんだ。ブレーキ痕ないしね。ボクのエアバイク『トリックスター』にも自動操縦機能がついてるから、こういう手口って案外簡単に行えちゃうと思うよ」
 A・ナガヒサ・レイアイル。本物のナガヒサの代理として投入された、擬似人格OS『ペルソナ』内蔵のアンドロイドが車に搭載されているデータを調べ始める。
「これがただの事故ならただの検証なんでしょうけど、事故なら現場にナガヒサを狙った相手が現れたら、どう動くかしらね。囮捜査として彼を連れてきたっていうのはつまりそういう事でしょ?」
 シエラ・シルバーテイルの言葉に、エストは苦笑いしながらも否定はしない。
「まあ、未だ公式としてアンドロイドが代理を務めるってニュースは流してないけど、無事だという事を誤認させるという目的は間違ってないわね」
 A・ナガヒサはエストに確認を取っている。所有登録者は個人だがどうやら盗難されたもので、3〜4日前に盗難届がでている事がわかった。つまり元の所有者は事故には無関係という事になる。
 そして、走行記録から無人操縦だった事がわかった。この車は何故かナガヒサ博士の体格と外見もデータに残っている事から、予め彼のみを狙っていたような形跡があるらしい事も。
 盗難場所は登録データから、南東の隣町『メッツァ』の賃貸アパートだった。
 メッツァという町は、ヴェレシティより大きくはないものの、森が多くて住みたい地域として人気のある町である。
「でもそこからヴェレシティまで早くても20〜30分かかるわ」
「プログラムは向こうか、それともこっちに来てからか……難しいね」
 一方、ルーク・ウィンフィールドは事故現場から数百メートル離れた場所で、雇った情報屋と暫くして接触して調査内容を確認してもらった。一部はエスト達が得た情報と同じだが、所有者はメッツァタウン在中でブティック店員の女性。事故当時は仕事中だったというアリバイがある。事故車の運転方法はオートでプログラムされていた……つまり、そういったプロでなければ出来ないという事になる。



 ヴェレシティ中央行政府。その中央に大統領官邸――別名『グロウヴネスト』(小さな森の巣)がある。
 毎月ソラリス太陽系の全惑星からアスール担当外務長官が集まり、ここで会談をしているのだ。
 一日の会談が終わって物思いに耽っているツァイト・マグネシアに、ラウリウム・イグニスが声をかける。
「ツァイト長官、焦っていても何も変わるわけではありません。皆博士の為にやれる事をやっているのですから」
「そうだな……出来れば、俺も会談を放り出してでも見舞いに行くべきだが。それに事件も調べたいしな」
 外務長官という身分である以上、自由に時間を空けられないのが悔やまれるツァイト。
 ただ時間だけが流れていくだけだ。
 途中、リュリュミアもやって来て、蔦でツァイトを縛ってしゃぼんだまで吊り下げて総合病院まで連れて来る計画を立てていたらしいが、失敗に終わる。
 どちらにしろ大統領官邸にいても仕方がないので、ツァイト達は総合病院へと向かい、到着したと同時に、マージナルが容器を抱えて入室してきた。
「遅れましてすみません。見つかりましたよ、O型でSDDDeSb型の血液です」
「エストリプルディー……何か長ったらしい血液型ですね」
 こめかみに指を当てるマニフィカ。初めて聞く型だ。これが、特殊な故に持つ割合が殆どない血液型らしい。特殊な容器に保存されており、その量は通常病院で見るパックにして2人分の量しかない。
「それしかないですが、とりあえず足りるみたいですよ。あとは博士の治癒力に任せるしかありません……ところで、マージナル・クロックワーク博士でしたわよね。一体何処から?」
「言わなければなりませんか? それは企業秘密です。もし知られたら、せっかく提供して下さった方に申し訳が立たないと知り合いが申していたものでね。それと、その様子だと手術の必要性はなさそうな気がしますが」
 最終検査の結果報告が出た。マージナルの言うとおり、確かに手術しなくても安定している数値を示しており、輸血のみという指示が出たからだ。
 トキホに血液を渡すマージナル。ジッと見つめたまますぐには取り掛かれないトキホ。どうやら、輸血してよいものかどうか躊躇しているのだが、細菌等異常は認められなかったので安全性は保障すると言い、マージナルはにこりと笑む。
 ツァイトは黙ってはいるが、眉を潜めているのが見て取れる。
「俺はあまり輸血は賛成できない」
「ですが、博士は大量に血を流されているのですよ。彼がいなくなったら寂しいでしょう」
 マージナルの言うとおりだった。ツァイトがいなければ、話し相手も稽古相手もいなくなってしまう。それに、ナガヒサの両親から守るという約束も果たせなくなる。
 ツァイトはため息をつき、仕方がないようにトキホに輸血を開始するよう頼む。
「ところで……何処かでお会いになったかな?」
 マージナルとは初対面ではあるが、ツァイトは何処かであったような気がしてならない。無論、気のせいかもしれないが、とりあえず聞いてみる。
「私が、貴方と? いいえ、今日が初めてです。ですが、私も昔ヴェレ王国にいた事がありましてね……もしかしたら、見かけただけかもしれません」
 穏やかなマージナルに対し、相変わらず険しい表情のツァイトは何処の所属かを聞いた後、それ以上話をしない。その間にチューブでナガヒサの腕に繋ぎ、輸血を開始した。ウィンディアはトキホと彼女の部下である医師のマーガ・グレイと何か話をしているが、内容は聞き取りづらい。
「あとは何もしなくても良くなるまで放っておけば大丈夫な筈です。空になった容器ですが、こちらですぐに処分して欲しいのです。細菌が入って、そこから空気感染でもしたら困るでしょう?」
 時間はかかったが、容器の血液が無い事を確認し、繋げていた部分の口は弁を閉めて容器を取り外すトキホ。マーガが博士に繋げているチューブは、輸血が完了次第自動的に取り外される事を告げる。
 マージナルが容器の処分も確認したいと申し出、トキホがダストボックスの扉を開ける。そこは直接廃棄物処理施設へ直接送る為の小さいコンテナが設置されている。
 見えないように背を向けて、硬いものが転がり落ちる音がした。音が小さくなると、マージナルに見せる。彼は少し納得はしなかったようだが、転がる音がしたのは確かだ。
 用事で集中治療室から出るマージナルを見送った後、急いでトキホはダストボックスに頭を突っ込む。
「強力な粘着力とはいえ、いつ落ちるか心配でした」
 トキホが手にしているもの。それは処分した筈だった容器だった。
 少し気になっていたから、代わりにコーヒーの空き瓶を処分し、容器を処分したと思い込ませて見えないところに貼り付けておくように頼んだ事を明かすウィンディア。
 近くに寄って容器を見るツァイト達。そこには黄金のプレートがはめ込まれており、小さい文字で書かれていたものがあった。

『Blood Type:O−SDDDeSb AMRITA』

「アム……リタ……」
 アムリタ――『甘露』を意味するそれは、蜜のように甘い飲み物でこれを飲むと不老不死になるという。『天酒』とも言われる言葉である。実際には樹木から取れる甘い蜜などの事を指すのだが。
「何かコードネームっぽい感じですね……どういう意味なのでしょうか?」
 マニフィカは首を傾げる。
「新鮮な血液を入れて活発にさせるような感じに見えるが……」
 目を細めるツァイト。嫌な予感が頭の中をよぎる。
「容器を捨てなかったという事は、調べたいという事だな。本当にあの血液型かどうか」
「そういうの、嫌でした?」
 ウィンディアの言葉に、ツァイトは首を横に振る。
「血液成分の件はお前に任せる。もう一つ気になる事もあるが……」
 それはマージナルの事だった。身分等も気になったのか、ツァイトは調べようと思い始める。
 あの輸血用血液アムリタを投与され、とりあえず一命は取り留めたように見えるナガヒサ。ツァイトが様子を伺うと、少し違和感を感じた。
(髪が伸びてないか? しかも顔が若く見えるような気がする……)
 顔の事はともかく、髪が伸びているのは本当だった。短い筈の髪が、肩辺りまで伸びているのが気になって仕方がない。
「もしかして、輸血のせいか……?」
 ナガヒサの異変は既に始まっているのかもしれない。輸血によって性格が変わってしまうのだろうか、それとも、そのままでいるのだろうか……ツァイトはその先の事を知る由もない。
 ただ解かっている事は、またナガヒサを中心として事象が動いているらしい――という事だけだった。

【アクション案内】

o1.エストやA・ナガヒサと共に事故調査を続ける(護衛も可)
o2.マージナルの身分調査を行う
o3.輸血用血液『アムリタ』の調査を手伝う
o4.天空遺跡で調査(場所を明記。王宮の場合は階数も)
o5.その他

【マスターより】

 かなり遅くなってしまいましてすみません。それと、やっぱりというか本文が長くなってしまいましてすみません。おまけに長くて読み難かったらすみません(苦笑)。理解不能な点も出てしまったらすみません。書いてる本人もわけがわからなくなりそうで大変です(ダメじゃん)。
 謝ってばかりですが、ともかく時間はかけました(かけ過ぎですが)。
 それでは次回も宜しくです。