「英雄復活リボーン・オブ・ジャスティス(仮)」

サブタイトル「いまだ、必殺! スペシャルテクニック解禁のとき」

執筆:燃えるいたちゅう
出演者:熱きガーディアンのみなさま

1.超極秘暗号メールを解読せよ!

 聖女学園。
 ミッション系お嬢様学校として知られる、都内でも大変由緒ある女子校である。
 その聖女学園の図書館で、放課後一人ドストエフスキーの『罪と罰』を読む少女がいた。
「ねえ、ちょっとちょっとミサ子! あの子、みてよ。超イケてない?」
「えっ? わー、本当、リサポン! 信じらんないほど美人〜♪ もう萌えちゃいそう! うちの学校にあんな子いたんだ〜。どこのクラス? なんて子だろ?」
 少女の容貌があまりにも清楚で可憐であったため、ちょっとレズっ気のある先輩たちが大騒ぎしている。めったに図書館にこない先輩たちだったので、その少女をみるのが初めてだったようだ。
「やだ〜、ミサもリサも! 真弓を知らないの?」
「えっ、真弓っていうの、あの子?」
「そう、あれが武者小路真弓! みてのとおり本が好きで読書家だけど、噂じゃ弓もやってて相当腕がたつらしいわ」
「へ〜、弓を? いいわね〜りりしいわね〜」
「日本の女って感じね〜」
 しずしずしず。
 先輩たちの黄色い声をよそに、真弓は一人読書にふけっていた。
 図書館という場に漂う、この静けさ、緊張感。
 そんな中で一人書に読みふける放課後のその時間こそ、真弓にとって至福のものだった。
 だがその至福の時間も、すぐに打ち破られることとなる。
 そう、きっかり2秒後に。
 突如図書館の検索カウンターにいた係の生徒からびっくりしたような声があがった。
「きゃー、やだ! 変なメールがこのパソコンにきてる!」
「え〜、なにこれ? ウィルスじゃないの? あっ、ダメよ開いちゃ!」
「でもみるだけなら大丈夫だけど思うし、って、これ、開けないわ! なにこれ? 全然解読できない! 先生〜」
「うん? 確かにこのメールは変だな。既存のあらゆる解読ソフトを受け付けないようだ」
 パソオタらしい風貌の男性教師がいくらいじっても、そのメールを解読することはできなかった。
 そのとき!
「すみません。そのメール、私あてかもしれません」
 突然真弓がカウンターのパソコンに歩み寄り、鞄から謎の携帯端末を取り出して接続したので、係の生徒も先生もびっくりした。
「ま、真弓くん! 危険だ、得体の知れないメールを自分のパソコンに入れるなんて」
「やっぱり、思ったとおりだわ。これは超極秘暗号メール! なぜ、図書館のこのパソコンに? もしかして、私が読書に専念するため、自分の携帯端末の電源を切っていたから? でも、なぜ私がここにいるとわかったの?」
 先生の忠告をよそに、真弓は携帯端末を利用して超極秘暗号メールを解読し、グレイト・リーダー直接発令の招集を読み取った。
「知らなかったわ。こんな事件が起きていたなんて。私、テレビはそんなにみないから。わざわざ関係ないパソコンにメールを入れてまで私を呼ぶなんて、きっと、狙撃ね!」
 解読終了したメールを速攻で削除しながら、真弓は携帯端末をたたんで鞄にしまい、図書館から走り出ていく。
 後には、呆然とたたずむ検索係の生徒と、男性教師の姿があった。
「ま、真弓くん、わけわからんが、きみは可憐だ。も、萌え〜」
 パソオタらしい男子教師の口から、思わずそんなひとりごとがもれた。

 居酒屋「レオパルドン」。
 アメリカな雰囲気の漂うその洋風居酒屋に、両脇に美少年を侍らせた金髪のヤンキーガールが大酒くらっていた。
「ヘイ、ハロー、エブリバディ! 今日はア・タシーのおごりね! 遠慮せずにジャンジャン飲んでーよー!!」
 怪しい日本語を操りながらも、ジュディ・バーガーは上機嫌だ。
「バットォ〜、ユーたちは未成年! よってアルコールはフォビドゥン! ミルクかジンジャーエールを飲みなさい〜」
 ジュディは両脇の美少年たちの肩を叩いて、大笑い。笑い上戸のようだ。
 既にだいぶ酒がまわっているのか、顔が上気している。
 美少年たちははにかんだような笑みを浮かべながら、とりあえずと希望したジンジャーエールに口をつける。
 彼らの顔は、こういっていた。「やっぱりお母さんのいったとおりだ。ブロンドのヤンキーガールにはついていっちゃいけないって……」
 いまさら帰るともいえない彼らは、和田アキ子に拉致されたような気分で炭酸水を喉に流し込む。
 美少年たちの思惑を知らないジュディはますます上機嫌になり、自分でいった冗談に自分で受けたりしていた。
「イヨ〜、ニッポンの美! イッポンでもニッポンシュ! なんちゃって〜ハハハハハハ」
「お姉ちゃん、ゴキゲンだね〜。ところで、仕事は何してるんだい? 暴走族か何か?」
 人のよさそうなバーテンがニコニコ笑いながら話しかける。
「オー、マイジョブ? ナイスクエスチョンネ〜。ミーのジョブは、かつてアメフトプレーヤーだったね! バットナウ、アイ・アム・スーパーヒーロー!」
 ジュディが威勢よく人差し指を振り上げたとき。
 ピピピピピ!
 ジュディのベルトにとりつけてある携帯端末から着信音が鳴り響いた。
「メールゲットォ! 暗号ね! レッツ・デコード!」
 超極秘暗号メールを解読したジュディは、
「マネー! ツリはイラナイサヨナラ!」
 と、カウンターに札束を置き、美少年たちに手を振って店を走り出てゆく。
「スーパーヒーローって、本気でいってるのかな?」
 急に静かになった店内で、一人の客がボソッと呟いた。

 レオパルドンの前に止めてあったハーレーダビッドソンに飛び乗り、ジュディはアクセルを吹かした。
 レッツ・ゴー!
 ハーレーのエンジンがくぐもった唸り声をあげ、タイヤがアスファルトを噛む。
 ノーヘルで髪を波打たせながら、ジュディは呟いた。
「デッドクラッシャーズ、許せないよ! 絶対倒してやる!」
 デッドサンダー率いる超甲人部隊に襲われている○○商店街に近づくにつれ、街から逃げだしてくる市民たちがジュディとすれ違うようになる。
「みんな、逃げろ! 警察はもう何もしてくれない! 俺たちは殺されるだけなんだ〜!」
「いつから世界はこうなった? いったい誰の仕業だ?」
 逃げまどう市民たちをよそに、ジュディは修羅場へとマシンを駆る。
 商店街を封鎖する警官隊の姿がみえてきた。
「きみ、ここから先に入ってはいかん! 引き返すんだ!」
 ジュディに気づいた警官が拡声器で呼びかける。
「ノー、ノー! アイ・アム・ガーディアン! アイ・マスト・ゴー・イントゥ・ゼア!」
 引き返すどころか、ジュディはますますスピードをあげる。
「と、止まれ! 撃つぞ! うわ〜」
 警官たちは銃を構えたが、間に合わないと知って頭を抱える。
 そのとき。
 ブウウウウウン!
 ジュディのハーレーがうなったかと思うと、ひといきに跳躍し、警官隊のバリケードを飛び越えた。
 見事なジャンプ。
「ヘイヘイヘイ、始まりマスヨ〜!」
 ジュディは笑いながらハーレーで突っ込んでいった。
 戦場へと……。

2.世界一の錬金術師

「イー! イー!」
 地獄と化した○○町商店街。
 デッドクラッシャーズの超甲人部隊が自動小銃を乱射し、逃げ惑う市民を血祭りにあげている。
 ダダダダダ! ダダダダダダ!
 こぼれ落ちる薬莢。
「や、やめろ! 俺たちが何をしたっていうんだ? やめろ〜!」
 頭蓋を打ち抜かれ、脳漿をまき散らしながら倒れる小市民たち。
 と、そこに、ボブカットの少女が現れた!
「お、おい、きみ! 何をしてるんだ? 早く逃げないと」
 少女の姿に気づいた市民が、慌ててその肩をつかむ。
 だが少女は、バーンとその手を振り払った。
「気やすくレディーの肩に触るもんやないで! セクハラやろ。あたいがこいつらを止めたるさかい、あんたははよ行きな」
「ほ、本気か? 勝手にしろ……あっ、うわあっ!」
 少女の強気に呆れて駆け出そうとしたその市民も、超甲人の小銃によって蜂の巣にされてしまう。
「ちっちっちっ、甘いわ! 銃はそないして使うものやない!」
 血しぶきをあげながら倒れた市民をみても、少女の目はぴくりともしない。
「イー! 可愛い女の子ぶっ殺し〜!」
 超甲人の自動小銃が少女に向けて乱射された、次の瞬間。
 少女はサッと身をひるがえして銃弾を避けると、大腿のホルダーから拳銃を抜いて一発撃ち放った!
「イ〜イ〜気持ちイ〜!!」
 少女の弾丸をくらった超甲人がわめきながら倒れる。
「わかったやろ? 銃は適当にぶっ放せばいいんとちゃうで!」
 啖呵をきる少女を超甲人たちが囲んだ。
「イ〜、生意気な女の子! ぶっ殺して裸に剥いてやる!」
 超甲人たちがいっせいに自動小銃を少女に放った、そのとき。
「は〜」
 少女が懐から取り出したボール状の金属を天にかざすと、ボールから強烈な光が漏れ、少女の身体を包み込む。
「シャモン家の錬金術は世界一ィィィィィィ!! 変身や!!」
 ダダダダダ! カンカンカン!
 360度四方から乱射された自動小銃の弾丸が、少女を包む光に当たって、次々に弾かれる。
 光のやんだそこに現れたのは、レッドクロスを鎧のように身にまとったガーディアン、アオイ・シャモンの姿だった!
「あんたら、全滅した第1部隊とあたいを一緒にしたらあかんでぇ!」
 アオイがくいっとレバーを引くと、背中のガンランチャーが炎を吹いた。
「イ、イイ〜、何でこんな女の子にやられるの〜!?」
 ちゅどーんと火柱がのぼり、超甲人たちは装甲を粉々に砕かれて塵と化す。

「お前ら待て〜!! 逃げるんやない!!」
「あ〜あ、ダメですわね〜。こんなに汚しちゃ」
 アオイが銃を連射しながら駆けていった後から、モップをかついだ少女が歩いてきた。
 ピンクのふわっとしたスカートにヘルメット。
 またしても、こんな修羅場になぜ、という疑問を生じさせる美少女だった。
「うんせ、うんせ」
 少女は超甲人たちの残骸である塵をモップで拭いて清め、そこら中に散乱している薬莢を一カ所に掃き集めた。
「ああ〜、お掃除、お掃除♪ 楽しいな〜」
 一人熱心にモップをかける少女を、超甲人のマッチョ部隊が取り囲む。
「ウラァ! 可愛い子が何してる? 襲っちゃうぞ〜」
「うんせ、うんせ。あ〜よく吠えますわね〜」
 マッチョ部隊が筋肉モリモリの肉体を誇示して脅しをかけても、少女は知らんぷり。
「ムキー! なめてるな〜! よーし、お仕置きだ! 今度は俺たちがお前を舐めてやる〜!!」
 マッチョ部隊が少女につかみかかろうとした、そのとき。
「あ〜、も〜、うるさいったら、ありゃしない!」
 少女はモップをマッチョの顔面に叩きつけると、懐からボール状の金属を取り出し、天にかざした。
「プリティ・ア・ラ・モード☆」
 少女の身体が光に包まれ、ブーンと唸ったかと思うと、レッドクロスを身にまとったガーディアン、アンナ・ラクシミリアンがすくっと立っていた。
「嫌になりますわね〜。この間、年末の大掃除をしたばかりですのに〜!!」
「ぐわ〜、ぐわ〜!!
 アンナの振り回すモップの一撃を受けて、マッチョの超甲人たちが次々にはね飛ばされていく。
「仕方ありませんわね〜。新年の大掃除をさせて頂きますわ!!」
 うつぶせに倒れ伏した超甲人の背中を踏んづけて、アンナはその頭をモップで拭き始めた。

3.ジュディのキックオフ

「デッドォォォォ! デッドォォォォォ!」
 爆撃を受け、火炎地獄と化した商店街に、どうみても巨大なクワガタにしかみえない怪人デッドサンダーの恐怖の雄叫びがこだまする。
「お前らは俺に勝てん! 消え失せろ! デッドサンダァァァァ!!」
「う、うわ〜、こんな奴にどうやって勝てというんだ〜」
 デッドサンダーの頭部のハサミから超高圧電流が放たれ、レッドクロスを破壊されたガーディアンが次々に殺されてゆく。
「フン、実験体だと? ふざけるな! 俺は既に完成されている! ここでそれを証明してやる!」
「ヘイ、おしゃべりはストップネ〜!」
 ブォン、ブォーン!!
 どこか苛立たしげなデッドサンダーの聴覚に、バイクの爆音がとどろく。
「む? 何者だ?」
「ヘイ、クラッシュ!」
 ノーヘルの金髪ヤンキー娘が、ハーレーで焦土を駆って突進してきた!
 ハーレーの後輪がデッドサンダーの背中をかするが、怪人はビクともしない。
「フン、ヒーローかぶれが! 貴様も血祭りにあげてくれる!」
「かぶれじゃないよ!」
 ジュディはハーレーから地面に飛び降り、ポーズを決める。
「やっとHEROの出番きたみたいネ♪ レッドクロスSETUP! アーユーOK? レディ……GO! GO! GO!」
 ジュディがボール状の金属塊を額にふりかざしてニッコリ微笑むと、全身が光に包まれた。
「今度はアメフトかぶれか!」
 ジュディのレッドクロス装着の姿はアメフト選手そっくりだ。デッドサンダーが呆れたように首をうちふる。
「ノー、ノー! かぶれじゃないね、おバカさん! ミーはホンマもんのアメフトプレーヤーだったのヨ! いくよ〜キックオフ!」
 どこからか取り出したアメフトのボールをジュディが蹴る。デッドサンダーは思わずそのボールをキャッチしてしまった。
「はっ、しまった。おのれ、乗せおって! いくぞ、デッドサンダァァァァ!!」
「とおっ」
 超高圧電流をたくみにかわして、ジュディは跳躍。
「おのれ、ナメるな!」
 デッドサンダーは傍らの地面に倒れていた電信柱を持ち上げて、振りまわす。
「オー、サムライスピリッツ! ミーもやるね!」
 着地したジュディもまた、近くの電信柱に手をかけると怪力で引っこ抜き、デッドサンダーにぶつける。
 カチーン、カチーン! と、電信柱と電信柱がぶつかり合い、激しい火花が散った。
「フフフ、ユーはホントのおバカさん! ミーがオトリだとも知らずにノンキなものネ〜」
 闘いの最中、ジュディはほくそ笑んだ。
 ゲームは、ジュディ一人では成り立たない。彼女がキックオフしたのは、自分と仲間たちとでプレイするゲームにほかならないのだ。

4.トゥルーアーチャー

 サミュエル・ノックス。
 ○○町商店街上空500メートルを飛びまわるデッドクラッシャーズ爆撃機のパイロットである。
 悪の爆撃機パイロットとして彼はこれまでに数多くの町を火の海に沈めてきた。
 彼がスイッチをひとつ押すだけで、ダイヤより重い爆弾の雨が都市に降り注ぎ、数千人・数万人の生命を一瞬にして奪うのである。
 その快感は筆舌に尽くしがたいものだった。
「うう、気持ちいい……ハァハァ」
 その日も、あまりの快感によだれを垂らしながら、サミュエルは爆弾を投下した。
 ひゅるひゅる、どかーん!
「うわー、やめろー!」
 商店街の人々が、次々に火だるまと化す。
 ガーディアンたちも爆撃にはなすすべもなかった。
「おい、あんなの、どうしろってんだよ? 爆撃機なんか、俺たちが落とせるもんじゃないだろ!」
「そうだよな〜。俺たち、なぜか近距離戦・格闘戦専門の奴ばかりだもんな〜。遠距離シューティングやれる奴がいないんだよ〜」
 逃げまどうガーディアンたちの間で、怒号がとびかう。
「ふっふっふ。ご心配なーく!」
 そんなガーディアンたちの前に、ブレザー姿の科学者が現れた。
「うん、お前誰だ? あっ、思い出したぞ。確か、開発部の……」
「そう、俺は魔道科学者であると同時に学生でもあり、そしてまたアーマードピジョン開発部の技術者でもある!」
 武神鈴は不敵な笑みを浮かべた。
「あっ、おい、また爆撃がくるぞ! 逃げろー!」
 ガーディアンたちは武神など構ってられないとわめきだす。
 ひゅるひゅるひゅると、爆弾が武神の頭上に迫ったそのとき!
「精神エネルギー変換……レッドクロス展開……装着!」
 武神がポケットから取り出したボール状の金属塊が白衣のようなものに展開され、ブレザーの上から武神を包む込む。
 どかーん!
「ふっ、口ほどにもない」
 全身から煙を吹きあげながらも、武神は平気な顔でたっていた。
「お前、よく平気だな。その白衣はレッドクロスなのか?」
「そう、精神エネルギーを変換すれば火もまた涼しというやつだな。ときにきみたち、これを」
 武神は巨大な投げ槍のようなものを仲間たちに手渡した。
「こ、これは!? ミサイルか?」
「ミサイルではない、これは槍だ。だが、ただの槍ではない。重合金製の穂先の中に新型爆薬を詰め、後部に切り離し式ジェットブースターとスタビライザーを装着した投げ槍、その名もシュートランサーだ! さあ、これを使えば、あの爆撃機を倒せる。せいぜいがんばるのだな」
 ポンッと仲間にシュートランサーを手渡すと、武神はくるりと背を向けて歩き出した。
「お前、どこに行くんだ?」
「ふっ、知れたことを。俺は身体能力に秀でているわけではない。レッドクロスを着用しても戦闘には不向きだろう。だから補佐役として、逃げ遅れた市民たちの救護活動にあたるのだ」
 武神は、振り向かずに答え、廃墟の中に消えた。
 ひゅ〜っと、一陣の熱い風が一同を駆け抜ける。
「でもいきなりこんなの使えといわれてもな」
 ガーディアンたちは戸惑ったが、そうしている間にも爆撃機がまたやってくる。
「くそっ、とりあえずこれを撃たなきゃ! どうやって作動させるんだ? この、この!」
 ごちゃごちゃいじってると、シュートランサーの後部に火がついた。
「うわっ、飛ぶぞ! 危ない〜」
 ブッシュー!
 ガーディアンたちが慌てて手を放すと、シュートランサーは斜め45度で飛び出していった。
 しゅう〜どごーん!
 ショッピングセンターの屋上の角にシュートランサーが激突。
 ガラガラと音をたてて、ビルが崩れ落ちる。
「うわ〜、かえって大変なことに〜!!」
 無数に振り注ぐビルの破片から、ガーディアンたちは必死で逃げ惑った。

 ショッピングセンター崩壊をよそに、武神は逃げ遅れた市民たちを救護してまわった。
「大丈夫か。しっかりしろ!」
 レッドクロスで炎や煙を防ぎながら、次々に人々を助け起こしてゆく。
「大丈夫か? しっかりするんじゃ!」
 武神と全く同じことをいう声が響く。
「うん? 警察か? バカな! 生身でこんなところに?」
 目を丸くする武神の前で、警察官の服を着た恰幅のよい中年男が、全身真っ黒になりながら人々に肩を貸していた。
 その男の生やしている髭をみて、武神は思わずうめき声をあげる。
「あ、あれはカイゼル髭だ! はじめてみたぞ!」
 興奮のあまり拳を握りしめる武神をよそに、その警官は黙々と救助活動を続ける。
「署長! 瓦礫の下に女の子が!」
「早く救助するんじゃ、バカ者!」
 部下の警官の報告を受け、怒鳴り声をあげるその中年は、いったい?

 超極秘チャット空間。
 各地に点在するアーマードピジョンのスタッフたちが電子会議に使うその空間で、いま慌ただしく情報がやりとりされていた。
「敵の新型、いまだに詳細は不明!」
「ガーディアンたちは有効な攻撃方法をみつけられていません!」
 ○○町商店街に出現した謎の怪人デッドサンダーの存在を重くみたスタッフたちは、必死で情報を収集、分析にかけていた。
「うん? いま入った情報では、警察官たちが商店街内部で救助活動を始めたと?」
「バカな! 商店街を封鎖するしか能のない警察がなぜ? 組織上部からはまだ救助命令が出ていないはずだ」
 そのとき、チャット空間に稲妻のような声がはしる。
「それはきっと、犬塚署長と、その部下たちです」
「グレイト・リーダー!」
 電子会議中のスタッフたちが、思わず自宅端末前でうなり声をあげる。
 スタッフたちの前にもめったに姿を現さないリーダーが、チャット空間にその異様な姿をみせていた。
 チャット上のアイコンで表示されるその顔は、年齢不詳で若いとも年輩ともつかない、知的そうな目の男性だった。
「リーダー、犬塚署長とは?」
「知らないんですか? 頑固で有名な警察署長ですよ。政府の思惑など気にせず率先してデッドクラッシャーズに立ち向かう、不屈の闘志の持ち主です」
「その頑固な署長が、上からの命令を無視して救助活動にあたっているというのですか? あの普通の人間なら数秒ともたない火炎地獄の商店街で?」
「○○町商店街が犬塚さんの署の管轄だったとは、私もうっかりしてました。あの方なら、炎の中でも決してへこたれないでしょう」
 スタッフたちにはグレイト・リーダーがどこかなつかしい表情を浮かべているように思えた。
 無論気のせいに違いない。ここは電子空間、リーダーの顔はアイコンに過ぎないのだから。
(しかしなぜ、リーダーはその署長のことを知っていたのか?)
 スタッフの誰もが心の中で同じ疑問を持っていたが、口に出す者はいなかった。

「大丈夫か? いまワシが助けてやるぞ!」
 瓦礫の山をかきわけ、犬塚署長は全身傷だらけの少女を抱き起こした。
「うう……おまわりさん、早く逃げて……わたしはもうダメです。早く逃げないと、おまわりさんたちも死んじゃいます……はあ」
 少女はうっすらと目を開けて署長を見上げ、か細い声でいった。
「何をバカなことをいっとるのだ、さあ、この子を運んでいけ、急いで!」
 署長は部下に命じて少女を運ばせた。
「あの子、だいぶ身体が傷ついているな。それはそうと、あんた、生身のわりにはタフだな。警察なんかやってないで、俺たちの仲間になってレッドクロスを装着すれば、もっと強くなれるんじゃないか」
 武神鈴は署長に近づき、声をかける。
「フン、わしはガーディアンではない、あくまでも一警察官に過ぎんし、またガーディアンになりたいと望んでいるわけでもない。わしは、あくまでも警察官として、一般市民の救助にあたりたいのだ。お前にはわからんかもしれんがな」
「ふっ、頑固そうなオヤジだぜ。とりあえずいまは俺も救助活動をしている。協力してやろうか」
「なるほど、お前がわしと目的を同じくする間は、わしも協力するとしようか」
 二人はうなずきあうと、ともに瓦礫をとりのけ、市民たちを助け起こし始めた。

「ヒャーハッハッハ! 気持ちいい、気持ちいいぜ〜!!」
 サミュエル・ノックスは有頂天になって上空からの爆撃を5割増しにしていた。
「ああ、たまらないぜ。逃げ惑う、蟻のような人間たち! そして、泣き叫ぶ女たち、子供たち! そんなに騒ぐなよ。いまから俺が楽にしてやるぜ〜」
 サミュエルはまたひとつ爆弾を投下した。燃え上がる街。
「ああ、この快感、この優越感。俺は神だ。そう、神なんだ! この地上にいるバカどもを神であるこの俺が粛正するのだー!!」
 ひゅるひゅるひゅる。どかーん、どかーん!
 燃え上がる地上。
 そんな中、まだ倒壊を免れているビルの階段をのぼる、一人の少女の姿があった。
 聖女学園生徒、武者小路真弓である。
「ふう。だいぶ、やってくれちゃってますね〜。でも、もうすぐですよ」
 ビルの屋上に出ると、眼下の火炎地獄をみやってため息をつきながら、真弓は肩にもたれさせて運んできた細長い袋をとき、長弓を取り出すと、矢をつがえ、天に向けて引き絞った。
「このような悪逆非道……たとえデウス様が許しても、このトゥルーアーチャーは見逃しません。我が一撃必殺の矢をくらいなさい!」
 真弓がかっと気合をあげると同時に、胸に入れてあったボール状の金属塊が光を放ち、真弓と、長弓とを包み込む。
 レッドクロスをまとったガーディアン・武者小路真弓は、通称トゥルーアーチャー。アーマードピジョンでは貴重な、遠距離支援系のスナイパーである!!
 レッドクロスは真弓の身体だけではなく、長弓を包み込み、攻撃力・射程をアップさせた。
 きりきりきり。
 真弓がつがえる矢の先には、上空を駆ける爆撃機の姿があった。
「ふう。もっと高みにのぼって優越感を味わうとしようか」
 サミュエルはさらに爆撃機の高度をあげ、1000メートル上空にまでのぼりつめた。
「あら、ちょっと上がりましたわね」
 弓を引き絞っている真弓はかすかに目を細めたが、たいして動揺はしていない。
「なんなのかしら、この力は……。あの爆撃機に対する私の怒りが、ひとつの爆発を迎えようとしている、それと同時に、クロスが、レッドクロスが!」
 はじめて経験する現象に、真弓はゾクゾクするものを感じた。
 いまや真弓の全身は光り輝き、矢じりに恐るべき力が集まっている。
「やらせてもらいますわ、あの伝説の技を!」
 いまこそそれが可能だと、真弓は悟っていた。
 よくみると、真弓の矢の矢柄には、魔導書から破り取った頁が結びつけてある。
 その、破り取られた頁が、青い炎をあげていた。
「天に坐します我らがデウスよ、そして南無八幡大菩薩も御照覧あれ! エンチャントアロー!!」
 限界まで引き絞られた矢がついに放たれ、遥か上空の爆撃機めざして恐るべきスピードで飛んでゆく。
「ヘヘヘ! 500メートル上空にあるこの爆撃機を狙撃できる奴なんて、この世にはいない! ああ、いないさ。特にあの、逃げ惑うしか能のないゴキブリガーディアンたちには絶対できない! ヒャハハ! 絶対安全な境地から人の生命を踏みつぶす、俺はまさに神だ!! 神なんだ〜!!」
 サミュエル・ノックスがまさに最後の大規模爆撃を行おうとしたとき、真弓の矢が爆撃機を貫いた。
 ピカッ!
 空に大きな光が生じたかと思うと、次の瞬間大爆発が起きる。
「う、うわ〜」
 何が起きたのか理解できない状態の中、閃光の中でサミュエルの生命の火は消えた。
 ちゅどーん!
 爆撃機のかけらが地上に降り注ぐ。
「ふう。私の仕事は終わりました。あとは、あの人たちを見守ることにしましょう」
 真弓は静かに、ビルの屋上から地上の闘いを見下ろした。
 正義は必ず勝つのだと、確信しながら。

5.超甲人機の謎

「とあー! はあー!」
 デッドサンダーとジュディ・バーガーとの闘いは、いつ果てるともなく続く。
「ハア〜、いったい何だってのこいつは? 疲れを全く知らないみたいネ〜。でもソロソロ、彼が動いてくれるハズデ〜ス」
 さすがのジュディも息切れしてきた。
「デッドォォォ! デッドォォォォォ! 俺は全てを破壊する! なぜだか教えてやろう! この世の中はクソだからだぁぁぁぁ! 俺は、俺は人間だったとき会社をリストラされ、家族を失い、自殺にまで追い込まれたのだ! この国はそんな俺に何をしてくれた? 競争? 自己責任? はっ、ふざけるなあ!!」
 デッドサンダーが咆哮をあげると、その身体が黒い光を放ち、ジュディが負わせた傷もみるみる回復していく。
「あの光はいったい? 傷が回復しただけではなく、力も増しているようだわ。あの装甲にはどんな秘密があるの? ジュディが時間を稼いでいるうちに、私も何かしなくちゃ! でもレッドクロスを装着したいのに、近くに人がいないのよね〜」
 ガーディアンの一人スズカ・アマテラスは緊迫した面持ちで戦闘を見守っていた。
「もしもし、もしもし!」
 そんなアマテラスに、ぴょんぴょんと飛びはねながらやってきた一人の少女が声をかけた。
「あら、あなたは?」
「ボクはトリスティア! お姉さん、ちょっと聞いてもいいですか? 何で、ミニスカートで素足でいられるのかな〜? ここの地面、すごいことになってるのに」
「ああ、これ? 私はね、実体のないホログラムなのよ。だから、爆発がきても平気だし、素足でも痛くないのよ」
「ほろぐらむ〜? う〜ん、お姉さん不思議!」
「ちょうどよかったわ。ホログラムに過ぎない私がレッドクロスを装着するには、手をつなぐことで精神力を提供してくれる人が二人以上必要なの。お願い、いいでしょ?」
「うん、いいよ〜。でも、もう一人は?」
 スズカの手をびたっと握りしめて、トリスティアはキョロキョロ。
 そのとき、葛城リョータが瓦礫の中を這いつくばって、二人の足もとにまでとりすがってきた。
「トリスティアさん〜、メシ下さい〜。また腹減っちゃって。たえられない〜」
「え〜っ? さっきあげたばかりじゃん、リョータ」
 トリスティアは呆れ顔。
「ちょうどよかったわ。リョータも私の手を握って。ご飯をあげるから」
「本当? わ〜い」
 リョータは喜々としてスズカの手を握った。
「ああ、感じるわ、二人の精神力を! リョータのはご飯が欲しいという執念が精神力になってるわね! でもいいの、これで私は……戦闘体制、攻撃準備、天照、砲雷撃戦用意に入ります!」
 しゅごおおおおっとスズカの身体が光に包まれ、手をつないだままのトリスティアとリョータは目を丸くした。
「う、うわわ〜」
 精神力を提供した二人の絶叫がこだまする中、レッドクロスを装着したスズカの身体が宙に浮く。
「さあやるわよ! ところでトリスティア、あなたたちは変身しないの?」
「えっ? うん、ボクは高い所から出る予定だから」
「はあ?」
 スズカは一瞬首をかしげたが、すぐに思い直し、ジュディと闘うデッドサンダーを振り向いた。
 ピピピ
 スズカの送る通信が次元を越えて惑星連邦宇宙艦隊所属宇宙戦艦「USS天照2321B」のメインコンピュータシステムに送られる。
「主砲、発射用意、方位修正上下角プラス20度、主砲発射!」
 スズカが叫ぶと同時に、戦艦天照の第一砲塔が20度持ち上がり、青いエネルギー弾を打ち出した。
 シュホウ、ハッシャ。ジゲンエックス、ホロエミッターナンバーシックスヘ。
 機械語の命令が天照の中を駆け巡る。
 ドーン!
 打ち出されたエネルギー弾は次元を越えて○○町商店街上空に現れ、デッドサンダーの身体に降り注いだ。
「ぐ、ぐわ〜、何じゃこりゃあああああ!」
 青い光に包まれたデッドサンダーがうめき声をあげる。
「オ〜、ついにやったネ!」
 ジュディの歓声。
 カイセキ、カイシ。反射された青い光の粒子は次元を越えて戦艦天照の解析装置に収集され、その付着成分を分析される。
 ピピピピピピ!
 分析結果の通信を受けたスズカは、思わず叫び声をあげた。
「なんですって!? 装着者の邪悪な思念に反応する未知の物質で構成されている? 思念の力が増せば増すほど、装甲の力もほぼ無限大に上昇し、装甲自体が攻撃力を提供するようになる? どういうことなの? つまり装着者の精神力に反応するという点では、レッドクロスと全く変わらないわ」
 予想していた全ての解答から外れる分析結果に、コンピュータのホログラムであるスズカも動揺を隠せない。
「レッドクロスと同じ……同じ!? なぜ!? アーマードピジョンはレッドクロス開発の過程を完全極秘にしているけど、何か関係が!?」
「そこまでです」
 スズカの中に、何者かの声が響いた。
「誰!? まさか、グレイト・リーダー!? どうやってこのホロエミッターにアクセスしてきたの?」
「あなたと別次元の戦艦との通信を傍受させて頂きました。貴重な分析結果をありがとうございます。これで敵の新型に対策をたてられる。ですが、あなたはこれ以上知る必要はない。データはこちらがコピーし、戦艦保存のものは削除させて頂きました。データ提供の特別報酬として5000万円が支給されます。あなたの口座がわからないので、後ほどピジョン事務局まで連絡お願いします。それでは」
 それだけいって、グレイト・リーダーの声は消えた。
 ツウシン。ホロエミッターシックス、アクセスコードアリ、ブンセキデータデリート。
 間髪入れず、天照から通信が入る。
「えっ、ちょっと待って、私のアクセスコードを使ってグレイト・リーダーがメインコンピュータに潜りこんだというの? 別次元との間に開いていた通信回線をたどられたのね。ああ、もう、今後はこんなことがないようセキュリティを強化しないと。それにしても、5000万円とは、今回の戦闘MVPよりも高額の報酬ね。アーマードピジョンは、そこまでしてあの新型の情報が欲しかったというわけね。でも、おあいにくさま。分析データは保存と同時に艦隊司令部にも送信されているの。じきに指令がくるわ」
「うおおおおおお〜!! 面白くなってきたぜ!! そうこなくっちゃな〜!!」
 艦砲射撃を受け、一瞬沈黙したデッドサンダーの身体が再び黒い光を放つ。みるみる傷が回復し、ブーンブーンと超甲人機は飛びまわり始めた。
「なんてこと! あれでは第二弾の照準を定められないわ! それに、さっきの砲撃を受けて、より装甲が強化されたみだいし、もう天照の砲撃は受けつけなくなっているかも。くっ、やはり白兵戦でやるしか?」
「指令。先ほど送信された装甲データは、いまだ不明な部分も多いが、性質だけではなく基本的な構造もレッドクロスと全く同一のものと判明。レッドクロスのデータ同様極めて興味深く、引き続きデータ収集を行うように。以上」
 指令はすぐに切れた。
「引き続きデータ収集? もう少しこの世界にいろということ?」
 スズカがひとりごちている脇で、頼りなさげなリョータのうめき声があがる。
「あ、あの〜、メシは、まだですか? 約束したじゃないですか。ひどいな〜」

「ふううううう〜〜〜、そうだよな〜そうでなくっちゃな〜面白くないよな〜」
 戦艦天照の次元を越えたエネルギー砲撃を受けてから、デッドサンダーのテンションが次第に上がってきた。
「ドウイウコトネ? 強力な攻撃を受けてなお恐れを知らず、心が燃えている?
 すさまじい闘志ネ!」
 さすがのジュディ・バーガーもやや青い顔だ。
「ハハハハハ! お前たちがいかにもがこうとあがこうと、私のこの力には決してかなわない! 無限に進化を続けるこの力には!」
 強烈な破壊衝動に駆られたデッドサンダーがたからかに咆哮をあげると、闇のオーラが一層濃く超甲人機の身体にまつわりつき、恐るべき力の波動を生み出し始める。
「いくぞ〜デッド、デッド、デッドサンダァァァァ!」
 デッドサンダーの頭部から、ひときわ大きな電撃が放たれる。
「OUCH!?」
 かわしきれなかったジュディが超高圧の電撃に包まれ、英語の叫びがわきあがる。
「ハハハハハハハハハハハ! 弱き者は死ね! もうこんな世の中はどうなっても構わないのだ!」
 デッドサンダーの電撃は超甲人部隊と闘うアオイ・シャモンとアンナ・ラクシミリアにも情け容赦なく放たれた。
「う、うわ〜きっつ〜ちくしょう!!」
 電撃に撃たれたアオイが地面に転がる。
「あ、ああああああ〜!! 頭がビリビリ〜」
 アンナも頭を抱えてうずくまる。
 チャンスをみた超甲人部隊が、アオイとアンナを取り囲んだ。
「ヘッヘッヘ、痛めつけられた分たっぷりお返ししてやるぜ!!」
「く、くっそ〜!!」
「フハハハハハハ! 許してもらいたければひざまずけ!」
 デッドサンダーはぐったりしたジュディにパンチをお見舞いし、どんどん追いつめる。
「メ、メシ〜!!」
 葛城リョータの叫び声。
「くそっ、とあー!」
 スズカ・アマテラスはデッドサンダーにくってかかるが、振りきられる。
「あっ、ホログラムが……まさか、電流がホロエミッターに干渉を!?」
 ホロエミッター不調により実体を失い純粋に幻影と化したスズカはダメージを受けることはなくなったが、相手にダメージを与えることもできなくなった。
「貴様はそこで高見の見物でもしてろ! 仲間の滅ぶ姿をたっぷり観察してな!」
 デッドサンダーは笑う。
「うう、トリスティアは!? 高い所にのぼっているのかしら?」
 スズカはこの状況をどうすれば打開できるのか戸惑う。
「メ、メシ〜!! ぐはっ」
 リョータがついに空腹に耐えられず倒れる。
「ノ〜、ノ〜、ノ〜、クレイジ〜!!」
「くっ、やめろ、セクハラしおったら死刑やで、うう」
「うう、こんなところで殿方に襲われるなんて、私はまだお嫁にもいってませんのに!」
 ジュディ、アオイ、アンナも地面に倒れ伏し、砕かれたレッドクロスが地面に散らばる。
「はっはっは、負け犬よ! お前らは全員私の足を舐め、奴隷になることを誓うのだ! そしたら生命を助けてやってもいいぞ〜」
 笑うデッドサンダー。もはや、彼らは負けるしかないのか!?

6.目覚める「力」

「絶対絶命、ですか。でも、私は信じています。あなたたちは決して負けないと。もちろん、私はまだ助けるつもりはありません」
 爆撃機を狙撃したビルの屋上から戦場を見守りながら、武者小路真弓は天に祈りを捧げて呟く。
「神よ!!」
 真弓が祈りを捧げると、どんより濁った天の一角が割れて光が降り注いだように思えた。
 そのとき。
 プアン〜。
 どこからともなく、サックスの音が鳴り響いた。
「うん? 誰だ、こんなところでサックスなんか吹くのは?」
 驚いたデッドサンダーがキョロついたとき。
 もはや電線などどこかへ吹き飛んでしまったとある電信柱の上に、すくっと現れる影。
 プアン〜。
 サックスを吹き鳴らす少女は、フレア・マナだ。
 その目に、炎が燃えていた。
「フン、ちょっと後から出てくれば有利になるとでも思っているのか? 悪いがこれはヒーロー番組じゃない! テレビの法則は通じないんだよ〜! デッドサンダー!!」
 超高圧電流が電信柱の上のフレアを包みこんだとき、少女は叫んだ。
「悪を憎む心の炎! この身に纏いて敵を討つ! 爆装!!」
 少女の身体が光に包まれ、レッドクロス装着となる。
「デッドクラッシャーズ! 僕はお前らを許さない!!」
「うん? レッドクロスを破壊できるはずの私の電流をくらっても平気なのか?
 なぜだ?」
 デッドサンダーははじめてうろたえた。
「とおっ」
 ところどころに炎の意匠を散りばめた全身スーツにマントを羽織り、戦人乙女と化したフレアは戦場に降り立った。
「むうっ」
 飛び降りながらフレアのまき散らした砂鉄の粉末が、デッドサンダー周辺に霧のようにたちこめる。
「ふっ、こんなもので私を止められはしない!」
 デッドサンダーがブーンと羽をはばたかせると、砂鉄はちりぢりに吹き飛ばされてしまう。
 策を破られても、フレアは動じなかった。
「死ね! デッドサンダー!!」
 超高圧電流が再びフレアを襲う。
 プアン。
 その瞬間、フレアの脳裏に、最初の闘いに敗北して行方不明となった姉の姿が浮かんだ。
(逃げて、逃げて! 早く!! 殺されてしまうわ! ああ〜)
(姉さん、姉さ〜ん!!)
 記憶の中の光景にフレアが拳を握りしめたとき、レッドクロスがまばゆい光をあげる。
「なぜだ、なぜ私のサンダーが通じない!? お前は、私が恐ろしくないのか?」
「許さない、僕は絶対悪を許さない!! たとえこの身が朽ち果てようとも!!」
 フレアの感情がたかぶればたかぶるほど、レッドクロスの光は輝きを増し、戦場に太陽が爆発しているようだった。
「これは!? レッドクロスの装甲の力が強化されている!? まさか、やはり同じなの?」
 スズカ・アマテラスはフレアの光にインスパイアされた恐るべき何かを感じた。
「オ〜、フレアすごいです! まさにスーパーヒーロー!」
「そうやな、ワシら、負けちゃアカンのや!」
「うう、まさかあなたに教えられようとは!」
 ジュディ、アオイ、アンナの3人もフレアの様子に励まされて、立ち上がる。
「正義のために! 負けられないです!! 何度でもうってこいです!」
 3人が心をひとつにして気炎をあげると、地面に砕け散っていたレッドクロスが光をあげ、再び3人の身体にまといつき始めた。
「これは、バ、バカな!?」
 デッドサンダーの電撃は、もはやガーディアンたちに通じなくなっていた。
「巨大な相手にも決して恐れを抱かず、正義を貫こうという情熱がレッドクロスの力を引き出しているんだわ! それにしても、この力はどこまで増大するの?」
 スズカは現象の行く先が何をもたらすか考えて、なぜかぞっとした。
「ああ、僕の中で何かがたかぶっている。僕はもう、自分を抑えられない!」
 目の前の相手に対する怒りが増せば増すほど、フレアは未知の力が自分の中に増大するのを感じた。
 気がつくと、フレアが手にしている伸縮式警棒のフレイム・ロッドが超高熱の炎を剣のかたちに吹きあげている。
「許さない、許さない! 多くの罪なき市民を血祭りにあげ、むごたらしく殺したお前が!! 僕は、僕はもう、ああ!」
 フレアの身体が無意識のうちに動きだし、炎の剣と化したフレイム・ロッドを振り上げ、デッドサンダーに斬りかからんばかりになった。
 そのとき、フレアの中に声が響いた。
「危険です。直ちに中止して下さい」
「グレイト・リーダー、どこから私の携帯端末にアクセスしているの?」
「あなたがいま発動しようとしているその力は、あまりにも未知の恐るべき可能性を秘めすぎたものです。アーマードピジョンはレッドクロスのそのような使い方を認めていません。直ちに力の発動を中止し、常態に復帰するのです」
「中止するって、そんなことできない。もう、身体が勝手に動きだしていて、イメージを、僕の中のイメージを実現に移そうとしている!」
「何ですって!? 身体が勝手に!? そんなバカな!」
 グレイト・リーダーは心底驚いたようだった。
「制御できないというのですか? やめなさい、やめるのです!」
 だが、グレイト・リーダーの制止はもうフレアに聞こえていなかった。
「う、うわー!!」
 全身から劫火を吹きあげながら、フレアは駆け出していた。
 炎の剣を振り上げながら。
「エネルギーが、エネルギーの爆発が起きるわ!」
 スズカの悲鳴。
「くそったれが! 俺だってそう簡単にはやられねえんだよ! おらぁ!」
 咆哮をあげ、全身から闇のオーラをほとばしらせがなら、デッドサンダーもフレアに突進し、頭部のハサミを相手に突き立てようとする。
「ふるえる炎が悪を切り裂く!! 必殺、バーニング・ブレイカァァァァァー!!!!!!」
 炎の剣を振り下ろすフレアと、ハサミをフレアの喉に突き立てようとするデッドサンダーが激突した。
 ちゅどーん!
 大爆発が起きる。
 その瞬間、ガーディアンたちはみた。
 フレアの剣がデッドサンダーのハサミの片方を撥ね飛ばしたのを!
「う、うわああああ俺の象徴がぁ!!」
 頭部から炎を吹きあげながら、デッドサンダーはのたうちまわった。
「くっ、外した。ほんの一瞬だったけど、こいつは身体をひねってかわそうとしたんだ。致命傷は与えられなかったよ。うわあっ」
 暴れる敵の拳が当たって、フレアは吹き飛ばされ、大空の彼方に消えた。
「おおおおおお、俺はまだ負けない、負けないぞ!! 地獄なら見慣れているのだ!」
 デッドサンダーは闇のオーラを増幅させ、ダメージから回復しようとする。だが、頭部のハサミが元に戻ることはないのだ。
「まだ生きてるのか? なんて奴だ」
 ガーディアンたちは戦慄した。

7.流星かけるとき

「オー! 次はあたしの番ネ!」
 ジュディ・バーガーはすかさずデッドサンダーに突進した。
「あたしも力を発動するネ! パワー・オブ・フルチャージ!」
 アメフト選手そっくりのジュディの全身が光を放ち、レッドクロスの力が増大する。
 ドゴーン
 デッドサンダーにジュディのメガトン級体当たりが決まった!!
「ぐわ〜」
 デッドサンダーはもろに吹っ飛んでビルに激突。ガラガラと音をたててビルが崩れる。
「まだまだ〜デッドォォォォ!」
 ビルの瓦礫の山をかきわけ、超甲人機は立ち上がる。
「オー、なんて厚い装甲なんデショ〜」
 ジュディは肩をすくめると同時に、顔をしかめて膝をつく。
 ジュディの必殺技は、自身の体力を著しく消耗するのだ。
「デッドサンダーの最大の武器はハサミを切り落とすことで封じられた。でも、あの装甲がある限り勝てないというの?」
 スズカは戦艦天照に連絡をとろうとしたが、電流の影響で不調となったホロエミッターがバチバチッと音をたてて活動を一時的に停止し、ホログラムだったスズカの全身像は消え失せた。ホロエミッターの機能復活にはかなり時間がかかる見通しだ。
 そのとき。
 ポロン〜ポロンポロン〜
 どこからともなく、ギターの音色が流れる。
「な、何だぁ? 今度はギターか? 誰だ、今度は?」
 デッドサンダーが傷だらけの頭部を起こしたとき。
「ヒュウヒュウ〜じゃじゃじゃ〜ん」
 夕陽をバックにギターを持ち、口笛を吹きながら、トリスティア(変身前)が倒壊寸前のビルの屋上に現れた!
「トリスティア、いままで何してたんだ?」
 ガーディアンたちから、疑問の声が口をついてでた。
「ふふ〜ん♪ さっきここから出ようとしたら、先にフレアが登場しちゃうんだ
もん。だからしばらく間を置いてみたんだもん〜」
 トリスティアはニコッと笑って仲間にウィンクを送る。
「全く、悠長なことををするんだな〜」
 ガーディアンたちはため息をつく。トリスティアは仲間うちでも人気のある存在だが、テレビヒーローが大好きでいっぱいみているため、とにかく目立とうとするところがあった。
「ふふ〜ん、知らないでしょ? 正義の味方はね、シチュエーションにこだわるんだよ!」
 トリスティアはデッドサンダーを指さし、叫んだ。
「全国のみなさん、お待たせしました! ついにトリスティア変身のときがきたよ! ってこんなことテレビヒーローはいわないか。いくぞ、悪は絶対に許さない!! 変身!!」
 トリスティアが不可思議な体操ポーズをとると、全身が光に包まれる。
「とおっ」
「あああ〜トリスティアさん、パンツ丸見え〜」
 飛び降りてくるトリスティアはミニスカートだったため、葛城リョータが思わずぼやく。
「たあっ、スケベ成敗!」
「ぐはっ」
 トリスティアはリョータに蹴りをくらわせて地面に着地。その身体はもうレッドクロスに覆われている。
「みたか! 正義の味方はかわいい姿に変身するのだ!」
 白を基調とした機動性あふれる乙女ヒーローの衣装で、トリスティアは気合をあげた。
 あれ?
 そのとき、トリスティアの心の片隅で疑問符がわきあがる。
(何だろう? 右足が熱い)
「トリスティアさん、メ、メシ〜」
 蹴られてもめげないリョータがトリスティアの足もとにとりすがる。
「これを食べてね!」
 トリスティアが投げたパンの耳に、リョータはここぞとばかりにむしゃぶりついた。
「はああ〜お、おいしい。う、うう〜でも本当に食べたいのは、松坂牛ー!!」
 パンの耳をたいらげたリョータが好物の名を叫んだ瞬間、身体が光に包まれる。
「レッドクロス装着!! ガーディアン・リョータです!!」
 黒を基調としたデザインが、トリスティアと対照的だ。
「松坂牛? いま、松坂牛といったのか? それが変身のかけ声? う、うおお、何だかすごい仲間だぜ!!」
 ガーディアンたちは歓声をあげる
「むう、よくわからんが。 とりあえず死ね! デッドサンダー!!」
 デッドサンダーはやや呆れ顔だが、すぐに体勢をたてなおし、片方だけのハサミから電撃を放つ。
「ああ〜また腹が減ってきた〜」
 電撃をさっとかわして、リョータが地面を転がる。
「ふっ、デッドサンダーの電撃は力が弱まっている。もう恐れるに足りないぞ」
 トリスティアがカメラ目線で二カッと笑ったとき。
「あああ〜ちょっとだけ食べたせいでかえって空腹感が増した〜!! うううう〜いくぞ、腹ぺこアタック〜!!」
 突如駆け出したリョータが、デッドサンダーのボディに渾身のタックルをかける。
「何だ、あれは? 空腹感がレッドクロスの力を増幅させているのか? 本当にすごい奴だぜ!」
 ガーディアンたちは目を見張った。
「ぐわっ」
 撥ねとばされたデッドサンダーが仰向けに倒れ、お腹をみせてジタバタする。
「よし、いまだ!」
 花屋の青年ディック・プラトックがものかげから走り出てきた。
「な、何だお前は? 近づくな!」
「おい、デッドクラッシャーズ! 破壊するだけでは地球が荒れるだけだとわからないのか? 自然法則を守らない奴は俺の正義の鉄槌を喰らえ! 俺に力を!」
 ディックの身体が光に包まれる。
 白銀色のプロテクター。胸に緑の葉のマーク。
「あ〜、初心者マークだ!!」
 トリスティアのつっこみにレッドクロス姿のディックはガクッとなった。
「違うって。いくぞ、プラント・グロウ!」
 ディックがレッドクロスに覆われた拳を地面に突き立てると、エネルギーを吸収した大地から、ツル草があっという間に生い茂る。
「う、うおお!?」
 ツル草は仰向け状態のデッドサンダーを絡めとり、身動きできなくさせた。
「やったー! よし、ここでとどめをささなきゃー!」
 歓声をあげながら、トリスティアは首をかしげる。
(何だろう? また右足が熱い。ケガでもしたのかな?)
「うおお〜、デッドォォォォォ!!」
 仰向けの状態でデッドサンダーは死にもの狂いの電撃を放ち、怪力の腕を振り回した。
「うわ〜」
 いっせいにかかっていったガーディアンたちが電撃に撃たれ、また怪力に吹っ飛ばされる。
「あああ〜くそ、負けないぞ!」
 電撃をくらいながらもトリスティアは闘志を燃やす。
「でも、どうしよう? さっきから右足が熱くて、動けそうにないな」
「……恐れることはない」
 そのとき、トリスティアの中で声が鳴り響いた。
「えっ? その声はグレイト・リーダーではないね? あなたは誰? どうやってボクの携帯端末にアクセスしたの?」
「いま、お前の中にわいている闘志をさらに燃やせ。レッドクロスが力を与えてくれる。そして、繰り出すのだ、お前の脳裏にある技を。身体は、その動きを知っているはずだ!」
「でもそれって、制御できないから危険らしいよ? それに、右足熱いし」
「大丈夫だ。初回の発動は確かに制御できないが、二度、三度と繰り返すにつれ、制御可能になる。相手の装甲が厚いなら、より強大な力でうちぬけばいい。簡単なことだ。さあ、ゆけ、トリスティア。正義の戦士よ」
 それだけいって、謎の声は消えた。
「わかったよ……やってみる!」
 トリスティアは、心に思い浮かべた。
 人々の笑顔を。平和に暮らす市民の幸せを。
 そんな幸せを踏みにじる奴らは、許せない!
「う、うおお〜!!」
 トリスティアの全身が光り輝き、右足の熱はいまや耐えがたいまでになった。
 しかし、もうトリスティアは理解していた。
 右足は、ケガで弱っているのではない。
 逆だ!
「とおーっ」
 跳躍したトリスティアの影が、夕陽に重なる。
 突き出された右足が光を放ち、エネルギーが爆発の流星となる。
「どんなに装甲が厚くても! 想いの力は悪を貫く! いってよし、さがってよし! とくとご覧あれー! ビバ!」
 トリスティアは急降下で、燃える右足のキックを、ひっくりかえってジタバタしているデッドサンダーの腹に放つ!
「いま、必殺の気合で! 正義と愛と友情と汗と涙のために! ハイパァァァァー流星キィィィィック!!」
 ドゴーン、ドゴーン、ドゴーン!
 衝撃音が何重にも響き、デッドサンダーの装甲を貫通したトリスティアの身体が地中深くにまで沈みこむ。
「あああああああああ! こ、この〜! 貴様ら、いい気になるなよ! 俺を倒したところで、俺が殺した連中は、もう二度とよみがえったりはしないのだからな! せいぜい葬式でもあげて悲しむがいい! ぐわあああ!」
 断末魔の悲鳴をあげながら、デッドサンダーが消滅。
 ちゅどどどどどどどどど
 大爆発が巻き起こる。

「デッドサンダーの消滅を確認! スペシャルテクニック『ハイパー流星キック』が使われたようです! すごいエネルギーです。残っていた商店街の建物が全て崩壊していきます!」
 アーマードピジョンのスタッフたちがチャット空間で情報をチェックする中、グレイト・リーダーは嘆息した。
「何ということでしょう。ひとつの戦闘でこれだけのスペシャルテクニックが使われるとは。確かにああしなければ勝てなかったし、今後もより強力な敵が出ることを思えば、もう彼らにスペシャルテクニックの使用を禁じることはできないでしょうね。それにしても亜細亜博士、あなたは何て恐ろしいものを生み出したのか」
 グレイト・リーダーも、レッドクロスの全てを知っているわけではない。特にスペシャルテクニックについては未知の部分が多く、だからこそ使用を禁じていたのだ。
「それにしても、あの新型、超甲人をあらゆる面でスケールアップさせた、超甲人機とでもいうべきものでしたね。戦艦天照の分析結果では、レッドクロスと構造が同じということでしたが、まさか?」
「ええ、そのまさかです。おそらく『闇のクリスタル』が実用化されたのでしょう。早急に対策を練る必要があります。例のアドレスに超極秘メールを送って下さい」
 それだけ呟き、グレイト・リーダーは消えた。

8.大掃除はモップにお任せ

 爆発はやんだ。
 将を失って茫然とたたずむ超甲人部隊の前に、アオイ・シャモンがたちふさがる。
「よし、デッドサンダーは死んだ! あとはあんたらやな!」
「ううっ」
 たじろぐ超甲人部隊。
「あたいはあんたらを可哀相とは思わんで! 何しろあんたら、人殺しを楽しんでおった連中やからな! 生かしておいてもまた人殺すだけやし、ここでさっさと成敗したるわ!」
 ごおっ
 アオイのレッドクロスが光を放つ。
「出るで、出るで〜、あたいの中の、破壊のイメージが!」
 まるでアニメの中に出てくる巨大ロボットのような外観のレッドクロスだが、その全身からガガッと砲門が突き出してきた。
 ライフル。
 ガンランチャー。
 背部高エネルギー砲「カグヅチ」×2。
 腰部レール砲「シラヌイ」×2。
「そうや、これこそあたいの夢! 紅の炎がみえるで! 全てを消し去ったる!
 うおお〜、いくで〜、いくで〜!!」
 アオイの興奮が高まるにつれ、各砲門にエネルギーが集積され、爆発寸前の状態にまでふくれあがってゆく。
「う、うわ〜」
 いっせいに背中をみせて逃げ出した超甲人部隊。
「フルバースト・アタック!」
 ドドドドドドドドドドドド!
 全砲門からいっせいにエネルギー弾が飛び出し、超甲人部隊を襲った。
「があああああ! ぐわああああああ!」
 超甲人たちは装甲を一瞬で砕かれ、悲鳴をあげながら次々に爆発、炎上。
「シャモン家の血が、あんたらを駆逐せよと熱く叫んだんや!」
 燃えあがる炎に背を向け、闘いを終えたシャモンは歩き去っていった。

「や、やばい! 逃げろ〜」
 アオイのスペシャルテクニックに度肝を抜かれた超甲人の残存部隊が、必死で戦場を駆けてゆく。
 そんな彼らの前に、モップをかけるアンナ・ラクシミリアの姿が。
「さっきはよくももてあそんでくれましたね。許しませんわよ」
 アンナはきっと顔をあげ、モップを振り上げた。
「由緒ある家柄の子もときには怒りますの〜」
 アンナのレッドクロスが光を放ち、光はモップも包みこんでゆく。
「モップが、モップがレッドクロスに覆われていきますわ!」
 アンナの脳裏にあるお掃除のイメージが現実になろうとしていた。
「く、くそ! こうなりゃヤケだ! 突進だ〜」
 超甲人たちは最後のクソ度胸を発揮してアンナにいっせいに突進していった。
「きれいなお姉ちゃん、ヤラセロ〜!!」
「まあ、不潔ですわ! まとめてお掃除いたしますの〜!!」
 アンナの構えるモップの先端がまばゆい光をまき散らしながら高速回転する。
「エア・トルネード!!」
「う、うわ〜」
 モップの先端が回転して巻き起こした竜巻が、超甲人たちを包みこみ、ばびゅーんと吹き飛ばす!
 超甲人たちは商店街の上空に飛んでゆき、さらに飛んでゆき、ついに成層圏を越え、宇宙の塵となって消えた。
 きらっ
 いつの間にかすっかり暗くなった空に、超甲人たちの残骸が光を発しながら水平線まで流れてゆく。
「お母さん、流れ星〜!」
 救助された親子連れのうちで、子供が夜空を指さして嬉しそうにはしゃぐ。
「まあ、こんなひどい事件があった日に、風流なことね」
「うん。生きてるって、素晴らしいことだね!」
 全身傷だらけの親子はそろって夜空を見上げ微笑みあうのだった。
「あら。もうすぐ門限ですわ。帰らなくっちゃ」
 勝利を確認したアンナはふと我に返って時計を確認し、慌てふためいて戦場から走り出ていった。

9.奇跡のレスキュー

「全く、何なんだ、さっきの爆発は!? 救助活動してる身にもなってみろというんだ」
 デッドサンダー消滅の大爆発は、武神鈴の救助活動に深刻な影響を与えた。
 ちょうどビルの中で生き残りの人々を発見した瞬間に爆発が起き、階上部分が崩壊、瓦礫が降り注いできたのだ。
「う、うわ〜!!」
 市民たちは涙を流しながら右往左往。
「バカ! 早く出ていかないと死ぬぞ。出口はこっちだ!」
 武神はビルの外へと市民たちを導いてゆく。
「う、うう〜」
 一人の太った中年男性が転んで足をくじく。
「お、おい、きみ! ゲホゲホ」
 犬塚署長が慌てて男性に駆け寄ろうとするが、まいあがる埃にせきこんで進めない。
「俺に任せろ。この術を!」
 武神の右手が光り輝き、レンズとそれを囲むかたちで5つの小さな玉のついた小手が装着される。
「いくぞ、人命救助! たとえこの身も瓦礫に潰されようとも!」
 武神が我が身をかえりみず精神を集中させたとき、レンズの中心に「消」の字が浮かび上がる。
「俺の計算では成功率は決して低くはなかったからな。なんせ3割もあったんだぜ!」
「うん? まさか、それは……やめろ!」
 不吉な予感に駆られた犬塚が、武神を止めようとする。
「刻印する右手、ライト・ブランド!」
 武神が右手で倒れた男性に触れると、男性の身体が光り輝き、一瞬で消滅。
「何をした!」
「安心しろ。成功してれば、ビルの外にいる」
 くってかかる犬塚をなだめながら、武神も外に脱出。
 武神が外に出ると同時に、ビルが倒壊し、ものすごい地響きが起こった。
「だ、大丈夫か!?」
 ビルの外にテレポートさせられていた中年男性を犬塚署長が抱き起こす。
「う、うう〜」
 男性は苦しそうだが、生命に別状はないようだ。
「よかった。ちゃんと成功したぜ」
「貴様、何という危険な真似を! あの術が成功したからよかったものの、失敗してれば異次元に飛ばされてこの人は死んでいたぞ!」
 犬塚は武神に怒りをむきだしにした。
「じゃああの場合ほかにどんな方法があったというんだ? 俺だって自分の身を危険にさらしてあの術を使ったんだぜ」
 武神は冷ややかな口調。
「結果として助かったから、成功率3割の危険な術が肯定されると考えているのか? 本気で人命を尊重するなら、もっと確実性の高い手段を模索するべきだ!」
「なら、教えてくれよ。あの場合であれより確実性の高い手段というのを。いっとくが、説教される筋合いはないぜ。何しろ、俺はあんたの部下じゃないんだからな、署長さん」
「ぬ、若造が! この話にお前が部下かどうかは関係ない!」
 二人はしばしにらみあっていたが、やがて我にかえり、倒れている人々の介抱にあたる。
「おい、あの子は? 大丈夫か?」
 犬塚は、自分に「早く逃げて」といった、特に傷の深い少女がぐったりしているのに気づいて、声を高くした。
「しっかりしろ!」
「うう……私はもうダメです……」
「そんなことはない。希望を捨てるな! すぐに医療班を呼ぶ」
「わかるんです。もう、私は……。おまわりさん、ありがとう。こんな私を助けようとしてくれて……ありがとう……うっ。がくっ」
 少女は、静かに息を引き取った。
「む、むうう! 何ということだ!」
 犬塚は握った拳で涙をぬぐい、天に向かって咆哮した。
「それほど気にすることはない。署長、あんたのおかげで生き残っていた人々の大半は救助された。この少女が亡くなったのは確かに残念だが、もともと傷が深かった。あんたの責任というわけではない」
 さっきまで喧嘩していた武神だが、犬塚の涙に口調が優しくなる。
「そういうことではない! わしの責任がどうとかでは! あの犯罪組織を、わしは、わしは許せんのだ!」
「なら、あんたも俺たちと闘えばいい。アーマードピジョンの傭兵になれば、レッドクロスが支給され、奴らと互角に闘えるようになる。現に、多くの警官が仕事をやめて俺たちの仲間になっている。あんたがくるなら、俺が武器を開発してやるぜ」
 半ば本気で、武神は犬塚を勧誘した。
「断る! わしは、わしは警察を離れるつもりはない! わしは警官であって兵士ではないのだ。だが、お前にはわかるまい」
「ああ、わからないぜ。ったく、がんこだな」
 吐き捨てながらも、武神は心のどこかで犬塚に好感を抱いていた。

10.笑うネコ男爵

「ぷはー!」
 瓦礫の山をかきわけ、ハイパー流星キックの威力で地中深く埋まっていたトリスティアが顔を出す。
「トリスティアさん、待ってました! メシを〜」
 葛城リョータがすかさずとりすがる。
「え〜? ちょっと待っててよ。はー、ボクもお腹減っちゃった! ヒーローって疲れるな〜」
「本当だな。でも、あいつらを退治できて本当によかったぜ。特にあのクワガタは厄介だったからな」
 ディック・プラトックが笑いながら瓦礫をとりのけると、植物の芽が。
 ディックが植えたものだ。
「この商店街はボロボロになったけど、すぐにまた再生するさ」
「うん、きっと、そうなるよね。ところで、この商店街、何で名前が伏せ字なの? ○○町って」
「えっ、知らないのか? 伏せ字じゃなくて、それが町の名前なんだよ。この商店街は、マルマル町にあるのさ」
「マルマル町? ふ〜ん。まっ、それより、闘いも終わったし、ラーメンでも食べに行こうよ」
「そうですね。報酬も入りますし。1000万円は多分トリスティアさんのものですよ」
 リョータはラーメンを思ってよだれを垂らした。
「そうかな? クワガタのハサミをはね飛ばしたフレアが一番の功績だったと思うけど。ボクは弱ったあいつにとどめを刺しただけだし」
 トリスティアは首をかしげた。
「まっ、いいじゃんか。行こうぜ、ラーメン屋に」
「うん!」
「わ〜い、ラーメン!」
 ディックに促されて、トリスティアとリョータはニコニコ笑いながら秋葉原のラーメン屋に向かって歩いていった。
「何であいつらだけ、あんなにほのぼのとしてるんだ?」
 一連の光景を見守っていた他のガーディアンたちは、あんぐりと口をあけていたという。

「はあはあ、はあはあ……。全く、あそこまでいって、飛ばされるなんて」
 デッドサンダーのハサミをバーニング・ブレイカーではね飛ばした後、怪力で大空の彼方に吹っ飛ばされたフレア・マナだったが、ようやく現場に戻ってくることができた。
 時刻は、深夜。
 既にガーディアンたちは撤収し、誰もいない。
「もう戦闘は終わったんだね。最後に、あのクワガタに姉さんのことを聞きたかったのに」
 フレアはため息をついた。
 寒い夜道を、今度は家路につくのかと。
 そのとき。
「ニャーハッハッハッハ! お前があの女の妹か〜!」
 どこからともなくネコの笑い声が響き、フレアはびくっとした。
「誰だい!? まさか、ネコ男爵!」
 デッドクラッシャーズ大幹部が宙に浮かんだ状態で現れたのをみて、フレアは戦慄。
「ニャッハッハ! お前は本当に哀れだニャ! いつか、姉に殺される運命が、ワシにはみえるだニャ!」
「姉さんが僕を? どういうこと? お前たちは、姉さんに何をした? 力づくでも教えてもらうぞ」
 フレアは伸縮警棒でネコ男爵にうちかかったが、男爵が手をひとふりしただけで身体をはね飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「ううっ」
「ニャハハ! お前ごときがワシを倒せると思ったかニャ? サンダーを倒したぐらいで調子に乗るなだニャ!」
 嘲笑を浮かべる男爵を、フレアは屈辱で唇を噛みながら見上げた。
「ネコ男爵、僕の姉さんはどこに? 教えろ、教えるんだ!」
「ニャハハハハハ! いま教えんでも、じきに知ることになるだニャ。ワシはただお前を笑い、あの女を笑いたくて来たんだニャ! 死ね死ね、死ねー愚か者どもー人間どもー」
 笑いながら、ネコ男爵は夜空にのぼって、消えていった。
「姉さん……! ネコ男爵、僕はお前を絶対に倒す!」
 フレアは、天に向かって吠えるのだった。

 デッドクラッシャーズ秘密基地。
「ネコ男爵さま、デッドサンダーの件は残念でしたね。まさか、ガーディアンたちがあのような力を発揮するとは」
「フン、確かに驚いたニャ。だが、サンダーの実験データは豊富にとれたし、今後は奴より強力な超甲人機を生み出せるニャ! 先行製作していた連中は、もうできてるだろうニャ?」
 部下たちに迎えられ基地に帰還したネコ男爵は、ニッコリ微笑む。
「ハイ、既に13体の超甲人機が完成しています。ガーディアンたちがいかにがんばろうとも虚しいでしょう。現段階で真に警戒すべきガーディアンは数人しかいませんし、こいつらが各地で同時に攻撃を開始すれば、全て止めることは不可能です。ガーディアンどもが、今日みせたのよりもさらに強い力を手に入れない限りは」
 白い布をかぶせられた13体のモデルを眺めながら部下の説明を聞き、ネコ男爵は満足げに唇を歪めた。
「今後はワシも戦場に出るニャ。どうしても、この手で人間たちに復讐したいのだニャ! 子供のときだけかわいがってワシを捨てた、あの人間どもに……!」
 笑うネコ男爵。
 だがその目は、怒りに染まっていた。
「フフフフフフ。頼もしいことだな、ネコ男爵」
「し、司令!?」
 頭上から降り注ぐ声に、ネコ男爵は慌ててひざまずく。超甲人たちも慌ててひれ伏した。
「それでこそ、人間に捨てられ死にかけていたお前をスカウトした甲斐があるというものだ」
「はは〜。それで、日本侵略計画はいつから?」
「もうすぐだ。この国は、何としてでも征服する必要がある。たとえ、あのガーディアンたちがたちふさがろうとも、だ。思えば、この日本にアーマードピジョンという組織がたちあがり、レッドクロスを装着したガーディアンたちが現れたのも、不思議な因縁に思えるわい。ククク、面白くなってきたな」
 司令はなぜ、日本侵略にこだわるのか。
 その疑問は常にあったが、ネコ男爵にはどうでもいいことだった。
 人間に、復讐する。
 その目的さえ達成できれば、彼には満足なのだから。
 いま、日本を舞台に、人類の命運を賭けた闘いが始まろうとしていた。

(テストシナリオ・完)

【報酬一覧】

スズカ・アマテラス 5000万円(デッドサンダーの装甲を分析した特別功績)
フレア・マナ 1000万円(デッドサンダーのハサミを破壊し勝利への道を開いた。戦闘における最高功績)
トリスティア 500万円(弱ったデッドサンダーにとどめを刺した功績)
武者小路真弓 500万円(爆撃機狙撃の功績)
*そのほかの傭兵のみなさんには、生き残れただけでもすごいということで、100万円をそれぞれ支給いたします。

【マスターより】

 遅れてすみませんでした。なかなか個性的なキャラが多く、イメージどおりに描けたかどうか不安ではありますが、みんなノリノリだったのは大変嬉しかったことです。今回はテスト版ということで、変身とスペシャルテクニック発動は全員について描きました。本編ではアクション次第ということで。いかにも続きがありそうな内容になりましたが、本編開始になりましたらよろしくお願いします。