ゲームマスター:秋月雅哉
●始まりの物語 緑豊かな森の中、何故か太い木の枝に座っていたことに気づくビリー・クェンデス。地面から結構な高さがあり、それまでの記憶は名前以外が欠落していた。 「なんでやねん!? ありえへんやろ! ほんま、どないしよう……うわわ〜っ!?」 思わず全力で突っ込みを入れたせいでバランスを崩してしまい、あわや枝から転落しそうになる事態に。 このままではハンプティ・ダンプティになってしまう。 そんなビリーを救ったのは無意識に発動した彼の十八番。地上へと無事に着地し、改めて辺りを見回す。ちょっと冷や汗をかいたがけがはない。 小さな手で額のあたりをぬぐいながら所持品を確認。いろいろなものを持っているようだがどうしても使い方を思い出せないため、一つ一つ試していくしかないだろう。 くよくよ悩んだり迷うくらいならいっそ楽しんでしまうべき、そう思って歩き出す。 「笑う門には福来る、そういう言葉を聞いたことがある気がするしなぁ。やっぱ人生笑ってなんぼやろ」 記憶がなくてもビリーにとってするべきこと、使命とでもいうものは彼の魂に刻み込まれていた。 『誰かを幸せにすること』だ。 「千里の道も一歩から、やなぁ。長ーい道の先に、どうか一人でも多くの人の笑顔がありますように。やることやっていけば自然とどこかにはいきつくやろ」 前向きな思考の持ち主であるビリーはそう結論をだすと、まずはどう動こうかときょろきょろと辺りを見渡す。 静かな森の中に悲鳴が響き渡ったのはそんなときだった。 その悲鳴を前に何をするべきか、なんて。すくなくともビリーの中では決まっている。今のは命の危機に瀕した人が救助を求めて出す、切羽詰まった悲鳴だった。 助けなければ。条件反射のようにビリーは力強く地を蹴った。 まだ見ぬ誰かを助けるために。 いつの間にか眠りに落ちていたマニフィカ・ストラサローネが目を覚ますとそこは一面の緑。草木の香りや土の香りに満たされ、鳥がさえずる。 ここはどこだろうか? 自分は何者だろうか? マニフィカという名前以外は何も思い出せずに思わずため息をつく。 握っていた三叉の槍はしっくりと手になじむ。頼もしさを感じた。 数多くの装身具に小袋には真珠や金貨。いくつかのアイテム。 その中の一つを飲み物を携帯するための道具と判断してのどを潤すと、ほんの少し気分が落ち着いた。 焦りは禁物だが武器だけでなく、金銭やアイテムがある。ゆっくりと情報収集するだけのゆとりはあると思いたい。まずは人を探すところからだろうか、と思ったが首元に違和感を感じた。 マニフィカの首には細い革ひもがかかっていて、胸元に続いている。 革ひもの先を引っ張り出すと銀色の、巨大な鱗のようなものに何かの文様が刻み付けられたものがペンダントトップのようにつけられていた。 強い力を感じるそれは、アミュレットやタリスマンといったものの中でも上位の力を持っていそうな気がする。 ほかのアイテムは記憶がないなりに自分の持ち物ということに違和感はないのだが、このペンダントにだけはなんとなく違和感を感じて首をかしげるマニフィカ。 「まずは情報収集でしょうか……」 どちらの方向へ行けば人に会えるのか見当もつかない。なにしろ一面、広大すぎるほど広大な森なのだから。人が住んでいるようにも見られなかった。 そんな予想を覆す女性の悲鳴。 距離はありそうだが確かに聞こえたSOSに、マニフィカは木々をかき分けて走り出したのだった。 シェリル・フォガティが目覚めたとき、真っ先に知覚したのは女性の悲鳴。そして自身の名前以外の記憶の欠落。 「ここはどこ? あたしは誰? ――なんて悩んでるヒマはないわね。『今』助けを求めている女の子がいる。それで十分すぎるわ」 悲鳴が聞こえたのはここからそう遠くない距離。自分が駆け付けるまで、どうか無事で。駆け出しながら願うのはそれだけだった。 アンナ・ラクシミリアも覚醒と同時に少女の悲鳴を聞きつけていた。 「何が起きているのでございましょう?」 何が何だかわからないけれど、分かるのは少なくとも一人の少女が命の危機に瀕していること。そして助けを求めていること。 助けなければ、と思うより先に足が動いていた。 「どうやら私はお人よしのようでございます」 駆けつけるから。助けに行くから。だから無事でいてくだいませね? 自分の名前以外何も思い出せないけれど、打算抜きに誰かを助けたいと思う気持ちに嘘偽りはない。 だからこそ、その願いを叶えたいと心に刻み付けてアンナは走る。 どこまでやれるか、何ができるかなんてわからないけれど最善を尽くすために。 ●魔獣討伐 ジェルモン・クレーエンは、偶然少女に襲い掛かるユキヒョウを目の当たりにしていた。ジェルモンにも自身の記憶はなかったが、その魔獣をみてどうやらここは物騒なところらしいと判断する。 (彼女がやられたとして、次は――では、わたし自身の身を守らねばなるまいな) 群れを成している獣、おそらくある程度の連携をして襲ってくるだろうと推測する。ならばリーダーはどの個体なのか? 「ボクは結界を直すから……戦う力を持っているなら、人里に魔獣が降りないように足止めして! 城下町に降りられたら被害が大きくなっちゃう!」 エメラルドグリーンの髪をした少女がとっさに叫ぶ。 ジェルモンは剣を抜き、自分自身には欠落している戦いの手順を確かめるように魔獣と向き合う。 「飢えているとして――さて、どいつかを屠って、共食いでもしてくれればありがたいが。そうもいかないようだ」 魔獣がどの程度の強さを持っているのか確認したい、そして自分がどれだけの力量を持っているのか把握したい。そのためにも一頭は最低でもしっかりと仕留めたいところだ。 (魔獣を退却させるか、こちらの退却路が確保できるか……援軍が来るか、結界とやらが修復されるか。それまで、支える) 以前は魔法がつかえたのかもしれないが今のジェルモンには記憶が欠落していて詠唱などが思い出せない。頼りになるのは手持ちの剣がすべて。 「体力、スタミナ勝負になるか。まぁ、命が終わるときは、その時だ。どうせ『ひとり』なのだから、どうにでもなるがいい」 ユキヒョウの素早く移動するスピードに、厄介なのは脚か、と判断するとユキヒョウたちの足元を集中的に狙って剣戟をふるう。 スピードを誇る動物たちにも弱点はある。それは最速で動くには時間制限があること。ならば持久戦に追い込むまで。このユキヒョウに似た魔獣とやらがどれほどの時間最速で動けるかまでは、分からないけれど。やれるだけは、やるしかない。 ジェルモンが戦う中、アンナは獣を後ろから攻撃して注意をひくと、結界を修復するという少女を護るように前に立つ。 少女の顔が泣きそうに歪んだのは、助かったという安堵からではなく。 自分の悲鳴のせいで見知らぬ人たちを危険に巻き込んでしまったという自責の想いと。 そしてそんな風に他者を気遣うからこそ、ここで食い止められれば城下町の住民は助けられると思った、そんな想いからだった。 その想いを彼女はあさましいと恥じるだろうが、他の人から見れば潔癖ともいえる高潔さの表れなのかもしれない。 そんな少女に微笑みかけて、アンナは大丈夫ですわ、と声をかける。 「え?」 「最善を尽くしますわ。だからあなたもあなたにできる最善を尽くしてくださいませ。結界を修繕すれば、敵側の増援はないのですわね? でしたら、それは立派に『じぶんができること』ですわよ」 「わ、わかった……っ!」 答えた少女は、ある一点を凝視して絶句してしまった。何しろ少女が見たこともない魔獣が、新たに出現したのだ。その場にいた誰もが、その相手に警戒心を強めたのはいうまでもない。 「怖がらなくていいのである。私は友好的なモンスターなのである。結界を直すというなら微力ながら助力させてほしいのである」 萬智禽・サンチェックは巨大な目玉の姿というものは初対面の相手には驚かせ、怖がらせてしまうだろうと考え、できるだけ穏やかな声で少女に話しかける。他のメンバーもそれを聞き、ユキヒョウと違ってサンチェックからは暫定的な仲間であると判断するとそれぞれ動き始める。 素早く自分の持ち物を確認するとどうやら自分は所持している銃に魔法の力の宿った弾丸の使い手らしい。 ひとまず魔物を追い払う手伝いをしてから、と火の属性の弾丸を撃ってユキヒョウたちを牽制する。 「それほど賢い獣ではなないことを願うわ」 シェリルは少女を護るためにショートボウをユキヒョウたちに向けながらつぶやく。戦うことはほかの見知らぬ共闘者に任せ、自分は結界を張り直すという少女の護衛に徹することにした。 近接用の武器はショートソードしかないため、間合いがとても短くなる。ユキヒョウを相手にするには不向きな武器だ。 「近接戦闘にならないように注意しないとね。貴方、結界の修復にはどれくらいかかりそう?」 「魔獣たちが壊しちゃったからもうしばらくは……ごめんね。ボク、戦う力は持ってなくて。大急ぎで、でも魔獣が壊せないくらいには強力なのを張るから、頑張って持ちこたえてほしいんだ」 「わかったわ。後ろから出ないように気を付けて」 「ありがとう。……土龍主の名において伏して願い奉る。土と、それに連なり命を巡らせる者たちよ。どうか力を貸し与えたまえ。悪しきものを退ける盾の籠を与えたまえ……」 マニフィカは魔力に対する適性が高かったのか、結界の存在とほころびを知覚できた。樹木を媒介に揺らめく壁のように巡らされた守護の力を断絶するように大きな裂け目ができているのが、例えるなら「視」える。 「これを使うことはできないでしょうか……持っている理由も、何の加護なのかもわかりませんが強力な力を感じます。……どうか私たちに力を貸してくださいませ」 正体不明のペンダントに願いを込めると強烈な白い光がほとばしる。 「これは……まさか、でも!」 戸惑ったような少女の声と、自分の中の体力や魔力をごっそり持っていかれるような脱力感。じわじわと結界はふさがっていくが消費する力があまりに大きすぎてもう限界だ、と感じた瞬間光の奔流は収まった。 激しくはあったが不思議と目を焼くことのない白い光が収まる。 それとタイミングをほぼ同じくして、姫柳 未来はミニスカートを翻しながら天使のような翼を使って、白い光に過剰に嫌悪感を示している敵を上空から強襲。 急降下の勢いを乗せたキックで魔獣を蹴り飛ばすと少女に向き直る。 「初めまして、かな? 名前以外の記憶をなくしちゃってるから自信がないんだけど。私は姫柳 未来だよ、よろしくね! ところで、あなたの名前は?」 「セレン。本当はもっと長い名前があるんだけど、普段はセレンって呼ばれてるよ。あの、みんな。助けてくれてありがとう」 「そっか。セレン。とりあえずはこのモンスターを倒してからかな。いろいろ話を聞かせてほしいんだ。君は護ってくれる人たちの影へ。結界を修復するのに一番の適任は、君みたいだから」 「う、うん!」 光の剣を取り出すと未来も戦いに加わる。 「大丈夫だよ。こんな魔獣くらい、私がちゃっちゃとやっつけるから!」 さらに遅れて救援に現れた者も加わり、ユキヒョウたちは次第に不利を悟って、わざとほころびを作ったままにしてあった場所から順次退却していく。討伐に当たっていたメンバーはそれぞれ自分の力量を確認することと、魔獣サイドの増援がこないとも限らないと考えると無駄な追撃は暗黙の了解で控える。 いつのまにこの世界に現れたのか、たんぽぽ色の幅広帽子を被ったリュリュミアが、少女の操る魔術を眺めていた。 結界の修復を手伝いたいとリュリュミアは考えていたのだ。リュリュミアはセレンの使う術式が樹木、正確には根を下ろした土と同化していることに気づくと興味深そうに瞳を瞬かせた。 「結界がこんな風に根っこと一緒になっているんですねぇ。面白いですぅ。木が成長したら、結界も広がるんですかぁ?」 「ううん、新しい媒介というか、中継点を作らないと結界自体は大きくならないよ。ただ力を借りている樹木が成長すると、効力は大きくなる。木霊の使う力と、大地とのかかわりが音が太くなることによって密になるからね」 「ふぅん? よくわかんないですねぇ。でも、この辺りの木は成木みたいだからそれなりに力はあるってことでしょうかぁ。あれぇ、あなた、わたしと髪の色がおんなじですねぇ。もしかしたらお姉さんか妹ですかぁ?」 「えっと、ボクには義理の兄はいるけど姉や妹はいない、と思う。そういう記録は残ってないし……君たちは見たところ『落ち人』みたいだし」 「そうなんですかぁ。名前以外の記憶をなくしてるから、お姉さんか妹だったらわたしのことを教えてもらおうと思ったんですけどぉ。そう簡単にはいかないってことですねぇ」 リュリュミアの言葉に目を白黒させていたセレンだったが戦いが完全に終わったことを確認すると結界を今度こそほころびを作らずに直して、八人に改めて感謝の言葉を告げる。 「君たちが来てくれなかったら、城下町が今以上に大変なことになっていたよ。本当にありがとう。さっきも名乗ったけれど、ボクはセレン。この……君たちはしらないかな。龍人界ドラスの中の国の一つ、神龍国ドラグニールに住んでいる、龍人だよ。守護属性は土」 「それにしても魔獣除けの結界になぜほころびができたのであろうか」 セレンの説明を聞きながら、水晶球を近くに浮かべるサンチェックが巨大な目玉を曇らせる。 セレンたちの前に姿を現す前から、自身の欠落した記憶について思い出そうとしてみたり、この景色に見覚えはないかと記憶を探ったり、利用方法を思い出せた自身の持つアイテムについてどこで入手したものなのか思い出そうとしたりしてみたが、結果は捗々しくない。 水晶球に映るものから読み解こうとしてもそれは記憶の欠落のせいか、原因はなくこの世界ではよくあることなのか不鮮明で、疑問は尽きないと言いたげなのがサンチェックの口調からうかがえる。 「世界の均衡が傾いているから、だと思う。今この国はいろんな問題を抱えていて……光と闇、炎と水、土と風。世界を作り上げる力のバランスが大きく闇に傾いているんだ。間が悪いところに来てしまったみたいだね。……でも、そのアミュレットは、まさか……」 「私たちがここにいる原因を知っているなら聞かせてほしいわ。落ち人、って言っていたけれどそれは珍しいものなの?」 何かをひどく言いよどむセレンに対してシェリルが問いを重ねる。そんな時、馬のいななきが聞こえ、一頭の黒馬が森の中をかけてくるのが見えた。 「義兄様」 「セレン、無事か。……ん? こいつら……落ち人、か?」 「……神龍の加護を受けたアミュレットを、持ってるみたい。さっき力の発動を確認したし、全員から弱いけれど『あの子』と同じ、神龍の加護を感じる。カイン様にみつかったらどうなるか……。みんな、戦う力は持っているみたいだけど……」 セレンが義兄と呼んだ相手は燃えるような真紅の髪と、深い瑠璃色の瞳を持つ偉丈夫だった。馬から降りると頭を下げる。身に纏っている衣類はシンプルだが仕立ても生地も極上で、上流階級の出だということが馬の質と合わせて知らせていた。 「義妹が世話になった。俺はランス。この国の近衛騎士団長をやってる。ま、あんまり真面目にはやってねぇけどな。いろいろ説明したいところだが、単刀直入に言うとここにいるのアンタらにとってはあまりよくない」 どういうことか、と説明を求める八人にランスとセレンはお互い困ったように顔を合わせる。 「二つの勢力がお前たちを必要としてる。俺とセレンはなんというか……立場的にはお前さん方を殺す側で動かにゃならん立場にいる。だが義妹の命の恩人をスケープゴートにする気はねぇ。邪龍国や黒龍国に密入国した方がお前さん方に関しては安全かもしれねぇな。落ち人……異世界からの来訪者に関しては、予言が今は不確かだ」 でも、とセレンが義兄の提案に否を唱える。 「神龍の加護を得ているってことは向こうの魔術師なら一発で見抜いちゃうよ、義兄様。そしたらむこうにいたって安全とは……」 そうだった、とランスが苦虫を授受数匹かみつぶしたような顔をした。 「とにかく、長居するのはまずい。カインの奴、遠見に長けてるからな。俺やセレンの無事を確認するために遠見の水晶を使ったらお前らのことをすぐ見つけちまう。とりあえず城下は……暴動は起きちゃいるがここにいるよりましか。ここ、国有林だから本来なら部外者が立ち入っただけで死刑なんだよ」 ひとまずこれで食いつないでくれ、とランスがそれぞれに金貨の入っていると思われる小袋を押し付けるように渡した。 「力になれなくてすまん、だが俺やセレンのそばにいるのは危険すぎるからな。街を歩いていればお前らを必要としているもう一つの組織ともかかわりを持てるだろう。そっちにつくなら……まぁ、あまり戦いたくはないが俺たちは今度会った時は敵になる。俺たちの側についてどうにか世界を変えようっていうなら……命の保証はできねぇが俺にできる範囲で力になる。あの馬鹿を止めるのは俺の役目だしな。俺と連絡を取りたいときは貧民街にある「火と赤銅亭」って酒場にこい。この世にサヨナラする挨拶はしたうえでならありがてぇ」 なぜ近衛騎士団長が貧民街につてを持っているのか、というのは大いに疑問だったがそもそも上流階級の人間にしてはランスもセレンもフレンドリーすぎた。 もしかするとこの二人は身分に縛られることが好きではないが仕方なくその立ち位置にいることを強いられているのかもしれない、と察した八人は深く聞くのをやめておくことにする。それを察した赤毛の大男は悪いな、と片手をあげて感謝の意思を示す。 「どっちにつこうが俺もセレンも責めるつもりはねぇ。むしろ、『向こう』についてこのいかれた不条理を叩き壊してくれりゃあ助かるよ。首謀者は、見捨てるには俺らに近すぎてね」 「首謀者、というのは?」 「神龍国ドラグニールの国王。カインだ。俺の従弟だな。ちょっと今頭のねじがぶっ飛んでて狂王なんて言われてるよ。前は名君といわれてたんだがな。今は完全に暴君だ」 自分にとって命に代えても守りたいものをなくした男の末路だな。その呟きはほかの誰かに届いただろうか? 「弟子入りは無理ですわね……この世界の魔術に興味があったのですけれど」 マニフィカが残念そうにセレンを見つめるとセレンは困ったように肩をすくめた。 「この世界が変わったら、恩返しに教えられることは教えたいけどね。情勢を知らないままついてくるのは、やめておいた方がいいと思う」 「縁がありましたらまた会えますでしょうか?」 「悪縁かもしれないけどね。……君たちが道を選んだ時、必ず会うことになると思うよ」 「そうですか。でしたらいいですわ」 「さて、とずらがるか。そろそろカインに見つかりかねねぇ。城下町へは東南へ何キロか歩いた場所だ。門番には黙って通すように俺が口きかせておく。力になれなくて、悪いな」 そういうとランスは義妹を馬に乗せて、おそらく八人の命を守るために礼もそこそこに立ち去った。 誰かのために紡がれる物語は、そうして進んでいく。 |