「英雄復活リベンジ・オブ・ジャスティス」

第1部「アジア編」第1回

サブタイトル「やったぞ、勝利と大犠牲! 悪鬼ヶ原崩壊の日」

執筆:燃えるいたちゅう
出演者:熱きガーディアンのみなさま

1.トリスティア、悪鬼ヶ原を走る!

「うわー!」
「きゃー!」
 悪鬼ヶ原の街に、もがき苦しみ、叫び嘆く人たちの絞りあげる声が鳴り響く。
 デッドクラッシャーズバイク部隊。
 泣く子も黙るバイク部隊の精鋭達は、全員が超有名暴走族のOBである。
 デッドクラッシャーズは、優秀な犯罪者たちを組織にスカウトし、次々に超甲人に改造、恐るべ作戦の実行部隊に仕立てあげていたのだ。
 バイク部隊は、逃げ惑う人々を次々に高速バイクで追跡、はね殺してゆく。
 これだけの現実がありながら、警察は動かない。一部の警察官が決死の覚悟でち向かったところで、圧倒的な戦闘力を前に一瞬で潰されるのがオチだ。
 警察は動かず、そして自衛隊さえも出動しないのが、市民の多くを戸惑わせ、激しい非難に向かわせる、日本政府の謎めいた応対であった。
「ニャーハッハッハ! 殺せ、殺せ! 大虐殺だニャー!」
 死んでゆく人たちを遥かに見下ろし、悪鬼ヶ原のビル街上空をデッドクラッシャーズ大幹部・ネコ男爵がくるくると旋回する。
「ハァハァ、お前たちがいかに苦しもうと、ワシの無念は晴れないだニャ! ワシの、ワシのあのとき受けた傷は、絶対に癒えることがないのだニャ!」
 笑い続けるネコ男爵は、一見するとアホだが、その言にはどこかに哀しさが漂っていないこともなかった。
 それは、ネコの表情を観察し慣れた、違いのわかる傍観者でなければ決して気づくことのないだろう、そんな微妙な哀愁であった。

「た、助けてー!」
 バイク部隊に追いつめられ、はね殺される人々の悲鳴をよそに、トリスティアは一人、悪鬼ヶ原駅前のソックス・コンピュータ館の斜め前、オッパイ電機(なんちゅう怪しい名前だ)の店頭に配置されている自販機で、名物「おでんボトル」を購入していた。
「おでんボトル」はペットボトルにおでんが入っているという画期的商品で、悪鬼ヶ原の名物なのであった。
「ああ〜、やっぱりこのおでんはいいな〜。薄味がナイス! ところで、どうしてさっきから悲鳴がやまないんだろう? 犯罪でも行われているのかな?」
 おでんボトルを一気飲みしながらトリスティアがひと息ついたとき。
「ピピピ!」
 トリスティアの携帯端末が「早く確認しろこの野郎」という警報の唸りをあげた。
「え〜? あ〜ん、ちょっと待ってよ。いませっかくまったりしてたのに〜」
 トリスティアはブツブツいいながら折り畳み式の携帯端末を開き、アーマードピジョン本部からの超極秘暗号メールを解読する。
「や、やめてくれ〜!」
 メールを読んでいる間も、トリスティアのすぐ脇で、また一人の男性がバイクの前輪に脳髄を砕かれたが、トリスティアは全く気づいているようにみえない。
「うるさいバイクだな〜。こういう人の多い街では、音は控えめにするべきだよ」
 そのぐらいの感想しか、トリスティアは持たなかった。
「うん? 何だって、デッドクラッシャーズバイク部隊が悪鬼ヶ原を襲撃!? 悪鬼ヶ原って、もしかしてこの街?」
 メールの内容をやっと理解したトリスティアは、はっと我に帰って周囲をみまわした。
「う、うわー! これはひどい!」
 血肉の飛び散るあまりの惨状に、ついにトリスティアは「現実」を認識した。
「お、おのれ、デッドクラッシャーズ! いつの間にこんな大虐殺を! 許せない、許せないー!」
 事態を理解したトリスティアの心に、ちょっと遅いような気もするが怒りがわきあがる。
 そんなトリスティアに、デッドクラッシャーズバイク部隊がいっせいに攻撃を仕掛けようとしていた。
「なんだ、あの女は? 俺たちが人殺しにバーニングしているときに一人でのんびりおでんボトルなんか喰いやがって、というか飲みやがって!」
「ふっ、いいぜ、みんな。あの女の全身をバイクのタイヤでひきちぎって、バラバラにしてやろうぜ! おでんボトルは、冥土の土産なんだ!」
 トリスティアの全身がタイヤに引き裂かれる様を思い描いて興奮しながら、バイク部隊の面々はいっせいにトリスティアに向かって愛機を疾走させた。
「許さない、許さないんだよ! はああ〜トリックスター!」
 バイク部隊が眼前に迫っても動揺の気配のないトリスティアが、愛機を呼んだ。
 ブオン!
 大空の彼方からエアバイクが飛んできて、悪鬼ヶ原の路上に降り立つ。
 ブオン、ブオン!
 エアバイクは無人のままバイク部隊に激突寸前の距離まで迫り、大きなカーブを描いてトリスティアの方に走っていく。
 ズゴン、ズゴーン!
 カーブを描いたエアバイク「トリックスター」がバイク部隊のバイクに激闘、何体かをはね飛ばした。
「う、うわー!」
 はね飛ばされたバイクが爆発し、投げ出された超甲人たちが悲鳴をあげる。
「な、何だありゃ!?」
「こ、こっちに来るぞ! 逃げろ!」
 先ほどまでの勢いはどこへやら、震えあがったバイク部隊は全速でその場から離脱しようとした。
「待てー!」
 そんなバイク部隊を、トリックスターに乗り込んだトリスティアが追う。
 100キロ、200キロ、400キロ!
 トリックスターは次々に速度を上げていった。
「うわ〜は、速い! 追いつかれる!」
 トリックスターを振りきれないと悟ったバイク部隊が逃走しながら悲鳴をあげる。
「いぇ〜い、風が気持ちいいね!」
 なぜかはしゃぎながら、トリスティアはトリックスターをバイク部隊の後部に激突させる。
 ドゴーン! ワオ!
「ひ、ひやああ〜」
 炎が上がる中を、愛機を失った超甲人たちがわらわらとその場から走って逃げようとする。
「あっ、ダメだよ! ぶーん、どかーん!」
 トリスティアのトリックスターは、そんなバイクなし状態の超甲人たちも情け容赦なくはね飛ばしてゆく。
「ひ、ひどい、足で動く人をバイクではね飛ばすなんて! う、うぉわ〜」
 自分たちのことは棚にあげながら、超甲人たちは次々にトリックスターの猛回転状態の前輪に身体を砕かれ、爆発・絶命してゆく。
 ガオー!
 どこかでライオンの吠える声。
「ウガガ、ウガ! 現れたな、アーマードピジョンのガーディアン!」
 超甲人機・デッドライオンがトリスティアめがけて突進してきた。
「出たな、超甲人機! 悪は絶対に許さない、変身!」
 トリスティアが両手を意味もなく振りまわす変身ポーズ(ご自由に想像して下さい)をゆったりと決めている間に、デッドライオンは超高熱の火炎を恐るべき口から噴射した。
「ウガ! デッドファイヤー!」
 トリスティアの身体が火炎に包まれるのと、トリスティアの手にするボール状のレッドクロスが光を放ったのとは同時だった。
 灼熱の劫火が路面を焼き、アスファルトが一瞬で蒸発する。
 そんな火炎地獄から、トリックスターが飛び出した。
 トリックスターにまたがる、リボンやヒラヒラの飾りが目立つゴージャスなドレスを着込んだ、萌え系ファイターの勇姿。
 そう、レッドクロスを装着したトリスティアの姿である!
 ある意味、悪鬼ヶ原にとてもふさわしい姿であった。
「熱いな〜! おかげでボクの心も燃えてきちゃった!」
 トリスティアはトリックスターをデッドライオンに向ける。
「ウガ! ワシを超甲人どもと同じだと思うな!」
 デッドライオンは天高く跳躍し、トリックスター上のトリスティアに襲いかかる。
「あ、あれ? うわわ〜」
 デッドライオンにタックルされて、トリスティアはトリックスターから転げ落ちた。
「いたた、でも平気だよ! 序盤は終わり、これから本番だ!」
 トリスティアは意味もなく両手を右斜め上の空間に向けてポーズを決め、すさまじいファイティングスピリッツを表現した。

2.コンボイゾロゾロ部隊

 漢田辛抱町(かんだしんぼうちょう)。
 悪鬼ヶ原の騒動をよそに、そこではジャンボラーメンの大食いコンテストが開かれていた。
「オー、イェー、チャイニーズヌードル! チュルチュル〜!!」
 金髪のアメリカンヤンキーガール、ジュディ・バーガーがご機嫌な表情でラーメンを次々にかきこんでいく。
 ちょうど7杯目をたいらげたところで、革のベルトに取りつけてある携帯端末の着信音が鳴り響く。
「ジャンジャカジャンジャーン! ジャンジャカジャンジャーン!」
 ジュディが着メロとして設定したハードなロックミュージックが店内に鳴り響く。
「コール? オー、ホワット、ダレデスカ〜?」
 ジュディはラーメンをすすりながら携帯端末を開き、超極秘暗号メールを解読する。
「ジーザス! アキガハラ・クライシスネ!」
 拳を握りしめ、ジュディは立ち上がる。
「うん? ちょっとちょっとあんた、コンテスト中に何やってんの?」
 コンテスト会場であるラーメン屋の店長がびっくりして問いかける。
「オドロキモモノキ、ギョウテントドロキネ! コンテストハ、ギブアップシマス! ジャ、サラバ、グッバイ! シーユー♪」
 ジュディはお腹をポンポン叩き、口をシーッとやった楊枝をフッと吹き放つと、さっそうと店外に走り出ていった。
「ヘイ、カモンカモンカモンカモンカモンカモン! コンボイ、レッツゴー!」
 店の外に止めてあった大型18輪トラック「コンボイ」がジュディを待ち受ける。
「全く、やってくれるね。このままいけばあんたが優勝間違いなしだってのに」
 ジュディの吹き放った楊枝が突き刺さった額から血を流しながら、店長は呆れたというように肩をすくめていた。
「ジャンジャカジャンジャーン!」
 ジュディの携帯端末がまたも鳴り響く。
「オ〜? ナ〜ンデスカ〜?」
 ジュディはおおげさに首をかしげながら、端末をのぞきこんだ。
「ジュディさん、いいマシンをお持ちですね。申し訳ありませんが、他のガーディアンたちを輸送する役目をお願いしたく思います。グレイト・リーダーより」
「トランスポート!? オー、カッテニキメナイデホシイネ! マイ・ポリシー・イズ・デモクラシー!」
 ブツブツ言いながらジュディがコンボイの貨物部分をのぞきこむと、そこにはいつの間に乗り込んだのか、大勢のガーディアンたちがひしめいていた。
「おい、早く発進しろ! 事態は急を要するんだぞ」
 ガーディアンたちに混じって、なぜか機嫌悪そうな武神鈴がジュディにくってかかる。
「オ〜、アナタタチ、タビノハジハカキステ? リョウキントリタイデスネ!」
 ジュディはおおげさに驚いてみせて、ぷうっと頬を膨らませた。
「おどけてないで、早く行くんだ! 全く、こいつらは」
 武神はなおもブツブツ言っている。
「何をそんなに怒っているんだ?」
 佐々木甚八が尋ねた。
「乗り物の使用許可がおりなかったみたいやで」
 アオイ・シャモンが答える。
「乗り物? どんな?」
「戦闘母艦やて」
「は!?」
 さすがの甚八も目を丸くした。
「全く、本部の奴らめ、アーマードベースがロボに変形して暴れると悪鬼ヶ原の街が崩壊するのは避けられないなどと抜かしやがって。人命第一だと口ではいってるが、いつも甚大な被害を出しているくせに。俺がアーマードベースを乱用すると本気で思っているのか? この俺が?」
 武神は全く納得していない。
「まあまあ、今回はダメっちゅうだけで、戦闘母艦の力が必要なときは許可されると思うで。これから戦場やし、テンションあげなあかんで」
 アオイは武神をなだめた。
「戦闘母艦が必要な状況って、あまり想像したくないものだな」
 甚八が呟く。
「サア、キヲトリナオシテ、シュッパツデス! ミナサン、シッカリツカマッテ! トバシマスヨ!」
 ジュディがコンボイの運転席に乗り込み、アクセルを踏み込む。
「何につかまるんだ?」
 武神は思わず突っ込んでいた。

 一方、悪鬼ヶ原の通りで、トリスティアとデッドライオンとは激しい組み打ちを展開していた。
「くうっ、放せ!」
 四つん這いのデッドライオンにのしかかられ、トリスティアは顔を真っ赤にして暴れている。
「ウガ! こうしてみると可愛いな、オヌシ!」
 デッドライオンは大きな舌でベロベロとトリスティアの顔を舐めあげる。
「う、うわ〜、やめて、くすぐったいよ、もう!」
 トリスティアは渾身の力を振り絞ってデッドライオンをはねのけ、立ち上がった。
「いくぞ、逆転だ!」
 そのとき。
「ニャーハッハッハ! オマーの活躍の時間はそこまでだニャー!」
 トリスティアの背後にネコ男爵の影が。
「はっ、殺気!」
 トリスティアが振り返ったとき、ネコ男爵の拳が天に向かって突き上げられた。
「必殺・ネコアッパー!」
「う、うわ〜」
 すさまじいアッパーの一撃を顎に受け、トリスティアは宙高く吹っ飛ばされた。
「ウガ! 燃やし尽くすじゃん! デッドファイヤー!」
 デッドライオンの超高熱火炎が、ネコ男爵に翻弄されるトリスティアに襲いかかる。
「くうっ、ネコ男爵とデッドライオンが同時に攻撃してくるなんて!」
 トリスティア、大ピンチだ!
 そこに、すさまじい爆音が。
 ジュディがハイスピードで飛ばすコンボイが、悪鬼ヶ原の戦場に突進をかけてきた。
「う、うわ〜、みろよ、トリスティアが闘ってるぜ! 相変わらず、テレビ番組みたいな格好してるな」
「ああ。いきなり序盤からトリスティア、か。テンション高いな〜」
 コンボイ内部のガーディアンたちはトリスティアのハードバトルをいきなり目のあたりにしたため、動揺を抑えきれない。
「オ〜、トリスティア、ピンチ! イマツッコミマス!」
 ジュディはコンボイのアクセルを踏み込んだ。
「ニャ、ニャニャ〜!」
「ウガ、ウガガガガ!」
 コンボイにはね飛ばされたネコ男爵とデッドライオンが宙を舞う。
「ヨーシ、イキマスヨ! アーユーOK? レディ……GOGOGO!」
 ジュディはコンボイ荷台に格納されていた愛車ハーレーに飛び乗ると、レッドクロスの光に包まれながら戦場に走り出た。
 ハーレーを走らせながらレッドクロスを装着したジュディの姿は、どうみても完全武装のアメリカンフットボーラーである。
 派手にマーキングされた蒼い流星の紋章が陽光を反射して光る。
「オ〜、トコロデトリスティアハ?」
「はああ〜強烈だね〜」
 コンボイの下から、真っ平らな姿になったトリスティアがヨロヨロと這い出てきた。
「シュワッ? ソーリー、トリスティア!」
「いいよ、それより、またくるよ!」
 トリスティアの叫びと同時に、超高熱火炎がジュディに襲いかかる。
「オ〜、ジャンプ!」
 ジュディのハーレーが跳躍した。
「ニャ〜ハッハッハ!」
 跳躍したハーレーにネコ男爵が宙を飛んで遅いかかる。
「たあっ」
 そんなネコ男爵にトリスティアがタックル。
「さあ、ボクたちの連携のみせどころだ!」
 ジュディとトリスティアがガッツポーズを決める。
「よし、俺たちも行くぞ!」
 そして、コンボイからはゾロゾロと他のガーディアンたちも飛び出してきたのである!
「全く、助けるはずの味方をトラックの下敷きにするとは。こいつらの言動をみていると頭が痛くなってくるな。何であれでトリスティアは怒らないんだ? もうわけがわからん」
 武神もブツブツ言いながら降りてきた。
 そのとき武神は、その日自分を襲うであろう恐ろしい運命、そして、自分がこれから物語の中で担う重要な役割に気づいていなかったのである。

3.武装でご奉仕! きれいにいたしますの☆

 メイド喫茶アリス。
 超甲人機デッドソードとデッドペンギンに占拠された店内では、片隅に集められたメイドたちと客たちが固唾を飲んでときが過ぎるのにただ耐えていた。
「デッド、デッド、デッドソードォ!」
「ペンペン〜!!」
 勇ましい雄叫びをあげる二体の超甲人機。
「ああ、誰か助けて……ご主人さま……」
 メイドたちの中には、我慢できなくなって涙を流すものも現れた。
「くそっ、俺たちに力があれば、奴らを駆逐し、メイドを救って愛を育むことができるのに」
 客たちはただ歯ぎしりするのみだ。
 ただやみくもに攻めても、殺されるだけ。
 それは、床におびただしく転がっている、ほかの客たちの死体をみれば明らかだ。
「うう、ミズキ、どうしましょう?」
「耐えるのです、クレハ姉さん。いま正体がバレてはまずいですよ」
 二人のメイドがこそこそと話しあっているが、気づく者は少ない。
 そのとき。
「ごめんなさーい、遅刻しましたー!」
 パタパタと階段をのぼる音が聞こえたかと思うと、アンナ・ラクシミリアが姿をみせた。
「な、なにっ! この状況で出勤するメイドがいるのか!?」
 客たちの間で戦慄が起きる。
「あんな子、いたかしら?」
 メイドたちも一瞬首をかしげた。
「ああ〜急がなくっちゃ〜」
 アンナは脇目もふらず店内に入り込もうとし、そして、
 ドッシャー!
 バラバラに切断された客の死体のひとつにつまずいて、転んでしまった。
「いった〜。なに、これ? 血がついてる。きゃー!」
 アンナは初めて驚愕した。
「デッドォ! ちょうどいい。お前も人質になるのだ!」
 デッドソードが剣の切っ先をアンナに向けるが、アンナは超甲人機には気づいた素振りもみせない。
「ああ〜罰としてトイレ掃除します〜」
 アンナは目をつむってトイレに駆け込んでいった。
「ずいぶんマイペースなメイドだな」
 客たちは恐怖を忘れて感心してしまった。
「ミズキ、あの子、もしかして」
「そうね、アンナだわ。どうしてここに? あの制服、自分でつくったのかしら?」
 二人のメイドがまたもや密談をかわす。
「うんせ、うんせ。うんせ、うんせ」
 アンナが閉じこもったトイレから、便器を拭き拭きする音、床をピカピカに磨く音が聞こえる。
「はい、仕上がりました〜」
 モップをかついだアンナがガチャッとトイレの扉を開けると、すさまじい光が店内に満ちた。
「ああっ、こ、これは素晴らしい! トイレがシミひとつない状態に還元されている!」
 客たちは思わず感嘆の声をもらした。
 店内に満ちた光は、新品同様の便器が蛍光灯の光を反射して放つ聖なる光だったのである!
「ペン〜ペンペン! きれい好きなメイドだペン〜!」
 何となく嬉しくなったのか、デッドペンギンが両手をパタパタさせて飛びはねた。
「さあ、これからが本番☆ いっきまっすよ〜」
 アンナはモップを振り上げ、かけ声をあげる。
「あのモップ、どこにあったんだ?」
 客たちの突っ込みをよそに、彼女は叫んだ。
「プリティ・ア・ラ・モード☆」
 アンナの全身が光に包まれ、展開されたレッドクロスが瞬時に装着される。
 ピンクのふわっとしたスカートにヘルメット。
 アーマードピジョンのガーディアンはその正体を露にすると、今度はモップで店内の床を磨き始めた。
「いよいよ〜いよいよ〜」
 血のりだらけの床が浄化され、光を放ち始める。
 アンナは店内中を駆けまわってモップを滑らせた。
「あら、あらあら? ペンギンの置物がありますわ! お掃除、お掃除〜」
 アンナのモップはデッドペンギンにも情け容赦なく襲いかかった。
「ペンペン〜置物ではないペン〜」
 デッドペンギンは抗議しながら素早いジャンプでモップを避ける。
「あらあら〜逃げてはいけませんの〜」
 アンナはモップを振り上げるとデッドペンギンに叩きつけようとする。
「ペンペン〜デッドペンギンに攻撃を当てることは不可能だペン〜」
 デッドペンギンはテレポートを発動。瞬間移動でアンナの背後にまわってしまう。
 デッドソードは一連の光景を目にしても、特に動かない。
 死の落ち着きが、そこには漂っていた。
「姉さん、いまです。正体がバレたらバイトはクビになるかもしれませんけど」
「そうですわね、ミズキ」
 ずっと密談をかわしていた二人のメイドが、意を決したというように大きくうなずく。
「お前たち、何者だ? 何をさっきからこそこそと話している?」
 デッドソードが不意に二人をにらみつける。
 アンナのことはたいして相手にしていないデッドソードだが、二人のメイドに対しては何かを感じたようだ。
「お前たち二人は、ワシが人を斬るのをみても、全く動じた様子をみせなかった。ほかのメイド、客たちも全員悲鳴をあげてるというのに、だ。ただ者ではあるまい? 正体をみせろ」
 デッドソードが剣を振りあげても、二人のメイドはやはり動じなかった。
「やはり、最初からバレていたんですね。仕方ありません。猫耳のミズキ、変身!」
 頭につけているネコ耳と、腰から出ているシッポをプラプラ揺らしながら、ミズキ・シャモンがボール状のレッドクロスを大きくかざす。
「私もいくわ! 犬耳のクレハ、変身!」
 同じく、頭につけているイヌ耳と、腰から出ているシッポをペタンペタン揺らしながら、クレハ・シャモンがボール状のレッドクロスをたおやかにかざす。
 シュゴワッ
 二人のメイドの身体が光に包まれ、ミズキはレオタードと陰陽師服、クレハはレオタードと巫女服、というそれぞれ不思議な格好にチェンジする。
「ああっ、あのミズキちゃんとクレハちゃんがすごい姿に!」
 メイド喫茶の客たちの生き残りたちは眼前の光景に目をみはる。
「みなさん、いままで私たちの正体を隠していてごめんなさい。私たちがこんな姿に変わってしまって、幻滅していることでしょうね。私たちは実は……」
 クレハが上品な口調でそういったとき。
「う、美しい! 最高だ!」
「ほ、惚れてしまった〜」
 客たちは自分たちの置かれている状況を忘れて舞い上がりだした。
「あら?」
 クレハはちょっとびっくり。
「フッ。メイド喫茶にくるような連中は、一般とは感覚が違うのだ。二人とも、その姿は地獄へ旅立つ最後の華とみた。死ぬがよい!」
 デッドソードは気合とともに剣を走らせた。
「ああっ、やめろ、ミズキちゃんとクレハちゃんに手を出すな〜ぎゃあ〜」
 熱烈なミズキ&クレハファンの男性客が二人をかばうように飛び出し、デッドソードの剣撃をまともに受け、一瞬でバラバラに刻まれる。
「ああっ、またもご主人さまが! うう、もう、許せません! 姉さん、フュージョンです!」
 ミズキはクレハと手を取り合った。
 ひとつになった二人の身体がくるくると回転し、まばゆい光を放つ。
 シャモンツインズフュージョン。
 シャモン家に伝わる秘奥儀のひとつである!
「ふっ、何をしようと無駄だ! デッドォ!」
 デッドソードは恐るべき速度で駆け出し、二人に超音速の剣撃を叩きつける。
「ひゅるり〜!」
 二人は奇声を発しながら宙に舞い、剣撃を避ける。
「か、かわした!? やはりお前らはガーディアンか? いや、ガーディアンでも普通なら私の攻撃をかわせない。お前たち、スペシャルテクニックを発動しているな?」
「そぉぉぉのぉぉぉぉぉとおりぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」
 二人はなおも奇声を発しつつ、からみあったまま空中でくねくねとうごめく。
「オラオラァ!」
 ミズキの放った式神・前鬼がボクシングのように両拳をシュッシュとさせながら、デッドソードに襲いかかる。
「無駄無駄ぁ!」
 さらにミズキの放つ式神・後鬼が同じくボクシングスタイルでデッドソードに拳の雨を降らせる。
「むっ?」
 だが、デッドソードは素晴らしい身のこなしで攻撃を避け、一部の攻撃は手堅くガードした。
「こ、この鎧、堅い!」
 ミズキは戦慄した。
「気をつけて。このサムライ型超甲人機は、防御力も相当なものよ」
 クレハが忠告する。
「デッド、受け止めるの型!」
 肩を張らせ、手甲で顔を覆ったデッドソードは、前鬼・後鬼の攻撃を受けてもビクともしない。
「いくぞ、姉妹の絆とやら、この手で断ち切ってくれよう! デッドソードォ!」
 デッドソードの剣が光を放ち、超音速で再び斬りかかる。
「ふぉう!」
 二人はまたも奇声を放ち、剣撃をひらりとかわす。
 だが。
 デッドソードの剣は、ミズキの式神、前鬼と後鬼を斬りさいていた。
 式神はノォと叫びながら消滅。
「ああっ、私たちを斬るとみせかけて式神を? 本当に油断できない相手ですね」
「ミズキ、デッドソードと闘うことにこだわらないで。まずこの店のメイドたちを助けなきゃいけないわ。デッドペンギンに向かうわよ」
 デッドソードとクレハ&ミズキが激戦を繰り広げている最中にも、店の片隅ではアンナとデッドペンギンが壮絶な追いかけっこを繰り広げていた。
「お掃除、お掃除〜!」
「ペンペン〜!」
 と叫びながら……。

4.さらばネコ男爵

 再び、悪鬼ヶ原の路上。
「ウガ! ファイヤーシャワー!」
 デッドライオンが超高熱火炎を天上に向かって吹きあげると、のぼりつめた炎が玉状にわかれてあちこちに飛び散った。
「はあっ」
 トリスティアとジュディはそれぞれの愛機、トリックスターとハーレーをたくみに操作して、降ってきた火炎玉を避ける。
「ウガァッ」
 デッドライオンはさらに、二人に向かって突進。
「ヘイヘイヘイ♪ イキマスヨ〜」
 ジュディはハーレーをウィリー走行させデッドライオンにぶつけようとする。
「とおっ」
 トリスティアは跳躍して、走っているデッドライオンの背中をポンと踏んづけ、再び舞い上がる。
 ガアッ!
 後ろ脚で立ち上がったデッドライオンが、その恐るべきたてがみを振って、ジュディのハーレーの前輪を弾いた。
「オーノー!」
 ハーレーにまたがった姿勢でジュディがパンチを繰り出す。
 ガシッ
 デッドライオンの掌がジュディのパンチを受け止めた。
 ぐりぐりぐり
「オー! アームレスリングネ!」
 ジュディはハーレーに乗ったまま、デッドライオンは立ったまま互いの腕を組み合わせ、張り合った。
「そらぁ! どうだ! この野郎!」
 そんなデッドライオンの背中にトリスティアがしがみつき、たてがみに拳をポンポンうちつける。
「さっきから、トリスティアの攻撃が派手なわりには無意味のように思えるが、気のせいか?」
 ガーディアンたちは首をかしげた。
「きっと、トリスティアは相手の隙をうかがっているのだ。君たちにはわからないだろう」
 佐々木甚八は傍観者たちをよそに、一人コンボイから出撃する。
 彼の狙いはただ一つ。
「ニャーハッハッハ! アホどもは滅べ! ワシが骨を拾って尻を拭いてやるだニャア!」
 デッドライオンと激戦を繰り広げるトリスティア&ジュディの背後に、ネコ男爵が頭をうち揺らしながら舞い降りてきた。
 ニャ〜、ニャ〜!
 そんなネコ男爵の姿を慕ってか、どこからかネコの大群が走り出て、トリスティアやジュディにまとわりついた。
「わ〜、ニャンニャだ! かわいい〜」
 トリスティアは大喜び。
「ふっ、ネコ男爵よ、君は人間と同じだ!」
「ニャ、ニャニ?」
 ネコに気をとられたトリスティアに攻撃を仕掛けようとしたネコ男爵は、佐々木甚八の鋭い声に思わず動きを止めた。
「自分の目的のため、無関係な多くのネコ達を駆り出す。それが君のやり方か?
 君は、君をもてあそんだという人間たちと同じことをしているのだ」
 徐々にネコ男爵に近寄っていく甚八。そんな彼の背後から、パンク風の黒い革ジャンにジーパン、黒眼鏡を着用した背の高い女性がしずしずと歩いてついてくる。
「何だろ、あの女? あいつの彼女かな?」
「でも、彼女を戦場に連れてくるはずもないと思うがな」
 甚八のことをよく知らない仲間のガーディアンたちは眉をひそめた。
「フ、フハハハハハ! ニャハハハハハハハ!」
 しばらく甚八を睨みつけていたネコ男爵が、突如大爆笑。
「何がおかしい?」
「ニャハハハハハハハハハ! ワシの仲間たちが、望まずにワシに協力していると思っているのかニャ? それは大間違いというものだニャ! ネコたちはみな、人間を恨んでいる! だからみな、進んでワシに協力してくれるのだニャ!」
「ふっ」
 甚八も思わず失笑した。
「ニャニがおかしい?」
「君のせいで仲間たちに実際に犠牲が出たとき、それでも君は自分を正義だと確信できるのかな? ほら、これをみろ」
 甚八が取り出した布袋の中で、何かがモゾモゾとうごめいている。
「そ、それは、まさか!?」
 ネコ男爵の顔が蒼白となった。
「そうだ、この中にはお前の仲間が入っている」
 甚八がニャ〜という声がもれる布袋を握りしめると、鳴き声は苦悶の悲鳴ギニャ〜へと変わった。
「や、やめろ! なぜそんな残酷なことを?」
「君が人間にしているのと同じことをしているだけだ」
 甚八がなおも力をこめると、断末魔の叫びが布袋からもれ、モゾモゾという動きが止まった。
 同時に、袋に血のシミが。
「き、貴様! ああ〜ワシの仲間が〜」
 ネコ男爵は愕然とした。
「このネコが死んだのは、君のせいだ」
 袋を投げ捨て、甚八はボソッと呟く。
「よし、いまだ。ソラ!」
「あいよ! 召着変身……ブルーブライド!」
 甚八の合図とともに、甚八の背後の黒眼鏡の女性がかけ声をあげる。
 同時に、女性の着用するヘアバンドが光を放ち、圧縮内蔵されていた強化ドレスを放出。
 数瞬後には、青と白のショートスカートウエディングドレスを着込んだ美しい戦士がネコ男爵に歩み寄っていた。
 佐々木甚八。
 ブルーブライドは人形使いである彼の使役する義体であり、ソラはブルーブライドに寄生する人工精神。
 強化ドレスを召着したブルーブライドは、爆発的な馬力と瞬発力を発揮するのだ!
「あ、ああ……ゆ、許してくれ、許してくれだニャ……」
 放り出された布袋を茫然とみつめ涙を流すネコ男爵に、ブルーブライドはゆっくりと近づいてゆく。
「発動、シャイニングトゥルー!」
 ソラが叫ぶと同時に、義体のリミッターが解除された。
 強化ドレスの後背部に隠されていたエアブースターが唸りをあげ、ブルーブライドを浮上・突進させる。
 エアブースターから排出される大量の冷却排水の飛沫が、光を受けて輝き翼のように展開する。
「死ね、ネコ男爵! お前の最後だあああああ!」
 音速を越えて飛翔したブルーブライドがネコ男爵にモロに激突した。
 ドゴォッ!
「う、うぐわあああああだニャアアアア!」
 ネコ男爵の身体は天高く弾きあげられる。
「やったか?」
 甚八はかっと目を見開いた。
 だが。
「く、くそぉ!」
 ネコ男爵は弾きあげられた空中で態勢を立て直し、そのまま浮遊。
「まだ生きているだと? だがもう虫の息はず」
 甚八のいうとおり、ネコ男爵は浮遊したまま、苦しそうに顔を歪め、フラフラとしている。
「ニャ、ニャアア……よくも、よくもこのワシを!」
「ソラ、上だ!」
「了解!」
 甚八の指示でブルーブライドはエアブースターで上昇、ネコ男爵に再度の突撃をかけるが、際どいところで避けられてしまう。
「くうっ、まだまだ」
 ネコ男爵はフラフラになりながら甚八に向おうとする。
「くそっ、もうすぐシャイニングトゥルーの発動時間が切れる」
 甚八の額に汗が浮かんだ。
 そのとき。
「うおお〜ネコ男爵、これをみろ〜!!」
 熱い涙を流しながらディック・プラトックが戦場に走り出てきた。
 ディックの両手には、砕かれた鉢植えが。
「お前たちの襲撃で、俺が大切に育ててきた、この、年に一度咲く蕾状態のランの花が無残に破壊されたんだ! どうしてくれる? くっそー!」
 ディックはレッドクロス装着の構えをとった。
「お前はここで早すぎる死を迎えるんだ! いくぞ、俺と自然の怒りを思い知れ!」
 ディックの全身が光に包まれ、白銀色のプロテクターに覆われる。
 胸に輝く、緑の葉。
「ニャ……ニャニャニャ〜」
 だがフラフラ状態のネコ男爵にディックの叫びはとどかない。
「くっそ〜、そっちがその気なら! プラント・グロウ!」
 ディックが両の拳で路面を割って地中にめりこませ、かけ声をあげると、地中に眠っていた植物の種子が覚醒、発芽して急速成長を始めた。
 悪鬼ヶ原の路面はあっという間に地下から突出した巨大植物に割られ、ディックの周囲が植物園状態に。
「いくぞ、ひっつきむしのおもなみの実アタック!」
 ディックはラグビーボール大に成長したおもなみの実をもぎとると、ネコ男爵に向かって次々に放り投げた。
「ニャ、ニャニャ〜痛い〜!!」
 巨大なおもなみの実が全身にひっつき、空中のネコ男爵は悲鳴をあげながら高度を下げる。
「まだまだ、茨の拘束を受けてみろ!」
 ディックが再び拳を地中にめりこませると、今度は地中から急速成長した茨のツルが伸び出して、ネコ男爵をがっちり拘束した。
「ニャ、ニャニャ〜動けない。ちきしょう〜」
 ネコ男爵はいまやか細い声だ。
「チャンスだ。うっ」
 歓声をあげかかった甚八が膝をつく。
 シャイニングトゥルーの発動で、エネルギーを大量に消耗しているのだ。
「うおお〜!」
 茨で拘束されたネコ男爵に、ディックの拳が放たれる。
 ボゴッ、ボゴッ
 ネコ男爵の顔が歪み、血が吹き出す。
「あぶっ、ぶみゃ、にいい〜」
「くそっ、なんて打たれ強い奴なんだ!」
 ディックがどんなに拳をふるっても、なかなかネコ男爵の息の根は止められない。
「よーし、そろそろあたいの出番やで!」
 ジュディのコンボイの荷台の奥や、声が響く。
 ガタン。
 コンボイの荷台から戦闘機が発進するときのように滑走台が伸びる。
「アオイ・シャモン、いま戦場に、発進!」
 巨大ロボットのような外観のレッドクロスを装着したアオイが、肩に装着した反重力飛行システムを作動させながら走り出す。
 滑走台の上をいくにつれアオイの身体は浮上し、ついに虚空へと滑り出た。
「唸れ、対装甲散弾銃!」
 手甲から放たれた散弾が、茨に拘束されたネコ男爵を襲う。
 ちゅどーん、ちゅどーん!
「ぎ、ぎにゃー」
 爆発が起き、ネコ男爵は悲鳴をあげた。
「とどめや、ロングレンジバスターライフル!」
 巨大なライフルを空中で構え、照準をネコ男爵のネコ耳にあわせる。
 ターゲット、ロックオン!
「いっけー!」
 アオイのライフルが火を吹いた。
「ニャー! ワシは、ワシはもうここで……くっ、とんでもない一生だったニャ!」
 死を予感したネコ男爵の脳裏に、走馬灯のようにこれまで目にしてきたものが浮かびでる。
(パパー! ネコを拾ってきたよ。可愛いよ〜飼おう〜)
(うふふ、タマは、ずっとボクたちと一緒だね!)
(もうダメよ。引っ越し先では、ネコを飼えないんだから。もともとあなたが勝手に拾ってきたんだし、さっさと捨ててしまいなさい)
(ごめんね、タマ。でも、きっと誰かがきみをまたかわいがってくれるよ!)
「あ、ああ……」
 ネコ男爵にとって、恐怖の記憶はそこからだ。
(おう、ネコが捨てられてるぜ!)
(ちょうどいい。むしゃくしゃしてたんだ。嬲り殺してやろうぜ!)
(ドゴッ、ガスッ、グシャッ)
(ニャ、ニャ……助けて……)
(ヘヘへ、もう動けないみたいだな。よし、道路に置いとこうぜ!)
(トラックの音。ブウウウウウウウ)
(ニャ、ニャニャ〜! ああ〜!! なぜ!? ワシが何をしたと……くっ、人間め、人間どもめ! ぐぶっ)
(気がついたか。私がお前を蘇生させたのはほかでもない。我らがデッドクラッシャーズは、人間を心から恨む動物を探していたのだ。お前はこれから、我らの一員となるのだ!)
(死ね、死ね、人間ども! お前らは汚物だニャ!)
(や、やめて〜ああ〜!)
「ニャー!」
 ロングレンジバスターライフルの弾丸が眼前に迫ったとき、ネコ男爵は泣きながら悲鳴をあげた。
 この世になぜ生まれたのかと、嘆きながら。
「やったで。大手柄や!」
「ネコ男爵、悪く思うなよ。お前は多くを壊しすぎた」
「むう。諸行無常か」
 アオイ、ディック、甚八の声が渦巻く。
 ドゴーン!
 すさまじい大爆発が巻き起こる。
 そして、煙が晴れたとき。
「えっ、ええっ!?」
 アオイたちは、目を丸くした。
「う、うう、貴様、余計なことを」
「強がりをいうな。ここで死ぬつもりはあるまい?」
 ボロボロのネコ男爵を抱きかかえた、青と白の派手な衣装を身につけ、顔にはSMの女王様がするような仮面をつけた女戦士が、そこには立っていた。
「どういうこと? あたいのライフルは?」
「こういうことだ。南京珠すだれ〜!!」
 女戦士は珠を編んでつくられた非常にちいさなすだれを振りかざした。
 どうやら、ロングレンジバスターライフルの弾丸はそのすだれに弾かれて爆発したようである。
「あのような攻撃、直撃でなければ私の装甲で十分耐えられる」
 女戦士は笑った。
「お、お前は何者だ!?」
 ディックが問うた。
「私はレディ・ミスト。このネコと同じ、デッドクラッシャーズの幹部だ」
 レディ・ミスト、真の名をアクア・マナというその女戦士は、恐るべきインパクトでアオイたちの前に立ちはだかるのだった。

5.薄幸のエリカ

 悪鬼ヶ原のとある雑居ビルの内部で、外の喧噪を静かに聞きながら、エリカは身をひそめていた。
 エリカがひそんでいるのは、階段の脇の暗がり。
 静かで冷たいその場所で、エリカは審判の結果を待っていた。
 自分のところに現れるのは、デッドクラッシャーズの追っ手の魔の手か、はたまた自分を保護する救世主か。
 エリカは、自分の運命を天に託していた。
 いつしか、エリカは亜細亜博士から預かった布の包みをぎゅうっと胸に抱きしめていた。
 包みからもれる、不思議な光。
 その光がエリカの心を不思議と落ち着かせてくれる。
 誰かに助けてもらったとしても、自分はもう元のように普通の学生として明るい人生を送ることはできないかもしれない。
 そんな予感が、エリカの胸のうちにあった。
 両親は、元気にしてるのか?
 きっと、自分のことを心配しているはずだ。
 せめて、両親に自分のことを報告できるなら、それだけでもいい。
 助かった後の人生のことを極力考えないようにと、エリカは努めた。
 ニャー、ニャー!
 雑居ビルに、ネコ男爵の呼び集めたネコたちが入りこんできた。
 ネコたちはもちまえの敏捷さでビルの内部を駆けまわり、エリカを発見しようとする。
 エリカのすぐ目の前にも、ネコたちはやってきた。
 だが、不思議なことに、ネコたちは全くエリカに気づかない様子。
 エリカも不思議に思ったが、これも神の与えた幸運と感謝することにした。
「ポイントP3、ここだな」
 エリカの潜む雑居ビルの前に、武神鈴がたたずむ。
「グレイト・リーダーから直接救出の依頼がくるというその少女には、絶対に何かがある。これは俺の天才の勘だが、その子は新型兵器についての重要な情報、あるいは重要なサンプルを持っているはずだ。ふっ、研究意欲をくすぐられるな。もちろんその子は無事に救出するさ、賞金のためにな」
 武神はひとりごとを言いながら、懐から符を取り出す。
 符には、睡眠薬がしみこませてある。
「邪魔なネコたちには、これで眠ってもらおう」
 武神が呪文を唱えると、符は大量のネズミの式神に変化し、ちゅうちゅうと通りを走りまわり始めた。
 にゃ〜、にゃ〜。
 武神の周囲にもおびただしく存在したネコたちが、ネズミの式神をいっせいに追いかけてゆく。
 がぶっ
 うにゃ?
 首尾よくネズミを捕え、噛みついたネコたちはあっという間に眠りこけていった。
「罪もないネコを傷つけるつもりはない、平和的にいこう」
 武神はウンウンとうなずきながら、音叉のかたちの音響兵器「響くん1号」を取り出す。
「アオイもエリカを探すといっていたが、まだ来ていないようだな。賞金は俺のものだ」
 ちょいーん
 武神が音叉を鳴らすと、雑居ビル中に音響が響きわたる。
「ふむ、なるほど」
 可聴域内の音波の反射を脳裏で解析すると、ビル内の様子、そしてエリカのいる位置も把握できた。
「不思議だな、ネコたちは少女に気づいていないようだ。私の装置ではバッチリとらえられてるのにな」
 武神は首をかしげながら雑居ビルに入りこみ、狭い階段をのぼっていった。
 エリカがひそんでいるのは、最上階。
 ほどなく、うずくまる少女を発見できた。
「さあ、もう大丈夫だ。俺と一緒にくるんだ」
 武神の差し伸べた手を、少女が顔を起こしてのぞきみる。
 その瞬間。
 武神の胸が、ドキッと鳴った。
(何だ? 確かに可愛い顔だが)
 武神は内心戸惑いながらも、少女を助け起こす。
「俺は武神鈴。あんたの名前は?」
「エリカです」
 そう答える少女の持つ包みに、武神の目は釘づけとなる。
 包みからもれる、不思議な光。
「それは……」
 武神は思わずその包みを手にとって開き、しげしげとみつめた。
 武神の手で、クリスタルは不思議な輝きを放っている。
「この子がネコにみつからなかったのは、これが何らかの効果を発揮したからか? だが、俺の装置に簡単にひっかかったのはなぜだ? 俺がこの子を救いにきているから? しかし、この物質にそんなことを判別できる力があるとは思えないが」
 武神は首をかしげたが、これこそグレイト・リーダーの求めているものに違いないと感じた。
「エリカ、教えてくれ。これは、何だ?」
「光のクリスタル。そう亜細亜博士はいってました。でも、それ以上のことは私にも」
「わからない? 本当にそうなのか? 察するに、あんたはその博士の助手だったのでは? 何も聞いていないはずはないと思うが」
 武神が詰問するような口調でいうと、エリカの顔が何ともいえないひきつりをみせた。
 他のガーディアンならわからないであろう、そのひきつりが何に由来するのか、に武神はすぐに気づいた。
 この子は、もともとはデッドクラッシャーズに誘拐され、監禁されていたのだ。
 ということは、監禁されていた間に何度となく辱められていたことも考えられる。
 そう、エリカは本能的に男性に恐怖心を覚えるようになっているのだ。
 おそらく、亜細亜博士などは例外だろうが。
(おのれ、デッドクラッシャーズめ。許さん!)
 エリカが受けた屈辱を思うと、武神には自分でも驚くほど強い怒りの感情がわきあがるのを覚えた。
 なぜそこまで強い感情が起きるのかわからない。
 だが、少なくとも、いまは怒っているときではなかった。
「大丈夫だ、俺はそんなことはしない」
 できる限り優しい笑みを浮かべ(そうした行為は武神の最も苦手とすることだったが)、武神はエリカの手をとる。
 エリカの瞳に浮かんだ不安は消え、今度はどこまでも安心したようになった。
「すみません。助けて頂いて、感謝してます。あなたに警戒心を抱いたわけではないんです」
「ああ、わかってる。ところで、まだ助かったわけじゃないから安心には早いぜ。さあ、ここから出よう」
「はい!」
 エリカは武神について雑居ビルの階段を降りていった。

6.剣戟の喫茶大養生

 激戦が行われているであろうメイド喫茶アリス。
 そのアリスの入り口へと続く階段を、姫柳未来と坂本春音がのぼろうとしていた。
「姫柳さん、本当に行くんですか〜?」
「あったりまえじゃない! これが仕事なんだから」
 春音の弱音を吹き飛ばすような口調で未来はいうと、相手の手を引いて一緒に行こうとした。
 そのとき。
「ハ〜イ、可愛いお嬢さんたち! あなたたちの命運及び貞操はそこまでで〜す!」
 デッドクラッシャーズ自動小銃部隊が、よだれをたらしながら二人を取り囲んだ。
「あっ、ふ、不潔な連中!」
 未来は構えた。
「ハ〜イ、まずは動けなくして差し上げましょう!」
 超甲人たちの自動小銃がいっせいに火を吹いた、そのとき。
「う〜ん、変身!」
「きゃ、きゃあ〜、変身!」
 未来と春音の身体が同時に光に包まれる。
 一瞬裸になっ……たりするようなことはなく、二人の身体は女子高生の制服のようなデザインのレッドクロスに覆われた。
「あ、ああ〜こ、これ、恥ずかしいです!」
 変身が完了するやいなや、春音は顔を真っ赤にしてスカートの裾をおさえた。
 あまりにもミニなスカートであった。
「お、おお〜そそるぜ〜」
 超甲人たちはスカートの短さよりもむしろ、春音が恥ずかしがってるという事実に興奮して、我を忘れた。
「はあ〜スケベは成敗!」
 ドゴッ
 未来の拳が超甲人たちを吹っ飛ばす。
「ぐわっ! やったな〜」
 超甲人たちは殺気を取り戻して未来たちを睨みつける。
「姫柳さん、ひどいです〜お揃いとは聞いてたけど、こんなに短いなんて」
 春音は顔を真っ赤にしたまま未来の背中にしがみついて抗議。
「いまはそれどころじゃないよ。さあ、店内にテレポート!」
 未来が目をつぶって、意識を集中させると。
 二人の身体は、一瞬にして消え失せた。
「あ、あれ〜?」
 銃を乱射した超甲人たちは二人の消失に戸惑い、銃をあらぬ方向に向けたら互いが互いを撃ってしまった。
「ひえ〜」

「テレポート完了! あ、ああ〜」
 一瞬でメイド喫茶店内に移動した未来たち。
「お掃除、お掃除〜!」
 デッドペンギンを追いかけるアンナ・ラクシミリアが姫柳たちにぶつかる。
 ぐっしゃーん
 未来と春音は尻もちをついた。
「いや〜ん、もう、痛いです〜」
 春音がうめく。
「あらあら、ごめんなさいね〜」
 アンナはモップを振り回してにっこり。
「よ、よさんか〜」
 モップに当たりそうになった未来が慌てていう。
「フッ、ガーディアンとはやはり、アホばかりだな」
「な、なんだと〜!?」
 嘲笑を浮かべたデッドソードに、未来が今度は怒り出す。
「姫柳さん、落ち着いて下さい」
 春音が姫柳の肩にひしと抱きつく。
「よーし、デッドペンギン!」
 フュージョンした状態のミズキとクレハが、デッドペンギンに向って移動してきた。
「ペン、ペン〜! 爆発の時間が迫っています〜」
 なぜかデッドペンギンは大はしゃぎ。
 とても、死を目前に控えた生物の姿とは思えない。
「いきますよ。水行の力!」
 ミズキは陰陽術を行使。
 たちまちのうちにデッドペンギンの周囲に冷気が凝集し、超甲人機をカチカチに凍りつかせた。
「いまですね。退魔術で結界を張ります!」
 クレハは退魔術で結界を張り、デッドペンギンを閉じ込めた。
「さあ、もう一度やりましょう。ブチギレラッシュゥゥゥゥ」
 ミズキの放つ式神、前鬼と後鬼が結界の内部に送り込まれ、拳の乱打を放つ。
「オラオラオラオラ」
「無駄無駄無駄無駄」
 だが、しかし。
「ペンペン〜! ペンギンである私は、冷気に強いのですよ?」
 凍りついたはずのデッドペンギンが不敵な笑いを浮かべた。
「いきますよ、結界破り!」
 デッドペンギンが呪文を唱えると、クレハの結界は一瞬にして消滅。
「ワープ、テレポート、瞬間移動だペン〜!」
 デッドペンギンは次々にテレポートを繰り返し、前鬼と後鬼のブチギレラッシュを避け続けた。
 ガッシャーン
 ドゴーン
 前鬼と後鬼の拳の乱打は店内の調度品や壁、窓などを破壊し、穴だらけにしてしまう。
 ものすごい音が店内に響きわたり、メイドたちはまたも悲鳴。
「あ〜、もうめちゃくちゃだな〜」
 未来は呆れたというように肩をすくめる。
 そのとき、坂本春音がペンギンに近寄った。
「デッドペンギンさん、このまま避け続け、爆発して死んでしまうなんて、ダメダメではありませんか?」
「ペン? 何をいうんだペン? 私の使命は、爆発して吹き飛ぶこと。もし使命を実行できなければ、組織によって処分され、やはり殺されてしまうのです」
「そんなの、虚しくないですか? デッドペンギンさんだって、死ぬのは嫌でしょう? わたしたちアーマードピジョンの技術で、ペンギンさんの爆弾を除去できるし、デッドクラッシャーズの魔の手からも守れると思いますよ〜」
 春音は優しい声でペンギンを説得しようとする。
「ペン〜! 私は死を恐れてはいません! 死んだら、また、生まれ変われるのです。恐れる理由はナッシング!」
「このペンギン、輪廻転生思想を持ってるのか? 古代インド人みたいだな」
 未来はちょっとびっくり。
「生まれ変わりだなんて、そんなこと。この人生で幸せをつかむことが、わたしたちの生きる意義なはずです〜」
 春音はなおも語りかける。
「フッ、無駄だ。ワシもデッドペンギンも、使命のために死ぬことは厭わない。ただ肉体を強化されただけではないのだ。精神修行もちゃんと積んである。茶番はそこまでにしてもらおうか」
 静観していたデッドソードが剣を構えて、未来たちに寄ってくる。
 そのとき。
 プ〜プ〜ププ〜
 どこからともなく、草笛の音が鳴り響いた。
「む? 何だ?」
「そこまでだ、デッドソード」
 草笛を吹きながら登場したのは、フレア・マナ。
 彼女は、メイド喫茶の扉に背を預けている。
「貴様、いつからこの店の中にいた? このワシにも気配は感じられなかったが」
「自分の出番がくるまで待っていた。それだけだよ」
 フレアは草笛を吹き捨てると、ボール状のレッドクロスをふりかざした。
「か弱いメイドさんを人質にとる、剣士の風上にも置けない卑劣な振る舞い! 僕は絶対許さない! 爆装!」
 レッドクロスが光を放ちながら展開し、フレアの身体に装着されてゆく。
 赤と黒を中心にした配色の、ヘルメットや肩当てやマントといった、衣装の一色。
「むっ、この姿、あの女に似ている」
 デッドソードの呟きは、フレアの耳に入らない。
「うおお〜!」
 フレアが伸縮式警棒を振りかざすと、両の手甲から超高温のプラズマがほとばしり、警棒にまとわりついて、巨大な炎の剣をかたちづくった。
「むっ、この者、できる!」
 すさまじい闘志に、デッドソードは思わず戦慄し、まっすぐにフレアと向き直り、剣を構えた。
「この剣は、ありとあらゆるものを切り裂く鋭利さを誇る。レッドクロスとて例外ではない」
「例外はない? 本当にそうかな?」
 フレアは灰色のブヨブヨとした物質でつくられた、いびつなかたちの盾を取り出した。
「デッドォ!」
 デッドソードが剣を一閃させる。
 ぶにっ
 フレアの盾はちょっと震えただけで、びくともしない。
「な、なに!?」
 デッドソードに動揺がはしる。
「ふっふっふ、この盾は悪鬼ヶ原周辺のこんにゃく職人に頼み込んでつくってもらった、その名もこんにゃくシールド! お前の剣でも、これは斬れまい!」
 フレアは胸を張った。
 こんにゃくシールド。
 まさに、恐るべき防具であった。
「フレア、アニメのみすぎだよ」
 未来がボソッと呟く。
「こんにゃくが斬れない? そんなはずはないが。ええい!」
 デッドソードは再び一閃。
 ぶにっ
 やはりこんにゃくシールドは無傷だ。
「ああっ、何ということだ。こんな相手ははじめてだ。ついに……ついに……」
 デッドソードはなぜか感動しているようにみえた。

7.悪鬼ヶ原の神、目覚める

 悪鬼ヶ原路上。
 突如現れた女幹部レディ・ミストを前に、アオイ・シャモン、ディック・プラトック、佐々木甚八の3人(と1体)はただ立ち尽くすのみであった。
「な、なんということや! ネコ男爵以外にもデッドクラッシャーズに幹部がいたなんて!」
「むう。でも、まあ、考えてみれば幹部が一人だけのはずはないけどな」
「このレディ・ミストとやらは油断できない相手だぞ。少なくとも、ネコよりは強い」
 3人は口々に語る。
「フッ、ネコ男爵よ。司令からの指示だ。お前の力が及ばなかったときに、クリスタルの力を使ってもいいそうだ」
 レディ・ミストが天に向かって掌をかざすと、空中に不気味な黒いクリスタルが現れた。
(あれは!)
 ガーディアンたちの携帯端末をとおして戦場の様子をモニターしていたグレイト・リーダーが思わず叫び声をあげる。
 クリスタルが不気味な黒い波動をボロボロ状態のネコ男爵に注ぐと、あら不思議、ネコ男爵の全身の傷があっという間に回復し、ぴんぴんの状態にまで戻してしまった。
「ニャニャー! 大復活!」
 ネコ男爵はレディ・ミストの腕を離れ、空中に舞い上がってくるくるまわった。
「ああ、げ、元気そうやで!」
「気のせいか、以前よりも強い力を感じるな」
「あのクリスタルは、いったい?」
 ネコ男爵を回復させると、クリスタルは消失。
 レディ・ミストは微笑んだ。
「さあ、お前はエリカのもとへいくがよい。本来の使命を思い出すのだ」
 いつもなら「何でワシがお前の指示に従わなければいけないんだニャ!」と抗議するネコ男爵だが、このときは回復の喜びのせいか、そのまま上機嫌に大空の彼方へ飛んでいった。
「ニャニャ〜! レディ・ミスト、いやアクア・マナよ、せいぜいいまはおいしい役を演じてるがいい、いつかお前は想像を絶する哀しみのどん底に叩き落とされるのだからな!」
 と笑いながら……。

 ネコ男爵が去っていった後、3人のガーディアンはしばしポカンとしていたが。
「あっ、そうや! あたいも、女の子を助けに行くんやった!」
 アオイ・シャモンが慌てて離脱。
「レディ・ミスト、女だが、敵ならば容赦しないぞ」
「ソラ、攻撃だ」
 ディックはレディ・ミストにうちかかり、甚八は義体に攻撃を命ずる。
「フッ、お前たちの相手をしている暇はない。フリージングミスト!」
 レディ・ミストの両の肩当てにはめこまれた青く煌めく宝珠が光り輝き、周囲に濃霧を散布する。
「うっ、みえない!」
 ディックは戸惑う。
「は〜、南京珠すだれ〜!」
 ディックの背後にまわりこんだレディ・ミストが棒状に伸ばした南京珠すだれを叩きつける。
「ぐわぁっ!」
「ソラ、エアブースターで濃霧を吹き飛ばすんだ!」
「了解!」
 甚八の指示で、ブルーブライドがエアブースターを起動。濃霧を吹き消していく。
「くっ、やるな」
 レディ・ミストが次の攻撃を放とうとした、そのとき。
「ミスト殿! いま参るでござる!」
 大空から声が降ってきたかと思うと、真黒で巨大な風魔手裏剣がひゅるひゅると落下してきた。
 グサッ
 巨大な手裏剣は悪鬼ヶ原の路面にめりこむ。
「影に生き影に死す人呼んで風陰の鈴! 義によって助太刀いたす!」
 手裏剣に張りついていた不知火鈴が路面に降りたって叫ぶ。
「し、不知火! 俺たちを裏切ったのか?」
 ディックが愕然として叫んだ。
「いや、落ち着け。本部からの事前情報では、不知火は裏切ったふりをして敵の情報を探るつもりらしい」
 甚八がディックに耳打ちする。
「そうか、でも、これからどうすれば?」
「さあ」
「ほう、お前、私たちの側につくというのか? 面白い」
 レディ・ミストは微笑んだ。
「拙者の技をみせてご覧に入れよう。影縛り!」
 不知火が指を鳴らすと、ディックたちは身動きすることができなくなった。
「さあ、いまのうちに逃げようでござる」
「何をいっている。この機会にこいつらを葬らんでどうする。うん?」
 南京珠すだれを振り上げたレディ・ミストだが、すぐにその眉がひそめられる。
 異変が起きていた。
 突如、悪鬼ヶ原の大地が揺れだしたのだ。
「こ、これは?」
「おお、やはり、このときがきたか」
 電機街の商店から白髪の店長が顔を出し、蒼白な顔で叫ぶ。
「悪鬼ヶ原に動乱あるとき、古来の合体神が目覚め、邪なる者たちを駆除する。いにしえからの言い伝えじゃ」
「古来の合体神? 何だそれは?」
 ゴゴゴゴゴ
 悪鬼ヶ原の大地が割れ、3機の戦闘機が地中から大空に飛び出してきた。
 あっけにとられるレディ・ミストたち。
 3機の戦闘機はそれぞれが変形した後、合体し、バッファローのような2本角が特徴な、武骨な大型ロボットが現れた!
「は、はあ? あれが、悪鬼ヶ原の神?」
「そうじゃ、あれは、大悪鬼(だいあっき)!! あ〜神よ、我らを救いたまえ〜!!」
 店長は両手を大空に広げて絶叫するとバタッと倒れ、絶命する。
「ダイアッキ〜!!」
 大悪鬼は唸り声をあげながらレディ・ミストに近づいていく。
「わっ、ちょ、ちょっと待て、何だこの展開は! や、やめろ、くるな、うわ〜」
(くっ、古の神が邪魔をする、か。あのときと同じだな)
 デッドクラッシャーズ本部で、戦場をモニターしていた司令が舌打ちする。
「フンガー、ミサイル!」
 大悪鬼は巨大な鼻の穴から大型ミサイルをレディ・ミストに放つ。
 ドゴーン!
「うわ〜」
 ミサイルは大爆発を起こし、レディ・ミスト、ディック・プラトック、佐々木甚八の3人は気絶した。
「むう。厄介なことになったでござる」
 不知火鈴はとっさに物陰にひそんで難を逃れていた。

8.謎のクリスタル

 雑居ビルを抜け出し、エリカを連れて走る武神。
「早くしないと、追っ手がくるぜ!」
「はあはあ、はあはあ」
 エリカは全速で走って、息も絶え絶えだ。
「ニャーハッハッハ、みつけただニャー!」
 闇のクリスタルの力でその能力を増強され、テンションも上がっているネコ男爵が二人を発見した。
「くっ、ネコ男爵か。いくぞ」
 ちょいーん
 武神が音叉を鳴らすと、大音響のノイズ音が響きわたる。
「ニャ! 耳がつぶれる〜」
「いまだ、精神エネルギー変換……レッドクロス展開、装着!」
 武神の身体が光に包まれ、白衣のかたちのレッドクロスに覆われる。
「やつぎばやにいくぜ、ライト・ブランド!」
 武神の右手にレンズとそれを囲むかたちで5つの小さな玉のついた小手が装着され、「幻」という漢字一文字がレンズに浮かびあがる。
「エリカ!」
 武神がエリカの身体に触れると、二人の姿がみえなくなった。
「ニャー! 目くらましなど、ワシには通用しないだニャ!」
 ネコ男爵が高速で路面に降下すると、衝突音が巻き起こり、武神とエリカの姿が再び顕在化、吹っ飛ばされる。
「ぐっ、どういうことだ。奴の力が俺のデータ以上になっているが?」
 闇のクリスタルの力でネコ男爵が強化されたとは知らない武神は、予想外の展開に冷や汗を浮かべる。
「ニャーハッハッハ! エリカ、お仕置きだニャ!」
 ネコ男爵はぐったりしているエリカの髪をつかんで引き起こすと、その首に首輪をはめた。
「ぐっ」
 エリカは倒れたときに切った唇から血を流してうめく。
「お前はいけない奴だニャ? 我らを裏切って逃げ出すとはニャー!」
 首輪についた鎖をひっぱって、ネコ男爵はエリカの身体を振りまわした。
「あっ! ぐっ!」
 路面に、ビルの壁に打ちつけられ、エリカの身体は傷だらけになってゆく。
「連れ帰ったら、お前はもう助手にはしないだニャ! また元のように、男たちの欲望にお仕えしてもらうだニャ!」
「い、いや、また、あんなことをさせられるのは……嫌!」
 意識を失いかかっているエリカの口から、小さな叫びがもれる。
「ネコ男爵、好きにはさせんぞ!」
 武神は護身用改造マシンガンを乱射した。
「ニャーハッハッハ、たわけた攻撃を!」
 ネコ男爵の身体は弾丸を反射してしまう。
 笑いながら、ネコ男爵は腕を胸の前でクロスする。
「必殺、ネコヘッドアタック!」
 その瞬間、ネコ男爵の頭部が胴体から離れ、宙を旋回しながら武神の肩に噛みついた!
「う、うわー! こ、これがネコ男爵の必殺技か?」
 武神はうめき声をあげる。
「ニャッハッハ! 死ね! ネコキック!」
 頭部のない状態で、ネコ男爵の身体が宙高く舞い上がり、強力なキックを武神に放つ。
「うわ〜」
 逃げようとしても肩の噛みつきで力を奪われ、武神はモロに攻撃をくらった。
「ニャッハッハ! アオイたちにやられた分もお前に仕返ししてやるニャ!」
 頭部を装着し、もとの姿に戻ったネコ男爵が武神に拳を次々に叩きつける。
「う、うおお、くっそー」
 血まみれになった武神は、まさに大ピンチ。
 地面に倒れこみ、動けなくなった。
「武神さん、逃げて下さい! あなたが欲しかったのは、あのクリスタルでしょう? 私のことは放っといて、早く!」
「そうはいかないぜ。あんたも助ければ賞金がもらえるんだ」
(構いません)
「なに? その声、グレイト・リーダーか?」
(クリスタルを持ち帰ることを優先して下さい。賞金はそのまま差し上げます。彼女の救出は後で考えましょう)
「ちょっと待て、あんた、人命救助が第一なんじゃなかったのか? あの子を見捨てるというのか?」
(すぐに殺されはしないようです。そのクリスタルを持ち帰ることができなければ、彼女以外にも多くの人の生命が失われることになります)
「そうか、グレイト・リーダー、それがあんたの決定か」
 武神は携帯端末の電源を切った。
「武神さん、私はここで死ぬつもりです。どうせ、帰っても普通の生活には戻れないんです。私のせいで、あなたのような優しい人間が犠牲になることは、避けたいんです」
「俺が優しい人間? 何をいってるんだ?」
「デッドクラッシャーズで悪い人たちをたくさんみてきた私なら、わかります。あなたは口は悪いけど、本当は優しい心を持った人なんです!」
 そこまでいって、エリカは気絶した。
「くっ、ふざけたことを」
 自身の生命反応が低下していくのを感じながら、武神は究極の選択に迫られた。
「ほう、エリカ? ここで死ぬつもりか? まあそれもよいかニャ? それじゃ、とびっきり残酷な方法で殺してやるだニャ!」
 ネコ男爵は残酷な笑いを浮かべながら、大きな肉切り包丁を取り出す。
「ハッハッハ! 首切りチョンパー!」
 ネコ男爵が宙高くから包丁を持ってエリカに降下、その首を切断しようとしたとき。
「や、やめろー!」
 武神は渾身の力を振りしぼって起き上がると、エリカをかばうように覆いかぶさった。
 その瞬間。
「な、なに?」
 ネコ男爵は目を見開いた。
 武神のポケットからクリスタルがひとりでに出てきて光を放ち、武神とエリカをフィールドで包み込んだのだ。
「ガッ、ワシの攻撃が!?」
 光のフィールドに触れたネコ男爵の包丁が、ボロボロになって吹き飛んでしまう。
「どういうことだニャ? 闇のクリスタルの力で増強されたワシの攻撃が?」
「いまだ。ライト・ブランド、転!」
 武神の小手のレンズに「転」の字が浮かびあがる。
 気絶したエリカに触れ、アーマードピジョン本部へと転送する。
「クリスタルもだ!」
 武神は宙に浮かんでいるクリスタルにも触れ、転送。
 光のフィールドは消えた。
「くっ、せめて貴様だけでも、殺してくれる!」
「ちょっと待ったー!」
 アオイ・シャモンがそこに飛びこんでくる。
「アオイ、あんた、遅すぎるぜ」
 武神は地面に倒れ伏した状態でうめいた。
「援護射撃、いくで!」
 アオイはロングレンジバスターライフルを乱射。
「ちっ、今日はここまでにしておくニャ!」
 ネコ男爵は大空の彼方に飛んで、消えていく。
「武神! はよコンボイに乗って病院に行かなあかんで!」
「俺は大丈夫だ。レッドクロスに守られている。心配なのは、あの子だ。レッドクロスのない生身の人間がネコ男爵に痛めつけられて、回復できるのか?」
 アオイに助け起こされながら、武神は今後のことを考えた。
 そして、あのクリスタルは何だったのか?

9.吠えるライオン

「ダイアッキー!」
 悪鬼ヶ原の守護神大悪鬼が暴れ始めた悪鬼ヶ原路上。
 デッドライオンと組み打ちしていたジュディとトリスティアも、予想外の展開にびっくり。
「わ〜、すごい神さまだね! 守護といいつつ破壊してるよ〜」
 トリスティアは興味しんしん。
「デッドォ! 早く結着をつけなければならんようだ」
 ジュディを弾き飛ばしたデッドライオンが吠える。
 ぐううううう
「ウガ! それにしても、腹が減ったなあ」
「あっ、じゃあ、これ、あげるよ」
 トリスティアは、近くにあった無人の屋台から串焼きのステーキを投げつけた。
「ウガ、サンクス!」
 デッドライオンが跳躍して串焼きをキャッチしたとき。
「よし、いまだ! スペシャルテクニックだ!」
 トリスティアは跳躍して、デッドライオンに攻撃を放つ。
「オーケー! ワタシモレッツファイヤー!」
 同時に、ジュディもハーレーに乗り込んでアクセルを吹かす。
 ブオン、ブオン!
 ジュディとハーレーが一体化し、野獣のごときエンジンの咆哮をあげる。
「突進! スペシャルテクニック!」
「ウガ! そう簡単にいくか! デッドファイヤー」
 串焼きを飲み込んだデッドライオンが超高熱火炎を噴射する。
 だが、ジュディは避けない。
 ハーレーに乗ったまま、火炎のまっただ中に突っ込んでゆく。
「オー、イェイイェイイェイ♪ ノッテルカイシンデルカイレッツゴー、ショウテンウルトラヘブンヘゴー!」
 火炎に包まれるジュディの目が光り、ハーレーの唸りがいまやガオーという叫びにかわっている。
「ウガ! なに、お前も、ワシと同じ、ライオンだったのか!?」
 デッドライオンは目を丸くした。
 ジュディとハーレー、一体化した人と機体のまとうオーラが、いまや金色の獅子の姿へと変貌していた。
「ガオー! オマエハナンダ? ワシコソガヒャクジュウノオウ! オマエハ、イラン! ドーン!」
 金色の獅子がデッドライオンに真っ向から激突。
 すさまじいエネルギーの奔流がほとばしる。
「スーパーウルトラデラックス・ハイパワータックル!」
「ハイパー流星キィィィィィィック!」
 ジュディとトリスティア、二人の攻撃が同時に決まった。
「ウガ、ウーウーウーガー!」
 デッドライオンは絶叫をあげながら爆発・炎上する。
 ちゅどーん!
 キノコ雲があがった。
「ダイアッキー!」
 大悪鬼の吠え声が辺りにとどろいていた。

「うっ、ここは?」
「気がついたでござるか」
 レディ・ミストは意識を取り戻した。
 全身黒ずくめの甲冑に身を包んだ騎士が、女幹部を抱きかかえている。
「危ないところだったな。お前はあの守護神に殺されるところだった」
「お前は、誰だ? デッドクラッシャーズの、仲間?」
「仔細を語る必要はない。また逢おう。さらばだ」
 騎士はレディ・ミストを安全な場所にときはなつと、不気味な黒い馬にまたがって走り去った。
「何だ、いったい?」」
 ぽかんとしながらもレディ・ミストは胸が不思議と高鳴るのを感じていた。
「あの騎士は、いったい?」
 物陰から様子をみていた不知火鈴は、首をかしげた。

「う、うーん」
 コンボイの荷台で、ディックは意識を取り戻した。
「大丈夫か?」
 脇には甚八の姿が。
「ここは?」
「大悪鬼の攻撃を受けた後、不知火が俺たちを助けてくれたんだ。ここまで連れてきて、すぐに行ってしまったがな」
「そうか。そういえば、義体は大丈夫か?」
「大丈夫だ。空中を漂っていたらしい」
 甚八の側にブルーブライドの姿を確認し、ディックはホッとひと息ついた。
 そのとき、コンボイのすぐ側を、不気味な半魚人たちが御輿をかついで通りすぎていった。
 えんやーとっと、えんやーとっと。
 半魚人たちのかけ声が、不気味に尾を引いていた。
「何だありゃ?」
 ディックは眉をひそめた。
「おーい、武神が負傷したで! 早く連れてかな!」
 アオイ・シャモンが武神鈴を肩に背負ってコンボイに乗り込む。
「ジュディは?」
「もうすぐ来る。デッドライオンは破壊された。大悪鬼もようやく姿を消したぞ」
 他のガーディアンたちも次々に乗り込んでくる。
「ところで、メイド喫茶は?」
 誰かが呟いた。

 えんやーとっと、えんやーとっと。
 半魚人、マーメイドの奉仕種族であるギルマンたちは、ひたすら御輿を担いで悪鬼ヶ原をゆく。
 彼らの目指す場所は、何と、メイド喫茶アリス!
「ふううう、誰もこないな〜。うわっ!」
 メイド喫茶の前にたむろしていたデッドクラッシャーズ自動小銃部隊が、御輿を担ぐギルマンたちに踏みつけられて爆発。
 ちゅどーん!
「主よ、着きました」
 ギルマンたちは御輿の中に「主」に声をかける。
「うむ。ご苦労」
 マニフィカ・ストラサローネが御輿から降りてきた。
「ああ、もしもし」
 マニフィカはメイド喫茶の扉を開け、店内に入り込む。
 店内では、デッドソードの攻撃をひたすらフレアが防いでいるところだった。
 片隅では、坂本春音たちがデッドペンギンを説得している。
「うん? 今度は誰だ?」
 デッドソードがマニフィカに目を止める。
「わたくしはネプチュニア連邦王国第九王女マニフィカ・ストラサローネ。あなたを、裁きます!」
 マニフィカはギルマンに渡された槍を構えて叫んだ。
「マニフィカ! 僕が防いでいる間に!」
「裁くだと? どういうことだ?」
「高貴なる義務、それあるがゆえに。メイドたちが主人である私に助けを求めているのだ」
 マニフィカはレッドクロスを装着。鈍い銀色の、古代ローマ式の甲冑に身を固めた。
「ふん、死ね! デッドォ!」
 デッドソードの剣を、マニフィカの槍が弾く。
「ゆくぞ。水術の力をみよ!」
 マニフィカが呪文を唱えると同時に泥水が店内にわきあがり、腰までつかるほどになった。
 ギルマンたちが歓声をあげて水泳を始める。
「ふっ、こんな水ごときでワシの動きを止めたつもりか?」
 マニフィカとデッドソードが睨みあった、そのときである。
 店の片隅でのデッドペンギン説得が、ついに打ち切られようとしていた。
「もう、いくらいってもわからないんですか。仕方ないですね」
 坂本春音がため息をつく。
「ペンペン〜、私の使命は爆発すること。それしかありません!」
「春音、じゃあ、もう、やらせてもらうよ」
 姫柳未来の言葉に、春音はうなずいた。
「らりらりほ〜」
 その傍らでは、フュージョン状態のミズキとクレハがもつれあった状態で浮かんで奇声をあげている。
「いくよ、サイキック! 透視、爆弾把握!」
 未来の透視力が、デッドペンギンに内蔵されている爆弾のありかを探りあてた。
「ペン? 何をするペン?」
「念動力! 爆弾誘爆だぁ!」
 未来は、念動力の力で爆弾の起動スイッチを入れた。
 カチッ
 どごーん!
 メイド喫茶が爆発、崩壊した。

 コンボイからも、メイド喫茶爆発の様子は容易にうかがえた。
「な、何だ? 爆弾が予定よりも早く爆発しているぞ」
「結局、メイドたちを救うことはできなかったのか?」
 ガーディアンたちは騒然とした。
「おい、崩壊したメイド喫茶から、泥水が流れてきたぜ」
 ガーディアンたちは、爆発の跡から水流が出てくるという不思議に首をかしげながら、コンボイを降りて水の流れに漂うものをみつめる。
 水流の中には、マニフィカ・ストラサローネ、フレア・マナ、ミズキ・シャモン、クレハ・シャモン、坂本春音、姫柳未来、の6人のガーディアンが漂い流れていった。
 全員、真黒焦げの姿である。
「ふう。やれやれ。何とか、しもべは救出したぜよ」
 マニフィカが手を振ると、水流の中からギルマンたちが浮き上がる。
 ギルマンたちはそれぞれ、メイド喫茶のメイドたちを抱きかかえた。
「あ、あうう。ご、ご主人さま〜」
「おお、やった? メイドたちは、あの爆発でも無事だったのか?」
「春音が結界を張ったんだよ。本当はデッドペンギンを結界に閉じ込めたかったんだけど、ミズキの話だと破られちゃうらしいから、メイドたちを癒しの結界を張ったんだ」
 未来が解説。
「おお、春音、お手柄だな!」
「いえいえ、みなさんのおかげです」
 春音はホッとしたようにメイドたちをみていった。
「なるほど、今回の事件で、渦中のメイドたちは全員無傷に救出された、か」
「ああ。でも、悪鬼ヶ原の来訪客、労働者、住人の9割が殺されることになった」
「はあ〜そうだな。ということは……」
 ということは?
「ばんざーい! 作戦は大成功だー! メイドたちは無事だったんだ! ばんざーい!」
 ガーディアンたちは万歳の大合唱を始めた。
「ア、アホか〜!」
 重傷を負ってぐったりしていたはずの武神が、思わず起き上がって怒鳴り声をあげていた。
「メイドたちは全員無事だが、無関係の人間たちにこれだけ被害が出て、人命第一のアーマードピジョンが作戦大成功だと? こいつら本気でバカなんじゃないのか?」
「わーい、勝利だ! わーい、わーい」
 みれば、トリスティアも一緒になって浮かれている。
「う、うおお〜! 落ち着け、落ち着くんだ。こういうバカばっかりの集団だからこそ、俺のように理性的な存在が必要になるのだ。落ち着け、怒るな、武神!」
 武神は必死に自分を抑えようとしていた。
 ちょうどそのとき。
「武神、本部から連絡が入ったで。エリカは意識不明の重体で、生死の境をさまよっているそうや。当分の間、意識が回復する見込みはないそうやで」
 アオイの連絡に、武神はむうと唸る。
「なるほどな、まあ、そうなるだろう。で、グレイト・リーダーはあの子を助けるためにどうするんだ?」
「それが、現代医学の粋をこらしても治療するのが難しい状態らしくて、グレイト・リーダーはエリカの記憶からデッドクラッシャーズ関連の情報だけ抜き取って、丁重に葬るといっとるで」
「ふ、ふざけるな〜!」
 今度こそ武神は怒鳴り散らした。
 もはや身体のケガはどこへやら。
「情報が手に入ればそれでいいというのか? 許せん、グレイト・リーダー! あいつは何を考えているんだ? エリカ……!」
 瀕死のエリカを思って、武神は拳を握りしめた。

(武神、武神! 落ち着くんや〜)
 モニタに映しだされるコンボイ内部のやりとりを、グレイト・リーダーは電脳空間から静かに見守っていた。
「仕方ないんですよ。エリカ、彼女は知りすぎている。そして、武神さん。あなたも、知りすぎてはいけないのです」
 グレイト・リーダーは解析班に、収容したクリスタルの件を尋ねた。
 結果は、ひとこと。
 解析不能。
「むう。やはり、レッドクロス、そして闇のクリスタル以上に複雑な構成をしているようですね」
 グレイト・リーダーは、今後の闘いを思った。
 敵の力は次々に強大化していく。クリスタルの力をすぐに利用できない以上、別に強力な戦力が必要となる。
 それは、何か?

10.電気街の決闘

「いや〜、すがすがしい勝利だな〜」
「ご主人さま、この恩は一生忘れません〜」
 ガーディアンたち、そしてメイドたちがホッとした表情でコンボイに乗って撤退していく中、フレア・マナは一人悪鬼ヶ原に降り立ち、夕方の電気街を歩いてまわった。
 気になっていることがあった。
 驚いたことに、あれだけの破壊活動があった後で、電気街のパーツ屋はわずかだが営業をもう開始している。
 さらに驚いたことに、このめちゃくちゃになった街でいまから買い物をしようと集まってくる客たちもいた。
「不思議な街だ。大悪鬼という守護神にしても、何で合体変形ロボの姿をしている必要があるのか」
 ひとりごとをこぼしながら、フレアは暗い路地の中に入り、足を止めた。
 そして。
「やはりな。お前が、あの爆発で滅ぶわけはないと思っていた」
「フレア・マナ! 剣を抜け」
 暗い路地の中、フレアの背後に姿を現したのは、デッドソードだった。
「なぜ、あそこで姿を消した?」
「オヌシと、一対一で結着をつけるためだ。ワシは待っていた。ワシに匹敵する力量を持った剣士の登場を。そして、今日あのとき、ワシは感じた。オヌシの放つただならぬ才気を!」
 デッドソードは剣を抜いた。
 フレアもこんにゃくシールドを構え、炎の剣を取り出す。
「何度やろうと、この盾を砕くことはできないぞ」
「それはどうかな?」
 デッドソードが剣を一閃させると、こんにゃくシールドはあっさりバラバラになった。
「な?」
「いったろう? この剣に斬れぬものはない。さっきはただ、それがブヨブヨして斬りにくかったというだけの話だ。コツをつかめば、どうということはない」
「そうか。やはり、未来のいったとおり、僕はアニメのみすぎだったのかもしれないな」
 盾はない。
 だが!
 フレアは炎の剣をまっすぐ構えた。
「はああ〜!」
 超高温のプラズマが剣に沿っていよいよ激しく燃えあがり、膨張する。
「デッドデッド、デッドソードォ! 相手にとって不足はない! いくぞ!」
 デッドソードはフレアに向って突進した。
 その瞬間。
 フレアは、大きく息を吸って、止めた。
「炎よ、吹け、舞い上がれ! 今宵は、侍斬りの宴だ!」
 いまや炎の剣は膨張に膨張を重ねて巨大な尖塔と化していた。
「これがお前の墓標だ、くらえ! 火焔一閃! メルティングスラッシャー!」
 突進してくるデッドソードに、フレアは超巨大な炎の剣をものすごい勢いで振り下ろした。
 振り下ろされた剣の切っ先から、プラズマが噴射炎となってデッドソードに振り注ぐ。
「うおおお〜!」
 炎の中でデッドソードの鎧が蒸気をあげて溶けてゆく。
 超甲人機の仮面がとれ、不気味な骸骨のような顔から目玉からこぼれる。
 カチーン!
 剣とかちあったデッドソードの剣が、天に舞い上がった。
「ぐ、ぐおおお!」
 デッドソードの断末魔の叫びが響き渡る。
 爆発に備えてフレアは身構えたが、意外にも爆発は起こらず、デッドソードはそのままくずおれて、塵と化していった。
「最高だ。後悔はしないぞ。オヌシのような相手と闘って散れるのだから……」
 デッドソードの消滅を確認し、フレアは路地から出てゆく。
「あの剣に斬れぬものはない、というのは本当のようだな。私のメルティングスラッシャーを受けても、あの剣は砕けなかった。だが使用者の身体が溶解していたため、剣は力が抜けて飛んでいったようだ」

 消滅したデッドソードの手から離れた剣は宙を舞い、悪鬼ヶ原の公園の砂場に突き刺さった。
「フッ、この剣、捨て置くには惜しい。私がもらい受けよう」
 どこからか現れた黒ずくめの甲冑の騎士が、砂場から剣を抜きとって、鞘に入れる。
「この剣の名も、デッドソードだ」
 騎士はそのまま黒き巨大な馬にまたがって、宙に向かって駆ってゆく。
「よし、追うでござる」
 物陰から様子をみていた不知火鈴は、騎士の後をつけていこうとした。
 謎の騎士の行く先、そこにデッドクラッシャーズの本部があるのではないかと考えて。
 そのとき。
 不知火の携帯端末に、何者かの通信が入った。
「誰だ? グレイト・リーダーではないでござるな」
(はあはあ。やめるのだ、あの相手の深追いは禁物だ)
 息も絶え絶えのその声の主は、瀕死の重傷を負っているようだった。
「何をいう? 誰なのかもわからん奴の指図に従うつもりはないでござる」
(私は、亜細亜だ……。以前、きみたちの仲間のトリスティアにも助言したことがある。聞け、あれはデッドナイトだ。グレイト・リーダーにはそういえばわかる。デッドナイトは、きみが後をつけていることに気づいている。どこかで待ち伏せされ、殺されるぞ。現段階で奴と闘って、勝てる見込みはない)
「しかし、拙者の目的は本部の位置を探ること」
(まだきみがガーディアンのスパイだとは、ネコ男爵やレディ・ミストは気づいていない。デッドナイトは勘づいてるだろうが、仲間にその情報を伝えたりはしないだろう。本部の位置を探るなら、またチャンスはある。私が言いたいのは、デッドナイトを追うのはまずいということだ)
「亜細亜といったな? おぬしは何者だ? デッドクラッシャーズ内部の人間か?」
(私のことはいい……もう、私は……時間がない。グレイト・リーダーに伝えてくれ。フルメタルを探せ、と)
「フルメタル? あの、自衛隊が開発していたという巨大ロボットか? あれは破壊されたはずでは?」
(あっ、もう……ダメだ、エリカに……生きろと……ぐっ)
 そこで、通信は切れた。
「どうした? むう」
 不知火は立ち止まった。
 デッドナイトを、見失ってしまった。
 悪鬼ヶ原の夜は深く、どこかでコオロギが鳴いていた。

(第1部第1話・完)

【報酬一覧】

坂本春音 100万円(癒しの結界でメイドたちを守った功績)
不知火鈴 100万円(フルメタルの情報を入手した功績)
トリスティア 500万円(デッドライオンをジュディと一緒に倒した功績)
ジュディ・バーガー 500万円(デッドライオンをトリスティアと一緒に倒した功績)
フレア・マナ 1000万円(デッドソードを倒した功績)
武神鈴 2000万円(エリカ救出の功績)

【マスターより】

今回は、7辺りから書くのが大変になってきて、悪鬼ヶ原の守護神(笑)が出てきたりと、もう自分でもわけわかりませんね。ちなみに、アクアが出なければネコ男爵は死んでいました。次回も燃え燃えでいってみましょう!

メルマガは、6/10付けにて発信しました。
本文が途中の方は、「oowadacaplico@infoseek.jp 」までご連絡ください。

*6/10公開PC名に誤表示があり、 6/11付けにて修正させていただきました。
申し訳ありませんでした。
同様の内容を6/12付メルマガ改訂版にて再送させていただきました。